説明

減衰装置

【課題】オイルダンパ等の減衰要素の移動限界を超えるような地震動が発生した際に、減衰要素の破損を防ぐ。
【解決手段】上部構造体1の下部構造体3に対する水平方向の相対変位が減衰要素30に入力されることにより減衰要素30が生じる減衰力に基づいて相対変位を低減する減衰装置である。相対変位が許容範囲内の場合には、上部構造体側滑り部70及び下部構造体側滑り部60のうちで摩擦力が大きい方の滑り部では相対滑りをせずに、摩擦力が小さい方の滑り部で相対滑りをすることにより、摩擦力が大きい方の滑り部を介して減衰要素30には相対変位が入力されて、減衰要素30は速やかに相対変位を低減する。一方、許容範囲を超えた場合には、上部構造体側滑り部70及び下部構造体側滑り部60のうちで前記摩擦力が大きい方の滑り部で相対滑りをし、これにより、減衰要素30への前記相対変位の入力は阻止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震建物等が具備する上部構造体と下部構造体との間に介装されて、これら構造体同士の間の水平方向の相対変位(水平振動)を低減する減衰装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、免震建物には免震層が使用されている。免震層は、例えば、鉛直荷重を支持する積層ゴム等の免震支承体と、オイルダンパ等の減衰要素と、を備えている。そして、地震時には、免震支承体が、その小さな水平剛性に基づき建物周期を長周期化して建物への地震動の入力を軽減し、また、減衰要素が建物の水平振動を減衰する。
【0003】
免震建物に使用される代表的な減衰要素として、オイルダンパが挙げられる。オイルダンパは、シリンダと、シリンダ内を2つのシリンダ室に区画するピストンと、を有する。そして、シリンダは、例えば建物に係る上部構造体に連結され、ピストンは同下部構造体に連結され、これにより、上部構造体と下部構造体との間の水平方向の相対変位がオイルダンパに入力される。すると、当該相対変位に基づいてピストンはシリンダ内を水平方向に移動するが、その際にはシリンダ内のオイルが、ピストンのオリフィスを通って2つのシリンダ室間を相互に移動し、このオリフィス通過時の粘性抵抗力を減衰力として用いて、上部構造体と下部構造体との間の水平振動を減衰する(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−248520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、ピストンは、上記の水平方向の移動に係り許容ストローク長を有する。つまり、機械的な移動限界(ストロークエンド)を有している。そのため、当該移動限界の範囲内においては、入力される前記相対変位に応じてピストンはシリンダ内を速やかに水平移動するが、移動限界に達するとそれ以上の移動はできず、仮にそれ以上無理に移動させようとすると、オイルダンパの破損の虞がある。
よって、オイルダンパの設計段階においては、オイルダンパに入力され得る水平方向の相対変位の想定値に安全率を掛け合わせる等して、ピストンの許容ストローク長を決めている。
【0006】
しかしながら、近年、従来想定を超える規模の巨大地震や長周期地震動の発生が懸念されている。そして、かかる地震が起きた場合には、従来想定を超える水平振幅の地震動が免震層に作用することになるが、その際には、オイルダンパにも許容ストローク長を超える相対変位が入力され、場合によってはオイルダンパは破損する。
ここで、かかるオイルダンパの破損を避ける一案として、許容ストローク長を更に拡大することが考えられる。しかし、大ストローク化は大幅なコストアップを招く。そのため、現状の許容ストローク長を維持しつつ、それを超えるような相対変位に対してはフェールセーフ機能を作用させて当該相対変位のオイルダンパへの入力を防ぐ方法の方が得策と考えられる。
【0007】
本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、オイルダンパ等の減衰要素の許容ストローク長を超えるような地震動が発生した際に、減衰要素の破損を防止可能なフェールセーフ機構を有した減衰装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するために請求項1に示す発明は、
上部構造体とその下方の下部構造体との間に介装された減衰要素を有し、前記上部構造体の前記下部構造体に対する水平方向の相対変位が前記減衰要素に入力されることにより前記減衰要素が生じる減衰力に基づいて前記相対変位を低減する減衰装置において、
前記減衰要素に前記相対変位が入力されるようにすべく、前記減衰要素を前記上部構造体に連結する第1連結部と、前記減衰要素を前記下部構造体に連結する第2連結部と、を有し、
前記第1連結部及び前記第2連結部のうちの少なくとも一方の連結部は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対して水平方向に相対滑り可能に構成された連結部支持部材を介して、連結されるべき構造体に連結され、
前記連結部支持部材が前記上部構造体に対して相対滑りをするために設けられた上部構造体側滑り部の摩擦力の大きさと、前記連結部支持部材が前記下部構造体に対して相対滑りをするために設けられた下部構造体側滑り部の摩擦力の大きさとは互いに相違し、
前記相対変位の大きさが、前記減衰要素に入力可能な許容範囲内の場合には、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部のうちで摩擦力が大きい方の滑り部では相対滑りをせずに、摩擦力が小さい方の滑り部で相対滑りをすることにより、前記摩擦力が大きい方の滑り部を介して前記減衰要素への前記相対変位の入力が行われ、
前記相対変位の大きさが前記許容範囲を超えた場合には、前記摩擦力が大きい方の滑り部で相対滑りをすることにより、前記減衰要素への前記相対変位の入力が行われないことを特徴とする。
【0009】
上記請求項1に示す発明によれば、相対変位が前記許容範囲内の場合には、上部構造体側滑り部及び下部構造体側滑り部のうちで摩擦力が大きい方の滑り部では相対滑りをせずに、摩擦力が小さい方の滑り部で相対滑りをすることにより、前記摩擦力が大きい方の滑り部を介して減衰要素には前記相対変位が入力されて、当該減衰要素は速やかに前記相対変位を低減する。一方、前記許容範囲を超えた場合には、上部構造体側滑り部及び下部構造体側滑り部のうちで前記摩擦力が大きい方の滑り部で相対滑りをし、これにより、減衰要素への前記相対変位の入力は阻止される。よって、前記許容範囲を超える過大な相対変位の減衰装置への入力は有効に防止され、その破損は未然に防止される。
【0010】
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の減衰装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体との間に上下方向隙間が形成されるように、前記下部構造体上には前記上部構造体を免震支承する免震支承体が配置されており、
前記上下方向隙間に前記連結部支持部材は前記免震支承体と並列に介装され、
前記連結部支持部材における前記上部構造体側滑り部と前記下部構造体側滑り部との間に、これらと直列に、鉛直方向に圧縮された弾性部材が介装されることにより、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部には、それぞれ、前記摩擦力の発生に必要な垂直抗力が付与されることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、上部構造体側滑り部及び下部構造体側滑り部のうちで、上述の相対変位が許容範囲を超えた場合に相対滑りを起こすべき滑り部に対して大きな摩擦力を生じさせることができる。その結果、当該大きな摩擦力によって、相対変位が前記許容範囲内の場合に、減衰要素に確実に相対変位を入力可能となる。
【0011】
ここで、上記のように大きな摩擦力を生じさせることができる理由は、次の通りである。上記構成によれば、先ず、上部構造体と下部構造体との間の上下方向隙間に前記連結部支持部材は介装され、そして、当該連結部支持部材における上部構造体側滑り部と下部構造体側滑り部との間には、これらと直列に、圧縮状態の弾性部材が介装されている。よって、上記滑り部が大きな摩擦力を発生するために必要な垂直抗力の反力を、前記弾性部材は、上部構造体及び下部構造体から取得することができて、その結果、当該弾性部材は、その大きな弾発力でもって、前記滑り部に大きな摩擦力を生じさせることが可能となる。
【0012】
請求項3に示す発明は、請求項2に記載の減衰装置であって、
前記弾性部材は皿ばねであり、
前記皿ばねの圧縮量は、所定範囲内の任意値に設定されており、
前記所定範囲における前記皿ばねの圧縮変形量に対する弾発力の変動量は、前記所定範囲の両側に隣り合う範囲よりも低いことを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、皿ばねの圧縮量は、上記のような所定範囲に設定されている。よって、上部構造体と下部構造体との間の上下方向隙間の大きさが変動した場合でも、当該変動を、前記皿ばねが、その弾発力を大きく変動させることなく吸収する。よって、上部構造体側滑り部及び下部構造体側滑り部に発生させるべき摩擦力の大きさを略一定に保つことができて、フェールセーフ機能の作動の安定化を図れる。
【0013】
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の減衰装置であって、
前記第1連結部及び前記第2連結部のうちで前記連結部支持部材を介して連結されていない方の連結部は、前記上部構造体及び前記下部構造体のうちで、前記摩擦力が小さい方の滑り部により前記連結部支持部材が相対滑りをすべき構造体に対して水平方向の相対移動不能に連結されていることを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、連結部支持部材の数を減らすことができるので、装置構成の簡略化やコスト削減を図れる。
【0014】
請求項5に示す発明は、請求項1乃至3の何れかに記載の減衰装置であって、
前記連結部支持部材は、前記第1連結部及び前記第2連結部のそれぞれに対して一つずつ設けられ、
前記第1連結部及び前記第2連結部のうちの一方の連結部が連結される連結部支持部材に係る上部構造体側滑り部には、滑り支承が使用されるとともに、下部構造体側滑り部には、前記滑り支承よりも摩擦力の小さい転がり支承が使用され、
前記第1連結部及前記2連結部のうちの他方の連結部が連結される連結部支持部材に係る下部構造体側滑り部には、滑り支承が使用されるとともに、上部構造体側滑り部には、前記滑り支承よりも摩擦力の小さい転がり支承が使用されることを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、第1連結部及び第2連結部の両者に対して各々連結部支持部材が設けられ、これにより、これら両者にはそれぞれフェールセーフ機能が付与される。よって、減衰要素の破損の危険を格段に低減することができる。
【0015】
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5の何れかに記載の減衰装置であって、
前記相対変位の大きさが前記許容範囲内の場合には、前記相対変位が入力されることにより前記減衰要素が発生する減衰力と、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部のうちで摩擦力の小さい方の滑り部の相対滑りによる摩擦力と、によって、前記相対変位を低減し、
前記相対変位の大きさが前記許容範囲を超えた場合には、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部のうちで摩擦力の大きい方の滑り部の相対滑りによる摩擦力によって前記相対変位を低減することを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、前記許容範囲を超えた場合の減衰要素が減衰力を発生しない状態においても、前記摩擦力の大きい方の滑り部が相対滑りをし、これによる摩擦力によって前記相対変位を低減することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、減衰要素の移動限界を超えるような地震動が発生した場合でも、減衰要素の破損を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態の減衰装置が適用された免震層10の概略側面図である。
【図2】図2A及び図2Bは、フェールセーフ機構50の動作説明図である。
【図3】皿ばね54の弾発力−圧縮量関係のグラフである。
【図4】第1変形例の減衰装置が適用された免震層10の概略側面図である。
【図5】第2変形例の減衰装置が適用された免震層10の概略側面図である。
【図6】第3変形例の減衰装置が適用された免震層10の概略側面図である。
【図7】その他の実施形態の減衰装置が適用された免震層10の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
===本実施形態===
図1は、建物1の免震層10の概略側面図であり、一部を破断して示している。
免震層10は、上部構造体としての建物1と、下部構造体としての基礎3との間の上下方向隙間Gに介装されている。免震層10は、建物1と基礎3との水平方向の相対変位を許容しつつ建物1の重量を支持する免震支承体20と、建物1と基礎3との水平方向の相対変位を減衰する減衰要素30と、を有する。そして、これら免震支承体20と減衰要素30とは、互いに並列に前記上下方向隙間Gに介装されている。
【0019】
免震支承体20は、例えば積層ゴム(金属板とゴム板とを上下に交互に積み重ねて接合一体化したもの)であり、その上面及び下面が、それぞれ建物1及び基礎3に固定されている。そして、建物1と基礎3との間の水平方向の相対変位に伴って、積層ゴム20が水平方向に剪断弾性変形する。
【0020】
なお、剪断弾性変形に伴って積層ゴム20には変形方向と逆向きの弾発力が生じるが、当該弾発力は、基礎3上の所定の基準位置から変位した建物1を前記基準位置へと復帰させるための復元力として機能する。つまり、積層ゴム20は、建物1を基準位置へと復帰させるための復元部材としても機能する。ちなみに、当該復元部材を、別途ばね部材を追設して構成しても良いし、あるいは、ばね部材に置換して構成しても良い。なお、積層ゴム20をコイルばね等のばね部材に置換する場合は、別途建物を支承する支承体として、転がり支承等が前記上下方向隙間Gに介装される。
【0021】
減衰要素30は、例えばオイルダンパ30である。オイルダンパ30は、シリンダ32と、シリンダ32内を2つのシリンダ室32a,32bに区画するピストン34と、これらシリンダ室32a,32bに封入されたオイルと、ピストン34に貫通形成されて前記2つのシリンダ室32a,32bを連通するオリフィス34aと、を有する。また、シリンダ32は、シリンダ側連結部36(第2連結部に相当)によって基礎3に連結される一方、ピストン34は、ピストン側連結部38(第1連結部に相当)を介して建物1に連結され、これにより、建物1と基礎3との水平方向の相対変位がオイルダンパ30に入力される。
【0022】
よって、建物1と基礎3とが水平振動すると、その相対変位はオイルダンパ30に入力されて、ピストン34はシリンダ32内を水平方向に移動するが、その際にはシリンダ32内のオイルが、ピストン34のオリフィス34aを通って2つのシリンダ室32a,32b間を相互に移動し、このオリフィス34a通過時の粘性抵抗力を減衰力として用いて、建物1と基礎3との水平振動を減衰する。
【0023】
但し、前述したように、オイルダンパ30のピストン34は、水平方向の移動に係る許容範囲として許容ストローク長を有している。例えば、シリンダ32は、シリンダ室32a,32bを区画する一対の蓋部32c,32dをシリンダ軸方向の両端に具備しているが、ピストン34にとっては、これら蓋部32c,32dが移動限界(ストロークエンド)となり、つまり、ピストン34は、これら蓋部32c,32dと突き当たらない範囲(物理的にぶつからない範囲)でしか水平方向に移動することができない。そのため、かかる許容ストローク長を超えるような大きさの相対変位がオイルダンパ30に入力されると、当該オイルダンパ30は破損の虞がある。
【0024】
そこで、本実施形態に係るオイルダンパ30では、ピストン34と建物1とを連結するピストン側連結部38に対してフェールセーフ機構50を追設しており、これによって、上記問題を解決している。すなわち、建物1と基礎3との相対変位の大きさが、オイルダンパ30の許容ストローク長以内の場合には、ピストン34と建物1とを相対移動不能に連結する一方、許容ストローク長を超えた場合には、ピストン34と建物1との前記相対移動不能な連結を解除する。これにより、オイルダンパ30への過大な相対変位の入力を未然に防止する。
【0025】
なお、同様のフェールセーフ機構50を、後述する変形例(図6を参照)のように、シリンダ32と基礎3とを連結するシリンダ側連結部36に対して適用しても良いが、図1の例では装置構成の簡略化やコスト削減を図るべく、このシリンダ側連結部36に対しては適用せずに通常の連結構造を用いている。すなわち、基礎3とシリンダ32とは、例えばクレビス36と連結ピン37とを有する一般的な連結構造によって、常に水平方向に相対移動不能に連結された状態となっている。
【0026】
以下、図1を参照しつつ、ピストン側連結部38に追設されるフェールセーフ機構50について詳細に説明する。
ピストン側連結部38は、例えば、ピストン34の軸端に設けられた例えばクレビス38を有する。
他方、フェールセーフ機構50は、建物1と基礎3との間の上下方向隙間Gに前記免震支承体20と並列に介装されて、建物1と基礎3との両者に対して水平方向に相対滑り可能に構成された本体部材52(連結部支持部材に相当)を有する。そして、この本体部材52には、連結ピン39等によってピストン34の前記クレビス38が相対移動不能に連結されており、これにより、本体部材52を介してピストン34は建物1に連結されている。
【0027】
ここで、本体部材52の基礎3に対する相対すべり動作は、本体部材52の下面と基礎3の上面との間に介装された下部構造体側滑り部によって行われ、この下部構造体側滑り部には、転がり支承60が適用されている。すなわち、基礎3の上面には、水平な滑り面62aを有した滑り板62がボルト等により固定される一方、本体部材52の下面には、鋼球等の複数のコロ部材64を収容した容器部材66がボルト等により固定されている。そして、コロ部材64は滑り面62aを転動可能な状態に配置されており、これにより、これらの間の摩擦係数μ1は例えば0<μ1<0.01の範囲にあって、その摩擦力は概ね無視できるレベルになっている。よって、基礎3に対しては、本体部材52は円滑に相対滑りするように構成されている。
【0028】
一方、本体部材52の建物1に対する相対滑り動作は、建物1の下面と本体部材52の上面との間に介装された上部構造体側滑り部によって行われ、この上部構造体側滑り部には、滑り支承70が適用されている。すなわち、建物1の下面には、水平な滑り面72aを有した滑り板72がボルト等により固定される一方、本体部材52の上面には、摩擦板74がボルト等により固定されている。そして、摩擦板74の摩擦面74aと滑り面72aとは面接触状態にされていて、これらの間の摩擦係数μ2は例えば0.1<μ2<0.3の範囲にある。よって、これらの間には、上述の転がり支承60よりも大きい所定レベルの静止摩擦力Fsが生じており、これにより、この静止摩擦力Fs未満の外力の作用では、本体部材52は、建物1に対して相対滑りしないが、当該静止摩擦力Fsを超える外力が作用すると、本体部材52は、建物1に対して相対滑りをするようになっている。
【0029】
また、この本体部材52は、その内部に、弾性部材として皿ばね54を有し、当該皿ばね54によって、転がり支承60や滑り支承70に対して上述の摩擦力に必要な垂直抗力を付与する。詳しくは、当該皿ばね54は、転がり支承60及び滑り支承70との間に、これらに対して直列に圧縮状態で介装されており、これにより、鉛直方向の弾発力を上記垂直抗力として転がり支承60及び滑り支承70に安定的に付与する。
【0030】
よって、当該皿ばね54の弾発力の設定によって、上述の滑り支承70の静止摩擦力Fsの大きさが下式1の関係を満足するように調整することにより、本体部材52には、フェールセーフ機能が付与される。
【0031】
オイルダンパの減衰力の最大値<静止摩擦力<オイルダンパの破損限界荷重…(1)
図2A及び図2Bは、上式1の関係に設定されたフェールセーフ機構50の動作説明図である。
【0032】
先ず、図2Aに示すように、相対変位がオイルダンパ30の許容ストローク長以内の場合には、摩擦力の小さい転がり支承60の方では円滑に相対滑りをし、これにより、本体部材52と基礎3とは速やかに相対滑りをする。しかし、滑り支承70の方では、その静止摩擦力Fsがオイルダンパ30の減衰力よりも大きいことから相対滑りをせずに、これにより、建物1と本体部材52とは相対移動不能に連結された状態となっている。よって、当該本体部材52及びピストン側連結部38を介してオイルダンパ30には、基礎3に対する建物1の相対変位が入力され、この相対変位に基づいてオイルダンパ30は当該相対変位を低減する。
【0033】
これに対して、相対変位がオイルダンパ30の許容ストローク長を超えた場合には、例えば図2Bに示すようにピストン34がシリンダ32の蓋部32cに突き当たることになるが、この時、前述の式1に基づけば、突き当たった際のオイルダンパ30の破損限界荷重よりも、滑り支承70の静止摩擦力Fsの方が小さいはずである。よって、オイルダンパ30が破損するよりも先に、滑り支承70の相対滑りが開始されて、つまり建物1と本体部材52との相対移動不能な連結状態が解除され、これにより、オイルダンパ30への過大な相対変位の入力が阻止される。その結果、オイルダンパ30の破損が未然に防止される。ちなみに、この相対変位が前記許容ストローク長を超えた場合には、オイルダンパ30のピストン34が移動しなくなるので、転がり支承60の方の相対滑りも停止する。
【0034】
また、オイルダンパ30への相対変位の入力が停止されてオイルダンパ30が減衰力を生じなくなった後には、図2Bに示すように、滑り支承70の相対滑りによる動摩擦力Faが減衰力として働く。よって、フェールセーフ機構50の作動に伴ってオイルダンパ30が機能しなくなった後においても、本実施形態の減衰装置によれば、滑り支承70の動摩擦力Faに基づいて減衰作用を有効に奏することができる。
【0035】
ところで、望ましくは、図1に示す皿ばね54の圧縮量を、図3に示す皿ばね54の弾発力−圧縮量関係における非線形範囲、つまり、皿ばね54の圧縮量の変動に対する弾発力の変動の小さい範囲に設定すると良い。このようにすれば、皿ばね54の圧縮量に対する弾発力の変動量は、当該非線形範囲の両側に隣り合う範囲a,bよりも低くなる。よって、図1の免震支承体20のクリープ現象や気温変動による膨張収縮等の経時変化に起因して上述の上下方向隙間Gの大きさが変化する場合であっても、皿ばね54の弾発力変動を小さく抑えることができて、滑り支承70の静止摩擦力Fsをほぼ一定に維持できる。その結果、高い再現性でもって、破損限界荷重への到達前に滑り支承70に相対滑りを開始させることができて、つまり、フェールセーフ機能の作動の安定化を図ることができる。
【0036】
図4は、本実施形態に係る減衰装置の第1変形例の説明図である。上述の実施形態では、フェールセーフ機構50の本体部材52に対して一つのオイルダンパ30を連結していたが、この第1変形例は、一つの本体部材52に対して複数の一例として二台のオイルダンパ30,30を連結している点で相違し、それ以外の構成は同じである。よって、同一の構成については同じ符号を付して、その説明は省略する。
【0037】
図4に示すように、この第1変形例では、一つの本体部材52を前記相対変位の方向に関して挟む位置に、一対のオイルダンパ30が、それぞれそのシリンダ軸方向を前記相対変位の方向に揃えて配置されているとともに、各オイルダンパ30,30とも、そのピストン側連結部38が本体部材52に相対移動不能に連結されている。これにより、本体部材52は、どちらのオイルダンパ30に対してもフェールセーフ機能を発揮する。従って、このような構成によれば、オイルダンパ30の設置数に対する本体部材52の設置数を半減させることができてコストダウンを図ることができる。
【0038】
図5は、本実施形態に係る減衰装置の第2変形例の説明図である。上述の実施形態では、図1のように、上部構造体としての建物1とオイルダンパ30との連結にフェールセーフ機構50を適用し、下部構造体としての基礎3とオイルダンパ30との連結には通常の連結構造(つまり、水平方向に相対移動不能に連結する連結構造)を適用していたが、この第2変形例では、この適用関係を逆にしている点で相違する。すなわち、建物1とオイルダンパ30との連結には通常の連結構造を適用し、基礎3とオイルダンパ30との連結にはフェールセーフ機構50を適用している。
【0039】
詳しく説明すると、建物1と連結されるピストン側連結部38に対しては、通常の連結構造を用いている。すなわち、建物1とピストン34とは、例えばクレビス38と連結ピン39とを有する一般的な連結構造によって、常に水平方向に相対移動不能に連結された状態となっている。
【0040】
一方、基礎3と連結されるシリンダ側連結部36に対しては、フェールセーフ機構50が追設されている。すなわち、シリンダ32のクレビス36は、連結ピン37によってフェールセーフ機構50の本体部材52に連結されている。但し、この場合には、本体部材52における転がり支承60と滑り支承70との上下配置関係が、図1の場合とは逆、つまり上下反転している。具体的には、本体部材52と建物1との間に介装され、これら同士が相対滑り動作を行うための上部構造体側滑り部には、転がり支承60が使用され、また、基礎3と本体部材52との間に介装され、本体部材52が基礎3との間で相対滑り動作を行うための下部構造体側滑り部には、滑り支承70が使用されている。
【0041】
なお、ここで、このように基礎3側に摩擦力の大きい滑り支承70を配置し、建物1側に摩擦力の小さい転がり支承60を配置している理由は、建物1とオイルダンパ30の連結は、上述のピストン側連結部38によってなされるが、基礎3とオイルダンパ30との連結は、本体部材52を介してなされるからである。すなわち、建物1と基礎3との間の相対変位が許容ストローク長の範囲内の場合には、当該相対変位がオイルダンパ30に入力されなければならないが、そのためには、基礎3との連結につき、大きな静止摩擦力によって本体部材52と基礎3との相対滑りを停止状態に維持する必要があるためである。
【0042】
図6は、本実施形態に係る減衰装置の第3変形例の説明図である。この第3変形例は、図1の本実施形態と図5の第2変形例とを組み合わせたものである。つまり、上部構造体としての建物1とオイルダンパ30との連結にフェールセーフ機構50を適用し、且つ、下部構造体としての基礎3とオイルダンパ30との連結にもフェールセーフ機構50を適用している。なお、以下では、これら一対のフェールセーフ機構50,50を区別すべく、一方の機構50の符号に「a」を付し、他方の機構50の符号には「b」を付すことにする。そして、これは、当該フェールセーフ機構50に関連する部材、例えば本体部材52等についても同様である。
【0043】
以下、第3変形例について詳説すると、先ず、ピストン34のクレビス38は、連結ピン39によって一対のフェールセーフ機構50a,50bのうちの一方のフェールセーフ機構50aの本体部材52aに連結されており、他方、シリンダ32のクレビス36は、連結ピン37によってもう一方のフェールセーフ機構50bの本体部材52bに連結されている。
【0044】
但し、これら一対の本体部材52a,52b同士においては、互いに、転がり支承60と滑り支承70との上下配置関係が、逆になっている。すなわち、一方の本体部材52aの方では、建物1との間に配置される上部構造体側滑り部として滑り支承70aが配置され、基礎3との間に配置される下部構造体側滑り部として転がり支承60aが配置されているが、これに対して、他方の本体部材52bの方では、建物1との間に配置される上部構造体側滑り部として転がり支承60bが配置され、基礎3との間に配置される下部構造体側滑り部として滑り支承70bが配置されている。
【0045】
この理由は、相対変位が許容ストローク長の範囲内の場合に、当該相対変位を確実にオイルダンパ30に入力するためである。すなわち、ピストン側連結部38が連結される本体部材52aの滑り支承70aは、その大きな静止摩擦力により、当該本体部材52aを建物1に対して相対移動不能に固定し、他方、シリンダ側連結部36が連結される本体部材52bの滑り支承70bは、その大きな静止摩擦力により、本体部材52bを基礎3に対して相対移動不能に固定する。よって、これにより、相対変位が許容ストローク長の範囲内の場合には、当該相対変位は確実にオイルダンパ30に入力される。
【0046】
なお、これ以外の点は上述の実施形態と同じであるので、同一の構成については同じ符号を付して、その説明は省略する。
【0047】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0048】
上述の実施形態及び第1変形例では、図1及び図4に示すように、オイルダンパ30の二つの連結部36,38のうちでピストン側連結部38の方を、フェールセーフ機構50の本体部材52に連結していたが、逆にしても良い。つまり、図7に示すように、オイルダンパ30の向きを図1とは逆にして、シリンダ側連結部36の方をフェールセーフ機構50の本体部材52に連結しても良い。なお、この場合には、ピストン側連結部38の方が下部構造体としての基礎3に連結されるので、当該ピストン側連結部38が「第2連結部」に相当し、上部構造体としての建物1に連結されるシリンダ側連結部36の方が、「第1連結部」に相当することになる。
【0049】
上述の実施形態では、滑り支承70に係る滑り板72や摩擦板74の具体例について示していなかったが、滑り板72としては、例えば、ステンレス鋼板や、同ステンレス鋼板が摩擦板74側に接合一体化されたクラッド鋼板等を例示できる。また、摩擦板74としては、上記滑り板72との摩擦係数μ2がほぼ一定となるような素材を例示でき、例えば、滑り板72がステンレス鋼板の場合には、ステンレス鋼板との間で安定した摩擦係数μ2が得られる素材として、四フッ化エチレンや超高分子量ポリエチレン(例えば、ソマライト(商品名))等を例示できる。
【0050】
上述の実施形態では、減衰要素30としてオイルダンパを例示したが、上述の許容ストローク長の如き水平方向の移動に係る許容範囲を有する減衰要素であれば、何等これに限るものではなく、摩擦ダンパや粘性体ダンパ、鋼材ダンパ等を適用しても良い。
【0051】
上述の実施形態では、上部構造体及び下部構造体として、それぞれ、建物1及び基礎3を例示したが、何等これに限るものではない。例えば、建物が多層階からなる場合には、上部構造体としての上層階の床スラブと、下部構造体としての下層階の天井スラブとの間に減衰要素を介装しても良いし、更には、原子力関連設備等の大型装置を設置する床部材を上部構造体とし、この床部材の下方に位置して当該床部材の重量を支持すべき基礎を下部構造体としてもよい。
【0052】
上述の実施形態では、上部構造体側滑り部や下部構造体側滑り部として、転がり支承や滑り支承を例示したが、水平方向に相対滑り可能な構成を有していれば、何等これに限るものではない。
【0053】
上述の実施形態では、弾性部材として皿ばね54を例示したが、何等これに限るものではなく、板ばねやコイルばね等を用いても良い。
【符号の説明】
【0054】
1 建物(上部構造体)、3 基礎(下部構造体)、
10 免震層、
20 積層ゴム(免震支承体)、
30 減衰要素(オイルダンパ)、
32 シリンダ、32a シリンダ室、32b シリンダ室、
32c 蓋部、32d 蓋部、
34 ピストン、34a オリフィス、
36 クレビス、36 シリンダ側連結部(第2連結部)、37 連結ピン、
38 クレビス、38 ピストン側連結部(第1連結部)、39 連結ピン、
50 フェールセーフ機構、
50a フェールセーフ機構、
50b フェールセーフ機構、
52 本体部材(連結部支持部材)、
52a 本体部材(連結部支持部材)、
52b 本体部材(連結部支持部材)、
54 皿ばね(弾性部材)、
60 転がり支承(下部構造体側滑り部、上部構造体側滑り部)、
60a 転がり支承(下部構造体側滑り部)、
60b 転がり支承(上部構造体側滑り部)、
62 滑り板、62a 滑り面、
64 コロ部材、66 容器部材、
70 滑り支承(上部構造体側滑り部、下部構造体側滑り部)、
70a 滑り支承(上部構造体側滑り部)、
70b 滑り支承(下部構造体側滑り部)、
72 滑り板、72a 滑り面、
74 摩擦板、74a 摩擦面、
G 上下方向隙間、Fa 動摩擦力、Fs 静止摩擦力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体とその下方の下部構造体との間に介装された減衰要素を有し、前記上部構造体の前記下部構造体に対する水平方向の相対変位が前記減衰要素に入力されることにより前記減衰要素が生じる減衰力に基づいて前記相対変位を低減する減衰装置において、
前記減衰要素に前記相対変位が入力されるようにすべく、前記減衰要素を前記上部構造体に連結する第1連結部と、前記減衰要素を前記下部構造体に連結する第2連結部と、を有し、
前記第1連結部及び前記第2連結部のうちの少なくとも一方の連結部は、前記上部構造体及び前記下部構造体に対して水平方向に相対滑り可能に構成された連結部支持部材を介して、連結されるべき構造体に連結され、
前記連結部支持部材が前記上部構造体に対して相対滑りをするために設けられた上部構造体側滑り部の摩擦力の大きさと、前記連結部支持部材が前記下部構造体に対して相対滑りをするために設けられた下部構造体側滑り部の摩擦力の大きさとは互いに相違し、
前記相対変位の大きさが、前記減衰要素に入力可能な許容範囲内の場合には、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部のうちで摩擦力が大きい方の滑り部では相対滑りをせずに、摩擦力が小さい方の滑り部で相対滑りをすることにより、前記摩擦力が大きい方の滑り部を介して前記減衰要素への前記相対変位の入力が行われ、
前記相対変位の大きさが前記許容範囲を超えた場合には、前記摩擦力が大きい方の滑り部で相対滑りをすることにより、前記減衰要素への前記相対変位の入力が行われないことを特徴とする減衰装置。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体との間に上下方向隙間が形成されるように、前記下部構造体上には前記上部構造体を免震支承する免震支承体が配置されており、
前記上下方向隙間に前記連結部支持部材は前記免震支承体と並列に介装され、
前記連結部支持部材における前記上部構造体側滑り部と前記下部構造体側滑り部との間に、これらと直列に、鉛直方向に圧縮された弾性部材が介装されることにより、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部には、それぞれ、前記摩擦力の発生に必要な垂直抗力が付与されることを特徴とする減衰装置。
【請求項3】
請求項2に記載の減衰装置であって、
前記弾性部材は皿ばねであり、
前記皿ばねの圧縮量は、所定範囲内の任意値に設定されており、
前記所定範囲における前記皿ばねの圧縮変形量に対する弾発力の変動量は、前記所定範囲の両側に隣り合う範囲よりも低いことを特徴とする減衰装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の減衰装置であって、
前記第1連結部及び前記第2連結部のうちで前記連結部支持部材を介して連結されていない方の連結部は、前記上部構造体及び前記下部構造体のうちで、前記摩擦力が小さい方の滑り部により前記連結部支持部材が相対滑りをすべき構造体に対して水平方向の相対移動不能に連結されていることを特徴とする減衰装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れかに記載の減衰装置であって、
前記連結部支持部材は、前記第1連結部及び前記第2連結部のそれぞれに対して一つずつ設けられ、
前記第1連結部及び前記第2連結部のうちの一方の連結部が連結される連結部支持部材に係る上部構造体側滑り部には、滑り支承が使用されるとともに、下部構造体側滑り部には、前記滑り支承よりも摩擦力の小さい転がり支承が使用され、
前記第1連結部及前記2連結部のうちの他方の連結部が連結される連結部支持部材に係る下部構造体側滑り部には、滑り支承が使用されるとともに、上部構造体側滑り部には、前記滑り支承よりも摩擦力の小さい転がり支承が使用されることを特徴とする減衰装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の減衰装置であって、
前記相対変位の大きさが前記許容範囲内の場合には、前記相対変位が入力されることにより前記減衰要素が発生する減衰力と、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部のうちで摩擦力の小さい方の滑り部の相対滑りによる摩擦力と、によって、前記相対変位を低減し、
前記相対変位の大きさが前記許容範囲を超えた場合には、前記上部構造体側滑り部及び前記下部構造体側滑り部のうちで摩擦力の大きい方の滑り部の相対滑りによる摩擦力によって前記相対変位を低減することを特徴とする減衰装置。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94708(P2011−94708A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249359(P2009−249359)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(307041573)三菱FBRシステムズ株式会社 (13)
【Fターム(参考)】