説明

減速機

【課題】オイルシールと入力軸との摺動抵抗を増大させることなく、潤滑剤の漏れの可能性を低減した減速機を提供する。
【解決手段】入力軸102と、該入力軸102を軸支する第1、第2軸受126、128と、当該第1、第2軸受126、128を介して入力軸102を支持する第1、第2フランジ122、124と、を備えた減速機100であって、更に、入力軸102と第1、第2フランジ122、124との間に配置され当該入力軸102と第1、第2フランジ122、124との間の空間を密封可能な第1、第2オイルシール130、132を備え、該第1、第2オイルシール130、132の外周枠130G、132Gの内径d1を、第1、第2軸受126、128の内輪126C、128Cの外径D1よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力された動力を減速して出力する減速機のうち、入力軸周りの空間を密封するオイルシールを備えた減速機の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
入力された動力(回転)を減速して出力する装置として、減速機が広く利用されている。例えば特許文献1に記載されている減速機(密閉型波動歯車装置)においては、入力軸を2つの軸受けによって軸支し、更にこれら軸受が第1、第2の端版(支持部材)にて支持されている。それぞれの軸受の近傍(入力軸の軸方向近傍)にはオイルシールが配置されており、入力軸と第1、第2の端版(支持部材)との間の空間を密閉する構造とされている。
【0003】
またこの減速機では、オイルシールが組み付けられた状態でのオイルシールのリップ部の内径と入力軸を軸支する軸受の内径(正確には軸受内輪の内径)とが同じ径となるような構成とされている。
【0004】
【特許文献1】特開平9−217798号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1にて示されている減速機では、オイルシールが組み付けられた状態でのオイルシールのリップ部の内径と、入力軸を軸支する軸受の内径(正確には軸受内輪の内径)とが同じ径となるような構成とされていたが、このような構成では、軸受の間(内輪と外輪との間)を通過した潤滑剤(グリスなど)が直接的にオイルシールのリップ部側に向うことが可能となるため、万が一、オイルシール自体に不具合が生じた場合に潤滑剤が漏れてしまうという問題がある。
【0006】
一方で、潤滑剤の漏れを嫌って、リップを内周側に押し付けて密封性(密着性)を向上させるためにスプリングを利用したり(またはスプリングの強度を強めたり)、また、リップの数を増やす等の対策を採ることも可能である。しかしこのような対策ではオイルシールと入力軸との摺動抵抗を増大させることとなり、動力の伝達効率の側面から望ましくない。
【0007】
そこで本発明は、これらの問題点を解決するべくなされたものであって、オイルシールと入力軸との摺動抵抗を増大させることなく、潤滑剤の漏れの可能性を低減した減速機を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、入力軸と、該入力軸を軸支する軸受と、当該軸受を介して前記入力軸を支持する支持部材と、を備えた減速機であって、更に、前記入力軸と前記支持部材との間に配置され当該入力軸と支持部材との間の空間を密封可能なオイルシールを備え、該オイルシールの外周枠の内径を、前記軸受の内輪の外径よりも小さく設定することにより上記課題を解決するものである。
【0009】
このような構成を採用したことにより、軸受の間(内輪と外輪の間)を通過してきた潤滑剤が、直接オイルシールのリップ部へと導かれることを効果的に防止することが可能となっている。即ち、オイルシールにおける外周枠の内径を、軸受の内輪の外径よりも小さくすることにより軸受の間からオイルシールのリップ部に至る「軸方向に直線的な通路」を遮断できる。その結果、オイルシールと入力軸との摺動抵抗を増大させることなく、軸受の間を通過した潤滑剤は直接リップ部に向うことができなくなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明を適用することにより、オイルシールと入力軸との摺動抵抗を増大させることなく、潤滑剤が漏れる可能性を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。
【0012】
図1は本発明の第1の実施形態に係る減速機100の側断面図である。
【0013】
<減速機100の構成>
減速機100は、入力軸102に入力された動力(回転力)を減速して出力する。本実施形態における減速機100は、所謂、内接噛合型遊星歯車減速機である。
【0014】
軸心Oを中心に回転可能な入力軸102には、偏心体104が一体的に形成されている。また入力軸102は中空構造とされており、ホロー部102Aを有している。本実施形態では、入力軸102に偏心体104が2つ形成されており、それぞれ約180°位相が異なるような構成とされている。
【0015】
偏心体104は、偏心体用軸受106を介して外歯歯車108の中心孔108Aに嵌合している。この外歯歯車108は自身の中心孔108Aに偏心体用軸受106を嵌合させると同時に、内歯歯車の内歯(本実施形態では枠体116に備わる外ピン114が相当する)に噛合している。なお、本実施形態では、入力軸102に偏心体104が2つ形成されていることから、それに伴い偏心体用軸受106および外歯歯車108がそれぞれ2組の構成とされているが、このような構成に限定されるものではない。減速機に求められる伝達容量等によって、外歯歯車128等が1組または3組以上の構成であっても差し支えない。
【0016】
外歯歯車108には複数の内ピン孔108Bが設けられている(図面上は1つしか現れていない)。この内ピン孔108Bには、内ピン110が内ローラ112を介して遊嵌している。なお内ローラ112は、内ピン110に対して相対的に自由に回転することが可能である。
【0017】
また、外歯歯車108と噛合する外ピン114は、枠体116の内周面に複数設置されている。なお、図面上は現われていないが、外歯歯車108の歯の数と、外ピン114との数には僅少の差(1乃至3程度)が設けられている。
【0018】
本実施形態における内ピン110は、円盤形状の第1フランジ122と一体的に構成されている。また、この第1フランジ122は、ボルト142によって減速機ケーシング118と一体的に連結固定されている。
【0019】
一方で、内周面に外ピン114を備える枠体116は、ボルト140によって第2フランジ124と連結固定されている。これら第1フランジ122と第2フランジ124とは、外歯歯車108を挟んで軸方向両側に配置されている。
【0020】
また、枠体116の半径方向外側にはケーシング118が位置しており、当該ケーシング118と枠体116との間はクロスローラ軸受120によって相対的に回転可能に構成されている。また同時に、ケーシング118と枠体116との間にはオイルシール144が並列配置されており、減速機100の内部と外部とを密封している。
【0021】
また、第1フランジ122と入力軸102との間は第1軸受126によって、第2フランジ124と入力軸102との間は第2軸受128によって軸支されている。即ち、第1フランジ122と第2フランジ124とが、(軸受を介して)入力軸102を支持する支持部材として機能している。
【0022】
第1軸受126を介して入力軸102を支持する第1フランジ122は、当該第1軸受126を支持すると同時に、第1軸受126の軸方向端面(図1において左側端面)をカバーするように延在部122Aが形成されている。即ち、第1軸受内輪126Cの軸方向端面に対向する位置にまで、支持部材としての第1フランジ122の一部が半径方向内側に延在している。この延在部122Aの先端には第1オイルシール130が配置されている。また、当該延在部122Aの先端に第1オイルシール130の外周枠130Gが嵌合すると同時に、当該第1オイルシール130のリップ部130Lが入力軸102の外周面に接触している。その結果、第1フランジ126と入力軸102との間は密封されている。
【0023】
また、第1オイルシール130の外周枠130Gの内径d1が、第1軸受内輪126Cの外径D1よりも小さくなるような構成(D1>d1)とされている。即ち、第1軸受126の内輪126Cと外輪126Aの間から、減速機100の内部に封入されている潤滑剤(図示していない)が出てきた場合でも、直接的にリップ部130L側へと潤滑剤が進入し難い構成とされている。即ち、第1軸受外輪126Aと第1軸受内輪126Cとの間を潤滑剤が通過してきたとしても、その潤滑剤は直ちに延在部122Aの内面(第1軸受内輪126Cの軸方向端面に対抗している面)に当接する構成とされている。換言すれば、第1軸受外輪126Aと第1軸受内輪126Cの間から第1オイルシール130のリップ部130Lに至る「軸方向に直線的な通路」を遮断している。
【0024】
更に、本実施形態においては、第1オイルシール130のリップ部130Lの内径(当該オイルシール組み込み時における内径)d2が、第1軸受126の内輪126Cの内径d3よりも小さく構成されている(d3>d2)。その結果、仮に第1オイルシール130のリップ部130Lの内径d2と、第1軸受126の内輪126Cの内径d3とが同じとなるような構成(d2=d3)と比較した場合において、(d3−d2)×πの長さ分だけ、第1オイルシール130と入力軸102との摺動距離(摺動面積)が低減されている。
【0025】
なお、オイルシールの向きが逆向きとなっているが、第2軸受128と第2オイルシール132についても、上記第1軸受126と第1オイルシール130との関係と同じ構成とされている。
【0026】
また、図示していないが、減速機100の内部には適量の潤滑剤(グリースなど)が封入されている。
【0027】
<減速機100の作用>
入力軸102に対して動力(回転力)が伝達されると、当該入力軸102に一体形成されている偏心体104が軸心Oに対して偏心回転する。この偏心回転は、偏心体用軸受106を介して外歯歯車108へと伝達される。即ち、外歯歯車108が軸心Oに対して揺動を始める。一方で、この外歯歯車108は枠体116に備わる外ピン114とも噛合しているため自転が規制され、殆ど揺動のみを行うこととなる。前述のとおり、外歯歯車108の歯の数と外ピン114の数との間には僅少の差(歯数差)が設けられているため、外歯歯車108が1回揺動回転する毎に当該歯数差分だけ自転(枠体116に対して相対回転)することとなる。この相対回転成分が内ピン110によって取り出され、第1フランジ122へと伝達される。このとき、外歯歯車108の揺動成分は、(外歯歯車108の)内ピン孔108Bに対する内ピン110および内ローラ114の遊嵌によってキャンセルされ、自転成分のみが取り出される。
【0028】
例えば、第2フランジ124が固定されている場合には、第1フランジ122およびケーシング118が出力軸として機能する。一方、第1フランジ122および/またはケーシング118側が固定されている場合には、第2フランジ124が出力軸として機能する。いずれの場合であっても、ケーシング118と枠体116との間にはクロスローラ軸受が配置されているので、スムース且つ剛性の高い動きを実現している。
【0029】
上記構成の通り、減速機100では、第1、第2オイルシール130、132における外周枠130G、132Gの内径d1を、第1、第2軸受内輪126C、128Cの外径D1よりも小さく構成している。その結果、それぞれの軸受の間(内輪と外輪の間)を通過してきた潤滑剤が、直接オイルシールのリップ部130L、132Lへと導かれることを効果的に防止している。即ち、オイルシール130、132における外周枠130G、132Gの内径d1を、隣接する軸受内輪126C、128Cの外径D1よりも小さくすることにより、軸受外輪126A、128Aと軸受内輪126C、128Cとの間を潤滑剤が通過してきたとしても、その潤滑剤は直ちに延在部122A、124Aの内面(各軸受内輪126C、128Cの軸方向端面に対抗している面)に当接し、直接的(直線的)にリップ部130L、132L側へと進入することができない。本実施形態において潤滑剤がリップ部130L、132Lへと進入するには、延在部122A、124Aの内面に当接した潤滑剤が、僅かの隙間(軸受内輪126C、128Cの軸方向端面と延在部122A、124Aの内面との隙間)を通って一旦半径方向内側(軸心O側)に向かって進み、更に、軸方向に進む必要があるため、進入困難となっている。
【0030】
また、各リップ部130L、132Lの内径d2が、各軸受126、128の内輪126C、128Cの内径d3よりも小さく構成されている(d2>d3)ことから、オイルシール130、132と入力軸102との摺動距離(摺動面積)が低減されている。即ち、オイルシール130、132による動力の損失が小さくなり、減速機における動力伝達効率の向上が期待できる。特に入力軸はその性質上高速で回転するため、損失を低減するという効果が大である。更に、オイルシール130、132と入力軸102との摺動距離(摺動面積)が小さいということは、オイルシールの密封性向上や漏れ防止にも効果的に機能する。更に、回転半径が小さくなることから摺動部分の摺動速度(周速)も小さくなり、摺動に伴う温度上昇を抑制できるという効果がある。
【0031】
また、各軸受内輪126C、128Cの軸方向端面に対向する位置にまで、第1、第2フランジ122、124の一部が半径方向内側に延在していることから、軸受を通過した潤滑剤がよりリップ部130L、132L側へと進入することを防止している。
【0032】
なお、上記説明した減速機100においては、第1軸受126と第1オイルシール130との位置関係、および、第2軸受122と第2オイルシール132との位置関係が共通しているが、これに限定されるものではない。それぞれの組み合せの間で、「オイルシールにおける外周枠の内径が、軸受内輪の外径よりも小さい」という関係や「オイルシールが組み込まれた際に、当該オイルシールのリップ部の内径が軸受内輪の内径よりも小さい」という関係が成立している限りにおいて同様の効果を発揮し得る。
【0033】
また、減速機100においては、入力軸102を支持する軸受が2つ(第1軸受126と第2軸受128)で構成されていたが、例えば図2に示すように1つであってもよい。
【0034】
また、上記説明したオイルシールは全て減速機の内部と外部とを仕切る位置に設置されているが、そのような位置への設置が必須のものとはならない。例えば、減速機内部の空間を2つ以上に仕切り、一方の空間にのみ潤滑剤を留めておきたいような場合や、それぞれの空間に異なる種類の潤滑剤を封入したい場合にも効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る減速機の側断面図
【図2】本発明の第2実施形態に係る減速機の側断面図
【符号の説明】
【0036】
100…減速機
102…入力軸
104…偏心体
106…偏心体用軸受
108…外歯歯車
110…内ピン
112…内ローラ
114…外ピン
116…枠体
118…ケーシング
120…クロスローラ軸受
122…第1フランジ
124…第2フランジ
126…第1軸受
126A…第1軸受外輪
126B…第1軸受ころ
126C…第1軸受内輪
128…第2軸受
128A…第2軸受外輪
128B…第2軸受ころ
128C…第2軸受内輪
130…第1オイルシール
130G…第1オイルシールの外周枠
130L…第1オイルシールのリップ部
132…第2オイルシール
132G…第2オイルシールの外周枠
132L…第2オイルシールのリップ部
140、142…ボルト
O…軸心
D1…軸受内輪の外径
d1…オイルシール外周枠の内径
d2…オイルシールのリップ部の内径(組込み時)
d3…軸受内輪の内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、該入力軸を軸支する軸受と、当該軸受を介して前記入力軸を支持する支持部材と、を備えた減速機であって、
更に、前記入力軸と前記支持部材との間に配置され当該入力軸と支持部材との間の空間を密封可能なオイルシールを備え、
該オイルシールの外周枠の内径が、前記軸受の内輪の外径よりも小さく設定された
ことを特徴とする減速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記オイルシールが組み込まれた際に、当該オイルシールのリップ部の内径が前記軸受の内輪の内径よりも小さい
ことを特徴とする減速機。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記軸受の内輪の軸方向端面に対向する位置にまで、前記支持部材の一部が半径方向内側に延在している
ことを特徴とする減速機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−250279(P2009−250279A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95942(P2008−95942)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】