説明

温室栽培方法

【課題】二酸化炭素が有する種々の機能を、それぞれ好適に有効利用できる温室栽培方法を提供すること。
【解決手段】外部からの二酸化炭素の供給により、温室内の二酸化炭素濃度を調整して、植物の生育を行う温室栽培方法において、温室内の二酸化炭素濃度を調整する際に、400ppmを超える範囲で、時間軸に対して2以上の二酸化炭素濃度域を形成し、前記2以上の二酸化炭素濃度域は、互いに重複せず、各濃度域に特有の機能を発現するものであり、植物成長促進機能を発現する濃度域以外に、害鳥の忌避機能を発現する濃度域及び又は害虫の忌避機能を発現する濃度域を含むことを特徴とする温室栽培方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室栽培方法に関し、詳しくは、外部からの二酸化炭素の供給により、温室内の二酸化炭素濃度を調整して、植物の生育を行う温室栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、植物栽培ハウス内の二酸化炭素が不足して植物の成長に悪影響を与える問題を解決するために、植物栽培ハウス内の二酸化炭素濃度が、所定の下限値未満となる場合に、植物栽培ハウス内に二酸化炭素を供給し、所定の上限値を超えた場合に、二酸化炭素の供給を終了する制御を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−124802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、植物栽培における二酸化炭素の機能について、研究を行ってきた。
【0005】
その結果、二酸化炭素は、濃度に応じて、植物の成長促進の他、害虫や捕食鳥類の忌避機能など、植物栽培のために有効な種々の機能を発現し得ることを見出した。
【0006】
このとき、一つの機能を発現するための好ましい濃度域が、必ずしも他の機能の発現のための好ましい濃度域と一致するものではないことがわかった。
【0007】
例えば、害虫や捕食鳥類の忌避機能の発現に好適な二酸化炭素濃度域が、一方では、植物の成長促進機能の発現を阻害する場合があることが確認された。
【0008】
本発明者は、二酸化炭素が有する種々の機能を、それぞれ好適に有効利用する方法について更に鋭意検討し、本発明に至った。
【0009】
そこで、本発明の課題は、二酸化炭素が有する種々の機能を、それぞれ好適に有効利用できる温室栽培方法を提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
外部からの二酸化炭素の供給により、温室内の二酸化炭素濃度を調整して、植物の生育を行う温室栽培方法において、
温室内の二酸化炭素濃度を調整する際に、400ppmを超える範囲で、時間軸に対して2以上の二酸化炭素濃度域を形成し、
前記2以上の二酸化炭素濃度域は、互いに重複せず、各濃度域に特有の機能を発現するものであり、植物成長促進機能を発現する濃度域以外に、害鳥の忌避機能を発現する濃度域及び又は害虫の忌避機能を発現する濃度域を含むことを特徴とする温室栽培方法。
(請求項2)
害鳥の忌避機能及び又は害虫の忌避機能を発現する濃度域が、植物成長機能を発現する濃度域よりも、高い濃度域であることを特徴とする請求項1記載の温室栽培方法。
(請求項3)
前記二酸化炭素濃度域を形成する際に、バイオマスの発酵処理によって得られるバイオガスから分離された二酸化炭素、及び又は、バイオガスを燃焼した排ガスに含まれる二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の温室栽培方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、二酸化炭素が有する種々の機能を、それぞれ好適に有効利用できる温室栽培方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の温室栽培方法を実施するために用いられるタイミングチャートの一例を示す図
【図2】本発明の温室栽培方法を実施するための制御装置の概略構成の一例を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、植物の生育を行う温室栽培方法において、温室内の二酸化炭素濃度を調整する際に、時間軸に対して2以上の二酸化炭素濃度域を形成するものである。
【0016】
本発明において、上記2以上の二酸化炭素濃度域は、互いに重複せず、各濃度域に特有の機能を発現するものであり、植物成長促進機能を発現する濃度域以外に、害鳥の忌避機能を発現する濃度域及び又は害虫の忌避機能を発現する濃度域を含む。
【0017】
かかる濃度域の構成により、一つの機能を発現するための好ましい濃度域が、必ずしも他の機能の発現のための好ましい濃度域と一致しない場合に対応する上で、効果的である。
【0018】
つまり、本発明によれば、時間軸に対して2以上の二酸化炭素濃度域を形成することで、一つの機能を発現するための濃度域が、他の機能の発現を阻害する状態を継続させないことを可能とし、二酸化炭素が有する種々の機能を、各々の濃度域において好適に有効利用できる効果を奏する。
【0019】
本発明者は、例えば、害虫や捕食鳥類の忌避機能の発現に好適な濃度域は比較的高濃度であり、植物の成長促進機能の発現に好適な濃度域は比較的低濃度であり、互いに異なっているという知見や、害虫や捕食鳥類の忌避機能の発現に好適な濃度域を継続すると、植物の成長促進機能が発現され難くなるばかりか、場合によっては植物に成長異常が生じる恐れがあるという知見を見出した。
【0020】
かかる知見に基づいて、本発明者は、温室内の二酸化炭素濃度を調整する際に、時間軸に対して2以上の二酸化炭素濃度域を形成することにより、害虫や捕食鳥類の忌避機能の発現に好適な濃度域を所定の時間で切り上げて、植物の成長促進機能の発現に好適な濃度域に推移させるように温室内の二酸化炭素濃度を調整することが可能となり、害虫や捕食鳥類の忌避機能と、植物の成長促進機能の両方を、極めて好適に有効利用できることを、試験により確認し、本発明に至った。
【0021】
本発明において、上記2以上の二酸化炭素濃度域は、外気中の濃度、つまり通常の空気中の二酸化炭素濃度(350ppm〜400ppm)を超える濃度、即ち400ppmを超える濃度範囲において形成される。
【0022】
また、本発明において、上記2以上の二酸化炭素濃度域は、それぞれ、少なくとも上限又は下限の何れか、又は両方を、所定の濃度によって規定することにより、互いに重複しないように形成される。
【0023】
本発明の栽培方法は、例えば、温室内の二酸化炭素濃度を調整する際に、2以上の二酸化炭素濃度域が時間軸に対して所定の時間ずつ継続されるようにあらかじめ設定されたタイミングチャート等を参酌することによって、好適に実施できる。
【0024】
図1は、タイミングチャートの一例を示す図である。
【0025】
図1の例では、1日の周期において、3つの濃度域C1〜C3、及び、外気中の二酸化炭素濃度CAirが、それぞれ所定の時間ずつ継続されるように設定されている。
【0026】
図1の例において、3つの濃度域C1〜C3は、それぞれ、植物の成長を促進する機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C1、害虫の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C2、及び、害鳥の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C3に対応している。
【0027】
以下に、本発明において好ましい濃度域の設定例について説明する。なお、以下の説明において、具体的な二酸化炭素の濃度は、二酸化炭素が温室内に均一に分散した場合の濃度を指す。
【0028】
本発明において、植物の成長を促進する機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C1は、光合成が比較的盛んになる時間帯において、好ましくは、0.050%以上0.20%以下の範囲の中で設定されることである。一方、光合成が比較的盛んではない時間帯は、0.035%以上0.040%以下程度の外気中濃度CAirであることが好ましい。ここで、光合成が比較的盛んになる時間は、通常は昼間であり、光合成が比較的盛んではない時間帯は、通常は夜間であるが、光の照射条件等を制御して栽培する場合はこの限りではなく、制御に合わせて適宜設定することが好ましい。光合成が比較的盛んではない時間帯に、外気中濃度CAirであることによって、植物による酸素呼吸を促進できる。
【0029】
植物の成長を促進する機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域は、栽培される植物の種類や、施肥条件等によって最適条件が異なる場合もあるが、あらかじめ試験等を行って適宜設定できる。
【0030】
一方、害虫及び害鳥の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C2、C3は、植物の成長を促進する機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C1よりも高濃度側に存在する。
【0031】
本発明において、害虫の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C2は、好ましくは0.5%以上5%以下の範囲、より好ましくは1%以上3%未満の範囲の中で設定されることである。また、該濃度域C2は、好ましくは、1〜10時間の範囲、より好ましくは3〜7時間の範囲で保持されることである。ここで、害虫としては、格別限定されないが、例えば、イチゴに対する甲虫類幼虫(ドウガネブイブイ)等や、トマトに対するコナジラミ類や、ハダニ類、トマトサビダニ類等のダニ類などが好ましく例示できる。害虫の種類によって最適条件が異なる場合もあるが、あらかじめ試験等を行って適宜設定できる。
【0032】
本発明において、害鳥の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C3は、好ましくは3%以上7%以下の範囲、より好ましくは4%以上5%以下の範囲の中で設定されることである。また、該濃度域C3は、好ましくは1分〜1時間の範囲、より好ましくは5分から30分の範囲で保持されることである。ここで、害鳥としては、格別限定されないが、主に昆虫網膜翅目(ハチ類)等の受粉用虫類を捕食するムクドリ等の鳥類や、栽培される植物に対して食害を与える鳥類を好ましく例示できる。害鳥の種類によって最適条件が異なる場合もあるが、あらかじめ試験等を行って適宜設定できる。
【0033】
温室内の二酸化炭素濃度は、例えば、平常時の昼間において、植物の成長を促進する機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C1とされ、夜間に外気中濃度CAirとされ、一日あたり0.2〜2回程度の頻度で、害虫の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C2とし、また、一日あたり1〜10回程度の頻度で、害鳥の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C3とすることができる。
【0034】
図2は、本発明の栽培方法を実施するための制御装置の概略構成の一例を説明する図である。
【0035】
図2において、1は、植物を栽培する温室、2は、温室1の二酸化炭素濃度を測定する濃度測定手段、3は、温室1内の二酸化炭素濃度を制御する制御装置、4は、温室1内の二酸化炭素濃度を調整する濃度調整手段である。
【0036】
制御装置3は、制御部31と、図1に示したようなタイミングチャートを記憶するメモリー32とを備えている。
【0037】
制御部31は、濃度測定手段2から入力される温室1内の二酸化炭素濃度のモニタリング値と、メモリー32のタイミングチャートに示される濃度域とを参酌して、モニタリング値が、タイミングチャートに示される濃度域の範囲となるように、濃度調整手段4を作動させる。
【0038】
濃度調整手段4は、具体的には、温室1内の二酸化炭素濃度を上昇又は降下させる方法を実行する手段であり、本発明において、その方法は格別限定されるものではない。
【0039】
温室内の二酸化炭素濃度を上昇させる場合は、温室内よりも二酸化炭素濃度が高いガスをブロワ等の送風手段で供給することで好ましく実現できる。あるいは、温室内において、化学反応を生じさせて二酸化炭素を生成するか、あるいは二酸化炭素を含む液中から二酸化炭素を放散させてもよい。温室内の二酸化炭素濃度の上昇に用いられる二酸化炭素は、後に詳述するが、バイオマスの発酵処理によって得られるバイオガスに由来する二酸化炭素を含むことが好ましい。
【0040】
一方、温室内の二酸化炭素濃度を降下させる場合は、温室内の二酸化炭素が植物の代謝反応等により自然消費されることを利用して実現することもできるが、本発明においては、温室内よりも二酸化炭素濃度が低いガス(空気等)を供給して強制的に二酸化炭素濃度を降下させることが好ましい。
【0041】
従来、供給した二酸化炭素を植物に消費させて有効利用する観点から、二酸化炭素を供給した後、強制的に二酸化炭素濃度を降下させる方法は用いられなかった。これに対して、本発明においては、一つの機能を発現するための好ましい二酸化炭素濃度が、他の機能の発現のための好ましい濃度と重複しない場合を含むが故に、強制的に二酸化炭素濃度を降下させることにより、各濃度域間の推移が速やかに行われ、二酸化炭素が有する種々の機能を、それぞれ更に好適に有効利用できる効果を奏する。
【0042】
温室内よりも二酸化炭素濃度が低いガスを供給する方法としては、単に換気口を開放して自然対流によって外気を取り込むだけでもよいが、より強制的に二酸化炭素濃度を降下させるために、ブロワ等の送風手段によって、外気、あるいは、二酸化炭素濃度が外気よりも高く且つ温室内よりも低いガスを温室内に送風することが好ましい。
【0043】
本発明においては、例えば、植物の成長を促進する機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C1、害虫の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C2をあらかじめタイムチャートに設定しておき、温室への害鳥の進入を検知した場合に、タイミングチャートに従う制御に割り込むようにして、所定時間だけ害鳥の忌避機能を好適に発現するための二酸化炭素の濃度域C3とするように制御することも好ましいことである。
【0044】
この例では、3つの濃度域C1〜C3を推移する制御を例示したが、本発明は、必ずしもこれに限定されず、2又は4以上の濃度域を推移するものであってもよい。
【0045】
害虫又は害鳥の忌避機能の発現のように、二酸化炭素濃度を好ましくは3%以上の高濃度に推移させる工程を2以上行う場合は、所定の時間、好ましくは1時間以上の間隔をおいて行うことが、植物の成長阻害をより確実に防止する観点から好ましい。
【0046】
本発明において、害虫又は害鳥の忌避機能を発現する場合のような比較的高濃度側の濃度域から、植物の成長促進機能を発現する場合のような比較的低濃度側の濃度域に向けて、温室内の二酸化炭素濃度を推移させる場合は、特に、温室内よりも二酸化炭素濃度が低いガスを供給して強制的に二酸化炭素濃度を低下させればよい。高濃度二酸化炭素による植物の成長阻害をより確実に防止する観点から好ましいからである。
【0047】
なお、害虫又は害鳥の忌避機能の発現のように、二酸化炭素濃度を3%以上の高濃度に推移させる場合は、受粉用虫類を、温室内の空気と隔離して二酸化炭素から保護することが好ましい。
【0048】
以上の説明では、二酸化炭素の濃度について、二酸化炭素が温室内に均一に分散した場合の濃度としたが、本発明において、二酸化炭素の濃度は、例えば、温室内における特定の観測点における濃度、あるいは、供給された二酸化炭素量と温室内の体積から算出した濃度(例えば二酸化炭素が温室内に均一に分散した場合の濃度)等に基づいて規定することができ、モニタリングされる二酸化炭素濃度と、参照されるタイミングチャート等に示される濃度域との間で一貫性があればどのような基準に従って規定してもよい。
【0049】
本発明において、二酸化炭素濃度域を形成する際に用いる二酸化炭素は、格別限定されないが、(A)バイオマスの発酵処理によって得られるバイオガスから分離された二酸化炭素、及び又は、(B)バイオガスを燃焼した排ガスに含まれる二酸化炭素を用いることが好ましい。
【0050】
バイオガス由来の二酸化炭素は、所謂カーボンニュートラルといわれるものであり、大気中に放散しても温暖化ガスを新たに放出したことにはならないとされている。特に、本発明においては、二酸化炭素を植物に有効利用(吸収)させるため、未利用の二酸化炭素を大気放出したとしても、極めて環境適応性に優れる効果を奏する。
【0051】
また、バイオガス由来であれば、害虫又は害鳥の忌避機能の発現のように大量の二酸化炭素の供給が必要となる場合でも、二酸化炭素濃度を上昇させるための二酸化炭素を好適に賄うことができ、更に、例えばバイオマスを直接燃焼させた排ガスのように不完全燃焼による一酸化炭素等の不純物が含まれ難い効果が得られる。
【0052】
上記(A)バイオマスの発酵処理によって得られるバイオガスから分離された二酸化炭素を用いる場合について具体的に詳述する。
【0053】
バイオガスからの二酸化炭素の分離方法は、格別限定されず、気液接触によって、水や発酵液(消化液)等の液中に、バイオガス中の二酸化炭素を溶解させて分離する方法を好ましく例示できる。このようにして液中に溶解された二酸化炭素は、液から分離した後に温室内へ供給してもよいし、液のまま温室内に供給して該温室内で放散させて供給してもよい。
【0054】
本発明においては、気液接触時に二酸化炭素の溶解性が比較的大となり、放散時に二酸化炭素の溶解性が比較的小となるように条件設定を行って、溶解と放散を効率化することが好ましい。溶解性を変化させるために設定変更される条件としては、温度、圧力の他、pHや電位等を用いることも溶解と放散を更に効率化できる観点から好ましい。これら複数の条件を組み合わせて更なる溶解と放散の促進を図ることも好ましいことである。本発明においては、害虫又は害鳥の忌避機能の発現のように、短時間に大量の二酸化炭素の供給が必要となる場合があるが、溶解と放散を効率化することによって好適に二酸化炭素を賄うことが可能となる効果を奏する。
【0055】
具体的には、例えば、気液接触時に、好ましくは0.15MPa以上1.00MPa未満の範囲の加圧下において気液接触させることにより、二酸化炭素の液中への溶解性を高め、その後、放散時に圧力を下げることによって、溶解性を低めて放散を促すことができる。
【0056】
また、例えば、気液接触時に、透析法によって液の水素イオン濃度を小さくして気液接触させることにより、二酸化炭素の液中への溶解性を高め、その後、放散時に液の水素イオン濃度を上昇させることによって、溶解性を低めて放散を促すことができる。緩速式の電気透析法は、この目的に適した手段である。
【0057】
本発明においては、バイオガスに由来する硫化水素が温室内に混入することを防止する観点から、硫化水素除去処理を行うことが好ましい。硫化水素除去処理は、バイオガスから二酸化炭素を分離する前のバイオガス、あるいは、バイオガスから分離後の二酸化炭素の何れに対して設けてもよいが、好ましくは、バイオガスから二酸化炭素を分離する前に、バイオガス中の硫化水素を除去しておくことである。硫化水素除去処理としては、格別限定されるものではないが、生物脱硫塔などを用いた生物脱硫処理を好ましく例示できる。硫化水素濃度をサブppmとする脱硫を行うことも好ましく、このような技術は、例えばバイオガスの燃料電池への適用等のために既に技術的に確立している。格別限定されないが、例えば、特開2008−127407号公報、特開2008−13649、特開2007−106900号公報、特開2006−282826号公報等に記載の脱硫技術を好ましく用いることができる。
【0058】
次に、(B)バイオガスを燃焼した排ガスに含まれる二酸化炭素を用いる場合について具体的に詳述する。
【0059】
バイオガスを燃焼して生じる排ガスに含まれる二酸化炭素は、即ち、元々バイオガスに含まれていた二酸化炭素に加えて、メタン等の燃料ガスが燃焼して生じた二酸化炭素を含むものである。
【0060】
二酸化炭素は、排ガスから分離した後に温室に供給することもできるが、バイオガス中のメタンや硫化水素等の植物成長に好ましくない物質が燃焼により分解されているため、排ガスのまま供給することも好ましいことである。
【0061】
(B)の場合においても、燃焼前のバイオガスがあらかじめ、上述の(A)と同様に硫化水素除去処理に供されていることが好ましい。燃焼前のバイオガス中の硫化水素が除去されていることにより、燃焼後の排ガス中に二酸化硫黄が生じることを好適に防止できるからである。
【0062】
なお、二酸化硫黄については、一般的には植物に対する有害物質として知られており、本発明においては、ppbレベルまで低下させておくことが好ましく、上述した通り、これを実現できる硫化水素除去処理を行うことが好ましい。微量の二酸化硫黄は、病害虫対策にもなるが、一般的に、長時間の曝気は作物に悪影響を与える場合がある。
【0063】
また、(B)の場合においては、バイオガスの段階において硫化水素を除去しておく場合に限らず、例えば、バイオガスを燃焼後のガスから、硫化水素の酸化物である二酸化硫黄を除去して温室に供給することもできる。硫化水素の除去と二酸化硫黄の除去を組み合わせて用いることも、植物成長の阻害を確実に防止する観点から好ましいことである。
【0064】
また、(B)の場合において、元々バイオガスに含まれていた二酸化炭素は、通常であればバイオガスの高カロリー化のために分離除去されるが、本発明においては、植物栽培に有効利用する観点から、二酸化炭素の分離除去工程を設けずに、元々バイオガスに含まれていた二酸化炭素を含んだまま燃焼させることが好ましい。特にバイオガスを燃焼する燃焼手段がガスボイラー等の発熱装置であれば、二酸化炭素の分離除去処理がなされていないバイオガスであっても、好適に用いることができる。発熱装置で生じた熱エネルギーを用いて温室の加温を行うことも、本発明においては好ましいことである。
【0065】
以上に説明した(A)及び又は(B)の場合において、バイオガスを生成するための発酵原料となるバイオマスは、格別限定されるものではないが、温室内で栽培される植物の廃棄部分(非食用部等)を好ましく用いることができる。本発明において、例えば、トマト栽培で生じるトマト葉等の非食用部のように、特定されたバイオマスを用いることは、発酵原料中における炭素/窒素比(C/N比)を容易に調整できる点で好ましいことである。
【0066】
本発明において、温室内に供給するための二酸化炭素は、貯留手段によって貯留されることが好ましく、これにより、制御の必要に応じて速やかに温室内に供給できるようになる。貯留手段としては、例えば、二酸化炭素をガスとして蓄えるのであればガスホルダを用いることができ、液に溶解した状態で蓄えるのであれば貯留槽を用いることができる。
【0067】
本発明において、植物を栽培する温室は、外気との間で二酸化炭素濃度の差を保持出来る程度に外気から遮蔽されていればよく、必ずしも完全な密封状態である必要はない。
【0068】
本発明において、植物を栽培する温室としては、格別限定されず、樹脂シート等で覆われたハウス、一般の温室等を好ましく例示できる。
【0069】
本発明を適用できる栽培植物としては、格別限定されず、トマト等の野菜類に限らず、穀物類、果樹類等を好ましく例示できる。
【0070】
本発明においては、例えば、1つのハウス内に、互いに遮蔽された複数の温室を形成し、各々の温室ごとに二酸化炭素を供給することも、供給された二酸化炭素の偏在化を防止する等の観点から好ましいことである。これにより、特に短時間での濃度変化であっても、より確実に機能発現できるようになる効果が得られる。
【0071】
本発明において、温室内の体積は、格別限定されず、例えば、試験管レベルから敷地面積が数百ha以上の巨大栽培施設まで適用可能である。体積が大である場合は、例えば1つの温室に対して、分散して配設された複数の二酸化炭素供給手段から二酸化炭素を供給することも好ましいことである。
【実施例】
【0072】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されない。
【0073】
(実施例1)
害虫及び害鳥について二酸化炭素濃度による影響を調べ、忌避機能を好適に発現する二酸化炭素濃度が、害虫と害鳥とで相違することについて検証した。
【0074】
1.害虫に対する二酸化炭素濃度の影響
[試験1]
植物栽培を行う小型温室内に二酸化炭素を供給し、室内の二酸化炭素濃度を1%に保持した。二酸化炭素濃度は、二酸化炭素が小型温室内に均一に分散した後、オルザート法により測定した。
【0075】
トマト小葉に付着するハダニ類、トマトサビダニ類等の害虫の総平均数の経時変化を測定した。
【0076】
[試験2]
試験1において、室内の二酸化炭素濃度を3%に保持したこと以外は、試験1と同様にして、ダニ類の測定を行った。
【0077】
[試験3]
試験1において、室内の二酸化炭素濃度を4%に保持したこと以外は、試験1と同様にして、ダニ類の測定を行った。
【0078】
[試験4]
試験1において、室内の二酸化炭素濃度を5%に保持したこと以外は、試験1と同様にして、ダニ類の測定を行った。
【0079】
試験1〜4の結果を表1に示す。
【0080】
【表1】

【0081】
<評価>
温室内の二酸化炭素濃度に伴って害虫の忌避機能の発現状態が変化することがわかる。高濃度では比較的短時間で十分な忌避効果が得られるのに対して、低濃度では比較的長時間を要することがわかる。
【0082】
なお、温室内の二酸化炭素濃度が1%未満では、害虫の忌避機能が顕著に発現せず、5%を超える濃度を10時間以上維持すると、一部の葉に変色が見られた。
【0083】
害虫は移動速度が遅いため、忌避効果が、後述の鳥類の忌避効果と比較して、長時間を要する傾向にあり、植物への成長阻害を考慮すると、1%以上3%未満の範囲の濃度で行うことが好ましいと判断できる。
【0084】
2.害鳥に対する二酸化炭素濃度の影響
鳥の飼箱を、一方向を開口したポリエチレンシートで覆い、飼箱に集まる鳥類の二酸化炭素濃度に対する忌避行動を観察した。
【0085】
3%を超える二酸化炭素含有ガスを浴びることによって、鳥類は忌避行動をとることが分かった。濃度を4〜5%にすることで、より速やかな忌避行動をとることが確認された。
【0086】
濃度を維持する時間は、1分で十分な効果が見られ、5分程度から数十分(30分程度)で顕著な効果が得られることが確認された。
【0087】
<評価>
害鳥に対しては、害虫の忌避行動と比較して短時間で効果が得られることが確認され、このような短時間であれば植物への影響も極めて小さいことから、4%以上5%以下の範囲の濃度で行うことが好ましいと判断できる。
【0088】
3.忌避機能を好適に発現する二酸化炭素濃度の相違
上記「1.害虫に対する二酸化炭素濃度の影響」と、上記「2.害鳥に対する二酸化炭素濃度の影響」の評価結果の対比から、忌避機能を好適に発現する二酸化炭素濃度は、害虫と害鳥とで異なることがわかる。
【0089】
なお、これら害虫又は害鳥忌避機能を好適に発現する二酸化炭素濃度は何れも、植物の成長促進のために好適な二酸化炭素濃度よりも高濃度側に位置し、異なっていることが、追加の実験により確認された。
【符号の説明】
【0090】
1:温室
2:濃度測定手段
3:制御装置
31:制御部
32:メモリー
4:濃度調整手段
C1〜C3:二酸化炭素の濃度域
Air:外気中の二酸化炭素濃度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの二酸化炭素の供給により、温室内の二酸化炭素濃度を調整して、植物の生育を行う温室栽培方法において、
温室内の二酸化炭素濃度を調整する際に、400ppmを超える範囲で、時間軸に対して2以上の二酸化炭素濃度域を形成し、
前記2以上の二酸化炭素濃度域は、互いに重複せず、各濃度域に特有の機能を発現するものであり、植物成長促進機能を発現する濃度域以外に、害鳥の忌避機能を発現する濃度域及び又は害虫の忌避機能を発現する濃度域を含むことを特徴とする温室栽培方法。
【請求項2】
害鳥の忌避機能及び又は害虫の忌避機能を発現する濃度域が、植物成長機能を発現する濃度域よりも、高い濃度域であることを特徴とする請求項1記載の温室栽培方法。
【請求項3】
前記二酸化炭素濃度域を形成する際に、バイオマスの発酵処理によって得られるバイオガスから分離された二酸化炭素、及び又は、バイオガスを燃焼した排ガスに含まれる二酸化炭素を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の温室栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94156(P2013−94156A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242909(P2011−242909)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】