説明

減少した保持器ポケット遊隙を持つ転がり軸受

本発明は、転動体を案内する保持器ポケット(02)を持つ保持器(01)を持つ転がり軸受であって、転動体が転がり軸受の少なくとも軸線方向に軸線方向遊びをもって保持器ポケット(02)内に案内され、それにより軸線方向の保持器ポケット遊隙が与えられているものに関する。本発明によれば、複数の保持器ポケット(02)における軸線方向の保持器ポケット遊隙が、0.07mmと0.17mmの間にある値を持っている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転動体を案内する保持器を持つ転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、特定の作動状態で増大する騒音を生じ、この騒音は多くの使用において有害であるか、又は軸受の使用を排除する。転動体を案内する板又は硬質織物から成る保持器を持つ転がり軸受では、騒音が特に転動体による保持器の励振によって生じる。
【0003】
ドイツ連邦共和国特許第19781320号明細書から、組合わされる中空レースとして形成されるレースを持つ騒音の少ない転がり軸受が公知である。中空レースは、転動体に接触する第1のレース部分と、第1のレース部分を包囲する第2のレース部分から成っている。レース部分の間には遊びが形成されて、油又は他の液体を満たされている。第1のレース部分の転動路は、1つ又は複数の弾性転動路湾曲部により、部分的に円形とは相違している。各時点に若干の転動体が予荷重をかけられ、それにより支持される軸も同様に半径方向予荷重を受ける。従って軸は、僅かな固有運動の可能性しか持っていないので、騒音の発生が少ない。この解決策の欠点は、液体を満たされる間隙の組立てに必要な大きい費用である。液体は圧力を受けていなければならず、そのため密封のための適当な手段が必要である。更に予荷重のためレース上における転動体の転がり摩擦が高められる、という欠点がある。更に保持器と転動体との間の相互作用により生じる騒音が僅かしか減衰されない。
【0004】
騒音減少のため例えばドイツ連邦共和国特許出願公開第1083353号明細書から公知のように、減衰作用を示す特別なグリースも使用される。しかしこのグリースは、僅かな耐熱性のため高い軸受温度では使用されない。
【0005】
従来技術による転がり軸受の保持器は、特定の作動状態において転動体により規則正しく励振されて、機能に従う回転のほかに特に半径方向の振動も行うという、問題を示す。転がり軸受がこのような作動状態になると、永続的な作動騒音を発生し、これに対して保持器の振動が最大の割合を持っている。保持器の振動は転がり軸受及び機械の別の部分へ伝達され、それにより大きい摩耗が生じる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の課題は、転動体の転がり摩擦を感じられるほど増大することなしに、簡単に実現される手段により作動騒音を低下される保持器を持つ転がり軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題は請求項に記載の転がり軸受によって解決される。
【0008】
本発明は、騒音を生じる保持器の振動が、特に保持器ポケット内における転動体の大きすぎる遊びによるものである、という認識から出発している。この場合保持器ポケット内における転動体の軸線方向の遊びが、転がり軸受に関して重要である。保持器ポケット内における転動体の遊びは、転動体と保持器ポケットの間の保持器ポケット遊隙とも称される空気空間を生じる。
【0009】
従来技術による転がり軸受では、通常軸線方向に約0.2mmの保持器ポケット遊隙が形成される。この値は多くの大きさの転がり軸受特に玉軸受に当てはまる。転動体と保持器ポケットとの間の遊びにおいて、転動体の面部分と保持器ポケットとが対向し、妨げられることなく互いに作用できる限り、保持器ポケット遊隙が転動体と保持器ポケットとの間の遊びの範囲に形成される。これは、転がり軸受特に前記の玉軸受の標準形式において一般に当てはまる。保持器ポケット遊隙の範囲に、潤滑剤があってもよい。
【0010】
本発明にとってまず重要なことは、転動体例えば玉が軸線方向に遊びをもって保持器ポケット内に案内されて、保持器ポケット遊隙が軸線方向に形成され、少なくとも複数の転動体なるべくすべての転動体においてこの遊隙が、0.07mmと0.17mmの間の範囲にある値を持っていることである。
【0011】
本発明の特別な利点は、簡単に実現される構造変化により、転がり軸受の保持器の範囲に生じる騒音の大幅な減少が行われることである。本発明による転がり軸受の製造費用を高めることになる余分な部材又は構造補足品は必要でない。
【0012】
本発明による転がり軸受では、騒音を生じる保持器の振動は起こらず、少なくとも著しい騒音減少が行われる。なぜならば、軸線方向における保持器ポケット遊隙が小さくされているからである。これにより特に半径方向における保持器の振動が防止される。
【0013】
0.07mm〜0.17mmの範囲にある軸線方向保持器ポケット遊隙の本発明による構成は、保持器の騒音を生じる振動を防止し、その際保持器ポケットにおける転動体の摩擦が少ない転がり運動が保証される。
【0014】
軸線方向保持器ポケット遊隙の本発明による縮小は、任意の保持器形状及び任意の転動体形状に対して適用可能である。
【0015】
あらゆる保持器ポケット形状例えば球欠形状、箱形状又は枠形状が転動体の軸線方向案内を行い、案内が遊びを必要とし、従って軸線方向における保持器ポケット遊隙が形成される。本発明によれば、複数の保持器ポケットにある保持器ポケット遊隙が、通常の公差の範囲にある所定の寸法を持っている。転がり軸受のすべての保持器ポケットにある保持器ポケット遊隙が、通常の公差の範囲にある所定の寸法を持っているのがよい。
【0016】
特に好ましい実施形態では、軸線方向の保持器ポケット遊隙が0.09mm〜0.11mmの範囲にある値を持っている。なぜならば、この寸法が最適だからである。
【0017】
0.07mm〜0.17mmの範囲にある値を持つ軸線方向保持器ポケット遊隙の本発明による構成は、転がり軸受の大きさには大幅に無関係である。なぜならば、転動体の半径の絶対寸法及びそれに関係する保持器ポケットの半径の絶対寸法は、本発明により解決される保持器の振動の問題に殆ど影響を及ぼさないからである。
【0018】
転がり軸受に関して半径方向の保持器ポケット遊隙も、従来技術から公知の寸法に対して減少されているのがよい。特に(縮小される)半径方向の保持器ポケット遊隙が、(縮小される)軸線方向の保持器ポケット遊隙に対して幾何学的に関係している。複数の保持器ポケットにおける半径方向の保持器ポケット遊隙が0.3mmと0.4mmの間の値を持っているのがよい。特にこの遊隙が0.35mmと0.45mmとの間にあるのがよい。
【0019】
転がり軸受が玉軸受として、また転動体が玉として構成され、特に玉が5mmと25mmの間の範囲にある値を持つ直径Dwを持っているのが特に好ましい。
【0020】
本発明のそれ以外の利点、詳細及び展開は、図面を参照して複数の実施例の以下の説明からわかる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1は本発明による転がり軸受の保持器01の1つの方向から見た図を示す。図1のa)は、保持器01の保持器半分の4つのポケットを持つ部分の側方断面図を示す。図1のb)は、保持器01の保持器半分の4つのポケットを持つ部分の正面図を示す。
【0022】
図1に示す保持器01の半分は、玉軸受において転動体として動作する8つの玉(図示せず)の案内に役立つ。このため保持器01は球欠状保持器ポケット02を持っている。保持器ポケット02の間に、鋲又は他の結合手段(図示せず)を通すため保持器01にある穴03が設けられている。玉軸受の組立てのため、保持器の両方の半分の間に8つの玉が設けられ、保持器01の両方の半分が8つの鋲により互いに結合される。
【0023】
8つの保持器ポケット02は、環状の保持器01に均一に分布されている。従って保持器ポケット02の中心は、互いにそれぞれ45°の角をなしている。球欠状保持器ポケット02は、玉より少し大きく構成されているので、玉は遊びをもって保持器ポケット01内に案内される。遊びは、保持器01内における玉の自由な転がりを可能にする。更に玉と保持器ポケット02との間の間隙に潤滑剤があるので、玉は保持器ポケット02内を少ない摩擦で転がることができる。
【0024】
保持器ポケット02の球欠形状は、転がり軸受の軸線の方向04に軸線方向半径06を持っている。それから生じる軸線方向直径は、玉の直径より大きくされている。これら両方の直径の差は、好ましい実施形態では0.1mmであり、軸線方向における保持器ポケット遊隙に等しい。
【0025】
保持器ポケット02の球欠形状は、すべての方向に同じ半径を持つのではなく、切断される楕円体の形状にほぼ一致している。楕円体は主軸に異なる半径を持っている。転がり軸受に関して半径方向07では、保持器01における玉の案内は、保持器ポケット02の半径方向半径08によって決定される。半径方向の半径08は玉の半径より大きくされているので、半径方向07に0.4mmの値を持つ保持器ポケット遊隙が形成される。
【0026】
図2は、転がり軸受騒音と軸線方向及び半径方向保持器ポケット遊隙との関係を示すグラフを示している。クラフのx軸12には、軸線方向の保持器ポケット遊隙の値がmmで記入されている。グラフのy軸13には、半径方向の保持器ポケット遊隙の値がmmで記入されている。グラフに示される測定は、ドイツ規格DIN625−1による形式6310の軸受について行われた。騒音発生の原因は、保持器及び転動体の絶対寸法に殆ど関係しないので、図示した測定結果は他の形式の転がり軸受に原理的に転用可能である。
【0027】
グラフには、それぞれ小さい円により示される17個の測定結果が記入されている。検査された転がり軸受は4つのグループに区分される。4つの転がり軸受の第1のグループ14は従来技術に相当し、これらの転がり軸受は公知の作動騒音を持っている。これらの軸受の軸線方向保持器ポケット遊隙は約0.25mm〜0.3mmである。半径方向の保持器ポケット遊隙は約0.7mmである。
【0028】
更に大きい軸線方向及び半径方向の保持器ポケット遊隙を持つ転がり軸受は、更に著しい作動騒音を発生する。第2のグループ16の転がり軸受では、軸線方向の保持器ポケット遊隙は約0.4mm〜0.5mmであり、半径方向の保持器ポケット遊隙は約0.8mmである。これらの転がり軸受はやかましい保持器騒音を発生する。
【0029】
軸線方向及び半径方向の保持器ポケット遊隙を小さくされた転がり軸受では、作動騒音が減少される。5つの転がり軸受の第3のグループ17は、約0.14mm〜0.20mmの軸線方向保持器ポケット遊隙及び約0.5mm〜0.6mmの半径方向保持器ポケット遊隙を持っている。これらの軸受は小さい保持器騒音しか発生しない。
【0030】
本発明による転がり軸受の第4のグループ18は、約0.08mm〜0.11mmの軸線方向保持器ポケット遊隙及び約0.37mm〜0.43mmの半径方向保持器ポケット遊隙を持っている。第4のグループ18の本発明による転がり軸受は、保持器による測定可能な作動騒音を発生しない。
【0031】
曲線19は、軸線方向保持器ポケット遊隙の厚さxと半径方向保持器ポケット遊隙の厚さyとの間の回帰により求められる数学的関係を示している。この関係は近似的に式
y=−2.2+2.4x+0.21
により表される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による転がり軸受を2つの方向から見た図を示す。
【図2】保持器騒音と軸線方向及び半径方向の保持器ポケット遊隙との関係を示すグラフを示す。
【符号の説明】
【0033】
01 保持器
02 保持器ポケット
03 鋲穴
04 軸線方向
06 保持器ポケットの軸線方向
07 半径方向
08 保持器ポケットの半径方向
12 x軸
13 y軸
14 転がり軸受の第1のグループ
16 転がり軸受の第2のグループ
17 転がり軸受の第3のグループ
18 転がり軸受の第4のグループ
19 曲線
【図1a)】

【図1b)】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体を案内する保持器ポケット(02)を持つ保持器(01)を持つ転がり軸受であって、転動体が転がり軸受の少なくとも軸線方向に軸線方向遊びをもって保持器ポケット(02)内に案内され、それにより軸線方向の保持器ポケット遊隙が与えられているものにおいて、複数の保持器ポケットにおける軸線方向の保持器ポケット遊隙が、0.07mmと0.17mmの間にある値を持っていることを特徴とする、転がり軸受。
【請求項2】
転動体が転がり軸受の半径方向(07)に半径方向遊びをもって保持器ポケット(02)内に案内され、それにより複数の保持器ポケット(02)内に0.30mmと0.60mmの間の値を持つ半径方向の保持器ポケット遊隙が与えられていることを特徴とする、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
半径方向の保持器ポケット遊隙が、軸線方向の保持器ポケット遊隙に対して幾何学的に関係していることを特徴とする、請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
複数の保持器ポケット(02)における軸線方向の保持器ポケット遊隙が0.09mmと0.11mmの間の値を持っていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項5】
複数の保持器ポケット(02)における半径方向の保持器ポケット遊隙が0.35mmと0.45mmの間の値を持っていることを特徴とする、請求項2又は3に記載の転がり軸受。
【請求項6】
すべての保持器ポケット(02)における軸線方向の保持器ポケット遊隙が同じ値を持っていることを特徴とする、請求項1〜4の1つに記載の転がり軸受。
【請求項7】
すべての保持器ポケット(02)における半径方向の保持器ポケット遊隙が同じ値を持っていることを特徴とする、請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項8】
転動体が同じ大きさの玉として形成され、保持器ポケット(02)が楕円体状内面を持ち、軸線方向の保持器ポケット遊隙の厚さが、軸線方向(04)における楕円体の直径と玉の直径との差に一致していることを特徴とする、請求項1〜6の1つに記載の転がり軸受。
【請求項9】
半径方向の保持器ポケット遊隙が、半径方向(07)における楕円体の直径と玉の直径との差に一致していることを特徴とする、請求項7に記載の転がり軸受。
【請求項10】
保持器(01)が1つ又は複数の部分から構成され、特に2つの相補的な保持器半分から成り、これらの保持器半分が個々の保持器ポケット(02)の結合個所(03)で結合手段により結合されていることを特徴とする、請求項1〜8の1つに記載の転がり軸受。
【請求項11】
保持器(01)が金属板、プラスチック、真ちゅう又は硬質織物から成っていることを特徴とする、請求項9に記載の転がり軸受。
【請求項12】
転がり軸受が玉軸受として構成され、また転動体が玉として構成され、特に玉が5mmと25mmの間の範囲の値を持つ玉直径を持っていることを特徴とする、先行する請求項の1つに記載の転がり軸受。

【図2】
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【公表番号】特表2009−537772(P2009−537772A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−514629(P2009−514629)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【国際出願番号】PCT/DE2007/000925
【国際公開番号】WO2007/134592
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(506420843)シエフレル・コマンデイトゲゼルシヤフト (80)
【Fターム(参考)】