説明

減衰装置

【課題】全長を所定の長さに保ちつつ、可動範囲がより大きい減衰装置を提供する。
【解決手段】支持構造物100と減衰対象物101との相対移動を減衰させる減衰装置1であって、シリンダー部10a,10bとピストンロッド部20a,20bとを含むダンパー5a,5bを複数有し、ピストンロッド部20a,20bがシリンダー部10a,10bに対して移動する移動方向が所定の方向であるダンパー5aを1つ以上含む第1ダンパー群と、移動方向が所定の方向と反対の方向であるダンパー5bを1つ以上含む第2ダンパー群と、を備え、各ダンパー5a,5bが、移動方向と直交する方向において、並列に配置され、第1ダンパー群の減衰力の重心の方向と、第2ダンパー群の減衰力の重心の方向とが、同一線上にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、一組のシリンダーとピストンロッドを備える制振用のダンパーが知られている。例えば、特許文献1には、両端において支持構造物と制振対象とにそれぞれ接続可能であって、支持構造物と制振対象との振動を減衰させる減衰力が得られるダンパーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−213515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ダンパーが圧縮力により最も短くなった状態と引張力により最も長くなった状態との差分をダンパーの可動範囲と定義すると、特許文献1に記載のダンパーでは、シリンダー長に対するダンパーの可動範囲の比率は、最大でも1である。すなわち、振幅の大きな振動を制振するためには、大きな可動範囲が必要である。そうするとシリンダー長も長くなり、ダンパーの全長も長くなる。
【0005】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、全長を所定の長さに保ちつつ、可動範囲がより大きい減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第1の発明は、支持構造物と減衰対象物との相対移動を減衰させる減衰装置であって、シリンダー部とピストンロッド部とを含むダンパーを複数有し、前記ピストンロッド部が前記シリンダー部に対して移動する移動方向が所定の方向である前記ダンパーを1つ以上含む第1ダンパー群と、前記移動方向が前記所定の方向と反対の方向である前記ダンパーを1つ以上含む第2ダンパー群と、を備え、各前記ダンパーが、前記移動方向と直交する方向において、並列に配置され、前記第1ダンパー群の減衰力の重心の方向と、前記第2ダンパー群の減衰力の重心の方向とが、同一線上にあることを特徴とする減衰装置である。
第1の発明によれば、全長を所定の長さに保ちつつ、可動範囲がより大きい減衰装置を提供することができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明に記載の減衰装置であって、各前記ダンパーは、減衰力がそれぞれ等しく、かつ前記ピストンロッド部及び前記シリンダー部の前記移動方向長さがそれぞれ等しいことを特徴とする減衰装置である。
第2の発明によれば、ピストンロッド部及びシリンダー部の移動方向長さをそろえることで、可動範囲がより大きい減衰装置を提供することができる。
【0008】
第3の発明は、第1又は第2の発明に記載の減衰装置であって、前記第1ダンパー群が有する減衰力と、前記第2ダンパー群が有する減衰力とが同じ大きさであることを特徴とする減衰装置である。
第3の発明によれば、各ダンパーの減衰力をそろえることで、可動範囲がより大きい減衰装置を提供することができる。
【0009】
第4の発明は、第1又は第2の発明に記載の減衰装置であって、前記第1ダンパー群の減衰力と、前記第2ダンパー群の減衰力とが異なる大きさであることを特徴とする減衰装置である。
第4の発明によれば、ピストンロッド部とシリンダー部の相対的位置に応じて、異なる減衰力を有する減衰装置を提供することができる。すなわち、第4の発明によれば、減衰装置が連続的に引張力を受けたときは、前記少なくとも一つの前記ダンパーと前記その他の前記ダンパーのうち減衰力の小さい方のダンパー群がまず「最も長い状態」に到達し、その後は減衰力の大きい方のダンパー群のみが作動する。したがって、減衰装置の減衰力は、減衰力の小さい方のダンパー群が「最も長い状態」に到達するまでよりも、最も長い状態に到達した後の方が大きくなる。
同様に、減衰装置が連続的に圧縮力を受けたときは、前記ダンパーと前記その他の前記ダンパーのうち減衰力の小さい方のダンパー群がまず「最も短い状態」に到達し、その後は減衰力の大きい方のダンパー群のみが作動する。したがって、減衰装置の減衰力は、減衰力の小さい方のダンパー群が「最も短い状態」に到達するまでよりも、最も短い状態に到達した後の方が大きくなる。
【0010】
第5の発明は、第1〜第4の発明の何れかに記載の減衰装置であって、前記第1ダンパー群又は前記第2ダンパー群は、複数のダンパーであり、前記複数のダンパーの各前記ピストンロッド部の端を一体化する剛部材と、前記剛部材を前記支持構造物又は前記減衰対象物に対して連結して任意の方向に回動可能とするピン部材と、を備えることを特徴とする減衰装置である。
第5の発明によれば、支持構造物と減衰対象物がそれぞれ上方向と下方向の外力を受けて、減衰装置が支持構造物に取付けられた取付位置と、減衰装置が減衰対象物に取付けられた取付位置との高さに差異が生じても、ジョイント部が回動することによって、その高さの差異を調整することができる。
【0011】
第6の発明は、第1〜第4の発明の何れかに記載の減衰装置であって、前記第1ダンパー群の前記ピストンロッド部の端部は、前記支持構造物又は前記減衰対象物に連結され、前記第2ダンパー群の前記ピストンロッド部の端部は、前記端部を前記移動方向と交差する所定の方向にスライド可能とするスライド部材を介して、前記支持構造物又は前記減衰対象物に連結されることを特徴とする減衰装置である。
第6の発明によれば、支持構造物又は減衰対象物が水平方向の外力を受けて、減衰装置が支持構造物に取付けられた取付位置と、減衰装置が減衰対象物に取付けられた取付位置との間に水平方向のずれが生じても、各ピストンロッド部の端部がスライド部材に対してスライドすることによって、その水平方向のずれを調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る減衰装置によれば、全長を所定の長さに保ちつつ、可動範囲がより大きい減衰装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】第1実施形態の減衰装置1を上から見た外観を模式的に示す図である。
【図2】ダンパー5の構成を示す説明図である。
【図3】ジョイント部70を矢印X方向から見た図である。
【図4A】各ダンパー5が圧縮力を受けて最も短くなった状態を示す図である。
【図4B】各ダンパー5が引張力を受けて最も長くなった状態を示す図である。
【図4C】各ダンパー5のピストン22がシリンダー部10の中心に位置する状態を示す図である。
【図5】支持構造物100又は減衰対象物101がそれぞれ水平方向であってダンパー5の移動方向と交差する方向の外力を受けて、減衰装置1が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置1が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に水平方向位置にずれが生じた場合を示す図である。
【図6A】ダンパー110が引張力を受けて最も長くなった状態を示す。
【図6B】ダンパー110が圧縮力を受けて最も短くなった状態を示す図である。
【図6C】ダンパー110のピストン122がシリンダー111の中心に位置する状態を示す図である。
【図7】ダンパー520を二つ備える減衰装置200を示す図である。
【図8A】第2実施形態の減衰装置2を上から見た外観を模式的に示す図である。
【図8B】支持構造物又は減衰対象物が水平方向の外力を受けて、減衰装置2が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置2が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に水平方向のずれが生じた場合を示す図である。
【図9】シリンダー固定部材80の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
===第1実施形態===
図1は、第1実施形態の減衰装置1を上から見た外観を模式的に示す図である。同図に示すように、減衰装置1は同じ減衰性能を有する5本のダンパー5を備える。なお、同図では、説明を簡略化させるために、減衰装置1においてはダンパー5を水平方向に直列に5本配置したが、これに限られるものではない。さらに、減衰装置1は、ユニットリング40、剛部材60、ジョイント部70を備え、各ダンパー5を連結する。
【0015】
図2は、ダンパー5の構成を示す説明図である。同図に示すように、ダンパー5は、シリンダー部10、ピストンロッド部20、油管30を有する。
【0016】
シリンダー部10は、外形及び内形ともに円筒形であって、内部には油が充填される油室12を備える。減衰装置1が有する5本のダンパー5は、同じシリンダー部10外径を有する。
【0017】
ピストンロッド部20は、シリンダー部10に軸線方向(「移動方向」に相当)に出入り自在に移動する。ピストンロッド部20のシリンダー部10内にある一端にはピストン22が設けられる。ピストン22は、シリンダー部10の内部に内接し、シリンダー部10の内部の油室12を油室12Aと油室12Bとに画定する。ピストンロッド部20は、ピストン22が設けられていない別の端において剛部材60に連結する。
【0018】
ピストンロッド部20は、圧縮方向に荷重がかかると、矢印a方向に移動し、引張方向に荷重がかかると、矢印b方向に移動する。
【0019】
油管30は、油室12Aと油室12Bを連通させる管である。ダンパー5に圧縮方向の荷重がかかることによってピストン22が矢印a方向に移動すると、油室12Aの油が油管30を介して油室12Bに移動する。また、ダンパー5に引張方向の荷重がかかることによってピストン22が矢印b方向に移動すると、油室12Bの油が油管30を介して油室12Aに移動する。
【0020】
ユニットリング40は、5本のダンパー5を外側から相互に連結させる部材である。図1においては、ユニットリング40の一例として5本のダンパー5の外側から束ねるように巻きつけて固定するリングを示す。また、リングに加えて、各ダンパー5が相互に移動しないように、各シリンダー部10を相互に溶接することによって強固に固定する。なお、油管30が他のダンパー5との接合面にあたらないように、配置され固定される。
【0021】
図1に示すように、2本のダンパー5a(「第1ダンパー群」に相当)は、ピストンロッド部20aが支持構造物100側に突き出る方向(「所定の方向」に相当)に配置される。また、3本のダンパー5b(「第2ダンパー群」に相当)は、ピストンロッド部20bが減衰対象物101側に突き出る方向(「反対の方向」に相当)に配置される。このように、ダンパー5aとダンパー5bは、移動方向が正反対となるように配置される。
【0022】
剛部材60は、図1に示すように、それぞれ四角形の板状の部材であって、ボルト等の留め具(不図示)を通すための留め具孔(不図示)を有し、各ピストンロッド部20の端部をそれぞれ留め具で固定する。更に、剛部材60は、それぞれ取付孔(不図示)を有し、剛部材60がそれぞれ支持構造物100又は減衰対象物101に取付孔(不図示)に通したボルトを介して連結する。
【0023】
ジョイント部70は、図1に示すように、取付側ブラケット75aとピストンロッド側ブラケット75bを備え、剛部材60と支持構造物100とを回動可能に連結する。取付側ブラケット75aは、支持構造物100又は減衰対象物101に対して取付け可能となっており、ピストンロッド側ブラケット75bは、剛部材60のピストンロッド部20が連結する面の反対側に連結する。
【0024】
図3は、ジョイント部70を矢印X方向から見た図である。同図に示すように、ジョイント部70の継手部材は、取付側ブラケット75aの軸棒75cがピストンロッド側ブラケット75bの貫通孔75dを貫通することによって、取付側ブラケット75aとピストンロッド側ブラケット75bは相互に回動可能である。また、貫通孔75dの内径は、軸棒75cの外径よりも大きく、遊び部分があるので、第1取付側ブラケット75aとピストンロッド側ブラケット75bは、軸棒75cを回転軸として回転する回転方向のみならず、この回転方向からずれた方向W(図3の矢印Wに示す方向)にも回動可能である。
なお、減衰装置1には大きな荷重がかかるので、各部材はそうした荷重に耐えられるように構成される。
【0025】
図4A〜図4Cは、減衰装置1の動きを説明するための説明図である。これらの図では、説明を簡略化させるために、減衰装置1におけるダンパー5aとダンパー5bをそれぞれ1本ずつのみ示す。
【0026】
図4Aは、各ダンパー5が圧縮力を受けて最も短くなった状態を示す図である。すなわち、各ダンパー5のピストンロッド部20がシリンダー部10にほぼ納まっており、このときの減衰装置1の全長はシリンダー長Lとほぼ同じになる。
【0027】
また、図4Bは、各ダンパー5が引張力を受けて最も長くなった状態を示す図である。すなわち、ピストンロッド部20はピストン22を除いてシリンダー部10からほとんど露出しており、このときの減衰装置1の全長はシリンダー長Lの3倍になる。図4Aの状態と図4Bの状態における減衰装置1の全長の差分は、2Lとなる。すなわち、減衰装置1の可動範囲は2Lである。
【0028】
図4Cは、各ダンパー5のピストン22がシリンダー部10の中心に位置する状態を示す図である。通常、減衰装置1が構造物に取り付けられるとき(取り付け時)の長さは同図に示すように全長が2Lとなる。すなわち、全長が2Lの状態で取り付けられる減衰装置1の可動範囲は2Lであり、減衰装置1の該全長に対する可動範囲の比率は1である。
【0029】
図5は、支持構造物100又は減衰対象物101がそれぞれ水平方向であってダンパー5の移動方向と交差する方向の外力を受けて、減衰装置1が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置1が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に水平方向位置にずれが生じた場合を示す図である。同図に示すように、支持構造物100との取付位置と、減衰対象物101との取付位置との間に水平方向位置にずれが生じた場合、ジョイント部70が回動する。
【0030】
以上、第1実施形態の減衰装置1によれば、全長を所定の長さに保ちつつ、可動範囲がより大きい減衰装置1を提供することができる。
【0031】
図6A〜図6Cは、従来から知られているダンパー110の概略図である。図6Aは、ダンパー110が引張力を受けて最も長くなった状態を示す。このとき、シリンダー長をLとするとダンパー110の全長は2Lである。
【0032】
図6Bは、ダンパー110が圧縮力を受けて最も短くなった状態を示す図である。このとき、シリンダー長をLとするとダンパー110の全長はLである。すなわち、ダンパー110の可動範囲はLである。
【0033】
図6Cは、ダンパー110のピストンロッド部112が有するピストン122がシリンダー111の中心に位置する状態を示す図である。通常、ダンパー110が構造物に取り付けられるときの長さは同図に示すように全長が3L/2となる。すなわち、全長が3L/2の状態で取り付けられるダンパー110の可動範囲はLであり、ダンパー110の全長に対する可動範囲の比率は2/3である。
【0034】
このように、減衰装置1とダンパー110を比較すると、取り付け時の全長に対する可動範囲の比率は、減衰装置1の方が大きい。
【0035】
また、第1実施形態の減衰装置1によれば、減衰装置1が各ダンパー5aと各ダンパー5bを介してそれぞれ受けた外力は、減衰装置1全体では相殺される。すなわち、2本のダンパー5aが受けた外力の重心aは2本のダンパー5aの軸心の中央に位置するダンパー5b’の軸心にあり、また3本のダンパー5bの外力の重心bもダンパー5b’の軸心にある。すなわち、重心aと重心bは同一線上にある。減衰装置1は複数のダンパー5を備えるが全体として受けた外力を相殺でき、減衰装置1全体ではねじれの力は生じない。
【0036】
一方で、図7は、ダンパー220を二つ備える減衰装置200を示す図である。同図に示すように、ダンパー220aとダンパー220bのそれぞれが受けた外力は、同一線上にないので、相殺されない。したがって、減衰装置200においては矢印mで示すような回転方向の力が生じ、減衰装置200はこの回転方向の力にも耐えうるねじり剛性が必要となる。
【0037】
よって、減衰装置1と減衰装置200を比較すると、減衰装置1は全体として2つの外力を相殺できるが、減衰装置200は全体として2つの外力を相殺できない。したがって、減衰装置1は減衰装置200よりも大きな外力に耐えうる。
【0038】
また、第1実施形態の減衰装置1のダンパー5には既製品のダンパー5を用いてもよい。そうすれば、各ダンパー5が同じ性能かつ同じ形状をしているので、減衰装置1全体としてのバランスがよくなり、減衰装置1は大きな荷重に耐えられる。さらに、減衰装置1は安価に大量生産できる。
【0039】
また、第1実施形態の減衰装置1によれば、減衰装置1が移動方向の外力を受けると、3本のダンパー5bを有する5b側の方が2本のダンパー5aを有する5a側よりも大きな減衰性能を有することから、減衰装置1は可変減衰機能を有する。すなわち、2本のダンパー5aが「最も長くなった状態」又は「最も短くなった状態」に至る場合とは、減衰装置1が大きな外力を受けているということであり、減衰機能を果たせる許容範囲の限界に近づいている場合である。こうした場合には、減衰装置1の減衰力が大きくなるように設定することにより、減衰装置1の許容範囲の限界を越えないようにすることができる。
【0040】
すなわち、減衰装置1が圧縮方向の外力を受け続けると、減衰力の小さい2本のダンパー5aが、減衰力の大きい3本のダンパー5bよりも大きく縮み、2本のダンパー5aは3本のダンパー5bよりも先に「最も短くなった状態」となる。その後は3本のダンパー5bのみが縮み続けるが、このときは5本のダンパー5が縮んでいたときに比べて減衰力が大きくなる。すなわち、減衰装置1は、2本のダンパー5aが「最も短くなった状態」になるまでよりも、2本のダンパー5aが「最も短くなった状態」になった後の方が、減衰力は大きい。
【0041】
同様に、減衰装置1が引張方向の外力を受け続けると、減衰力の小さい2本のダンパー5aが、減衰力の大きい3本のダンパー5bよりも大きく伸びるので、2本のダンパー5aは3本のダンパー5bよりも先に「最も長くなった状態」となる。その後は3本のダンパー5bのみが伸び続けるが、このときは5本のダンパー5が伸びていたときに比べて減衰力が大きくなる。すなわち、減衰装置1は、2本のダンパー5aが「最も長くなった状態」になるまでよりも、2本のダンパー5aが「最も長くなった状態」になった後の方が、減衰力は大きい。
【0042】
また、減衰装置1によれば、支持構造物100又は減衰対象物101がそれぞれ水平方向であってダンパー5の移動方向と交差する方向の外力を受けて、減衰装置1が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置1が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に水平方向位置にずれが生じた場合、ジョイント部70が回動することによって、その位置のずれを調整することができる。
【0043】
また、減衰装置1によれば、支持構造物100又は減衰対象物101がそれぞれ上下方向の外力を受けて、減衰装置1が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置1が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に上下方向位置にずれが生じた場合、ジョイント部70が回動することによって、その位置のずれを調整することができる。すなわち、貫通孔75dの内径は、軸棒75cの外径よりも大きく、遊び部分があるので、第1取付側ブラケット75aとピストンロッド側ブラケット75bは、軸棒75cを回転軸として回転する回転方向のみならず、この回転方向からずれた上下方向にも回動可能である。
【0044】
減衰装置1は、例えば原子力発電所の免震システムに用いることができる。すなわち、原子力発電所は巨大な構造物であるので、地震による揺れを制御するためには大きな減衰力が必要である。したがって、数十から数百の減衰装置を設置する必要があるので、減衰装置はコンパクトであること、現場での施工が簡単であること、安価かつ丈夫であることが望ましい。減衰装置1は、こうした要求を満たしており、原子力発電所の免震システムに用いることができる。
【0045】
===第2実施形態===
図8Aは、第2実施形態の減衰装置2を上から見た外観を模式的に示す図である。同図に示すように、減衰装置2は、第1実施形態と同様、同じ減衰性能を有する複数のダンパー5を備える。減衰装置2の各ダンパー5は相互に連結される。減衰装置2は、剛部材62を有する。各ダンパー5のピストンロッド部20の端部は、ピン部材90又はスライド部材95を介して剛部材62に連結される。
【0046】
ダンパー5aのピストンロッド部20aは、シリンダー10aから左側に突き出る。ピン部材90は、剛部材62aに連結され、上下方向にのみ回動可能にピストンロッド部20aの端部と剛部材62aとを連結する。剛部材62aは、支持構造物100に取付孔(不図示)に通したボルト(不図示)を介して連結する。
【0047】
ダンパー5bのピストンロッド部20bは、シリンダー10bから右側に突き出る。スライド部材95は、ピストンロッド部20b側にピン96を、剛部材62b側(すなわち取付側)にルーズ孔97を備えるピン受部を有し、ピン結合する。ピン96は、ピストンロッド部20bの端部に固定され、水平方向が長手方向になるように設けられたルーズ孔97においてスライド可能となっている。スライド部材95は、ピストンロッド部20bの端部と剛部材62bとをスライド可能に連結する。なお、スライド部材95は、上下方向に遊びを有し、ピン96が上下方向に回動可能となっている。剛部材62bは、減衰対象物101に取付孔(不図示)に通したボルト(不図示)を介して連結する。
【0048】
以上、第2の実施形態の減衰装置2によれば、支持構造物又は減衰対象物が水平方向の外力を受けて、減衰装置2が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置2が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に水平方向のずれが生じても、各ピストンロッド部20bの端部がスライド部材95に対してスライドすることによって、減衰装置として機能する方向に直交する水平方向のずれが生じても減衰装置の機能を発揮することができる。図8Bは、支持構造物又は減衰対象物が水平方向の外力を受けて、減衰装置2が支持構造物100に取付けられた取付位置と、減衰装置2が減衰対象物101に取付けられた取付位置との間に水平方向のずれが生じた場合を示す図である。同図に示すように、各ピストンロッド部20bの端部がスライド部材95に対してスライドすることによって、その水平方向のずれを調整することができる。なお、このとき、剛部材62aに位置する2つのピストンロッド部20aのピストン22aは、ピストン22aの移動方向の垂直面方向において同一面(図8Bの矢印で示す位置)に位置することができる。また、剛部材62bに位置する3つのピストンロッド部20bのピストン22bは、ピストン22bの移動方向の垂直面方向において同一面(図8Bの矢印で示す位置)に位置することができる。したがって、各ピストン22aを含む各ダンパー5aはそれぞれ同じタイミングで同じ大きさの減衰力を発揮することができ、また各ピストン22bを含む各ダンパー5bはそれぞれ同じタイミングで同じ大きさの減衰力を発揮することができることから、減衰装置2は装置全体の減衰力のバランスを維持しつつ減衰力を発揮できる。すなわち、減衰装置2は、水平方向のずれが生じても、装置全体の減衰力のバランスが維持できるので、図7に示したような回転方向の力の発生を防止できる。
【0049】
また、第2の実施形態によれば、減衰装置2がピストンロッド部20の移動方向に外力を受けないときには、5つのダンパー5の各ピストン22は、移動方向の垂直面方向において同一面(図8Bの矢印で示す位置)に位置することができる。したがって、減衰装置2が支持構造物に取付けられた取付位置と、減衰装置7が減衰対象物に取付けられた取付位置との間に水平方向のずれが生じても、設置当初の可動範囲を維持することができる。
【0050】
また、スライド部材95は、上下方向について回動可能である。これにより、三次元の方向成分(例えば、ピストンロッド部20の移動方向、上下方向、水平方向)を含む振動に対しても対応可能となる。
【0051】
また、ピン部材90は、水平方向について回動不可である。これにより、地震等の震動が収まった後には、各ピストンロッド部20の端部は、スライド部材95において、震動前の所定の位置に納まる。
【0052】
また、第2の実施形態によれば、剛部材62を備えることにより、ピン部材90及びスライド部材95を個別に取付ける必要がなく、剛部材62によってまとめて取付けられるので、工事現場での作業を迅速かつ容易にすることができる。加えて、予めピン部材90及びスライド部材95が剛部材62に取付けられているので、ピン部材90とスライド部材95との取付け間隔、及びスライド部材95相互の取付け間隔など、取付位置について高い精度を確保できる。
【0053】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0054】
例えば、ダンパー5については図2において一例を示したが、これに限られず、特許文献1に開示されたダンパー等であってもよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、ダンパー5には同じ減衰性能、同じ大きさ、同じ形状のものを用いることとしたが、ダンパー5には異なる減衰性能、異なる大きさ、異なる形状のものを用いてもよい。
【0056】
また、ダンパー5の配置について、図1及び図7では、5本のダンパー5を水平方向に配列したが、鉛直方向に配列してもよく、また、水平方向及び鉛直方向に重ねて配列してもよい。例えば、7本のダンパー5を正六角形状となるように配置しても良い(後述する図9参照)。この場合、中心に位置するダンパー5以外の外周部に配置された6本のダンパー5については相互に移動方向が反対となるように配置してもよい。
【0057】
また、ダンパー5は、リングや溶接によって固定されたが、シリンダー固定部材80によって固定されても良い。図9は、シリンダー固定部材80の構成を示す図である。同図に示すように、シリンダー固定部材80は、シリンダー格納部82を備え、各シリンダー格納部82は相互に連結される。シリンダー格納部82の内側は、シリンダー部10が隙間なく格納できるようにシリンダー部10の外形に対応した形状である。そして、ダンパー5に圧縮力が働く時は、圧縮方向側の各シリンダー格納部82の底部84に圧縮力が働き、ダンパー5に引張力が働く時は、引張方向側(ピストンロッド部20側)の各シリンダー格納部82と一体に形成された押さえ鍔等の引抜き防止具86に引張力が働いて引き抜きを防止するようになっている。
【0058】
このようにシリンダー固定部材80によれば、各ダンパー5を各シリンダー格納部82に格納することによって、減衰装置1を効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、2、200 減衰装置
5、110、220 ダンパー
10、111 シリンダー部
12 油室
20、112 ピストンロッド部
22、122 ピストン
30 油管
40 ユニットリング
60、62 剛部材
70 ジョイント部
75a 取付側ブラケット
75b ピストンロッド側ブラケット
75c 軸棒
75d 貫通孔
80 シリンダー固定部材
82 シリンダー格納部
84 底部
86 引抜き防止具
90 ピン部材
95 スライド部材
96 ピン
97 ルーズ孔
100 支持構造物
101 減衰対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持構造物と減衰対象物との相対移動を減衰させる減衰装置であって、
シリンダー部とピストンロッド部とを含むダンパーを複数有し、
前記ピストンロッド部が前記シリンダー部に対して移動する移動方向が所定の方向である前記ダンパーを1つ以上含む第1ダンパー群と、
前記移動方向が前記所定の方向と反対の方向である前記ダンパーを1つ以上含む第2ダンパー群と、を備え、
各前記ダンパーが、前記移動方向と直交する方向において、並列に配置され、
前記第1ダンパー群の減衰力の重心の方向と、前記第2ダンパー群の減衰力の重心の方向とが、同一線上にあることを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰装置であって、
各前記ダンパーは、
減衰力がそれぞれ等しく、かつ
前記ピストンロッド部及び前記シリンダー部の前記移動方向長さがそれぞれ等しいことを特徴とする減衰装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の減衰装置であって、
前記第1ダンパー群が有する減衰力と、前記第2ダンパー群が有する減衰力とが同じ大きさであることを特徴とする減衰装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の減衰装置であって、
前記第1ダンパー群の減衰力と、前記第2ダンパー群の減衰力とが異なる大きさであることを特徴とする減衰装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の減衰装置であって、
前記第1ダンパー群又は前記第2ダンパー群は、複数のダンパーであり、
前記複数のダンパーの各前記ピストンロッド部の端を一体化する剛部材と、
前記剛部材を前記支持構造物又は前記減衰対象物に対して連結して任意の方向に回動可能とするピン部材と、
を備えることを特徴とする減衰装置。
【請求項6】
請求項1〜4の何れかに記載の減衰装置であって、
前記第1ダンパー群の前記ピストンロッド部の端部は、前記支持構造物又は前記減衰対象物に連結され、
前記第2ダンパー群の前記ピストンロッド部の端部は、前記端部を前記移動方向と交差する所定の方向にスライド可能とするスライド部材を介して、前記支持構造物又は前記減衰対象物に連結される
ことを特徴とする減衰装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−281394(P2010−281394A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135450(P2009−135450)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(307041573)三菱FBRシステムズ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】