説明

温度コントローラ及び温度制御方法

【課題】長時間にわたって冷却することができ、かつ、液体窒素の使用量を低減することができる温度コントローラ及び温度制御方法を提供する。
【解決手段】試料10を封入して減圧可能とした真空容器1と、液体窒素4(冷却媒体)を供給して冷却可能とした熱交換部5と、試料10の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュール6と、試料10の加熱を可能としたヒータ7とを含む真空装置100の温度制御を行う温度制御部2(温度コントローラ)において、ペルチェモジュール制御回路と、ヒータ制御回路と、試料10の目標温度を設定する温度設定部と、試料10の冷却及び加熱を選択する冷却/加熱選択部と、温度制御の設定を書き換え可能とした演算部とを備え、冷却媒体による冷却からペルチェモジュール6による冷却に切替可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度コントローラ及び真空装置の温度制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空装置(減圧容器)においては、その内部に封入した物体の温度制御を行わなければならない状況がある。温度制御を行う際には、ペルチェモジュールや冷却ガスによる冷却又はヒータなどによる加熱が行われている。
【0003】
この場合において、温度制御を精度よく行うためには、それぞれの制御対象に対応した温度コントローラが必要になる。
【0004】
特許文献1には、真空チャンバに設けた液体窒素容器からの伝導、及びヒータのコントロールによって温度制御を行う真空装置が開示されている。
【0005】
特許文献2には、真空容器の外部に部分的に露出するように取り付けられた支持部材を伝導して外部に取り出された被計測物の温度を測温器によって計測する真空装置が開示されている。
【0006】
特許文献3には、真空チャンバの内部に収容した液晶供給装置における冷却手段としてペルチェ素子を用いた液晶注入装置が開示されている。
【0007】
特許文献4には、複数の物品を異なる温度に冷却することを目的として、2個のペルチェ素子とヒータとを内蔵した真空容器を用いた冷却装置が開示されている。
【0008】
特許文献5には、真空容器の内部にペルチェ素子とヒータとを備えた断熱型カロリーメータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−318151号公報
【特許文献2】特開2003−50161号公報
【特許文献3】特開2009−42427号公報
【特許文献4】国際公開2004/088216号
【特許文献5】特開2010−133811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、長時間にわたって冷却することができ、かつ、液体窒素の使用量を低減することができる温度コントローラ及び温度制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の真空装置の温度制御においては、冷却媒体による冷却からペルチェモジュールによる冷却に切り替えることが可能な構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、真空装置の使用環境や用途に対して柔軟に温度制御を行うことができる。
【0013】
また、本発明によれば、真空装置において目標温度までの冷却を液体窒素等の冷却媒体で行い、温度の維持をペルチェモジュールで行うことができる。これにより、真空装置内の試料を長時間にわたって冷却することができ、かつ、冷却媒体の使用量を低減することができる。
【0014】
さらに、本発明によれば、試料を取り出す際にヒータ及びペルチェによって常温まで加熱することができるため、試料に結露が生じることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】温度コントローラを備えた真空装置の例を示す概略構成図である。
【図2】温度コントローラを備えた真空装置の変形例を示す概略構成図である。
【図3】ペルチェモジュールを備えた真空装置の温度コントローラの例を示すブロック図である。
【図4】ペルチェモジュール及びヒータを備えた真空装置の温度コントローラの例を示すブロック図である。
【図5】温度コントローラによる温度制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、真空容器を含む装置において温度制御を行うための温度コントローラに関するものである。装置の具体例としては、イオンミリング装置等がある。
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る温度コントローラ及び温度制御方法について説明する。
【0018】
前記温度コントローラは、試料を封入して減圧可能とした真空容器と、冷却媒体を供給して冷却可能とした熱交換部と、試料の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュールと、試料の加熱を可能としたヒータとを含む真空装置の温度制御を行う温度コントローラであって、ペルチェモジュール制御回路と、ヒータ制御回路と、試料の目標温度を設定する温度設定部と、試料の冷却及び加熱を選択する冷却/加熱選択部と、温度制御の設定を書き換え可能とした演算部とを備え、冷却媒体による冷却からペルチェモジュールによる冷却に切替可能としたことを特徴とする。
【0019】
前記温度コントローラは、さらに、測定温度を演算部に伝達するアナログ/デジタル変換部を備えていることが望ましい。
【0020】
前記温度コントローラにおいて、真空装置は、ペルチェモジュールを2個以上直列に接続した構成を有することが望ましい。
【0021】
前記温度コントローラにおいては、試料と、熱交換部、ペルチェモジュール及びヒータとが熱伝導部材で接続してあることが望ましい。
【0022】
前記温度制御方法は、試料を封入して減圧可能とした真空容器と、冷却媒体を供給して冷却可能とした熱交換部と、試料の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュールと、試料の加熱を可能としたヒータとを含む真空装置の温度制御方法であって、冷却媒体の残量又は熱交換部若しくは試料の温度を検知して冷却媒体による冷却からペルチェモジュールによる冷却に切り替えることを特徴とする。
【0023】
前記温度制御方法は、試料を封入して減圧可能とした真空容器と、冷却媒体を供給して冷却可能とした熱交換部と、試料の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュールと、試料の加熱を可能としたヒータとを含む真空装置の温度制御方法であって、冷却媒体による冷却によって試料の温度が低下した後、冷却媒体による冷却からペルチェモジュールによる冷却に切り替えることを特徴とする。
【0024】
前記温度制御方法においては、真空容器から試料を取り出す前に、ヒータ及びペルチェモジュールの少なくともいずれかで加熱することが望ましい。
【0025】
以下、図面を用いて説明する。
【0026】
図1は、温度コントローラを備えた真空装置の例を示す概略構成図である。
【0027】
本図において真空装置100は、真空容器1と温度制御部2とを含む。真空容器1の壁面には、熱交換部5、ペルチェモジュール6及びヒータ7が設置されている。これらには、それぞれ、熱伝導部材12、13、14が接続されている。熱伝導部材12、13、14は、試料冷却加熱部9に連結されている。
【0028】
試料10は、試料冷却加熱部9の表面に接するように設置され、試料台8の上に置かれている。試料10は、熱伝導部材12、13、14を介して加熱又は冷却をすることができるようになっている。試料冷却加熱部9には、温度センサが設置してあり、温度信号線11によって温度制御部2に温度のデータを送ることができるようになっている。熱交換部5は、液体窒素容器3(冷却媒体容器)から液体窒素4(冷却媒体)を供給して冷却することができるようになっている。
【0029】
本図に示す真空装置100において、試料10を急速に冷却する際は、液体窒素4を用い、試料10の温度が目標温度に近づいた状態では、ペルチェモジュール6によって試料10の温度調節を行う。また、試料10の温度が目標温度よりも低くなった状態では、ヒータ7を用いて試料10を加熱する。これにより、試料10の温度を一定に保つ場合等に液体窒素4を浪費することがなくなる。また、夜間等に長時間にわたって試料10の温度を一定に保つ場合等に液体窒素4を使わずに温度を制御することができるため、真空装置100を設置した部屋に窒素が充満する危険を防止することができる。
【0030】
さらに、試料10を取り出す前には、ヒータ7を用いて試料10を加熱する。これにより、大気中において試料10の表面に結露が生じることを防止することができる。
【0031】
図2は、温度コントローラを備えた真空装置の変形例を示す概略構成図である。
【0032】
本図においては、ペルチェモジュール6とペルチェモジュール21とが直列に接続されている。すなわち、ペルチェモジュール6の放熱面とペルチェモジュール21の吸熱面とが接するように接続されている。これにより、ペルチェモジュール6、21による試料10の冷却を急速に行うことができ、かつ、試料10の温度を図1に示す例よりも低くすることができる。ペルチェモジュール6、21は、3個以上(3段以上)直列に接続してもよい。
【0033】
図3は、ペルチェモジュールを制御する温度コントローラの例を示すブロック図である。
【0034】
本図において、真空容器1には、温度測定部117及びペルチェモジュール118が備えてある。また、温度制御部2(温度コントローラ)には、A/D変換部111(アナログ/デジタル変換部)、ペルチェモジュール制御回路112、ヒータ制御回路113、演算部114、温度設定部115、冷却/加熱選択部116及び温度制御開始/停止スイッチ120が備えてある。
【0035】
ペルチェモジュール118は、流す電流の向きで冷却/加熱の切替ができる。このため、温度制御部2のペルチェモジュール制御回路112によって電流の向き及び量を調整することにより温度制御を行うことができる。
【0036】
図4は、図3の温度コントローラの変形例を示すブロック図である。
【0037】
本図においては、真空容器1には、さらに、ヒータ119を設置してあり、温度制御部2のヒータ制御回路113によってヒータ119を制御するようになっている。また、温度測定部117a、117bを2か所設け、更に精密な制御を可能としている。
【0038】
図5は、温度コントローラによる温度制御を示すフローチャートである。以下では、図3及び4の構成要素も用いて説明する。
【0039】
図5において、温度制御部2(温度コントローラ)は、初めに、ペルチェモジュール118による温度制御又はヒータ119による温度制御の選択を冷却/加熱選択部116にて行う(S20)。つぎに、冷却または加熱の選択を行う(S21)。つぎに、温度測定部117より測定温度を取り込み、A/D変換部111にてデジタル信号とし、温度設定部115から設定温度も同時に演算部114に取り込み(S22)、温度を表示する(S23)。この際に測定温度が異常値を示した場合、真空装置を停止する。温度は、常に監視し、異常値ならばいつでも真空装置を停止するようにしておく。
【0040】
つぎに、温度制御開始/停止スイッチ120により温度制御を開始(S24)する。そして、測定温度と設定温度とを比較し(S25、S27)、冷却処理または加熱処理を行う(S26、S28)。
【0041】
以上の処理を行い、温度制御の終了を判断する(ステップ29)。温度制御終了ならば室温に戻す処理を行い(S30)、温度コントローラを停止する。温度制御がまだ終了していなければS25へ戻って温度制御を繰り返す。真空装置の冷却を目的とする場合、加熱処理はS30にて行う。真空装置の加熱を目的とする場合、冷却処理はS30にて行う。
【0042】
例えば、特許文献1のように液体窒素等の冷却媒体によって冷却を行い、ヒータ119で温度制御を行う真空装置の場合、冷却媒体は、冷却能力は高いが、量に限りがあり、冷却できる時間が限られている。そのような場合、図1の熱交換部5(冷却部位)の温度を温度測定部117にて監視し、冷却部位の温度が上昇した場合にペルチェモジュール118による温度制御に切り替えれば長時間の温度制御が可能になる。
【0043】
真空装置の温度制御方法について図5を使って説明する。
【0044】
まず、ペルチェモジュール118による温度制御又はヒータ119による温度制御の選択を冷却/加熱選択部116にて行う(S20)。初めは、ヒータによる温度制御を行う。冷却部位の温度測定部117a、117bによって十分な冷却ができないと判断した場合は、制御対象を演算部114内でペルチェモジュール118に切り替え、図3と同じように温度制御を行う。
【0045】
すなわち、冷却媒体(液体窒素等)の残量がわずかとなった場合、又は熱交換部若しくは試料の温度が上昇した場合には、これを検知して冷却媒体による冷却からペルチェモジュールによる冷却に切り替える。
【0046】
以下、本発明の効果について更に述べる。
【0047】
本発明によれば、冷却媒体である液体窒素等がなくなった場合でもペルチェモジュールによって試料の温度制御をすることができる。
【0048】
また、液体窒素等を使いたくない場合にも有効である。この場合、直列に2個以上(2段以上)接続したペルチェモジュールを用いることにより、低い温度を維持することができる。
【0049】
本発明によれば、液体窒素等の使用量を低減することができる。これにより、ランニングコストも低減することができる。
【0050】
また、本発明によれば、真空容器から試料を取り出す前に、ヒータ及びペルチェモジュールの少なくともいずれかで常温まで加熱することができるため、試料の結露を防止することができる。
【0051】
さらに、本発明によれば、液体窒素等の残量を検知し、液体窒素等がなくなる前にペルチェモジュールで温度制御を代替する準備を進めることができる。
【0052】
さらにまた、本発明によれば、液体窒素等によって急速に冷却することができ、かつ、ペルチェモジュールによって温度の微調整を行うことができる。また、液体窒素等とペルチェモジュールとを併用することにより、更に急速な冷却が可能となる。
【符号の説明】
【0053】
1:真空容器、2:温度制御部、3:液体窒素容器、4:液体窒素、5:熱交換部、6、21:ペルチェモジュール、7:ヒータ、8:試料台、9:試料冷却加熱部、10:試料、11:温度信号線、12、13、14:熱伝導部材、100:真空装置、111:A/D変換部、112:ペルチェモジュール制御回路、113:ヒータ制御回路、114:演算部、115:温度設定部、116:冷却/加熱選択部、117、117a、117b:温度測定部、118:ペルチェモジュール、119:ヒータ、120:温度制御開始/停止スイッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を封入して減圧可能とした真空容器と、冷却媒体を供給して冷却可能とした熱交換部と、前記試料の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュールと、前記試料の加熱を可能としたヒータとを含む真空装置の温度制御を行う温度コントローラであって、ペルチェモジュール制御回路と、ヒータ制御回路と、前記試料の目標温度を設定する温度設定部と、前記試料の冷却及び加熱を選択する冷却/加熱選択部と、温度制御の設定を書き換え可能とした演算部とを備え、前記冷却媒体による冷却から前記ペルチェモジュールによる冷却に切替可能としたことを特徴とする温度コントローラ。
【請求項2】
さらに、測定温度を前記演算部に伝達するアナログ/デジタル変換部を備えたことを特徴とする請求項1記載の温度コントローラ。
【請求項3】
前記真空装置は、前記ペルチェモジュールを2個以上直列に接続した構成を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の温度コントローラ。
【請求項4】
前記試料と、前記熱交換部、前記ペルチェモジュール及び前記ヒータとが熱伝導部材で接続してあることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の温度コントローラ。
【請求項5】
前記冷却媒体は、液体窒素であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の温度コントローラ。
【請求項6】
試料を封入して減圧可能とした真空容器と、冷却媒体を供給して冷却可能とした熱交換部と、前記試料の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュールと、前記試料の加熱を可能としたヒータとを含む真空装置の温度制御方法であって、前記冷却媒体の残量又は前記熱交換部若しくは前記試料の温度を検知して前記冷却媒体による冷却から前記ペルチェモジュールによる冷却に切り替えることを特徴とする温度制御方法。
【請求項7】
試料を封入して減圧可能とした真空容器と、冷却媒体を供給して冷却可能とした熱交換部と、前記試料の冷却及び加熱を可能としたペルチェモジュールと、前記試料の加熱を可能としたヒータとを含む真空装置の温度制御方法であって、前記冷却媒体による冷却によって前記試料の温度が低下した後、前記冷却媒体による冷却から前記ペルチェモジュールによる冷却に切り替えることを特徴とする温度制御方法。
【請求項8】
前記真空容器から前記試料を取り出す前に、前記ヒータ及び前記ペルチェモジュールの少なくともいずれかで加熱することを特徴とする請求項6又は7に記載の温度制御方法。
【請求項9】
前記冷却媒体は、液体窒素であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の温度制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−20471(P2013−20471A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153630(P2011−153630)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000233549)株式会社日立ハイテクコントロールシステムズ (130)
【Fターム(参考)】