説明

温室の屋根構造

【課題】軽量で破損時にガラスの様に散乱することのない合成樹脂製中空パネルを温室の屋根材として使用するに当たって、屋根の自重による撓みを有効に防止し、屋根上面に雨水がたまってしまうといった問題や雨水が温室内に垂れるという問題も生じさせることなく、現場作業を容易に実施する。
【解決手段】温室1は、棟木4(又は天窓下枠6)と、妻の梁7と、これらの間に渡される様に取り付けられた2本の垂木材8,8とで囲まれたパネル嵌め込み空間Aに、1枚の合成樹脂製中空パネル10を、垂木材8,8の間の位置において、スペーサ部材20によって母屋材3の上方所定距離の位置に支持された状態で、母屋材3に対してビス21でネジ止め固定する。スペーサ部材20は、ネジ止め位置において合成樹脂製中空パネル10の底面が垂木材8に対する取り付け部分の底面よりも高い位置で支える高さを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板に代えて合成樹脂製中空パネル材を屋根材として用いた温室の屋根構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、図5(A)に示す様に、母屋材と垂木とでガラス板の周囲を囲んで固定する屋根構造によりガラス板を大型化することが提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、図5(B)に示す様に、竪框(5)と上框(6)及び下框(7)と中棧(8)よりなるフレームに、ガラス板(9)を嵌め込んだ構造をなすユニット式屋根パネル(2)を用いる提案もある(特許文献2)。
【0004】
これら特許文献1,2のガラス板を用いる方法では、台風被害に遭遇した場合に、ガラスの散乱等の問題がある。散乱したガラスは、温室内の耕作地をそのまま利用できなくし、回収に多大な労力を強いられる。この様な問題は、平成21年秋の愛知県田原市における台風災害において施設園芸農家に多大な損害をもたらしたことは記憶に新しい。
【0005】
ガラス板に代わるものとして合成樹脂製中空パネルを温室の屋根に用いる提案がある(特許文献3,4)。
【0006】
特許文献3は、図5(C)に示す様に、温室用の屋根材として、薄板間に平行な多数のリブが一体成形された熱可塑性合成樹脂製中空パネルにおいて、一方の端縁部に合掌状態に融着一体化された扁平突出縁を形成すると共に、他方の端縁部にリブを所定長の範囲に亘つて切欠くことにより扁平突出縁を嵌合可能とする嵌合部が形成されてなる合成樹脂製中空パネルを提案している。
【0007】
特許文献4は、図5(D)に示す様に、合成樹脂製中空パネルの所定の中空部に、スチール製の補強部材(角棒、角パイプ)を挿入し、補強部材に対して、温室内部側からリベットまたはねじで固定する方法を提案している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−99843(図5,図7)
【特許文献2】実用新案登録第3056593号(図1)
【特許文献3】実公昭62−19767(図1,図2)
【特許文献4】特公平1−38939(図4〜図6)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3,4に記載されている様な合成樹脂製中空パネルを用いることにより、台風による屋根ガラスの破損・散乱といった問題を解決することができ、その利用が望まれるところである。
【0010】
しかし、特許文献3の提案は中空パネル同士の接合に手間がかかる上に、接合部からの雨漏りを防止するための措置が必要となるため、現場作業に工数がかかるという問題がある。
【0011】
特許文献4の提案も、中空パネルに補強部材を挿入する手間がかかり、屋根の取り付け作業を温室の内側からの上向き作業で行わなければならないため、やはり現場作業に工数がかかるという問題がある。また、パネル同士の接合端についての雨漏り防止作業も必要である。
【0012】
そこで、本発明は、合成樹脂製中空パネルを温室の屋根材として使用するに当たって、現場作業を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するためになされた本発明の温室の屋根構造は、合成樹脂製中空パネルを屋根材として用いた温室において、以下の構成を備えていることを特徴とする。
(1)温室の長手方向に間隔をあけて設置される合掌梁と、前記合掌梁の上に長手方向に伸びる様に取り付けられる母屋材と、前記母屋材の上に棟木又は天窓下枠から妻の梁に向かって伸びる様に取り付けられる垂木材とを備えた屋根の骨組み構造が採用されていること。
(2)前記棟木又は天窓下枠と、前記妻の梁と、これらの間に渡される様に取り付けられた2本の垂木材とで囲まれたパネル嵌め込み空間に対して1枚の合成樹脂製中空パネルを嵌め込む様に取り付けてあること。
(3)前記パネル嵌め込み空間内において、前記1枚の合成樹脂製中空パネルは、左右の垂木材の間の位置において、前記母屋材に対して、スペーサ部材によって該母屋材の上方所定距離の位置に支持された状態で、該母屋材に対してねじ止め固定されていること。
【0014】
本発明の温室の屋根構造によれば、(2)の構成を採用したので、垂木材間には1枚の長いパネルを嵌め込んだ形で屋根が構成される。しかし、屋根材は、合成樹脂製中空パネルを採用しているので、ガラス材に比べて重量が軽い。よって、その設置作業は安全で容易なものとなる。また、この長い合成樹脂製中空パネルは、垂木材間において、母屋材にねじ止め固定される。その際に、(3)の構成を採用し、母屋材との間にスペーサ部材を噛ませたので、長いパネルが自重で下方に撓むことを防止できている。この結果、本発明によれば、現場作業が困難でなく、台風に遭遇してもガラスの様に割れて散乱するといったことのない合成樹脂製中空パネルを屋根材とした温室をコストアップすることなく提供することができる。
【0015】
ここで、本発明の温室の屋根構造は、さらに、以下の構成をも採用するとよい。
(4)前記合成樹脂製中空パネルは、上下の板材の間に多数のリブが平行に配置されて多数の中空部を備えたものであり、該中空部が長手方向に伸びた状態となる様に取り付けられていること。
(5)前記スペーサ部材は、ねじ止め位置において前記合成樹脂製中空パネルの底面が前記垂木材に対する取り付け部分の底面よりも高い位置で支える高さを有していること。
【0016】
本発明の温室の屋根構造において、(4),(5)の構成をも採用することにより、屋根材として用いる合成樹脂製中空パネルは、長さ方向並びに幅方向において、上に凸の湾曲状態に取り付けられる。これにより、自重によるパネル材の撓みがさらに防止されると共に、ねじ止め位置が屋根材において盛り上がった状態となり、ねじ止め位置からの雨水の浸入をも防止することができる。
【0017】
また、本発明の温室の屋根構造は、さらに、以下の構成をも採用するとよい。
(6)前記垂木材は、アルミ合金製型材で構成され、左右両翼部に下側パッキンを、本体中央部に上側パッキンを嵌合させることのできる構造とされていること。
(7)前記スペーサ部材は、前記ねじ止め用のビスを挿入することのできる内径を有する管材を所定長さに切断したものによって構成され、前記ビスは、該スペーサ部材の高さ及び中空パネルの板厚を足した長さよりも長く、前記母屋材に対してねじ込み可能な長さを有していること。
【0018】
(6),(7)の構成をも採用した温室の屋根構造によれば、垂木材の間の位置において、母屋材の上面にスペーサ部材を接着剤などで仮止めしておき、合成樹脂製中空パネルを下側パッキンと上側パッキンを垂木材に嵌め込みながら取り付けた後、管材の孔の位置を目印にしてパネル上面からネジをねじ込んで母屋材に対して固定するという手順で作業を実行することができる。従って、母屋材に対してネジ止めする位置を事前に設定することができ、作業がさらに容易になる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、軽量で破損時にガラスの様に散乱することのない合成樹脂製中空パネルを温室の屋根材として使用するに当たって、屋根の自重による撓みを有効に防止し、屋根上面に雨水がたまってしまうといった問題や雨水が温室内に垂れるという問題も生じさせることなく、現場作業を容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施例の温室屋根構造を示し、(A)は斜視図、(B)は縦断面図、(C)は拡大断面図である。
【図2】実施例の温室屋根構造を示す斜視図、縦断面図及び要部拡大図である。
【図3】実施例の温室屋根構造を示す斜視図、縦断面図及び要部拡大図である。
【図4】実施例の温室屋根構造を示す斜視図である。
【図5】従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を、図面に示す具体的な実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0022】
実施例1の温室1は、図1に示す様に、温室の長手方向に間隔をあけて設置される合掌梁2と、合掌梁2の上に長手方向に伸びる様に取り付けられる母屋材3と、母屋材3の上に棟木4又は天窓5の下枠6から妻の梁7に向かって伸びる様に取り付けられる垂木材8とを備えた屋根の骨組み構造を備えている。そして、図2に示す様に、棟木4(又は天窓下枠6)と、妻の梁7と、これらの間に渡される様に取り付けられた2本の垂木材8,8とで囲まれたパネル嵌め込み空間Aに対して、1枚の合成樹脂製中空パネル10を嵌め込む様に取り付けてある。
【0023】
このパネル嵌め込み空間A内において、1枚の合成樹脂製中空パネル10は、左右の垂木材8,8の間の位置において、母屋材3に対して、スペーサ部材20によって母屋材3の上方所定距離の位置に支持された状態で、母屋材3に対してビス21でネジ止め固定されている。
【0024】
合成樹脂製中空パネル10は、ポリカーボネート樹脂で押し出し成形によって製造され、全体に透明で太陽光を透過可能なものである。そして、図2に示す様に、上下の板材11,12の間に多数のリブ13,13,…が平行に配置されて多数の中空部14,14,…を備えたもので、その中空部14が長手方向に伸びた状態となる様に取り付けられている。
【0025】
図3,図4に示す様に、スペーサ部材20は、ネジ止め位置において合成樹脂製中空パネル10の底面が垂木材8に対する取り付け部分の底面高さH1よりも高い位置で支える高さを有している。
【0026】
垂木材8は、アルミ合金製型材で構成され、左右両翼部に下側パッキン31,31を、本体中央部に上側パッキン32を嵌合させることのできる構造とされている。スペーサ部材20は、ネジ止め用のビス21を挿入することのできる内径を有するアルミ管を所定長さに切断したものによって構成され、ビス21は、スペーサ部材20の高さ及び中空パネル10の板厚を足した長さよりも長く、母屋材3に対してねじ込み可能な長さを有している。
【0027】
本実施例によれば、垂木材8,8間には1枚の長いパネル10を嵌め込んだ形で屋根が構成される。しかし、屋根材は、合成樹脂製中空パネル10を採用しているので、ガラス材に比べて重量が軽い。よって、その設置作業は安全で容易なものとなる。また、この長い合成樹脂製中空パネル10は、垂木材8,8間において、母屋材3にねじ止め固定される。その際に、母屋材3との間にスペーサ部材20を噛ませたので、長いパネル10が自重で下方に撓むことを防止できる。
【0028】
また、屋根材として用いる合成樹脂製中空パネル10は、長さ方向並びに幅方向において、上に凸の湾曲状態に取り付けられる。これにより、自重によるパネル材の撓みがさらに防止されると共に、ねじ止め位置が屋根材において盛り上がった状態となり、ねじ止め位置からの雨水の浸入をも防止することができる。
【0029】
屋根材の取り付けに当たっては、垂木材8,8の間の位置において、母屋材3の上面にスペーサ部材20を接着剤などで仮止めしておき、合成樹脂製中空パネル10を下側パッキン31と上側パッキン32を垂木材8に嵌め込みながら取り付けた後、スペーサ部材20の孔の位置を目印にしてパネル上面からビス21をねじ込んで母屋材3に対して固定するという手順で作業を実行することができる。
【0030】
この結果、本実施例によれば、現場作業が困難でなく、台風に遭遇してもガラスの様に割れて散乱するといったことのない合成樹脂製中空パネル10を屋根材とした温室をコストアップすることなく提供することができる。
【0031】
以上説明した様に、本実施例によれば、軽量で破損時にガラスの様に散乱することのない合成樹脂製中空パネルを温室の屋根材として使用するに当たって、屋根の自重による撓みを有効に防止し、屋根上面に雨水がたまってしまうといった問題や雨水が温室内に垂れるという問題も生じさせることなく、現場作業を容易に実施することができる。
【0032】
以上、本発明の実施例を説明したが、本発明は実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内においてさらに種々の形態を採用することができることはもちろんである。
【0033】
例えば、スペーサ部材20は、角筒を切断したものやアングル材を切断したもので構成しても構わない。
【産業上の利用可能性】
【0034】
施設園芸用のガラス温室に代わるものとして、新築、あるいは改築といった形態での利用が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1・・・温室
2・・・合掌梁
3・・・母屋材
4・・・棟木
5・・・天窓
6・・・天窓下枠
7・・・妻の梁
8・・・垂木材
10・・・合成樹脂製中空パネル
11・・・上板
12・・・下板
13・・・リブ
14・・・中空部
20・・・スペーサ部材
21・・・ビス
31・・・下側パッキン
32・・・上側パッキン
A・・・パネル嵌め込み空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂製中空パネルを屋根材として用いた温室において、以下の構成を備えていることを特徴とする温室の屋根構造。
(1)温室の長手方向に間隔をあけて設置される合掌梁と、前記合掌梁の上に長手方向に伸びる様に取り付けられる母屋材と、前記母屋材の上に棟木又は天窓下枠から妻の梁に向かって伸びる様に取り付けられる垂木材とを備えた屋根の骨組み構造が採用されていること。
(2)前記棟木又は天窓下枠と、前記妻の梁と、これらの間に渡される様に取り付けられた2本の垂木材とで囲まれたパネル嵌め込み空間に対して1枚の合成樹脂製中空パネルを嵌め込む様に取り付けてあること。
(3)前記パネル嵌め込み空間内において、前記1枚の合成樹脂製中空パネルは、左右の垂木材の間の位置において、前記母屋材に対して、スペーサ部材によって該母屋材の上方所定距離の位置に支持された状態で、該母屋材に対してねじ止め固定されていること。
【請求項2】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項1記載の温室の屋根構造。
(4)前記合成樹脂製中空パネルは、上下の板材の間に多数のリブが平行に配置されて多数の中空部を備えたものであり、該中空部が長手方向に伸びた状態となる様に取り付けられていること。
(5)前記スペーサ部材は、ねじ止め位置において前記合成樹脂製中空パネルの底面が前記垂木材に対する取り付け部分の底面よりも高い位置で支える高さを有していること。
【請求項3】
さらに、以下の構成をも備えていることを特徴とする請求項1又は2記載の温室の屋根構造。
(6)前記垂木材は、アルミ合金製型材で構成され、左右両翼部に下側パッキンを、本体中央部に上側パッキンを嵌合させることのできる構造とされていること。
(7)前記スペーサ部材は、前記ねじ止め用のビスを挿入することのできる内径を有する管材を所定長さに切断したものによって構成され、前記ビスは、該スペーサ部材の高さ及び中空パネルの板厚を足した長さよりも長く、前記母屋材に対してねじ込み可能な長さを有していること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−188792(P2011−188792A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57266(P2010−57266)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(592160618)イシグロ農材株式会社 (5)
【Fターム(参考)】