説明

温度制御システム

【課題】スチームドラム内の気液温度を飽和温度に維持することで高精度の温度制御を行う。
【解決手段】温度制御システム1は、蒸気と水が気液平衡状態で収容されたスチームドラム2から供給配管3で水を反応器5の除熱部7に供給する。反応器5では水の一部を反応熱で蒸発させて蒸気と水との二相流体として、戻り配管8によってスチームドラム2に戻す。戻り配管8の途中の合流部6で補給配管10を接続して補給水を供給し、比較的温度の低い補給水を蒸気で瞬時に加熱して飽和温度にすることにより、高精度な温度制御が可能となる。また、制御手段25では、補給水およびスチームドラム2内の温度と反応器5内の反応熱量から、スチームドラム2内から系外に排出される蒸気の量に見合った補給水量を決定するため、補給水量が蒸気量を超えず、合流部での急激な凝縮によるハンマリングを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチームドラム等の冷媒ドラム内の温度を均一にすることによって、反応器の緻密な温度制御が可能となる温度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スチームドラムへの給水システムとして、例えば特許文献1及び2に記載されたものがある。特許文献1に記載されたものでは、排ガスを受けて節炭器から給水管を経てドラムに水を供給し、蒸発器用の気液分離装置で気液分離して蒸気を発生する。しかし、起動時等の低負荷運転時には、節炭器の給水出口温度が上昇してドラム圧力に対する飽和温度よりも高温になる。このような気水をそのままドラムに供給する場合、ドラム内圧より高圧であるため、ドラム内でのスチーミングを防ぐために気水分離用の気液分離装置を設けてドラム内で気水分離をしている。
また、特許文献2に記載されたものでは、気液分離装置に変えてドラム内に給水内管を設け、その上半部に小孔を下半部にこれより口径の大きい透孔を形成して蒸気と給水を流出するようにしている。
【0003】
しかしながら、上述した構成は一般的なボイラについてのものであり、補給水の温度がスチームドラム内の蒸気相の温度より低い場合、蒸気相と液相とに温度差が発生する。スチームドラムへの補給水の給水温度が低いと液相温度が飽和温度より低くなるため、この構成をFT反応器の温度制御に適用すると制御が不安定になる。また、スチームドラムへの給水量によって液相温度が低下するため蒸気発生量が不安定になるという問題がある。
【0004】
ところで、近年、FT反応器で用いるFT合成反応(フィッシャー・トロプシュ合成反応)方法の一つとして、天然ガスを改質して一酸化炭素ガス(CO)と水素ガス(H)とを主成分とする合成ガスを生成し、この合成ガスを原料ガスとしてFT合成反応(フィッシャー・トロプシュ合成反応)により液体炭化水素を合成し、更にこの液体炭化水素を水素化および精製することで、ナフサ(粗ガソリン)、灯油、軽油、ワックス等の液体燃料製品を製造するGTL(Gas To Liquids:液体燃料合成)技術が開発されている。
このようなFT合成反応において、反応器は、水素ガスおよび一酸化炭素ガスリッチの合成ガスを、触媒を用いて炭化水素に変換する。FT合成反応は発熱反応であり、かつ適正に反応する温度域が非常に狭いため、発生する反応熱を回収しながら反応器内の反応温度を緻密に制御する必要がある。
【0005】
上述したFT反応器を用いた温度制御システムとして、例えば図7に示すものが知られている。この温度制御システム100は、スチームドラム101に気液平衡状態で貯えられた水を底部よりポンプ102にてフィッシャー・トロプシュ合成反応(発熱反応)を行なう反応器103内の除熱管104に送る。そして、反応器103にて発生した発熱反応に伴う反応熱により除熱管104内の水を一部蒸発させて熱回収し、この蒸気および水の二相流体は、スチームドラム101への戻り配管105を通ってスチームドラム101に戻される。そして、蒸気は蒸気出口配管107を通って系外の蒸気ユーザーに供給される。
一方、系外に供給された蒸気に見合った量の補給水が、補給配管106を通してスチームドラム101に補給される。補給水の補給量は、スチームドラム101内の水面レベルを測定するレベル測定部108の測定結果に基づいて液面が一定になるように調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−53521号公報
【特許文献2】特開平6−257703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した温度制御システム100では、補給水の補給配管106は開口がスチームドラム101内の水面下に水没しているため、比重の大きな比較的低温の補給水は、直接スチームドラム101の底部に流れ、スチームドラム101内の蒸気相と水相との間に温度差が生じる。すると、スチームドラム101の蒸気相圧力と水相の温度との相関関係が崩れるため、温度制御システム100による制御が高精度に行われないおそれがあるという欠点がある。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、スチームドラム内の気液温度を飽和温度に維持することで、高精度の温度制御ができるようにした温度制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による温度制御システムは、内部で発熱反応が生じる反応器内の反応熱を回収して該反応器内の温度を制御する温度制御システムであって、蒸気及び液体冷媒が気液平衡状態で収容された冷媒ドラムと、反応器に配設されていて冷媒ドラムから供給された液体冷媒の一部を反応熱で蒸発させる除熱部と、除熱部で生じた蒸気と液体冷媒との混相流体を冷媒ドラムに戻す戻り配管と、冷媒ドラム内の蒸気を系外へ供給する蒸気出口配管と、系外に排出される蒸気の量に見合った補給水量を戻り配管に供給する補給配管とを備えていることを特徴とする。
【0010】
また、反応器内の反応熱量を冷媒ドラム内の比較的高い温度と補給水の比較的低い温度との差分および冷媒の物性値(比熱、蒸発潜熱)から決定される単位冷媒量当たりの熱容量で除して補給水量を決定する制御手段と、この制御手段で決定された補給水量に応じて補給配管から戻り配管に供給する補給水量を設定する補給水調整手段と、を更に備えていることを特徴とする。
【0011】
また、制御手段で決定する補給水量は次式によって演算されることが好ましい。
WL3=Q/{Cp×(t1−t3)+r}
但し、WL3:補給水量
Q:前記反応器内での反応熱量
Cp:液体冷媒の比熱
t1:前記冷媒ドラムおよび反応器の除熱部内の温度
t3:補給水の温度
r:液体冷媒の蒸発潜熱。
【0012】
また、戻り配管と補給配管との合流部において、補給配管は戻り配管内の混相流体の進行方向に沿って戻り配管と鋭角の角度で接続されていてもよい。
また、補給配管には、蒸気の逆流を防ぐシール部が設けられていてもよい。
或いは、戻り配管と補給配管との合流部において、補給配管に補給水を戻り配管内に噴霧するスプレーノズルが設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による温度制御システムは、反応器の除熱部で生じた蒸気と液体冷媒との混相流体を冷媒ドラムに戻す戻り配管に、系外に排出された蒸気の量に見合った補給水量を供給する補給配管を設けたから、系外へ排出された蒸気量に見合った補給水量を戻り配管に合流させて戻り配管内の飽和温度にある蒸気と直接混合させることで、補給水を冷媒ドラムに供給される前に飽和温度まで加熱することができることになり、冷媒ドラム内の気液温度を常に飽和温度に維持できる。
しかも、補給水を直接冷媒ドラムへ供給する従来の温度制御システムと比較して、構造の複雑化や設備の大型化を避けて冷媒ドラム内の温度を均一にできる。
以上より、効率よく冷媒ドラム内の温度が均一にできることから、高精度かつ緻密な反応器の温度制御が可能となる。
【0014】
また、反応器内の反応熱量を冷媒ドラム内の比較的高い温度と補給水の比較的低い温度との差分および冷媒の物性値(比熱、蒸発潜熱)から決定される単位冷媒量当たりの熱容量で除して補給水量を決定する制御手段と、決定された補給水量に応じて補給配管から戻り配管に補給水を供給する補給水調整手段と、を更に備えているから、補給水量は系外に供給する蒸気流量と同等となるように制御手段によって正確に演算できて補給水量が蒸気流量を超えないように正確に制限することができることになり、合流部での全凝縮によるハンマリングを確実に防止することができる。
【0015】
なお、制御手段で決定する補給水量は、具体的には次式によって演算されるから、補給水量は系外に供給する蒸気流量と同等となるように正確に演算できて補給水量が蒸気流量を超えないように制限できる。
WL3=Q/{Cp×(t1−t3)+r}
但し、WL3:補給水量
Q:反応器内での反応熱量
Cp:液体冷媒の比熱
t1:冷媒ドラムおよび反応器の除熱部内の温度
t3:補給水の温度
r:液体冷媒の蒸発潜熱。
【0016】
また、本発明による温度制御システムは、戻り配管と補給配管との合流部において、補給配管は混相流体の進行方向に沿って戻り配管と鋭角の角度で接続されているから、補給配管の補給水を、戻り配管の蒸気と液体冷媒との混相流体に合流させる際、混相流体の流れ方向に沿って補給水の給水を行うことができるため、合流時に補給水が混相流体に衝突した衝撃によるハンマリングの発生を防止できる。
【0017】
また、補給配管には、蒸気の逆流を防ぐシール部が設けられているから、補給水の供給量が少ない場合、戻り配管内の蒸気が補給配管内に逆流して凝縮によるハンマリングが生じることを防止できる。
【0018】
また、戻り配管と補給配管との合流部において、補給配管に補給水を戻り配管内に噴霧するスプレーノズルが設けられているから、補給水を補給配管から合流部で戻り配管に供給する際、スプレーノズルで補給水を噴霧して均等に分散させて混相流体の蒸気に接触させれば、補給水の偏りによる急激な蒸気凝縮を抑制してハンマリングの発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態による温度制御システムの概略構成を示す図である。
【図2】実施形態による温度制御システムにおける水と蒸気の循環路とその流量及び温度とを示す説明図である。
【図3】第一変形例による反応器の戻り配管と補給配管との合流部を示す説明図である。
【図4】第二変形例による反応器の戻り配管と補給配管との合流部を示す説明図である。
【図5】第三変形例による反応器の戻り配管と補給配管との合流部を示す説明図である。
【図6】実施例における、反応器の出口と合流後の戻り配管とにおける蒸気の割合の変化を示すグラフである。
【図7】従来の温度制御システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に示す温度制御システム1において、冷媒ドラムであるスチームドラム2には気液平衡状態で液体冷媒として例えば水が飽和温度で貯えられており、水の液面より上側には蒸気が飽和状態で満たされている。スチームドラム2の底部には供給配管3が接続され、この供給配管3を通して給水用のポンプ4によってフィッシャー・トロプシュ合成反応(発熱反応)を行なうFT反応器(以下、単に反応器という)5内の除熱管(除熱部)7に水が送られる。反応器5によって発生した発熱反応に伴う反応熱により除熱管7内で水を一部蒸発させ、この反応熱を回収する。
【0021】
また、除熱管7で一部の水が蒸発した蒸気および水からなる二相流体(混相流体)は、スチームドラム2への戻り配管8を通ってスチームドラム2に戻され、戻り配管8の吐出口はスチームドラム2内の水面より上方の蒸気の領域に開口している。そして、蒸気は蒸気出口配管9を通って系外の図示しない蒸気ユーザーに供給される。蒸気出口配管9には系外への蒸気排出量を測定する蒸気排出量測定手段11が設けられている。
【0022】
さらに、系外に供給された蒸気排出量に見合った量の液体冷媒、例えば補給水をスチームドラム2へ補給するための補給配管10が配設され、補給配管10は戻り配管8の途中の合流部6で接続されている。これにより、比較的低温(例えば温度t3とする)の補給水は、戻り配管8内において反応器5で蒸発させられた比較的高温(例えば温度t1とする。t1>t3)の蒸気と直接混合して加熱され、飽和温度となる。補給配管10には補給水の温度を測定する補給温度測定部16が設けられている。
補給配管10の補給水は、戻り配管8で飽和温度となってスチームドラム2内へ供給される。
【0023】
発熱反応を行なう反応器5には、反応器5内の温度を測定する反応熱温度測定部14と反応熱量Qを計算する反応熱量計算部15が設けられている。
また、発熱反応を行なう反応器5内の温度を測定する反応熱温度測定部14の測定結果に基づいて、スチームドラム2内の圧力を制御する圧力制御部18が、蒸気出口配管9から系外に排出する蒸気量をカスケード制御にて調節することで、発熱反応を行なう反応器5の温度を制御している。なお反応熱温度測定部14は、例えば反応器5において上下方向に互いに離間して配置された図示しない複数の温度センサを備えていてもよく、これらの温度センサにより測定された各温度の平均値を、反応器5内の温度として測定することができる。
【0024】
スチームドラム2内の蒸気相(気相部)と水相(液相部)とは気液平衡状態であるため、スチームドラム2の蒸気相圧力と水相の温度とは一定の相関関係にある。したがって、発熱反応を行なう反応器5の温度設定値に対し、反応熱温度測定部14により測定された反応器5内の実温度に偏差が生じた場合、圧力制御部18を作動させてスチームドラム2の蒸気相圧力を変更する。
【0025】
ここで、圧力制御部18は、蒸気出口配管9と、蒸気出口配管9に設けられた圧力調節弁19と、圧力調節弁19を制御することで蒸気出口配管9を介してスチームドラム2内の圧力を設定する圧力設定部21と、を備えている。圧力設定部21には、反応熱温度測定部14の温度測定結果が入力されており、圧力設定部21は、この温度測定結果から反応器5内における実温度の温度設定値に対する偏差を算出し、この偏差に基づいて圧力調節弁19を制御し、スチームドラム2の蒸気相圧力を変更する。
【0026】
以上のようにしてスチームドラム2の蒸気相圧力を変更することで、スチームドラム2内の水相の温度(すなわち、発熱反応を行なう反応器5内の除熱管7に給水される水の温度)が変化して除熱管7で回収する熱量を変化させることが可能になり、発熱反応を行なう反応器5の温度を温度設定値に近づけることができる。
なお本実施形態では、スチームドラム2内の水相の温度は、スチームドラム2の底部に設けられた水相温度測定部23により測定可能となっている。本実施形態では、スチームドラム2、供給配管3、除熱管7および戻り配管8により、液体冷媒としての水が循環する系が構成されている。また、補給水を戻り配管8に供給しているため、スチームドラム2内の温度は、いずれの圧力においても常に飽和温度になることから、反応器温度を緻密かつ高精度で制御できる。
【0027】
また、温度制御システム1には、補給配管10からの補給水量が蒸気出口排管9から系外へ排出される蒸気量を超えないように補給水量を制御する制御手段25が設けられている。この制御手段25では、スチームドラム2内の水相温度を測定する水相温度測定部23、反応熱量計算部15、補給配管10内の補給水温度を測定する補給温度測定部16による各測定値が入力され、補給水量が蒸気排出管9から排出される蒸気量を超えないように演算して決定される。
【0028】
演算された補給水量のデータは補給配管10に設けた流量調整手段26に出力され、流量調節弁13の開度を調整して補給水量を制御することになる。なお、スチームドラム2にはスチームドラム2内の水面レベル(液面レベル)を測定するレベル測定部12が設けられ、スチームドラム2への過剰給水防止(オーバーフロー防止)のため、レベル測定部12の測定結果から出力される流量調節弁13の弁開度が上記演算された補給水量に該当する弁開度より小さい場合は、その開度が選択される。
これらによって補給水量が蒸気流量を超えないように制御される。
【0029】
つぎに、制御手段25による補給水量の演算方法の一例について説明する。
図2に示すように、蒸気出口配管9で排出される蒸気量をWV1,温度をt1,供給配管3で反応器5に供給される水の流量をWL4、温度t1、反応器5から戻り管8へ吐出される蒸気量をWV2、水の流量をWL2、各温度t1、補給配管10から戻り配管8へ供給される水の流量をWL3、温度t3、合流後の戻り管8からスチームドラム2へ戻される蒸気量をWV1、水の流量をWL4、各温度t1とする。なお、水の流量は単位kg/h,蒸気の流量は単位kg/hとし、温度は℃とする。
また、反応器5での反応熱量をQ(kcal/h)、水の蒸発潜熱をr(kcal/kg)、水の比熱をCp(kcal/kg/℃)とする。
【0030】
まず、物質収支により、蒸気出口配管9で排出される蒸気発生量WV1と補給水量WL3は等しいため、次式(1)式が成り立つ。
WV1=WL3 …(1)
上記(1)式を導き出す手順について以下に説明する。
図2において、まずスチームドラム2から供給される温度t1の水の流量WL4は反応器5で反応熱を回収することで、温度t1の蒸気流量WV2+水流量WL2となるから、反応器5で相変化する入出の物質収支を示すと下記(2)式になる。
WL4=WV2+WL2 …(2)
更に、補給配管10から補給水量WL3が供給されることで、戻り配管8と補給配管10の合流部6での物質収支(給水+相変化)は次の式(3)になる。
WV2+WL2+WL3=WV1+WL4 …(3)
(2)式を(3)式に代入して整理すると次式になる。
WV1=WL3 …(1)
【0031】
また、補給水量WL3の温度は低温t3であり、他は高温t1(>t3)である。戻り配管8と補給配管10の合流部においては、蒸気凝集量=給水予熱量/蒸発潜熱となるから、
(WV2−WV1)×r=WL3×Cp×(t1−t3) …(4)
となる。
反応熱量Qと反応器5での蒸気発生量WV2との関係は以下の通りである。
WV2=Q/r …(5)
そして、式(1)と(5)を(4)式に代入して整理する。
WL3=Q/{Cp×(t1−t3)+r} …(6)
このようにして、反応熱量Qと給水温度t1,t3との関係から補給水量WL3を求めることができる。
なお、反応熱量Qは、別途測定・計算される反応器5での反応量またはスチームドラム2と反応器5の温度差と除熱管の伝熱面積と総括伝熱係数の積から求めることができる。
【0032】
本実施形態による温度制御システム1は上述の構成を有しており、次にその制御方法について説明する。
例えば、給水用のポンプ4を駆動することで、スチームドラム2から温度t1の水の流量WL4が反応器5へ供給される。反応器5で発生する発熱反応に伴う反応熱により除熱管7内で水流量WL4は一部が蒸発されて温度t1の蒸気流量WV2と水の流量WL2の二相となり、この二相流体(混相流体)は戻り配管8によって給送される。
【0033】
また、スチームドラム2内の蒸気相と水相とは、上述した水の流量WL4をポンプ4により反応器5に向けて排出することで水面が低下するため、制御手段25で決定された補給水量WL3が流量調節弁13によって調整されて供給される。
一方、補給配管10では、制御手段25で決定された比較的低温t3の補給水量WL3が補給されて、戻り配管8との合流部6で戻り配管8内の二相流体(WV2+WL2)と合流する。すると、合流部6では、温度t3の補給水量WL3が戻り配管8内で高温t1の蒸気WV2と直接混合して加熱され、飽和温度t1まで加熱される。また、合流部6では一部の蒸気が凝縮することで戻り配管8内の水の流量は、スチームドラム2から供給配管3に供給される水流量WL4と同じになる。
そして、合流部6以降の戻り配管8では、温度t1の蒸気流量WV1と水の流量WL4となってスチームドラム2内の水面の上方に吐出される。
【0034】
ここで、制御手段25による補給水量WL3の制御方法について説明する。
スチームドラム2内の水相温度を測定する水相温度測定部23で測定した温度t1と、反応熱量計算部15で計算した反応熱量Qと、補給配管10の補給温度測定部16で測定した補給水の温度t3とが制御手段25に入力される。そして、制御手段25では上記(6)式により補給水量WL3を演算する。
この補給水量WL3の演算値を流量調整手段26に出力して流量調節弁13を作動させて補給水流量WL3を補給配管10に供給し、合流部6で戻り配管8に合流させてスチームドラム2へ吐出させることになる。
【0035】
そして、スチームドラム2内では、蒸気相圧力と水相の温度とは、気液平衡状態に基づいた相関関係が常に保たれる。
また、蒸気出口配管9によってスチームドラム2内から蒸気流量WV1が系外に供給されると共に、補給水量WL3が戻り配管8との合流部6で蒸気と水との二相流体と合流してスチームドラム2内に供給される。しかも、制御手段25によって、補給水量WL3は蒸気流量WV1と等しく制御されるため、スチームドラム2内の水面は一定となる。
【0036】
上述のように本実施形態による温度制御システム1によれば、蒸気出口配管9によって系外へ供給する蒸気流量WV1に等しい比較的低温t3の補給水量WL3を補給配管10から戻り配管8に合流させて、戻り配管8内の飽和温度t1にある蒸気流量WV2と直接混合させることができるから、補給水を瞬時に加熱して飽和温度にさせることができる。そのため、スチームドラム2内の気液温度を常に飽和温度に維持できる。その結果、反応器温度を緻密かつ高精度で制御できる。
更に、制御手段25によって、補給水量WL3が系外に供給する蒸気流量WV1と同等となるように演算でき、補給水量WL3が蒸気流量WV1を超えないように補給水量を正確に制限することができて、合流部6での全凝縮によるハンマリングを防止することができる。
【0037】
従来の温度制御システムでは、補給水を直接スチームドラム2へ供給する構成であるため、補給水の加熱はスチームドラム2内の熱移動(蒸気の凝縮)によって行われ、補給水の温度を飽和温度まで加熱するためには補給配管10内で補給水量をできるだけ少量の給水に分割することやスチームドラム2内での十分な滞留時間を確保することが必要になり、構造の複雑化や設備の大型化などを招き高コストになる欠点がある。その点、本発明は、構造の複雑化や設備の大型化を避けてスチームドラム2内の温度を均一に制御できる。
【0038】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
次に、補給配管10が合流部6で戻り配管8に合流する際のハンマリングを防止するための構成について図3乃至図5により変形例として説明する。
図3は第一変形例による合流部6の構成を示すものである。図3において、補給配管10は戻り配管8の二相流体の流れ方向に対して鋭角αをなすように連結して合流する。これにより戻り配管8を流れる蒸気と水の二相流体に対して補給水がスムーズに合流するため、合流時に補給水が混相流体に衝突した衝撃や混相流体の急激な凝縮によるハンマリングを生じない。
【0039】
次に図4に示す第二変形例による合流部では、補給配管10は戻り配管8の二相流体の流れ方向に対して鋭角をなすように連結して合流すると共に、合流部6の上流側の補給配管10では例えば略U字形状の凹部10aを形成して凹部10a内に水を残留充填させた水シール部27がシール部として設けられている。
この構成によれば、補給水量WL3が少ない場合、戻り配管8内の蒸気が補給配管10内に逆流しようとしても水シール部27で停止させられる。そのため、戻り配管8内の蒸気が補給配管10内に逆流して凝縮によるハンマリングが発生することを防止できる。
なお、蒸気の逆流を防ぐシール部として、水シール部27に代えて逆止弁を設けてもよい。
【0040】
図5は第三変形例による合流部6の構成を示すものである。図5において、補給配管10は戻り配管8の二相流体の流れ方向に対して鋭角をなすように連結しており、しかも補給配管10の先端部には戻り配管8内で補給水を分散して噴霧するスプレーノズル28が形成されている。これにより、戻り配管8の蒸気と水に合流する補給水は、スプレーノズル28で広く噴霧されるため、急激な蒸気凝縮を抑制してハンマリングを防止できる。
なお、実施形態による温度制御システム1においては、上述した第一乃至第三変形例の構成のいずれか二つまたは三つを組み合わせて構成してもよい。
【実施例】
【0041】
次に本発明の実施形態による温度制御システム1の実施例について説明する。
まず、図2において、スチームドラム2内の温度や供給配管3を通して供給する水量WL4水量WL2の各水温t1、そして蒸気流量WV1、WV2の温度t1をいずれも195℃の飽和温度とする。そして、補給水量WL3の水温t3を110℃とする。
さらに、反応熱量Q=8000000kcal/h
水の蒸発潜熱r=470kcal/kg(物性値(定数))
水の比熱Cp=1kcal/kg/℃(物性値(定数))
スチームドラム圧力=1.3MPaG
給水ポンプ4の循環量WL4=68000kg/h
とする。
【0042】
上記の条件下において、温度制御システム1の制御手段25において、スチームドラム2内の温度の均一化と液面レベルの一定化を図って、系外への蒸気の流量WV1と同一量になる補給水量WL3を決定するには上記(6)式によって行う。即ち、(6)式に上記の各数値を代入すると、
WL3=Q/{Cp×(t1−t3)+r}
=8000000/{1×(195−110)+470}
=14400kg/h
となる。
【0043】
また、(1)式により蒸気の流量WV1は補給水量WL3と等しいから
WV1=WL3=14400kg/h
となる。また、(5)式により反応器5内での蒸気発生量WV2を求めると、
WV2=Q/r
=8000000/470
=17000kg/h
となる。また、反応器5の出口における水の流量WL2を(2)式から求めると
WL2=WL4−WV2
=68000−17000
=51000kg/h
となる。
【0044】
次に、図6は、温度制御システム1において、戻り配管8と補給配管10との合流部6の前後位置での蒸気割合の変化を示す実施例のグラフである。
図6において、スチームドラム2から反応器5へ供給される水の循環量WL4に対する反応器5内で生成される蒸気WV2の割合(WV2/WL4)を横軸にとり、合流部6の前後における戻り配管8内の二相流体中の蒸気量の割合を気相部の割合として縦軸にとった。
そして、水の循環量WL4に対する反応器5内で生成される蒸気WV2の割合(WV2/WL4)を変化させた場合における、戻り配管8中の合流部6の前後における二相液体中の蒸気量(気相部)の割合を計算した。
【0045】
図6において、破線Mは、反応器5の出口(戻り配管8)での気相(蒸気)の割合(WV2/(WL2+WV2))、実線Nは、補給配管10が合流した後の戻り配管8での気相(蒸気)の割合(WV1/(WV1+WL4)の変化を示している。
図6に示すグラフにおいて、スタート時点では反応器5での蒸発割合は0であるが(WV2/WL4=0)、反応器5の温度上昇に伴い蒸気WV2の発生量は増加する。反応器5での循環流量WL4に対する蒸発量WV2の割合(WV2/WL4)は通常30%で運転される。これを通常運転ポイントとする。この状態で、蒸気流量WV1と補給水量WL3のバランスがとれていれば、反応器5の出口で生成された蒸気量WV2の割合(WV2/WL4)から補給水WL3合流後の戻り配管8での蒸気量WV1の割合(WV1/(WV1+WL4))への変化は約1%程度の低下にすぎない。
【0046】
また、反応器5での循環流量WL4に対する蒸発量WV2の割合(WV2/WL4)が0を超えて35%までの全範囲において、破線Mで示す蒸気量の割合(WV2/(WL2+WV2))から合流後の戻り配管8における実線Nで示す蒸気量の割合(WV1/(WV1+WL4))に変化しても、蒸気流量WV1と補給水量WL3のバランスがとれていれば、その変化は1%〜3%程度の範囲内であり、極めて低いためハンマリングは起こらない。
ここで、戻り配管8の補給配管10との合流部6において、戻り配管8内の蒸気WV2の全凝縮が起こればハンマリングが生じる可能性があるが、本発明の実施例では、蒸気流量WV1と補給水量WL3のバランスがとれていれば、上記のように補給水量WL3の合流後の戻り配管8内での蒸気WV1の割合の変化は約1%〜3%の範囲であり、ハンマリングは生じない。
【0047】
また、上述した実施形態では、反応器5内でフィッシャー・トロプシュ合成反応がなされているFT反応器であるとしたが、反応器5内で発熱反応がなされていれば、フィッシャー・トロプシュ合成反応でなくてもよい。
また上述の実施形態や各変形例や実施例等では、液体冷媒として水を採用したが、水でなくてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 温度制御システム
2 スチームドラム
3 供給配管
4 ポンプ
5 反応器
6 合流部
7 除熱管
8 戻り配管
9 蒸気出口配管
10 補給配管
11 蒸気排出量測定手段
12 レベル制御部
13 流量調節弁
14 反応熱温度測定部
15 反応熱量計算部
16 補給温度測定部
23 水相温度測定部
25 制御手段
26 流量調整手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部で発熱反応が生じる反応器内の反応熱を回収して該反応器内の温度を制御する温度制御システムであって、
蒸気及び液体冷媒が気液平衡状態で収容された冷媒ドラムと、
前記反応器に配設されていて前記冷媒ドラムから供給された前記液体冷媒の一部を前記反応熱で蒸発させる除熱部と、
前記除熱部で生じた蒸気と液体冷媒との混相流体を前記冷媒ドラムに戻す戻り配管と、
前記冷媒ドラム内の蒸気を系外へ供給する蒸気出口配管と、
前記系外に排出される蒸気の量に見合った補給水量を前記戻り配管に供給する補給配管と
を備えていることを特徴とする温度制御システム。
【請求項2】
前記反応器内の反応熱量を前記冷媒ドラム内の比較的高い温度と補給水の比較的低い温度および冷媒の物性値(比熱、蒸発潜熱)から決定される単位冷媒熱量で除して前記補給水量を決定する制御手段と、
前記制御手段で決定された前記補給水量に応じて前記補給配管から戻り配管に供給する補給水量を設定する補給水調整手段と、
を更に備えている請求項1に記載された温度制御システム。
【請求項3】
前記制御手段で決定する補給水量は次式によって演算されるようにした請求項2に記載された温度制御システム。
WL3=Q/{Cp×(t1−t3)+r}
但し、WL3:補給水量
Q:前記反応器内での反応熱量
Cp:液体冷媒の比熱
t1:前記冷媒ドラムおよび反応器の除熱部内の温度
t3:補給水の温度
r:液体冷媒の蒸発潜熱。
【請求項4】
前記戻り配管と補給配管との合流部において、前記補給配管は前記戻り配管内の混相流体の進行方向に沿って前記戻り配管と鋭角の角度で接続されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載された温度制御システム。
【請求項5】
前記補給配管には、蒸気の逆流を防ぐシール部が設けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載された温度制御システム。
【請求項6】
前記戻り配管と補給配管との合流部において、前記補給配管に補給水を前記戻り配管内に噴霧するスプレーノズルが設けられている請求項1乃至5のいずれか1項に記載された温度制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−34930(P2013−34930A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171812(P2011−171812)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(504117958)独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構 (101)
【出願人】(509001630)国際石油開発帝石株式会社 (57)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【出願人】(591090736)石油資源開発株式会社 (70)
【出願人】(000105567)コスモ石油株式会社 (443)
【出願人】(306022513)新日鉄住金エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】