説明

減速機の構造

【課題】入力軸の揺動やハウジングの剛性不足等に起因する噛み合いの「ガタ」の発生を防止して、フレックスリングと内歯歯車との噛み合い部におけるバックラッシュ及び噛み合い率の低下を回避し、動力伝達効率を向上させた減速機を提供する。
【解決手段】複数個のローラを半径方向に変形可能なフレックスリングに圧接して該フレックスリングを変形させながらこれの外歯とハウジングの内歯とを噛み合わせることにより入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達する減速機において、前記ローラの外周とフレックスリングに連結された出力軸に、該出力軸を出力側ハウジングに支持する出力軸受の内側まで穿孔された中空部を形成し、入力軸の前記出力軸側端部を前記中空部内に延長した延長軸部を設け、該延長軸部の軸端部を前記中空部の前記出力軸受の内側部位に設置した端部軸受により前記出力軸に相対回転可能に支持したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂減速機に好適で、入力軸に固定されたキャリアに円周方向に沿って複数個のローラを回転自在に支持してなるウェーブジェネレータのローラを、ハウジングに固定された内歯と噛み合う外歯が形成されるとともに内周面が前記ローラの外周と相対転動可能に接触される半径方向に変形可能で出力軸に連結されるフレックスリングに圧接してこれを変形させながら該フレックスリングの外歯とハウジングに固定された内歯とを噛み合わせることにより、入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するように構成された減速機の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている、いわゆるハーモニックドライブ機構と呼ばれる撓み噛み合い式歯車装置は、剛性のある円形の内歯歯車(内歯歯車)と、この内歯歯車の内側に設けられてこれの内歯に2箇所で噛み合うように楕円形に変形可能にされ、内歯歯車の歯数よりも2n枚(nは正の整数)少ない歯数に設定された可撓性を有する外歯歯車からなるフレックスリングと、該フレックスリングの内側に嵌合して該フレックスリング楕円形に撓ませるように構成され、キャリア及び該キャリアに回転自在に支持されたローラをそなえたウェーブジェネレータとから成る。
ウェーブジェネレータとはフランジ型からなるキャリアにピンによってローラを固定した構造であり、入力軸と一体となって入力回転動作を伝達する部品である。
【0003】
前記ハーモニックドライブ機構をそなえた減速機の一つに、本件出願人の出願に係る特許文献1(特開2005−188740号公報)の発明がある。
かかる発明においては、内歯を形成したサーキュラスプライン(内歯歯車)と、入力側ハウジングと、前記入力側ハウジングの内歯とモジュールが等しく且つ歯数が少ない外歯を形成し可撓性を有するフレックススプライン(フレックスリング)と、該フレックススプラインの内側に嵌合して同フレックススプラインを略楕円形に撓ませその長軸部位の二箇所で前記両内歯とフレックススプラインを係合させるウェーブジェネレータとを備えた減速機において、前記ウェーブジェネレータに一体化された入力軸と、出力軸が一体化される前記サーキュラスプラインとを相互に軸受で支持・連繋してなり、入,出力軸の中心位置精度が高精度に維持できるので、回転動作が滑らかになり駆動効率が向上することを特徴としている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−188740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1の技術にあっては、入,出力軸の中心位置精度が高精度に維持できることにより、回転動作が滑らかになり駆動効率が向上するという効果を有するが、フレックスリングの外歯と内歯歯車の内歯との噛み合い部に、入力軸の揺動やハウジングの剛性不足等に起因する噛み合いの「ガタ」が発生して、噛み合い歯数が小さくなるとともにバックラッシュが大きくなり動力伝達効率が低下するという、問題が発生し易い状況にあり、かかる問題の解決が求められている。
【0006】
本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、入力軸の揺動やハウジングの剛性不足等に起因する噛み合いの「ガタ」の発生を防止して、フレックスリングと内歯歯車との噛み合い部におけるバックラッシュ及び噛み合い歯数の低下を回避し、動力伝達効率を向上させた減速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる目的を達成するもので、入力軸に固定されたキャリアに円周方向に沿って複数個のローラを回転自在に支持してなるウェーブジェネレータと、ハウジングに固定された内歯と噛み合う外歯が形成されるとともに内周面が前記ウェーブジェネレータのローラの外周と相対転動可能に接触される半径方向に変形可能なフレックスリングとをそなえて、該フレックスリングを出力軸に連結し、前記ウェーブジェネレータの複数個のローラを前記フレックスリングに圧接して前記フレックスリングを変形させながら該フレックスリングの外歯とハウジングに固定された内歯とを噛み合わせることにより前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するように構成された減速機において、前記出力軸に該出力軸を出力側ハウジングに支持する出力軸受の内側まで穿孔された中空部を形成し、前記入力軸の前記出力軸側端部を前記中空部内に延長した延長軸部を設け、該延長軸部の軸端部を前記中空部の前記出力軸受の内側部位に設置した端部軸受により前記出力軸に相対回転可能に支持したことを特徴とする(請求項1)。
【0008】
また本発明は、前記減速機において、前記出力軸を軸受を介して回転自在に支持する出力側ハウジングの出力軸心に直角な内面と、前記出力軸の入力側に形成されたフランジ部の出力軸心に直角な面との間に、該出力軸に作用するスラスト荷重を受圧するスラスト軸受を介装したことを特徴とする(請求項2)。
【0009】
そして、かかる発明に加えて、次のように構成するのが好ましい。
(1)前記入力軸を軸受を介して回転自在に支持する入力側ハウジングの外周におねじを形成するとともに、前記出力側ハウジングの内周にめねじを形成し、該おねじとめねじとを螺合することにより前記入力側ハウジングと出力側ハウジングとを固定する(請求項3)。
(2)前記出力側ハウジングの外周部に環状のナットを螺着し、該ナットに前記入力軸を軸受を介して回転自在に支持する入力側ハウジングをインロー部を介して固定する(請求項4)。
【0010】
また本発明は、前記減速機において、前記キャリアに回転自在に支持される複数個のローラを、前記フレックスリングの長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個以上設けたことを特徴とする(請求項5)。
そして、かかる発明に加えて、次のように構成するのが好ましい。
即ち前記複数個のローラは、外径が異なるローラを前記フレックスリングの長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個以上設けてなる(請求項6)。
【0011】
また本発明は、前記減速機において、前記出力軸の出力側部位を出力側ハウジングの一端側に軸受を介して回転自在に支持するとともに、該出力軸の入力側部位に円筒状フランジ部を形成して前記内歯歯車の外周に固定し、該円筒状フランジ部の外周を前記出力側ハウジングの他端側に軸受を介して回転自在に支持したことを特徴とする(請求項7)。
【0012】
また、本発明は、前記入力軸、出力軸、キャリア、複数個のローラ、フレックスリング、内歯歯車、及びハウジング類を樹脂材で構成した樹脂減速機に適用するのが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、出力軸に該出力軸を出力側ハウジングに支持する出力軸受の内側まで穿孔された中空部を形成し、前記入力軸の前記出力軸側端部を前記中空部内に延長した延長軸部を設け、該延長軸部の軸端部を前記中空部の出力軸受の内側部位に設置した端部軸受により出力軸に相対回転可能に支持したので(請求項1)、入力軸の出力軸側端部に、出力軸に出力軸受の内側まで穿孔された中空部内に延長した小径の延長軸部を設けて、該延長軸部を前記出力軸受の内側部位で端部軸受により支持したことにより、入力軸の出力軸側端部の支持スパンが長く且つ小径の延長軸部によって入力軸の回転に伴う揺動が抑制され、樹脂材でフレックスリング及び内歯歯車を構成した場合においても、前記入力軸の揺動によるフレックスリング及び内歯歯車の歯車部における噛み合いの「ガタ」の発生を抑制できる。また、前記延長軸部の形成による入力軸の揺動の抑制に伴ない、出力軸の回転が安定する。
これにより、入力軸の出力軸側端部に延長軸部を設けて、出力軸の中空部に軸受で支持するという簡単な構造で以って、前記歯車部における噛み合い率が均一となるとともに出力軸の回転が安定して、動力伝達効率を向上できる。
【0014】
また本発明によれば、前記出力軸を軸受を介して回転自在に支持する出力側ハウジングの出力軸心に直角な内面と、前記出力軸の入力側に形成されたフランジ部の出力軸心に直角な面との間に、該出力軸に作用するスラスト荷重を受圧するスラスト軸受を介装したので(請求項2)、減速機に作用するスラスト荷重を該減速機内の出力側ハウジングの内面と出力軸の入力側に形成されたフランジ部の面とを利用してスラスト軸受を介装するという、きわめて簡単でコンパクトな構造で以って、スラスト荷重を該スラスト軸受を介して出力側ハウジングで受容することができる。
これにより、従来の減速機のように格別なスラスト軸受及び該スラスト軸受の設置スペースが不要となって、減速機の構造を簡単かつ小型化できる。
また、フレックスリング及び内歯歯車の歯車部に近接した出力軸のフランジ部をスラスト軸受で支持したので、スラスト荷重による内歯歯車の変位を防止できて、前記歯車部における噛み合いの安定性が向上する。
【0015】
またかかる発明において、入力軸を軸受を介して回転自在に支持する入力側ハウジングの外周におねじを形成するとともに、出力側ハウジングの内周にめねじを形成し、該おねじとめねじとを螺合することにより、入力側ハウジングと出力側ハウジングとを固定し(請求項3)、さらに、出力側ハウジングの外周部に環状のナットを螺着し、該ナットに入力軸を軸受を介して回転自在に支持する入力側ハウジングをインロー部を介して固定する(請求項4)ように構成すれば、構造的に外径が大きく比較的薄肉にならざるを得ない出力側ハウジングの入力側ハウジングとの結合部近傍を、前記ねじ結合あるいは環状のナットの螺合とすることにより、該結合部近傍の剛性が上昇して、フレックスリング及び内歯歯車の歯車部の噛み合いの安定性の向上に寄与する。
【0016】
また本発明によれば、キャリアに回転自在に支持される複数個のローラを、フレックスリングの長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個以上設けたので(請求項5)、複数のローラとフレックスリングとの接触範囲が円周方向に拡大されて、フレックスリング及び入力側ハウジング及び内歯歯車の歯車部における噛み合い側の曲率半径が大きくなり、実質的な噛み合い歯数が多くなって噛み合い部のバックラッシュを小さくでき、噛み合い率が上昇し、高トルクの伝達が可能となるとともに、動力伝達効率が向上する。またバックラッシュが小さくなることにより、噛み合い騒音を低減できる。
また、前記特許文献1においては、該フレックスリング及び入力側ハウジング及び内歯歯車の歯車部の噛み合い歯数を増加する場合、ローラの形状に合わせた分しか増加することが出来ず、ローラの押付力を上げてもある程度以上は噛み合い歯数を増加することはできないのに対して、本発明においては、長軸方向のローラの数を調整することでフレックスリングの形状を任意の形状とすることが可能であり、これによって噛み合い歯数を増加するなどの調整が容易に出来る。
さらに、ローラの数が多くなるので、該ローラの軸方向幅を小さくできる。
【0017】
さらにかかる発明において、前記複数個のローラを、外径が異なるローラを前記フレックスリングの長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個以上設けて構成すれば(請求項6)、ローラの外径を変化させることにより、フレックスリングの長軸間の距離を調節することが可能となって、フレックスリング及び入力側ハウジング及び内歯歯車の歯車部の噛み合い歯数及び歯丈を最適化して、バックラッシュを減少し動力伝達効率を向上できる。
【0018】
また本発明によれば、出力軸の出力側部位を出力側ハウジングの一端側に軸受を介して回転自在に支持するとともに、該出力軸の入力側部位に円筒状フランジ部を形成して内歯歯車の外周に固定し、該円筒状フランジ部の外周を出力側ハウジングの他端側に軸受を介して回転自在に支持したので(請求項7)、出力側ハウジングの一端側に軸受を介して支持された出力軸の出力側部位から離れて揺動し易い状態にある出力軸の内歯歯車連結部近傍を、出力軸の入力側部位に内歯歯車の外周に固定される円筒状フランジ部を形成し軸受を介して出力側ハウジングに支持することにより、出力軸の内歯歯車への結合部近傍の支持剛性が上昇して内歯歯車の変形を抑制できて該内歯歯車の回転及び内歯歯車とフレックスリングとの噛み合いが安定して、動力伝達効率が向上する。
また、長軸方向のローラの外径を調整することでフレックスリングの形状の調整範囲が広がり、これによって噛み合い歯数を増加するなどの調整が容易に出来る。
【0019】
以上の効果は、本発明を、入力軸、出力軸、キャリア、複数個のローラ、フレックスリング、内歯歯車、及びハウジング類を樹脂材で構成した樹脂減速機に適用することによって、より顕著となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を図に示した実施例を用いて詳細に説明する。但し、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは特に特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の第1実施例に係る樹脂減速機の回転軸心に沿う縦断面図、図2は前記第1実施例における図1のA−A線に沿う断面図、図3は前記第1実施例における図1のZ部拡大図、図4は前記第1実施例における図3のB−B線に沿う断面図である。
図1〜4において、この実施例に係る樹脂減速機は、出力軸2に連結され内歯5aを形成した内歯歯車5と、前記内歯5aとモジュールが等しく且つ歯数が同一の外歯4aを形成し可撓性をそなえたフレックスリング4と、該フレックスリング4の外歯4aと噛み合い該外歯4aの歯数より2n枚(nは正の整数)、例えば2枚多く設定された内歯6aが形成される入力側ハウジング6と、前記フレックスリング4の内側に嵌合しローラを介して該フレックスリング4を略楕円形に撓ませ、その長軸部位の2箇所でフレックスリング4の外歯4aと入力側ハウジング6の内歯6a及び内歯歯車5の内歯5aとを噛み合わせるウェーブジェネレータ70とを備えたいわゆるハーモニックドライブ機構を構成している。
【0022】
3は前記入力側ハウジング6とインロー部6zにて嵌合された出力側ハウジングで、該出力側ハウジング3の中心部には出力軸2が2個の軸受10,23を介して回転自在に支持されている。該出力軸2の入力側には円盤状のフランジ部2bが形成され、図1及び図3のように該フランジ部2bの内周部には前記内歯歯車5が固定されている。
1は前記入力側ハウジング6の中心部に軸受11を介して回転自在に支持された入力軸で、該入力軸1の外周には前記ウェーブジェネレータ70の前後1対のキャリア12が一体に設けられている。前記出力軸2と入力軸1とは、出力側ハウジング3,入力側ハウジング6内において、同軸上に配置される。
【0023】
前記ウェーブジェネレータ70は、図2〜3のように、前記入力軸1の軸心1zと直交する点対称位置に2対のローラ7が、入力軸1に一体形成された前記1対のキャリア12,12間に位置して、該キャリア12,12間に架設されたローラ軸8上を軸受24を介して回転自在に支持されている。
そして、この樹脂減速機は、ローラ7の1対によって前記フレックスリング4の内側の2点を押圧し、その押圧ポイントでフレックスリング4の外歯4aと前記入力側ハウジング6の内歯6a及び内歯歯車5の内歯5aとを噛み合わせ、入力側のウェーブジェネレータ70の回転に追随させて前記押圧ポイントを移動させ、フレックスリング4の歯と各歯車を噛み合わせることで、該フレックスリング4の外歯4aと入力側ハウジング6の内歯6aとの歯数差で決まる減速比で出力軸2を減速回転させるようになっている。
【0024】
また、図2のように、前記キャリア12,12間には、前記1対のローラ7と略90°位相を異ならせて他の1対のローラ7が回転自在に支持されている。かかる他の1対のローラ7によってフレックスリング4の楕円形状が安定して維持され、該フレックスリング4の外歯4aと前記入力側ハウジング6の内歯6aとが非係合状態を経て正規の係合状態へと、順次安定して推移し得るようになっている。
【0025】
前記出力軸2には、該出力軸2を出力側ハウジング3に支持する2つの軸受10,23
のうちの外側つまり出力側の軸受10の内側まで穿孔された中空部2aが形成されている。
そして、前記入力軸1の前記出力軸2側端部には、該端部から前記中空部2内に延長して延長軸部1aが連設され、該延長軸部1aは、前記出力側の軸受10の内側部位に設置した端部軸受9により前記出力軸2に相対回転可能に支持している。
【0026】
かかる第1実施例によれば、出力軸2に該出力軸2を出力側ハウジング3に支持する外側の軸受10の内側まで穿孔された中空部2aを形成し、前記入力軸1の前記出力軸2側端部を前記中空部2a内に延長した延長軸部1aを設け、該延長軸部1aの軸端部を前記中空部2aの前記軸受10の内側部位に設置した端部軸受9により前記出力軸2に相対回転可能に支持したので、外側軸受10の内側まで延ばして穿孔された出力軸2の中空部2a内に延長した小径の延長軸部1aを端部軸受9によって支持したことにより、入力軸1の出力軸2側端部の支持スパンが長く且つ小径の延長軸部1aによって入力軸1の回転に伴う揺動が抑制され、樹脂材でフレックスリング4及び内歯歯車5を構成した場合においても、前記入力軸1の揺動によるフレックスリング4及び内歯歯車5の歯車部における噛み合いの「ガタ」の発生を抑制できる。また、前記延長軸部1aの形成による入力軸1の揺動の抑制に伴ない、出力軸2の回転が安定する。
これにより、入力軸1の出力軸2側端部に延長軸部1aを設けて出力軸2の中空部2aに軸受で支持するという簡単な構造で以って、回転時にも前記歯車部における噛み合い歯数が正常に維持されるとともに出力軸2の回転が安定して、動力伝達効率を向上できる。
【実施例2】
【0027】
図5は本発明の第2実施例を示す図1対応図、図3は図5のZ部拡大図である。
この第2実施例においては、前記出力軸2を軸受10,23を介して回転自在に支持する出力側ハウジング3の出力軸心に直角な内面3aと、前記出力軸2の入力側に形成された円盤状のフランジ部2bの出力軸心に直角な面2cとの間に、該出力軸2に作用するスラスト荷重を受圧するスラスト軸受20を介装している。1は前記入力側ハウジング6に軸受11を介して回転自在に支持された入力軸で、その軸端部は端部軸受27で前記出力軸2の内側に回転自在に支持されている。
【0028】
かかる第2実施例によれば、前記出力側ハウジング3の出力軸心に直角な内面3aと前記出力軸2の入力側に形成された円盤状のフランジ部2bの出力軸心に直角な面2cとの間にスラスト軸受20を介装したので、減速機に作用するスラスト荷重を該減速機内の出力側ハウジング3の内面3aと出力軸2の入力側に形成されたフランジ部2bの面2cとを利用してスラスト軸受20を介装するという、きわめて簡単でコンパクトな構造で以って、スラスト荷重を該スラスト軸受20を介して出力側ハウジング3で受容することができる。
これにより、従来の減速機のような格別なスラスト軸受及び該スラスト軸受の設置スペースが不要となって、減速機の構造を簡単かつ小型化でき、装置コストも低減できる。
また、前記フレックスリング4及び内歯歯車5及び入力側ハウジング6の歯車部に近接した出力軸2のフランジ部2bをスラスト軸受20で支持したので、スラスト荷重による内歯歯車5の変位を防止できて、前記歯車部における噛み合いの安定性が向上する。
【0029】
また、かかる第2実施例においては、前記入力軸1を軸受11を介して回転自在に支持する入力側ハウジング6の外周におねじを形成するとともに、前記出力側ハウジング3の端部内周にめねじを形成し、該おねじとめねじとを螺合したねじ部22により前記入力側ハウジング6と出力側ハウジング3とを固定している。
このように構成すれば、構造的に外径が大きく比較的薄肉にならざるを得ない出力側ハウジング3の入力側ハウジング6との結合部近傍を前記ねじ部22による結合とすることにより、該結合部近傍の剛性が上昇して、フレックスリング4と内歯歯車5及び入力側ハウジング6の歯車部との噛み合いの安定性の向上に寄与する。
その他の構成は図1に示す第1実施例と同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【実施例3】
【0030】
図6は本発明の第3実施例を示す図1及び図5対応図、図3は図6のZ部拡大図である。
この第3実施例においては、出力側ハウジング3の内周部にめねじを形成し、該めねじに環状の金属ナット25(金属とすることで出力軸の剛性を向上させる)のおねじを螺合したねじ部26にて該ナット25を固定し、該金属ナット25の内周に、前記入力側ハウジング6をインロー部6aにて嵌合し、複数のボルト61により、該入力側ハウジング6と前記出力側ハウジング3とを該金属ナット25を挟み込んだ形態で固定している。
【0031】
かかる第3実施例によれば、構造的に外径が大きく比較的薄肉にならざるを得ない出力側ハウジング3の入力側ハウジング6との結合部近傍を、前記環状のナット25を螺着、固定して補強することにより、該結合部近傍の剛性が上昇して、フレックスリング4と内歯歯車5及び入力側ハウジング6の歯車部との噛み合いの安定性の向上に寄与する。
その他の構成は前記第2実施例(図5)のねじ部22を除いたと同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【実施例4】
【0032】
図7は本発明の第4実施例に係る樹脂減速機のローラ支持部近傍の正面図(回転軸心に直角方向に視た図)である。
この第4実施例においては、前記ウェーブジェネレータ70(図1参照)のキャリア12に回転自在に支持されるローラ7b,7bを、フレックスリング4の長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個設けている(それぞれ3個以上でもよい)。また、短軸方向には前記第1〜第3実施例と同様に、各1個のローラ7aを設ける。
【0033】
かかる第4実施例によれば、長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個設けたローラ7b,7bとフレックスリング4との接触範囲が円周方向に拡大されて、該フレックスリング4及び入力側ハウジング6及び内歯歯車5の歯車部の噛み合い側の曲率半径が大きくなり、実質的な噛み合い歯数が多くなり噛み合い部のバックラッシュを小さくできて、噛み合い歯数が増加して動力伝達効率が向上し、高トルクの伝達が可能となる。またバックラッシュが小さくなることにより、噛み合い騒音を低減できる。
また、前記特許文献1においては、該フレックスリング及び入力側ハウジング及び内歯歯車の歯車部の噛み合い歯数を増加することは可能であるが、ローラの形状に合わせた分しか増加することが出来ず、ローラの押付力を上げてもある程度以上は噛み合い歯数を増加することはできない。
これに対して、かかる第4実施例においては、長軸方向のローラローラ7b,7bの数を調整することでフレックスリング4の形状を任意の形状とすることが可能であるので、これによって、噛み合い歯数を増加するなどの調整が容易に出来る。
【実施例5】
【0034】
図8は本発明の第5実施例に係る樹脂減速機のローラ支持部近傍の正面図(図7対応図)である。
この第5実施例においては、前記ウェーブジェネレータ70(図1参照)のキャリア12に回転自在に支持される外径が異なるローラ、つまり大径のローラ7aと2つの小径のローラ7b,7bを組み合わせて長軸方向において互いに180°の方向に2対設けている。また、短軸方向には前記第1〜第3実施例と同様に、各1個のローラ7cを設ける。
【0035】
かかる第5実施例によれば、長軸方向において互いに180°の方向に2対設けたローラ(大径のローラ7aと2つの小径のローラ7b,7b)の外径を変化させることにより、フレックスリング4の長軸間の距離を調節することが可能となって、該フレックスリング4及び入力側ハウジング6及び内歯歯車5の歯車部の噛み合い歯数及び歯丈を最適化して、バックラッシュを減少し動力伝達効率を向上できる。
また、長軸方向のローラ7a,7bの外径を調整することでフレックスリング4の形状の調整範囲が広がり、これによって噛み合い歯数を増加するなどの調整が容易に出来る。
その他の構成は前記第4実施例(図7)と同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【実施例6】
【0036】
図9は本発明の第6実施例を示す図1対応図である。
この第6実施例においては、出力軸2の出力側部位を出力側ハウジング3の一端側に2つの軸受10,23を介して回転自在に支持するとともに、該出力軸2の入力側部位に円筒状フランジ部2yを形成して内歯歯車5の外周に固定し、該円筒状フランジ部2yの外周を出力側ハウジング3の他端側に軸受30(薄型軸受が好適)を介して回転自在に支持している。
【0037】
かかる第6実施例によれば、出力側ハウジング3の一端側に軸受10,23を介して支持された出力軸2の出力側部位から離れて揺動し易い状態にある出力軸2の内歯歯車5連結部近傍を、該出力軸2の入力側部位に内歯歯車5の外周に固定される円筒状フランジ部2yを形成し、軸受30を介して出力側ハウジング2に支持することにより、出力軸2の内歯歯車5への結合部近傍の支持剛性が上昇して、該内歯歯車5の変形を抑制でき、該内歯歯車5の回転、並びに内歯歯車5及びフレックスリング4の歯車部の噛み合いが安定して、動力伝達効率が向上する。
その他の構成は前記第2実施例(図5)のねじ部22を除いた構成と同様であり、これと同一の部材は同一の符号で示す。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、入力軸の揺動やハウジングの剛性不足等に起因する噛み合いの「ガタ」の発生を防止して、フレックスリングと内歯歯車との噛み合い部におけるバックラッシュ及び噛み合い率の低下を回避し、動力伝達効率を向上させた減速機を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1実施例に係る樹脂減速機の回転軸心に沿う縦断面図である。
【図2】前記第1実施例における図1のA−A線に沿う断面図である。
【図3】前記第1実施例における図1、図5、図6、図9のZ部拡大図である。
【図4】前記第1実施例における図3のB−B線に沿う断面図である。
【図5】本発明の第2実施例を示す図1対応図である。
【図6】本発明の第3実施例を示す図1及び図5対応図である。
【図7】本発明の第4実施例に係る樹脂減速機のローラ支持部近傍の正面図(回転軸心に直角方向に視た図)である。
【図8】本発明の第5実施例を示す図7対応図である。
【図9】本発明の第6実施例を示す図1対応図である。
【符号の説明】
【0040】
1 入力軸
1a 延長軸部
2 出力軸
2a 中空部
2b フランジ部
2y 円筒状フランジ部
3 出力側ハウジング
4 フレックスリング
4a 外歯
5 内歯歯車
5a 内歯
6 入力側ハウジング
6a 内歯
6z インロー部
7,7a,7b,7c ローラ
9 端部軸受
10,11,23 軸受
12 キャリア
20 スラスト軸受
22,26 ねじ部
24 軸受
25 ナット
30 軸受
70 ウェーブジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸に固定されたキャリアに円周方向に沿って複数個のローラを回転自在に支持してなるウェーブジェネレータと、ハウジングに固定された内歯と噛み合う外歯が形成されるとともに内周面が前記ウェーブジェネレータのローラの外周と相対転動可能に接触される半径方向に変形可能なフレックスリングとをそなえて、該フレックスリングを出力軸に連結し、前記ウェーブジェネレータの複数個のローラを前記フレックスリングに圧接して前記フレックスリングを変形させながら該フレックスリングの外歯とハウジングに固定された内歯とを噛み合わせることにより前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するように構成された減速機において、前記出力軸に該出力軸を出力側ハウジングに支持する出力軸受の内側まで穿孔された中空部を形成し、前記入力軸の前記出力軸側端部を前記中空部内に延長した延長軸部を設け、該延長軸部の軸端部を前記中空部の前記出力軸受の内側部位に設置した端部軸受により前記出力軸に相対回転可能に支持したことを特徴とする減速機の構造。
【請求項2】
入力軸に固定されたキャリアに円周方向に沿って複数個のローラを回転自在に支持してなるウェーブジェネレータと、ハウジングに固定された内歯と噛み合う外歯が形成されるとともに内周面が前記ウェーブジェネレータのローラの外周と相対転動可能に接触される半径方向に変形可能なフレックスリングとをそなえて、該フレックスリングを出力軸に連結し、前記ウェーブジェネレータの複数個のローラを前記フレックスリングに圧接して前記フレックスリングを変形させながら該フレックスリングの外歯とハウジングに固定された内歯とを噛み合わせることにより、前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するように構成された減速機において、前記出力軸を軸受を介して回転自在に支持する出力側ハウジングの出力軸心に直角な内面と、前記出力軸の入力側に形成されたフランジ部の出力軸心に直角な面との間に、該出力軸に作用するスラスト荷重を受圧するスラスト軸受を介装したことを特徴とする減速機の構造。
【請求項3】
前記入力軸を軸受を介して回転自在に支持する入力側ハウジングの外周におねじを形成するとともに、前記出力側ハウジングの内周にめねじを形成し、該おねじとめねじとを螺合することにより前記入力側ハウジングと出力側ハウジングとを固定したことを特徴とする請求項2記載の減速機の構造。
【請求項4】
前記出力側ハウジングの外周部に環状のナットを螺着し、該ナットに前記入力軸を軸受を介して回転自在に支持する入力側ハウジングをインロー部を介して固定したことを特徴とする請求項2記載の減速機の構造。
【請求項5】
入力軸に固定されたキャリアに円周方向に沿って複数個のローラを回転自在に支持してなるウェーブジェネレータと、ハウジングに固定された内歯と噛み合う外歯が形成されるとともに内周面が前記ウェーブジェネレータのローラの外周と相対転動可能に接触される半径方向に変形可能なフレックスリングとをそなえて、該フレックスリングを出力軸に連結し、前記ウェーブジェネレータの複数個のローラを前記フレックスリングに圧接して前記フレックスリングを変形させながら該フレックスリングの外歯とハウジングに固定された内歯とを噛み合わせることにより、前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するように構成された減速機において、前記キャリアに回転自在に支持される複数個のローラを、前記フレックスリングの長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個以上設けたことを特徴とする減速機の構造。
【請求項6】
前記複数個のローラは、外径が異なるローラを前記フレックスリングの長軸方向において互いに180°の方向にそれぞれ2個以上設けたことを特徴とする請求項5記載の減速機の構造。
【請求項7】
入力軸に固定されたキャリアに円周方向に沿って複数個のローラを回転自在に支持してなるウェーブジェネレータと、ハウジングに固定された内歯と噛み合う外歯が形成されるとともに内周面が前記ウェーブジェネレータのローラの外周と相対転動可能に接触される半径方向に変形可能なフレックスリングとをそなえて、該フレックスリングを出力軸に連結し、前記ウェーブジェネレータの複数個のローラを前記フレックスリングに圧接して前記フレックスリングを変形させながら該フレックスリングの外歯とハウジングに固定された内歯とを噛み合わせることにより、前記入力軸の回転を減速して前記出力軸に伝達するように構成された減速機において、前記出力軸の出力側部位を出力側ハウジングの一端側に軸受を介して回転自在に支持するとともに、該出力軸の入力側部位に円筒状フランジ部を形成して前記内歯歯車の外周に固定し、該円筒状フランジ部の外周を前記出力側ハウジングの他端側に軸受を介して回転自在に支持したことを特徴とする減速機の構造。
【請求項8】
前記入力軸、出力軸、キャリア、複数個のローラ、フレックスリング、内歯歯車、及びハウジング類を樹脂材で構成したことを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の減速機の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−205450(P2007−205450A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24457(P2006−24457)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度戦略的基盤技術力強化事業、RTネットワークプラグインアクチュエータの開発、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】