説明

渋滞予測装置、及び、渋滞予測システム

【課題】 降雨量によって刻一刻と変わる渋滞の状況を予測可能な渋滞予測装置を提供する。
【解決手段】 降雨情報収集部が降雨情報算出処理を実行し(S100)、リンクの中心座標での降雨量を算出する。また、交通情報収集部が単位旅行時間算出処理を実行し(S110)、単位旅行時間を算出する。制御部は、前回の予測値である予測リンク旅行時間と真値であるリンク旅行時間との比率からエラー量を計算し(S120)、降雨量及び単位旅行時間で設定されるゲインをエラー量で補正して(S130)、今回の予測リンク旅行時間を出力する(S140)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、降雨に起因する渋滞を予測し案内を行う渋滞予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナビゲーション装置における案内をより適切なものとするため、センタとのデータ通信を行うことで、種々の情報がナビゲーション装置に提供されるようになっている。
その中でも、降雨情報は渋滞の発生に大きな影響を与えるものであり、降雨情報に基づく処理を行うシステムが提案されている。一例として、車両から送信されてくる各種情報を基に、降雨情報をリアルタイムに得られるシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、別の例として、降雨情報を取得し、最適経路表示のための処理を実行するシステムも提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−62368号公報
【特許文献2】特開2003−58982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献2に記載された発明では、主要道路に道路管理設備として設けられた交通量監視センサーで交通量を計測しており、いわば現時点での渋滞地点の交通量情報を取得して、最適経路表示のための処理を実行している。
【0005】
しかしながら、降雨量に起因するような渋滞の状況は、降雨量によって、刻一刻と変わる。そのため、例えば目的地の設定時点で渋滞のない道路を選択したとしても、当該道路へ差し掛かるときには当該道路に渋滞している所がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、降雨量によって刻一刻と変わる渋滞の状況を予測可能な渋滞予測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の渋滞予測装置は、降雨情報収集手段と、交通情報収集手段と、ゲイン設定手段と、予測値出力手段とを備えている。
降雨情報収集手段は、降雨情報を収集し、降雨情報に基づきリンクの降雨量を算出する。リンクの降雨量は、例えばリンクの中間位置における降雨量とすることが考えられる。また、交通情報収集手段は、交通情報を収集し、交通情報に基づきリンクの通過に要する時間であるリンク旅行時間を出力する。
【0008】
ここで特に本発明では、ゲイン設定手段が、降雨量及びリンク旅行時間に基づき、ゲインを設定する。ゲインは、降雨量及びリンク旅行時間から所定のマップなどで導出されるものとすることが考えられる。そして、予測値出力手段は、ゲイン設定手段にて設定されるゲインをリンク旅行時間に乗じて、未来の予測時刻おける予測リンク旅行時間を出力する。
【0009】
つまり、本発明では、リンクの降雨量及びリンク旅行時間に基づくゲインを設定することで、未来の予測時刻における予測リンク旅行時間を求める。これにより、降雨量によって刻一刻と変わる渋滞の状況を予測することができる。
【0010】
ところで、上述したようにゲイン設定手段は予め定められたマップなどによりゲインを設定することが考えられるが、請求項2に示すように、ゲイン補正手段を備えていることとしてもよい。ゲイン補正手段は、予測値出力手段にて出力される予測リンク旅行時間と予測時刻における実際のリンク旅行時間とに基づきゲイン設定手段にて設定されるゲインを補正する。このようにすれば、予測時刻における実際のリンク旅行時間に基づいてゲインが補正されるため、より適切な予測リンク旅行時間を出力することができる。
【0011】
具体的には、請求項3に示すように、ゲイン補正手段は、予測時刻における予測リンク旅行時間と実際のリンク旅行時間との比率に基づくエラー量を加算することにより、ゲインを補正することが考えられる。このようにすれば、比較的簡単にゲイン設定手段にて設定されるゲインを補正することができる。
【0012】
なお、ゲイン設定手段が降雨量及びリンク旅行時間に基づくゲインを設定することは既に述べたが、さらに具体的には、請求項4に示すように、交通情報収集手段が、リンク旅行時間と共に、当該リンク旅行時間に基づくリンク上の単位距離を移動するのに要する単位旅行時間を算出し、ゲイン設定手段は、降雨量及び単位旅行時間をパラメータとするゲインを設定することが考えられる。ここで単位旅行時間は、複数台の車両の平均値とすることが考えられ、渋滞度合いを示す指標となる。時刻tにおける単位旅行時間rT(t)は、例えば次の式1で求める。

rT(t)=ΣT(t)/L・N …式1

ここで、T(t)は各車両のリンク旅行時間であり、Lはリンクの運転距離であり、Nはリンクを通過した車両台数である。
【0013】
ところで、降雨情報は、気象台などの気象情報機関から取得することが考えられるが、これに限定されるものではない。
例えば請求項5に示すように、降雨情報収集手段は、降雨情報として、気象情報機関からの降雨量、プローブカーからのワイパ情報、及び、WEBシステムからの投稿者の発言内容のうち少なくともいずれかを収集することが考えられる。ここでワイパ情報は、単位時間あたりのワイパの往復回数などとして具現化される。また、投稿者の発言内容は、例えば掲示板などでの雨に関する発言内容である。プローブカーやWEBシステムから収集される降雨情報は、所定のテーブルなどによって降雨量に換算される。このようにすれば、降雨情報収集手段の算出するリンクの降雨量が適切なものとなる。
【0014】
ただし、気象情報機関からの降雨情報は相対的に信頼度が大きいのに対し、WEBシステムからの降雨情報は相対的に信頼度が小さくなる。そこで、請求項6に示すように、降雨情報収集手段は、降雨情報毎の降雨量に重み付けを行うことで補正を行い、リンクの降雨量を算出することが好ましい。このようにすれば、降雨情報収集手段の算出するリンクの降雨量がより適切なものとなる。
【0015】
また、降雨情報収集手段はリンク毎に例えばリンクの中間位置での降雨量を算出するのであるが、降雨情報の観測地との距離的な隔たりがある。そこで、請求項7に示すように、降雨情報収集手段は、降雨情報の観測地とリンクとの距離に基づく補正を行い、リンクの降雨量を算出することが考えられる。例えば、観測地との距離に基づく重み係数を観測地の降雨量に乗じて補正するという具合である。重み係数は、雨の降る半径を統計処理して地域ごとに求めることが考えられる。このようにすれば、降雨情報収集手段の算出するリンクの降雨量がより適切なものとなる。
【0016】
さらにまた、降雨情報収集手段はリンク毎に時刻tにおける降雨量を算出するのであるが、降雨情報の観測時刻との時間的な隔たりがある。そこで、請求項8に示すように、降雨情報収集手段は、降雨情報の観測時刻からの経過時間に基づく補正を行い、リンクの降雨量を算出することが考えられる。例えば、観測時刻からの経過時間に基づく重み係数を観測地の降雨量に乗じて補正するという具合である。重み係数は、一度降り始めた雨がやむまでの時間を統計処理して地域ごとに求めることが考えられる。このようにすれば、降雨情報収集手段の算出するリンクの降雨量がより適切なものとなる。
【0017】
以上、渋滞予測装置の発明として説明してきたが、請求項9に示すような、渋滞予測装置と、渋滞予測装置との間でデータ通信を行い、予測リンク旅行時間に基づく案内が可能なナビゲーション装置とを備える渋滞予測システムとして実現することもできる。ここでいう案内は、ルート探索によって行われる渋滞予測を含むルート案内だけでなく、地図上に渋滞情報を表示するだけの案内も含まれる。このような渋滞予測システムにおいても、上記渋滞予測装置と同様の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施形態の渋滞予測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】センタの機能を示すロジック図である。
【図3】補正されるゲインを可視化して示す説明図である。
【図4】センタにて実行される予測処理を示すフローチャートである。
【図5】予測処理中の降雨量算出処理を示すフローチャートである。
【図6】(a)は種々の降雨情報の対応関係を示す説明図であり、(b)は降雨量に対する信頼度係数の一例を示す説明図である。
【図7】各時刻及び各場所で取得される降雨量からリンクにおける降雨量の算出を示す説明図である。
【図8】予測処理中の単位旅行時間算出処理を示すフローチャートである。
【図9】予測処理におけるゲイン補正のタイミングを示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、渋滞予測システムの概略構成を示すブロック図である。渋滞予測システムは、センタ10と、ユーザ車両20とで構成される。また、センタ10には、気象情報機関30、WEBシステム40、及び、プローブカー50からの情報が入力されるようになっている。
【0020】
センタ10は、ユーザ車両20とのデータ通信を行うことで、ユーザ車両20に対して渋滞予測情報に基づくサービスを行う。例えば、ユーザ車両20にて目的地設定がなされた場合、センタ10へ送信されるユーザ車両20の現在地及び目的地に基づき、いわゆるルート探索を行うのであるが、このとき、渋滞予測情報に基づくルート探索が可能となっている。
【0021】
ユーザ車両20は、ナビゲーション装置(図中では「ナビ装置」)21を有しており、このナビゲーション装置21を介してセンタ10とのデータ通信が可能となっている。これにより、ナビゲーション装置21では、目的地の設定が行われた場合、車両の現在地及び目的地をセンタ10へ送信する。これに対し、センタ10からは、探索されたルートが送信される。
【0022】
気象情報機関30は、各地域の気象台などで測定される降雨量を降雨情報として数分間隔(本実施形態では5分間隔)で出力する。例えば、1時間あたりの平均降雨量が所定座標及び時刻と共に数分間隔で出力されるという具合である。なお、本実施形態では所定座標であるため所定地点での降雨情報であるが、別の形態として、あるエリアの降雨情報を出力するものとしてもよい。
【0023】
WEBシステム40は、SNS(ソーシャルネットワークサービス)などとして具現化され、例えば掲示板などの書き込み情報などを基に、降雨情報を出力する。この場合、掲示板などへの投稿者の地域における降雨情報となる。この地域情報は、投稿者の登録情報を基に判断してもよいし、書き込み情報の中に地域情報が含まれるのであれば、当該地域情報を採用してもよい。
【0024】
プローブカー50は、センタ10とのデータ通信を定期的に行う車両であり、交通情報の他、降雨情報をセンタ10へ送信する。降雨情報は、例えば1分あたりのワイパの往復回数としてセンタ10へ送信される。このとき、プローブカー50の座標値及び時刻も送信される。一方、交通情報は、時刻tでのリンク旅行時間としてセンタ10へ送信される。なお、ユーザ車両20がプローブカー50を兼ねるようにしてもよい。
【0025】
上述したセンタ10は、降雨情報収集部11、交通情報収集部12、制御部13、及び、通信部14を有している。図2は、センタ10の機能を示すロジック図である。
降雨情報収集部11は、気象情報機関30、WEBシステム40、及び、プローブカー50から送信される降雨情報を処理する(図1参照)。これにより、降雨情報収集部11からは、1時間あたりの各リンクの降雨量M(t)が出力される。
【0026】
交通情報収集部12は、プローブカー50から送信される交通情報を処理する(図1参照)。これにより、交通情報収集部12からは、時刻tにおけるリンク旅行時間T(t)、時刻(t+Δ)におけるリンク旅行時間T(t+Δ)、及び、時刻tにおいて単位距離を進む時間(以下「単位旅行時間」という)rT(t)が出力される。なお、単位旅行時間は、次の式1で計算される。ここで、Lはリンクの運転距離であり、Nはリンクを通過した車両台数であり、ΣT(t)は通過した車両台数分のリンク旅行時間の合計である。

rT(t)=ΣT(t)/L・N …式1

制御部13は、降雨情報収集部11からの降雨量M(t)、交通情報収集部12からのリンク旅行時間T(t)、単位旅行時間rT(t)に基づき、時刻(t+Δ)における予測リンク旅行時間hT(t+Δ)を求める。そして、実際に時刻(t+Δ)にて交通情報収集部12から出力されるT(t+Δ)を用いて、ゲインを補正する。
【0027】
制御部13の機能をロジックで示すと、図2に示すように、フィルタ部61、及び、予測値出力部62を含むものとなる。なお、図示しないルート探索機能などの諸機能も有している。
【0028】
フィルタ部61はゲイン出力ブロック63、及びエラー加算ブロック64を有している。一方、予測値出力部62は、エラー量算出ブロック66、及び予測値算出ブロック65を有している。
【0029】
ゲイン出力ブロック63から出力されるゲインは、次の式2.1及び式2.2で示される。

MD(t)=K1・M(t)+K2・△M(t) …式2.1

式2.1では、求めたM(t)とサンプル時間毎の変化量△M(t)との重みづけを重み係数K1、K2にて行う。

Gain(rT,MD,n) …式2.2

なお、nは、降雨情報収集部11からの降雨量M(t)が更新される毎にインクリメントされる計算サイクルであり、本実施形態では、5分のサイクルとなっている。
【0030】
そして、予測値算出ブロック65では、時刻tのリンク旅行時間T(t)に、ゲイン出力ブロック63にて出力されるゲインを乗じることで、未来の時刻(t+Δ)の予測リンク旅行時間hT(t+Δ)を算出する。
【0031】
実際に時刻(t+Δ)となるとリンク旅行時間T(t+Δ)が交通情報収集部12から出力されるため、これを真値として、エラー量算出ブロック66が、エラー量を計算する。次の式3に示すごとくである。

error=hT(t+Δ)/T(t+Δ)−1 …式3

そして、エラー量算出ブロック66で算出されたエラー量が、エラー加算ブロック64にて、時刻tにおけるゲインに加算される。次の式4に示すごとくである。

Gain(rT,M,n+1)=Gain(rT,M,n)+error・K …式4
ゲインを可視化すると、図3に示すごとくとなる。すなわち、ゲインを決定することは、降雨量M(t)及び単位旅行時間rT(t)に対する高さを決定することになり、計算サイクルが1,2,3,・・・n−1,n,n+1,・・・と進むたびに、図3に示す面の各所の高さが補正されることになる。なお、計算サイクル「1」のときは、各所の高さ「1」の平面とすることが考えられる。
【0032】
以上の機能により、センタ10の制御部13では、時刻tにおいて、時刻t+Δの予測リンク旅行時間hT(t+Δ)が算出される。したがって、センタ10では、ユーザ車両20から送信される現在地及び目的地に基づくルート探索処理において、当該予測リンク旅行時間hT(t+Δ)を基に、最適な経路を探索する。
【0033】
次に、本実施形態のセンタ10における予測処理を説明する。図4は、予測処理を示すフローチャートである。この予測処理は、センタ10にて繰り返し実行される。
最初のS100では、降雨量算出処理を実行する。降雨量算出処理は、降雨情報収集部11の機能として実現され、図5に示すように、S101にて気象情報を取得し、S102にてワイパ情報を取得し、S103にてWEB情報を取得し、S104にて降雨量を算出する。
【0034】
まず、S101〜103の処理について具体的に説明する。S101では、上記気象情報機関30から、5分間隔で、1時間あたりの降雨量を取得する。例えば、時刻tに取得される降雨量は、直近1時間の平均降雨量であるという具合である。この降雨量は、気象情報機関の観測地点の座標と共に取得する。
【0035】
S102では、プローブカー50から、1分間あたりのワイパの往復回数を取得する。ワイパの往復回数は、標準化されている「Lo」、「Hi」だけでなく、ユーザが任意に設定できるようになっており、例えば図6(a)に示すように「0.5」、「10」、「50(Lo)」、「72(Hi)」、「100」、「120」という具合に取得される。このワイパの往復回数は、図6(a)に示す対応表により、降雨量に変換される。また、S102では、プローブカー50の位置座標も共に取得される。
【0036】
S103では、WEBシステム40から、投稿者の発言内容を取得する。具体的には、降雨状況を示すような発言内容を取得する。例えば図6(a)に示すように「雨かな?」、「小雨」、「雨が降ってきたな」、「雨です」、「雨らしい雨」、「ザアザア降り」、「バケツをひっくり返したような」、「滝のような」などを取得するという具合である。この発言内容は、図6(a)に示す対応表により、降雨量に変換される。なお、投稿者の位置座標がGPSなどで特定できる場合はその位置座標も取得する。また、投稿者の位置を示す情報が投稿中にあれば、当該位置情報を取得する。さらにまた、投稿者の位置を示す情報が会員情報などとして登録されていれば、当該位置情報を取得する。このとき、位置情報がエリアを示す「名古屋市」であれば、名古屋の中心部の位置座標に変換する。
【0037】
このようにS101〜S103の処理により、気象情報機関30からの降雨量、プローブカー50からのワイパ往復回数に基づく降雨量、WEBシステム40からの発言内容に基づく降雨量が取得される。また、それぞれの降雨量は、ある時刻のある位置座標での降雨量となる。
【0038】
ただし、気象情報機関30からの降雨量は信頼度が相対的に高く、WEBシステム40からの発言内容に基づく降雨量は信頼度が相対的に低い。そこで、本実施形態では、図6(b)に示す信頼度係数Ksを乗じることで、各降雨量に対し重み付けを行う。具体的には、気象情報機関30からの降雨量には「1.0」を乗じ、プローブカー50のワイパ往復回数に基づく降雨量には「0.9」を乗じ、WEBシステム40からの発言内容に基づく降雨量には「0.1」を乗じる。
【0039】
次に、図5中のS104の処理について具体的に説明する。S104では、降雨量を算出する。ここで算出される降雨量は、各リンクの中心座標(xc,yc)における時刻tの降雨量である。
【0040】
ところが、S101〜S103で得られる降雨量は、それぞれの観測地点におけるものであり、それぞれの観測時刻におけるものとなっている。
そこで、図7(a)に示すように、実際に使用する降雨量、すなわちリンクの中心座標(xc,yc)における時刻tでの降雨量M(t)=M(xc,yc,t)を求める。なお、時刻t1に座標(x1,y1)にて観測された降雨量(観測地点1の観測時刻1の降雨量)をU1(x1,y1,t1)とし、時刻t2に座標(x2,y2)にて観測された降雨量(観測地点2の観測時刻2の降雨量)をU2(x2,y2,t2)とする。
【0041】
これを観測地点1,2からの距離Lと観測時刻1,2からの経過時間ΔTKとに基づいて変換する。具体的には、図7(b)に示すようなマップとして、経過時間ΔTKに関する重み係数Kpt、及び、距離Lに関する重み係数KpLを設定する。重み係数Kptは、一度降り始めた雨がやむまでの時間を統計処理して地域ごとに求める。また、重み係数KpLは、雨の降る半径を統計処理して地域ごとに求める。
【0042】
図7(b)に示すマップを利用すれば、M(t)は、次の式5で表現される。
【0043】
【数1】

【0044】
上記式5の詳細を説明する。第1の演算処理(ΣKpt・Um(Xm,Ym,tm))は、1箇所の観測座標における各観測時刻の雨量にその時刻に対応した重み係数Kptを掛け、さらにそれを所定時間分だけ積算することで第1の演算処理結果を求めている。この第1の演算処理結果は、観測座標毎に演算される。そして、第2の演算処理は、各観測座標の第1の演算処理結果にその観測座標に対応した重み係数KpLと信頼度係数Ksとを掛け、さらに所定数の観測座標分だけ積算することで第2の演算処理結果を求めている(ΣKs・KpL・第1の演算処理結果)。第3の演算処理は、第1の演算処理および第2の演算処理において用いた重み係数Kpt、重み係数KpLと信頼度係数Ksで、第2の演算処理結果を割っている。つまり正規化処理である。
【0045】
このようにS104では、式5によって、リンクの中心座標の時刻tにおける降雨量M(t)を算出する。
図4の説明に戻り、S110では、単位旅行時間算出処理を実行する。この単位旅行時間算出処理は、交通情報収集部12の機能として実現される。図8は、単位旅行時間算出処理を示すフローチャートである。
【0046】
最初のS111では、プローブカー50からの情報に基づき、あるリンクを走行するのに要する時間であるリンク旅行時間T(t)を取得する。
次のS112では、単位旅行時間を算出する。この処理は、上記式1を用いてrT(t)を求めるものである。
【0047】
図4中のS120では、エラー量を計算する。この処理は、制御部13の機能として実現されるものである。具体的には、上記式3を用い、時刻(t+Δ)の時点でのエラー量を求める。
【0048】
続くS130では、ゲインを補正する。この処理も、制御部13の機能として実現されるものである。具体的には、上記式4を用い、S120で算出されたエラー量によって、ゲインを補正する。
【0049】
次のS140では、予測値としての予測リンク旅行時間を出力する。この処理も、制御部13の機能として実現されるものである。具体的には、S130にて補正されたゲインをリンク旅行時間に乗じることで予測リンク旅行時間を算出し、当該予測リンク旅行時間を出力する。
【0050】
これにより、本実施形態では、予測リンク旅行時間に基づき、制御部13がルート探索を行うことで渋滞予測情報に基づくサービスを行う。
すなわち、本実施形態では、図9に示すように、時刻tの計算サイクルnにおいて、時刻(t−Δ)の計算サイクル(n−1)で求めた予測リンク旅行時間hT(t)と、時刻tの実際のリンク旅行時間T(t)とから、エラー量を求める(図4中のS120)。このエラー量によってゲインを補正し(S130)、時刻tにおいて予測リンク旅行時間hT(t+Δ)を出力する(S140)。同様に、時刻(t+Δ)の計算サイクル(n+1)では、時刻tの計算サイクルnで求めた予測リンク旅行時間hT(t+Δ)と、時刻(t+Δ)の実際のリンク旅行時間T(t+Δ)とから、エラー量を求める(図4中のS120)。このエラー量によってゲインを補正する(S130)。
【0051】
以上、詳述したように本実施形態では、降雨情報収集部11が降雨情報算出処理を実行し(図4中のS100)、リンクの中心座標での降雨量を算出する(図5中のS104)。また、交通情報収集部12が単位旅行時間算出処理を実行し(図4中のS110)、単位旅行時間を算出する(図8中のS112)。制御部13は、前回の予測値である予測リンク旅行時間と真値であるリンク旅行時間との比率からエラー量を計算し(図4中のS120)、降雨量及び単位旅行時間で設定されるゲインをエラー量で補正して(S130)、今回の予測リンク旅行時間を出力する(S140)。これにより、降雨量によって刻一刻と変わる渋滞の状況を予測することができる。
【0052】
また、本実施形態では、前回の予測値である予測リンク旅行時間と予測時刻における実際のリンク旅行時間との比率からエラー量を計算し(図4中のS120)、降雨量及び単位旅行時間で設定されるゲインをエラー量で補正する(S130)。これにより、予測時刻における実際のリンク旅行時間に基づいてゲインが補正されるため、より適切な予測リンク旅行時間を出力することができる。
【0053】
このとき、予測リンク旅行時間と実際のリンク旅行時間との比率からエラー量を計算しているため、比較的簡単にゲインを補正することができる。
さらにまた、本実施形態では、降雨情報収集部11が、図5に示した降雨量算出処理を実行し、気象情報機関30から気象情報としての降雨量を取得する(S101)。また、プローブカー50からのワイパ情報を取得する(S102)。さらにまた、WEBシステム40からのWEB情報として投稿者の発言内容を取得する(S103)。これにより、降雨情報収集部11の算出するリンクの降雨量(S104)が適切なものとなる。
【0054】
ここで降雨情報収集部11は、降雨情報毎の降雨量に重み付けを行うことで補正を行い、リンクの降雨量を算出する(S104)。これにより、降雨情報収集部11の算出するリンクの降雨量がより適切なものとなる。
【0055】
また、降雨情報収集部11は、降雨情報の観測地とリンクとの距離に基づく補正を行うと共に降雨情報の観測時刻からの経過時間に基づく補正を行い、リンクの降雨量を算出する(S104)。これにより、降雨情報収集部11の算出するリンクの降雨量がより適切なものとなる。
【0056】
なお、本実施形態におけるセンタ10が特許請求の範囲の「渋滞予測装置」を構成し、降雨情報収集部11が「降雨情報収集手段」を構成し、交通情報収集部12が「交通情報収集手段」を構成し、制御部13が「ゲイン設定手段」、「予測値出力手段」及び「ゲイン補正手段」を構成する。
詳しくは、フィルタ部61のゲイン出力ブロック63が「ゲイン設定手段」を構成し、予測値出力部62の予測値算出ブロック65が「予測値出力手段」を構成し、エラー量算出ブロック66及びフィルタ部61のエラー量加算ブロック64が「ゲイン補正手段」を構成する。また、ナビゲーション装置21が「ナビゲーション装置」を構成し、ナビゲーション装置21の搭載されたユーザ車両20及びセンタ10が「渋滞予測システム」を構成する。
【0057】
また、図5に示した降雨量算出処理が「降雨情報収集手段」の機能としての処理に相当し、図8に示した単位旅行時間算出処理が「交通情報収集手段」の機能としての処理に相当し、図4中のS120,S130が「ゲイン補正手段」の機能としての処理に相当し、S140が「予測値出力手段」の機能としての処理に相当する。
【0058】
以上、本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものでなく、その技術的範囲を逸脱しない限りにおいて、種々なる形態で実施できる。
(イ)上記実施形態では、ユーザ車両20からセンタ10へ現在地及び目的地を送信することで、センタ10が予測リンク旅行時間を用いたルート探索を行っている。これに対し、ユーザ車両20に対し、センタ10が予測リンク旅行時間を渋滞情報として送信する構成とし、ナビゲーション装置21が予測リンク旅行時間を用いたルート探索を行う構成としてもよい。また、ルート探索を行うことに限定されず、予測リンク旅行時間に基づく地図上の渋滞予測表示を行うようにしてもよい。すなわち、地図上に渋滞予測を表示するだけの案内であってもよい。
【0059】
(ロ)上記実施形態では、降雨量M(t)は実測値に基づくものとなっているが、降雨量をリンク旅行時間と同様の手法で予測し、予測降雨量(t+Δ’)を用いて、予測リンク旅行時間(t+Δ)を算出してもよい。この場合、Δを5分とするのであれば、Δ’も5分とすることが考えられる。このときは、予測リンク旅行時間に基づく渋滞予測表示に加えまたは代え、予測降雨量に基づき地図上に降雨予測表示を行うようにしてもよい。
【0060】
(ハ)上記実施形態では、5分毎に1時間あたりの平均降雨量を取得する構成であった。これに対し、5分毎に5分間あたりの平均降雨量を取得するようにしてもよい。また、ある地点の降雨量でなく、ある地域(エリア)の降雨量を取得する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10…センタ、11…降雨情報収集部、12…交通情報収集部、13…制御部、14…通信部、20…ユーザ車両、21…ナビゲーション装置、30…気象情報機関、40…WEBシステム、50…プローブカー、61…フィルタ部、62…予測値出力部、63…ゲイン出力ブロック、64…エラー加算ブロック、65…予測値算出ブロック、66…エラー量算出ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
降雨情報を収集し、前記降雨情報に基づきリンクの降雨量を算出する降雨情報収集手段と、
交通情報を収集し、前記交通情報に基づきリンクの通過に要する時間であるリンク旅行時間を出力する交通情報収集手段と、
前記降雨量及び前記リンク旅行時間に基づき、ゲインを設定するゲイン設定手段と、
前記ゲイン設定手段にて設定される前記ゲインを前記リンク旅行時間に乗じて、未来の予測時刻おける予測リンク旅行時間を出力する予測値出力手段と、
を備えていることを特徴とする渋滞予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の渋滞予測装置において、
前記予測値出力手段にて出力される前記予測リンク旅行時間と前記予測時刻における実際のリンク旅行時間とに基づき前記ゲイン設定手段にて設定される前記ゲインを補正するゲイン補正手段を備えていること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の渋滞予測装置において、
前記ゲイン補正手段は、前記予測時刻における前記予測リンク旅行時間と前記実際のリンク旅行時間との比率に基づくエラー量を加算することにより、前記ゲインを補正すること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の渋滞予測装置において、
前記交通情報収集手段は、前記リンク旅行時間と共に、当該リンク旅行時間に基づくリンク上の単位距離を移動するのに要する単位旅行時間を算出し、
前記ゲイン設定手段は、前記降雨量及び前記単位旅行時間をパラメータとするゲインを設定すること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の渋滞予測装置において、
前記降雨情報収集手段は、前記降雨情報として、気象情報機関からの降雨量、プローブカーからのワイパ動作情報、及び、WEBシステムからの投稿者の発言内容のうち少なくともいずれかを収集すること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の渋滞予測装置において、
前記降雨情報収集手段は、前記降雨情報毎の降雨量に重み付けを行うことで補正を行い、前記リンクの降雨量を算出すること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項に記載の渋滞予測装置において、
前記降雨情報収集手段は、前記降雨情報の観測地とリンクとの距離に基づく補正を行い、前記リンクの降雨量を算出すること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の渋滞予測装置において、
前記降雨情報収集手段は、前記降雨情報の観測時刻からの経過時間に基づく補正を行い、前記リンクの降雨量を算出すること
を特徴とする渋滞予測装置。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載の渋滞予測装置と、
前記渋滞予測装置との間でデータ通信を行い、前記予測リンク旅行時間に基づく案内が可能なナビゲーション装置と、
を備えていることを特徴とする渋滞予測システム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108972(P2013−108972A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−206982(P2012−206982)
【出願日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】