説明

減圧雰囲気下温度管理材及び減圧雰囲気下温度管理方法

【課題】感温変色層の変色温度を大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下とで可及的に小さくできる減圧雰囲気下温度管理材を提供する。
【解決手段】減圧雰囲気下温度管理材は、減圧雰囲気下で検知する加熱温度に対応する溶融温度で溶融する粒状又は粉末状の熱溶融性物質22を含有し、その熱溶融に応じて変色する感温変色層12が配設され、熱溶融性物質22が、感温変色層12内での大気圧雰囲気下と前記減圧雰囲気下とでの溶融温度の差を、最大でも5℃とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は減圧雰囲気で加熱されたとき、検知すべき加熱温度で変色する感温変色層が配設された減圧雰囲気下温度管理材及び減圧雰囲気下温度管理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
精密電子機器や加工食品や医薬品など高温を忌避すべき製品の製造途中やその製品の保管・輸送途中で所定の温度を超えた温度履歴を経ていないことを、厳密に管理しなければならない。例えば通常、大気圧雰囲気で加熱処理される被加熱対象物であるこれら製品に付して使用され、検知温度に融点を有する粒状又は粉末状の熱溶融性物質が含有されており、この熱溶融性物質が溶融することによって変色する感温変色層を具備する温度管理材としては、例えば下記特許文献1及び特許文献2に記載されている。また、下記特許文献3には、設定温度で融解して透明化するワックス等の固体状の化学物質の粉末とバインダーとを混合した常温では白濁状態の不透明物質を、所望パターンでスクリーン印刷した半導体ウェーハを、真空チャンバー内に挿入して減圧下で加熱処理し、真空チャンバー内での半導体ウェーハの加熱分布を測定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−172661号公報
【特許文献2】特開2006−29945号公報
【特許文献3】特開2007−57337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者等の検討によれば、概して熱溶融性物質の熱溶融によって変色する温度管理材を、減圧雰囲気下で加熱処理する被加熱対象物に付して加熱処理を施したところ、感温変色層の変色温度が大気圧雰囲気下での変色温度と減圧雰囲気下での変色温度とが大幅に異なるものが多数存在することが判明した。この様に、感温変色層の変色温度が大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下とで大幅に異なる温度管理材では、その使用される雰囲気圧によって変色温度を管理しなければならず、管理が煩雑となる。そこで、本発明は、かかる課題を解決するためになされたもので、感温変色層の変色温度が大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下とで可及的に小さくできる減圧雰囲気下温度管理材及び減圧雰囲気下温度管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、減圧雰囲気下で検知する加熱温度に対応する溶融温度で溶融する粒状又は粉末状の熱溶融性物質を含有し、その熱溶融に応じて変色する感温変色層が配設され、前記熱溶融性物質が、前記感温変色層内での大気圧雰囲気下と前記減圧雰囲気下とでの溶融温度の差を最大でも5℃とするものであることを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、請求項1に記載されたものであって、前記熱溶融性物質が、前記感温変色層内での大気圧雰囲気下と1000Paの減圧雰囲気下と0.1Paの減圧雰囲気下での溶融温度の差を最大でも2℃とするものであることを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、請求項1に記載されたものであって、前記感温変色層が、前記粒状又は粉末状の熱溶融性物質を含有する熱溶融性物質層と前記熱溶融性物質層が一面側に形成された基材とから構成され、前記熱溶融性物質の熱溶融に応じて、前記熱溶融性物質層が透明化し、前記基材の表面が視認できることによって、及び/又は前記粒状又は粉末状の熱溶融性物質と共存する色素を溶解することによって、前記感温変色層が変色することを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、請求項1に記載されたものであって、前記熱溶融性物質が、融点の異なる少なくとも二種の熱溶融性物質が混合された共融混合物であることを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、請求項4に記載されたものであって、前記共融混合物が、融点の異なる少なくとも二種の熱溶融性物質から成り、最も低融点の熱溶融性物質が50〜90重量部配合されていると共に、最も高融点の熱溶融性物質が50〜10重量部配合されていることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、請求項1に記載されたものであって、前記熱溶融性物質が、少なくとも炭素数が3の脂肪族類又はベンゾフェノン化合物であることを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載された減圧雰囲気下温度管理材は、請求項6に記載されたものであって、前記脂肪族類が、脂肪酸化合物、脂肪酸アミド化合物、及び脂肪酸ジヒドラジド化合物から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする。
【0012】
請求項8に記載された減圧雰囲気下温度管理方法は、減圧雰囲気下で被加熱対象物を加熱する際に、請求項1に記載の温度管理材と共に前記被加熱対象物を加熱し、前記温度管理材の感温変色層の変色によって、前記被加熱対象物の加熱温度が検知温度に到達した履歴を経たことを管理することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材は、その変色温度層に含有する粒状又は粉末状の熱溶融性物質が、感温変色層内での大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下とでの溶融温度の差を最大でも5℃とするものである。このため、変色温度層の変色温度が変色する温度は、大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下とで略一致させることができる。従って、本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材を用いた減圧雰囲気下温度管理方法によれば、変色温度の管理は、大気圧雰囲気下での変色温度で管理できる。また、本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材は、感温変色層の変色温度が減圧雰囲気の圧力に変動があっても略一定温度で変色する。その結果、本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材を用いた減圧雰囲気下温度管理方法によれば、使用する減圧雰囲気の圧力に応じて変色温度を校正することなく用いることができ、減圧雰囲気下温度管理材の変温温度の管理を簡便化できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材の一例を説明するための正面図及び模式縦断面図である。
【図2】図1に示す減圧雰囲気下温度管理材の感温変色層が変色した状態を示す正面図である。
【図3】本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材の他の例を説明するための正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0016】
本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材の一例を図1に示す。図1(a)は減圧雰囲気下温度管理材10の正面図及び図1(b)はその縦断面図と部分拡大図を示す。図1(a)に示す減圧雰囲気下温度管理材10には、その中央部に感温変色層12が設けられている。かかる感温変色層12は、図1(b)に示す部分拡大図に示す様に、基材として所定の色彩が印刷された印刷基材12aと、印刷基材12aの一面側に、粒状又は粉状の熱溶融性物質22,22・・が樹脂によって固着された熱溶融性物質層12bとによって形成されている。この印刷基材12aは、溶融状態の熱溶融性物質22,22・・を吸収しない非吸収性のものである。また、感温変色層12の印刷基材12a側は、層状の粘着材16によってラベル基材18の一面側に貼着されている。更に、感温変色層12の熱溶融性物質層12b側は、透明な保護基材14に当接している。この保護基材14も粘着材16によってラベル基材18の一面側に粘着されている。なお、ラベル基材18の他面側には、剥離材24が粘着材20によって剥離可能に粘着されている。
【0017】
図1に示す減圧雰囲気下温度管理材10において、粒状又は粉状の熱溶融性物質22,22・・としては、感温変色層12内での大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下とでの溶融温度の差を最大でも5℃とするものを用いている。特に、感温変色層内での大気圧雰囲気下と1000Paの減圧雰囲気下と0.1Paの減圧雰囲気下での溶融温度の差を最大でも2℃とする熱溶融性物質を好適に用いることができる。この様に、感温変色層12内での大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下との溶融温度の差を可及的に小さくできる熱溶融性物質を用いることによって、減圧雰囲気下温度管理材10の感温変色層12では、減圧雰囲気下でも大気圧雰囲気下と略同一温度で変色できる。
【0018】
かかる減圧雰囲気下温度管理材10において、熱溶融性物質層12bの熱溶融性物質22,22・・が粒状又は粉状であるとき、熱溶融性物質22,22・・自身による光の乱反射等によって不透明となって、印刷基材12aの有色の色彩を感温変色層12の外側から視認できない。これに対し、減圧雰囲気下温度管理材10を減圧雰囲気で加熱し、粒状又は粉状の熱溶融性物質22,22・・が溶融温度に到達したとき、熱溶融性物質層12bを不可逆的に透明層に形成する。このため、図2に示す様に、印刷基材12aの色彩を感温変色層12の外側から視認でき、感温変色層12が変色したことを視認できる。熱溶融性物質22,22・・は、熱溶融して透明になった後に、例え冷却されても飴状の不定形の固体となって層状のまま粒状や粉状に戻らないので光の乱反射を起さず透明層を形成したままとなっている。
【0019】
ところで、粒状又は粉状の一般的な熱溶融性物質には、大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下との溶融温度が異なるものが存在する詳細な理由は判明していないが、減圧雰囲気下での昇華し易さが関与しているものと考えられる。この点、図1に示す減圧雰囲気下温度管理材10に用いる熱溶融性物質22,22・・は、感温変色層12内での大気圧雰囲気下と減圧雰囲気下との溶融温度の差を可及的に小さくできるものである。かかる粒状又は粉状の熱溶融性物質22,22・・としては、少なくとも炭素数が3の脂肪族類又はベンゾフェノン化合物を用いることができる。この脂肪族類としては、脂肪酸化合物、脂肪酸アミド化合物又は脂肪酸ジヒドラジド化合物を挙げることができる。更に、粒状又は粉状の熱溶融性物質22,22・・を具体的に示すと、炭素数が3以上の脂肪族類として飽和又は不飽和の直鎖状・分岐鎖状又は環状であって、ミリスチン酸、ベヘン酸、セバシン酸、ドデカン二酸のような脂肪酸化合物;セバシン酸ジヒドラジドのような脂肪酸ジヒドラジド化合物;4,4′−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノンのようなベンゾフェノン化合物を挙げることができる。
【0020】
かかる熱溶融性物質22,22・・を一種類用いただけでは、所望の検知温度で感温変色層12が変色することが困難である場合には、融点の異なる二種の熱溶融性物質を混合した共融混合物を熱溶融性物質22に用いることができる。かかる融点の異なる二種の熱溶融性物質を混合した共融混合物は、低融点の熱溶融性物質50〜90重量部と高融点の熱溶融性物質50〜10重量部とを混合して得ることができる。得られた共融混合物の溶解温度は、低融点の熱溶融性物質の溶解温度よりも1〜20℃低くなる。更に、二成分系の共融混合物よりも更に低温の共融点よりも低温の共融点を有する三成分系の共融混合物を熱溶融性物質22として用いることができる。かかる三成分系の共融混合物は、二成分系の共融混合物に、その共融点よりも高い融点の他の熱溶融性物質を10〜30重量部添加することによって得ることができる。必要に応じてさらに多成分系の共融混合物にしてもよい。
【0021】
図1に示す減圧雰囲気下温度管理材10を製造する際には、所定の熱溶融性物質をボールミル等で粉砕した後、所定の樹脂と溶剤とを加えて混練して得た感温インクを、溶融状態の熱溶融性物質22,22・・を吸収しない非吸収性の印刷基材12aの一面側にスクリーン印刷等によって塗布し乾燥して、印刷基材12aの一面側に熱溶融性物質層12bを形成した所定形状の感温変色層12を作製する。この際に、印刷基材12aとしては、フィルム、紙、印刷塗膜等を用いることができる。特に、厚さ75μm以下のフィルムや上質紙、印刷塗膜、就中、厚さ50μm以下のフィルムや上質紙、印刷塗膜を好ましく用いることができる。また、感温変色層12の形状は円形でも矩形でもよく、その形状を問わない。但し、感温変色層12の面積が過大であると、感温変色層12の変色の視認性は良好になるものの、ラベル基材18と保護基材14との間に空気が入り、減圧中にラベル基材18と保護基材14との間が膨張して感温変色層12に変色誤差が生じ易くなる。このため、感温変色層12の形状が円形の場合には、感温変色層12の変色の視認性との観点も考慮して直径3mm程度とすることが好ましい。なお、感温変色層12の形状を円形以外の形状とする場合には、直径3mmの円形に相当する面積とすることが好ましい。
【0022】
次いで、ラベル基材18の一面側に載置した粘着材16上に感温変色層12の他面側及び保護基材14を載置し、感温変色層12と保護基材14とをラベル基材18に粘着する。同時に、ラベル基材18の他面側に粘着材20を介して剥離材24としての剥離紙を剥離可能に粘着する。この保護基材14としては、ポリエステル系フィルムやポリイミド系フィルムを用いることができる。また、薄いガラス板を保護基材14として用いることができる。また、ラベル基材18としては、ポリエステル系フィルムやポリイミド系フィルムを用いることができる。また、薄いガラス板をラベル基材18として用いることができる。但し、ラベル基材18が厚過ぎると、ラベル基材18の熱伝導性が低下し、熱溶融性物質層12bに変色温度が変動するおそれがある。このため、ラベル基材18の厚さを75μm以下とすることが好ましい。かかるラベル基材18の他面側に、剥離材24を粘着材20によって剥離可能に粘着する。この粘着材16,20は、得られた減圧雰囲気下温度管理材10を減圧雰囲気で使用するため、粘着材を固化する際に発生するガス量が少ないローアウトガスタイプの粘着材を用いることが好ましい。ローアウトガスタイプの粘着材としては、ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製のT4412W(商品名)や住友スリーエム株式会社製のATX903SF(商品名)を好適に用いることができる。得られた図1に示す減圧雰囲気下温度管理材10を加熱対象物に付する際には、剥離材24を剥離し、露出した粘着材20によって被加熱対象物の所定箇所に貼着して用いることができる。
【0023】
この減圧雰囲気下温度管理材を用いた本発明の減圧雰囲気下温度管理方法は、以下の通りである。この様にして得られた減圧雰囲気下温度管理材10を、被加熱対象物の表面に剥離材24としての剥離紙を剥離して粘着材20によって粘着した後、被加熱対象物及び減圧雰囲気下温度管理材10を載置した雰囲気を所定圧に減圧して加熱処理を施す。その際に、減圧雰囲気内の被加熱対象物の温度が、感温変色層12の粒状又は粉末状の熱溶融性物質22,22・・の溶融温度に到達したとき、熱が直に減圧雰囲気下温度管理材へ熱伝導して熱溶融性物質22,22・・は溶融し、熱溶融性物質層12bは不透明状態から透明状態となって、図2に示す様に、印刷基材12aの一面側の色相が感温変色層12の外側から視認できるようになる。かかる感温変色層12の変色は、熱溶融された熱溶融性物質が冷却されて凝固されても維持される。このため、被加熱対象物は、減圧雰囲気下温度管理材10の変色温度に加熱された履歴を有することが判る。なお、被加熱対象物に付した減圧雰囲気下温度管理材10の感温変色層12が変色しないように加熱することによって、被加熱対象物の過剰加熱を防止することもできる。
【0024】
図1及び図2に示す減圧雰囲気下温度管理材10には、単一の感温変色層12が形成されているのみであるが、図3(a)に示す様に、異なる温度で変色する複数の感温変色層12,12・・が形成されていてもよい。図3(a)に示す減圧雰囲気下温度管理材10の感温変色層12,12・・の各々には、所定の減圧雰囲気において、100℃、105℃、110℃、115℃の各温度で溶融する熱溶融性物質が配合されている。このため、図3(b)に示す様に、所定の減圧雰囲気において、付着された加熱対象体が105℃に加熱されたとき、100℃及び105℃の感温変色層12,12が変色し、110℃及び115℃の感温変色層12,12は変色しない。このため、加熱対象物は、105℃以上115℃未満の温度に加熱されたことが判る。
【0025】
以上、説明してきた減圧雰囲気下温度管理材10の感温変色層12を形成する印刷基材12aとして、溶融状態の熱溶融性物質22,22・・を吸収しない非吸収性の印刷基材を基材として用いることを説明してきたが、溶融状態の熱溶融性物質22,22・・を吸収する印刷基材12aを用いてもよい。この場合、溶融状態の熱溶融性物質22,22・・は印刷基材に吸収され、熱溶融性物質層12bは透明となって、印刷基材12aの表面の色相、文字、図形等を視認できるようにして、感温変色層12を変色させることができる。また、熱溶融性物質層12bに粒状又は粉末状の熱溶融性物質22,22・・と色素を共存させ、溶融し熱溶融性物質22に色素を溶解することによって、感温変色層12を変色させてもよい。なお、減圧雰囲気の減圧度は、大気圧(1気圧:約1×10Pa)未満であれば特に限定されないが、工業的に汎用される0.1〜1000Paであることが好ましい。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の減圧雰囲気下温度管理材を試作しそれを用いて減圧雰囲気下温度管理方法を行った実施例について詳細に説明する。
【0027】
(実施例1)
下記表1に記載した種類及び量の熱溶融性物質をワインダーブレンダーで粉砕した後、粉砕した熱溶融性物質と表1に併記した種類及び量の樹脂及び溶剤をボールミルで一昼夜混練してインクとした。得たインクを、印刷基材12aとしての黒色の厚さ75μmの上質特薄口の一面側にスクリーン印刷して一昼夜乾燥して熱溶融性物質層12bを形成した後、ポンチで直径2mmの円形に打ち抜いて感温変色層12を得た。次いで、ラベル基材18としてのポリイミドフィルム[東レ株式会社製のカプトン100H(商品名)]の一面側に、ローアウトガスタイプの粘着材16[ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社製のT4412W(商品名)]を介して感温変色層12と保護基材14[東レ・デュポン株式会社製のカプトン100H(商品名)]とを保護を貼着した。更に、ラベル基材18の他面側には、ローアウトガスタイプの粘着材20[住友スリーエム株式会社製のATX903SF(商品名)]を介して剥離材24としての剥離紙を剥離可能に貼着して、図1に示す減圧雰囲気下温度管理材10を得た。
【0028】
得られた減圧雰囲気下温度管理材10において、熱溶融性物質層12b内の熱溶融性物質が溶融して感温変色層12が変色する温度を測定した。測定装置としては、VICインターナショナル株式会社製の真空温度測定装置によって実施した。この真空温度測定装置は、マイクロコントローラで圧力が制御される真空チャンバー内に、銅版製の均熱を保持できるホットプレートが内蔵されている。かかるホットプレートには、白金抵抗体(A級)が設置されており、ホットプレートの表面温度を測定できる。この白金抵抗体は、株式会社ネツシンにて温度校正がされており、0〜300℃の範囲で表示誤差が±0.75℃以内である。この真空温度測定装置を用いた測定では、真空チャンバー内のホットプレートに、得られた減圧雰囲気下温度管理材10を、その剥離材24としての剥離紙を剥離して貼着した後、表1に示す圧力に圧力調整した後、ホットプレートの温度を2〜3℃/分の速度で昇温し、感温変色層12が完全に変色する温度を測定した。測定は3回行い、3回の測定値の平均値を表2に示した。なお、真空チャンバー内の圧力は、ホットプレートの昇温加熱時も設定圧力を維持するように調整した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
表1及び表2より明らかな様に、No.1〜9の減圧雰囲気下温度管理材10は、大気圧雰囲気及び減圧雰囲気での感温変色層12が変色する温度差が5℃以下で略一定している。このため、かかる減圧雰囲気下温度管理材10を工業的に充分に用いることができる。特に、No.1〜6及びNo.9の減圧雰囲気下温度管理材10は、熱溶融性物質の大気圧雰囲気下の溶融温度と前記熱溶融性物質の1000Paの減圧雰囲気下及び0.1Paの減圧雰囲気下での溶融温度との差が2℃以下であり、大気圧雰囲気〜0.1Paの減圧雰囲気下の広い範囲で変色温度が極めて安定している。なお、No.7及びNo.8の減圧雰囲気下温度管理材10は、大気圧雰囲気下の感温変色層12の変色温度と1000Paの減圧雰囲気下の感温変色層12の変色温度との最大の差は3.7℃であり、No.1〜6及びNo.9の減圧雰囲気下温度管理材10よりも劣るが、工業的使用には許容範囲である。
【0032】
(実施例2)
実施例1において、No.9の減圧雰囲気下温度管理材10で用いたローアウトガスタイプの粘着材16,20に代えて、一般用途の粘着材[住友スリーエム株式会社製の465(商品名)]を用いた他は、実施例1と同様にして減圧雰囲気下温度管理材10を作製した。この減圧雰囲気下温度管理材10を実施例1と同様にして感温変色層12の変色温度を測定した。その結果を下記表3にNo.10として示す。
【0033】
(実施例3)
実施例1において、No.9の減圧雰囲気下温度管理材10で印刷基材12aとして用いた厚さ75μmの上質特薄口に代えて、厚さ120μmのベルクール紙を用いた他は、実施例1と同様にして減圧雰囲気下温度管理材10を作製した。この減圧雰囲気下温度管理材10を実施例1と同様にして感温変色層12の変色温度を測定した。その結果を下記表3にNo.11として併記する。
【表3】

【0034】
表3から明らかなように、No.11の減圧雰囲気下温度管理材10は、大気圧雰囲気下の感温変色層12の変色温度と1000Paの減圧雰囲気下の感温変色層12の変色温度との差は4.9℃であり、No10の減圧雰囲気下温度管理材10よりも劣るが、工業的使用には許容範囲である。なお、No.11の減圧雰囲気下温度管理材10の減圧雰囲気下での変色温度が大気圧雰囲気下よりも高温側にシフトした理由は、減圧雰囲気下の感温変色層12内の熱溶融性物質の加熱は主として熱伝導でなされるため、厚くした印刷基材12aが断熱材の役割をしていることに因ると推察される。
【0035】
(比較例1)
実施例1において、熱溶融性物質、樹脂及び溶剤を表4に示すものを用いた以外は、実施例1と同様にして減圧雰囲気下温度管理材10を作製した。この減圧雰囲気下温度管理材10を実施例1と同様にして感温変色層12の変色温度を測定した。その結果を下記表5示す。
【0036】
【表4】

【0037】
【表5】

【0038】
表4及び表5から明らかなように、No.12〜18の減圧雰囲気下温度管理材10は、その感温変色層12の変色温度が、大気圧雰囲気下の変色温度と1000Paの減圧雰囲気下及び0.1Paの減圧雰囲気下の変色温度との差が、いずれも5℃を大幅に超えている。このため、No.12〜18減圧雰囲気下温度管理材10は、工業的に使用できない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材は、減圧雰囲気下で加熱処理を施す加熱対象物に付して用いることによって、加熱対象物の加熱温度を監視でき、加熱対象物の過度の加熱処理を防止できる。また、本発明に係る減圧雰囲気下温度管理材を加熱対象物に接合し、加熱対象物に対する温度変化を測定できる。
【符号の説明】
【0040】
10は減圧雰囲気下温度管理材、12は感温変色層、12aは印刷基材、12bは熱溶融性物質層、14は保護基材、16,20は粘着材、18はラベル基材、22は熱溶融性物質、24は剥離紙である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気下で検知する加熱温度に対応する溶融温度で溶融する粒状又は粉末状の熱溶融性物質を含有し、その熱溶融に応じて変色する感温変色層が配設され、
前記熱溶融性物質が、前記感温変色層内での大気圧雰囲気下と前記減圧雰囲気下とでの溶融温度の差を最大でも5℃とするものであることを特徴とする減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項2】
前記熱溶融性物質が、前記感温変色層内での大気圧雰囲気下と1000Paの減圧雰囲気下と0.1Paの減圧雰囲気下での溶融温度の差を最大でも2℃とするものであることを特徴とする請求項1に記載の減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項3】
前記感温変色層が、前記粒状又は粉末状の熱溶融性物質を含有する熱溶融性物質層と前記熱溶融性物質層が一面側に形成された基材とから構成され、前記熱溶融性物質の熱溶融に応じて、前記熱溶融性物質層が透明化し、前記基材の表面が視認できることによって、及び/又は前記粒状又は粉末状の熱溶融性物質と共存する色素を溶解することによって、前記感温変色層が変色することを特徴とする請求項1に記載の減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項4】
前記熱溶融性物質が、融点の異なる少なくとも二種の化合物が混合された共融混合物であることを特徴とする請求項1に記載の減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項5】
前記共融混合物が、融点の異なる少なくとも二種の熱溶融性物質から成り、最も低融点の熱溶融性物質50〜90重量部配合されていると共に、最も高融点の熱溶融性物質50〜10重量部混合されていることを特徴とする請求項4に記載の減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項6】
前記熱溶融性物質が、少なくとも炭素数が3の脂肪族類又はベンゾフェノン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項7】
前記脂肪族類が、脂肪酸化合物、脂肪酸アミド化合物、及び脂肪酸ジヒドラジド化合物から選ばれる少なくとも何れかであることを特徴とする請求項6に記載の減圧雰囲気下温度管理材。
【請求項8】
減圧雰囲気下で被加熱対象物を加熱する際に、請求項1に記載の温度管理材と共に前記被加熱対象物を加熱し、前記温度管理材の感温変色層の変色によって、前記被加熱対象物の加熱温度が検知温度に到達した履歴を経たことを管理することを特徴とする減圧雰囲気下温度管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−47561(P2012−47561A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189275(P2010−189275)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【特許番号】特許第4669576号(P4669576)
【特許公報発行日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】