説明

渦電流磁界変化検出装置及び歯車強度評価法

【課題】真空浸炭処理された歯車の強度評価法の信頼性を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【解決手段】球体25の内部には歯部42の温度を測定する温度センサー29が内設されている。球体25の球径は、隣合う歯先43と歯先43との間を通過するが、歯底41に到達する前に歯部42、42の面に接触する外径に設定されている。すなわち、接触点44、44に接触しているため、球体25の図左右方向及び上下方向の位置が規定される。併せて、球体25の中心は歯底41の中心に合致する。
【効果】歯車の温度及び予め定められている温度補正情報に基づいて測定値を補正する。真空浸炭処理後の高温歯車の温度が下がりきる前に測定するので、工数を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空浸炭処理された歯車の強度を評価する歯車強度評価技術に関する。
【背景技術】
【0002】
歯車は、重要な機械要素の一つであって、高い強度が求められる。強度を高める手法として、浸炭処理法が広く採用されている。浸炭処理法は、鋼の表層の炭素量を増加させて、機械的性質を改善させる表面処理である。従来は、ガス浸炭法が主流であるが、ガス浸炭法では表面に微少酸化が不可避的に発生する。
【0003】
対策として、近年、歯車に真空浸炭法を適用する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2006−349055公報(請求項1)
【0004】
特許文献1の請求項1に「平滑な面部における表面炭素濃度が0.6質量%以上となるように真空浸炭されている歯車であって、前記面部の有効硬化層深さをD(mm)としたとき、前記真空浸炭に先立ち、歯元近傍に位置する応力集中部を含む表面に、D±0.25(mm)の面取り加工が施されていることを特徴とする歯車。」の記載があり、歯車に真空浸炭を施すことが開示されている。
【0005】
上述したように、歯車は重要な機械要素であるため、抜き取り検査や全数検査で強度の測定を行う必要があり、この測定に渦電流を利用した非破壊検査法が実用化されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献2】特開2004−108873公報(図2)
【0006】
特許文献2を次図に基づいて説明する。
図12は従来の技術の基本原理を説明する図であり、(a)に示すように、円柱ワーク101に励磁コイル102と検出コイル103を巻回する。そして、励磁コイル102に交流電源104から交流電圧(励磁電圧)を印加する。すると、円柱ワーク101の表層に渦電流が発生する。この渦電流により検出コイル103に交流電流が発生する。この発生した交流電流の電圧(検出電圧)を測定装置105で測定する。励磁電圧と検出電圧との相関を(c)で説明する。
【0007】
(c)は横軸が時間軸で縦軸が電圧であるグラフであり、正弦波V1が励磁電圧曲線であるときに、検出電圧は正弦波V2で表される。正弦波V1と正弦波V2の位相差をΦと定義する。
(b)で、cosΦで表されるX値は浸炭深さと良好な相関関係があり、sinΦで表されるY値は表面硬さに良好な相関関係がある。
【0008】
浸炭深さや表面硬さが変化すると、Φの大きさやV2の高さが変化する。そこで、cosΦやsinΦを計測で求めることにより、そのときの浸炭深さや表面硬さを特定することができる。非破壊検査であるため、歯車の強度評価に好適である。
【0009】
そこで、円柱ワーク101を、歯車に置き換えて、真空浸炭された歯車の強度評価を試みた。その具体例を次図で説明する。
図13は従来の歯車の強度評価を説明する図であり、歯車107に励磁コイル102と検出コイル103を巻回する。そして、励磁コイル102に交流電源104から交流電圧(励磁電圧)を印加する。すると、歯車107の歯部108に渦電流が発生する。この渦電流により検出コイル103に交流電流が発生する。この発生した交流電流の電圧(検出電圧)を測定装置105で測定した。
【0010】
測定装置105で合格が確認された歯車107について、念のために破壊試験を行った。すなわち、歯車107を切断し研磨して、浸炭深さや硬さを計測した。すると、計測値に、ばらつきが、あることが判明した。すなわち、上述した歯車の強度評価法では信頼性が乏しいことが判明した。
そこで、ガス浸炭法で問題となった粒界酸化は、真空浸炭法で解消できるという利点を生かしながら、歯車の強度評価法の信頼性を高めることが求められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、真空浸炭処理された歯車の強度評価法の信頼性を高めることができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、歯車を検出コイルで囲う、従来の評価法(図13)を検討した。この評価法では、歯車の表層部分、すなわち歯部を単位とした浸炭深さが求められる。一方、歯部は歯先や歯底を有する複雑な形状を呈している。そのため、歯先と歯底とは、浸炭深さが異なることが考えられる。そこで、真空浸炭処理された歯先と歯底の浸炭深さを計測した。その結果を次図で説明する。
【0013】
図14は歯車の浸炭深さを説明する図であり、歯車を切断し、切断面を観察したところ、表層に浸炭層110が確認できた。
そこで、歯先111の浸炭深さD1と歯底112の浸炭深さD2とに着目すると、歯先と歯底の浸炭深さが同等(D1=D2)、又は歯底の浸炭深さの方が小さかった(D1>D2)。すなわち、歯先の浸炭深さが歯底の浸炭深さより小さくなることはなかった。このことから、本発明者らは、歯部全体を測定対象にするのではなく、歯底を測定対象とする方が、評価の信頼性を高めることができると知見することができた。
【0014】
また、真空浸炭処理直後の歯車は、高温であり、測定すれば測定値が温度の影響を受ける。そこで、真空浸炭処理後の歯車の温度変化を考慮して測定することを検討した。
【0015】
図15は真空浸炭処理後の歯車の温度変化を説明する図であり、真空浸炭処理直後の歯車は高温であり、まず、急激に温度が降下する。歯車の温度が大気温度(例えば、25℃)に近づくと温度の降下は緩やかになるので、歯車の温度が大気温度と一致するまでに、かなりの時間を要する。すなわち、歯車の温度が下がりきってから浸炭深さを測定したのでは、工数が掛かる。生産性を高める観点から、工数の低減が求められる。
【0016】
これらの知見に基づいて完成された請求項1に係る発明は、ワークの渦電流で発生する磁界の変化を検出する渦電流磁界変化検出装置であって、前記ワークに向かい合う鉄芯と、この鉄芯に設けられ前記ワークを励磁する励磁コイルと、この励磁コイルの近傍で前記ワークに臨むように設けられ前記ワークの温度を検出する温度検出部と、この温度検出部に並ぶ位置に設けられ前記ワークに渦電流で発生する磁界の変化を検出する検出コイルと、を有することを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る発明では、温度検出部は、鉄芯の先端からワークに向かって延びている球体に内蔵されている温度センサーであることを特徴とする。
【0018】
請求項3に係る発明では、温度検出部は、鉄芯の先端からワークに向かって延びている球体に設けられ、先端が球体の表面に露出している温度センサーであることを特徴とする。
【0019】
請求項4に係る発明では、ワークは、歯車であることを特徴とする。
【0020】
請求項5に係る発明は、真空浸炭処理された歯車の強度を評価する歯車強度評価法において、前記歯車の歯部の温度を測定し、得られた歯部の温度及び予め定められている温度補正情報に基づいて温度補正量を決定し、前記歯車の歯底の浸炭深さを測定し、得られた浸炭深さを前記温度補正量に基づいて補正し、補正した浸炭深さが、予め定められている合格範囲外のときに不合格とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に係る発明では、渦電流磁界変化検出装置は、鉄芯と、この鉄芯に設けられワークを励磁する励磁コイルと、この励磁コイルの近傍でワークに臨むように設けられワークの温度を検出する温度検出部と、この温度検出部に並ぶ位置に設けられワークに渦電流で発生する磁界の変化を検出する検出コイルとを有する。鉄心を介して、励磁コイル、温度検出部及び検出コイルを一体化するので、検出装置を小型化できる。
【0022】
請求項2に係る発明では、鉄芯の先端からワークに向かって延びている球体に温度センサーを内蔵する。球体と温度センサーを一体化するので、小型化できる。加えて、ワークに温度センサーが直接に接触しないので、温度センサーの故障率を低減できる。
【0023】
請求項3に係る発明では、温度センサーの先端が球体の表面に露出する。接触型の安価な熱電対を使用することが可能であり、装置全体としてのコストの低減を図ることができる。
【0024】
請求項4に係る発明では、ワークは、歯車である。歯車の強度測定は難しいと言われているが、本発明によれば歯車を非破壊検査で強度測定することができる。
【0025】
請求項5に係る発明では、歯車の歯部の温度を測定し、得られた歯部の温度及び予め定められている温度補正情報に基づいて温度補正量を決定し、歯車の歯底の浸炭深さを測定し、得られた浸炭深さを温度補正量に基づいて補正する。このとき、歯車が大気温度になるのを待つのではなく、一定の温度(例えば、40〜60℃)に達した時点で、歯車の温度を考慮して測定する。真空浸炭処理後の高温歯車の温度が下がりきる前に測定するので、工数を低減できる。
加えて、歯底の浸炭深さに基づいて合否判定を行う。歯底が合格基準深さを満たしていれば、歯部は全体的に合格レベルにあるとみなすことができるため、強度評価の信頼性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明の歯車強度評価法に適した歯底浸炭深さ計測装置の原理図であり、歯底浸炭深さ計測装置10は、基台11と、この基台11の上面中央に設けられ図左右に延びているレール12と、このレール12に左右移動自在に載せられているスライダ13と、このスライダ13に軸受14を介して縦向きに且つ回転自在に支持され真空浸炭処理されたワークとしての歯車15を支える歯車支軸16と、スライダ13に内蔵され歯車支軸16を一定ピッチで回転させるインデックスモータ17と、基台11に載置されスライダ13をレール12に沿って往復移動させるシリンダユニット18と、このシリンダユニット18及びインデックスモータ17を制御する制御部19と、ワーク(以下、歯車と記す。)15に向かい合う位置に配置され渦電流で発生する磁界の変化を検出する渦電流磁界変化検出装置20と、基台11の一端(図左側)から上へ延ばされているブラケット21と、このブラケット21の上部にボルト22、22で取り付けられているコ字状の鉄芯23と、この鉄芯23に支持され歯車15に向かって延びている検出コイル支持体24と、鉄芯23の先端から歯車15に向かって延びている球体25、25と、鉄芯23の先端に巻かれた励磁コイル26、26と、これらの励磁コイル26、26に交流電圧を印加する交流電源27と、検出コイル支持体24の先端に設けられている検出コイル28と、球体25内部に内設されている温度検出部としての温度センサー29から温度情報を取得して温度補正量を決定する温度補正量決定装置30と、検出コイル28から取得した検出情報を温度補正量に基づいて補正する検出情報補正装置31と、補正した検出情報を浸炭深さに換算する浸炭深さ換算装置32と、得られた浸炭深さを合格基準深さと比較して合否を判定する合否判定部33と、得られた合否判定に基づいて、合格、不合格を表示する合否表示部34と、からなる。
渦電流磁界変化検出装置20は、鉄心23、励磁コイル26、温度検出部としての温度センサー29及び検出コイル28で構成される。
【0027】
温度検出部としての温度センサー29は、サーモカップルと呼ばれる熱電対が好適である。その他、電気抵抗値の変化を利用した抵抗式測温子などの接触式測温子が使用できる。
なお、ワークは歯車に限定されず、一般の機械部材であって、表面処理が可能な鋼で構成されているものであれば種類は問わない。
【0028】
図2は図1の要部拡大図であり、渦電流磁界変化検出装置20において、検出コイル支持体24は鉄芯23に、水平方向にスライド可能にビス35で固定されている。また、球体25は円錐部36及び円柱部37を介して鉄芯23に固定されている。温度検出部としての温度センサー29は球体25に埋設されている。
【0029】
図3は図2の3線断面図であり、検出コイル28は、絶縁性に富む三角形断面のナイロンなどの樹脂体38を介して検出コイル支持体24に支持されている。樹脂体38が三角形断面であるため、検出コイル28を歯車15の歯底41に接近させることができる。
【0030】
図4は図2の4線断面図であり、(a)に示すように、球体25の内部には歯部42の温度を測定する温度検出部としての温度センサー29が埋設されている。球体25の球径は、隣合う歯先43と歯先43との間を通過するが、歯底41に到達する前に歯部42、42の面に接触する外径に設定されている。すなわち、接触点44、44に接触しているため、球体25の図左右方向及び上下方向の位置が規定される。併せて、球体25の中心は歯底41の中心に合致する。
この結果、歯底41からの検出コイル28の距離や励磁コイル26、26(図2)の距離、又は、歯部42からの温度センサー29の距離を一定化することができる。この結果、測定の信頼性を高めることができる。
【0031】
(b)は温度検出部としての温度センサーの配置の別実施例を説明する図であり、温度検出部としての温度センサー29の先端は、球体25の表面に露出している。
熱電対などの接触式温度センサーで、精度よく温度測定することができる。
【0032】
ところで、図1で説明した浸炭深さ換算装置32には、測定で得られたX電圧を浸炭深さに換算する換算表を記憶させる必要がある。そこで、図1の歯底浸炭深さ計測装置10を用いて、周波数を1kHzに設定し、真空浸炭済みの歯車の「X電圧」を測定した。この測定は非破壊検査に相当する。
次に、この歯車を切断し、切断面を磨いてから、「硬さ」を測定し、「浸炭深さ」を定めることにした。この測定は破壊検査に相当する。
【0033】
図5は測定で得られた硬さを表したグラフである。
先ず、歯底浸炭深さ計測装置10を用いて、周波数を1kHzに設定し、真空浸炭済みの歯車の「X電圧」を測定したところ、X電圧は−67mVであった。次に、切断し、切断面を磨き、この切断面を測定対象として、表面から0.1mm毎に、1.0mmまで、マイクロビッカース硬さ計で、ビッカース硬さ(Hv)を測った。
【0034】
図5は測定で得られた硬さを表したグラフであり、(a)は、横軸が表面からの深さで、縦軸がビッカース硬さであるグラフに、生のデータをプロットしたものである。
【0035】
ところで、この種の歯車では、「表面から○○mmの深さで、ロックウエルCスケール硬さが50以上であること」と言った要求仕様が出されることが多い。ロックウエルCスケール硬さ50は、換算表によれば、ビッカース硬さ(Hv)513に相当する。
そこで、(a)にプロットした複数の点を滑らかな曲線で繋ぐ。
【0036】
結果、(b)示すグラフが得られる。そこで、縦軸の513から横線を引き、曲線に交わったところから、縦線を降ろし、この縦線が横軸と交わったところの距離を読む。表面からの距離は0.64mmであった。
【0037】
図6はX電圧と浸炭深さの相関図であり、横軸が浸炭深さ(表面からの距離に相当。)で、縦軸がX電圧であるグラフに、1個のデータ(0.64mm、−67mV)を●でプロットした。
浸炭条件を変えて得られたサンプルを21個作製し、これらのサンプルについても図5(a)、(b)での手順を踏んで、浸炭深さとX電圧を定めた。21個のサンプルについては○で、グラフにプロットした。
【0038】
1個の●と21個の○は右下りの直線に沿って分散している。縦軸のX電圧が測定で得られれば、この相関図により、得られたX電圧に対応する浸炭深さを求めることができる。
また、詳細な計算法は省略するが、この分散における相関係数(r)は0.92であった。
【0039】
以上の説明から明らかなように、本発明は次の点にも特徴がある。すなわち、図5(a)、(b)で説明したように、得られた硬さと深さは、測定で得られた硬さを、歯車の表面から中心に向かってプロットした点を結んでなる曲線から得る。点を結んで曲線を得るようにしたので、測定点の数を少なく設定することができ、測定時間が短縮でき、測定コストの低減を図ることができる。
【0040】
又、図5で求めた硬さという定量的データに基づいて、浸炭深さが決められる。すなわち、図5で説明したように、破壊検査による硬さデータと、非破壊検査によるX電圧との突き合わせが行われる。この後は、非破壊検査によりX電圧を求め、図6に基づいて、浸炭深さに換算する。非破壊検査であるにも拘わらず、破壊検査での裏付けがなされているので、非破壊検査で求めた浸炭深さの信頼性が飛躍的に高まる。
【0041】
次に、好適な周波数を特定することを目的に、700Hzから4kHzまで周波数を変えて、各周波数当たり22個のサンプルを準備し、図6と同様の相関図を作成し、相関係数を求めた。その結果を次図に示す。
図7は周波数と相関係数の関係を示すグラフであり、1kHzが最大で、2kHz以上では相関係数が小さくなった。一方、700〜1kHzでは、変化は小さい。
真空浸炭された歯車の歯底の浸炭深さを調べるには、周波数は700〜1kHzの範囲に設定することが望ましいことが分かった。
【0042】
図8はX電圧と歯車温度の関係図であり、浸炭深さが異なる4つの歯車(歯車A〜D)の測定結果を示す。歯車Aに着目すると、歯車の温度が高いとX電圧も高い。歯車B〜Dでも同様である。すなわち、同一の浸炭深さであれば、X電圧と歯車の温度には一定の関係が成立する。
また、歯車温度が30℃での歯車A〜DのX電圧の差と、歯車温度が40℃での歯車A〜DのX電圧の差が、ほぼ同一である。歯車温度が50℃、60℃、70℃、80℃でも同様である。すなわち、歯車の温度によりX電圧は変動するが、電圧差は一定になる。
【0043】
このことから、歯車の温度によりX電圧は変化するため、基準歯車(例えば、25℃で測定した歯車。)との差から、浸炭深さを求めることができる。
【0044】
図9はX電圧の温度補正を説明する図であり、図9に示す直線は、図6で示したX電圧と浸炭深さの相関関係と同様に、歯車の温度tを25℃、40℃、45℃、50℃、55℃、60℃として得た直線(検量線)である。この図の直線を温度補正データとする。
【0045】
次に、温度補正データによる温度補正の例を示す。まず、歯車温度が40℃のときのX電圧の測定値は、aであった。歯車の温度が40℃であれば、t=40℃の検量線を使用する。すなわち、縦軸のaから横線pを引き、検量線に交わったところから、縦線qを降ろし、この縦線qが横軸と交わったところの浸炭深さを読むと、浸炭深さはBと換算される。
ここで、横軸のBから縦線rを引き、基準となる大気温度(t=25℃)の検量線に交わったところから横線sを引き、この横線sが縦軸と交わったところのX電圧を読むと、X電圧はbになる。すなわち、X電圧の温度補正量をΔxとすると、歯部の温度が40℃のとき、Δx=b−aと決定できる。
【0046】
図1に戻って、温度補正量決定装置30に温度補正データを記憶させて温度補正量を決定すれば、検出情報補正装置31で検出情報が温度補正されるので、浸炭深さ換算装置32で正しい浸炭深さに換算でき、この値い基づいて合否判定部33で合否判定を行う。
【0047】
以上の構成からなる歯底浸炭深さ計測装置10の作用を次に説明する。
図10は歯底浸炭深さ計測装置の作用説明図であり、(a)に示すように、静止状態にある検出コイル28へ、歯車15を矢印(1)のように前進させる。(b)に示すように、一方では温度検出部としての温度センサー29に任意の歯部42を臨ませ、歯部42の温度を測定し、他方では検出コイル28に任意の歯底41を臨ませ、歯底41の浸炭深さを検出し、この浸炭深さの合否を判定させる。終わったら、矢印(2)のように歯車15を後退させる。
【0048】
次に、(c)に示すように、歯車15を1ピッチ(歯一枚分)だけ回す(矢印(3))。すると(d)に示すように、隣の歯部42が温度検出部としての温度センサー29に臨み、隣の歯底41が検査コイル28に臨む。以降、(a)に戻って作業を継続する。この継続する作業をフローで再度説明する。
【0049】
図11は本発明の歯車強度評価法に好適な作業フロー図であり、ステップ番号(以下STと略記する。)01で、合格基準深さ範囲Dsを定める。例えば、合格基準深さ範囲Dsは0.5mm〜0.8mmとする。この0.5mm〜0.8mmを図1の合否判定部33へインプットする。
ST02で、測定対象となる歯車の温度補正データを、図1の温度補正量決定装置30へ設定する。
ST03で、測定対象とする歯車の歯数Nを、図1の制御部19へインプットする。測定回数を監視するために、先ず、回数nを1とする(ST04)。
【0050】
図10(a)の要領で、歯車を前進させる(ST05)。図10(b)の要領で、歯部の温度T1を測定させる(ST06)。図1の温度補正量決定装置30により、温度補正量Δxを決定させる(ST07)。
図10(b)の要領で、歯底のX電圧を測定させる(ST08)。図1の検出情報補正装置31でX電圧を補正電圧X+Δxに温度補正させる(ST09)。
図1の浸炭深さ換算装置32により、補正電圧X+Δxを浸炭深さDaに換算させる(ST10)。図1の合否判定部33により、測定で得られた浸炭深さDaが合格基準深さ範囲Dsの範囲に入っているか否かを調べる(ST11)。YESであれば、「合格」の表示をする(ST12)。次に、図10(b)に矢印(2)で示すように歯車を後退させる(ST13)。
【0051】
ここで、測定回数を調べる(ST14)。初回はnは1である。例えば歯車の歯数Nが40であれば、n<Nであるから、NOを進み、nに1を加える(ST15)。そして、図10(c)の要領で、歯車を歯1個分だけ回転させる(ST16)。そして、ST05から再度、歯底の浸炭深さを測定する。
【0052】
ST11で、浸炭深さDaが合格基準深さ範囲Ds内でなければ、NOを進み、不合格表示を行う(ST17)。不合格の場合は、この歯車に対する測定をこの時点で終了させることができる。
【0053】
ST14で、測定回数nが歯数Nに到達すれば、歯底の全数を検査したことになるので、測定終了の表示を行い、測定を終了する(ST18)。
【0054】
尚、歯車の温度測定は、接触式温度センサーの他、赤外線を検出する非接触式温度センサーでもよく、種類は問わない。本発明の歯車強度評価法は、図1に示した歯底浸炭深さ計測装置10以外の装置やツールで浸炭深さを測ることは差し支えない。要は、歯底の浸炭深さが非破壊的に計測することができるものであれば、計測装置の形態、種類は問わない。
また、温度補正においては、温度補正を含んだ換算表で、測定電圧を浸炭深さに換算するなど、温度補正がなされれば、検出した電圧値を補正する方法に限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、真空浸炭処理された歯車の浸炭深さを計測する技術に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の歯車強度評価法に適した歯底浸炭深さ計測装置の原理図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の3線断面図である。
【図4】図2の4線断面図である。
【図5】測定で得られた硬さを表したグラフである。
【図6】X電圧と浸炭深さの相関図である。
【図7】周波数と相関係数の関係を示すグラフである。
【図8】X電圧と歯車温度の関係図である。
【図9】X電圧の温度補正を説明する図である。
【図10】歯底浸炭深さ計測装置の作用説明図である。
【図11】本発明の歯車強度評価法に好適な作業フロー図である。
【図12】従来の技術の基本原理を説明する図である。
【図13】従来の歯車の強度評価を説明する図である。
【図14】歯車の浸炭深さを説明する図である。
【図15】真空浸炭処理後の歯車の温度変化を説明する図
【符号の説明】
【0057】
10…歯底浸炭深さ計測装置、15…ワーク(歯車)、20…渦電流磁界変化検出装置、23…鉄芯、25…球体、26…励磁コイル、28…検出コイル、29…温度検出部(温度センサー)、30…温度補正量決定装置、31…検出情報補正装置、32…浸炭深さ換算装置、33…合否判定部、41…歯底、42…歯部、Ds…合格基準深さ、Da…測定で得られた浸炭深さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの渦電流で発生する磁界の変化を検出する渦電流磁界変化検出装置であって、
前記ワークに向かい合う鉄芯と、この鉄芯に設けられ前記ワークを励磁する励磁コイルと、この励磁コイルの近傍で前記ワークに臨むように設けられ前記ワークの温度を検出する温度検出部と、この温度検出部に並ぶ位置に設けられ前記ワークに渦電流で発生する磁界の変化を検出する検出コイルと、を有することを特徴とする渦電流磁界変化検出装置。
【請求項2】
前記温度検出部は、前記鉄芯の先端から前記ワークに向かって延びている球体に内蔵されている温度センサーであることを特徴とする請求項1記載の渦電流磁界変化検出装置。
【請求項3】
前記温度検出部は、前記鉄芯の先端から前記ワークに向かって延びている球体に設けられ、先端が前記球体の表面に露出している温度センサーであることを特徴とする請求項1記載の渦電流磁界変化検出装置。
【請求項4】
前記ワークは、歯車であることを特徴とする請求項1記載の渦電流磁界変化検出装置。
【請求項5】
真空浸炭処理された歯車の強度を評価する歯車強度評価法において、
前記歯車の歯部の温度を測定し、得られた歯部の温度及び予め定められている温度補正情報に基づいて温度補正量を決定し、前記歯車の歯底の浸炭深さを測定し、得られた浸炭深さを前記温度補正量に基づいて補正し、補正した浸炭深さが、予め定められている合格範囲外のときに不合格とすることを特徴とする歯車強度評価法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−236762(P2009−236762A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84639(P2008−84639)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】