説明

温度−時間積算インジケータ

【課題】温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能なインジケータを提供すること。
【解決手段】少なくとも一部にポリグリコール酸系樹脂フィルムを備えるニオイ成分バリア性包袋と、該包袋に内包されたニオイ成分とを備えることを特徴とする温度−時間積算インジケータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の温度環境下において、その温度と時間の積算履歴を知ることが可能なインジケータに関し、より詳しくは、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能なインジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
刺身などの生鮮食品やハムなどの加工食品は、その流通過程や保管過程において、温度管理を誤ると、微生物が増殖して食中毒を引き起こす危険性があるため、温度管理が重要なファクターとなっている。例えば、保存可能期間(シェルフライフ)を長くするために、不活性ガス(窒素、二酸化炭素)によるガス充填包装やガス置換包装あるいは真空包装などにより脱酸素包装された食品においては、例えば25℃以上の温度下に長時間曝すとボツリヌス菌などの嫌気性細菌が増殖して食中毒を引き起こす危険性がある。
【0003】
このため、従来から、様々な温度履歴インジケータが提案されている(例えば、特開2002−294123号公報(特許文献1)、特開2004−264830号公報(特許文献2)、特開2008−151716号公報(特許文献3)など参照)。しかしながら、従来の温度履歴インジケータは、インジケータ内の温度検知物質が所定の温度に曝された場合に変色することを利用した視覚認識型のインジケータであるため、インジケータを目視できる状態で配置する必要があった。また、視覚認識型のインジケータでは、視覚障がい者が温度履歴を認識できないといった問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−294123号公報
【特許文献2】特開2004−264830号公報
【特許文献3】特開2008−151716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能なインジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリグリコール酸系樹脂がニオイ成分に対してもバリア性を示すこと、並びに、このニオイ成分バリア性はポリグリコール酸系樹脂の加水分解によって低下する場合があることを見出した。そして、このようなポリグリコール酸系樹脂の加水分解性が温度と時間に依存することを利用することによって、保管環境などにおける温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の温度−時間積算インジケータは、少なくとも一部にポリグリコール酸系樹脂フィルムを備えるニオイ成分バリア性包袋と、該包袋に内包されたニオイ成分とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
本発明の温度−時間積算インジケータは、水分をさらに備えていることが好ましく、このような温度−時間積算インジケータにおいては、前記水分が前記包袋内に内包されていてもよいし、あるいは、前記水分を含有するフィルムが分離した状態でさらに備えられていてもよい。また、本発明の温度−時間積算インジケータは、加水分解促進剤をさらに備えていてもよく、特に、加水分解促進剤が揮発性のものである場合には、前記包袋内に内包されていてもよいし、揮発性の加水分解促進剤を含有するフィルムが分離した状態で備えられていてもよい。
【0009】
なお、本発明の温度−時間積算インジケータによって温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識できる理由を、本発明者らは以下のように推察する。本発明にかかるポリグリコール酸系樹脂(以下、「PGA系樹脂」と略す)フィルムは、ニオイ成分に対してバリア性を示すものである。また、PGA系樹脂は、下記反応式:
【0010】
【化1】

【0011】
で表されるように水と反応して加水分解され、分子量が小さくなる。さらに、PGA系樹脂の加水分解性は温度と時間(特に、温度と時間の積算値)に依存する。そして、分子量がある程度(好ましくは、重量平均分子量で約70000)まで小さくなったPGA系樹脂フィルムは、ニオイ成分に対するバリア性が急激に低下し、ニオイ成分を透過させる。
【0012】
本発明の温度−時間積算インジケータは、このようなPGA系樹脂の加水分解反応の温度−時間依存性と、PGA系樹脂の加水分解によるニオイ成分バリア性の低下という特性とを利用するものである。すなわち、PGA系樹脂の加水分解速度は温度に依存するため、本発明の温度−時間積算インジケータにおいて、ニオイ成分が透過可能となるまでPGA系樹脂の分子量が減少するためにかかる時間も、インジケータの周囲の温度に依存する。したがって、予め、PGA系樹脂が加水分解されてニオイ成分が透過し始める時間とインジケータ周囲の温度との関係を求めておけば、本発明の温度−時間積算インジケータを設置してからニオイ成分が検知されるまでにかかった時間を知ることによって、温度−時間積算インジケータが曝されていた温度を知ることができ、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能なインジケータを得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0015】
本発明の温度−時間積算インジケータは、少なくとも一部にPGA系樹脂フィルムを備えるニオイ成分バリア性包袋と、この包袋に内包されたニオイ成分とを備えるものである。また、本発明の温度−時間積算インジケータには、加水分解促進剤が含まれていてもよい。
【0016】
(ポリグリコール酸系樹脂)
本発明に用いられるPGA系樹脂としては特に制限はなく、例えば、下記式(1):
【0017】
【化2】

【0018】
で表されるグリコール酸繰り返し単位のみからなるグリコール酸の単独重合体(以下、「PGA単独重合体」という。グリコール酸の2分子間環状エステルであるグリコリドの開環重合体を含む。)、前記グリコール酸繰り返し単位を含むポリグリコール酸共重合体(以下、「PGA共重合体」という。)などが挙げられる。
【0019】
前記PGA共重合体における前記グリコール酸繰り返し単位の含有量としては60質量%以上が好ましい。前記グリコール酸繰り返し単位の含有量が前記下限未満になると、PGA共重合体の結晶性が低下し、本発明にかかる包袋のニオイ成分初期バリア性や耐熱性が低下する傾向にある。
【0020】
このようなPGA共重合体における前記グリコール酸繰り返し単位以外の繰り返し単位としては、例えば、下記式(2)〜(6):
【0021】
【化3】

【0022】
表される繰り返し単位が挙げられる。
【0023】
前記式(2)中、pは1〜10の整数を表し、qは0〜10の整数を表す。また、前記式(3)中、jは1〜10の整数を表す。さらに、前記式(4)中、RおよびRはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表し、kは2〜10の整数を表す。
【0024】
このような前記式(2)〜(6)で表される繰り返し単位を1質量%以上導入することによってPGA系樹脂の融点を下げることができ、その結果、加工温度を下げることができ、溶融加工時の熱分解を低減させることができる。さらに、PGA系樹脂の結晶化速度を制御して、加工性を改良することも可能となる。ただし、PGA系樹脂の結晶性および加水分解性の観点から、前記式(2)〜(6)で表される繰り返し単位の含有量の上限としては40質量%以下が好ましい。
【0025】
本発明に用いられるPGA単独重合体は、グリコール酸の脱水重縮合、グリコール酸アルキルエステルの脱アルコール重縮合、グリコリドの開環重合などにより合成することができ、中でも、グリコリドの開環重合(より好ましくは、スズ系化合物、チタン系化合物、アルミニウム系化合物、ジルコニウム系化合物またはアンチモン系化合物などの重合触媒の存在下で約120〜250℃の温度に加熱して行なう開環重合)により合成することが好ましい。なお、このような開環重合は塊状重合および溶液重合のいずれでも行うことができる。
【0026】
また、前記重縮合反応や前記開環重合反応においてコモノマーを併用することにより前記PGA共重合体を合成することができる。このようなコモノマーとしては、シュウ酸エチレン(すなわち、1,4−ジオキサン−2,3−ジオン)、ラクチド類、ラクトン類(例えば、β−プロピオラクトン、β−ブチロラクトン、β−ピバロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトンなど)、カーボネート類(例えば、トリメチレンカーボネートなど)、エーテル類(例えば、1,3−ジオキサンなど)、エーテルエステル類(例えば、ジオキサノンなど)、アミド類(ε−カプロラクタムなど)などの環状モノマー;乳酸、3−ヒドロキシプロパン酸、3−ヒドロキシブタン酸、4−ヒドロキシブタン酸、6−ヒドロキシカプロン酸などのヒドロキシカルボン酸またはそのアルキルエステル;エチレングリコール、1,4−ブタンジオールなどの脂肪族ジオール類;こはく酸、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸類またはそのアルキルエステル類などが挙げられる。これらのコモノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。このようなコモノマーのうち、共重合させやすく、物性に優れたPGA共重合体が得られるという観点から環状モノマーおよびヒドロキシカルボン酸が好ましい。
【0027】
本発明に用いられるPGA系樹脂の重量平均分子量としては80000以上が好ましく、100000以上がより好ましい。PGA系樹脂の重量平均分子量が前記下限未満であると、PGA系樹脂のニオイ成分に対する初期バリア性が低いため、本発明にかかる包袋の原料として使用することが困難となる傾向にある。また、PGA系樹脂の重量平均分子量を制御することによって、本発明の温度−時間履歴インジケータにより検知できる温度(検知温度)やニオイ成分が検知されるまでの時間(検知時間)を調整することができる。例えば、重量平均分子量が大きいPGA系樹脂を使用することによって、インジケータの検知温度を高くしたり、検知時間を長くしたりすることができる。一方、重量平均分子量が小さいPGA系樹脂を使用することによって、インジケータの検知温度を低くしたり、検知時間を短くしたりすることが可能となる。なお、このようなPGA系樹脂の重量平均分子量は、PGA系樹脂の合成時に調整することができるが、本発明にかかる包袋を作製する際に所望の重量平均分子量よりも大きな重量平均分子量を有するPGA系樹脂を使用して包袋を形成した後、電子線などを照射して重量平均分子量を所望の値まで低減することによっても調整できる。
【0028】
本発明に用いられるPGA系樹脂の溶融粘度(温度270℃、剪断速度120sec−1)としては300〜10,000Pa・sが好ましく、400〜8,000Pa・sがより好ましく、500〜5,000Pa・sが特に好ましい。さらに、PGA系樹脂の融点としては200℃以上が好ましく、210℃以上がより好ましい。
【0029】
このようなPGA系樹脂は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、本発明において、このようなPGA系樹脂を単独で使用してもよいが、本発明の目的を阻害しない範囲内において、PGA系樹脂に、無機フィラー、他の熱可塑性樹脂、可塑剤などを配合したPGA系樹脂組成物として使用してもよい。また、PGA系樹脂およびPGA系樹脂組成物には、必要に応じて、熱安定剤、光安定剤、防湿剤、防水剤、撥水剤、滑剤、離型剤、カップリング剤、酸素吸収剤、顔料、染料等の各種添加剤を含有させることができる。
【0030】
(ニオイ成分)
本発明に用いられるニオイ成分としては、嗅覚検知が可能であって、PGA系樹脂が加水分解される前においてはPGA系樹脂フィルムを透過せず、加水分解が進行してPGA系樹脂の分子量が小さくなると透過する成分であれば特に制限はない。このようなニオイ成分としては、リモネン、メントール、酪酸エチル、バニリン、イソ吉草酸、ヘキサナールなどが挙げられる。
【0031】
(加水分解促進剤)
本発明の温度−時間履歴インジケータは、加水分解促進剤をさらに備えていてもよい。この加水分解促進剤の作用により、PGA系樹脂の加水分解反応が促進される。したがって、PGA系樹脂の加水分解反応が進行しにくい温度を検知する場合であっても、加水分解促進剤を備えることによって加水分解反応が進行し、PGA系樹脂の分子量がある程度(好ましくは、重量平均分子量で約70000)まで小さくなると、ニオイ成分を検知することができ、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能となる。また、PGA系樹脂の加水分解反応が進行する温度を検知する場合においても、加水分解促進剤を備えることによって加水分解反応が促進されてPGA系樹脂の分子量の減少速度が速くなるため、ニオイ成分の検知時間を短くすることが可能となる。
【0032】
このような加水分解促進剤としては、PGA系樹脂の加水分解反応を促進できるものであれば特に制限はなく、例えば、アンモニアなどのアミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなどの水酸化物といった塩基性化合物が挙げられる。このような加水分解促進剤は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0033】
また、このような加水分解促進剤の含有量としては、PGA系樹脂の加水分解反応を促進でき、PGA系樹脂フィルムのニオイ成分バリア性の低下により、ニオイ成分を十分に検知できる量であれば特に制限はない。加水分解促進剤の適切な含有量は、加水分解促進剤の種類、加水分解促進剤の供給方法、本発明の温度−時間積算インジケータでモニタリングする温度−時間積算履歴の範囲などに応じて適宜設定することができる。
【0034】
本発明の温度−時間履歴インジケータにおいては、加水分解促進剤の含有量を調整することによって、検知温度や検知時間を調整することができる。例えば、加水分解促進剤の含有量を増加させると、PGA系樹脂の加水分解がより促進されるため、検知温度を低くしたり、検知時間を短くしたりすることが可能となる。
【0035】
<温度−時間履歴インジケータ>
本発明の温度−時間積算インジケータは、少なくとも一部にPGA系樹脂フィルムを備えるニオイ成分バリア性包袋と、該包袋に内包されたニオイ成分とを備えるものである。 このような温度−時間積算インジケータにおいて、その機能を発揮させるためには、前記PGA系樹脂フィルムに水分を供給する必要がある。水分を供給する方法としては、例えば、(1)本発明にかかる包袋内に水分を内包させ、包袋の内部からPGA系樹脂フィルムに水分を供給する方法;(2)本発明にかかる包袋と分離した状態で備える水分を含有するフィルム(以下、「水分含有フィルム」という)を、前記PGA系樹脂フィルム上に貼付して、包袋の外部から水分を供給する方法;(3)本発明にかかる包袋の外部環境の水分を利用する方法(ただし、PGA系樹脂は、通常の空気中の水分では加水分解されにくいため、本発明の温度−時間積算インジケータを高湿度下(相対湿度90%RH以上)で使用する場合に限られる。)などが挙げられる。
【0036】
また、本発明の温度−時間積算インジケータは、加水分解促進剤をさらに備えていてもよい。この場合、加水分解促進剤は、本発明にかかる包袋に内包させたり、前記包袋の構成成分として含有させてもよいし、加水分解促進剤を含有するフィルムが分離した状態で備えられていてもよい。特に、前記水分含有フィルムを用いる場合には、これに含有させてもよい。また、加水分解促進剤が揮発性のものである場合には、揮発性の加水分解促進剤が前記包袋に内包されていたり、揮発性の加水分解促進剤を含有するフィルムが分離した状態で備えられていることが好ましい。他方、不揮発性のものである場合には、前記包袋または前記水分含有フィルムの構成成分として含有させることが好ましい。
【0037】
(ニオイ成分バリア性包袋)
本発明にかかるニオイ成分バリア性包袋は、少なくとも一部にPGA系樹脂フィルムを備えるものである。また、前記包袋が加水分解促進剤を備えるものである場合、前記包袋としては、前記PGA系樹脂を含有する層(以下、「PGA系樹脂層」という。)と加水分解促進剤を含有する層(以下、「加水分解促進剤層」という。)とを接触させた2層フィルムを少なくとも一部に備えるものでもよいが、加水分解促進剤の添加効果が十分に得られるという観点から、PGA系樹脂と加水分解促進剤とを含有する単層のPGA系樹脂フィルムを少なくとも一部に備えるものが好ましい。このような包袋の製造方法は特に制限はなく、樹脂フィルムから包袋を製造するための公知の製袋方法を採用することができる。
【0038】
加水分解促進剤を備えていない単層のPGA系樹脂フィルムの製造方法としては、PGA系樹脂を公知のPGA系樹脂フィルムの製造方法によりフィルム化し、必要に応じて延伸する方法が挙げられる。また、加水分解促進剤を含有する単層のPGA系樹脂フィルムを製造する方法としては、(i)PGA系樹脂と加水分解促進剤を含有する樹脂組成物を公知のPGA系樹脂フィルムの製造方法によりフィルム化し、必要に応じて延伸する方法;(ii)公知の方法によりPGA系樹脂フィルムを作製した後、このフィルムに加水分解促進剤を含浸させ、必要に応じて延伸する方法;(iii)公知の方法によりPGA系樹脂延伸フィルムを作製した後、このフィルムに加水分解促進剤を含浸させる方法;(iv)公知の方法により作製したPGA系樹脂フィルムまたはPGA系樹脂延伸フィルムに加水分解促進剤(好ましくは揮発性の加水分解促進剤)を噴霧して浸透させる方法;(v)公知の方法により作製したPGA系樹脂フィルムまたはPGA系樹脂延伸フィルムを加水分解促進剤(好ましくは揮発性の加水分解促進剤)のガス雰囲気下に曝露してフィルムに加水分解促進剤を浸透させる方法などが挙げられる。特に、(iv)および(v)の方法においては、PGA系樹脂フィルム(またはPGA系樹脂延伸フィルム)の作製後であれば、包袋作製前から包袋作製後に至るまで適当な時点でPGA系樹脂フィルム(またはPGA系樹脂延伸フィルム)に加水分解促進剤を浸透させることができるという利点がある。
【0039】
このような単層のPGA系樹脂フィルムの厚さとしては、1〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。PGA系樹脂フィルムの厚さが前記下限未満になると、ニオイ成分に対する初期バリア性が十分に得られない傾向にあるとともに、押出加工や製膜時における膜厚制御が困難となる傾向にある。他方、PGA系樹脂フィルムの厚さが前記上限を超えると、本発明にかかる包袋の剛性が増加しすぎるとともに、包袋資材の廃棄量が増大するという経済的な不利益を被る傾向にある。
【0040】
一方、PGA系樹脂層と加水分解促進剤層とを備える2層フィルムの製造方法としては、(i)公知の方法により作製したPGA系樹脂フィルムまたはPGA系樹脂延伸フィルムと加水分解促進剤を含有するフィルム(以下、「加水分解促進剤フィルム」という。)とを貼り合わせる方法;(ii)公知の方法により作製したPGA系樹脂フィルムまたはPGA系樹脂延伸フィルム上に加水分解促進剤を塗装する方法;(iii)公知の方法により作製したPGA系樹脂とニオイ成分透過性樹脂との積層フィルムに加水分解促進剤(好ましくは揮発性の加水分解促進剤)を噴霧して少なくともニオイ成分透過性樹脂層に加水分解促進剤を浸透させる方法;(iv)公知の方法により作製したPGA系樹脂とニオイ成分透過性樹脂との積層フィルムを加水分解促進剤(好ましくは揮発性の加水分解促進剤)のガス雰囲気下に曝露して少なくともニオイ成分透過性樹脂層に加水分解促進剤を浸透させる方法などが挙げられる。(i)の方法における前記加水分解促進剤フィルムとしては、加水分解促進剤を含有するニオイ成分透過性樹脂フィルムなどを使用することができる。また、(ii)の方法における前記加水分解促進剤を塗装する方法としては、例えば、コーティングや印刷などが挙げられる。(iii)および(iv)の方法においては、積層フィルムの作製後であれば、包袋作製前から包袋作製後に至るまで適当な時点で他の樹脂層に加水分解促進剤を浸透させることができるという利点がある。
【0041】
前記ニオイ成分透過性樹脂層や前記ニオイ成分透過性樹脂フィルムを形成する樹脂としては、ニオイ成分を透過するものであれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。このようなニオイ成分透過性樹脂層およびニオイ成分透過性樹脂フィルムは、ニオイ成分が速やかに透過するものである必要があり、また、水分を供給する側に配置される場合には、水分が速やかに透過するものである必要がある。したがって、前記ニオイ成分透過性樹脂層および前記ニオイ成分透過性樹脂フィルムを形成する樹脂としては、これらが非貫通の場合でもニオイ成分および/または水分を透過させるものが好ましいが、ニオイ成分および/または水分に対してバリア性を示す樹脂であっても、樹脂層(または樹脂フィルム)に貫通孔を形成することによってニオイ成分透過性樹脂層(またはニオイ成分透過性樹脂フィルム)として使用することができる。
【0042】
このような2層フィルムにおいて、PGA系樹脂層の厚さとしては、1〜20μmが好ましく、1〜10μmがより好ましい。PGA系樹脂フィルムの厚さが前記下限未満になると、ニオイ成分に対する初期バリア性が十分に得られない傾向にあるとともに、押出加工や製膜時における膜厚制御が困難となる傾向にある。他方、PGA系樹脂フィルムの厚さが前記上限を超えると、本発明にかかる包袋の剛性が増加しすぎるとともに、包袋資材の廃棄量が増大するという経済的な不利益を被る傾向にある。また、加水分解促進剤層の厚さとしては、1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがより好ましい。加水分解促進剤層の厚さが前記下限未満になると、加水分解促進剤の含有量が少なくなり、PGA系樹脂の加水分解反応が十分に促進されない傾向にあり、他方、前記上限を超えると包袋資材の廃棄量が増大するという経済的な不利益を被る傾向にある。
【0043】
本発明にかかる包袋においては、単層のPGA系樹脂フィルムやPGA系樹脂層を備える前記2層フィルムが包袋の面方向全体にわたって配置されていてもよいし、面方向の一部に配置されていてもよい。後者の場合、単層のPGA系樹脂フィルムや前記2層フィルム以外の残りの部分については、ニオイ成分に対してバリア性を示す材料により形成されている必要がある。このようなニオイ成分バリア性材料により形成されたものとしては、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート樹脂など)、ポリカーボネート系樹脂などのニオイ成分バリア性樹脂からなるフィルムまたは層;酸化ケイ素、酸化アルミニウム、またはアルミニウムからなる蒸着膜または蒸着層、アルミニウム箔などが挙げられる。また、ニオイ成分バリア性材料により形成される部分は、単層であっても2層以上の多層であってもよい。
【0044】
また、本発明にかかる包袋においては、包袋(特に、PGA系樹脂フィルムが配置されている部分)の強度を高めるために、前記単層のPGA系樹脂フィルムや前記2層フィルムの片面または両面にニオイ成分透過性樹脂層を設けることが好ましい。このようなニオイ成分透過性樹脂層を形成する樹脂としては、ニオイ成分を透過するものであれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、アイオノマー樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。このようなニオイ成分透過性樹脂層は、ニオイ成分が速やかに透過するものである必要があり、また、水分を供給する側に配置される場合には、水分が速やかに透過するものである必要がある。したがって、前記ニオイ成分透過性樹脂層を形成する樹脂としては、これらが非貫通の場合でもニオイ成分および/または水分を透過させるものが好ましいが、ニオイ成分および/または水分に対してバリア性を示す樹脂であっても、樹脂層に貫通孔を形成することによってニオイ成分透過性樹脂層として使用することができる。
【0045】
前記ニオイ成分透過性樹脂層は、前記単層のPGA系樹脂フィルムや前記2層フィルムとともに共押出成形により形成してもよいし、前記単層のPGA系樹脂フィルム上や前記2層フィルム上に前記ニオイ成分透過性樹脂からなるフィルムをラミネートして形成してもよい。また、前記単層のPGA系樹脂フィルムや前記2層フィルムと前記ニオイ成分透過性樹脂からなるフィルムとを接着性樹脂を用いて接着してもよい。さらに、前記ニオイ成分透過性樹脂層は、単層であっても2層以上の多層であってもよい。
【0046】
このようなニオイ成分透過性樹脂層が内層である場合、その厚さとしては、5〜150μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。また、外層である場合、その厚さとしては、5〜150μmが好ましく、10〜100μmがより好ましい。内層および外層の厚さが前記下限未満になると、包袋の強度が不足するほか、内層については密封する際に十分なシール強度が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、包袋の硬度が増加しすぎるとともに、ニオイ成分および/または水分の透過性が低下する傾向にある。
【0047】
(水分含有フィルム)
前記水分を供給する方法(2)において用いられる水分含有フィルムとしては、基材フィルムに水分を含浸させたものが挙げられる。この水分含有フィルムは、使用前においては、本発明にかかる包袋と分離した状態で保存されており、使用開始時に前記包袋のPGA系樹脂フィルム上に貼付される。このように、水分含有フィルムを前記PGA系樹脂フィルム上に貼付することによって水分含有フィルム中の水分が前記PGA系樹脂フィルムに供給され、PGA系樹脂が加水分解し得る状態となる。
【0048】
また、水分含有フィルムが加水分解促進剤を含有するものである場合、この水分含有フィルムは、水分を含有する層と加水分解促進剤を含有する層の2層からなるものであってもよいが、容易に製造できるという観点から、水分と加水分解促進剤とを含有する1層からなるものが好ましい。
【0049】
このような水分含有フィルムに用いられる基材フィルムを構成する原材料としては、水分を含むことができ、ニオイ成分を透過するものであれば特に制限はなく、例えば、セルロースなどの多糖類を含有する材料、セロファン、ポリビニルアルコール系樹脂、尿素樹脂、ポリアクリル酸塩などが挙げられる。このような基材フィルムの厚さとしては特に制限はないが、1〜2000μmが好ましい。
【0050】
水分含有フィルムにおける水分の含有量は、PGA系樹脂の加水分解反応が進行し、PGA系樹脂フィルムのニオイ成分バリア性の低下により、ニオイ成分を十分に検知できる量であれば特に制限はない。
【0051】
水分含有フィルムにおける適切な水分含有量は、水分含有フィルムの材質や本発明にかかるPGA系樹脂フィルムへの貼付方法に応じて適宜設定することができる。ただし、水分の含有量(供給量)が十分でない場合には、PGA系樹脂フィルムに供給される水分量が少なく、PGA系樹脂の加水分解反応が進行せず、PGA系樹脂フィルムのニオイ成分バリア性が十分に低下しない傾向にあるため、それらを考慮して水分含有量を設定する必要がある。
【0052】
水分含有フィルムの貼付方法は、水分含有フィルムを本発明にかかる包袋のPGA系樹脂フィルム上に固定できる方法であれば特に制限はない。例えば、水分含有フィルムを接着剤付きフィルムで覆ってPGA系樹脂フィルム上に固定してもよいし、水分含有フィルムの面のうちのPGA系樹脂フィルムへの貼付面の一部に接着剤層を設け、この接着性を付与した水分含有フィルムをPGA系樹脂フィルム上に直接接着固定してもよい。水分含有フィルムや前記接着剤付きフィルムの接着剤層を構成する接着剤としては、ニオイ成分を透過するものであれば特に制限はないが、例えば、アクリル樹脂系、オレフィン樹脂系、ウレタン樹脂系、エチレン−酢酸ビニル樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン樹脂系などの接着剤が挙げられる。
【0053】
このような水分含有フィルムにおいては、PGA系樹脂フィルムへの水分供給に支障が出ないように、水分含有フィルムへの貼付面と反対側の面に水分の逸散を防止する層(以下、「水分逸散防止層」という。)を設けることが好ましい。また、このような水分逸散防止層を予め水分含有フィルムに設ける代わりに、水分含有フィルムをPGA系樹脂フィルム上に貼付した後、水分含有フィルム上に水分逸散防止層を備えるフィルムを貼付してもよいし、あるいは、前記接着剤付きフィルムとして水分逸散防止層と接着剤層とを備えるフィルムを使用してもよい。このような水分逸散防止層を構成する樹脂としては、ニオイ成分を透過するものであれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。
【0054】
<温度−時間履歴インジケータの製造方法>
本発明の温度−時間履歴インジケータは、前記ニオイ成分バリア性包袋に、前記ニオイ成分と、必要に応じて水分および/または前記加水分解促進剤とを入れた後、これを密封することによって製造することができる。ニオイ成分、水分および加水分解促進剤は、包袋内に直接装入してもよいが、ろ紙などの基材に含浸させた後、これを包袋内に装入したり、あるいは包袋内にろ紙などの基材を装入した後、これに含浸させたりすることが好ましい。
【0055】
前記ニオイ成分の含有量としては、ニオイ成分がPGA系樹脂フィルムを透過した場合に嗅覚検知できる量であれば特に制限はなく、使用するニオイ成分の閾値などに応じて適宜設定することができる。
【0056】
また、前記包袋に水分を内包させる場合、その含有量としては特に制限はなく、包袋の構成や水分透過度などに応じて適宜設定することができる。水分の含有量が十分でない場合には、PGA系樹脂フィルムに供給される水分量が少なく、PGA系樹脂の加水分解反応が進行せず、PGA系樹脂フィルムのニオイ成分バリア性が十分に低下しない傾向にあるため、それらを考慮して水分含有量を設定する必要がある。
【0057】
<温度−時間積算インジケータの使用方法>
本発明の温度−時間積算インジケータは、そのまま所定の場所に設置して、その環境における温度と時間の積算履歴を検知するために使用することができるが、各種包装材に貼付して使用することもできる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、PGA樹脂の重量平均分子量は以下の方法により測定した。
【0059】
<PGA樹脂の重量平均分子量>
PGA樹脂の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定した。GPC測定装置としては昭和電工(株)製「ShodexGPC−104」(登録商標)を、カラムとしては昭和電工(株)製「HFIP−606M」2本とプレカラム(昭和電工(株)製「HFIP−G」1本を直列接続で、溶離液としては5mMトリフルオロ酢酸ナトリウム/ヘキサフルオロイソプロパノール溶液を、検出計としては示差屈折率(RI)検出計を使用した。カラム温度は40℃、溶離液流速0.6ml/分に設定した。分子量の校正は、標準ポリメチルメタクリレート(昭和電工(株)製)を用いて行なった。
【0060】
(実施例1)
各層の樹脂として、超低密度ポリエチレン樹脂ペレット((株)プライムポリマー製「モアテックV0398CN」。以下、「VLDPE樹脂」と略す。)、アイオノマー樹脂ペレット(三井・デュポンポリケミカル(株)製「ハイミラン1601」。以下、「Ionomer樹脂」と略す。)、PGA単独重合体ペレット((株)クレハ製、重量平均分子量(Mw):約195000、溶融粘度(温度270℃、剪断速度120sec−1):1600Pa・s、融点:224℃。以下、「PGA樹脂」と略す。)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂ペレット(三井・デュポンポリケミカル(株)製「EVAFLEX V5714C」。以下、「EVA樹脂」と略す。)を用い、各層間の接着剤としてポリオレフィン系接着剤(三菱化学(株)製「モディックF563」)を用いて共押出成形により、VLDPE樹脂(厚さ:1.5μm)//Ionomer樹脂(厚さ:20μm)//PGA樹脂(厚さ:1.5μm)//EVA樹脂(厚さ:20μm)からなる多層フィルムを作製した。この多層フィルムを用い、EVA樹脂層を内層として製袋し、6cm×8cmの包袋を作製した。
【0061】
この包袋に5cm×7cm×1mmのろ紙を挿入し、蒸留水3mlとリモネン50μlを滴下して前記ろ紙に含浸させた後、包袋を密封した。
【0062】
(実施例2)
実施例1と同様にして6cm×8cmの包袋を作製した。この包袋に5cm×7cm×1mmのろ紙を挿入し、0.28質量%のアンモニア水3mlとリモネン50μlを滴下して前記ろ紙に含浸させた後、包袋を密封した。
【0063】
(比較例1)
各層の樹脂として、超低密度ポリエチレン樹脂ペレット((株)プライムポリマー製「モアテックV0398CN」。以下、「VLDPE樹脂」と略す。)、アイオノマー樹脂ペレット(三井・デュポンポリケミカル(株)製「ハイミランAM79301」。以下、「Ionomer樹脂」と略す。)、ポリ塩化ビニリデン樹脂ペレット((株)クレハ製「FB−2」。以下、「PVDC樹脂」と略す。)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂ペレット(三井・デュポンポリケミカル(株)製「EVAFLEX V5714C」。以下、「EVA樹脂」と略す。)を用い、共押出成形により、VLDPE樹脂(厚さ:3.0μm)//Ionomer樹脂(厚さ:21μm)//PVDC樹脂(厚さ:7μm)//EVA樹脂(厚さ:24μm)からなる多層フィルムを用い、EVA樹脂層を内層として製袋し、6cm×8cmの包袋を作製した。
【0064】
この包袋に5cm×7cm×1mmのろ紙を挿入し、0.28質量%のアンモニア水3mlとリモネン50μlを滴下して前記ろ紙に含浸させた後、包袋を密封した。
【0065】
(参考例1)
実施例1と同様にして6cm×8cmの包袋を作製した。この包袋に5cm×7cm×1mmのろ紙を挿入し、リモネン50μlを滴下して前記ろ紙に含浸させた後、包袋を密封した。
【0066】
<温度−時間積算インジケータ機能の評価>
得られた包袋(リモネンなどを内封したもの)を8cm×10cmのアルミパウチに挿入して密封した後、10℃、25℃、40℃で保管した。経時的にアルミパウチを開封してアルミパウチ内のリモネン臭の有無を確認した。その結果(A:あり、B:なし)を表1に示す。なお、いずれの包袋においてもアンモニア臭は認識できなかった。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1で作製した包袋(リモネンおよび水分を内封したもの)は、40℃の温度下に14日間以上曝されたことを嗅覚認識できる温度−時間積算インジケータとして機能することが確認された。また、実施例2で作製した包袋(リモネン、アンモニアおよび水分を内封したもの)は、10℃の温度下に7日間以上、25℃の温度下に2日間以上、あるいは40℃の温度下に1日間以上曝されたことを嗅覚により認識できる温度−時間積算インジケータとして機能することが確認された。
【0069】
このように、PGA系樹脂フィルムを備える包袋にリモネンなどのニオイ成分および水分を内封することによって、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識できるインジケータが得られることが確認された。また、ニオイ成分および水分とともにアンモニアなどの加水分解促進剤を内封することによって、加水分解促進剤を用いない場合に比べて低温および/または短時間の条件についても、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識できることがわかった。
【0070】
一方、比較例1で作製した包袋(リモネン、アンモニアおよび水分を内封したもの)は、いずれの保管条件においてもポリ塩化ビニリデン(PVCD)フィルムのリモネンバリア性が高いままであり、アルミパウチ内のリモネン臭は確認できなかった。すなわち、PGA系樹脂フィルムの代わりにPVCDフィルムを備える包袋(リモネン、アンモニアおよび水分を内封したもの)は、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識できるインジケータとして機能しないものであった。
【0071】
なお、参考例1で作製した包袋(リモネンを内封したもの)は、水分が内包されていないため、そのままの状態ではPGA系樹脂が加水分解されず、温度と時間の積算履歴を嗅覚による認識が可能なインジケータとしては機能しなかった。しかしながら、例えば、水分を含有するフィルムを貼付したり、高湿下に曝したりするなどして外部から水分を供給することによってPGA系樹脂の加水分解が進行するため、実施例1〜2の場合と同様に嗅覚認識が可能な温度−時間積算インジケータとして機能させることが可能となる。従って、PGA系樹脂を備え且つ水分を内包していない包袋(ニオイ成分を内封したもの)は、使用時に水を供給することによって温度と時間の積算履歴を嗅覚による認識することができるインジケータとして機能するものであり、しかも、使用前(水分供給前)においては温度−時間積算インジケータ機能が低下しにくいものであることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上説明したように、本発明によれば、温度と時間の積算履歴を嗅覚により認識することが可能となる。
【0073】
したがって、本発明の温度−時間積算インジケータは、視覚による認識が困難な場所でも温度と時間の積算履歴を認識することが可能なインジケータとして有用である。また、視覚障がい者も温度と時間の積算履歴を認識することが可能となるため、ユニバーサルデザインに配慮した温度−時間積算インジケータとしても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部にポリグリコール酸系樹脂フィルムを備えるニオイ成分バリア性包袋と、該包袋に内包されたニオイ成分とを備えることを特徴とする温度−時間積算インジケータ。
【請求項2】
水分をさらに備えるものであることを特徴とする請求項1に記載の温度−時間積算インジケータ。
【請求項3】
前記水分が前記包袋内に内包されていることを特徴とする請求項2に記載の温度−時間積算インジケータ。
【請求項4】
前記水分を含有するフィルムを分離した状態でさらに備えることを特徴とする請求項2に記載の温度−時間積算インジケータ。
【請求項5】
加水分解促進剤をさらに備えるものであることを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項に記載の温度−時間積算インジケータ。
【請求項6】
前記包袋内に揮発性の加水分解促進剤が内包されていることを特徴とする請求項5に記載の温度−時間積算インジケータ。
【請求項7】
揮発性の加水分解促進剤を含有するフィルムを分離した状態で備えることを特徴とする請求項5に記載の温度−時間積算インジケータ。

【公開番号】特開2012−220308(P2012−220308A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85495(P2011−85495)
【出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】