説明

温度に対する貯蔵弾性率曲線が複数個の変曲点を有するトナー及びその製造方法

トナー及びその製造方法が開示され、該トナーは、結着樹脂、着色剤、及び少なくとも1種の添加剤を含むトナーであって、温度に対するトナーの貯蔵弾性率曲線が複数個の変曲点を具備する。該トナーは、電子写真用画像形成装置に採用されうる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トナー及びその製造方法に係り、さらに詳細には、温度に対する貯蔵弾性率曲線が複数個の変曲点を具備することによって、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性がいずれも良好なトナー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、印刷市場で高速印刷に適したトナー、特に、画像の質を向上させ、かつホットオフセット(hot offset)を防止できるトナーへの要求が高まっている。ここで、ホットオフセットとは、トナーが定着器を通過しつつ加熱されるとき、印刷用紙への定着に必要な程度を外れ、過度に溶融されつつ、溶融されたトナーの一部が定着器に残留する現象をいう。
【0003】
このようにトナーにおいて、耐ホットオフセット性(resistance to hot offset)が要求されている。
【0004】
特に、フルカラー(full color)印刷に使われるトナーは、画像の鮮明性を損なわずに、加熱及び加圧の定着工程によって、十分な色再現及び色発現を具現することが重要である。前記のような目的を達成するために、フルカラー印刷に使われるトナーは、瞬間的に溶融される低分子量の結着樹脂を含むことが望ましい。しかし、瞬間的に溶融される低分子量の結着樹脂は、加熱及び加圧の定着工程時、結着樹脂の凝集力が低くなるために、ホットオフセットが発生しやすいという問題点がある。
【0005】
前記のような問題点を解決するために、特定の温度範囲で特定の貯蔵弾性率または損失弾性率を有するトナーが提案されてきた。
【0006】
特許文献1及び2は、それぞれ170℃での特定貯蔵弾性率及び180℃での特定損失弾性率を有するトナーを開示している。しかし、かようなトナーは、低温定着性とホットオフセットとの対立、及び低粘度による耐熱保管性の悪化などの問題点を有している。
【0007】
また、特許文献3及び4は、それぞれ70〜120℃での特定の貯蔵弾性率及び130〜180℃での特定の損失弾性率を有するトナーを開示している。しかし、かようなトナーは、耐熱保管性、解像度、帯電性及び現像性などに劣るという問題点がある。
【0008】
特許文献5ないし9は、特定温度範囲での特定の貯蔵弾性率、特定の損失弾性率、または損失弾性率と貯蔵弾性率との比である損失タンジェントを有するトナーを開示しているが、かようなトナーは、カラートナーとしての理想的な定着性、保存性、光沢性(gloss)などにおいて、改善しなければならない問題点を有している。
【0009】
従って、最近のカラートナーにおいては、帯電性、現像性及び光沢性だけではなく、定着性及び耐ホットオフセット性などの特性をいずれも備えたトナー製造技術が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開1996−054750号公報
【特許文献2】特開1999−084716号公報
【特許文献3】特開1994−059504号公報
【特許文献4】特開1999−007151号公報
【特許文献5】特開1993−249735号公報
【特許文献6】特開1995−234542号公報
【特許文献7】特開1995−295298号公報
【特許文献8】特開1996−278662号公報
【特許文献9】特開1998−171156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、温度に対する貯蔵弾性率曲線が複数個の変曲点を具備することによって、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性が向上したトナー、並びにその製造方法を提供する。
【0012】
また、本発明は、前記トナーを採用した電子写真用画像形成装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、結着樹脂、着色剤、及び少なくとも1種の添加剤を含むトナーであって、温度に対する前記トナーの貯蔵弾性率曲線が複数個の変曲点を具備することを特徴とするトナーを提供する。
【0014】
前記複数個の変曲点は、前記温度が100〜200℃である範囲にいずれも存在しうる。
前記結着樹脂は、数平均分子量とガラス転移温度(Tg)が異なる複数種の結着樹脂を含むことができる。
【0015】
前記結着樹脂は、数平均分子量が5,000〜30,000であり、ガラス転移温度(Tg)が55〜60℃である結着樹脂A、及び数平均分子量が5,000〜30,000であり、ガラス転移温度(Tg)が62〜67℃である結着樹脂Bを含むことができる。
【0016】
前記結着樹脂A:結着樹脂Bは、10:90〜90:10の重量比でもって含まれうる。
前記トナーは、架橋樹脂を追加で含むことができる。
【0017】
また本発明の他の側面は、複数の結着樹脂を使用して、温度(T)に対する貯蔵弾性率(G’)曲線が複数個の変曲点を具備するトナーを製造する方法であって、前記それぞれの結着樹脂の数平均分子量及びガラス転移温度(Tg)が、(i)使われるモノマーの組成比調節、(ii)マクロモノマーの添加、及び(iii)鎖移動剤の添加のうち少なくとも1つの方法によって調節されるトナーの製造方法を提供する。
【0018】
また本発明のさらに他の側面は、前記トナーを採用する電子写真用画像形成装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例によるトナーにおいて、温度に対する前記トナーの貯蔵弾性率の変化を図示したグラフである(実施例1及び2)。
【図2】従来技術によるトナーにおいて、温度に対する前記トナーの貯蔵弾性率の変化を図示したグラフである(比較例1及び比較例2)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の望ましい具現例について詳細に説明する。
【0021】
本具現例によるトナーは、結着樹脂、着色剤、及び少なくとも1つの添加剤を含み、前記トナーの温度に対する貯蔵弾性率(storage modulus)曲線が複数個の変曲点(inflection point)を具備する。ここで、貯蔵弾性率の変曲点というのは、温度をTとして、貯蔵弾性率をG’とするとき、温度(T)に対する貯蔵弾性率(G’)曲線で、貯蔵弾性率の二次導関数がゼロ(0)(すなわち、dG’/dT=0)となる地点を意味する。前記複数個の変曲点は、前記温度が100〜200℃である範囲にいずれも存在しうるが、本発明は、それに限定されるものではない。このように、複数個の変曲点を具備することによって、本発明のトナーは、低温定着性、耐ホットオフセット性及び耐熱保管性がいずれも向上しうるが、これについては後述する。
【0022】
本発明の一具現例によるトナーにおいて、温度に対する前記トナーの貯蔵弾性率曲線をして複数個の変曲点を具備させるための方策として、数平均分子量とガラス転移温度(Tg)とが異なる複数種の結着樹脂を使用できる。しかし、本発明がこれに限定されるものではなく、定着温度範囲が異なる2種以上のトナーを製造した後、このトナーを互いに混合して使用しても、同じ効果を得ることができる。本具現例では、前記結着樹脂として、数平均分子量が5,000〜30,000であり、ガラス転移温度(Tg)が55〜60℃である結着樹脂A、及び数平均分子量が5,000〜30,000であり、ガラス転移温度(Tg)が62〜67℃である結着樹脂Bを含んで構成された2種の結着樹脂を混合して使用できる。結着樹脂Aによって、低温定着性が向上し、結着樹脂Bによって、耐ホットオフセット性が向上しうる。この場合、前記結着樹脂A:結着樹脂Bの混合比率は、重量比でもって10:90〜90:10でありうる。前記混合比率が、前記範囲を外れれば、低温定着性及び耐ホットオフセット性のうちいずれか一つが悪化するために、望ましくない。
【0023】
前記結着樹脂A及び結着樹脂Bは、1種または2種以上のモノマーを重合して製造できる。
【0024】
また、前記結着樹脂A及び結着樹脂Bは、それぞれの数平均分子量及びガラス転移温度(Tg)が、下記(i)〜(iii)の方法のうち少なくとも1つの方法によって調節されうる;(i)使われるモノマーの組成比調節、(ii)マクロモノマーの添加、(iii)鎖移動剤の添加。
【0025】
以下、結着樹脂について詳細に説明する。
【0026】
結着樹脂A,Bは、スチレン−アクリル樹脂を含むことができる。前記スチレン−アクリル樹脂は、スチレン系モノマー及び/またはアクリル系モノマーを含む、ラジカル(radical)重合可能な重合性ビニールモノマー(vinyl monomer)を共重合して製造されうる。
【0027】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、3,4−ジクロロスチレンなどがあり、かようなスチレン系モノマーは、単独または2種以上が組み合わさって使われうる。
【0028】
また、アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、エチルアクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソブチルアクリレート、プロピルアクリレート、ドデシルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、フェニルアクリレート、グリシジルアクリレート、2−ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、メタクリル酸、エチルメタクリレート、メチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレートまたはジエチルアミノエチルメタクリレートなどがある。
【0029】
また、前記重合性ビニルモノマーとしては、マレイン酸、マレイン酸ブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸ジメチル、フマル酸、フマル酸ブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジイソブチル、フマル酸ジメチル及びフマル酸ジエチルなどの不飽和二塩基酸;ε−カプロラクトンとアクリル系モノマーとを付加したモノマー;ビスフェノールA誘導体系アクリル系モノマーなどが単独または2種以上で組み合わさって使われうる。
【0030】
前記の重合を進めるためには、一般的に重合開始剤が使われ、かような重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル系とアゾ系との重合開始剤がある。
【0031】
さらに具体的には、前記重合開始剤は、例えば、2−2’−アゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ系重合開始剤、過酸化メチルエチルケトンのような過酸化ケトン、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンのようなペルオキシケタル、t−ブチルヒドロペルオキシドのようなヒドロペルオキシド、過酸化ジ−t−ブチルのような過酸化ジアルキル、過酸化イソブチルのような過酸化ジアシル、ジ−イソプロピルペルオキシジカーボネートのようなペルオキシジカーボネート、アセチルシクロヘキシルスルホニルペルオキシドのような過酸化スルホニル、及びt−ブチルペルオキシアセテートのようなペルオキシエステルからなる群から選択されうる。
【0032】
前記結着樹脂A,Bの酸価は、特別に制限されるものではないが、0.5〜30mgKOH/g、例えば、1〜25mgKOH/gでありうる。
【0033】
前記結着樹脂(A+B)の総含有量は、トナー組成物全体100重量部に対して、50〜98重量部でありうる。前記含有量が50重量部未満であるならば、前記結着樹脂(A+B)がトナー組成物を結合(binding)させるのに不足であって望ましくなく、98重量部を超えれば、前記結着樹脂(A+B)以外のトナー組成物の含有量が少ないので、トナーとしての機能を発揮し難くて望ましくない。ここで、トナー組成物全体とは、前記結着樹脂(A+B)及び架橋樹脂以外に、後述する着色剤、添加剤及び外添剤などをいずれも含む概念である。
【0034】
前記結着樹脂A,Bの数平均分子量とガラス転移温度(Tg)とを調節するために添加されるマクロモノマーとしては、ポリエチレングリコールエチルエーテルメタクリレート、ポリエチレングリコールメチルメタクリレート、ポリエチレングリコールメチルアクリレートなどが使われ、鎖移動剤としては、ジビニルベンゼン、1−ドデカンチオールなどが使われうる。
【0035】
前記結着樹脂A,Bの製造時、分子量を調節するために使われる鎖移動剤としては、α−メチルスチレンダイマー、n−ドデシルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシルエステル、n−オクチルメルカプタンなどがある。
【0036】
また、前記マクロモノマー及び前記鎖移動剤の添加量は、前記結着樹脂A,B
100重量部に対して、それぞれ0.3ないし30重量部及び0.1ないし10重量部でありうる。
【0037】
前記結着樹脂A及び/またはBのうち一部を選別し、架橋剤とさらに反応させることができるが、かような架橋剤としては、イソシアネート化合物やエポキシ化合物などが使われうる。
【0038】
前記結着樹脂A,Bと前記架橋剤との架橋反応によって、架橋樹脂が形成されるが、トナーに含まれる架橋樹脂の含有量は、一般的に架橋化されていない結着樹脂の100重量部に対して、5ないし30重量部でありうる。前記架橋樹脂の含有量が5重量部未満である場合には、分子量が少なくなり、定着温度範囲が狭くなるので望ましくなく、30重量部を超える場合には、樹脂が過度に硬くなり、低温定着性に利益とならないので望ましくない。
【0039】
次に、着色剤について説明する。
【0040】
着色剤は、着色顔料それ自体として使われもし、着色顔料が樹脂内に分散された着色顔料マスターバッチ形態で使われもする。
【0041】
前記着色顔料は、商業的によく使われる顔料であるブラック顔料、シアン顔料、マゼンタ顔料、イエロー顔料及びそれらの混合物のうちから適切に選択されて使われうる。
【0042】
かような顔料の種類としては、下記を例として挙げることができる。すなわち、ブラック顔料としては、酸化チタンまたはカーボンブラックなどが使われうる。シアン顔料としては、銅フタロシアニン化合物及びその誘導体、アントラキン合物または塩基染料レーク化合物などが使われうる。マゼンタ顔料としては、縮合窒素化合物、アントラキン化合物、キナクリドン化合物、塩基染料レーク化合物、ナフトール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、チオインジゴ化合物またはペリレン化合物が使われうる。イエロー顔料としては、縮合窒素化合物、イソインドリノン化合物、アントラキン合物、アゾ金属錯体またはアリルイミド化合物が使われうる。
【0043】
前記着色剤の含有量は、トナーを着色し、現像によって可視画像を形成するのに十分な程度ならばよいが、例えば、前記結着樹脂(A+B)100重量部を基準として、1ないし20重量部でありうる。
【0044】
一方、添加剤としては、帯電制御剤、離型剤またはそれらの混合物などが使われうる。
【0045】
帯電制御剤としては、負帯電性帯電制御剤及び正帯電性帯電制御剤がいずれも使われ、負帯電性帯電制御剤としては、有機金属錯体またはキレート化合物、金属含有サリチル酸化合物、及び芳香族ヒドロキシカルボキシル酸と芳香族ジカルボキシル酸との有機金属錯体が使われ、公知のものであるならば、特別に制限されるものではない。また、正帯電性帯電制御剤としては、ニグロシン及び脂肪酸金属塩で改質されたニグロシン生成物、4級アンモニウム塩を含むオニウム塩などが単独、または2種以上が混合されて使われうる。かような帯電制御剤は、静電気力によってトナーを安定しており、かつ速い速度で帯電させ、前記トナーを現像ローラ上に安定して支持させる。
【0046】
トナーに含まれる帯電制御剤の含有量は、一般的に、トナー組成物全体100重量部に対して、0.1重量部ないし10重量部でありうる。
【0047】
離型剤は、トナー画像の定着性を向上させることができるものであり、低分子量ポリプロピレンや低分子量ポリエチレンのようなポリアルキレン・ワックス、エステル・ワックス、カルナウバ(carnauba)・ワックス、パラフィン・ワックスなどが、前記離型剤として使われうる。トナーに含まれる離型剤の含有量は、一般的に、トナー組成物全体の100重量部に対して、0.1重量部ないし30重量部でありうる。前記離型剤の含有量が0.1重量部未満である場合には、オイルを使用せずにトナー粒子を定着させることができるオイルレス(oilless)定着を実現し難くて望ましくなく、30重量部を超える場合には、保管時に、トナー塊り現象が誘発されて望ましくない。
【0048】
また、前記添加剤は、外添剤をさらに含むことができる。外添剤は、トナーの流動性を向上させたり、または帯電特性を調節するためのものであり、大粒径シリカ、小粒径シリカ及びポリマービーズを含む。
【0049】
本発明の一具現例による複数個の変曲点を有するトナーは、既知のトナー製法によって製造されうる。例えば、2種以上の異種結着樹脂を溶融混練した後で粉砕して製造したり、異種結着樹脂ラテックスを凝集して製造したり、または異種結着樹脂を溶剤に溶解した後、分散媒(水)に分散させて粒子を製造して溶剤を除去して製造されうる。
【0050】
本具現例による製造方法によって製造されたトナーは、電子写真方式の画像形成装置に使われうる。ここで、電子写真方式の画像形成装置とは、レーザプリンタ、複写機またはファクシミリなどを意味する。
【0051】
以下、実施例を挙げて、発明についてさらに詳細に説明するが、本発明がかような実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
(結着樹脂の合成)
製造例1:結着樹脂Aの合成
撹拌器、温度計及びコンデンサが設けられた体積が3リットルである反応器を熱伝逹媒体であるオイル槽内に設けた。このように設けられた反応器内に、蒸溜水及び界面活性剤(Dowfax 2A1)をそれぞれ660g及び3.2g投入し、反応器温度を70℃まで上昇させ、100rpmの速度で撹拌させた。その後、モノマー、すなわち、スチレン838g、ブチルアクリレート322g、2−カルボキシエチルアクリレート37g及び1,10−デカンジオールジアクリレート22.6g、そして蒸溜水507.5g、界面活性剤(Dowfax 2A1)22.6g、マクロモノマーとしてポリエチレングリコールエチルエーテルメタクリレート53g、鎖移動剤として1−ドデカンチオール18.8gの乳化混合物を、前記反応器に1時間徐々に投入した。その後、約8時間の間反応を進めた後、常温まで徐々に冷却させつつ、反応を完了した。結果として、結着樹脂Aを得た。
【0053】
反応完了後、示差走査熱量計(DSC)を利用し、結着樹脂Aのガラス転移温度(Tg)を測定した結果、前記温度は、57℃であった。ポリスチレン基準試料を使用し、GPC(gel permeation chromatography,ゲル浸透クロマトグラフィー)によって、結着樹脂Aの数平均分子量を測定し、その結果、前記数平均分子量は、15,000であった。
【0054】
製造例2:結着樹脂Bの合成
モノマー、すなわち、スチレン970g、ブチルアクリレート191.6g、2−カルボキシエチルアクリレート37g及び1,10−デカンジオールジアクリレート22.6gを使用したことを除いては、製造例1と同じ方法で、結着樹脂Bを製造した。反応完了後、示差走査熱量計(DSC)を利用し、結着樹脂Bのガラス転移温度(Tg)を測定した結果、前記温度は、65℃であった。ポリスチレン基準試料を使用し、GPCによって結着樹脂Bの数平均分子量を測定し、その結果、前記数平均分子量は18,000であった。
【0055】
(架橋樹脂の合成)
製造例3:架橋樹脂Cの合成
撹拌器、温度計及びコンデンサが設けられた体積が3リットルである反応器を熱伝逹媒体であるオイル槽内に設けた。このように設けられた反応器内に、製造例1で作られた結着樹脂A2,000g、蒸溜水200g、界面活性剤(Dowfax 2A1)0.5gそして架橋剤(n−ドデシルメルカプタン)を1.03g投入し、反応器温度を70℃まで上昇させ、100rpmの速度で撹拌させた。その後、約4時間反応を進めた後、常温まで徐々に冷却させつつ反応を完了した。結果として、架橋樹脂Cを得た。
【0056】
(着色顔料の製造)
製造例4:シアン顔料分散液の製造
撹拌器、温度計及びコンデンサが設けられた体積3リットルである反応器に、シアン顔料(大日精化工業(株)製、ECB303)540g、界面活性剤(Dowfax 2A1)27g、蒸溜水2,450gを入れた後、約10時間徐々に撹拌しつつ予備分散を行った。10時間の予備分散を行った後、ビーズミル(ドイツ・Netzsch社、Zeta RS)を利用して4時間分散させた。結果として、シアン顔料分散液を得た。
【0057】
分散完了後、マルチサイザ2000(Malvern社製)を使用し、シアン顔料粒子の粒度を測定した結果、D50(v)が170nmであった。ここで、D50(v)は、体積平均粒径を基準に50%に該当になる粒径、すなわち、粒径を測定して、小粒子から体積を累積する場合、総体積の50%に該当する粒径を意味する。
【0058】
製造例5:ワックス分散液の製造
撹拌器、温度計及びコンデンサが設けられた体積5リットルである反応器に、界面活性剤(Dowfax 2A1)65g及び蒸溜水1,935gを投入した後、前記混合液を、高温で約2時間徐々に撹拌しつつ、ワックス(日本・NOF社、WE−5)1,000gを前記反応器に投入した。前記混合液を、ホモジナイザ(IKA社、T−45)を使用し、30分間分散させた。結果として、ワックス分散液を得た。
【0059】
分散完了後、マルチサイザ2000(Malvern社製)を使用し、分散された粒子の粒度を測定した結果、D50(v)が320nmであった。
【0060】
(トナー粒子の製造)
実施例1:トナー粒子(A+B)の製造
撹拌器、温度計及びコンデンサが設けられた体積3リットルである反応器に、蒸溜水1,527g、前記製造例1で製造した結着樹脂Aの微粒懸濁液、及び製造例2で製造した結着樹脂Bの微粒懸濁液のそれぞれ335g、製造例4で製造したシアン顔料分散液84g、製造例5で製造したワックス分散液88.3gを順に入れた後、約10分間撹拌した。その後、凝集剤(PSI:HCl=1:1)49.2gを約10分間徐々に入れつつ、ホモジナイザ(IKA社、T−45)を利用して約30分間分散させた。分散されたスラリを50℃まで昇温させた後、D50(v)が6.6μmになったとき、2N NaOHをpHが7になるまで徐々に添加した。これによって、D50(v)の成長が止まったことを確認し、98℃まで昇温させた後、この温度を維持しつつ、粒子の球形度が0.990になったとき、反応物を常温に冷却させた。
【0061】
得られたトナー粒子を分析した結果、体積平均粒径は、6.8μmであった。
【0062】
実施例2:トナー粒子(A+B+C)の製造
結着樹脂A、結着樹脂B及び架橋樹脂Cをそれぞれ268g、268g及び134gを使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で、トナー粒子を製造した。
【0063】
得られたトナー粒子を分析した結果、体積平均粒径は、6.8μmであった。
【0064】
比較例1:トナー粒子Aの製造
結着樹脂Bを使用せずに、結着樹脂Aだけを670g使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で、トナー粒子を製造した。
【0065】
得られたトナー粒子を分析した結果、体積平均粒径は、6.8μmであった。
【0066】
比較例2:トナー粒子Bの製造
結着樹脂Aを使用せずに、結着樹脂Bだけを670g使用したことを除いては、実施例1と同じ方法で、トナー粒子を製造した。
【0067】
得られたトナー粒子を分析した結果、体積平均粒径は、6.8μmであった。
【0068】
前記実施例1,2及び比較例1,2でのトナー粒子の体積平均粒径は、クールター・マルチサイザ(Coulter Multisizer 3)で測定した。前記クールター・マルチサイザにおいて、アパーチャ(aperture)は100μmを利用し、電解液であるISOTON−II(Beckman Coulter社)50〜100mlに界面活性剤を適量添加し、ここに測定試料10〜15mgを添加した後、超音波分散器で5分間分散処理することによって、サンプルを製造した。
【0069】
評価例
以下、前記実施例及び比較例で製造したトナー粒子の物性を、下記の方法で評価した。
【0070】
(貯蔵弾性率)
実施例1,2及び比較例1,2で製造したトナーの貯蔵弾性率は、ARES Rheometer(TI Instrument社、ARES−LS2)を利用して測定した。その結果を表2及び図1,2に示した。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
図1及び図2を参照すれば、2種の結着樹脂を使用した実施例1の場合には、114℃、152℃及び189℃で、2種の結着樹脂及び架橋樹脂を使用した実施例2の場合には、110℃、152℃及び187℃でそれぞれ一つずつ全てで3個の貯蔵弾性率(G’)の変曲点が存在すると分かった。一方、1種の結着樹脂だけを使用した比較例1及び比較例2の場合には、それぞれ141℃及び152℃で、ただ1個の貯蔵弾性率(G’)の変曲点だけ存在すると分かった。かような貯蔵弾性率(G’)の変曲点の個数によって、後述するように、トナーのさまざまな物性が変わる。
【0074】
(定着温度範囲:低温定着性及び耐ホットオフセット性)
トナー粒子100g、シリカ(TG 810G、Cabot社製)2g及びシリカ(RX50、Degussa社製)0.5gを混合して製造したトナーを使用し、三星CLP−510プリンタで、30mmx40mmソリッド(Solid)上の未定着画像を作った。次に、定着温度を任意に変更できるように改造された定着試験機で、定着ローラの温度を変化させつつ、前記未定着画像の定着性を評価した。前記トナーの定着温度範囲を測定した結果を下記表3に示した。
【0075】
【表3】

【0076】
表3を参照すれば、定着温度範囲は、2種の結着樹脂を使用した実施例1の場合には、130〜200℃であると分かり、定着温度範囲が広くなるという事実が分かり、2種の結着樹脂と1種の架橋樹脂とを使用した実施例2の場合には、定着温度範囲が130〜210℃であると分かり、架橋樹脂単独では、粒子の硬度が大きすぎて、トナー製造をなされないが、かような架橋樹脂を他の結着樹脂と混合して使用する場合には、高温定着性が良好になるということが分かった。ここで、高温定着性は、特に、耐ホットオフセット性を意味する。一方、1種の結着樹脂だけを使用した比較例1及び比較例2の場合には、定着温度範囲がそれぞれ130〜180℃及び160〜200℃であると分かり、比較例1の場合は、耐ホットオフセット性が良好ではなく、比較例2の場合は、低温定着性が良好ではないという事実が分かった。
【0077】
(耐熱保管性)
実施例1,2及び比較例1,2で製造したそれぞれのトナー粒子10gに、シリカ(TG 810G、Cabot社製)0.2g及びシリカ(RX50、Degussa社製)0.05gを混合し、トナー完成品10.25gを製造した。その後、前記トナー完成品を25mlガラス瓶に入れ、50℃/80%温度及び湿度条件で72時間放置した後、前記トナー完成品を肉眼で確認することによって、耐熱保管性を評価した。前記評価結果を、下記に表4に、それぞれ○、△、×で示したが、それぞれは、下記のような意味を有する。
○:トナー凝集がなく、従って全く問題がない
△:軽い凝集が存在するが、振ればすぐに散らばり、実用上問題がない
×:強い凝集体が存在して容易に散らばらず、実用上問題がある
【0078】
【表4】

【0079】
前記表4を参照すれば、実施例1,2と比較例2との場合は、耐熱保管性が良好であると分かったが、比較例1の場合は、耐熱保管性に劣るということが分かった。
【0080】
以上、本発明による望ましい実施例について説明したが、それらは例示的なものに過ぎず、当技術分野で当業者であるならば、それらから多様な変形及び均等な他実施例が可能であるという点を理解することができるであろう。従って、本発明の保護範囲は、特許請求の範囲によって決まるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂、着色剤、及び少なくとも1種の添加剤を含むトナーにおいて、
前記トナーの温度(T)に対する貯蔵弾性率(G’)曲線が複数個の変曲点を具備することを特徴とするトナー。
【請求項2】
前記複数個の変曲点は、100〜200℃の温度範囲にいずれも存在する請求項1に記載のトナー。
【請求項3】
前記結着樹脂は、数平均分子量とガラス転移温度(Tg)とが異なる複数種の結着樹脂を含む請求項1に記載のトナー。
【請求項4】
前記結着樹脂は、数平均分子量が5,000〜30,000であり、ガラス転移温度(Tg)が55〜60℃である結着樹脂A、及び数平均分子量が5,000〜30,000であり、ガラス転移温度(Tg)が62〜67℃である結着樹脂Bを含む請求項3に記載のトナー。
【請求項5】
前記結着樹脂A:結着樹脂Bは、10:90〜90:10の重量比で含まれる請求項4に記載のトナー。
【請求項6】
架橋樹脂をさらに含む請求項1に記載のトナー。
【請求項7】
複数の結着樹脂を使用して、温度(T)に対する貯蔵弾性率(G’)曲線が複数個の変曲点を具備するトナーを製造する方法であって、前記それぞれの結着樹脂の数平均分子量及びガラス転移温度(Tg)が、(i)使われるモノマーの組成比調節、(ii)マクロモノマーの添加、及び(iii)鎖移動剤の添加のうち少なくとも1つの方法によって調節されるトナーの製造方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項の6うち、いずれか1項に記載のトナーを採用した電子写真用画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−529196(P2011−529196A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−519988(P2011−519988)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004054
【国際公開番号】WO2010/011079
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(508130188)サムスン ファイン ケミカルズ カンパニー リミテッド (28)
【Fターム(参考)】