説明

減圧鋳造装置

【課題】簡易な構成で、ラドルから溶湯がたれて閉塞部材のシール部分に接触することを防ぐことにより、シール部分の破損を防止できる減圧鋳造装置を提案する。
【解決手段】減圧鋳造装置30は、金型1に形成されたキャビティ4に連通された筒状の射出スリーブ2と、射出スリーブ2の外周面に半径方向外側に向けて形成されたフランジ部8と、射出スリーブ2内にキャビティ4に近接離間する方向へ摺動可能に挿入された短柱状の射出チップ3と、射出チップ3の射出動作時における移動方向へ移動することにより、射出スリーブ2の給湯口6及び開放側端部2aを取り囲んで減圧室11を形成可能に配設された閉塞部材10と、閉塞部材10とフランジ部8との間に配設されるシール部材14と、閉塞部材10における金型1側の上端部に配設されてフランジ部8との当接面よりも金型1側に延出する庇部材31とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減圧鋳造装置に関し、具体的には、金型のキャビティ内を減圧して鋳造を行う減圧鋳造における作業性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の減圧鋳造装置においては、溶湯保持炉からラドルで溶湯を汲み上げて射出スリーブの給湯口に給湯し、その後に閉塞部材をフランジ部に圧接して、前記射出スリーブの給湯口及び開放側端部の双方を取り囲んで減圧室を形成してから減圧鋳造を行う技術が知られており、これについて開示する文献も存在する(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、上記の構成では、ラドルから給湯口に給湯した後に閉塞部材で減圧室を形成する際に、ラドルから溶湯がたれて閉塞部材のシール部分に接触することがある。この場合、溶湯の熱によって、又は閉塞部材がフランジ部に圧接される際に固まった溶湯を挟み込むことによって、閉塞部材のシール部分が破損するという問題があった。
一方、給湯時間を長くしてラドルからの溶湯のたれを十分切ってから閉塞部材で減圧室を形成するように構成した場合は、減圧鋳造サイクルが延びるという問題があった。
【0004】
また、従来の減圧鋳造装置においては、ラドルから給湯口に給湯した後に、カバープレートを給湯口の上側にシリンダによりスライドさせて、ラドルからたれた溶湯を前記カバープレートにより受け止める技術が知られており、これについて開示する文献も存在する(例えば、特許文献2を参照)。
【0005】
しかし、上記の構成では、カバープレートをスライドさせるためのシリンダ等の駆動機構が必要となるため、設備コストが増加するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−93712号公報
【特許文献2】実開平6−83152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、簡易な構成で、ラドルから溶湯がたれて閉塞部材のシール部分に接触することを防ぐことにより、シール部分の破損を防止することが可能となる減圧鋳造装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
即ち、請求項1においては、キャビティが形成された金型と、前記キャビティと連通されてその一端が前記金型に接続されるとともに他端が開放され、その中途部に溶湯の給湯口が形成された筒状の射出スリーブと、前記射出スリーブの外周面における前記給湯口よりも前記金型側に、半径方向外側に向けて形成されたフランジ部と、前記射出スリーブ内を前記キャビティに近接離間する方向へ摺動可能に、前記射出スリーブ内に挿入された短柱状の射出チップと、その内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きく形成され、前記金型側の端面が開放されるとともに、前記金型とは反対側の端面が閉じて形成され、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動することにより、その開放側の端面が前記フランジ部に圧接されて、前記射出スリーブの給湯口及び開放側端部の双方を取り囲んで減圧室を形成可能に配設された閉塞部材と、前記閉塞部材と前記フランジ部との間に配設されるシール部材と、前記閉塞部材における前記金型側の上端部に配設されて、前記フランジ部との当接面よりも前記金型側に延出する庇部材と、前記キャビティ及び前記減圧室の双方に接続されてそれぞれを減圧可能に配設された減圧手段と、を備え、溶湯を前記給湯口から前記射出スリーブ内に供給し、前記閉塞部材で前記射出スリーブの給湯口及び開放側端部の双方を取り囲んで減圧室を形成し、かつ、前記減圧手段によって前記キャビティ及び前記減圧室を減圧した状態で、前記射出チップにより前記溶湯を押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより鋳造を行うものである。
【0010】
また、請求項2においては、前記庇部材は、前記閉塞部材の外周形状に沿う形状に形成されるものである。
【0011】
また、請求項3においては、前記庇部材は、前記閉塞部材の上端部において上下に揺動可能に配設され、前記閉塞部材により減圧室を形成する際には上方に移動するように構成されるものである。
【0012】
また、請求項4においては、前記フランジ部の上端部には、前記閉塞部材により減圧室を形成する際に前記庇部材を上方に移動させるガイド部材が配設されるものである。
【0013】
また、請求項5においては、前記庇部材の先端部にはローラが配設されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明においては、減圧鋳造装置において、簡易な構成で、ラドルから溶湯がたれて閉塞部材のシール部分に接触することを防ぐことにより、シール部分の破損を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第一実施形態に係る減圧鋳造装置における給湯時の状態を示す概略断面図。
【図2】同じく減圧鋳造装置における閉塞部材を示した図。
【図3】同じく減圧鋳造装置における給湯終了時の状態を示す概略断面図。
【図4】同じく減圧鋳造装置における閉塞直前時の状態を示す概略断面図。
【図5】同じく減圧鋳造装置における閉塞時の状態を示す概略断面図。
【図6】第二実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材の周辺部を示す拡大図。
【図7】第三実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材を示した図。
【図8】第四実施形態に係る減圧鋳造装置における閉塞部材を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなく、本明細書及び図面に記載した事項から明らかになる本発明が真に意図する技術的思想の範囲全体に、広く及ぶものである。
【0018】
[減圧鋳造装置30の構成]
まず、本発明の第一実施形態に係る減圧鋳造装置30の概要について、図1を用いて説明する。本明細書では便宜上、図1における右側を減圧鋳造装置30の右側方、左側を同じく左側方として説明する。
図1に示す如く、減圧鋳造装置30における金型1にはキャビティ4が形成されている。また、金型1には、その一端が金型1に収容されることにより接続されて、キャビティ4と連通されるとともに、他端が開放側端部2aとして開放された、略円筒形状の射出スリーブ2が左側方に突出して付設されている。そして、該射出スリーブ2内には、短円柱状の射出チップ3がキャビティ4に近接離間する方向へ摺動可能に挿入されている。射出チップ3の他端部(図1における左端部)には、左方へ延出する支持軸9が固設されている。
そして、射出チップ3を右側方(キャビティ4に近接する方向)に摺動させることにより、射出スリーブ2内に供給された溶湯5を押し出して、金型1に設けたキャビティ4内に射出する構造としている。
【0019】
前記射出スリーブ2の軸方向(図1における左右方向)の途中部上面には、給湯口6が設けられており、この給湯口6を介して、溶湯5がラドル7から射出スリーブ2内に供給されるようになっている。なお、本明細書においては、ラドル7を支持して駆動させるアームや溶湯5を貯溜しておく溶湯保持炉は図示を省略している。
【0020】
さらに、前記射出スリーブ2の外周面における、給湯口6よりも金型1の側には、金型1に隣接して半径方向外側に向けて突出するフランジ部8が形成されている。つまり、このフランジ部8は、前記給湯口6が配置される位置よりも右側方、即ち射出チップ3が溶湯5を射出する際に移動する方向の側に配設されているのである。このフランジ部8は、射出スリーブ2の周方向において全周にわたって形成されており、射出チップ3によって射出スリーブ2内の溶湯5を押し出してキャビティ4内に射出する際の射出動作時における、該射出チップ3の進行方向(図1における右側方)と、略直交する平面を形成するように構成される。
【0021】
前記射出チップ3の支持軸9と同軸上には、減圧室11(チャンバ、図5を参照)を形成するための閉塞部材10が設けられる。
この閉塞部材10は、前記射出チップ3の射出動作時における移動方向側(金型1の側)の端面10aが開放される略円筒状の部材である。また、もう一方の、即ち前記射出チップの射出動作時における移動方向とは反対側の端面10dは閉じており、閉じた端面10dに形成される貫通孔10cには、射出チップ3の支持軸9が摺動自在に挿通される。
また、筒状に構成される閉塞部材10の内径寸は、前記射出スリーブ2の外径寸よりも大きく構成されている。そして、閉塞部材10を、射出スリーブ2に対して前記射出チップ3の射出時における移動方向と同じ方向へ移動させることで、前記閉塞部材10の内部空間に前記射出スリーブ2の開放側端部2aが挿入されるようになっている(図4及び図5を参照)。
【0022】
前記支持軸9は、エアシリンダや油圧シリンダ等からなる図示せぬアクチュエータによって射出スリーブ2の軸方向へ進退するように制御されており、これにより、先端に設けられた射出チップ3が射出スリーブ2内にて進退する構造となっている。
【0023】
前記閉塞部材10の閉じた端面10dに設けた貫通孔10cには、前記支持軸9が摺動自在に貫装され、また、前記貫通孔10cには、該貫通孔10cと支持軸9との間の隙間をシールするため、Oリング等から構成されるシール部材12が設けられている。
【0024】
図3から図5に示す如く、前記閉塞部材10は、エアシリンダや油圧シリンダ等からなるアクチュエータ13によって、射出チップ3(支持軸9)と同軸上の位置を保ったまま移動するように構成されており、閉塞部材10を金型1に近接する方向(射出チップ3の射出動作時における移動方向)へ移動することにより、前記閉塞部材10の端面10aが前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接することとなる。
【0025】
そして、前記閉塞部材10のアクチュエータ13による移動が行われ、前記閉塞部材10の前記端面10aに設けたフランジ部10bを前記射出スリーブ2のフランジ部8に圧接した状態では、前記射出スリーブ2の給湯口6及び開放側端部2aの双方を取り囲む減圧室11が形成されるようになっている。
このアクチュエータ13は、後述するように、射出チップ3(支持軸9)とは独立して駆動されるようになっており、これにより、前記閉塞部材10と射出チップ3が独立して動作するようになっている。
【0026】
さらに、前記閉塞部材10のフランジ部10bにおいて、前記射出スリーブ2に立設されるフランジ部8と対向する側の面には、Oリング等から構成されるシール部材14が設けられている。図2に示す如く、このシール部材14によって、両フランジ部8・10bが圧接される状態において、両者間がシールされるようにしている。
なお、射出スリーブ2に立設されるフランジ部8にシール部材14を設ける構成としてもよく、閉塞部材10のフランジ部10bとフランジ部8との間にシール部材14が配設されていればよい。
【0027】
そして、このようなフランジ部8・10bの構成により、閉塞部材10の射出動作時における移動方向のストッパー、及び、減圧室11のシール、といった二つの機能が実現可能となる。つまり、フランジ部8が、閉塞部材10の金型1に近接する方向への移動に対するストッパーとしての機能を有し、シール部材14が、閉塞部材10のフランジ部10bとフランジ部8との圧接部をシールして減圧室11を密閉する機能を有している。
また、閉塞部材10は、閉塞部材10と射出スリーブ2との間に所定の間隔を有しながら射出スリーブ2の外側を移動し、閉塞部材10が射出スリーブ2に摺接することはないため、射出スリーブ2と閉塞部材10の間においては潤滑油が必要とされることはない。
【0028】
前記フランジ部8・10bで構成されるシール部(本実施例ではシール部材14)は、射出スリーブ2の外側に配置されることから、溶湯5の熱によってフランジ部8・10bが変形することなく、確実なシール性能を確保できることとなる。
即ち、射出スリーブ2の金型1と反対側の開放側端部2aを閉塞部材10で取り囲み、減圧室11を閉塞部材10の内部に形成する構成としているため、射出スリーブ2の熱による変形、膨張が発生し、射出チップ3と射出スリーブ2との間の隙間が変化しても、シール部材14によるシール性能を保持することが可能となるのである。
【0029】
また、前記閉塞部材10は、給湯口6に触れることなく、減圧室11を形成することができる。これにより、給湯口6に付着し得るこぼれ湯等で減圧室11のシール性能が損なわれるといった不具合が発生しない。また、目標とされる減圧度を確実に確保することが可能となり、さらに、シール性能に関連するメンテナンスフリーを実現することが可能となる。
【0030】
前記の如く、本実施形態においては閉塞部材10、射出スリーブ2、射出チップ3、及び、射出チップ3の支持軸9は、同軸上に配置される構成とすることにより、減圧鋳造装置30の小型化が図れるようになっている。
【0031】
さらに、本実施形態に係る減圧鋳造装置30においては、閉塞部材10における金型1の側である右側の上端部には、閉塞部材10のフランジ部10bとの当接面(詳細には、シール部材14の右側端面)よりも金型1の側に延出する平板状の庇部材31が配設されている。
【0032】
具体的には、図1及び図1中のA−A線矢視図である図2に示す如く、フランジ部10bの上端部に、回動軸であるヒンジ31aを介して庇部材31が回動可能に配設されているのである。即ち庇部材31は、図2中の矢印αに示す如く、閉塞部材10の上端部において、ヒンジ31aを回動軸として上下に揺動可能に配設され、閉塞部材10により減圧室11を形成する際には図4及び図5に示す如く上方に移動するように構成されている。
【0033】
加えてフランジ部8の上端部には、閉塞部材10により減圧室11を形成する際に庇部材31を上方に移動させるガイド部材41が配設されている。具体的には、ガイド部材41には金型1の側から閉塞部材10の側に向かって(右側方から左側方に向かって)滑らかに下降するように傾斜した傾斜面が、右下方に凹んだ形状に形成されている。そして、アクチュエータ13によって閉塞部材10が右側方へ移動した際に、庇部材31の右端部がガイド部材41の傾斜面に当接し、この傾斜面の上をスライドすることにより、閉塞部材10により減圧室11を形成する際に庇部材31が上方に移動するのである。
【0034】
また、図1に示す如く、前記閉塞部材10には、その内部の空間で形成されることになる減圧室11内の空気を吸引するための吸引口15が設けられている。
なお、この吸引口15は、前記射出スリーブ2のフランジ部8の側(金型1の側)に設けることとし、前記閉塞部材10で閉塞状態とした際に、フランジ部8に設けた吸引口より吸引を行うこととしてもよく、この構成によれば、後述する減圧手段に繋がる吸気配管を固定できることになる。
【0035】
また、前記金型1には、前記キャビティ4内に通じ、キャビティ4内の空気を吸引するための吸引口16が設けられている。また、キャビティ4と前記吸引口16を結ぶ経路には、シャットバルブ17が設けられている。
【0036】
前記吸引口15及び吸引口16は、減圧手段(本実施例では減圧タンク18及び真空ポンプ19)に接続される。減圧タンク18と、吸引口15及び吸引口16との接続経路上には該接続経路を開閉する開閉バルブ20が設けられている。つまり、減圧手段はキャビティ4及び減圧室11の双方に接続されてそれぞれを減圧可能に配設されているのである。
そして、その接続経路上の開閉バルブ20を開くことによって、前記減圧室11、及び、キャビティ4の減圧が開始されるようになっている。
なお、減圧タンク18はバッファとして機能させるものである。
【0037】
図1に示す構成においては、ラドル7、射出チップ3、閉塞部材10(アクチュエータ13)、シャットバルブ17、開閉バルブ20、真空ポンプ19は、連動するように制御される構成とすることが望ましい。
例えば、前記アクチュエータ13については、給湯完了後のラドル7が後退した後(ラドル7が給湯口6から離れた後)、かつ射出チップ3が射出動作を開始する前に、閉塞部材10を前進させる(キャビティ4側へ近接する方向へ移動させる)ことにより、それぞれをフランジ部8及び開放側端部2aに圧接させて減圧室11を形成させる。また、形成された減圧室11内を減圧して射出チップ3による射出動作を行った後の射出完了後においては、射出チップ3が後退する(キャビティ4側から離間する方向へ移動する)前に、閉塞部材10を後退する動作を行うこととする、といった動作制御が考えられる。
なお、各装置を動作させる具体的な機構については、特に限定されるものではない。
【0038】
[減圧鋳造プロセス]
次に、本実施形態に係る減圧鋳造装置30による減圧鋳造プロセスについて説明する。
本実施形態に係る減圧鋳造プロセスは、減圧室形成工程と、減圧工程と、射出工程と、開放工程と、射出戻り工程と、を備える。以下、具体的に説明する。なお、以下に示す減圧工程、射出工程、開放工程、及び射出戻り工程については、従来技術と同様であるため、図面による説明を省略する。
【0039】
減圧室形成工程の前に、図1に示す如くラドル7にて溶湯5を給湯口6から射出スリーブ2の内部に供給する。この際、閉塞部材10は、アクチュエータ13によって射出スリーブ2から遠くなる側に引き離された状態にある。つまり、閉塞部材10は、その端面10aが射出スリーブ2の開放側端部2aよりも左側に位置している状態(射出スリーブ2の開放側端部2aより離間した位置)にある。
また、射出チップ3の射出方向側先端部は、給湯口6よりも手前(射出方向と反対側)の位置に配置されるようにして、前記給湯口6が完全に開放した状態とする。また、開閉バルブ20は閉じた状態とし、減圧は行わない状態とする。
【0040】
前記ラドル7による溶湯5の供給が終了した後、減圧室形成工程では、前記アクチュエータ13によって、図3から図5に示す如く射出チップ3の射出動作時における移動方向(右側方)への閉塞部材10の移動を開始する。この際、庇部材31も閉塞部材10の移動に伴って右側方へと移動する。そして、庇部材31の右端部がガイド部材41の傾斜面に当接すると、前記の如く庇部材31は傾斜面の上をスライドして上方に移動するのである。その後、閉塞部材10で射出スリーブ2の給湯口6及び開放側端部2aの双方を閉塞部材10およびフランジ部8により取り囲んで減圧室11を形成する。
【0041】
つまり、減圧室形成工程では、溶湯5を供給した後、前記閉塞部材10を右側方へ移動させ、その後、フランジ部10bを射出スリーブ2に設けたフランジ部8に圧接する。これにより、給湯口6と、射出スリーブ2における前記金型1と反対側の開放側端部2aと、を取り囲む減圧室11を構成するのである。
【0042】
このようにラドル7から給湯口6に給湯した後に閉塞部材で減圧室を形成する際に、図3に示す如くラドル7から溶湯5aがたれた場合でも、庇部材31で溶湯5aを受けることができる。つまり、ラドル7からたれた溶湯5aが閉塞部材10に配設されたシール部材14に接触することを防止できるのである。このため、閉塞部材10のシール部材14を破損することがないのである。
これにより、給湯時間を長くしてラドル7からの溶湯5aのたれを十分切ってから閉塞部材10で減圧室11を形成する構成としなくても良いため、減圧鋳造サイクルが延びることがないのである。
【0043】
また、本実施形態によれば、庇部材31を閉塞部材10に配設することにより、閉塞部材10の駆動機構によって庇部材31が移動する構成としている。つまり、庇部材31を駆動するための機構を別途設ける必要がないため、設備コストが増加することがないのである。また、庇部材31を閉塞部材10と同時に移動させることにより、別途工程が発生せず、減圧鋳造サイクルが延びることがないのである。
【0044】
上記の如く、本実施形態に係る減圧鋳造装置30によれば、簡易な構成で、ラドル7から溶湯5aがたれて閉塞部材10のシール部分であるシール部材14に接触することを防ぐことができ、シール部材14の破損を防止することが可能となるのである。
【0045】
また、本実施形態によれば庇部材31は閉塞部材10の上端部において上下に揺動可能に配設され、閉塞部材10により減圧室11を形成する際には上方に移動するように構成されている。これにより、庇部材31の金型1の側への延出方向の長さ(図1における左右方向の長さ)を確保することができる。つまり、庇部材31が金型1に近接した時に庇部材31を上側に回動させて庇部材31が金型1と干渉しないように構成できるため、庇部材31を左右方向に長くしても差し支えないのである。なお、庇部材31を短く形成して、閉塞部材10の上端部に固定する構成とすることも可能である。
【0046】
さらに、フランジ部8の上端部には、閉塞部材10により減圧室11を形成する際に庇部材31を上方に移動させるガイド部材41が配設さている。これにより、簡易な構成で、閉塞部材10が金型1に近接して減圧室11を形成する際に、庇部材31をガイド部材41に当接させながらスライドさせて上方に移動するように構成できるのである。なお、他の方法によって庇部材31を上方に移動させる構成としても差し支えない。
【0047】
続いて、減圧室形成工程の後の減圧工程では、減圧手段である減圧タンク18及び真空ポンプ19によってキャビティ4及び減圧室11を減圧する。
具体的には、減圧室11が形成されて溶湯5が沈静した後に開閉バルブ20を開くことにより、減圧タンク18及び真空ポンプ19によるキャビティ4及び減圧室11内の空気の吸引し、減圧を開始するのである。なお、減圧の開始前においては、前記ラドル7による給湯によって揺れている溶湯5を沈静させるため、しばらく時間を置くことが望ましい(例えば、数秒程度)。
【0048】
減圧工程の後の射出工程では、前記射出チップ3により前記溶湯5を押し出して前記キャビティ4内へ射出する射出動作を行うことにより鋳造を行う。具体的には、図示せぬアクチュエータを駆動させて行う射出チップ3の射出動作により、溶湯5を所定の減圧度が確保されたキャビティ4内へと射出するのである。
【0049】
射出工程の後の開放工程では、まず、開閉バルブ20を閉じることにより、減圧タンク18及び真空ポンプ19によるキャビティ4及び減圧室11内の空気の吸引を停止し、減圧状態を解除する。その後、閉塞部材10を、減圧室形成工程前における位置に移動させる。具体的には、アクチュエータ13によって、射出チップ3の射出動作時における移動方向とは反対の方向(左側方)へ閉塞部材10を移動させる。そして、閉塞部材10の端面10aを、射出スリーブ2の開放側端部2aよりも左側に移動させ、射出スリーブ2を閉塞部材10から完全に抜き出すのである。
【0050】
この状態では、閉塞部材10により射出スリーブ2の給湯口6及び開放側端部2aの双方を取り囲んで減圧室11が形成された状態が解除される。この際、庇部材31も閉塞部材10の移動に伴って左側方へと移動する。そして、庇部材31の右端部は傾斜面の上を自重によりスライドして下方に移動し、図1に示す状態に戻るのである。なお、ヒンジ31aにおいてねじりばね等の付勢部材を配設することにより、庇部材31を下方に付勢する構成とすることも可能である。
【0051】
[第二実施形態]
次に、図6を用いて、第二実施形態に係る減圧鋳造装置について説明する。なお以下の実施形態において説明する減圧鋳造装置において、既出の実施形態と共通する部分については、同符号を付してその説明を省略する。
【0052】
本実施形態に係る減圧鋳造装置においては、図6に示す如く、庇部材131の先端部にはローラ131bが配設されている。そして、閉塞部材10が右側方へ移動した際に、庇部材131の右端部のローラ131bがガイド部材41の傾斜面に当接し、この傾斜面の上で回転する。これにより、閉塞部材10により減圧室11を形成する際に庇部材31がヒンジ131aを回動軸として揺動し、上方に移動するのである。
【0053】
上記の如く、本実施形態においては、庇部材131の先端部にローラ131bを配設することにより、庇部材131の先端部であるローラ131bがガイド部材41の傾斜面で回転し、庇部材131が円滑に上方に移動するように構成しているのである。なお、庇部材131の先端部を丸く形成することも可能である。
【0054】
[第三・第四実施形態]
次に、図7及び図8を用いて、それぞれ第三実施形態及び第四実施形態に係る減圧鋳造装置について説明する。
第三実施形態に係る減圧鋳造装置においては、図7に示す如く、庇部材231が閉塞部材10の外周形状に沿う形状に形成されている。具体的には、庇部材231の前後端部(図1における紙面に垂直な方向の端部)は、傾斜部231a・231bとして斜めに形成されている。そして、この傾斜部231a・231bが閉塞部材10のフランジ部10bの外周形状に沿う形状に形成されているのである。
【0055】
本実施形態においては庇部材231を上記の如く構成することにより、図7に示す如くラドル7が溶湯5を汲み上げるために閉塞部材10に対して前後方向に退避した位置で、ラドル7から溶湯5aがたれた場合でも、庇部材231で溶湯5aを受けることができる。さらに、庇部材231の傾斜部231a・231bをフランジ部10bに沿うように近づけることにより、閉塞部材10が右側方に移動する際に、庇部材231とフランジ部10bとの間に溶湯5aが入り込みにくくしているのである。これにより、溶湯5aをシール部材14に接触しにくくし、閉塞部材10のシール部材14を破損する可能性を低減させているのである。
【0056】
なお、本実施形態においては庇部材231の前後端部を傾斜部231a・231bとして形成しているが、ラドル7が溶湯5を汲み上げるために閉塞部材10に対して退避する方向が前方向又は後方向のいずれかに限定されている場合は、その方向の端部にのみ傾斜部を設ける構成とすることも可能である。たとえば、ラドル7の退避方向が図7に示す如く閉塞部材10に対して前側であれば、庇部材231の前端部に傾斜部231aのみを形成する構成としても差し支えない。即ち、庇部材231のうち、少なくともラドル7の退避方向が閉塞部材10の外周形状に沿う形状に形成すればよい。
【0057】
第四実施形態に係る減圧鋳造装置においては、図8に示す如く、庇部材331の下面形状が閉塞部材10のフランジ部10bの外周形状に沿う部分円周形状に形成されている。これにより、前記第三実施形態と同様に、閉塞部材10が右側方に移動する際に、庇部材331とフランジ部10bとの間に溶湯5aが入り込みにくくすると同時に、溶湯5aをシール部材14に接触しにくくしているのである。
【符号の説明】
【0058】
1 金型
2 射出スリーブ
2a 開放側端部
3 射出チップ
4 キャビティ
6 給湯口
7 ラドル
10 閉塞部材
11 減圧室
18 減圧タンク
19 真空ポンプ
20 開閉バルブ
30 減圧鋳造装置
31 庇部材
41 ガイド部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティが形成された金型と、
前記キャビティと連通されてその一端が前記金型に接続されるとともに他端が開放され、その中途部に溶湯の給湯口が形成された筒状の射出スリーブと、
前記射出スリーブの外周面における前記給湯口よりも前記金型側に、半径方向外側に向けて形成されたフランジ部と、
前記射出スリーブ内を前記キャビティに近接離間する方向へ摺動可能に、前記射出スリーブ内に挿入された短柱状の射出チップと、
その内寸が前記射出スリーブの外寸よりも大きく形成され、前記金型側の端面が開放されるとともに、前記金型とは反対側の端面が閉じて形成され、前記射出チップの射出動作時における移動方向へ移動することにより、その開放側の端面が前記フランジ部に圧接されて、前記射出スリーブの給湯口及び開放側端部の双方を取り囲んで減圧室を形成可能に配設された閉塞部材と、
前記閉塞部材と前記フランジ部との間に配設されるシール部材と、
前記閉塞部材における前記金型側の上端部に配設されて、前記フランジ部との当接面よりも前記金型側に延出する庇部材と、
前記キャビティ及び前記減圧室の双方に接続されてそれぞれを減圧可能に配設された減圧手段と、を備え、
溶湯を前記給湯口から前記射出スリーブ内に供給し、前記閉塞部材で前記射出スリーブの給湯口及び開放側端部の双方を取り囲んで減圧室を形成し、かつ、前記減圧手段によって前記キャビティ及び前記減圧室を減圧した状態で、前記射出チップにより前記溶湯を押し出して前記キャビティ内へ射出する射出動作を行うことにより鋳造を行う、
ことを特徴とする、減圧鋳造装置。
【請求項2】
前記庇部材は、前記閉塞部材の外周形状に沿う形状に形成される、
ことを特徴とする、請求項1に記載の減圧鋳造装置。
【請求項3】
前記庇部材は、前記閉塞部材の上端部において上下に揺動可能に配設され、前記閉塞部材により減圧室を形成する際には上方に移動するように構成される、
ことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の減圧鋳造装置。
【請求項4】
前記フランジ部の上端部には、前記閉塞部材により減圧室を形成する際に前記庇部材を上方に移動させるガイド部材が配設される、
ことを特徴とする、請求項3に記載の減圧鋳造装置。
【請求項5】
前記庇部材の先端部にはローラが配設される、
ことを特徴とする、請求項4に記載の減圧鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−59798(P2013−59798A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201001(P2011−201001)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)