説明

減圧軽油の製造方法

【課題】石油精製プロセスにおける余剰留分を減圧軽油留分として回収するとともに、減圧軽油留分の収率を向上させる方法を提供する。
【解決手段】 15℃における密度(d)及びアスファルテン(Asp)がそれぞれ下記式(1)及び(2)を満たす原料油に対し、15℃における密度(d)及び芳香族分(Ar)がそれぞれ下記式(3)及び(4)を満たす炭化水素油を混合油全量基準で5容量%以上20容量%以下加えた混合油を減圧蒸留処理して減圧軽油を得ることを特徴とする減圧軽油の製造方法。
(1)0.96≦d≦1.00
(2)3≦Asp≦7
(3)0.95≦d≦1.10
(4)Ar≧40
(式中、dは原料油の15℃における密度(g/cm)、Aspは原料油のアスファルテン(質量%)、dは炭化水素油の15℃における密度(g/cm)、Arは炭化水素油の芳香族分(質量%)を示す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製プロセスにおける減圧軽油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
減圧蒸留プロセスは、原油を常圧蒸留装置で処理した際に残渣油として得られる常圧残油を原料とし、減圧下で蒸留することにより減圧軽油及び減圧残油を得るプロセスである。減圧蒸留プロセスより得られる減圧軽油及び減圧残油は重油基材として用いられるほか、減圧軽油は流動接触分解装置や水素化分解装置の原料油として用いられている。重油基材としては前記基材のほかに潤滑油生産プロセスの副生物であるエキストラクトなどが用いられることも知られている(特許文献1)。
しかし、近年、重油需要の大幅な減退に伴い、重油基材からガソリン基材や軽油基材を得る流動接触分解装置及び水素化分解装置の重要性が高まっている。流動接触分解装置及び水素化分解装置の原料油としては主に減圧軽油が用いられるため、減圧軽油の収率向上が重要な課題となっている。
また、重油需要の大幅な減退に伴い、従来重油基材として用いられていたエキストラクトが余剰となり、エキストラクトの有効利用法も課題となっている。
さらに、エチレン製造装置のボトム油であるHAR油は、臭気が強く、安定性が悪いため、従来はボイラー等で燃焼させる以外の使用方法がなかった。特に、所内にボイラー設備のない製油所においては、HAR油の処理ができず、エチレン製造装置の稼動に大きな制約を受けており、HAR油の新たな用途が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−19977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、石油精製プロセスにおける余剰留分を減圧軽油留分として回収するとともに、減圧軽油留分の収率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題について鋭意研究を重ねた結果、減圧蒸留装置にて、密度およびアスファルテンがそれぞれ特定の条件を満たす原料油に、密度および芳香族分がそれぞれ特定の条件を満たす炭化水素油を加えた混合油を処理することにより、減圧残油留分から減圧軽油留分をさらに抽出し、減圧軽油留分の収率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、15℃における密度(d)及びアスファルテン(Asp)がそれぞれ下記式(1)及び(2)を満たす原料油に対し、15℃における密度(d)及び芳香族分(Ar)がそれぞれ下記式(3)及び(4)を満たす炭化水素油を混合油全量基準で5容量%以上20容量%以下加えた混合油を減圧蒸留処理して減圧軽油を得ることを特徴とする減圧軽油の製造方法である。
(1)0.96≦d≦1.00
(2)3≦Asp≦7
(3)0.95≦d≦1.10
(4)Ar≧40
(式中、dは原料油の15℃における密度(g/cm)、Aspは原料油のアスファルテン(質量%)、dは炭化水素油の15℃における密度(g/cm)、Arは炭化水素油の芳香族分(質量%)を示す。)
【0007】
また、本発明は、前記原料油が、常圧残油、または常圧残油と減圧残油の混合物であることを特徴とする前記記載の減圧軽油の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、前記炭化水素油が、エキストラクト及び/またはHAR油であることを特徴とする前記記載の減圧軽油の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法により、常圧残油等の原料油のみを減圧蒸留処理する場合と比べて減圧軽油留分の収率を向上させることができ、かつ石油精製プロセスにおける余剰留分である炭化水素油を減圧軽油留分として回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0011】
本発明の減圧軽油の製造方法において、原料油の15℃における密度は0.96g/cm以上1.00g/cm以下であることが必要である。原料油の15℃における密度の下限は0.96g/cm以上であることが必要であり、0.965g/cm以上が好ましく、0.97g/cm以上がより好ましい。一方、上限は1.00g/cm以下であることが必要であり、0.995g/cm以下が好ましく、0.99g/cm以下がより好ましい。原料油の15℃における密度が0.96g/cmに満たない場合は炭化水素油による抽出効果が低下するおそれがあり、一方、原料油の15℃における密度が1.00g/cmを超える場合は、抽出された減圧軽油留分の分離効率が低下し、減圧軽油留分収率が向上しない可能性がある。
なお、本発明でいう15℃における密度は、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」に準拠して測定したものである。
【0012】
本発明の減圧軽油の製造方法において、原料油のアスファルテン(Asp)は3質量%以上7質量%以下であることが必要である。アスファルテンの下限は3質量%以上であることが必要であり、3.5質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましい。一方、アスファルテンの上限は7質量%以下であることが必要であり、6質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。原料油のアスファルテンが3質量%に満たない場合は炭化水素油による抽出効果が低下するおそれがあり、一方、原料油のアスファルテンが7質量%を超える場合は減圧残油のスラッジが増加する懸念がある。
なお、本発明でいうアスファルテンは、JPI−5S−22−83「アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる組成分析法」に準拠して測定したものである。
【0013】
本発明の減圧軽油の製造方法に係る原料油は、15℃における密度及びアスファルテンが上述の条件を満たす限りにおいては特に制限されないが、原油を常圧蒸留装置で処理して得られる塔底油(ボトム油)である常圧残油(常圧蒸留残油または常圧蒸留残渣油ともいう。)、減圧蒸留装置で減圧軽油を製造した後に残る塔底油である減圧残油(減圧蒸留残油または減圧蒸留残渣油ともいう。)、および常圧残油と減圧残油の混合物を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の減圧軽油の製造方法において、炭化水素油の15℃における密度は0.95g/cm以上1.10g/cm以下であることが必要である。炭化水素油の15℃における密度の下限は0.95g/cm以上であることが必要であり、0.96g/cm以上であることが好ましく、0.97g/cm以上であることがより好ましい。一方、上限は1.10g/cm以下であることが必要であり、1.08g/cm以下であることが好ましく、1.07g/cm以下であることがより好ましい。炭化水素油の15℃における密度が0.95g/cmに満たない場合、炭化水素油による抽出効果が低下するおそれがあり、一方、1.10g/cmを超える場合は炭化水素由来の減圧軽油留分が減少する可能性があり好ましくない。
なお、ここでいう15℃における密度は、上記原料油の密度と同様、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」に準拠して測定したものである。
【0015】
本発明の減圧軽油の製造方法において、炭化水素油の芳香族分は40質量%以上であることが必要であり、好ましくは41質量%以上、より好ましくは42質量%以上である。一方、上限は特に限定されるものではないが、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下がより好ましい。炭化水素油の芳香族分が40質量%に満たない場合、炭化水素油による抽出効果が低下するおそれがある。
なお、本発明でいう芳香族分は、JPI−5S−22−83「アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる組成分析法」に準拠して測定したものである。
【0016】
本発明の減圧軽油の製造方法に係る炭化水素油は、密度及び芳香族分が上述の条件を満たす限りにおいては特に制限されないが、炭化水素油による抽出効果の向上の観点から、レジンの上限は40質量%以下であることが好ましく、38質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
なお、本発明でいうレジンは、JPI−5S−22−83「アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる組成分析法」に準拠して測定したものである。
【0017】
本発明の減圧軽油の製造方法に係る炭化水素油としては、密度及び芳香族分が上述の条件を満たすもので限りにおいては特に制限されないが、エキストラクト、HAR油、CLO等から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、特にエキストラクトおよび/またはHAR油であることが好ましい。
エキストラクトは、潤滑油原料用の減圧蒸留装置から得られる留分を、溶剤抽出法により抽出分離したもののうち潤滑油に適さない芳香族成分を多く含む油のことである。
HAR油はHeavy Aromatic Residue油のことであり、ナフサ留分等の原料油を熱分解してエチレン、プロピレン等の化学品原料を製造するスチームクラッカーのボトム油(塔底油ともいう。)である。なお、スチームクラッカー(スチームクラッキング装置ともいう。)はエチレン製造装置であり、エチレンクラッカーあるいはエチレンクラッキング装置ともいう。HAR油はスチームクラッカーのボトム油そのものであっても、ボトム油を水素化処理して得られる水素化HAR油であってもよい。
CLOはクラリファイドオイルともいい、流動接触分解装置(FCC)において、原油の精製工程で得られる重質軽油、減圧軽油、脱アスファルト油、熱分解油、常圧残油などの高沸点留分を原料として固体酸触媒を用いて分解し、LPG、接触分解ガソリン、接触分解灯油、接触分解軽油などの軽質油に分留した後の残油として得られるものである。
【0018】
本発明の減圧軽油の製造方法において、前記原料油に対する炭化水素油の混合量は混合油全量基準で5容量%以上20容量%以下であることが必要である。炭化水素油の混合量の下限は5容量%以上であることが必要であり、6容量%以上が好ましく、7容量%以上がより好ましい。一方、混合量の上限は20容量%以下であることが必要であり、18容量%以下が好ましく、15容量%以下がより好ましく、12容量%以下がさらに好ましい。炭化水素油の混合量が5容量%に満たない場合、または炭化水素油の混合量が20容量%を超える場合は、炭化水素油による抽出効果が低下するおそれがあり好ましくない。
【0019】
本発明の減圧軽油の製造方法は、上述した所定の原料油と炭化水素油の混合油を石油精製プロセスにおける減圧蒸留装置にて減圧蒸留処理することにより目的とする減圧軽油を得るものである。
減圧蒸留処理は通常の条件下に行うことができ、具体的には、塔頂圧力5mmHg以上100mmHg以下の減圧下、加熱炉出口温度380〜440℃の条件下、減圧軽油と減圧残油のカットポイントが常圧換算で520〜600℃で混合油を減圧蒸留処理するものである。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜5および比較例1〜3)
中東系の原油を一般的な石油精製プロセスによって処理して得られた常圧残油、および常圧残油と減圧残油との混合物を原料油とし、炭化水素油として中東系の原油を処理する一般的な石油精製プロセスによって得られたエキストラクト、スチームクラッカーのボトム油として得られるHAR油、および重質接触分解ガソリンを原料油に表1に示す割合で混合し、それらの混合油を常法に従って減圧蒸留することで減圧軽油を得る実験を実施した。なお、表1中の常圧残油1及び減圧残油1は中東系軽質原油を処理して得られたものであり、常圧残油2は中東系重質原油を処理して得られたものである。
【0022】
表1に原料油と炭化水素油の性状、および原料油に対する炭化水素油の混合割合を示す。
ASTM D 1160に準拠した減圧蒸留装置を用い、得られる減圧軽油収率(常圧換算540℃以下の留分収率)を測定した。減圧軽油収率を表2に示す。
ここで、減圧軽油収率(炭化水素油込み)、減圧軽油収率(炭化水素油無し)、減圧軽油収率向上分(炭化水素油持込分の影響除き)はそれぞれ下記式(a)、(b)、(c)に示す通りに算出した。
(a)減圧軽油収率(炭化水素油込み)=炭化水素油混合時の減圧軽油留分量/炭化水素油混合時の減圧蒸留装置フィード量
(b)減圧軽油収率(炭化水素油無し)=炭化水素油非混合時の減圧軽油留分量/炭化水素油非混合時の減圧蒸留装置フィード量
(c)減圧軽油収率向上分(炭化水素油持込分の影響除き)=(炭化水素油混合時の減圧軽油留分量−炭化水素油由来の減圧軽油留分量)/(炭化水素油混合時の減圧蒸留装置フィード−炭化水素油の混合量)−減圧軽油収率(炭化水素油無し)
【0023】
(a)減圧軽油収率(炭化水素油込み)は、原料油に炭化水素油を加えたときの減圧軽油収率を表し、(b)減圧軽油収率(炭化水素油無し)は原料油に炭化水素油を加えなかったときの減圧軽油収率を表す。(a)減圧軽油収率(炭化水素油込み)は(b)減圧軽油収率(炭化水素油無し)に比べ一般に高い値を示す。これは、炭化水素油の減圧軽油留分への持込に起因する収率向上と、炭化水素油による減圧軽油留分の抽出効果に起因する収率向上によるものである。上記2つの収率向上要因のうち、炭化水素油による減圧軽油留分の抽出効果に起因する収率向上分のみを評価するためには、原料油に炭化水素油を加えたときの結果から、炭化水素油の減圧軽油留分の持込分を引く必要がある。そこで、(a)減圧軽油収率(炭化水素油込み)から炭化水素油由来の減圧軽油留分持込分を除き、(b)減圧軽油収率(炭化水素油無し)との差を計算したのが(c)減圧軽油収率向上分(炭化水素油持込分の影響除き)である。なお、炭化水素油は必ずしも100%減圧軽油留分に含まれるとは限らないため、(c)の計算では、炭化水素油由来の減圧軽油留分量を算出して計算に用いた。
【0024】
なお、表1に示す原料油及び炭化水素油の性状は、以下の方法に従って測定した。
原料油及び炭化水素油の15℃における密度(dおよびd)は、JIS K 2249「原油及び石油製品−密度試験方法」に準拠して測定した。
原料油のアスファルテン(Asp)は、JPI−5S−22−83「アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる組成分析法」に準拠して測定した。
炭化水素油の芳香族分及びレジンは、JPI−5S−22−83「アスファルトのカラムクロマトグラフィーによる組成分析法」に準拠して測定した。
【0025】
(結果)
表2の実施例1〜5に示すとおり、原料油、炭化水素油、及び炭化水素油の混合量を所定どおりに調整することによって、減圧軽油収率(炭化水素油込み)が向上するだけでなく、炭化水素油の抽出効果により、比較例1〜3の減圧軽油収率(炭化水素油込み・炭化水素油持込分の影響除き)と比較して、減圧軽油収率向上分(炭化水素油持込分の影響除き)も向上させることができる。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明の減圧軽油の製造方法は、減圧軽油留分の収率を向上させることができ、産業上きわめて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
15℃における密度(d)及びアスファルテン(Asp)がそれぞれ下記式(1)及び(2)を満たす原料油に対し、15℃における密度(d)及び芳香族分(Ar)がそれぞれ下記式(3)及び(4)を満たす炭化水素油を混合油全量基準で5容量%以上20容量%以下加えた混合油を減圧蒸留処理して減圧軽油を得ることを特徴とする減圧軽油の製造方法。
(1)0.96≦d≦1.00
(2)3≦Asp≦7
(3)0.95≦d≦1.10
(4)Ar≧40
(式中、dは原料油の15℃における密度(g/cm)、Aspは原料油のアスファルテン(質量%)、dは炭化水素油の15℃における密度(g/cm)、Arは炭化水素油の芳香族分(質量%)を示す。)
【請求項2】
前記原料油が、常圧残油、または常圧残油と減圧残油の混合物であることを特徴とする請求項1に記載の減圧軽油の製造方法。
【請求項3】
前記炭化水素油が、エキストラクト及び/またはHAR油であることを特徴とする請求項1または2に記載の減圧軽油の製造方法。

【公開番号】特開2012−92212(P2012−92212A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240320(P2010−240320)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】