説明

減反射材及びそれを用いた電子画像表示装置

【課題】 反射防止性能を向上させることができると共に、着色を抑制することができる減反射材及びそれを用いた電子画像表示装置を提供する。
【解決手段】 減反射材は、透明樹脂フィルム11上に干渉層12を介してハードコート層13が設けられ、そのハードコート層13上に減反射層としての低屈折率層14が設けられて構成されている。この減反射材は、光の波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1%以下である。また、CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下で、かつCIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下である。更に、JIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ディスプレイの前面に設けられ、反射防止性能を向上させることができると共に、着色を抑制することができる減反射材及びそれを用いた電子画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子ディスプレイは、テレビジョン用やモニター用として広く普及している。特にディスプレイの薄型化や大型化が進んでおり、プラズマディスプレイ(PDP)や液晶ディスプレイ(LED)等が注目されている。これら大型のディスプレイには、視認性向上のために、ディスプレイの反射防止処理が必要であり、ほとんどの機種に反射防止処理が施されている。
【0003】
一般に、ディスプレイの反射防止処理は、人間の視感度中心付近の反射率を下げるように設定されることが多い。このため、550〜600nm付近の反射率を極度に落とした構成のものが主流である。しかし、このような設計にしてしまうと、反射スペクトルがいわゆる“V字型”を呈し、反射防止フィルムに光が当たると、赤紫から青色に強く着色してしまう。このような反射防止フィルムを電子ディスプレイの前にセットすると、ディスプレイのもともとの色彩に、反射防止フィルムの着色が重なってしまい、ディスプレイの色再現性を妨げてしまうという問題があった。特に、背景色が暗い色(黒色)である場合には、反射防止フィルムの着色が際立ってしまい、黒色が黒色として再現されにくいという問題があった。
【0004】
また、減反射材には十分な表面硬度を持たせるために、厚さ1〜10μm程度のハードコート層が設けられていることが多い。この場合、透明樹脂フィルムとハードコート層の屈折率は通常異なっており、これら屈折率の異なる層を厚さ1〜10μmで積層してしまうと、それらの層間での光の干渉作用により、表面に水上の油膜のような模様が生じ(干渉むら)、外観を損なうと共に電子ディスプレイの品位を著しく下げてしまうという問題があった。更に、ハードコート層の膜厚が1〜3μmでは、前述の干渉作用によりハードコート層が赤と緑に着色してしまうため、反射防止層の着色と同様に、電子ディスプレイの色再現性を妨げてしまうという問題があった。
【0005】
これらの問題に対して、次のような解決法が提案されている。即ち、最外層から減反射層、ハードコート層及び干渉層からなる多層構造を透明樹脂フィルム上に設けると共に、波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1.0%以下である減反射フィルムが提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2003−177209号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1に記載の技術では、可視光領域における反射率の振幅の差の最大値を1.0%以下にすることによって光の干渉むらを抑え、外観の悪化を抑制することができる。しかしながら、反射率の振幅の差を抑えるだけでは反射防止性能を十分に向上させることができず、また減反射フィルム自体に由来する着色を十分に抑えることができないという問題があった。
【0007】
そこで、本発明の目的とするところは、反射防止性能を向上させることができると共に、着色を抑制することができる減反射材及びそれを用いた電子画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明における第1の発明の減反射材は、透明樹脂フィルム上にハードコート層を設け、そのハードコート層上に減反射層を設けると共に、光の波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1%以下である減反射材において、CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下で、かつCIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下であることを特徴とするものである。
【0009】
第2の発明の減反射材は、第1の発明において、JIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下であることを特徴とするものである。
第3の発明の減反射材は、第1又は第2の発明において、減反射層は低屈折率層を含み、その低屈折率層の屈折率が1.28〜1.45であることを特徴とするものである。
【0010】
第4の発明の減反射材は、第1から第3のいずれかの発明において、減反射層は低屈折率層と高屈折率層とを含み、高屈折率層の屈折率とハードコート層との屈折率差が0.05以下であることを特徴とするものである。
【0011】
第5の発明の電子画像表示装置は、第1から第4のいずれかの発明の減反射材を、ディスプレイの前面に設けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の減反射材では、CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下に設定されていることから、減反射材表面への映りこみを少なくすることができ、減反射材の反射防止性能を向上させることができる。更に、CIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下に設定されていることから、反射スペクトルがフラットになり、可視光領域での反射率の差を少なくすることができ、減反射材自身に由来する着色を抑制することができる。
【0013】
第2の発明の減反射材では、JIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下に設定されていることから、第1の発明の効果に加え、濁りのないクリアな画像を得ることができる。
【0014】
第3の発明の減反射材では、減反射層は低屈折率層を含み、その低屈折率層の屈折率が1.28〜1.45という小さい範囲に設定されているため、前記視感度反射率Yを下げることができ、第1又は第2の発明の効果に加え、反射防止性能を向上させることができる。
【0015】
第4の発明の減反射材では、減反射層は低屈折率層と高屈折率層とを含み、高屈折率層の屈折率とハードコート層との屈折率差が0.05以下に設定されている。このため、反射スペクトルをフラットに維持することができ、反射防止性能をより向上させることができる。
【0016】
第5の発明の電子画像表示装置では、前記減反射材を、ディスプレイの前面に設けたものであるため、第1から第4のいずれかの発明の減反射材による効果を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の減反射材は、透明樹脂フィルム上にハードコート層を設け、そのハードコート層上に減反射層を設けることにより構成されている。この減反射材は、光の波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1%以下に設定される。更に、CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下で、かつCIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下に設定される。加えて、JIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下であることが好ましい。
【0018】
前記の透明樹脂フィルムを形成する透明樹脂基材は、屈折率(n)が1.45〜1.70の範囲内のものが好ましい。屈折率が低め(1.45〜1.55)の透明樹脂基材としては、具体的には例えば、トリアセチルセルロース(TAC、n=1.48)、アクリルフィルム(AC、n=1.50)、アートン(ARTON、JSR(株)製、嵩高の環状オレフィン樹脂、n=1.51)、ゼオノア(ZEONOR、嵩高の環状オレフィン樹脂、日本ゼオン(株)製、n=1.53)等が好ましい。また、屈折率が高め(1.55〜1.70)の透明樹脂基材としては、具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET、n=1.65)、ポリカーボネート(PC、n=1.59)、ポリアリレート(PAR、n=1.60)及びポリエーテルスルフォン(PES、n=1.65)等が好ましい。これらのうち、屈折率が低めの透明樹脂フィルムとしてはTACフィルムやACフィルムが、屈折率が高めの透明樹脂フィルムとしてはPETフィルムが、成形の容易性、入手の容易さ及びコストの点で好ましい。
【0019】
また、透明樹脂フィルムの厚みは、好ましくは25〜400μm、更に好ましくは50〜200μmである。この厚みが25μm未満の場合や400μmを越える場合には、減反射材の製造とき及び使用ときにおける取り扱い性が低下して好ましくない。
【0020】
減反射材は、波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1%以下である。即ち、透明樹脂フィルム表面の反射スペクトルを測定した際の波長500nmから650nmにおけるハードコート層と透明樹脂フィルム間の干渉光に起因する振幅の最大値が、1%以下の差にならなければならない。振幅の差の最大値は、更に好ましくは0.5%以下である。反射率の振幅の差の最大値が1%を越えると干渉むらが目立ってしまい、外観の品位を下げてしまうと共に、干渉むら由来の赤や緑の色むらが発生し、電子ディスプレイの色再現性を低下させてしまうため、好ましくない。
【0021】
減反射材は、CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下であり、より好ましくは1%以下である。CIE標準イルミナントD65は、国際照明委員会(CIE)によって相対分光分布が規定されたイルミナント(それで照射された物体の色知覚に影響を及ぼす波長域全体の相対分光分布が規定されている放射)であり、視感度反射率Yは、この相対分光分布を用いて、JIS Z8701で規定されているXYZ表色系における反射による物体色の三刺激値のYとして計算される。この視感度反射率Yが2%を越えると、減反射材表面の反射低減効果が弱くなると共に、画面への背景の映り込みが強くなることにより、電子ディスプレイの色再現性が低下してしまうため、好ましくない。
【0022】
また、人間の目に光として感じる波長範囲、即ち可視光領域(380nmから780nm)における最大反射率が好ましくは4%以下、更に好ましくは3%以下にすることにより、本発明の効果を更に高めることができる。その理由は、可視光領域の最大反射率が4%を越えてしまう場合において、反射防止性能を向上させようとすると、減反射材の着色がきつくなる傾向があり、逆に減反射材の着色を抑えようとすると、反射防止性能が悪くなる傾向があるためである。
【0023】
減反射材は、更に、CIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下であり、好ましくは5以下である。abクロマCabは、CIEが1976年に推奨した知覚的にほぼ均等な歩度をもつ色空間CIE1976L*a*b*表色系において、彩度に近似的に相関する量を表している。このabクロマCabの値が10を越える場合には、減反射材の表面の着色が目立つようになり、電子ディスプレイの色再現性が低下するため好ましくない。
【0024】
減反射材は、JIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることが更に好ましい。このヘーズ値が1%を越える場合には、減反射材を電子ディスプレイに設置した場合、表面が白く濁った感じに見えてしまい、電子ディスプレイの色再現性を著しく低下させてしまうため、好ましくない。
【0025】
減反射材は、波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1%以下で干渉むらを低減させているが、そのためには以下の工夫が必要である。屈折率が1.45〜1.55の透明樹脂フィルムを使用する場合には、ハードコート層の屈折率が(透明樹脂フィルムの屈折率)±0.03の範囲内で、かつ膜厚が1〜10μmであることが重要である。更に好ましくは、ハードコート層の屈折率が(透明樹脂フィルムの屈折率)±0.02の範囲内である。ハードコート層の屈折率が(透明樹脂フィルムの屈折率)±0.03を越える場合には、干渉むらがはっきりと認識されてしまい好ましくない。ハードコート層の膜厚が1μm未満であると、十分な表面強度が得られないため好ましくない。一方、ハードコート層の膜厚が10μmを越えてしまう場合には、耐屈曲性の低下等に問題が生じるため好ましくない。
【0026】
また、屈折率が1.55〜1.70の透明樹脂フィルムを使用する場合には、透明樹脂フィルム上に、基材側から干渉層、ハードコート層を積層することにより干渉むらを低減させることが望ましい。そのためには、ハードコート層の屈折率が1.45〜1.55で、かつ膜厚が1μm〜10μmである。干渉層の屈折率が{(透明樹脂フィルムの屈折率)}×(ハードコート層の屈折率)}1/2±0.03の範囲内でかつ光学膜厚が125〜165nmである。そして、透明樹脂フィルム、干渉層及びハードコート層の屈折率が透明樹脂フィルムの屈折率>干渉層の屈折率>ハードコート層の屈折率の関係を満たし、透明樹脂フィルム上に、干渉層、ハードコート層の順に積層することが好ましい。ここで、光学膜厚とは層の屈折率(n)と層の厚み(d)の積で(n×d)ある。
【0027】
干渉層の屈折率は、好ましくは上記範囲内であり、更に好ましくは{(透明樹脂フィルムの屈折率)×(ハードコート層の屈折率)}1/2±0.02の範囲内である。干渉層の屈折率は、{(透明樹脂フィルムの屈折率)×(ハードコート層の屈折率)}1/2であるときに最も干渉むらを低減できる。
【0028】
干渉層の屈折率及び光学膜厚が、上記範囲外である場合には、光の干渉むらの低減効果が低くなるため好ましくない。また、同様にハードコート層の屈折率が1.45未満の場合、或いは1.55を越える場合には、適切な光の干渉むら低減効果が得られないため好ましくない。ハードコート層の膜厚が1μm未満の場合には、十分な表面強度が得られないため好ましくない。一方、膜厚が10μmを越える場合には、耐屈曲性の低下等の問題が生じるため好ましくない。
【0029】
干渉層は屈折率、厚みが前記範囲内であれば良く、その材料、層の形成方法は特に限定されない。層を形成する材料は例えば有機物、無機物の単独又は混合物を用いることができ、有機物としては例えばアクリレート等の反応性単量体や重合体が、無機物としては例えば珪素化合物や金属、金属酸化物等が挙げられる。また、層の形成方法は従来公知の方法を用いることができ、例えば蒸着法、スパッタ法、CVD法、イオンプレーティング法等のドライコート法や、ディップコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ダイコート法等のウェットコート法が挙げられる。特に厚みを正確に制御できる方法が好ましい。
【0030】
干渉層には本発明の効果を損なわない限り、他の機能を付与しても構わない。例えば透明樹脂フィルムとハードコート層との密着性の向上等が挙げられる。また、樹脂材料から透明樹脂フィルムを作製するとき、即ち延伸やキャストするとき、同時に表面に干渉層を膜として形成させることが可能である。例えば、透明樹脂フィルムがPETフィルムの場合、その上に積層する層との密着性を向上させるために、PETフィルムの製造時にインラインでPETフィルム表面にポリエステル系の樹脂等からなる接着剤を塗布して易接着層を形成する。この易接着層の屈折率及び膜厚を干渉層の条件に合わせることにより易接着層が干渉層を兼ねることができる。
【0031】
干渉層の上に形成するハードコート層は、屈折率、膜厚が前記範囲内であることが好ましく、層の形成方法は特に限定されない。具体的には、例えば、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、そしてテトラエトキシシラン等の反応性珪素化合物等の硬化物が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、メタクリル酸エステルとアクリル酸エステルの両方を含んでいる。以下化合物が変わっても同様である。これらのうち生産性及び硬度の両立の観点より、紫外線硬化性の多官能アクリレートを含む組成物の重合硬化物であることが特に好ましい。
【0032】
紫外線硬化性の多官能アクリレートを含む組成物としては特に限定されるものではない。例えば、公知の紫外線硬化性の多官能アクリレートを一種類以上混合したもの、紫外線硬化性ハードコート材として市販されているもの、或いはこれら以外に本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を更に添加したものを用いることができる。
【0033】
紫外線硬化性の多官能アクリレートとしては、特に限定されるものではないが、例えばジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,6−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン等の多官能アルコールのアクリル誘導体や、ポリエチレングリコールジアクリレート、そしてポリウレタンアクリレート等が挙げられる。
【0034】
紫外線硬化性の多官能アクリレートを含む組成物に含まれるその他の成分とは特に限定されるものではない。例えば、無機又は有機の微粒子状充填剤、無機又は有機の微粒子状顔料、及びそれ以外の無機又は有機微粒子;重合体、重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤及びレベリング剤等の添加剤等が挙げられる。またウェットコーティング法において成膜後乾燥させる限りは、任意の量の溶媒を添加することができる。
【0035】
ハードコート層の形成方法は特に限定されず、有機材料を用いた場合には、ロールコート法やダイコート法等、一般的なウェットコート法により形成することができる。形成した層は必要に応じて加熱や紫外線、電子線等の活性エネルギー線照射により硬化反応を行うことができる。
【0036】
次に、減反射層は単層構造又は2層構造をとることができる。単層構造の場合には、ハードコート層上に該ハードコート層よりも低い屈折率の層(低屈折率層)を1層形成する。また2層構造の場合には、ハードコート層の上に屈折率の異なる層(低屈折率層と高屈折率層)を高屈折率層、低屈折率層の順に2層積層する。また、3層以上の多層構造にすることにより、より効果的に反射率を下げることができるが、層の数が増えると、各層のわずかな膜厚むらにより、色むらが発生しやすくなり、外観が悪くなると共に色再現性が低下する傾向を示す。
【0037】
減反射層は低屈折率層と高屈折率層とを含み、高屈折率層の屈折率とハードコート層との屈折率差が0.05以下であることが好ましい。これにより、反射スペクトルをフラットに維持することができ、反射防止性能をより向上させることができる。この屈折率差が0.05を越える場合には、反射スペクトルをフラットに維持することができず、反射防止性能が低下する。
【0038】
減反射層の形成方法は特に限定されず、例えばドライコーティング法、ウェットコーティング法等の方法を採ることができる。生産性、生産コストの面より、特にウェットコーティング法が好ましい。ウェットコーティング法は公知のもので良く、例えばロールコート法、スピンコート法、そしてディップコート法等が代表的なものとして挙げられる。これらの中では、ロールコート法等、連続的に形成できる方法が生産性の点より好ましい。
【0039】
減反射層の機能を発揮させるために、低屈折率層の屈折率としては、形成される層がその直下の層より低屈折率であることを要件とし、その屈折率は1.28〜1.45の範囲にあることが好ましい。1.45を越える場合にはウェットコーティング法では十分な減反射効果を得ることが難しく、また屈折率が1.28未満の場合には十分に硬い層を形成することが困難となる傾向にある。更に、2層構造を有する場合には、高屈折率層はハードコート層より屈折率を高くすることが必要であるので、その屈折率は1.46〜1.60の範囲内であることが好ましい。屈折率が1.46未満では十分な減反射効果を得ることが難しく、また1.60を越える場合には、abクロマCabを10以下の設計にすることが難しく、色むらを生じやすくなるため、好ましくない。
【0040】
減反射層の厚みは透明樹脂フィルムの種類、形状、減反射層の構造によって異なるが、一層あたり可視光波長と同じ厚み又はそれ以下の厚みが好ましい。例えば、可視光線に減反射効果を発現させるためには、高屈折率層の光学膜厚nH・dは500≦4nH・d(nm)≦750、及び低屈折率層の光学膜厚nL・dは、400≦4nL・d(nm)≦650を満たすように設計される。但し、nH、nLはそれぞれ高屈折率層、低屈折率層の屈折率、dは層の厚みである。
【0041】
高屈折率層を構成する材料は特に限定されるものではなく、無機材料又は有機材料を用いることができる。無機材料としては、例えば酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化ジルコニウム、酸化インジウム錫(以後、ITOと略す。)等の微粒子が挙げられる。特に、酸化インジウム錫等の導電性微粒子を用いた場合には表面抵抗率を下げることができ、帯電防止能も更に付与することができるため好ましい。一方、有機材料としては、例えばフルオレン骨格を有する重合性単量体を含む組成物を重合硬化したもの等を用いることができる。
【0042】
無機材料の微粒子を含む高屈折率層はウェットコーティング法により形成してもよい。その場合には、屈折率が1.65未満となる重合性単量体及びこれらの重合体を含む組成物をウェットコーティング時のバインダーとして用いることができる。無機材料の微粒子の平均粒径は層の厚みを大きく越えないことが好ましく、特に0.1μm以下であることが好ましい。平均粒径が大きくなると、散乱が生じ、ヘーズ値が上昇してしまうため好ましくない。また、必要に応じて微粒子表面を各種カップリング剤等により修飾することができる。各種カップリング剤としては例えば、有機置換された珪素化合物、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、アンチモン等の金属アルコキシド、有機酸塩等が挙げられる。
【0043】
低屈折率層を構成する材料としては、酸化珪素、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、フッ化セリウム等の無機物や、含フッ素有機化合物の単独又は混合物、或いは含フッ素有機化合物の重合体を含む組成物を用いることができる。また、フッ素を含まない単量体(非フッ素系単量体と略記)や重合体をバインダーとして用いることができる。この中でも、酸化珪素系微粒子、特に中空酸化珪素系微粒子や含フッ素有機化合物が、低屈折率の点で特に好ましい。
【0044】
中空酸化珪素系微粒子としては、例えば外殻内部に空洞を有するものや、多孔質シリカ微粒子が挙げられる。微粒子の平均粒径は層の厚みを大きく越えないことが好ましく、特に0.1μm以下であることが好ましい。平均粒径が大きくなると、散乱が生じ、ヘーズ値が上昇してしまうため本発明に適さない。また、必要に応じて微粒子表面を各種カップリング剤等により修飾することができる。各種カップリング剤としては例えば、有機置換された珪素化合物、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウム、アンチモン等の金属アルコキシド、有機酸塩等が挙げられる。特に、表面を(メタ)アクリロイル基等の反応性基で修飾することにより、硬度の高い膜を形成することができる。
【0045】
上記含フッ素有機化合物は特に限定されるものではないが、例えば、含フッ素単官能(メタ)アクリレート、含フッ素多官能(メタ)アクリレート、含フッ素イタコン酸エステル、含フッ素マレイン酸エステル、含フッ素珪素化合物等の単量体、及びそれらの重合体等が挙げられる。これらの中では、反応性の観点より含フッ素(メタ)アクリレートが好ましく、特に含フッ素多官能(メタ)アクリレートが、硬度、屈折率の点より最も好ましい。これら含フッ素有機化合物を硬化させることにより、低屈折率かつ高硬度の層を形成することができる。
【0046】
含フッ素単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば1−(メタ)アクリロイロキシ−1−パーフルオロアルキルメタン、1−(メタ)アクリロイロキシ−2−パーフルオロアルキルエタン等が挙げられる。パーフルオロアルキル基は炭素数1〜8の直鎖状、分枝状、環状のものが挙げられる。
【0047】
含フッ素多官能(メタ)アクリレートとしては、含フッ素2官能(メタ)アクリレート、含フッ素3官能(メタ)アクリレート及び含フッ素4官能(メタ)アクリレートが好ましい。含フッ素2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,2−ジ(メタ)アクリロイルオキシ−3−パーフルオロアルキルブタン、2−ヒドロキシ−1H,1H,2H,3H,3H−パーフルオロアルキル−2’,2’−ビス{(メタ)アクリロイルオキシメチル}プロピオナート、α,ω−ジ(メタ)アクリロイルオキシメチルパーフルオロアルカン等が挙げられる。パーフルオロアルキル基は炭素数1〜11の直鎖状、分枝状、環状のものが、パーフルオロアルカン基は直鎖状のものが好ましい。これらの含フッ素2官能(メタ)アクリレートは、使用に際して単独又は混合物として用いることができる。
【0048】
含フッ素3官能(メタ)アクリレートの例としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシ−1H,1H,2H,3H,3H−パーフルオロアルキル−2’,2’−ビス{(メタ)アクリロイルオキシメチル}プロピオナート等が挙げられる。パーフルオロアルキル基は炭素数1〜11の直鎖状、分枝状、環状のものが好ましい。
【0049】
含フッ素4官能(メタ)アクリレートの例としては、α,β,ψ,ω−テトラキス{(メタ)アクリロイルオキシ}−αH,αH,βH,γH,γH,χH,χH,ψH,ωH,ωH−パーフルオロアルカン等が好ましい。パーフルオロアルカン基は炭素数1〜14の直鎖状のものが好ましい。使用に際しては、含フッ素4官能(メタ)アクリレートは、単独又は混合物として用いることができる。
【0050】
含フッ素珪素化合物の具体的な例としては、(1H,1H,2H,2H−パーフルオロアルキル)トリメトキシシラン等が好ましい。パーフルオロアルキル基は炭素数1〜10の直鎖状、分枝状、環状のものが好ましい。前記含フッ素有機化合物の重合体又はその他の含フッ素系単量体の重合体としては、前記含フッ素単量体の単独重合体、共重合体、又は非フッ素系単量体との共重合体等の直鎖状重合体、鎖中に炭素環や複素環を含む重合体、環状重合体、櫛型重合体等が挙げられる。前記非フッ素系単量体としては、従来公知のものを用いることができる。例えば、単官能又は多官能(メタ)アクリレートやテトラエトキシシラン等の珪素化合物等が挙げられる。
【0051】
減反射層には前記の化合物以外に本発明の効果を損なわない範囲において、その他の成分を含んでいても差し支えない。その他の成分とは特に限定されるものではなく、例えば無機又は有機顔料、重合体、重合開始剤、光重合開始剤、重合禁止剤、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、光安定剤、レベリング剤等の添加剤等が挙げられる。また、ウェットコーティング法において成膜後乾燥させる限りは、任意の量の溶媒を添加することができる。減反射層はウェットコーティングにより成膜した後、必要に応じて紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射や加熱により硬化反応を行って層を形成することができる。活性エネルギー線による硬化反応は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下にて行うことが好ましい。
【0052】
減反射材は、透明樹脂フィルム側に接着層を形成することができる。接着層に用いられる材料としては特に限定されるものではないが、例えば、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、紫外線硬化型接着剤、熱硬化型接着剤等を挙げることができる。この接着層には特定波長域の光の遮断、コントラスト向上、色調補正等の機能を一種類以上付与することができる。例えば、減反射材の透過光色が黄色味を帯びている等、好ましくない場合には色素等を添加して色調補正することができる。
【0053】
本実施形態の減反射材は、色再現性向上効果、光の干渉むら抑制効果、更に減反射効果を必要とする用途に用いることができる。特に、電子画像表示装置の表面に使用することができる。電子画像表示装置としては、例えば、ブラウン管、プラズマディスプレイ、液晶表示装置等が挙げられる。そしてその画面表面に直接、又は画面の前面に配置される板に接着層を介して密着させて用いることができる。
【0054】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の減反射材では、CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下に設定されていることから、減反射材表面への映りこみを少なくすることができ、減反射材の反射防止性能を向上させることができる。更に、CIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下に設定されていることから、反射スペクトルがフラットになり、可視光領域での反射率の差を少なくすることができ、減反射材自身に由来する着色を抑制することができる。
【0055】
・ また、減反射材はJIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下に設定されることにより、濁りのないクリアな画像を得ることができる。
・ 更に、減反射材を構成する減反射層は低屈折率層を含み、その低屈折率層の屈折率が1.28〜1.45という小さい範囲に設定されることにより、前記視感度反射率Yを下げることができ、反射防止性能を向上させることができる。
【0056】
・ 加えて、減反射材における減反射層は低屈折率層と高屈折率層とを含み、高屈折率層の屈折率とハードコート層との屈折率差が0.05以下に設定されることにより、反射スペクトルをフラットに維持することができ、反射防止性能をより向上させることができる。
【0057】
・ また、電子画像表示装置は、前記減反射材がディスプレイの前面に設けられて構成されるため、減反射材による上記の効果を発揮することができる。
【実施例】
【0058】
以下、製造例、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。尚、製造例で調製した減反射層用塗液の硬化物の屈折率は以下のように測定した。
(1)屈折率1.49のアクリル板(商品名:「デラグラスA」、旭化成工業株式会社製)上に、ディップコーター(杉山元理化学機器株式会社製)により、減反射層用塗液をそれぞれ乾燥膜厚で光学膜厚が550nm程度になるように層の厚さを調整して塗布した。
(2)溶媒乾燥後、必要に応じて紫外線照射装置(岩崎電気株式会社製)により窒素雰囲気下で120W高圧水銀灯を用いて、400mJの紫外線を照射して減反射層用塗液を硬化させた。
(3)アクリル板裏面をサンドペーパーで粗くし、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(「U−Best V560」、日本分光株式会社製)により、400〜650nmにおける5°、−5°正反射率を測定し、その反射率極小値又は極大値を読み取った。
(4)反射率の極値より以下の式を用いて屈折率を計算した。
【0059】
【数1】

得られた減反射材の物性は以下の方法で評価した。
1)分光反射率: 減反射材の裏面(透明樹脂フィルム側)をサンドペーパーで粗し、黒色塗料で塗りつぶしたものを分光光度計(「U−Best V560」、日本分光株式会社製)により、380〜780nmの5°、−5°正反射スペクトルを測定した。これにより、減反射層の反射スペクトルが測定できる。
2)波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値: 分光反射率測定で得られた反射スペクトルより、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値を読み取った。
3)視感度反射率Y: 上記で測定した380〜780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8701で規定されているXYZ表色系における、反射による物体色の三刺激値Yを計算した。
4)abクロマ: 1)で測定した380〜780nmの分光反射率と、CIE標準イルミナントD65の相対分光分布を用いて、JIS Z8720に規定される色空間CIE1976L*a*b*表色系を計算し、求めたa*、b*値からCab*={(a*)2+(b*)21/2を計算した。
5)ヘーズ値: ヘーズメーター(「NDH2000」、日本電色工業株式会社製)を用いてヘーズ値を測定した。
6)干渉むらの有無: 三波長蛍光灯管の下でフィルムの外観を観察し、干渉むらがはっきりと見える場合を×、殆ど観察されない場合と〇として評価した。
7)着色抑制(黒のしまり): 10cm×10cmサイズのガラス板の片面にアクリル系粘着シートを使用して減反射フィルムを貼り合せ、もう片方の面に黒色フィルムを貼り合せたサンプルを作製した。このサンプルを、三波長蛍光灯管の下で観察し、裏面の黒色フィルムの黒色が、自然な黒色に見える場合を○、黒色が白茶けたり、減反射フィルムの着色がきつく、黒っぽく見えない場合を×として評価した。
〔製造例1−1、干渉層用塗液(IF−1)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート30質量部、テトラメチロールメタントリアクリレート20質量部、平均粒径0.05μmの酸化錫微粒子50質量部、光重合開始剤(製品名:「IRGACURE907」、チバスペシャルティケミカル製)2質量部を2−ブタノール1000質量部に溶解乃至分散して干渉層用塗液(IF−1)を調製した。硬化物の屈折率は1.58であった。
〔製造例1−2、ハードコート層用塗液(HC−1)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート70質量部、1,6−ビス(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン30質量部、光重合開始剤(商品名:「IRGACURE184」、チバスペシャルティケミカル製)4質量部、イソプロパノール100質量部を混合してハードコート層用塗液(HC−1)を調製した。硬化物の屈折率は1.52であった。
〔製造例1−3、ハードコート層用塗液(HC−2)の調整〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート50質量部、シリカゲル微粒子分散液(商品名:「XBA−ST」、日産化学株式会社製)50質量部、光重合開始剤(商品名:「IRGACURE184」、チバスペシャルティケミカル製)4質量部、イソプロパノール100質量部を混合してハードコート層用塗液(HC−2)を調製した。硬化物の屈折率は1.49であった。
〔製造例1−4、防眩性ハードコート層用塗液(AG−1)の調整〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート96質量部、平均粒径2μmの架橋ポリスチレン粒子(商品名:SX−200H、綜研化学株式会社製)を4質量部、光重合開始剤(商品名:「IRGACURE907」、チバスペシャルティケミカル製)4質量部、メチルエチルケトン/イソプロパノール=50/50の混合溶媒100質量部を混合した後、高速ディスパにて5000rpmで1とき間攪拌、分散した後、孔径30μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して、防眩性ハードコート層用塗液AG―1を調製した。硬化物の屈折率は1.51だった。
〔製造例1−5、高屈折率層用塗液(H−1)の調製〕
平均粒径0.07μmのITO微粒子10質量部、テトラメチロールメタントリアクリレート90質量部、光重合開始剤(商品名:「KAYACURE BMS」、日本化薬株式会社製)5質量部、ブチルアルコール900質量部を混合し高屈折率層用塗液(H−1)を調製した。H−2の重合硬化物の屈折率は1.54であった。
〔製造例1−6、高屈折率層用塗液(H−2)の調製〕
平均粒径0.07μmのITO微粒子70質量部、テトラメチロールメタントリアクリレート30質量部、光重合開始剤(商品名:「KAYACURE BMS」、日本化薬株式会社製)5質量部、ブチルアルコール900質量部を混合し高屈折率層用塗液(H−1)を調製した。H−2の重合硬化物の屈折率は1.64であった。
〔製造例1−7、低屈折率層用塗液(L−1)の調製〕
1,10−ジアクリロイルオキシ−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロデカン40質量部、中空シリカゾル(固形分濃度20質量%、平均粒径60nm、触媒化成工業株式会社製)120質量部、光重合開始剤(商品名:「KAYACURE BMS」、日本化薬株式会社製)5質量部を混合して、低屈折率層用塗液(L−1)を調製した。L−3の重合硬化物の屈折率は1.32であった。
〔製造例1−8、低屈折率層用塗液(L−2)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート30質量部、中空シリカゾル(固形分濃度20質量%、平均粒径60nm、触媒化成工業株式会社製)140質量部、光重合開始剤(商品名:「KAYACURE BMS」、日本化薬株式会社製)5質量部を混合して、低屈折率層用塗液(L−2)を調製した。L−2の重合硬化物の屈折率は1.35であった。
〔製造例1−9、低屈折率層用塗液(L−3)の調製〕
1,10−ジアクリロイルオキシ−2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9−ヘキサデカフルオロデカン80質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート5質量部、シリカゲル微粒子分散液(商品名:「XBA−ST」、日産化学株式会社製)60質量部、光重合開始剤(商品名:「KAYACURE BMS」、日本化薬株式会社製)5質量部を混合して低屈折率層用塗液(L−3)を調製した。L−3の重合硬化物の屈折率は1.40であった。
〔製造例1−10、低屈折率層用塗液(L−4)の調製〕
テトラメチロールメタントリアクリレート60質量部、シリカゲル微粒子分散液(商品名:「XBA−ST」、日産化学株式会社製)40質量部、光重合開始剤(商品名:「IRGACURE907」、チバスペシャルティケミカル製)4質量部、イソプロパノール100質量部を混合してハードコート層用塗液(HC−2)を調製した。硬化物の屈折率は1.48であった。
(実施例1)
厚みが100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:「A4300」、東洋紡績株式会社製)上に干渉層として、干渉層用塗液IF−1をスピンコーターにより、光学膜厚が145〜155nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化した。
【0060】
その上にハードコート層用塗液HC−1をバーコーターを用いて乾燥膜厚3μm程度になるように塗布し、400mJ/cm2の紫外線により硬化した。次に、スピンコーターを用いて、その上に低屈折率層塗液L−1を光学膜厚が105nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化し、減反射材を作製した。得られた減反射材の概略断面図を図1に示した。この図1に示すように、透明樹脂フィルム11の上に、干渉層12を介してハードコート層13が設けられ、ハードコート層13の表面には減反射層として低屈折率層14が設けられている。
【0061】
減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を評価した結果をそれぞれ図2及び表1に示した。図2において、反射率の振幅の差の最大値をXとして示す。
(実施例2)
低屈折率層塗液をL−2に変えた以外は実施例1と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表1に示した。
(実施例3)
低屈折率層塗液をL−3に変えた以外は実勢例1と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表1に示した。
(実施例4)
厚みが100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(商品名:「A4300」、東洋紡績株式会社製)上に干渉層として、干渉層用塗液IF−1をスピンコーターにより、光学膜厚が145〜155nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化した。
【0062】
その上にハードコート層用塗液HC−1をバーコーターを用いて乾燥膜厚3μm程度になるように塗布し、400mJ/cm2の紫外線により硬化した。次に、ハードコート層の上に、スピンコーターを用いて高屈折率層塗液H−1を光学膜厚が100nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化し、高屈折率層を形成した。更にその上に、スピンコーターを用いて、低屈折率層塗液L−1を光学膜厚が100nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化し、減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表1に示した。
(実施例5)
低屈折率層塗液をL−3に変えた以外は実勢例4と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表1に示した。
(実施例6)
厚みが80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(商品名:「KC8UY」、コニカミノルタオプト株式会社製)上に、ハードコート層塗液HC−2をバーコーターを用いて乾燥膜厚3μm程度になるように塗布し、400mJ/cm2の紫外線により硬化した。次に、スピンコーターを用いて、その上に低屈折率層塗液L−1を光学膜厚が105nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化し、減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ図3及び表1に示した。図3において、反射率の振幅の差の最大値をXとして示す。
(実施例7)
厚みが80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(商品名:「KC8UY」、コニカミノルタオプト株式会社製)上に、ハードコート層塗液HC−2をバーコーターを用いて乾燥膜厚3μm程度になるように塗布し、400mJ/cm2の紫外線により硬化した。次に、ハードコート層の上に、スピンコーターを用いて高屈折率層塗液H−1を光学膜厚が110nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化し、高屈折率層を形成した。更にその上に、スピンコーターを用いて、低屈折率層塗液L−2を光学膜厚が95nmになるように層の厚さを調整して塗布し、乾燥後、窒素雰囲気下で400mJ/cm2の紫外線により硬化し、減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表1に示した。
(実施例8)
透明樹脂フィルムを厚みが125μmのアクリル(AC)フィルム(商品名:「テクノロイS001」、住友化学株式会社製)に変更した以外は、実施例6と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表1に示した。
(比較例1)
干渉層を形成しない以外は実施例1と同様にして減反射材を作製し、分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ図4及び表2に示した。図4において、反射率の振幅の差の最大値をXとして示す。
(比較例2)
高屈折率層塗液をH−2に変えた以外は実施例5と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ図5及び表2に示した。図5において、反射率の振幅の差の最大値をXとして示す。
(比較例3)
低屈折率層塗液をL−4に変えた以外は実施例5と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表2に示した。
(比較例4)
高屈折率層塗液をH−2に変えた以外は実施例7と同様にして減反射材を作製した。得られた減反射材の分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表2に示した。
(比較例5)
厚みが80μmのトリアセチルセルロース(TAC)フィルム(商品名:「KC8UY」、コニカミノルタオプト株式会社製)上に、ハードコート層塗液AG−1をバーコーターを用いて乾燥膜厚3μm程度になるように塗布し、400mJ/cm2の紫外線により硬化し、防眩フィルムを作製した。得られた防眩フィルムの分光反射率、視感度反射率、波長500〜650nmでの反射率の振幅の差の最大値、abクロマCab、ヘーズ値、干渉むらの有無及び着色抑制を実施例1と同様にして測定、評価した。結果をそれぞれ表2に示した。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

以上の結果より、実施例1から5で作製した減反射材は、適切な屈折率の干渉層を形成することにより、また実施例6から8では、適切な屈折率のハードコート層を用いることにより、波長500から650nmの反射率の振幅の差の最大値は0.5%以下となっており、干渉むらを低減させることができた。また、いずれの実施例においても、視感度反射率Yは2%以下、abクロマCabは10以下、ヘーズ値は1%以下で、本発明における必要条件を全て満たしているため、優れた外観と低反射率を兼ね備えており、黒のしまり、色再現性共に申し分なかった。
【0065】
それに対して比較例1では、干渉層がないために、波長500から650nmでの反射率の振幅の差の最大値は1.0%を越えており、ハードコート層の干渉むらが激しく、減反射層表面に油が浮いたような模様がでてしまい、着色抑制(黒のしまり)、色再現性共に不良であった。比較例2、4では、abクロマCabの値が10を越えており、減反射層の赤紫の着色が激しく、着色抑制、色再現性が極度に低下していた。また、比較例3では、abクロマCabの値は小さく、減反射層の着色は少なかったが、視感度反射率が2.0%を越えており、減反射性能が悪いために、背景の映りこみが激しく、着色抑制、色再現性が悪かった。最後に比較例5は、防眩性があるために、ヘーズ値が1.0%を越えており、全体が白茶けて見えてしまい、着色抑制、色再現性共に悪かった。
(実施例9)
実施例1〜8で作製した減反射材の裏面(透明樹脂フィルム側)に、アクリル系粘着シートをハンドローラーを用いてそれぞれ均一に貼り合わせた。次いで粘着シートを介してプラズマディスプレイ表面に直接貼り合せ、ディスプレイ消灯ときの干渉むらの外観、及びディスプレイ点灯ときの色再現性を評価した。その結果、いずれのフィルムを使用した場合も、干渉むらは目立たず、また原色、及び白黒の再現性に優れていた。但し、干渉むらはディスプレイを3波長蛍光灯のもとで観察し、干渉むらの程度を評価した。また、色再現性は、ディスプレイにパソコンを接続し、画像ソフトを使用して、赤、青、緑、白、黒を次々に表示させ、それらの色がどれだけ自然に見えるかで評価した。
(比較例6)
比較例1から5で作製した減反射材を使用して、実施例9と同様にプラズマディスプレイに貼り合わせ、ディスプレイ消灯ときの干渉むらの外観及びディスプレイ点灯ときの色再現性を評価した。その結果、比較例1のフィルムを使用したものは、干渉むらがはっきりと観測され、外観の品位が著しく低下すると共に、干渉むら由来のハードコート層の赤と緑の着色がきつく、プラズマディスプレイの色再現性が悪かった。比較例2、4のフィルムを使用したものは、減反射層の赤紫の着色が激しく、その色が画像の色と混ざって表示されるため、色合いが自然でなかった。また比較例3のフィルムを使用した場合は、ディスプレイ表面への背景の映りこみが激しく、ディスプレイに表示される色合いが、自然に見えなかった。最後に比較例5を使用したフィルムでは、防眩性を付与しているため、ヘーズが高く、画面全体が白茶けて見え、黒のしまりや色再現性に乏しかった。
【0066】
尚、本実施形態は、次のように変更して実施することも可能である。
・ 透明樹脂フィルムの両面にハードコート層及び減反射層を設けることもできる。
・ 光の反射方向が異なる方向におけるヘイズ値の差を小さくして反射防止性能を向上させるように構成することもできる。
【0067】
・ 光の透過率を例えば90%以上にして明るさを確保することが好ましい。
更に、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 透明樹脂フィルムの屈折率が1.45〜1.55であり、ハードコート層の屈折率が(透明樹脂フィルムの屈折率)±0.03の範囲内で、かつ膜厚が1〜10μmであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の減反射材。この場合、光の干渉による干渉むらを効果的に低減させることができ、表面の着色が少なく、色再現性に優れている。
【0068】
・ 透明樹脂フィルムの屈折率が1.55〜1.70であり、その透明樹脂フィルムの片面に、透明樹脂フィルム側から、干渉層、ハードコート層及び少なくとも該ハードコートより屈折率が低い層を最外層に設け、ハードコート層の屈折率が1.45〜1.55で、かつ膜厚が1〜10μmであり、干渉層の屈折率が{(透明樹脂フィルムの屈折率)×(ハードコート層の屈折率)}1/2±0.03の範囲内でかつ光学膜厚が125〜165nmであり、更に各層の屈折率が透明樹脂フィルムの屈折率>干渉層の屈折率>ハードコート層の屈折率の関係にあることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の減反射材。この場合、光の干渉による干渉むらをより低減させることができ、表面の着色を抑え、色再現性を向上させることができる。
【0069】
・ 透明樹脂フィルムがトリアセチルセルロースフィルム又はアクリルフィルムであり、減反射層には低屈折率成分を含み、その主成分が中空酸化珪素系微粒子又は含フッ素有機化合物であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の減反射材。この場合、反射防止性能及び色再現性を向上させることができる。
【0070】
・ 透明樹脂フィルムがポリエチレンテレフタレートフィルムであり、減反射層には低屈折率成分を含み、その主成分が中空酸化珪素系微粒子又は含フッ素有機化合物で.あることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の減反射材。この場合、反射防止性能及び色再現性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】減反射材の構成を示す概略断面図。
【図2】実施例1における光の波長と反射率との関係を示すグラフ。
【図3】実施例6における光の波長と反射率との関係を示すグラフ。
【図4】比較例1における光の波長と反射率との関係を示すグラフ。
【図5】比較例2における光の波長と反射率との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0072】
11…透明樹脂フィルム、13…ハードコート層、14…減反射層としての低屈折率層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルム上にハードコート層を設け、そのハードコート層上に減反射層を設けると共に、光の波長500nmから650nmの領域における反射率の振幅の差の最大値が1%以下である減反射材において、
CIE標準イルミナントD65に対する視感度反射率Yが2%以下で、かつCIE標準イルミナントD65に対するabクロマCab*={(a*)2+(b*)21/2が10以下であることを特徴とする減反射材。
【請求項2】
JIS K 7136に規定されるヘーズ値が1%以下であることを特徴とする請求項1に記載の減反射材。
【請求項3】
減反射層は低屈折率層を含み、その低屈折率層の屈折率が1.28〜1.45であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の減反射材。
【請求項4】
減反射層は低屈折率層と高屈折率層とを含み、高屈折率層の屈折率とハードコート層との屈折率差が0.05以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の減反射材。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の減反射材を、ディスプレイの前面に設けたことを特徴とする電子画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−116754(P2006−116754A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−304990(P2004−304990)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000004341)日本油脂株式会社 (896)
【Fターム(参考)】