説明

温室構造体および温室構造体の温度調整方法

【課題】低コストで温室構造体内の温度調整を行うことが可能である温室構造体および温度調整方法を提供する。
【解決手段】温室構造体10は、内側に空間2を形成する外殻体を備え、外殻体の少なくとも一部が光透過性の外周材1からなる温室構造体10であって、空間2に温度調整部材5が配置されており、温度調整部材5が、蓄熱材層3と、蓄熱材層3と当接するように積層されてなる保水性材層4とを備えていて、空間2を加熱する場合には、空間2の気温が蓄熱材層3の温度よりも高温の時に蓄熱材層3に蓄熱された熱を、蓄熱材層3から放熱させることによって空間2を加熱し、空間2を冷却する場合には、保水性材層4に水を供給し、保水性材層4に保持された水の気化によって、空間2を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温室構造体およびその温度調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜、果物、園芸植物などの施設栽培に用いられている、光透過性の外周材を備えたいわゆるビニールハウスなどの温室構造体は、外周材を透過する太陽光によって、ヒーターなどの特別な加熱手段を用いることなく室内が温暖になるため、寒冷地や冬場にも種々の作物を育成するために広く用いられている。
【0003】
かかる温室構造体は、昼間は外周材を透過する太陽光によって温室内部を温暖な状態に保つことができるものの、夜間や悪天候時には太陽光による加熱がされず、温室内部は低温になる。
そのため、温度変化を嫌う植物の栽培にこのような温室構造体を用いる場合には、温室構造体の内部を適温に保持する手段が必要となる。
【0004】
温室構造体の内部を適温にする技術として、例えば、特許文献1に記載されているような技術が挙げられる。
すなわち、温室とは別に、蓄熱槽および熱交換装置を設け、蓄熱槽と熱交換装置との間を水などの熱交換媒体を用いて熱を循環させるシステムである。
かかる熱交換装置では、まず、昼間など温室が高温になる場合には、温度の高い温室からの空気を熱交換装置へ送り、該空気を熱媒体と接触させて熱交換(冷却)した後、温室内へ返送する。
前記温室からの空気によって加熱された熱媒体は、蓄熱槽へ送られ、蓄熱材と熱交換されて冷却された後、再度熱交換装置に循環される。このように温室内へは冷却された空気が送られ、蓄熱材には熱が蓄熱される。
【0005】
一方、夜間など温室が低温になる場合には、蓄熱槽の熱媒体が昼間に蓄熱された蓄熱材によって加熱され、この暖められた熱媒体と、温室から送られた冷たい空気とが熱交換装置において熱交換されて、加熱された空気が温室へ返送され、温室は加熱されることになる。
【0006】
しかしながら、前記特許文献1に記載の技術では、蓄熱槽や熱交換装置などを温室構造体に設けなければならず、設備が大掛かりになるため、温室構造体全体のコストが高くなる。
【0007】
温室構造体の温室内の温度調整をする別の技術としては、非特許文献1に記載されているような技術が挙げられる。
すなわち、温室内部の側面の壁として斜面や土手などを強化するために施工されたコンクリート壁を利用した温室構造体である。
かかる、温室構造体においては、コンクリートの蓄熱性を利用して、昼間などに温室内の熱をコンクリートに蓄熱させておき、夜間は蓄熱されたコンクリートから放熱させることで温室内の温度を調節するため、蓄熱槽や熱交換装置などの大掛かりな設備を設けることなく簡易な設備で温室内の温度調整ができる。
【0008】
ところで、かかるコンクリートを利用した場合、温室内を加熱することはできても、高温になった温室内を冷却することができない。そこで、温室内を冷却するために、例えば、コンクリートに散水して気化熱で温室内を冷却することなどが考えられる。
しかし、夏季や高温地帯などにおいては、温室内のコンクリートはかなり高温になる。かかる高温のコンクリートに散水しても、コンクリート内部にしみこむことなく散水直後にコンクリート表面から水はすぐに蒸発してしまう。
そのため、温室内を安定した温度に維持することが困難であった。
また、前記のような気化を継続して行うためには、継続的にコンクリートに散水する必要があるが、コンクリートは保水性が低いため、流れ落ちる無駄な水が多く必要となり、コストが高くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭59−180222号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】星典弘、外3名著、「傾斜地を活用した新たな温室の構築技術」、平成21年度農業施設学会大会、講演要旨、Vol.2010、p.85−86、平成22年8月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、低コストで温室構造体内の温度調整を行なうことが可能な温室構造体およびその温度調整方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係る温室構造体は、内側に空間を形成する外殻体を備え、前記外殻体の少なくとも一部が光透過性の外周材からなる温室構造体であって、前記空間に温度調整部材が配置されており、前記温度調整部材が、蓄熱材層と、前記蓄熱材層と当接するように積層されてなる保水性材層とを備えていることを特徴としている。
【0013】
かかる構成の温室構造体によれば、前記外殻体の少なくとも一部である外周材を透過する太陽光などの光や外気温によって前記空間の内部が加熱されて、空間の気温が前記蓄熱材層よりも高くなった場合には、蓄熱材層に熱が蓄熱される。一方、夜間などに空間の温度が低下し、蓄熱材層の温度よりも空間の気温が低くなった場合には、蓄熱材層に蓄熱された熱が空間内に放熱されるため、空間を加熱して空間内の温度を上昇させることができる。
このように蓄熱材層を備えた温度調整部材を配置することによって、空間内の気温が低下した場合には、蓄熱材層に蓄熱された熱を用いて空間を加熱できる。
従って、大掛かりな装置を用いることなく空間の加熱ができ、低コストに温度調整の可能な温室構造体を得ることができる。
さらに、空間を冷却する場合には、前記温度調整部材の保水性材層に水を供給する。
かかる供給された水は保水性材層の内部に十分に保持されるため、水が流れ落ちることが少なく、供給した水を無駄なく気化のために利用できる。よって、冷却時の水のコストが低減できる。
また、保水性材層は当接している蓄熱材層の熱によって加熱されるため、保水性材層からの気化が効率良く行なえ、空間を効果的に冷却することができる。
【0014】
また、本発明にかかる温室構造体は、前記蓄熱材層の比熱が0.5kJ/kg・k以上2.0kJ/kg・k以下、熱伝導率が0.05w/m・k以上50.0w/m・k以下であることが好ましい。
【0015】
前記蓄熱材層の比熱および熱伝導率が前記範囲である場合には、蓄熱を良好に行なうことが可能となり好ましい。
また、蓄熱材層の比熱および熱伝導率の範囲が前記範囲であると、放熱にかかる時間が適切であるため、空間の温度変化を穏やかに行なえるため好ましい。
【0016】
また、本発明にかかる温室構造体は、前記保水性材層の比熱が前記蓄熱材層の比熱よりも小さく、前記保水性材層の熱伝導率が前記蓄熱材層の熱伝導率よりも大きいことが好ましい。
【0017】
前記保水性材層の比熱および熱伝導率が前記範囲である場合には、当接する蓄熱材層から熱が伝わりやすいため、空間の冷却時には内部の水を気化させやすい。
【0018】
本発明にかかる温室構造体において、前記蓄熱材層が、モルタル、コンクリート、アスファルト、大理石、レンガ、滑石、蝋石、蛇紋岩、角閃岩からなる群より選択される少なくとも1以上からなることが好ましい。
【0019】
前記材料からなる蓄熱材層は効果的に蓄熱できるために好ましい。
【0020】
本発明にかかる温室構造体において、前記保水性材層が、多孔質性材料からなることが好ましい。
【0021】
前記保水性材層が多孔質性材料からなる場合には、特に、保水性材層における水の保持力を高くすることができるため好ましい。
【0022】
本発明にかかる温室構造体において、前記外殻体の側面の少なくとも一部が土からなり、前記土の表面に当接するように前記温度調整部材が配置されていることが好ましい。
【0023】
前記外殻体の側面の少なくとも一部が土からなり、かかる土の表面に当接するように前記温度調整部材を配置した場合には、土によって空間内の断熱性が高まるため、特に蓄熱材層における蓄熱性が高くなる。
【0024】
本発明にかかる温室構造体の温度調整方法は、少なくとも一部が光透過性の外周材からなる外殻体の内側に形成された空間に、蓄熱材層と前記蓄熱材に当接するように積層されてなる保水性材層とを備えた温度調整部材が配置された温室構造体の温度調整方法であって、前記空間を加熱する場合には、前記空間の気温が前記蓄熱材層の温度よりも高温の時に前記蓄熱材層に蓄熱された熱を、前記蓄熱材層から放熱させることによって空間を加熱し、前記空間を冷却する場合には、前記保水性材層に水を供給し、前記保水性材層に保持された水の気化によって、前記空間を冷却することを特徴としている。
【0025】
かかる温室構造体の温度調整方法によれば、前記空間の気温が低下した場合などに該空間を加熱する場合には、空間が高温の際に蓄熱材層に蓄熱された熱によって空間を加熱できる。
また、空間の気温が高くなった場合などに該空間を冷却する場合には、水を保水性材層に供給することによって該保水性材層に保持された水の気化によって空間の冷却が行なえる。
このように蓄熱材層によって蓄熱された熱を利用して加熱することができるため加熱手段などが不要であると同時に、冷却時には保水性材層に水を供給すると、水を無駄にすることなく該保水性材層中に水を保持することができ、かかる水を有効に気化に使用することで、空間を冷却することができる。
よって、低コストで温度調整を行なうことが可能である。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明にかかる温室構造体及び温室構造体の温度調整方法によれば、低コストで温室構造体の温度調整を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】一実施形態の温室構造体を示す概略断面図。
【図2】一実施形態の温室構造体を示す概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
まず、本実施形態の温室構造体について図1に基づいて説明する。
本実施形態の温室構造体10は、内側に空間2を形成し少なくとも一部が光透過性の外周材1である外殻体を備えている。
前記空間2には、温度調整部材5が配置されており、前記温度調整部材5は、蓄熱材層3と、前記蓄熱材層3と当接するように積層されてなる保水性材層4とを備えている構造である。
【0029】
本実施形態の温室構造体10は、土手や掘削された斜面などの土が露出している土の面を利用して設置されている。
前記土の面は、温室構造体1の一側面において外部と仕切る前記外殻体の一部をなす外殻土側壁11を形成している。
すなわち、前記外殻体は前記外周材1と外殻土側壁11とからなり、本実施形態では外周材1と外殻土側壁11と地面12とによって空間2が囲まれている。
【0030】
温室構造体10を設置する方法としては、例えば、図2に示すように、弓状のパイプなどからなる支柱6を複数本用意し、各支柱6の両端を前記外殻土側壁11と地面12とに、各支柱6間に所定間隔を有するように固定して、各支柱6の外面を前記外周材1で覆うことで温室構造体10を設置することができる。
本実施形態の温室構造体10は、図2に示すように、外殻土側壁11を一側面として、該外殻土側壁11から地面12にかけて、前記外周材1によって屋根と、外殻土側壁11と向かいあう他側面とが連続した曲面によって形成されている構造である。
【0031】
前記外周材1として用いられる材料は、例えば、透明合成樹脂製シートやガラスなど、光を透過し且つ風や雨を遮断できる材料であって、温室構造体の外周材として用いられる公知の材料の中から適宜選択して使用することができる。
【0032】
本実施形態の温室構造体10の空間2には、前記外殻土側壁11の表面全面に前記温度調整部材5が配置されている。
前記温度調整部材5は、蓄熱性を有する材料からなる蓄熱材層3と、保水性を有する材料からなる保水性材層4とが一面側全面で当接するように積層されている積層板である。
本実施形態においては、温度調整部材5の蓄熱材層3側が外殻土側壁11に接触し、前記保水性材4が空間2に露出するように、温度調整部材5は外殻土側壁11に取り付けられている。
【0033】
前記蓄熱材層3は、太陽光などによって空間2が加熱されて、蓄熱材層よりも空間2の気温が高温になった場合に蓄熱する性質を有する材料から形成されている。
かかる材料としては、例えば、モルタル、コンクリートなどのセメント硬化体、アスファルト、大理石、レンガ、滑石、蝋石、蛇紋岩、角閃岩などが挙げられる。
中でも、モルタル、コンクリートなどのセメント硬化体を用いた場合には、蓄熱性が良好であり、低コストであるため、好ましい。
前記各材料は、1種類または前記各材料の中から2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
尚、本実施形態で用いられる蓄熱材層としては、比熱が空気よりも大きい材質からなるものをいう。
具体的には、前記蓄熱材層3は、例えば比熱が0.5kJ/kg・k以上2.0kJ/kg・k以下であることが好ましい。
また、蓄熱材層3は熱伝導率が、0.05w/m・k以上50.0w/m・k以下であることが好ましい。
かかる比熱及び熱伝導率である場合には、蓄熱性が高く空間の熱を効果的に蓄熱できると同時に、放熱にかかる時間が適切であるため、急激な温度変化が生じにくく、空間の温度変化を穏やかに行なえるため好ましい。
【0035】
前記蓄熱材層3の大きさは、温室構造体10の大きさによって適宜調整することが可能であるが、例えば、温室構造体の一側面の全面を覆うようなサイズの板状体であることが好ましく、一般的な温室構造体のサイズを考慮すると、幅1〜3m程度、長さ10〜50m程度の板状体であることが好ましい。
また、蓄熱材3層の厚みは、温室構造体10の大きさや空間の容積によって適宜調整することが可能であるが、前記一般的な温室構造体の大きさや空間の容積を考慮すると、例えば、10〜200mm程度であることが好ましい。
蓄熱材3層の大きさ及び厚みがこの範囲であれば効果的に蓄熱できる。
【0036】
本実施形態でいう保水性材層とは、少なくとも蓄熱材層よりも保水性を有する材料から形成されているものをいう。
さらに、具体的には、材料の自重に対して30〜90質量%程度の水分を保持することが可能な材料を用いることが好ましい。
かかる保水性材層4の材料としては、珪藻土、カオリナイト、ゼオライト、セピオライトなどの天然多孔質性鉱物、活性炭、メソポーラスシリカ、シリカアルミネート、シリカ、アルミナ、鉄化合物などの無機多孔質体、多孔質ガラス、ポーラスコンクリートなどの各種多孔質性材料、あるいは、吸水性高分子ポリマーなどの保水性材料を用いることが挙げられる。
中でも、シリカ、アルミナ、シリカアルミネート、ゼオライトなどの無機多孔質性材料は保水性が高く好ましい。
前記各材料は、1種類または前記各材料の中から2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
前記材料が粉体である場合には、材料と樹脂などのバインダーとを混合して、目的とする形状、例えば、ブロック、シートに成形することで保水性を有する保水性材層4を形成することができる。
あるいは、吹き付け材のようなペースト状にしておき、目的の箇所に吹き付けて乾燥させることによっても保水性材層4を形成することができる。
前記材料をブロックなどのような成形品にする場合には、バインダーを用いずに圧縮成形してもよい。
また、成形後には、乾燥や焼成などを行なってもよい。
さらに、成形体やペースト状の材料を用いる場合には、適宜必要なサイズに切断したり、あるいは、塗布、乾燥などによって、目的とする形状にすることができる。
【0038】
前記保水性材層4は、前記蓄熱材層3よりも比熱が小さく、且つ、熱伝導率が大きいことが好ましい。
すなわち、保水性材層4は、前記蓄熱材層3よりも熱を伝えやすいことが好ましい。
かかる場合には、蓄熱材層からの熱の取り込みことが良好に行なえ、且つ蓄熱材層3へ空間2からの熱を良好に伝えることができる。
【0039】
前記保水性材層4の具体的な比熱は、前記蓄熱材層3よりも小さく且つ0.3kJ/kg・k以上1.0kJ/kg・k以下であることが好ましい。
また、保水性材層4の具体的な熱伝導率は、前記蓄熱材層3よりも大きく且つ0.5w/m・k以上2.0w/m・k以下であることが好ましい。
かかる比熱及び熱伝導率の範囲の場合には、空間2および蓄熱材層3との間で効果的に熱交換を行なうことができるため好ましい。
【0040】
前記保水性材層4の大きさは、前記蓄熱材層3の大きさと同じ大きさである場合には、蓄熱材層3との間の熱交換を効率よく行えるために好ましい。
保水性材層4の厚みは、例えば1〜100mm、好ましくは5〜50mm程度であることが好ましい。
この範囲であれば、冷却時に必要な水を十分に保持することができる。
【0041】
前記蓄熱材層3と保水性材層4とを積層して前記温度調整部材5を形成する方法としては、例えば、予め板状に形成した蓄熱材層3と保水性材層4とを部分的に接着剤などで張り合わせて積層板として、温度調整部材5を形成することができる。
あるいは、蓄熱材層3および保水性材層4をペースト状の原料から形成し、温度調整部材5を配置する場所(本実施形態においては外殻土側壁11)に、蓄熱材層3の原料ペーストを塗布し、乾燥させて蓄熱材層3を形成した後、保水性材層4の原料ペーストを前記蓄熱材3の表面に重ねて塗布し乾燥させることで、外殻土側壁11の表面に、蓄熱材層3と保水性材層4とが積層された温度調整部材5を配置することができる。
あるいは、蓄熱材層3または保水性材層4のうちいずれか一方をあらかじめ板状体として形成しておき、他方の原料ペーストを前記板状体の表面に塗布するようにして積層することで、蓄熱材層3と保水性材層4とが積層された温度調整部材5を形成することができる。
【0042】
尚、本実施形態の温室構造体10は、前記のように土手や掘削された斜面などの土が露出している土の面を外殻体の一部である外殻土側壁として、温室構造体の一側面となるように設置されているが、かかる土手などの表面に補強用のコンククリートやモルタルなどのセメント硬化体が施工されている場合には、かかるセメント硬化体を蓄熱材層3として利用してもよい。
【0043】
次に、前記温室構造体10において温度を調整する方法についての一実施形態を説明する。
【0044】
まず、晴れた昼間などには、温室構造体10の空間2は、外周材1を透過する太陽光、あるいは外気温が高い場合には外気によって加熱される。この時、空間2の気温が温度調整部材5の蓄熱材層3よりも高温になれば空間の熱は蓄熱材層3に蓄熱される。
本実施形態では、温度調整部材5は保水性材層4が空間2に露出するように外殻土側壁11の表面に取り付けられているため、空間2の熱は、保水性材層4を介して蓄熱材層3へ伝えられる。
【0045】
一方、夜間などには、温室構造体10の空間2には、太陽光が差し込まないため加熱されることがない。従って、外気温が低下すれば空間2内の気温も低下していく。
空間2の気温が低下して、前記保水性材層4を介して伝わる温度が前記蓄熱材層3の温度よりも低くなると、前記蓄熱材層3に昼間蓄熱された熱が、蓄熱材層3から放熱される。かかる、蓄熱材層3からの熱は保水性材層4を介して空間2へ放出され、空間2の気温の低下が抑制される。
【0046】
本実施形態の保水性材層4は、熱を取り込みやすく且つ放熱性が高いため、空間2の熱を取り込んで蓄熱材層3へ伝えやすく、また、蓄熱材層3からの放熱を空間2へ伝えやすい。
【0047】
さらに、夏季や高温地帯などにおいて温室構造体10を使用する場合に、太陽光からの加熱および高温の外気によって空間2内も高温になる。
このように高温になった空間2を冷却する場合には、まず、温度調整部材5の前記空間2に露出している保水性材層4の表面に冷却用の水をホースなどで散水することによって、供給する。
【0048】
前記保水性材層4は、前記のように保水性の高い材料からなるため、供給された水を十分に内部に保持することができる。
また、保水性材層4は、空間2に露出している面においては、空間2の熱によって加熱され、同時に空間2に露出している面と反対側の面では蓄熱材層3と当接しているため該蓄熱材層3からの熱によって加熱されている。
該加熱によって保水性材層4からは内部に保持している水分が気化し、空間2を冷却する。
【0049】
前記のように保水性材層4は水を十分に保持しているため保水性材層4が水を保持する間は気化による冷却が継続して行なえる。
また、保水性材層4は水を内部に十分に保持できるため流れ落ちて無駄になる水が少なく、できるだけ少量の水を用いて空間の冷却を行なうことができる。
【0050】
尚、前記実施形態の温室構造体は、外殻体を外周材1と外殻土側壁11とから形成して、該外殻土側壁の表面に前記温度調整部材を配置したが、外殻体の一部が外殻土側壁であることは条件ではなく、外殻体全体が外周材から形成されていてもよい。
【0051】
さらに、前記実施形態では温度調整部材を、温室構造体の一内側面である外殻土側壁11の表面に設置したが、温度調整部材を配置する位置はこれに限定されるものではない。温室調整部材は空間内のどの位置に配置されていてもよい。例えば、底面(地面)上に配置してもよい。
また、複数の温度調整部材を複数箇所に配置してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1 外周材
2 空間
3 蓄熱材層
4 保水性材層
5 温度調整部材
10 温室構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に空間を形成する外殻体を備え、前記外殻体の少なくとも一部が光透過性の外周材からなる温室構造体であって、
前記空間に温度調整部材が配置されており、前記温度調整部材が、蓄熱材層と、前記蓄熱材層と当接するように積層されてなる保水性材層とを備えていることを特徴とする温室構造体。
【請求項2】
前記蓄熱材層の比熱が0.5kJ/kg・k以上2.0kJ/kg・k以下、熱伝導率が0.05w/m・k以上50.0w/m・k以下である請求項1に記載の温室構造体。
【請求項3】
前記保水性材層の比熱が前記蓄熱材層の比熱よりも小さく、前記保水性材層の熱伝導率が前記蓄熱材層の熱伝導率よりも大きい請求項1または請求項2に記載の温室構造体。
【請求項4】
前記蓄熱材層が、モルタル、コンクリート、アスファルト、大理石、レンガ、滑石、蝋石、蛇紋岩、角閃岩からなる群より選択される少なくとも1以上からなる請求項1乃至3のいずれか一に記載の温室構造体。
【請求項5】
前記保水性材層が、多孔質性材料からなる請求項1乃至4のいずれか一に記載の温室構造体。
【請求項6】
前記外殻体の側面の少なくとも一部が土からなり、前記土の表面に当接するように前記温度調整部材が配置されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の温室構造体。
【請求項7】
少なくとも一部が光透過性の外周材からなる外殻体の内側に形成された空間に、蓄熱材層と前記蓄熱材に当接するように積層されてなる保水性材層とを備えた温度調整部材が配置された温室構造体の温度調整方法であって、
前記空間を加熱する場合には、前記空間の気温が前記蓄熱材層の温度よりも高温の時に前記蓄熱材層に蓄熱された熱を、前記蓄熱材層から放熱させることによって空間を加熱し、前記空間を冷却する場合には、前記保水性材層に水を供給し、前記保水性材層に保持された水の気化によって、前記空間を冷却することを特徴とする温室構造体の温度調整方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−39123(P2013−39123A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−79964(P2012−79964)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】