説明

減衰性付与剤及び減衰性材料

【課題】減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性付与剤、及び減衰性材料を提供する。
【解決手段】減衰性付与剤は、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンを有効成分として含有する。減衰性付与剤は、高分子材料と混合して使用される。減衰性材料は、高分子材料と減衰性付与成分とを含有する。減衰性付与成分は、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子材料に減衰性を付与する減衰性付与剤及び減衰性を発揮する減衰性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子材料に減衰性を付与する減衰性付与成分としては、芳香族第二級アミン系化合物等が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。特許文献1には、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン等が例示されている。特許文献2には、p,p´−ジオクチルジフェニルアミンが開示されている。
【特許文献1】特開2007−262137号公報
【特許文献2】特開2006−342215号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、特定の芳香族第二級アミン系化合物が減衰性を高める作用に優れることを見出すことでなされたものである。本発明の目的は、減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性付与剤、及び減衰性材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の減衰性付与剤は、高分子材料と混合して使用されることで前記高分子材料に減衰性を付与する減衰性付与剤であって、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンを有効成分として含有することを要旨とする。
【0005】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の減衰性付与剤において、前記高分子材料が熱可塑性樹脂であることを要旨とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の減衰性付与剤において、前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂であることを要旨とする。
【0006】
請求項4に記載の発明の減衰性材料は、高分子材料と減衰性付与成分とを含有する減衰性材料であって、前記減衰性付与成分がN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンであることを要旨とする。
【0007】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の減衰性材料において、前記高分子材料が熱可塑性樹脂であることを要旨とする。
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の減衰性材料において、前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性付与剤、及び減衰性材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施形態を詳細に説明する。
減衰性付与剤は、高分子材料と混合して使用されることで、その高分子材料に減衰性を付与する。減衰性付与剤には、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンが有効成分として含有されている。この減衰性付与剤は、高分子材料中において、振動エネルギー、衝撃エネルギー、及び音のエネルギーを熱エネルギーに変換する機能を発現する。
【0010】
高分子材料は、減衰性材料の母材として含有されるものであって、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂及びゴム類に分類される。熱可塑性樹脂としては、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン・アクリロニトリル系樹脂、アクリル系樹脂の他、ポリカーボネート、ポリサルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0011】
オレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタクリレート共重合体、アイオノマー樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、各種ポリエステル系エラストマー等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12、非晶性ポリアミド、ポリメタクリルイミド等が挙げられる。スチレン・アクリロニトリル系樹脂としては、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。アクリル系樹脂としては、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルを単量体とする単独重合体、これらの単独重合体の混合物、並びにこれらの単量体が重合した共重合体が挙げられる。アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、2−エチルヘキシルエステル、エトキシエチルエステル等が挙げられる。なお、これらの熱可塑性樹脂は、汎用性に優れるという観点から、非架橋型熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0012】
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、ユリア樹脂等が挙げられる。
ゴム類としては、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリルゴム、天然ゴム等が挙げられる。
【0013】
本実施形態の減衰性付与剤は、高分子材料の中でも、好ましくは熱可塑性樹脂、より好ましくはアクリル系樹脂に混合して使用される。
減衰性付与剤の有効成分であるN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンは、芳香族第二級アミンの一種であり、1,3,5−トリス(フェニルアミノ)ベンゼン、又は1,3,5−トリアニリノベンゼンとも呼ばれる。高分子材料に対する減衰性付与剤の配合量は、高分子材料と有効成分との合計量に対する有効成分の含有量において、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。有効成分の含有量が1質量%以上である場合、優れた減衰性能を発揮させることがさらに容易となる。なお、減衰性付与剤の配合量は、高分子材料と有効成分との合計量に対する有効成分の含有量において、好ましくは50質量%以下である。有効成分の含有量が50質量%を超える場合、減衰性能の向上率が低下する傾向にあるため、不経済となるおそれがある。
【0014】
減衰性付与剤には、無機充填剤、分散剤、粘度調整剤、増粘剤、流動改良剤、硬化剤、消泡剤、凍結防止剤、沈降防止剤、着色剤等を必要に応じて配合することが可能である。無機充填剤としては、例えばマイカ、炭酸カルシウム、タルク、クレー、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ガラス、シリカ、アルミナ、アルミニウム、水酸化アルミニウム、鉄、アスベスト、酸化チタン、酸化鉄、珪藻土、ゼオライト、フェライト等が挙げられる。また、上記有効成分以外の芳香族第二級アミン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、正リン酸エステル系化合物、トリアジン系化合物等の有機化合物を必要に応じて含有させてもよい。
【0015】
本実施形態の減衰性材料には、高分子材料と減衰性付与成分とが含有されている。高分子材料は、上記減衰性付与剤が混合される高分子材料として例示したものが挙げられる。減衰性付与成分は、上記有効成分であるN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンである。減衰性材料中における減衰性付与成分の含有量は、高分子材料と減衰性付与成分との合計量に対する減衰性付与成分の含有量において、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上である。減衰性付与成分の含有量が1質量%以上である場合、優れた減衰性能を発揮させることがさらに容易となる。なお、減衰性付与成分の配合量は、高分子材料と有効成分との合計量に対する減衰性付与成分の含有量において、好ましくは50質量%以下である。減衰性付与成分の含有量が50質量%を超える場合、減衰性能の向上率が低下する傾向にあるため、不経済となるおそれがある。
【0016】
減衰性材料には、上述した無機充填剤、分散剤、粘度調整剤、増粘剤、流動改良剤、硬化剤、消泡剤、凍結防止剤、沈降防止剤、着色剤等を必要に応じて配合することが可能である。また、上記減衰性付与成分以外の芳香族第二級アミン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾチアジル系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ジフェニルアクリレート系化合物、正リン酸エステル系化合物、トリアジン系化合物等の有機化合物を必要に応じて含有させてもよい。
【0017】
減衰性材料は、非拘束型又は拘束型制振材料等の制振材料、衝撃を吸収する衝撃吸収材料、及び、音を吸収する吸音材料として使用することができる。本実施形態の減衰性材料の減衰性能は、損失正接(tanδ)等により評価することができる。例えば損失正接のピーク値が高ければ高いほど優れることが示される。減衰性材料の損失正接は、周知の動的粘弾性測定装置により測定することができる。
【0018】
以上のように構成された減衰性材料では、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンが高分子材料中に分散した状態とされることで、振動エネルギー等を減衰する機能を発揮する。なお、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンは、高分子材料中で化学反応せずに分散していることで、高分子材料に対して減衰性を付与する作用が十分に発揮されると推測される。こうした観点から、上記減衰性付与剤、高分子材料及び減衰性材料中において、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンと化学反応する成分(例えば、カルボキシル基を有する単量体)は、減衰性材料全体を100質量%とした場合、例えば5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。
【0019】
ここで、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミン以外の芳香族第二級アミン化合物としては、ジフェニルアミン、N−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン、N−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン、N,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等が市販されている。このように多種存在する芳香族第二級アミン化合物の中でも、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンは、減衰性を高める作用に優れる。
【0020】
本実施形態の減衰性材料は、減衰性能が要求される各種分野において利用することができる。減衰性材料の適用分野としては、例えば自動車、壁材、床材、屋根材、フェンス等の建材、家電機器、産業機械等が挙げられる。
【0021】
本実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
(1)減衰性付与剤には、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンが有効成分として含有されているため、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミン以外の芳香族第二級アミン系化合物を有効成分とした場合よりも、減衰性能を高めることができる。従って、例えば高分子材料に対する有効成分の配合量をより低下させたとしても、所望する減衰性能が発揮されるようになる。また例えば、高分子材料に対する有効成分の配合量を増大させることで、より優れた減衰性能が発揮されるようになる。このように減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性付与剤が提供される。本実施形態の減衰性付与剤は、例えば熱可塑性樹脂、特にアクリル系樹脂の減衰性能を高めることが容易である。
【0022】
(2)減衰性材料には、減衰性付与成分としてN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンが含有されているため、減衰性能を容易に発揮させることのできる減衰性材料が提供される。本実施形態の減衰性材料は、例えば熱可塑性樹脂、特にアクリル系樹脂の減衰性能が高められた減衰性材料を提供することができる。
【0023】
なお、前記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・前記減衰性付与剤は、分散液の形態とした高分子材料に配合してもよい。また、前記減衰性材料は、分散液の形態とした高分子材料を含有する構成としてもよい。このように構成した場合、例えば減衰性塗料として、鋼板等の金属板に高分子材料から塗膜を形成することができる。こうした塗膜中に、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンが含まれることで、塗膜の減衰性能を容易に発揮させることができる。
【0024】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・前記高分子材料とN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンとの合計量に対するN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンの含有量において1〜50質量%である減衰性付与剤又は減衰性材料。
【実施例】
【0025】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
熱可塑性アクリル系樹脂(非架橋型アクリル系樹脂)95質量部にN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミン(東京化成工業(株)製)5質量部を配合して混練機で加熱混練することで減衰性組成物を調製した。
【0026】
(実施例2及び3)
表1に示すように、熱可塑性アクリル系樹脂に対するN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミン(以下、成分Aという)の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして減衰性組成物を調製した。
【0027】
(比較例1)
比較例1は、実施例1で使用した熱可塑性アクリル系樹脂単体である。
(比較例2〜4)
表1に示すように、実施例1と同じ熱可塑性アクリル系樹脂に対してジフェニルアミン(以下、成分Bという)を所定量配合して加熱混練することで減衰性組成物を調製した。
【0028】
(比較例5〜7)
表1に示すように、実施例1と同じ熱可塑性アクリル系樹脂に対してN−フェニル−p−フェニレンジアミン(以下、成分Cという)を所定量配合して加熱混練することで減衰性組成物を調製した。
【0029】
(比較例8〜10)
表1に示すように、実施例1と同じ熱可塑性アクリル系樹脂に対してN−フェニル−N´−イソプロピル−p−フェニレンジアミン(以下、成分Dという)を所定量配合して加熱混練することで減衰性組成物を調製した。
【0030】
(比較例11〜13)
表1に示すように、実施例1と同じ熱可塑性アクリル系樹脂に対してN−フェニル−N´−(1,3−ジメチルブチル)−p−フェニレンジアミン(以下、成分Eという)を所定量配合して加熱混練することで減衰性組成物を調製した。
【0031】
(比較例14〜17)
表1に示すように、実施例1と同じ熱可塑性アクリル系樹脂に対してN,N´−ジフェニル−p−フェニレンジアミン(以下、成分Fという)を所定量配合して加熱混練することで減衰性組成物を調製した。
【0032】
<動的粘弾性の測定>
各例で得られた減衰性材料をシート状に成形することによって、厚さ1mmのシート材を得た。各シート材を35mm×3mmの寸法に切断し、動的粘弾性測定用の試験片とした。動的粘弾性測定装置(RSA−II:レオメトリック社製)を用いて各試験片を加振しながら連続的に昇温した際の損失正接(tanδ)を測定した。測定条件は、加振の周波数10Hz、測定温度範囲−40℃〜+90℃、昇温速度5℃/分とした。なお、比較例1の樹脂単体についても同様に損失正接を測定した。各例の損失正接のピーク値を表1に併記する。また、図1及び図2は、各例について減衰性付与成分の配合量と損失係数のピーク値との関係を示している。
【0033】
【表1】

図1の結果から明らかなように、各実施例における損失正接のピーク値は、比較例1における損失正接のピーク値よりも高まっていることがわかる。図1及び図2の結果から明らかなように、各例の減衰性材料において、減衰性付与成分の配合量が同じ場合では、各実施例における損失正接のピーク値は顕著に高いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】A〜C成分の配合量と損失正接のピーク値との関係を示すグラフ。
【図2】A及びD〜F成分の配合量と損失正接のピーク値との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料と混合して使用されることで前記高分子材料に減衰性を付与する減衰性付与剤であって、N,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンを有効成分として含有することを特徴とする減衰性付与剤。
【請求項2】
前記高分子材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の減衰性付与剤。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の減衰性付与剤。
【請求項4】
高分子材料と減衰性付与成分とを含有する減衰性材料であって、前記減衰性付与成分がN,N´,N´´−トリフェニル−1,3,5−ベンゼントリアミンであることを特徴とする減衰性材料。
【請求項5】
前記高分子材料が熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項4に記載の減衰性材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がアクリル系樹脂であることを特徴とする請求項5に記載の減衰性材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−144028(P2010−144028A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322294(P2008−322294)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】