減衰装置、及び構造物の制振装置
【課題】小型でかつ加えられた振動をフライホイールによる慣性モーメントと磁気粘性流体で調整可能な抵抗力とで減衰でき、更に磁気粘性流体攪拌用の振動を与えなくても磁性粘性流体が機能を発揮するようにする。
【解決手段】減衰装置1は、第1のシリンダー10と第2のシリンダー20とで形成されたケーシング30を備える。第1のシリンダー10に進退動できるスリーブ40が配置され、スリーブ40にはボールナット42が取り付けられ、スリーブ40の進退動はボールねじ43で回転運動に変換され第2のシリンダー20内のフライホイール50を回転させる。フライホイール50と第2のシリンダー20の内面と間に密閉領域46が形成され、磁気粘性流体49が封入されている。第2のシリンダー20の内周にはフライホイール50を磁気回路の一部として密閉領域46を横切る強度調整可能な磁場Mを形成する磁場形成手段60が配置されている。
【解決手段】減衰装置1は、第1のシリンダー10と第2のシリンダー20とで形成されたケーシング30を備える。第1のシリンダー10に進退動できるスリーブ40が配置され、スリーブ40にはボールナット42が取り付けられ、スリーブ40の進退動はボールねじ43で回転運動に変換され第2のシリンダー20内のフライホイール50を回転させる。フライホイール50と第2のシリンダー20の内面と間に密閉領域46が形成され、磁気粘性流体49が封入されている。第2のシリンダー20の内周にはフライホイール50を磁気回路の一部として密閉領域46を横切る強度調整可能な磁場Mを形成する磁場形成手段60が配置されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰装置及び構造物の制振装置に関し、更に詳しくは直進運動を回転運動に変換するボールねじ及びボールナットによって回転駆動されるフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体の粘性抵抗を利用した減衰装置、及びこれを用いた構造物の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物や各種機械装置における振動の伝達を抑制する装置として、物体の慣性を利用した制振装置が提案されている。このような制振装置として、小型化を図るために直線運動をフライホイールの回転運動に変換する機構を用い、回転するフライホイールの慣性モーメントを制振に利用するものがある。
特許文献1及び特許文献2には、ボールねじとボールナットとを使用して直線運動を回転運動に変換して、ケース内に配置したフライホイールを回転させるとともに、このフライホイールとケースとの間に例えば合成ゴム等の粘性体を配置したものが記載されている(段落0060、図6参照)。
このような制振装置によれば、ボールねじとボールナットとの組合せによって、微少な並進運動を増幅してフライホイールを高速で回転させて、このフライホイールの慣性モーメントと、フライホイールとケースとの間の粘性抵抗とを制振に利用することができる。
【0003】
また、制振装置として、磁気粘性流体(MR流体)の粘性や摩擦を制振に利用したものが提案されている。特許文献3には、磁気粘性流体を使用した制振装置が記載されている。図12は従来の制振装置の概略構成を示す断面図である。制振装置210は、磁気粘性流体211を満たしたシリンダー212と、シリンダー212内に挿通されて軸方向へ進退自在に支持されたピストンロッド213と、ピストンロッド213の中間部適所に固定されシリンダー212内を仕切るピストン214と、シリンダー212の下部に設けられたバイパス管215と、バイパス管215の軸方向に沿って配置された電磁石等の磁界形成手段216と、を備える。シリンダー212の端部とピストンロッド213の端部には夫々取付部212a、213aが設けられ、各取付部は例えば建造物の異なった部位に取り付けられる。
建造物が地震等によって振動した場合、ピストン214がシリンダー内を軸方向へ移動することにより磁気粘性流体211を付勢し、磁気粘性流体がバイパス管215内を流動する。この際、磁気粘性流体211の磁性体粒子が磁界発生手段216の磁界を受けて鎖状につながることにより磁気粘性流体211の流れに抵抗を生じさせて、前記振動を減衰させる。
このような制振装置210によれば、磁界形成手段である電磁石への電流を制御することにより、磁気粘性流体211による減衰特性を調整し、制振装置210の制振特性を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−180492公報
【特許文献2】特開2002−168283公報
【特許文献3】特開平10−184757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の制振装置は、加振源からの振動力の伝達と共振振幅とを回転モーメント及び粘性抵抗で抑制し、生じた振動の減衰を早めることができるものの、その減衰特性は一定である。このため、このような減衰装置は、多様な振動特性を有する地震や、複雑な構造物の挙動に柔軟に対応して、効果的な減衰特性を発揮することが難しい。
また、特許文献3に記載の制振装置は、装置が大型となる上、シリンダーに満たすための大量の磁気粘性流体が必要となり、高コストとなる。更に、磁気粘性流体を用いた制振装置では、長期間使用しないと磁気粘性流体のベースオイルに混入された磁性粒子が沈殿するため、再使用に際しては攪拌して磁性流体を散乱させておく必要がある。しかし、特許文献3に記載の制振装置では、微小な振動が加わった程度では磁気粘性流体の流動が少ないため磁気粘性流体が攪拌されにくく、磁性体粒子が沈殿しやすい。このため、磁性体粒子が沈殿した状態から作動させようとしても、磁気粘性流体が所定の性能を発揮しないという問題がある。この不具合は、建築構造物の制振に使用するに際しては、常時建築構造物に加わる振動が微小であるため顕著であり、突然発生する地震に対応できないこととなる。
【0006】
このような事情のもと、建築構造物の制振を行うために小型かつ制振特性の調整ができる制振装置が要望されている。このような制振装置として、上述したフライホイールを使用した制振装置に磁気粘性流体を適用することが考えられるが、これらを単純に組み合わせても十分な制振効果を発揮させることができず、磁気流体と磁場形成手段をどのように配置するかが課題となっている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型でかつ加えられた振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体による調整可能な抵抗力とで減衰でき、更に磁気粘性流体攪拌用の振動を与えなくても磁性粘性流体がその機能を発揮できる減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、前記スリーブ内に固定されたボールナットと、該ボールナットの雌螺子部と螺合するボールねじと、強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールねじと同軸に接続されて回転駆動されるフライホイールと、前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、を備えたことを特徴とする減衰装置である。
【0008】
請求項2の発明は、先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、前記スリーブ内に固定されたボールねじと、該ボールねじの雄螺子部と螺合するボールナットと、強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールナットと同軸に接続されて回転駆動されるフライホイールと、前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、前記第2のシリンダー内壁に配置され前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、を備えたことを特徴とする減衰装置である。
【0009】
請求項1及び請求項2に記載の減衰装置によれば、加振に起因するスリーブの直線運動は、ボールナット及びボールねじで回転運動に変換され、フライホイールを高速に回転させる。また、フライホイール外周と第2のシリンダー内壁との間の密閉領域に配置された磁性粘性流体は、磁場形成手段がフライホイールを磁気回路の一部として密閉領域を横切るように形成した磁場で粘性を備える。このため、減衰装置は、振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体でフライホイールに加えられる粘性抵抗により減衰する。
このとき、磁場形成手段により磁場の大きさを調整することにより、磁気粘性流体による抵抗を調整できる。また、磁場は強磁性体であるフライホイールを磁気回路の一部として形成され、密閉領域を横切る。このため、密閉領域中の磁性粘性流体の磁性流体は、フライホイールと第2のシリンダーとの間で鎖状に連結し、この鎖状の磁性流体がフライホイールの回転によるせん断を受けフライホイールに粘性抵抗力を与える。
また、磁性粘性流体は、第2のシリンダーとフライホイールの間のわずかな容積の密閉領域に封入されるから、少量でよい。更に、ボールねじ及びボールナットによる直進運動から回転運動への変換に際しての増幅作用により、微小な直進運動でフライホイールが十分に回転し、磁気粘性流体を攪拌する。このため、常時微小な振動しか加えられない状況下の使用でも、突然の加振に対して制振作用を発揮できる。
【0010】
請求項3の発明は、前記第2シリンダーの他端部及び前記スリーブが、外部部材に連結される連結部を備えることを特徴とする。本発明によれば、減衰装置を構造物に配置するに際して、構造物を構成する構造部材を容易に取り付けることができ、構造物の制振を図ることができる。
請求項4の発明は、前記磁場形成手段が、電磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電磁石に加える電流を制御することにより、磁気粘性流体の粘性を調整することができ、これによりフライホイールに加わる抵抗力の大きさを制御でき、減衰装置の減衰特性を、振動特性及び制振対象に最適なものとできる。
【0011】
請求項5の発明は、前記磁場形成手段が、永久磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電源を必要とせず磁気粘性流体に粘性を付与することができ、簡単な構成で構造物の制振を行うことができる。
請求項6の発明は、前記磁場形成手段が、電磁石及び永久磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電磁石に加える電流を制御することにより、磁気粘性流体の粘性を調整することができ、これによりフライホイールに加わる抵抗力の大きさを制御でき、減衰装置の減衰特性を、振動特性及び制振対象に最適なものとできるとともに、永久磁石で磁気粘性流体の磁性体粒子を常時鎖状としてその沈殿を防止することができる。
【0012】
請求項7の発明は、減衰装置において、前記磁場形成手段が、前記第2のシリンダーを磁気回路の一部として、前記密閉領域を横切る磁場を形成することを特徴とする。本発明によれば、磁場形成手段は磁気回路の一部として第2のシリンダーを使用でき、磁場形成のための構成部材の点数を減少でき、磁場形成手段の構成を簡単なものとすることができる。
請求項8の発明は、前記フライホイールが、その外周に凹凸部を備えることを特徴とする。本発明によれば、磁気粘性流体に接触するフライホイールの表面積を大きくできるので、フライホイールが磁気粘性流体から受ける抵抗力を大きくすることができる。
【0013】
請求項9の発明は、前記フライホイールの凹凸部が、該フライホイールの軸方向に順次配列された環状溝部と鍔状凸部とから構成されていることを特徴とする。本発明によれば、フライホイールに凹凸部を形成するに際して、回転するフライホイール母材を旋盤などで切削加工すればよいので、フライホイール製造時の加工が容易になる。
請求項10の発明は、前記密閉領域における前記第2のシリンダーの内壁と、前記フライホイールの外周面との間の寸法が、当該減衰装置の使用時における定常振動に起因するフライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿させない程度に攪拌するのに適した寸法であることを特徴とする。本発明によれば、減衰装置を構造物に配置したとき、常時は構造物の定常振動によるフライホイールの回転で磁気粘性流体が沈殿せず、突然の加振に対しても減衰装置は所定の性能を発揮することができる。
【0014】
請求項11の発明は、構造物の構造部材の間に取り付けられた減衰装置と、該減衰装置の磁場形成手段の磁力を調整する制御手段とを備えることを特徴とする構造物の制振装置である。本発明によれば、制御手段によって磁場形成手段の磁力を調整して、磁気粘性流体がフライホイールに与える抵抗力を変更して、減衰装置の特性を調整することにより、構造物や構造物の振動の特性に応じた最適なものとすることができる。
請求項12の発明は、前記減衰装置及び前記制御手段に電力を供給する無停電電源を備えることを特徴とする。本発明によれば、停電時等、商用電力が供給されない状態であっても構造物の制振装置を正常に作動させることができる。
【0015】
請求項13の発明は、前記建築物の構造部材に配置され、構造部材の振動の状態を検知する加速度計を備え、前記磁力制御手段が、前記加速度計の検出値に基づいて前記磁場形成手段を制御することを特徴とする。本発明によれば、制御手段は、加速度計が検出した構造部材の振動を減衰させるのに最適な減衰力を発揮するよう減衰装置の磁場形成手段を制御し、構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
請求項14の発明は、前記加速度計が、前記減衰装置に対応して配置され、前記制御手段が、前記各減衰装置の磁場形成手段を対応する加速度計の検出値に基づいて制御することを特徴とする。本発明によれば、制御装置は、各減衰装置に対応した加速度計の検出値に基づいて最適な制御を行うことができ、構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
【0016】
請求項15の発明は、前記制御手段が、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することを特徴とする。本発明によれば、外部の地震情報に基づいて減衰装置を動作させることができ、構造物を地震波到来する以前から構造物の振動を減衰させる状態とすることができ、初期振動に対しても効果的な減衰効果を得ることができる。
請求項16の発明は、前記制御手段が、定期的に前記減衰装置の磁場形成手段を駆動して前記密閉領域に磁場を形成させることを特徴とする。本発明によれば、制御手段が磁気粘性流体の定期的に磁場形成手段を駆動するので、磁気粘性流体の磁性体粒子を鎖状としてその沈殿を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る減衰装置によれば、小型でかつ外部から加えられた振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体による調整可能な抵抗力とで所望の特性で減衰でき、更に磁気粘性流体攪拌用の振動を与えなくても磁性粘性流体が所定の機能を発揮する。
また、本発明に係る構造物の制振装置によれば、構造物に配置した減衰装置の減衰特性を当該構造物の特性や加振特性に応じてリアルタイムで調整することができ、構造物及び加振特性に適した制振を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図2】図1の減衰装置の一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図3】図1の減衰装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図5】第3の実施形態に係る減衰装置の断面図である
【図6】第4の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図7】第5の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る構造物の制振装置を示す模式図である。
【図9】本発明の構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。
【図10】本発明の構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。
【図11】本発明の構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。
【図12】従来の減衰装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る減衰装置を図面に基づいて説明する。以下幾つかの例について説明するが、本発明は各実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びその趣旨の範囲内で、多様な改良、変更、変形、置換が可能である。
【0020】
図1は本発明の一つの実施形態に係る減衰装置の断面図、図2は同じく減衰装置の一部を切り欠いて示した斜視図である。
減衰装置1は、第1のシリンダー10及び第2のシリンダー20から構成されるケーシング30と、第1のシリンダー10内に配置されるスリーブ40と、第2のシリンダー20内に配置されるフライホイール50と、第2のシリンダー20内に配置される磁場形成手段60と、を概略備える。
【0021】
第1のシリンダー10は、先端(図1中左方)に先端開口部11を有しかつ他端(同右方)に連通開口部12を有した軸方向貫通穴13を備える円筒形部材である。また、第2のシリンダー20は、第1のシリンダー10の連通開口部12に一端の開口部21を連通させた状態で、第1のシリンダー10の他端部に同一軸心状に固定された中空の部材である。第2のシリンダー20の他端部には、蓋部材22を備え、蓋部材22には、本減衰装置1を設置する構造物等に接続するためのユニバーサルジョイント23が取付られている。ケーシング30は例えば鋼材で一体に構成される。
第1のシリンダー10の軸方向貫通穴13内には、先端開口部11側から先端部を突出させた中空のスリーブ40が軸方向へ進退自在に配置される。スリーブ40は、第1のシリンダー10の軸方向貫通穴13内に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持されている。即ち、スリーブ40は、第1のシリンダー10内に配置されたブッシュ14により外周面を支持されることにより、第1のシリンダー10内を軸方向に進退動可能に支持されるとともに、キー15によって回転ができないように支持される。
【0022】
スリーブ40の先端(図中左方)には、本減衰装置1を設置する構造物等に接続するた取付部材41が固着される。また、スリーブ40の他端部(同右方)の内部にはボールナット42が固着され、ボールナット42には、その雌螺子部と螺合するボールねじ43が挿通されている。ボールねじ43とボールナット42は、減衰装置1を設置した構造物等から加わる振動、衝撃によって、第1のシリンダー10とスリーブ40とが相対的に軸方向移動した時に、この直進運動を高い効率でボールねじ43の回転運動に変換する機能を有する。
ボールねじ43の他端部には、ボールねじ43と同軸に回転軸部材44が連結されている。回転軸部材44は、第2のシリンダー20内部に延長して設けられ、第2のシリンダー20の端部フランジ26(第1のシリンダーとの境界部)の内周に配置されたベアリング24によって回転可能に軸支される。
回転軸部材44には、フライホイール50の軸心部が固定されている。これにより、フライホイール50は、ボールねじ43の回転に伴って一体的に第2のシリンダー20内で回転する。フライホイール50は、鋼鉄などの強磁性体で構成されており、両端に端部小径部51、52を形成した円柱形状部材である。減衰装置1では、フライホイール50の慣性モーメントによりユニバーサルジョイント23と取付部材41との間に負荷される振動の減衰を行う。なお、図1中符号27は、フライホイール組み付け用のナットを示している。
【0023】
また、第2のシリンダー20の内壁とフライホイール50外周との隙間には、密閉領域46が形成される。密閉領域46は、フライホイール50の端部小径部51、52と第2のシリンダー20との間にシール部材47、48を配置して形成される。即ち、一方のシール部材47は、第2のシリンダー20内部に設けた内フランジ部28の内周とフライホイール50の端部小径部51との間に配置され、他のシール部材48は蓋部材22とフライホイール50の他の端部小径部52との間に配置される。また、密閉領域46を形成する第2のシリンダー20の内周壁と、フライホイール50の外周壁とは可能な限り近接するよう構成される。このため、密閉領域46の容積は小さいものとなる。なお、シール部材48及び端部小径部52により、第2のシリンダー20は、端部(図中右側)において閉塞された状態となっている。
【0024】
密閉領域46には、磁気粘性流体49が満たされる。磁気粘性流体(MR流体)は、ベースオイル中に磁性体粒子を混入したものであり、磁場を受けると磁性体粒子が鎖状につながり、せん断変形を受けたり流れを生じた場合に、抵抗力を発生させるものである。この抵抗力の大きさは与える磁場の大きさにより変化し、ある程度までは強い磁場をかければかけるほど上昇する。減衰装置1では、密閉領域46の容積は小さいものであるから、封入される磁気粘性流体49はシリンダー内に磁気粘性流体を封入する従来タイプのものに比べて少量でよい。
また、第2のシリンダー20の内壁には、磁場形成手段60が配置される。磁場形成手段60は、第2のシリンダー20及びフライホイール50を磁気回路の一部として密閉領域46を横切る磁場Mを形成する電磁石である。減衰装置1では、この磁場Mにより密閉領域46内の磁気粘性流体49がフライホイール50に磁気粘性流体49のせん断による抵抗を付与するようにしている。
【0025】
次に磁場形成手段60について説明する。図3は実施形態に係る減衰装置の要部を拡大して示す断面図である。磁場形成手段60は、第2のシリンダー20の内周に配置された複数、例えば4つ並設されたコイル61と、各コイル61の両端に夫々配置され、磁力線を誘導するフェライト材等のヨーク部材62と、コイル61の内径側、かつヨーク部材62の間に配置され、磁力線が通過できない例えばステンレススチール製の非磁性部材63と、ヨーク部材62と非磁性部材63との間で磁気粘性流体をシールするシール部材64とを備えている。
磁場形成手段60において、各コイル61は、各コイル61への通電時に隣接する磁場Mの向きが互いに一致するよう構成されるとともに、第2のシリンダー20及び磁場形成手段60を磁気回路の一部として磁力線が通過する。このため、磁場形成手段60で密閉領域46を横切る磁場Mを形成するに際して構成部材の点数を減じることができる。また磁力線は、密閉領域46以外は強磁性体から成る部材内を通るように構成されるので、密閉領域46を横切る磁場Mを高い効率で形成することができ、少ない電力消費量で強力な磁場を形成することができる。更に、この例では、第2のシリンダー20の内周面,即ち磁場形成手段60とフライホイール50の外周面とを接近して配置しているので、磁場Mをより効率的に密閉領域46内に形成できる。また、磁気粘性流体49による抵抗は、磁気粘性流体の層の厚さが小さいほど大きくなるので、フライホイール50により大きな抵抗を与えることができる。
【0026】
この減衰装置1において、両端の取付部材41とユニバーサルジョイント23とに振動が加わると、この振動の直線運動成分は、ボールナット42とボールねじ43で効率良く回転運動に変換されてフライホイール50を回転させる。磁場形成手段60のコイル61に電流を流しておくと、密閉領域46内の磁気粘性流体49を磁場Mが横切って磁気粘性流体49の磁性体粒子が磁場形成手段60とフライホイール50との間でつながり、フライホイール50の回転で磁性流体粒子の鎖がせん断され、フライホイール50に抵抗を与える。
従って、減衰装置1に加えられる振動は、フライホイール50の慣性モーメントと、フライホイール50の回転に対する磁気粘性流体の抵抗により効果的に減衰される。この際、磁場形成手段60のコイル61に印加する電流を変更することによってフライホイールの磁気粘性流体による抵抗を調整できるので、減衰装置1の減衰特性を所望のものに設定できる。
【0027】
なお、減衰装置1において、密閉領域46における第2のシリンダー20の内壁に配置した磁場形成手段60とフライホイール50の外周面との間の寸法は、減衰装置1の使用時における定常振動に起因するフライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿が生じない程度に攪拌するのに十分な程度に小さい寸法であることが望ましい。例えば減衰装置1を建築物などの構造物に使用するときには、建築物に常時加わる車両の通行振動で減衰装置1のフライホイール50が微小回転する。フライホイール50の微小回転で密閉領域46内の磁気粘性流体49が攪拌され、沈殿していた磁性体粒子がベースオイルに混ざり、磁性粘性流体の性能を発揮できるようになる。フライホイール50と磁場形成手段60との間隔寸法は、実際に使用する建物などの条件により異なるので、実験などにより定める。
【0028】
次に本発明の実施の形態に係る他の減衰装置について説明する。図4は第2の実施形態に係る減衰装置の断面図である。第1の実施形態と同一部位には同一符号を付して説明する。
本実施形態に係る減衰装置71は、第1の実施形態に係る減衰装置1におけるボールナット42とボールねじ43の位置を逆にしたものである。そして、ボールナット42、ボールねじ43の位置の変化に伴う取付部材の形状等を第1の実施形態例と変更している他は第1の実施形態例と同じ構造を備える。
即ち、減衰装置71は、第1のシリンダー10と第2のシリンダー20からなるケーシング30を備え、第1のシリンダー10内にスリーブ40を軸方向へ進退自在に配置している。また、スリーブ40の第2のシリンダー20側にはボールねじ43の一端部をスリーブ40と同軸に固定し、ボールねじ43の雄螺子部をボールナット42の雌螺子部内に螺合し、更にボールナット42を第2のシリンダー20内に配置されたフライホイール50の中心部に同軸状に固定している。
【0029】
フライホイール50の軸方向両端外周と第2のシリンダー20との間に夫々ベアリング72、73、及びシール部材74、75を配置して、フライホイール50を第2のシリンダーによって回転自在に保持するとともに、第2のシリンダー20内壁とフライホイール50外周との間に密閉領域46を形成している。なお、第2のシリンダー20の他端部は蓋部材22で閉塞されている。
第2のシリンダー20内周には、磁場形成手段60を配置するとともに、密閉領域46内には磁気粘性流体49を封入している。
第2の実施形態に係る減衰装置71は、ボールナット42とボールねじ43の位置を交換しただけであるので、第1の実施形態に係る減衰装置1と同じ作用及び効果を有する。
【0030】
次に第3の実施の形態に係る減衰装置について説明する。図5は第3の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置81は、フライホイール82の外周面に凹凸部を形成し、減衰装置81の凹凸部の形状にあわせて磁場形成手段83のヨーク部材84の形状を変更した他は、第1の実施形態例に係るものと同じ構成を備える。
即ち、減衰装置81において、フライホイール82は、フライホイール82の周面に軸方向に沿って所定のピッチで複数の環状溝部85を形成することにより、環状溝部85の間に鍔状凸部86を形成している。また、磁場形成手段83においては、ヨーク部材84が環状溝部85に非接触で入り込むよう内径側に突出させている。
減衰装置81によれば、磁気粘性流体49に接触するフライホイール82の表面積が大きくなるため、磁場形成手段83に同じ電力で磁場を形成した場合であっても、凹凸部を設けない場合に比べてフライホイールが磁気粘性流体から受ける抵抗力を大きくすることができる。また、フライホイール82に凹凸部を形成するに際して、回転するフライホイール母材を旋盤などで切削すれば足りるので、フライホイール製造時の加工が容易になる。なお、凹凸部は、前記環状溝部と鍔状凸部との組合せに限らず、軸方向に沿って凹凸を設ける他、表面積を増すことができる種々の形状を選定することができる。
【0031】
次に第4の実施形態に係る減衰装置について説明する。図6は第4の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置91は、磁場形成手段92として永久磁石93を用いた他は、上述した第1の実施形態例と同じ構造を備える。永久磁石93は、リング状であり、実施例1のコイルに代えて磁場形成手段92の同一部位に配置される。この実施形態に係る減衰装置91によれば、電源等を必要とせず磁気粘性流体に粘性を付与することができ、簡単な構成で制振を行うことができる。
【0032】
次に第5の実施形態に係る減衰装置について説明する。図7は第5の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置101は、磁場形成手段102を永久磁石103とコイル104とから構成したものであり、他の構造は、上述した第1の実施形態例と同じである。減衰装置101において、磁場形成手段102を構成する永久磁石103はリング状であり、コイル104の内側に配置される。永久磁石103は、常時密閉領域46を横切る磁場を常時形成する。このため磁気粘性流体の磁性体粒子が鎖状となり、その沈殿を防止できる。また、減衰装置101では、コイル104に流す電流を調整することにより磁場形成手段102全体での磁場Mの強さを調整し、フライホイール50に加わる粘性抵抗を調整することができる。このため、制振対象に最適な制振特性を得ることができる。
【0033】
次に本発明に係る減衰装置を使用した構造物の制振装置の実施家形態例について説明する。図8は発明の実施形態に係る構造物の制振装置を示す模式図である。この例は、建築物140に前述した第1、第2、第3又は第4の実施形態例に係る減衰装置を設置し、制御手段121で制御するようにしたものである。
この実施形態に係る構造物の制振装置は、地盤141、構造部材142、143に減衰装置111、112、113の一端を接続し、減衰装置111、112、113の他端を連結部材145、146、147、148、149、150に接続している。また、地盤141、構造部材142、143、144に加速度計131、132、133、134を配置し、加速度計131、132、133、134の検出値に基づいて制御手段121が減衰装置111、112、113の磁場形成手段に印加する電流を調整して減衰状態を制御する。更に、制御手段121には、無停電電源(UPS)122を配置し、商用電源の停電時でも制御手段121に電力が供給できるようにしている。
【0034】
この例では、加速度計131、132、133、134で検出した地盤141及び構造部材142、143、144の応答状態に基づいて、減衰装置111、112、113の減衰力を変更し、建物全体としての制振を図ることができる。
なお、減衰装置や加速度計をどのように建築物に配置するかは、適宜変更することができる。図9乃至図11は構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。なお、各例では、各減衰値装置は、前記例と同様に、建築物に配置した加速度計の検出値に基づいて制御手段で制御される。
【0035】
図9に示す例では、減衰装置161、162、163を建築物170の各フロアを構成する地盤171、構造部材172、173、174に対して筋交い状に配置している。
また、図10に示す例では、減衰装置181、182、183により、建築物184の各フロアの構造部材185、186、187と、建築物188の各フロアの構造部材189、190、191をそれぞれ連結している。
更に、図11に示す例は、建物200の免震構造に減衰装置201を使用したものである。この例では、構造物の制振装置として建物200と地盤204との間に積層ゴムアイソレータ202、203を配置し、地盤204と建物200の最下層を構成する構造部材205との間に減衰装置201を配置している。
【0036】
上記各例では、制御手段121は、建築物に配置した加速度計に基づいて減衰装置を制御しているが、制御手段121は、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することができる。これにより、あらかじめ得られる外部の地震情報に基づいて減衰装置の動作を開始し、構造物を地震波到来の以前から振動を減衰させる状態とでき、初期振動に対して効果的な減衰効果を得ることができる。
また、本発明では、実施形態例の制御手段が、定期的に磁場形成手段を駆動して減衰装置の密閉領域に磁場を形成させることができる。これにより、磁場形成手段を駆動させ磁気粘性流体の磁性体粒子を鎖状としてその沈殿を防止することができ、突発的に加えられる地震振動に対して制振装置がその制振性能を発揮できる。
【符号の説明】
【0037】
1 減衰装置、10 第1のシリンダー、11 先端開口部、12 連通開口部、13 軸方向貫通穴、20 第2のシリンダー、21 開口部、30 ケーシング、40 スリーブ、42 ボールナット、43 ボールねじ、44 回転軸部材、46 密閉領域、47、48 シール部材、49 磁気粘性流体、50 フライホイール、60 磁場形成手段、61 コイル、62 ヨーク部材、63 非磁性部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰装置及び構造物の制振装置に関し、更に詳しくは直進運動を回転運動に変換するボールねじ及びボールナットによって回転駆動されるフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体の粘性抵抗を利用した減衰装置、及びこれを用いた構造物の制振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建築構造物や各種機械装置における振動の伝達を抑制する装置として、物体の慣性を利用した制振装置が提案されている。このような制振装置として、小型化を図るために直線運動をフライホイールの回転運動に変換する機構を用い、回転するフライホイールの慣性モーメントを制振に利用するものがある。
特許文献1及び特許文献2には、ボールねじとボールナットとを使用して直線運動を回転運動に変換して、ケース内に配置したフライホイールを回転させるとともに、このフライホイールとケースとの間に例えば合成ゴム等の粘性体を配置したものが記載されている(段落0060、図6参照)。
このような制振装置によれば、ボールねじとボールナットとの組合せによって、微少な並進運動を増幅してフライホイールを高速で回転させて、このフライホイールの慣性モーメントと、フライホイールとケースとの間の粘性抵抗とを制振に利用することができる。
【0003】
また、制振装置として、磁気粘性流体(MR流体)の粘性や摩擦を制振に利用したものが提案されている。特許文献3には、磁気粘性流体を使用した制振装置が記載されている。図12は従来の制振装置の概略構成を示す断面図である。制振装置210は、磁気粘性流体211を満たしたシリンダー212と、シリンダー212内に挿通されて軸方向へ進退自在に支持されたピストンロッド213と、ピストンロッド213の中間部適所に固定されシリンダー212内を仕切るピストン214と、シリンダー212の下部に設けられたバイパス管215と、バイパス管215の軸方向に沿って配置された電磁石等の磁界形成手段216と、を備える。シリンダー212の端部とピストンロッド213の端部には夫々取付部212a、213aが設けられ、各取付部は例えば建造物の異なった部位に取り付けられる。
建造物が地震等によって振動した場合、ピストン214がシリンダー内を軸方向へ移動することにより磁気粘性流体211を付勢し、磁気粘性流体がバイパス管215内を流動する。この際、磁気粘性流体211の磁性体粒子が磁界発生手段216の磁界を受けて鎖状につながることにより磁気粘性流体211の流れに抵抗を生じさせて、前記振動を減衰させる。
このような制振装置210によれば、磁界形成手段である電磁石への電流を制御することにより、磁気粘性流体211による減衰特性を調整し、制振装置210の制振特性を変化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−180492公報
【特許文献2】特開2002−168283公報
【特許文献3】特開平10−184757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1及び特許文献2に記載の制振装置は、加振源からの振動力の伝達と共振振幅とを回転モーメント及び粘性抵抗で抑制し、生じた振動の減衰を早めることができるものの、その減衰特性は一定である。このため、このような減衰装置は、多様な振動特性を有する地震や、複雑な構造物の挙動に柔軟に対応して、効果的な減衰特性を発揮することが難しい。
また、特許文献3に記載の制振装置は、装置が大型となる上、シリンダーに満たすための大量の磁気粘性流体が必要となり、高コストとなる。更に、磁気粘性流体を用いた制振装置では、長期間使用しないと磁気粘性流体のベースオイルに混入された磁性粒子が沈殿するため、再使用に際しては攪拌して磁性流体を散乱させておく必要がある。しかし、特許文献3に記載の制振装置では、微小な振動が加わった程度では磁気粘性流体の流動が少ないため磁気粘性流体が攪拌されにくく、磁性体粒子が沈殿しやすい。このため、磁性体粒子が沈殿した状態から作動させようとしても、磁気粘性流体が所定の性能を発揮しないという問題がある。この不具合は、建築構造物の制振に使用するに際しては、常時建築構造物に加わる振動が微小であるため顕著であり、突然発生する地震に対応できないこととなる。
【0006】
このような事情のもと、建築構造物の制振を行うために小型かつ制振特性の調整ができる制振装置が要望されている。このような制振装置として、上述したフライホイールを使用した制振装置に磁気粘性流体を適用することが考えられるが、これらを単純に組み合わせても十分な制振効果を発揮させることができず、磁気流体と磁場形成手段をどのように配置するかが課題となっている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型でかつ加えられた振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体による調整可能な抵抗力とで減衰でき、更に磁気粘性流体攪拌用の振動を与えなくても磁性粘性流体がその機能を発揮できる減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、前記スリーブ内に固定されたボールナットと、該ボールナットの雌螺子部と螺合するボールねじと、強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールねじと同軸に接続されて回転駆動されるフライホイールと、前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、を備えたことを特徴とする減衰装置である。
【0008】
請求項2の発明は、先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、前記スリーブ内に固定されたボールねじと、該ボールねじの雄螺子部と螺合するボールナットと、強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールナットと同軸に接続されて回転駆動されるフライホイールと、前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、前記第2のシリンダー内壁に配置され前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、を備えたことを特徴とする減衰装置である。
【0009】
請求項1及び請求項2に記載の減衰装置によれば、加振に起因するスリーブの直線運動は、ボールナット及びボールねじで回転運動に変換され、フライホイールを高速に回転させる。また、フライホイール外周と第2のシリンダー内壁との間の密閉領域に配置された磁性粘性流体は、磁場形成手段がフライホイールを磁気回路の一部として密閉領域を横切るように形成した磁場で粘性を備える。このため、減衰装置は、振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体でフライホイールに加えられる粘性抵抗により減衰する。
このとき、磁場形成手段により磁場の大きさを調整することにより、磁気粘性流体による抵抗を調整できる。また、磁場は強磁性体であるフライホイールを磁気回路の一部として形成され、密閉領域を横切る。このため、密閉領域中の磁性粘性流体の磁性流体は、フライホイールと第2のシリンダーとの間で鎖状に連結し、この鎖状の磁性流体がフライホイールの回転によるせん断を受けフライホイールに粘性抵抗力を与える。
また、磁性粘性流体は、第2のシリンダーとフライホイールの間のわずかな容積の密閉領域に封入されるから、少量でよい。更に、ボールねじ及びボールナットによる直進運動から回転運動への変換に際しての増幅作用により、微小な直進運動でフライホイールが十分に回転し、磁気粘性流体を攪拌する。このため、常時微小な振動しか加えられない状況下の使用でも、突然の加振に対して制振作用を発揮できる。
【0010】
請求項3の発明は、前記第2シリンダーの他端部及び前記スリーブが、外部部材に連結される連結部を備えることを特徴とする。本発明によれば、減衰装置を構造物に配置するに際して、構造物を構成する構造部材を容易に取り付けることができ、構造物の制振を図ることができる。
請求項4の発明は、前記磁場形成手段が、電磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電磁石に加える電流を制御することにより、磁気粘性流体の粘性を調整することができ、これによりフライホイールに加わる抵抗力の大きさを制御でき、減衰装置の減衰特性を、振動特性及び制振対象に最適なものとできる。
【0011】
請求項5の発明は、前記磁場形成手段が、永久磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電源を必要とせず磁気粘性流体に粘性を付与することができ、簡単な構成で構造物の制振を行うことができる。
請求項6の発明は、前記磁場形成手段が、電磁石及び永久磁石を備えて構成されることを特徴とする。本発明によれば、電磁石に加える電流を制御することにより、磁気粘性流体の粘性を調整することができ、これによりフライホイールに加わる抵抗力の大きさを制御でき、減衰装置の減衰特性を、振動特性及び制振対象に最適なものとできるとともに、永久磁石で磁気粘性流体の磁性体粒子を常時鎖状としてその沈殿を防止することができる。
【0012】
請求項7の発明は、減衰装置において、前記磁場形成手段が、前記第2のシリンダーを磁気回路の一部として、前記密閉領域を横切る磁場を形成することを特徴とする。本発明によれば、磁場形成手段は磁気回路の一部として第2のシリンダーを使用でき、磁場形成のための構成部材の点数を減少でき、磁場形成手段の構成を簡単なものとすることができる。
請求項8の発明は、前記フライホイールが、その外周に凹凸部を備えることを特徴とする。本発明によれば、磁気粘性流体に接触するフライホイールの表面積を大きくできるので、フライホイールが磁気粘性流体から受ける抵抗力を大きくすることができる。
【0013】
請求項9の発明は、前記フライホイールの凹凸部が、該フライホイールの軸方向に順次配列された環状溝部と鍔状凸部とから構成されていることを特徴とする。本発明によれば、フライホイールに凹凸部を形成するに際して、回転するフライホイール母材を旋盤などで切削加工すればよいので、フライホイール製造時の加工が容易になる。
請求項10の発明は、前記密閉領域における前記第2のシリンダーの内壁と、前記フライホイールの外周面との間の寸法が、当該減衰装置の使用時における定常振動に起因するフライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿させない程度に攪拌するのに適した寸法であることを特徴とする。本発明によれば、減衰装置を構造物に配置したとき、常時は構造物の定常振動によるフライホイールの回転で磁気粘性流体が沈殿せず、突然の加振に対しても減衰装置は所定の性能を発揮することができる。
【0014】
請求項11の発明は、構造物の構造部材の間に取り付けられた減衰装置と、該減衰装置の磁場形成手段の磁力を調整する制御手段とを備えることを特徴とする構造物の制振装置である。本発明によれば、制御手段によって磁場形成手段の磁力を調整して、磁気粘性流体がフライホイールに与える抵抗力を変更して、減衰装置の特性を調整することにより、構造物や構造物の振動の特性に応じた最適なものとすることができる。
請求項12の発明は、前記減衰装置及び前記制御手段に電力を供給する無停電電源を備えることを特徴とする。本発明によれば、停電時等、商用電力が供給されない状態であっても構造物の制振装置を正常に作動させることができる。
【0015】
請求項13の発明は、前記建築物の構造部材に配置され、構造部材の振動の状態を検知する加速度計を備え、前記磁力制御手段が、前記加速度計の検出値に基づいて前記磁場形成手段を制御することを特徴とする。本発明によれば、制御手段は、加速度計が検出した構造部材の振動を減衰させるのに最適な減衰力を発揮するよう減衰装置の磁場形成手段を制御し、構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
請求項14の発明は、前記加速度計が、前記減衰装置に対応して配置され、前記制御手段が、前記各減衰装置の磁場形成手段を対応する加速度計の検出値に基づいて制御することを特徴とする。本発明によれば、制御装置は、各減衰装置に対応した加速度計の検出値に基づいて最適な制御を行うことができ、構造物の振動を効果的に減衰させることができる。
【0016】
請求項15の発明は、前記制御手段が、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することを特徴とする。本発明によれば、外部の地震情報に基づいて減衰装置を動作させることができ、構造物を地震波到来する以前から構造物の振動を減衰させる状態とすることができ、初期振動に対しても効果的な減衰効果を得ることができる。
請求項16の発明は、前記制御手段が、定期的に前記減衰装置の磁場形成手段を駆動して前記密閉領域に磁場を形成させることを特徴とする。本発明によれば、制御手段が磁気粘性流体の定期的に磁場形成手段を駆動するので、磁気粘性流体の磁性体粒子を鎖状としてその沈殿を防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る減衰装置によれば、小型でかつ外部から加えられた振動をフライホイールの慣性モーメントと、磁気粘性流体による調整可能な抵抗力とで所望の特性で減衰でき、更に磁気粘性流体攪拌用の振動を与えなくても磁性粘性流体が所定の機能を発揮する。
また、本発明に係る構造物の制振装置によれば、構造物に配置した減衰装置の減衰特性を当該構造物の特性や加振特性に応じてリアルタイムで調整することができ、構造物及び加振特性に適した制振を効果的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図2】図1の減衰装置の一部を切り欠いて示した斜視図である。
【図3】図1の減衰装置の要部を拡大して示す断面図である。
【図4】第2の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図5】第3の実施形態に係る減衰装置の断面図である
【図6】第4の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図7】第5の実施形態に係る減衰装置の断面図である。
【図8】本発明の実施形態に係る構造物の制振装置を示す模式図である。
【図9】本発明の構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。
【図10】本発明の構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。
【図11】本発明の構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。
【図12】従来の減衰装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る減衰装置を図面に基づいて説明する。以下幾つかの例について説明するが、本発明は各実施の形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲及びその趣旨の範囲内で、多様な改良、変更、変形、置換が可能である。
【0020】
図1は本発明の一つの実施形態に係る減衰装置の断面図、図2は同じく減衰装置の一部を切り欠いて示した斜視図である。
減衰装置1は、第1のシリンダー10及び第2のシリンダー20から構成されるケーシング30と、第1のシリンダー10内に配置されるスリーブ40と、第2のシリンダー20内に配置されるフライホイール50と、第2のシリンダー20内に配置される磁場形成手段60と、を概略備える。
【0021】
第1のシリンダー10は、先端(図1中左方)に先端開口部11を有しかつ他端(同右方)に連通開口部12を有した軸方向貫通穴13を備える円筒形部材である。また、第2のシリンダー20は、第1のシリンダー10の連通開口部12に一端の開口部21を連通させた状態で、第1のシリンダー10の他端部に同一軸心状に固定された中空の部材である。第2のシリンダー20の他端部には、蓋部材22を備え、蓋部材22には、本減衰装置1を設置する構造物等に接続するためのユニバーサルジョイント23が取付られている。ケーシング30は例えば鋼材で一体に構成される。
第1のシリンダー10の軸方向貫通穴13内には、先端開口部11側から先端部を突出させた中空のスリーブ40が軸方向へ進退自在に配置される。スリーブ40は、第1のシリンダー10の軸方向貫通穴13内に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持されている。即ち、スリーブ40は、第1のシリンダー10内に配置されたブッシュ14により外周面を支持されることにより、第1のシリンダー10内を軸方向に進退動可能に支持されるとともに、キー15によって回転ができないように支持される。
【0022】
スリーブ40の先端(図中左方)には、本減衰装置1を設置する構造物等に接続するた取付部材41が固着される。また、スリーブ40の他端部(同右方)の内部にはボールナット42が固着され、ボールナット42には、その雌螺子部と螺合するボールねじ43が挿通されている。ボールねじ43とボールナット42は、減衰装置1を設置した構造物等から加わる振動、衝撃によって、第1のシリンダー10とスリーブ40とが相対的に軸方向移動した時に、この直進運動を高い効率でボールねじ43の回転運動に変換する機能を有する。
ボールねじ43の他端部には、ボールねじ43と同軸に回転軸部材44が連結されている。回転軸部材44は、第2のシリンダー20内部に延長して設けられ、第2のシリンダー20の端部フランジ26(第1のシリンダーとの境界部)の内周に配置されたベアリング24によって回転可能に軸支される。
回転軸部材44には、フライホイール50の軸心部が固定されている。これにより、フライホイール50は、ボールねじ43の回転に伴って一体的に第2のシリンダー20内で回転する。フライホイール50は、鋼鉄などの強磁性体で構成されており、両端に端部小径部51、52を形成した円柱形状部材である。減衰装置1では、フライホイール50の慣性モーメントによりユニバーサルジョイント23と取付部材41との間に負荷される振動の減衰を行う。なお、図1中符号27は、フライホイール組み付け用のナットを示している。
【0023】
また、第2のシリンダー20の内壁とフライホイール50外周との隙間には、密閉領域46が形成される。密閉領域46は、フライホイール50の端部小径部51、52と第2のシリンダー20との間にシール部材47、48を配置して形成される。即ち、一方のシール部材47は、第2のシリンダー20内部に設けた内フランジ部28の内周とフライホイール50の端部小径部51との間に配置され、他のシール部材48は蓋部材22とフライホイール50の他の端部小径部52との間に配置される。また、密閉領域46を形成する第2のシリンダー20の内周壁と、フライホイール50の外周壁とは可能な限り近接するよう構成される。このため、密閉領域46の容積は小さいものとなる。なお、シール部材48及び端部小径部52により、第2のシリンダー20は、端部(図中右側)において閉塞された状態となっている。
【0024】
密閉領域46には、磁気粘性流体49が満たされる。磁気粘性流体(MR流体)は、ベースオイル中に磁性体粒子を混入したものであり、磁場を受けると磁性体粒子が鎖状につながり、せん断変形を受けたり流れを生じた場合に、抵抗力を発生させるものである。この抵抗力の大きさは与える磁場の大きさにより変化し、ある程度までは強い磁場をかければかけるほど上昇する。減衰装置1では、密閉領域46の容積は小さいものであるから、封入される磁気粘性流体49はシリンダー内に磁気粘性流体を封入する従来タイプのものに比べて少量でよい。
また、第2のシリンダー20の内壁には、磁場形成手段60が配置される。磁場形成手段60は、第2のシリンダー20及びフライホイール50を磁気回路の一部として密閉領域46を横切る磁場Mを形成する電磁石である。減衰装置1では、この磁場Mにより密閉領域46内の磁気粘性流体49がフライホイール50に磁気粘性流体49のせん断による抵抗を付与するようにしている。
【0025】
次に磁場形成手段60について説明する。図3は実施形態に係る減衰装置の要部を拡大して示す断面図である。磁場形成手段60は、第2のシリンダー20の内周に配置された複数、例えば4つ並設されたコイル61と、各コイル61の両端に夫々配置され、磁力線を誘導するフェライト材等のヨーク部材62と、コイル61の内径側、かつヨーク部材62の間に配置され、磁力線が通過できない例えばステンレススチール製の非磁性部材63と、ヨーク部材62と非磁性部材63との間で磁気粘性流体をシールするシール部材64とを備えている。
磁場形成手段60において、各コイル61は、各コイル61への通電時に隣接する磁場Mの向きが互いに一致するよう構成されるとともに、第2のシリンダー20及び磁場形成手段60を磁気回路の一部として磁力線が通過する。このため、磁場形成手段60で密閉領域46を横切る磁場Mを形成するに際して構成部材の点数を減じることができる。また磁力線は、密閉領域46以外は強磁性体から成る部材内を通るように構成されるので、密閉領域46を横切る磁場Mを高い効率で形成することができ、少ない電力消費量で強力な磁場を形成することができる。更に、この例では、第2のシリンダー20の内周面,即ち磁場形成手段60とフライホイール50の外周面とを接近して配置しているので、磁場Mをより効率的に密閉領域46内に形成できる。また、磁気粘性流体49による抵抗は、磁気粘性流体の層の厚さが小さいほど大きくなるので、フライホイール50により大きな抵抗を与えることができる。
【0026】
この減衰装置1において、両端の取付部材41とユニバーサルジョイント23とに振動が加わると、この振動の直線運動成分は、ボールナット42とボールねじ43で効率良く回転運動に変換されてフライホイール50を回転させる。磁場形成手段60のコイル61に電流を流しておくと、密閉領域46内の磁気粘性流体49を磁場Mが横切って磁気粘性流体49の磁性体粒子が磁場形成手段60とフライホイール50との間でつながり、フライホイール50の回転で磁性流体粒子の鎖がせん断され、フライホイール50に抵抗を与える。
従って、減衰装置1に加えられる振動は、フライホイール50の慣性モーメントと、フライホイール50の回転に対する磁気粘性流体の抵抗により効果的に減衰される。この際、磁場形成手段60のコイル61に印加する電流を変更することによってフライホイールの磁気粘性流体による抵抗を調整できるので、減衰装置1の減衰特性を所望のものに設定できる。
【0027】
なお、減衰装置1において、密閉領域46における第2のシリンダー20の内壁に配置した磁場形成手段60とフライホイール50の外周面との間の寸法は、減衰装置1の使用時における定常振動に起因するフライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿が生じない程度に攪拌するのに十分な程度に小さい寸法であることが望ましい。例えば減衰装置1を建築物などの構造物に使用するときには、建築物に常時加わる車両の通行振動で減衰装置1のフライホイール50が微小回転する。フライホイール50の微小回転で密閉領域46内の磁気粘性流体49が攪拌され、沈殿していた磁性体粒子がベースオイルに混ざり、磁性粘性流体の性能を発揮できるようになる。フライホイール50と磁場形成手段60との間隔寸法は、実際に使用する建物などの条件により異なるので、実験などにより定める。
【0028】
次に本発明の実施の形態に係る他の減衰装置について説明する。図4は第2の実施形態に係る減衰装置の断面図である。第1の実施形態と同一部位には同一符号を付して説明する。
本実施形態に係る減衰装置71は、第1の実施形態に係る減衰装置1におけるボールナット42とボールねじ43の位置を逆にしたものである。そして、ボールナット42、ボールねじ43の位置の変化に伴う取付部材の形状等を第1の実施形態例と変更している他は第1の実施形態例と同じ構造を備える。
即ち、減衰装置71は、第1のシリンダー10と第2のシリンダー20からなるケーシング30を備え、第1のシリンダー10内にスリーブ40を軸方向へ進退自在に配置している。また、スリーブ40の第2のシリンダー20側にはボールねじ43の一端部をスリーブ40と同軸に固定し、ボールねじ43の雄螺子部をボールナット42の雌螺子部内に螺合し、更にボールナット42を第2のシリンダー20内に配置されたフライホイール50の中心部に同軸状に固定している。
【0029】
フライホイール50の軸方向両端外周と第2のシリンダー20との間に夫々ベアリング72、73、及びシール部材74、75を配置して、フライホイール50を第2のシリンダーによって回転自在に保持するとともに、第2のシリンダー20内壁とフライホイール50外周との間に密閉領域46を形成している。なお、第2のシリンダー20の他端部は蓋部材22で閉塞されている。
第2のシリンダー20内周には、磁場形成手段60を配置するとともに、密閉領域46内には磁気粘性流体49を封入している。
第2の実施形態に係る減衰装置71は、ボールナット42とボールねじ43の位置を交換しただけであるので、第1の実施形態に係る減衰装置1と同じ作用及び効果を有する。
【0030】
次に第3の実施の形態に係る減衰装置について説明する。図5は第3の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置81は、フライホイール82の外周面に凹凸部を形成し、減衰装置81の凹凸部の形状にあわせて磁場形成手段83のヨーク部材84の形状を変更した他は、第1の実施形態例に係るものと同じ構成を備える。
即ち、減衰装置81において、フライホイール82は、フライホイール82の周面に軸方向に沿って所定のピッチで複数の環状溝部85を形成することにより、環状溝部85の間に鍔状凸部86を形成している。また、磁場形成手段83においては、ヨーク部材84が環状溝部85に非接触で入り込むよう内径側に突出させている。
減衰装置81によれば、磁気粘性流体49に接触するフライホイール82の表面積が大きくなるため、磁場形成手段83に同じ電力で磁場を形成した場合であっても、凹凸部を設けない場合に比べてフライホイールが磁気粘性流体から受ける抵抗力を大きくすることができる。また、フライホイール82に凹凸部を形成するに際して、回転するフライホイール母材を旋盤などで切削すれば足りるので、フライホイール製造時の加工が容易になる。なお、凹凸部は、前記環状溝部と鍔状凸部との組合せに限らず、軸方向に沿って凹凸を設ける他、表面積を増すことができる種々の形状を選定することができる。
【0031】
次に第4の実施形態に係る減衰装置について説明する。図6は第4の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置91は、磁場形成手段92として永久磁石93を用いた他は、上述した第1の実施形態例と同じ構造を備える。永久磁石93は、リング状であり、実施例1のコイルに代えて磁場形成手段92の同一部位に配置される。この実施形態に係る減衰装置91によれば、電源等を必要とせず磁気粘性流体に粘性を付与することができ、簡単な構成で制振を行うことができる。
【0032】
次に第5の実施形態に係る減衰装置について説明する。図7は第5の実施形態に係る減衰装置の断面図である。減衰装置101は、磁場形成手段102を永久磁石103とコイル104とから構成したものであり、他の構造は、上述した第1の実施形態例と同じである。減衰装置101において、磁場形成手段102を構成する永久磁石103はリング状であり、コイル104の内側に配置される。永久磁石103は、常時密閉領域46を横切る磁場を常時形成する。このため磁気粘性流体の磁性体粒子が鎖状となり、その沈殿を防止できる。また、減衰装置101では、コイル104に流す電流を調整することにより磁場形成手段102全体での磁場Mの強さを調整し、フライホイール50に加わる粘性抵抗を調整することができる。このため、制振対象に最適な制振特性を得ることができる。
【0033】
次に本発明に係る減衰装置を使用した構造物の制振装置の実施家形態例について説明する。図8は発明の実施形態に係る構造物の制振装置を示す模式図である。この例は、建築物140に前述した第1、第2、第3又は第4の実施形態例に係る減衰装置を設置し、制御手段121で制御するようにしたものである。
この実施形態に係る構造物の制振装置は、地盤141、構造部材142、143に減衰装置111、112、113の一端を接続し、減衰装置111、112、113の他端を連結部材145、146、147、148、149、150に接続している。また、地盤141、構造部材142、143、144に加速度計131、132、133、134を配置し、加速度計131、132、133、134の検出値に基づいて制御手段121が減衰装置111、112、113の磁場形成手段に印加する電流を調整して減衰状態を制御する。更に、制御手段121には、無停電電源(UPS)122を配置し、商用電源の停電時でも制御手段121に電力が供給できるようにしている。
【0034】
この例では、加速度計131、132、133、134で検出した地盤141及び構造部材142、143、144の応答状態に基づいて、減衰装置111、112、113の減衰力を変更し、建物全体としての制振を図ることができる。
なお、減衰装置や加速度計をどのように建築物に配置するかは、適宜変更することができる。図9乃至図11は構造物の制振装置における減衰装置の取付例を示す模式図である。なお、各例では、各減衰値装置は、前記例と同様に、建築物に配置した加速度計の検出値に基づいて制御手段で制御される。
【0035】
図9に示す例では、減衰装置161、162、163を建築物170の各フロアを構成する地盤171、構造部材172、173、174に対して筋交い状に配置している。
また、図10に示す例では、減衰装置181、182、183により、建築物184の各フロアの構造部材185、186、187と、建築物188の各フロアの構造部材189、190、191をそれぞれ連結している。
更に、図11に示す例は、建物200の免震構造に減衰装置201を使用したものである。この例では、構造物の制振装置として建物200と地盤204との間に積層ゴムアイソレータ202、203を配置し、地盤204と建物200の最下層を構成する構造部材205との間に減衰装置201を配置している。
【0036】
上記各例では、制御手段121は、建築物に配置した加速度計に基づいて減衰装置を制御しているが、制御手段121は、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することができる。これにより、あらかじめ得られる外部の地震情報に基づいて減衰装置の動作を開始し、構造物を地震波到来の以前から振動を減衰させる状態とでき、初期振動に対して効果的な減衰効果を得ることができる。
また、本発明では、実施形態例の制御手段が、定期的に磁場形成手段を駆動して減衰装置の密閉領域に磁場を形成させることができる。これにより、磁場形成手段を駆動させ磁気粘性流体の磁性体粒子を鎖状としてその沈殿を防止することができ、突発的に加えられる地震振動に対して制振装置がその制振性能を発揮できる。
【符号の説明】
【0037】
1 減衰装置、10 第1のシリンダー、11 先端開口部、12 連通開口部、13 軸方向貫通穴、20 第2のシリンダー、21 開口部、30 ケーシング、40 スリーブ、42 ボールナット、43 ボールねじ、44 回転軸部材、46 密閉領域、47、48 シール部材、49 磁気粘性流体、50 フライホイール、60 磁場形成手段、61 コイル、62 ヨーク部材、63 非磁性部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、
前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、
前記スリーブ内に固定されたボールナットと、
該ボールナットの雌螺子部と螺合するボールねじと、
強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールねじと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、
前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、
前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、
前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、
を備えたことを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、
前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、
前記スリーブ内に固定されたボールねじと、
該ボールねじの雄螺子部と螺合するボールナットと、
強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールナットと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、
前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、
前記第2のシリンダー内壁に配置され前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、
前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、
を備えたことを特徴とする減衰装置。
【請求項3】
前記第2シリンダーの他端部及び前記スリーブに、それぞれ外部部材に連結される連結部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記磁場形成手段が、電磁石を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項5】
前記磁場形成手段が、永久磁石を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項6】
前記磁場形成手段が、電磁石、及び永久磁石を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項7】
前記磁場形成手段が、前記第2のシリンダーを磁気回路の一部として、前記密閉領域を横切る磁場を形成することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項8】
前記フライホイールが、その外周に凹凸部を備えていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項9】
前記フライホイールの凹凸部が、該フライホイールの軸方向に順次配列された環状溝部と鍔状凸部とから構成されていることを特徴とする請求項7に記載の減衰装置。
【請求項10】
前記密閉領域における前記第2のシリンダーの内壁と、前記フライホイールの外周面との間の寸法が、当該減衰装置の使用時における定常振動に起因するフライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿させない程度に攪拌するのに適した寸法であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項11】
構造物の構造部材の間に取り付けられた請求項1乃至10の何れか一項に記載の減衰装置と、該減衰装置の磁場形成手段の磁力を調整する制御手段と、を備えたことを特徴とする構造物の制振装置。
【請求項12】
前記減衰装置及び前記制御手段に電力を供給する無停電電源を備えたことを特徴とする請求項11に記載の構造物の制振装置。
【請求項13】
前記構造物の振動の状態を検知する加速度計を備え、
前記磁力制御手段が、前記加速度計の検出値に基づいて前記磁場形成手段を制御することを特徴とする請求項12に記載の構造物の制振装置。
【請求項14】
前記加速度計が、前記減衰装置に対応して配置され、
前記制御手段が、前記各減衰装置の磁場形成手段を対応する加速度計の検出値に基づいて制御することを特徴とする請求項13に記載の構造物の制振装置。
【請求項15】
前記制御手段が、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することを特徴とする請求項11又は12に記載の構造物の制振装置。
【請求項16】
前記制御手段が、定期的に前記減衰装置の磁場形成手段を駆動して前記密閉領域に磁場を形成させることを特徴とする請求項11乃至15の何れか一項に記載の構造物の制振装置。
【請求項1】
先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、
前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、
前記スリーブ内に固定されたボールナットと、
該ボールナットの雌螺子部と螺合するボールねじと、
強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールねじと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、
前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、
前記第2のシリンダー内壁に配置され、前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、
前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、
を備えたことを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
先端に先端開口部を有しかつ他端に連通開口部を有した軸方向貫通穴を備えた第1のシリンダー、及び前記連通開口部に一端の開口部を連通させた状態で該第1のシリンダーの他端部に同一軸心状に固定されかつ他端が閉塞された中空の第2のシリンダーを備えたケーシングと、
前記第1のシリンダーの前記先端開口部内に嵌合して前記軸方向貫通穴に回転不能かつ軸方向へ進退自在に支持された中空のスリーブと、
前記スリーブ内に固定されたボールねじと、
該ボールねじの雄螺子部と螺合するボールナットと、
強磁性体材料で形成され、前記第2のシリンダーの中空内部に回転自在に配置されるとともに、前記ボールナットと同軸に固定されて回転駆動されるフライホイールと、
前記第2のシリンダー内壁と前記フライホイール外周との隙間に密閉領域を形成するシール部材と、
前記第2のシリンダー内壁に配置され前記フライホイールを磁気回路の一部として前記密閉領域を横切る磁場を形成する磁場形成手段と、
前記密閉領域内に封入される磁気粘性流体と、
を備えたことを特徴とする減衰装置。
【請求項3】
前記第2シリンダーの他端部及び前記スリーブに、それぞれ外部部材に連結される連結部を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の減衰装置。
【請求項4】
前記磁場形成手段が、電磁石を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項5】
前記磁場形成手段が、永久磁石を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項6】
前記磁場形成手段が、電磁石、及び永久磁石を備えていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項7】
前記磁場形成手段が、前記第2のシリンダーを磁気回路の一部として、前記密閉領域を横切る磁場を形成することを特徴とする請求項1乃至6の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項8】
前記フライホイールが、その外周に凹凸部を備えていることを特徴とする請求項1乃至7の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項9】
前記フライホイールの凹凸部が、該フライホイールの軸方向に順次配列された環状溝部と鍔状凸部とから構成されていることを特徴とする請求項7に記載の減衰装置。
【請求項10】
前記密閉領域における前記第2のシリンダーの内壁と、前記フライホイールの外周面との間の寸法が、当該減衰装置の使用時における定常振動に起因するフライホイールの回転によって、封入された磁気粘性流体を沈殿させない程度に攪拌するのに適した寸法であることを特徴とする請求項1乃至9の何れか一項に記載の減衰装置。
【請求項11】
構造物の構造部材の間に取り付けられた請求項1乃至10の何れか一項に記載の減衰装置と、該減衰装置の磁場形成手段の磁力を調整する制御手段と、を備えたことを特徴とする構造物の制振装置。
【請求項12】
前記減衰装置及び前記制御手段に電力を供給する無停電電源を備えたことを特徴とする請求項11に記載の構造物の制振装置。
【請求項13】
前記構造物の振動の状態を検知する加速度計を備え、
前記磁力制御手段が、前記加速度計の検出値に基づいて前記磁場形成手段を制御することを特徴とする請求項12に記載の構造物の制振装置。
【請求項14】
前記加速度計が、前記減衰装置に対応して配置され、
前記制御手段が、前記各減衰装置の磁場形成手段を対応する加速度計の検出値に基づいて制御することを特徴とする請求項13に記載の構造物の制振装置。
【請求項15】
前記制御手段が、外部の地震情報に基づいて前記減衰装置を制御することを特徴とする請求項11又は12に記載の構造物の制振装置。
【請求項16】
前記制御手段が、定期的に前記減衰装置の磁場形成手段を駆動して前記密閉領域に磁場を形成させることを特徴とする請求項11乃至15の何れか一項に記載の構造物の制振装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−184816(P2012−184816A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49151(P2011−49151)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(591280197)株式会社構造計画研究所 (59)
【出願人】(000001890)三和テッキ株式会社 (134)
【Fターム(参考)】
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