説明

減震装置

【課題】同じ大きさの振動エネルギーに対して減震装置の装置形状を小さくすることができるようにすること。
【解決手段】床面(2)に相対移動可能に載置された支持部材(10)と、
負荷(M)を支持し、且つ、その下面(21)が支持部材(10)の上面(11)に摺接する脚部(20)と、
支持部材(10)と脚部(20)とに連続して形成された通孔(12)(22)に挿入され、支持部材(10)の床面(2)との最大静止摩擦力より小さい力で切断される連結ピン(30)とで構成されていることを特徴とする減震装置(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震のような大きな揺れ、特に水平外力が建物に入力した際に、その振動エネルギーの一部を吸収して工場設備や家具その他、床面に設置された負荷に大きなダメージを与えないようにする減震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より工場やビル、マンションは勿論、これらの内部に設置された機械設備やキャビネット、家具などには、地震のような外部からの大きな振動入力に対してダメージを受けないようにするために免震装置が設置されている(特許文献1−3)。
【0003】
特許文献1は、工場設備のような重量物から建築物のような大荷重を担うこともできる免振装置で、三次元案内装置を一方向に沿って湾曲形成した基台と、移送曲面部に沿って移動する移動台、多数のボールからなるボール列とから構成した案内装置を1単位とし、この案内装置を上下に交差させて配置し、これらの間に弾性体を配置して構成するものである。
【0004】
特許文献2は、上下に分割された下方の弾性体の上端に凹状に湾曲した支持皿体を設け、支持皿体の湾曲面に沿って移動自在に形成された移動支持体を支持皿体の上面に載置し、支持皿体の湾曲面に沿って凸状に湾曲した摺動体を上方の弾性体の下端に設け、摺動体を移動支持体上に摺動自在に載置したもので、移動支持体は、複数個の球体を回転自在に支持する支持枠体を有し、支持枠体に球体の上下端部を突出せしめて支持している。支持皿体または摺動体の周囲縁適位置に、支持皿体と摺動体との離脱を防止するガイド部が設けられている。これにより、大きな振幅の振動でも十分に吸収し、機械に発生する振動防止から建築構造物等の耐震装置に至るまで幅広く利用することができる、としている。
【0005】
特許文献3は、弾性ゴムと下向受皿部材の凹面部との摩擦により、電子機器や自動販売機等の筐体等に対する震動を減震して倒壊を防止し、被害を低減することができる免震用支持装置に関するもので、筐体、商品陳列用置棚又は躯体の下面に下向受皿部材を固定し、床面又は建築用基礎に支持台を固定し、該支持台に取り付けた先端部材を下向受皿部材の凹面部に可動的に単数又は複数当接させる免振装置において、弾性ゴムを介して該支持台に取り付けること、首振り構造部を介して支持したこと、キャスターを取付け、キャスターにより支持したこと、及び、下向受皿部材の凹面部の周縁の曲率を内側より小さくしてストッパー部を形成したことによって、反復作用時の強力な減震力と共震現象をなくす作用を起こすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−140880
【特許文献2】特開平05−164168
【特許文献3】特開2010−2047
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
処が、特許文献1,2は鋼球を利用するものであるから静摩擦係数が非常に小さく、それ故、負荷が過大であったとしても静止摩擦力そのものは非常に小さくなり、入力した地震の振動エネルギーが少し大きくなると直ちに滑りを生じてしまう。特許文献3は弾性ゴム材で荷重を担持する下向受皿部材を支持しているが、負荷の重力と弾性ゴムの静摩擦係数の積、即ち、静止摩擦力より入力した地震の振動エネルギーの方が大きくなると直ちに滑りを生じてしまう。このことはこれらが地震入力の際に、地震エネルギーを如何に逃がすかという発想だけで、地震に対してその振動エネルギーの一部を効果的に熱エネルギーに変換して減震させるという発想がなかった。
【0008】
それ故、このような装置はいずれも想定される地震に対応出来るようにしようとすると、どうしても移動距離を大きくする必要があるところから、装置形状が大きくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題から地震の振動エネルギーを効果的に熱エネルギーに変換することによって同じ大きさの振動エネルギーに対して装置形状を小さくすることができる減震装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の本発明の減震装置(1)は、
床面(2)に相対移動可能に載置された支持部材(10)と、
負荷(M)を支持し、且つ、その下面(21)が支持部材(10)の上面(11)に摺接する脚部(20)と、
支持部材(10)と脚部(20)とに連続して形成された通孔(12)(22)に挿入され、支持部材(10)の床面(2)との最大静止摩擦力より小さい力で切断される連結ピン(30)とで構成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2はその変形例で請求項1に加え、支持部材(10)と床面(2)とに連続して形成された通孔(3)(13)に挿入され、支持部材(10)の床面(2)との最大静止摩擦力より小さい力で切断される減震ピン(4)を更に備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項3は請求項1、2の変形例で、支持部材(10)の上面(11)が凹球面状に形成され、支持部材(10)の上面(11)に摺接する脚部(20)の下面(21)が凸球面状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の減震装置(1)は、支持部材(10)と脚部(20)とが支持部材(10)の床面(2)との最大静止摩擦力より小さい力で切断される連結ピン(30)にて連結されているので、更にはこれに加えて支持部材(10)と床面(2)との間には、床面(2)との最大静止摩擦力より小さい力で切断される減震ピン(4)にて連結されているので、地震が入力すると支持部材(10)が滑る前に連結ピン(30)或いは減震ピン(4)更には両方が剪断され、地震の振動エネルギーの一部を吸収する。その結果、地震の振動エネルギーはこれらの剪断の分だけ熱エネルギーとして消費され、負荷(M)に及ぶ振幅は抑制される。換言すれば、減震装置(1)をエネルギー吸収分だけ小さくすることができる。
【0014】
そして、支持部材(10)と脚部(20)の摺接面が凸・凹球面状に形成されている場合には、脚部(20)が凹球面状の支持部材(10)上を中央から周辺部に向かう時、全体が持ち上げられて地震の振動エネルギーの大半を吸収する。そして地震の入力中は凹球面状の支持部材(10)上を脚部(20)が往復移動し、地震が収まると、脚部(20)は自動的に支持部材(10)の凹球面状上面(11)の中央に戻る。
【0015】
なお、地震のエネルギーを上記のように減殺してもなお地震の振幅が支持部材(10)の上面(11)の幅より大である場合、脚部(20)が支持部材(10)の縁(10c)に係合した状態で支持部材(10)を引きずりながら床面(2)上を滑るので、負荷(M)に対して衝撃的なショックを与えない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の断面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】本発明の変形例の断面図である。
【図4】本発明の他の変形例の断面図である。
【図5】本発明の更に他の変形例の断面図である。
【図6】図5の変形例の断面図である。
【図7】本発明に使用されるピンの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の第1実施例を図1〜2に従って説明する。図1〜2に示す減震装置(1)は支持部材(10)と、脚部(20)及び連結ピン(30)とで構成されている。本実施例の支持部材(10)は浅い円形の皿状の本体(10a)と、本体(10a)内に設けられた滑り部材(10b)とで構成されている。本体(10a)は金属製或いは樹脂製で、本体(10a)の外周全体に環状の縁(10c)が突設されている。
【0018】
第1実施例の滑り部材(10b)は円形の平板状のものである。そして、本体(10a)と滑り部材(10b)には連続する通孔(12)が穿設されている。通孔(12)は図の実施例では貫通孔であるが、勿論、盲穴でもよい。滑り部材(10b)の材質は硬質ゴム又は軟質ゴムのような摩擦係数の高い部材、或いは逆に含油金属または硬質の滑りやすい樹脂で構成されたもので、本体(10a)内に一体的に嵌め込まれている。ここでは滑り部材(10b)と本体(10a)とは別体で形成されているが、本体(10a)そのものを硬質ゴム又は軟質ゴムや含油金属または硬質且つ高強度で滑りやすい(或いは滑りにくい)樹脂で形成すれば別体でなくともよい。滑り部材(10b)と本体(10a)の環状の縁(10c)との関係は、縁(10c)が本体(10a)内に収容されている滑り部材(10b)より上になり、脚部(20)が係止されるように本体(10a)の全周にわたって突設されている。
【0019】
脚部(20)は、本実施では負荷(M)を支持する支持脚(20a)と、その下端ネジ部(20c)が螺着された摺動部材(20b)とで構成されている。勿論、脚部(20)はこのような構成をとらず支持脚(20a)と摺動部材(20b)とが一体のものでもよい。摺動部材(20b)は負荷(M)の荷重に耐えることができるようなものであればどのようなものでもよく、図1のように滑り部材(10b)が平板の場合は滑り性の悪いゴム或いは樹脂のようなものが好ましい。勿論、滑り部材(10b)と滑り性がよい(或いは滑りにくい)金属或いは高強度の樹脂でもよいことは言うまでもない。
【0020】
そして、摺動部材(20b)の下面(21)は凸球面状に形成され、下面(21)の中央に通孔(22)が穿設されている。勿論、この場合は、滑り部材(10b)が平板状であるから、下面(21)は必ずしも凸球面状に形成する必要はないが、ここでは凸球面状の下面(21)を採用している。
【0021】
連結ピン(30)は本実施例では丸棒で、その機械的強度は支持部材(10)の床面(2)との最大静止摩擦力より小さい力(衝撃荷重)が剪断される程度のものである。従って、その材質は例えばセラミックス、鉛、ポリカーポネートのように衝撃荷重で破損しやすいものが選ばれる。また、破断しやすいように図7に示すように周囲にV溝(35)を形成しておいてもよい。この連結ピン(30)は支持部材(10)と脚部(20)とに連続して形成された通孔(12)(22)に挿入されている。
【0022】
負荷(M)は、工場の機械設備を始め、家具その他、地震による破損を免れたいようなものであって、脚部(20)を装着できるようなものであればどのようなものでもよい。通常、負荷(M)の底面の四隅に本発明に係る減震装置(1)の脚部(20)が取り付けられ、その下面(21)が床面(2)に載置された支持部材(10)の上面(11)に摺接するように設置される。
【0023】
しかして、地震が発生し、建物に弱い縦波が入力し、続いて強い水平横波が入力する。水平横波の波形は千差万別であるが、連結ピン(30)は水平横波を受け続ける。この時点では水平横波の振動エネルギーは連結ピン(30)の破断強度及び支持部材(10)の床面(2)に対する静的摩擦力を超えないため負荷(M)は動かない。
【0024】
そして、ある瞬間に床面(2)が支持部材(10)に対して強く水平方向に相対移動すると、この衝撃荷重が連結ピン(30)に加わり、連結ピン(30)は衝撃的な外力に対して機械的強度が小さいため、支持部材(10)が床面(2)に対して相対移動する前に剪断され、地震の振動エネルギーの一部はその破壊によって熱エネルギー変換される。そして、更に振動エネルギーが残っておれば、振幅が弱められた状態で脚部(20)に対して支持部材(10)が相対水平移動し、場合によっては脚部(20)が支持部材(10)の縁(10c)に接触する。
【0025】
この時、支持部材(10)と床面(2)との静止摩擦力は、支持部材(10)の上面(11)とこれに接する脚部(20)の摺動部材(20b)との摺動状態における静止摩擦力より大きいので、支持部材(10)は床面(2)上に停止した状態を保ち、摺動部材(20b)と上面(11)との間で相対移動が発生する。この時、両者間で摩擦係数が高ければこの間も地震エネルギーは消費される。そして、地震エネルギーが完全に消費されず、脚部(20)の摺動部材(20b)が支持部材(10)の縁(10c)に接触しても振幅が止まらない場合は、摺動部材(20b)が支持部材(10)の縁(10c)に接触・係合したまま支持部材(10)が引きずられて床面(2)を摺動する。従って、負荷(M)にはどの時点でも衝撃的荷重が加わらず、ダメージを受けることがない。振動が戻る方向に切り替わったとき、支持部材(10)はその位置で停止し、摺動部材(20b)だけが元の方向に戻る。
【0026】
このように本発明では、連結ピン(30)の破断強度を超える衝撃エネルギーの一部は連結ピン(30)の破断によって消耗され、負荷(M)へのダメージは軽減される。
【0027】
図3は図1,2の変形例で、滑り部材(10b)の形状が異なる以外は全く同じである。この場合の滑り部材(10b)の形状は、その上面(11)が凹球面状に形成されている点である。そして上面(11)の外周は本体(10a)の縁(10c)より低く、移動してきた摺動部材(20b)が十分係合できる高さを有している。
【0028】
図の実施例では凹球面状に形成された上面(11)の半径は脚部(20)の摺動部材(20b)の半径よりも大きく、移動したときに摺動部材(20b)の摺接部分は摺動部材(20b)の中心から周辺部に次第に移動するようになっている。勿論、図5,6に示すように両者を同じ半径にしてもよい。その場合は移動したときに摺動部材(20b)の周辺部が常に上面(11)に接触することになる。
【0029】
そして、前述同様、地震が入力した場合、連結ピン(30)の破断強度を超える水平荷重が加わった時に連結ピン(30)がまず最初に切断され、摺動部材(20b)が上面(11)に対して相対移動する。上面(11)は凹球面に形成されているので、前記相対移動によって負荷(M)が若干持ち上げられて位置エネルギーが増加するので、その分だけ振動エネルギーが消耗される。
【0030】
振幅が大である場合、前述のように支持部材(10)の縁(10c)が摺動部材(20b)に係合した状態で床面(2)上を移動する。そして前述と同様、地震の振幅に合わせて脚部(20)と支持部材(10)とは相対移動を繰り返し、最後には凹球面状の上面(11)のボトムである中央に戻る。
【0031】
図4は支持部材(10)の形状が上記の実施例と相違し、本体(10a)の下にスライド板(14)を更に設け、その四隅に通孔(13)を設け、更にこの通孔(13)に合わせて床面(2)に通孔(3)を設け、これに減震ピン(4)を挿入した例である。この減震ピン(4)の強度も連結ピン(30)と同じで、支持部材(10)の床面(2)に対する最大静止摩擦力より小さい力で切断される程度で、基本的には連結ピン(30)と同じ材質でつくられる。連結ピン(30)と減震ピン(4)とはいずれが先に破断しても構わないが、通常は一本である連結ピン(30)の方が先に破断するように設計されている。
【0032】
支持部材(10)は減震ピン(4)が破断しない限り床面(2)上を滑らないが、破断すれば上記実施例と同様床面(2)上を滑ることになる。この場合、地震の入力により破断するものが連結ピン(30)と減震ピン(4)の2種類であるので、より減震効果を高めることができる。
【0033】
図5は図3に示す実施例に対して、連結ピン(30)が支持脚(20a)の両側或いはその周囲に2以上、設けられた例である。そして摺動部材(20b)の下面(21)の半径は支持部材(10)の上面(11)の半径と同じに形成した例である。勿論、図示していないが上記のように半径が異なるようにしてもよいことを言うまでもない。この場合、摺動部材(20b)に穿設された通孔(22)は摺動部材(20b)の上面に露出している。この実施例の場合でも、前述同様、地震が入力すると、これがピン類の破断強度を超える場合には、まず全ての連結ピン(30)が破断することになる。それ以降は前述の動作が行われる。
【0034】
なお、摺動部材(20b)の下面(21)の半径が支持部材(10)の上面(11)の半径と同じである場合、両者の相対移動が生じた場合には、摺動部材(20b)の外周縁が支持部材(10)の上面(11)上を摺動することになる。図6は図5の実施例に対して図4に示すようにスライド板(14)が設けられ、これの四隅に減震ピン(4)が設けられた例であり、動作は図4と同じである。
【符号の説明】
【0035】
(1)・・・減震装置
(2)・・・床面
(3)・・・通孔
(10)・・・支持部材
(11)・・・上面
(12)・・・通孔
(13)・・・通孔
(20)・・・脚部
(21)・・・下面
(22)・・・通孔
(30)・・・連結ピン
(M)・・・負荷

【特許請求の範囲】
【請求項1】
床面に相対移動可能に載置された支持部材と、
負荷を支持し、且つ、その下面が支持部材の上面に摺接する脚部と、
支持部材と脚部とに連続して形成された通孔に挿入され、支持部材の床面との最大静止摩擦力より小さい力で切断される連結ピンとで構成されていることを特徴とする減震装置。
【請求項2】
支持部材と床面とに連続して形成された通孔に挿入され、支持部材の床面との最大静止摩擦力より小さい力で切断される減震ピンが更に付加されていることを特徴とする請求項1に記載の減震装置。
【請求項3】
支持部材の上面が凹球面状に形成され、支持部材の上面に摺接する脚部の下面が凸球面状に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の減震装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96169(P2013−96169A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−241158(P2011−241158)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000224994)特許機器株式会社 (59)
【Fターム(参考)】