説明

温度制御反応処理装置および温度制御反応処理方法

【課題】装置規模を拡大させることなく、迅速に反応容器の開口部を閉塞しかつ開放することができて、効率および信頼性の高い処理を行なう温度制御反応処理装置、および温度制御反応処理方法を提供する。
【解決手段】気体の吸引および吐出を行う吸引吐出機構、吸引吐出機構によって液体の吸引吐出が可能な分注チップを装着する1または2以上のノズルを有するノズルヘッド12と、分注チップが挿入可能な開口部をもつ1以上の反応容器82と、ノズルと反応容器との間を相対的に移動可能とする移動機構20と、反応容器内を温度制御可能な温度制御器100と、温度制御器によって温度制御される1又は2以上の反応容器の開口部に対して開閉可能に設けた上蓋86と、吸引吐出機構または移動機構によって、上蓋による開口部の閉塞時に上蓋の押圧、振盪または移動を可能とする上蓋閉塞時作用機構19と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御反応処理装置および温度制御反応処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、特定のDNA断片を、迅速かつ容易に増幅するDNA増幅方法として、ポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction:PCR)法や、恒温酵素反応等における温度制御処理が、生物関連のあらゆる分野で行なわれている。特に、PCR法は、鋳型DNAに相補的な2本のプライマーを設計し、そのプライマーに挟まれた領域を試験管内(in vitro)で複製する方法である。該方法は、鋳型DNA、プライマー、ヌクレオチド、耐熱性DNAポリメラーゼを含む反応溶液を各種温度でインキュベートするという温度サイクルを繰り返すことで指数関数的にDNAを増幅してPCR産物を得るものである。
【0003】
1回のサイクルは、鋳型DNA、プライマー、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド及び反応バッファ液が入った容器について、2本鎖のDNAを1本鎖に変性し、1本鎖のDNAにプライマーがアニールし、前記1本鎖に相補的なDNA鎖を合成するそれぞれの温度条件(各々、94℃、50℃から60℃、および74℃)でインキュベートすることからなり、1分子のDNA断片を2分子にする。次のサイクルでは前のサイクルで合成されたDNA断片も鋳型となるので、nサイクル後に合成されるDNA断片は、2分子となる。
【0004】
従来、温度の制御は、前記鋳型DNA、プライマー、DNAポリメラーゼ、ヌクレオチド及び反応バッファ液等が入ったガラス等で形成された容器を、アルミニウム等の素材で形成されたブロック状の恒温装置の収容部内に収容して、該金属製のブロック状の収容部を加熱または冷却し、液温が均等な温度分布となるまで待つことによって、次の温度の加熱または冷却を行うようにしていた(特許文献1,2,3)。
【0005】
その際、温度制御反応処理を行うための容器を蓋で密閉することは、外部からの異物の侵入を防止し、内部からの液漏れを防止し、かつ、前記収容部内の反応液が加熱または冷却されて均等な液温の温度分布になるまで外気および外気温の影響をできるだけ排除するために特に必要となる。
【0006】
ところが、従来、容器を蓋で密閉するためには、ユーザが手動で行なうようにしていたために手間がかかり、処理の一貫した自動化への妨げになっていた。また、ユーザが手動で行なうために、蓋を容器で密閉する際に、容器内の反応液と接触してコンタミネーションのおそれがあった。さらには、反応が終了した後、蓋を容器から取り除こうとしても、水分によって蓋が容器開口部に密着して容易に蓋を開けることが困難となり、迅速な処理を行うことができないおそれがあった。また、蓋を開けた際に、蓋の内側に付着していた液が垂れたり飛散したりしてコンタミネーションのおそれがあった(特許文献4)。
【0007】
【特許文献1】特許第2622327号公報
【特許文献2】特表2000−511435公報
【特許文献3】米国特許5,958,349号公報
【特許文献4】特開2002−10777公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は以上の問題点を解決するためになされたものであり、その第1の目的は、確実かつ迅速に反応容器の開口部を上蓋によって閉塞かつ開放して、反応生成物を解析等に迅速に利用することができるような高い処理効率をもち、かつ、装置規模を拡大することなく安価に製造し使用することができる温度制御反応処理装置および温度制御反応処理方法を提供することである。
【0009】
その第2の目的は、温度制御がされる反応容器に上蓋を設け、上蓋による反応容器の開口部に対する閉塞、開放、その他上蓋に対する作用を手動によらずに行なうことを可能とすることによって、前記反応容器内への外部からの異物の進入、反応容器からの液漏れ等によるコンタミネーションを確実に防止して、信頼性の高い処理を行なうことができる温度制御反応処理装置および温度制御反応処理方法を提供することを目的とするものである。
【0010】
第3の目的は、温度制御がされる反応容器に上蓋を設け、上蓋を押圧して、液漏れや気体漏れを確実に防止し、または、上蓋の閉塞時に上蓋を振盪または移動可能とすることによって、上蓋を該反応容器から確実かつ容易に開放することでユーザの手間を削減し、取り扱いやすい温度制御反応処理装置および温度制御反応処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、気体の吸引および吐出を行う吸引吐出機構、および該吸引吐出機構によって液体の吸引および吐出が可能な分注チップを着脱可能に装着する1または2以上のノズルを有するノズルヘッドと、前記分注チップの先端が挿入可能な開口部をもつ1または2以上の反応容器と、前記ノズルと前記反応容器との間を相対的に移動可能とする移動機構と、1または2以上の前記反応容器内を温度制御可能な温度制御器と、前記温度制御器によって温度制御される1または2以上の前記反応容器の前記開口部に対して開閉可能に設けた上蓋と、前記吸引吐出機構または前記移動機構によって、前記上蓋による前記開口部の閉塞時に該上蓋の押圧、振盪または移動を可能とする上蓋閉塞時作用機構と、を有する温度制御反応処理装置である。
【0012】
「着脱可能に装着する」ためには、例えば、前記分注チップを前記ノズルから脱着する脱着機構をノズルヘッドまたは反応容器が設けられたステージに設けるのが好ましい。分注チップをノズルに装着するには、例えば、ステージに設けたチップ収容部に、分注チップのノズル装着用の開口部を上側にした状態で収容しておく。前記移動機構の上下方向移動機構により該ノズルとチップ収容部との間を接近させる方向に移動させて前記ノズルの下端を前記ノズル装着用の開口部内に挿入させて装着することができる。また、前記ノズルヘッドには、装着した前記分注チップ内に磁力を及ぼしかつ除去することが可能な磁力手段を設けることが、検体からのDNA等の物質の抽出等を行なうためには好ましい。
【0013】
ここで、「脱着機構」としては、例えば、前記ノズルの外径よりも大きいが、前記分注チップの最も太い部分よりかは小さい径をもつ孔の開いたプレートをノズルヘッドまたはステージに設け、前記各孔を貫通するノズルの軸方向に沿って該プレートを下降させることによって、装着した分注チップを脱着させる機構がある。脱着は、前記プレートをノズルヘッドに設けた場合には、前記吸引吐出機構としてのシリンダ内を摺動するピストンの駆動機構と前記プレートとを連動させることによって行ない、前記プレートをステージに設けた場合には、上下移動機構によってプレートに対してノズルを相対的に上下方向に移動することによって行なう。
【0014】
「ノズルと反応容器との間を相対的に移動可能とする」のであるから、反応容器またはステージを固定してノズルを移動させる場合と、ノズルを固定してステージまたは反応容器を移動させる場合、およびその双方を組み合わせた場合がある。
【0015】
ステージには、前記反応容器の他に、検体、試薬等の液体を収容する液収容部、前記分注チップ等のチップを収容するチップ収容部を設けることが好ましい。また、容器には、複数の液収容部としてのウェルがマトリクス状または列(行)状に配列されたマイクロプレートや複数の液収容部としてのウェルが列状に配列されたカートリッジ状容器を含む。前記ノズルまたはノズルに装着された分注チップは、前記移動機構によってこれらの容器に到達して、液体の吸引および吐出、または、チップの装着や脱着が可能である。
【0016】
前記反応容器を含む容器や上蓋等の材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル等の樹脂、ガラス、金属、金属化合物等がある。容器のサイズは、例えば、数μリットルから数100μリットルの液体を収容可能であるとともに、分注チップの先端が挿入可能な大きさである。例えば、円筒状の場合には、例えば、1の容器の大きさの径が数ミリ〜数10ミリ、深さが数ミリ〜数10ミリである。
【0017】
「分注チップ」は、例えば、太径部と、細径部と、該太径部と該細径部とを連通する移行部とからなり、前記太径部には、前記ノズルの下端が挿入されて前記ノズルに装着される装着用開口部を有し、前記細径部には、前記吸引吐出機構による気体の吸引吐出によって液体が流入および流出可能な先端口部とを有する。分注チップおよびノズルは、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリスチレン、アクリル等の樹脂等の有機物、ガラス、セラミックス等、ステンレススチール等の金属、金属化合物、半導体等の無機物によって製造される。なお、分注チップに代えて、後述する粒子状担体封入チップ等の解析用チップを前記ノズルに装着させて処理を行なうことも可能である。
【0018】
「温度制御器」は、温度制御の対象となる液体を収容する反応容器内の温度を、外部からの信号等に基づいて上昇または下降が可能な温度源を有するものであり、温度源としては、例えば、ペルチェ素子、ヒータ、冷却装置等がある。PCR等の処理を行なうには、温度制御器としては、ペルチェ素子を用いたサーマルサイクラーが好ましい。
【0019】
「温度制御」とは、その対象となる液体または容器について、1または2以上の設定された所定温度に、設定された時間維持することを、定められた順序に従って、定められた回数実行することである。前記温度制御器への指示は、プログラムに基づいて該当する信号を送ることによってなされる。
【0020】
「所定温度」とは、対象となる液体等の物が到達すべき目標とする温度であり、例えば、前記液体に含有するDNA等の核酸やオリゴヌクレオチド等をPCR法によって増幅する場合には、設定される所定温度としては、例えば、PCR法で行なわれる温度サイクル、すなわち、DNAの変性、アニーリング若しくはハイブリダイゼイション、伸長に各々必要な各温度、約94℃、50℃から60℃の間の温度、例えば、約50℃、および約72℃である。さらに、該所定温度には、例えば、高温度の所定温度から低温度の所定温度への移行の場合に、温度調節器によって、これらの所定温度よりも低い移行促進用温度で冷却を行なうことで、または、低温度の所定温度から高温度の所定温度への移行の際に、これらの所定温度よりもさらに高い移行促進用温度で加熱を行なうことで、移行時間を短縮して1サイクル時間を所定サイクル時間内に収めるための移行促進用温度を含む。「所定時間」は、各温度の維持に必要な時間であって、PCR法で用いる試薬や液量、ノズルの形状、素材、大きさ、厚さ等に依存するが、1サイクルで、合計が、例えば、数秒から数10秒、PCR法全体としての処理時間は、例えば、約数分から数10分程度である。なお、移行時間をも所定時間に含める。
【0021】
「吸引吐出機構」は、例えば、シリンダと、該シリンダ内を摺動するピストンと、該ピストンと連結したナット部と、該ナット部が螺合するボール螺子と、該ボール螺子を正逆両方向に回転駆動するモータとを有するものや、ポンプ機構である。
【0022】
前記「移動機構」としては、例えば、前記反応容器、すなわち、該反応容器が設けられているステージとノズルとの間を相対的に、ノズルの軸方向および水平面内で移動可能とする機構があり、水平面内の移動としては、例えば、X軸およびY軸に沿ってステージまたはノズルについて、移動を行なうXY軸移動機構またはY軸もしくはX軸のみに沿って移動を行うY(X)軸移動機構があり、ノズルの軸方向の移動としては、前記ノズルをその軸線方向(Z軸方向)に移動させるノズルヘッドに設けた上下移動機構がある。前記作動具は、この移動機構によって、前記ノズルと連動するように駆動されることになる。
【0023】
「開口部の閉塞時に該上蓋の押圧、振盪または移動」を可能とするので、上蓋は開口部に不動状態で固定されているのではなく、開口部と上蓋との間はある程度の相対運動が可能な可動状態にある。押圧、振盪または移動は、例えば、上蓋の上方向から、上蓋の水平方向から、または、上方向および水平方向以外の方向から押圧し、振盪させ、または移動させる場合がある。
【0024】
第2の発明は、前記吸引吐出機構は、前記ノズルと連通するシリンダと、該シリンダ内を摺動するピストンと、該ピストンを駆動するピストン駆動機構とを有し、前記上蓋閉塞時作用機構は、前記ノズルヘッドに設けられ、前記ピストンと連動する1または2以上の作動具を有する温度制御反応処理装置である。ここで、「作動具」は、上蓋に力を加えるための器具であって、上蓋と別体に設けられた、例えば、棒状、筒状、錐状等の形状をもつ部材を有し、前記部材の端部が上蓋との接触可能部分である。
【0025】
第3の発明は、前記上蓋閉塞時作用機構は、前記ノズルヘッドに設けられ、前記移動機構によって駆動される前記ノズルに連動する1または2以上の作動具を有する温度制御反応処理装置である。
【0026】
第2の発明および第3の発明の場合、ロッド等の作動具の軸線方向とノズルの軸線方向は、通常上下方向に一致させることが好ましい。
【0027】
なお、2以上の作動具を有する場合に、上下方向の移動については、作動具の一部は、前記移動機構によって駆動され、他の作動具は前記ピストン駆動機構によって駆動されるようにしても良い。
【0028】
前記作動具は、移動機構またはピストン駆動機構によって駆動されるのであるから、新たに作動具を駆動する機構を設ける必要がないので、装置規模の拡大または複雑化を防止するとともに、ノズルの駆動と同様な強度で作動具を駆動することができる。
【0029】
なお、上下移動以外の水平移動はノズルヘッド外のステージまたは筐体等に設けられた移動機構によって、ノズルヘッドごと移動するように構成するのが好ましい。この場合、全ての作動具はノズルヘッドに設けられているので、上下移動以外の水平移動はノズルヘッドごとに移動することになる。
【0030】
第4の発明は、前記上蓋閉塞時作用機構は、前記移動機構によって駆動される1または2以上の前記ノズルを有する温度制御反応処理装置である。
【0031】
第2、第3、または第4の発明の場合には、ノズルに装着した分注チップを脱着させる前記脱着機構をノズルヘッドに設け、該脱着機構によって、分注チップを予め脱着させることが好ましい。これによって、作動具を駆動する際に、分注チップが脱落したり、分注チップの残液が飛び散ったりする事態を防止することができるとともに、作動具やノズルの駆動のために連動する分注チップが動きうる空間を考慮する必要がないので作業空間を効率良く利用して作業効率を高めることができる。
【0032】
第5の発明は、前記上蓋の上面には、前記移動機構または前記吸引吐出機構によって前記作動具または前記ノズルと係合可能なフックを有する温度制御反応処理装置である。
【0033】
ここで、「フック」としては、作動具の下端部やノズルの下端部が嵌合可能な形状および大きさのU字状等の切欠き部やスリットが形成されたプレートを設けたものである。作動具またはノズルをフックと係合させるために、作動具またはノズルの下端部に凸部や凹部を設けても良い。この場合には、前記「フック」は、例えば、前記上面から離間して設けたプレートに切り欠いて形成した略U字状切欠き部やスリットである。「凸部」としては、例えば、前記作動具やノズルの下端部の外周に沿って設けたフランジであり、前記「凹部」としては、例えば、前記作動具やノズルの下端部の外周に沿って設けた溝であり、前記プレートの下側に前記フランジが位置して前記切欠き部やスリットは該フランジが通過できない大きさに形成し、または、前記切欠き部やスリットが前記溝に嵌合可能に設ける。
【0034】
前記作動具または前記ノズルを前記フックと係合させるためには、例えば、前記作動具またはノズルを、前記移動機構を用いて、所定高さの水平面内で移動させることによって、フックが有する切欠き部やスリットが開いた方から挿入して前記作動具または前記ノズルと前記フックとを係合させる。なお、凸部や凹部を設けた場合には、前記フックとの連結を確実かつ強固に行なうことができる。特に、上方向への上蓋の移動等が可能となる。
【0035】
第6の発明は、前記反応容器が設けられたステージに取り付けられた軸支部と、該軸支部に軸支され、前記上蓋を弾性的に支持する上蓋支持部材をさらに有するとともに、前記上蓋は、前記上蓋閉塞時作用機構によって押圧される被押圧面、該被押圧面に向き合うように形成され前記反応容器の開口部を被覆する被覆面を有し、前記上蓋支持部材は該上蓋を前記被覆面から前記被押圧面に向かう方向に沿って弾性的に付勢した状態で支持する温度制御反応処理装置である。被覆状態では被覆面は開口部より浮いているのが好ましい。
【0036】
ここで、「軸支部」は、上蓋を回転可能に支持する部材であり、例えば、ステージ上に固定された固定用ブロックと、該固定用ブロックに設けられた開閉ヒンジや回転軸であり、前記上蓋は、前記上蓋支持部材を介して軸支されることになる。前記被押圧面は、外部より押圧されるためには、上蓋の前記反応容器の閉塞時には、少なくとも該被押圧面は外方(下記の実施の形態では上方)に露出させる必要がある。
【0037】
前記上蓋を、前記被押圧面と被覆面を設けた中空の箱状または筒状に形成した場合には、その中空部分は、温度制御される反応容器に対し断熱効果をもたらす。これによって前記反応容器内に収容した液体に対して、均質な温度分布を与えることができる。さらに、該中空部にヒータ等の熱源を設けて、上蓋の被覆面に発生する結露を防止することができる。これによって前記上蓋を開放する際に、結露による上蓋の被覆面と反応容器との間の密着を防止ことができる。
【0038】
なお、開閉駆動用モータを設けることで前記軸支部に支持された上蓋を回転駆動させて、開口部に対して開閉することができる。この場合には、上蓋の開閉動作を含む一連の作業を人手に触れることなく行なうことができることになり、コンタミネーションを確実に防止することができる。
【0039】
第7の発明は、ノズルヘッドに設けた1または2以上のノズルと1または2以上の反応容器との間を相対的に移動可能とする移動機構およびノズルヘッドに設けた気体の吸引吐出を行う吸引吐出機構によって、1または2以上の前記ノズルに着脱可能に装着した分注チップ内に吸引した液体を、内部が温度制御可能あって、その開口部に対し開閉可能に設けた上蓋を開放した1または2以上の該反応容器内に吐出して収容する収容工程と、前記上蓋によって1または2以上の前記反応容器の開口部を閉塞し、前記吸引吐出機構または移動機構によって、前記上蓋を上側から押圧して前記反応容器内を温度制御する閉塞工程と、前記吸引吐出機構または前記移動機構によって、前記反応容器の開口部に対して閉塞した上蓋を振盪または移動させることで前記反応容器の開口部を開放する開放工程と、を有する温度制御反応処理方法である。
【0040】
第8の発明は、前記閉塞工程は、前記吸引吐出機構によって駆動される1または2以上の作動具を用いて、または前記移動機構によって駆動され、前記ノズル、または前記ノズルヘッドに設けられ、該ノズルに連動する1または2以上の作動具を用いて、前記開口部を閉塞した前記上蓋を上側から押圧し、前記開放工程は、前記ノズルまたは前記作動具を用いて、前記開口部を閉塞した前記上蓋を振盪または移動させる温度制御反応処理方法である。
【0041】
ここで、「吸引吐出機構によって1または2以上の作動具を駆動する」には、例えば、前記ノズルと連通するシリンダ内を摺動するピストンを駆動するピストン駆動機構によってピストンと連動する1または2以上の作動具を駆動する場合がある。
【0042】
第9の発明は、前記分注チップを前記ノズルから脱着させる脱着工程をさらに有し、該脱着工程は、前記収容工程において、または、前記収容工程の後、前記閉塞工程の前で実行される温度制御反応処理方法である。
【0043】
第10の発明は、前記収容工程は、前記ノズルヘッドに配列された複数の前記ノズルの内、1の前記ノズルのみに1の前記分注チップを装着することによって行なう温度制御反応処理方法である。ここで、「1の前記ノズル」としては、ノズルヘッドに配列されたノズル列のうちの端に設けられたノズルとするのが好ましい。この場合には、装着すべき1のチップ以外のチップをも配列されている場合であっても、確実に1のチップのみを1のノズルに装着させることができるからである。2回目以降は、順次、使用したチップをノズルおよびチップ収容部から除去することで、他のノズルに1のチップを装着することも可能である。
【発明の効果】
【0044】
第1の発明または第7の発明によれば、温度制御可能な1または2以上の反応容器に開閉可能な上蓋を設けるとともに、吸引吐出機構または移動機構等の分注装置に備わった既存の機構を用いて、反応容器の開口部を閉塞した上蓋について、その押圧、振盪等を可能とした。
【0045】
そのために、前記開口部を閉塞した状態にある前記上蓋を押圧し、または振盪もしくは移動させることによって、確実に開口部を上蓋で閉塞し、または、開口部と上蓋との間の密閉状態を迅速かつ容易に解除して開放することができる。
【0046】
したがって、高い処理効率および信頼性を得ることができる。また、装置規模を拡大することなく安価に製造し使用することができる。
【0047】
前記開口部を閉塞した状態にある前記上蓋に対して、押圧等の作用を手動によらず行なうことによって、前記反応容器内への外部からの異物の進入を確実に防止する。さらに、前記開口部を閉塞した状態にある前記上蓋を、開口部に接する上蓋の面に平行な力を加えて振盪または移動させることで、上蓋の前記面に付着した結露による水分を除去することができる。したがって、上蓋の開放の際における、反応容器への異物の進入や反応容器からの液漏れ等によるコンタミネーションを確実に防止して信頼性の高い処理を行うことができる。また、ユーザの手間を削減して取り扱いやすい。
【0048】
なお、1の上蓋で、複数の反応容器を一斉に閉塞することによって複数種類の目的の液体について、並行して温度制御を行い、効率的に温度制御処理を行うことができる。
【0049】
第2の発明、または第3の発明によれば、前記作動具は、前記ピストンと連動し、またはノズルと連動するように設けられている。したがって、作動具は既存の機構を利用して、容易かつ確実に前記上蓋に対して作用することができる。そのため、装置規模を拡大することなく安価に製造することができる。
【0050】
また、上蓋に作用する専用の器具である作動具を設ける場合には、ノズルを用いる場合に比較して上蓋との作用による汚染をさらに確実に防止することができて信頼性が高い。また、作動具は、移動機構とともにピストン駆動機構の双方のいずれかを各作動具に利用することができるので、両機構を同時に用いることで安定的かつ強力に上蓋に作用させることができる。
【0051】
第4の発明または第8の発明によれば、ノズルおよび前記移動機構を用いて、反応容器の開口部の閉塞時の上蓋に作用することができるので、既存の機構のみを利用して装置規模を拡大することなく、より安価に製造することができる。
【0052】
第5の発明によれば、前記作動具または前記ノズルの下端部と移動機構または吸引吐出機構を用いて係合可能なフックを設けて、前記作動具または前記ノズルを確実かつ容易に前記上蓋と連結または結合させることができる。したがって、上蓋に対して前記ノズルまたは作動具を連結させて、上蓋に対して複雑な作用を確実に加えることが可能となる。
【0053】
また、ユーザが直接手を触れずに行なうことができるので、コンタミネーションを防止して、信頼性の高い処理を行なうことができる。
【0054】
第6の発明によれば、ステージに設けた軸支部に上蓋を弾性的に支持する上蓋支持部材を設けている。したがって、上蓋は、ステージに直接支持されているのではなく、弾性的に支持されているので、簡単な構造で、上蓋が前記反応容器の開口部を閉塞した状態で、上蓋を押圧して閉塞を確実にし、または、上蓋を振盪させ、または上蓋を移動させることができる。
【0055】
また、上蓋に中空部分を設けた場合には、その中空部分に加熱パネルを挿入することで、反応容器の開口部における結露を防止することができる。さらに、ステージに対して上蓋を移動可能に支持する上蓋支持部材によって上蓋が弾性的に支持されているので、上蓋の反応容器の開口部との接触面にパッドを設けることで開口部の密着性を高めることができる。
【0056】
第8の発明によれば、閉塞工程または開放工程において、前記作動具または前記ノズルを用いて閉塞時の上蓋に対する押圧、振盪、または移動を行なうようにしている。したがって、前記移動機構または吸引吐出機構等の分注装置に備わっている機構を用いることによって容易に上蓋に作用することができる。したがって、装置規模を拡大することなく、安価に製造することができる。
【0057】
第9の発明によれば、前記分注チップを前記ノズルから脱着させる脱着工程をさらに有することによって、上蓋に作用を加える際に、分注チップの残液の飛び散りや、上蓋の汚染、または分注チップ自体の破壊や汚染を防止することができる。分注チップがノズルに装着されていることによる作動具の形状や動きの制限を削減することができる。
【0058】
第10の発明によれば、前記ノズルヘッドに複数のノズルを配列することによって、反応容器にDNA等を収容するための前段階の抽出処理等において、複数の分注チップを装着して分注処理を並行して効率良く行うことができるとともに、DNA等の少量(数μリットル程度)の液量を扱う処理には、複数本の反応容器に収容すべき液量をまとめて取り扱うために、1本のみの分注チップを装着することで処理を容易化することができる。その際、反応容器の配列のピッチを、他の容器の配列ピッチと異ならせることによって反応容器を集積化して効率的な温度制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置を示す一部断面正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の平面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る各種チップを示す断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るノズルヘッドを示す図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る上蓋付反応容器の押圧前の状態を示す図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る上蓋付反応容器の押圧時の状態を示す図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置を示す一部断面正面図である。
【図11】本発明の第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の平面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図13】本発明の第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図14】本発明の第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図15】本発明の第2の実施の形態に係る動作説明図である。
【図16】本発明の第3の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の平面図である。
【図17】本発明の第3の実施の形態に係る上蓋付反応容器の押圧前の状態を示す図である。
【図18】本発明の第3の実施の形態に係る上蓋付反応容器の押圧時の状態を示す図である。
【図19】本発明の第3の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図20】本発明の第3の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【図21】本発明の第3の実施の形態に係る温度制御反応処理装置の動作説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
続いて、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。なお、この実施の形態は特に指定のない限り本発明を制限するものと解釈してはならない。また、各実施例において同一のものは同一の符号で表わし説明を省略した。
【0061】
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置10を示す。
該温度制御反応処理装置10は、気体の吸引吐出を行う吸引吐出機構23(シリンダ24等)、および、該吸引吐出機構23によって液体が吸引および吐出される後述する各種チップ(75,76,80、図2参照)を着脱可能に装着する所定ピッチ(例えば、18mm)で配列された複数のノズル22(この例では、4本)を有するノズルヘッド12と、種々の容器(液収容部40、チップ収容部42等)が設けられたステージ14と、前記ノズル22を前記ステージ14に対して移動させる移動機構(20,21)とを有する。該移動機構は前記ノズルヘッド12外に主として設けられたXY軸移動機構20、および該ノズルヘッド12内に設けられた前記上下移動機構としてのZ軸移動機構21を有する。
【0062】
これらのノズルヘッド12、前記移動機構(20,21)、および前記ステージ14は、前面の中央が開いた筐体16に組み込まれている。該筐体16の前面上側には、操作パネル18が設けられている。該操作パネル18は、ディスプレイ、および操作用キーボードを有し、前記ノズルヘッド、移動機構(20,21)、吸引吐出機構23、前記ステージ14に設けた後述する温度制御器等と共に前記筐体16内に設けた情報処理装置(図示せず)と電気的に接続されている。前記情報処理装置には、CPUおよびメモリの他、CD若しくはDVDドライバ等の外部メモリを含む周辺機器を有し、前記メモリには、前記ノズルヘッド12、吸引吐出機構23、移動機構(20,21)、したがって後述する上蓋閉塞時作用機構19、後述する温度制御器100、および作動具としてのロッド88,90等を制御するプログラムが導入されている。該上蓋閉塞時作用機構19の作用の内容、すなわち、押圧、振盪、振動の態様、強さ、タイミング、持続時間等は、例えば、指示の内容、温度制御の内容、気温、湿度、上蓋や反応容器の大きさ、または、収容物の量等に基づいて定める。
【0063】
該ノズルヘッド12には、モータ支持台35上に取り付けられたZ軸モータ34と、該Z軸モータ34によって回転駆動されるボール螺子31と、該ボール螺子31と螺合するナット部(41)が設けられ前記所定ピッチで配列された前記4本のシリンダ24を固定して支持するシリンダ支持体25とを有し、前記ノズル22をZ軸方向(上下方向)に移動させる前記Z軸移動機構21に相当する。該ボール螺子31の下端は、基板39に回転可能に軸支されている。
【0064】
また、該ノズルヘッド12には、前記吸引吐出機構23として、前記モータ支持台35に設けられたP軸モータ32と、該P軸モータ32によって回転駆動されるボール螺子30と、該ボール螺子30に螺合するナット部33が設けられた駆動用プレート28と、該駆動用プレート28に前記所定ピッチで配列されて支持された4本のピストン26と、該ピストン26がその内部を摺動するシリンダ24とを有する。該シリンダ24の下端には、前記チップ(75,76,80)が装着可能な前記ノズル22が設けられている。前記ボール螺子30の下端は、前記基板39に回転可能に支持されている。
【0065】
該ノズルヘッド12には、さらに前記チップ(75,76,80)を前記ノズル22から脱着させる脱着機構(29,27)が設けられている。該脱着機構(29,27)は、前記ノズル22の外径よりも大きいが前記チップ(75,76,80)の装着用開口部の外径またはチップ(75,76,80)の上端に設けたフランジや突条等よりも小さい内径をもつ4個の孔(図示せず)を該各ノズル22が同時に貫通可能となるように前記所定ピッチで配列した脱着用プレート29と、4個の前記孔を両側から挟むようにそのX軸方向(行方向)に沿った前記脱着用プレート29の両端近くの位置でその下端が取り付けられ、前記駆動用プレート28にその上端が取り付けられて前記脱着用プレート29を前記駆動用プレート28に連動させる2本の支持柱27と、を有する。
【0066】
したがって、前記チップ(75,76,80)を前記ノズル22から脱着させるには、前記駆動用プレート28を、吸引吐出のためのピストン26の上下方向に沿った移動範囲を超えてさらに下方にZ軸方向に沿って移動させることによって、前記ノズル22から該チップ(75,76,80)を剥がすように落とす。したがって、該チップ(75,76,80)を吸引吐出に用いる場合には、前記脱着用プレート29は、その孔に前記ノズル22が貫通した状態で前記チップ(75,76,80)よりも上方の前記移動範囲で上下動することになる。
【0067】
前記ノズルヘッド12の基板39の下方には、前記磁力手段43が設けられている。該磁力手段43は、6個の永久磁石36がX軸方向(行方向)に沿って前記所定ピッチで配列され、この6個の内、両端を除く中央の4個の永久磁石36が前記各ノズル22の各軸線に対して、接近しかつ離間するようにY軸方向(列方向)に沿って移動可能に設けられている。この永久磁石36のY軸方向に沿った移動はモータ37によって実行される。前記ノズル本数よりも2個多い個数の永久磁石36を配列し、その中央の4個の永久磁石36のみを利用しているので、両端にある分注チップに対しても、他の中央にある2個の分注チップと同一の条件で磁場を及ぼすことができる。
【0068】
前記ノズルヘッド12は、XY軸移動機構20によって、前記ステージ14または筐体16に対してX軸方向およびY軸方向に沿って移動可能に設けられている。該XY軸移動機構20は、前記筐体16またはステージ14に対してY軸方向に沿って移動可能に設けられたヘッド支持部材55と、前記筐体16に設けられ、該ヘッド支持部材55をY軸方向に沿って移動させるための鎖歯車駆動用のY軸モータ56と、タイミングベルトが掛け渡された鎖歯車58と、該ヘッド支持部材55をY軸方向に沿って移動可能に支持するため前記筐体16に取り付けられてY軸方向に沿って延びる2本のシャフト54とを有する。
【0069】
該ヘッド支持部材55には、X軸方向に沿ったレール60と、該レール60に案内されてレール上を摺動可能な摺動子がその頂上に設けられ該レール60に吊着されたノズルヘッド12をX軸方向に沿って駆動するため5個の鎖歯車50,51に掛け渡されたタイミングベルト48と、前記鎖歯車51を回転駆動するモータ52とを有する。
なお、図1には、上蓋閉塞時作用機構19のロッド88,90は、ノズル22の後ろにあるために表示されていない。
【0070】
図2には、前記ノズル22に装着可能な種々のチップ(75,76,77,80)が示されている。
【0071】
図2(a)は、前記穿孔用チップ75であり、後述するプレパック・カートリッジ容器の穿孔のためにだけ用いられ、その先端は鋭利になっていて前記プレパック・カートリッジ容器の開口部を覆う薄膜を穿孔可能である。その上端には前記ノズル22に装着するためのノズル装着用開口部75aが設けられている。
【0072】
図2(b)は、PCR用チップ80、図2(c)は、ゲノム抽出用チップ76、図2(d)は、解析用チップ77を各々示すものである。前記PCR用チップ80およびゲノム抽出用チップ76は、前記分注チップに相当するものであって、各々太径管80a,76a,細径管80b,76b、移行部80c,76cを有し太径管80a,76aの上端はノズル装着用開口部80e,76eが設けられている。ゲノム抽出用チップ76では、外部から磁場を前記細径管76bの内部に及ぼすことによって、その内壁に磁性粒子を吸着させて分離を行うのに適している。
【0073】
図2(d)は、解析用チップ77は、装着用開口部77eおよび嵌合部77cが設けられた太径管77aと、前記嵌合部77cにおいてその上端が嵌合して取り付けられる細径管77bとを有し、該細径管77b内には、複数の粒子状担体77dが封入され、粒子状担体77dの表面に所定の化学物質が結合しまたは結合可能となるように設けられている。また、各粒子状担体と結合しまたは結合可能な所定の化学物質と、該粒子状担体の配列位置または該粒子状担体の形状若しくは該粒子状担体の標識(例えば蛍光物質、化学発光、染料等)とが予め対応付けられている。
【0074】
ここで、「所定の化学物質」とは、生体物質等であって、例えば、核酸等の遺伝物質、タンパク、糖、糖鎖、ペプチド等の生体高分子または低分子を含む化学物質であって、該生体物質は、リガンドとしての該生体物質に結合性を有する受容体としての生体物質の結合を検出し、捕獲し、分離し、抽出等に用いられる。受容体としては、前記核酸等の遺伝物質、タンパク、糖鎖、ペプチド等に各々結合性を有する核酸等の遺伝物質、タンパク、糖鎖、ペプチド等の生体物質が該当する。また、生体物質として、または生体物質の代わりに細胞、ウィルス、プラスミド等の生体自体を用いることができる。
【0075】
「結合」は、前記粒子状担体に前記化学物質の少なくとも1種類を直接的または別種類の物質を介して間接的に結合することを含む。結合には、例えば、共有結合、化学吸着による場合の他、物理吸着、水素結合、電気的相互作用による場合等がある。または、該粒子上担体が有する結合物質と、各種物質との間の特異的反応、その他の方法で結合する場合がある。また、該粒子状担体を、多孔質性物質、凹凸性物質、繊維質性物質で形成することによって、各種物質との反応能力や結合能力を高めるようにしても良い。
【0076】
結合のためには、前記粒子状担体には、例えば、官能基を発現または生成するようにする。このためには、例えば、「ポリアミド系高分子」からなる、絹等、各種ナイロン、PPTA(ポリパラフェニレンテレフタルアミド)等の全芳香族ポリアミド、ヘテロ環含有芳香族ポリマー等が有するペプチド結合を加水分解することで、生体物質の結合に用いる官能基を発現または生成させる。生体物質と結合可能な官能基には、例えば、カルボキシル基-COOH、アミノ基-NH等、またはその誘導基がある。ここで、生体物質の結合に適した多孔の径は、例えば、数マイクロメートル以下である。
【0077】
粒子状担体77dは、前記解析用チップ77の細径管77b内に導入されて保持されることが可能な大きさをもつ粒子状の固体である。該粒子状担体の大きさは、例えば、差し渡しまたは径が0.1mmから数mmの大きさをもつ。該粒子状担体77dを保持する前記解析用チップ77の温度制御領域においては、その容量は、保持した粒子状担体77dを除いた空間部分が、例えば、数μリットルから数百マイクロリットルの容積である。
【0078】
粒子状担体77dの素材としては、液体試料に対して不溶性の物質であり、例えば、金属、半導体、半金属、酸化金属等の金属化合物、セラミクス、ガラス、シリカのような無機物質、ゴム、ラテックス、またはポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、アクリル等の樹脂、セルロース、前述したナイロン等の繊維物質等の高分子物質、天然繊維物質等の有機物質がある。
【0079】
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る前記ステージ14を上側から詳細に示す平面図である。
【0080】
ステージ14の左上側には、12個のチップ収容部が3行×4列のマトリクス状に配列された容器74と、16個のチップ収容部4行×4列のマトリクス状に配列された容器78と、アルコールを収容する2個の液槽72と、4個の検体を収容可能な液収容部71(例えば、200μリットル)が1行状に配列された2個の容器70とが設けられている。各列の間隔は前記所定ピッチ(例えば、18mm)に等しい。
【0081】
前記容器74の12個の各前記チップ収容部の内、4個のチップ収容部74aには、4本の穿孔用チップ75が収容され、8個のチップ収容部74bには、磁性粒子を内壁に吸着させるのに適した前記分注チップとしての8本のゲノム抽出用チップ76が収容されている。同様に、前記容器78のチップ収容部の内、3行×4列のチップ収容部78aには、前記分注チップとしての12本のPCR用チップ80が収容され、4個のチップ収容部78bは空いた状態にある。
【0082】
また、該ステージ14の左下側には、8個のプレパック・カートリッジ状容器62,63が、4列ずつ前記所定ピッチで配列して設けられている。各カートリッジ状容器62,63は、インキュベーション用の液収容部40aと、チューブ保持用の孔部40bと、10個の所定試薬が予め収容された液収容部40cとを有し、各々穿孔可能な薄膜で被覆されている。カートリッジ状容器62は、ゲノム抽出用の試薬等、例えば、シリカ等で被覆された磁性粒子、乖離用液、バッファ液、洗浄液等各々が収容されたゲノム抽出用のカートリッジ状容器であり、カートリッジ状容器63は、解析用の試薬等、例えば、蛍光物質で標識化された所定塩基配列を有するヌクレオチド等の試薬、各種バッファ液、各種洗浄液等が収容された解析用のカートリッジ状容器である。前記ステージ14内には、前記インキュベーション用の液収容部40aまたはチューブ保持用の孔部40bに保持されたチューブを加熱するためのヒータ68が設けられている。
【0083】
さらに、該ステージ14の右下側には、12本の液収容部が3行×4列のマトリクス状に配列されたPCR試薬保冷用ブロック64(例えば、4℃に保冷する)、および、前記分注チップの細径管内に前記複数の粒子状担体77dが封入された前記解析用チップ77を収容する1列状に配列された4個のチップ収容部42からなる容器44が設けられている。前記PCR試薬保冷用ブロック64の12個の各液収容部の内、8個の液収容部64aには、例えば、プライマー、ポリメラーゼ、リバース・プライマー、塩基等のPCR用試薬は反応容器98の各液収容部においては少量(例えば、数μリットル)を用いる。そのため、該PCR試薬保冷用ブロック64の各液収容部64aごとに異なる試薬をまとめて収容して取り扱いやすくするように各々200μリットルの容量をもたせている。該PCR試薬保冷用ブロック64の液収容部の内4個は、抽出されたゲノム保管用液収容部64bであり、1.5mリットルの容量をもたせ、前記ノズルヘッド12に1本のPCR用チップ80を装着して用いる。なお、これらの容器の各列の行間隔は前記所定ピッチに等しい。
【0084】
さらに、該ステージ14の右上側には、さらに、温度制御器100によって温度制御可能な8列×4行のマトリクス状に配列された32個の反応容器98(図5、図6、図16等参照)と、その開口部を上方向に開閉可能に覆う上蓋86とを有する上蓋付反応容器82が設けられている。該反応容器98のピッチは、前記所定ピッチの半分(例えば、9mmピッチ)に設定されている。これによって、集積した状態で温度制御を行うことができることになる。前記上蓋付反応容器82は、さらに、ステージ14に固定して設けられた固定用ブロック87と、該固定用ブロック87に設けられ指示により開閉駆動される開閉ヒンジ87a(図4参照)と、該開閉ヒンジ87aを介して前記固定用ブロック87に軸支され、前記上蓋86を遊嵌して弾性的に支持する貫通孔83が設けられた上蓋支持部材としての上蓋支持枠体84と、を有する。
【0085】
ここで、前記固定用ブロック87、および前記開閉ヒンジ87aは前記軸支部に相当し、後述する開閉駆動用モータ(図10の符号201参照)とともに、上蓋付反応容器82に属する。なお、以上説明したステージ14の大きさは、例えば、縦横が各々0.5mから1m程度の大きさである。
【0086】
図4は、図1に示した前記ノズルヘッド12の拡大平面図(図4(a))および拡大裏面図(図4(b))を示す。なお、図1と同一の符号は同一のものを表すので説明を省略する。
【0087】
図4(a)および図4(b)に示すように、前記P軸モータ32によって前記ボール螺子30を介して回転駆動されるナット部33が設けられた駆動用プレート28には、さらにロッド90が連結する。前記Z軸モータ34によって前記ボール螺子31を介して回転駆動されるナット部41が設けられたシリンダ支持体25には、さらにロッド88が連結する。すなわち、ロッド90は吸引吐出機構23(図1参照)によって駆動され、ロッド88は移動機構21(図1参照)によって駆動されることになる。
【0088】
前記ロッド90と前記ロッド88の下端部には、凹部としての溝94,92が設けられている。前記上蓋86に設けたフック85に設けられ、前記溝92,94と嵌合可能な大きさに切り欠いたU字状切欠き部85aと、前記移動機構(20,21)を用いて係合することが可能である。ロッド88,90を用いて前記上蓋86の押圧、振盪または移動を行なう場合には、前記ロッド90と前記ロッド88との下端は同じ高さレベルを保つように高さ位置が制御される。なお、前記ボール螺子30,31の下端は、ボールベアリング30a,31aによって前記基板39に軸支されている。なお、該ノズルヘッド12は前面および後面が開いた枠体96内に移動可能に組み込まれている。
ここで、前記ロッド88,90、溝92,94、移動機構(20,21)、吸引吐出機構23、フック85等は、上蓋付反応容器82の前記開口部に対して開閉可能に設けた上蓋86の押圧、振盪または移動を可能とする前記上蓋閉塞時作用機構19に相当する。
【0089】
図5は、前記上蓋付反応容器82の押圧前の状態を詳細に示すものである。
図5(a)の平面図に示すように、該上蓋付反応容器82の前記上蓋86による前記反応容器98の開口部の閉塞時における上側の被押圧面86aにはフック85が設けられ、該フック85は、該被押圧面86aから所定高さに平行に設けたプレート85bを有し、該プレート85bには前記ロッド88,90の下端部に設けた前記凹部としての前記溝94,92と嵌合可能な前記2つのU字状切欠き部85aが設けられ、該U字状切欠き部85aが設けられた側と逆側の前記プレート85bの縁部は折り曲げられてその端が前記被押圧面86aに取り付けられている。
【0090】
図5(b)は、図5(a)のAA線視断面図であって、前記上蓋86は、前記ロッド88,90によって押圧される被押圧面86aと、該被押圧面86aに向き合うように形成され前記反応容器98の開口部を被覆する被覆面86bと、該被押圧面86aと被覆面86bと連結する側面86cとを有し、全体として中空部分105を囲むように略箱状に形成されている。
【0091】
また、前記上蓋86の前記側面86cは、開口部の閉塞時において前記被覆面86bを越えて反応容器98の上側を囲むように伸びて縁壁部107を形成し、また、側面86cはその法線方向に外方に突設したバネ支持用突部108が設けられている。
【0092】
前記上蓋支持枠体84は、前記被覆面86bが前記反応容器98の開口部を被覆可能であって、前記上蓋86の被押圧面86aが上方に露出し、前記被覆面86bが下方に露出するように前記上蓋86の本体が貫通する貫通孔83が設けられている。前記上蓋支持枠体84には、弾性部材としてのバネ102の一端が取り付けられ、その他端は前記上蓋86の前記バネ支持用突部108に取り付けられ、該上蓋86は、該貫通孔83内において、前記被覆面86bから被押圧面86aに向かう方向に前記バネ102によって付勢して支持されていることになる。したがって、前記ロッド88,90によって前記被押圧面86aが押圧されない状態では、前記被覆面86bまたは後述するパッドは前記反応容器98の開口部を被覆するだけで接触していない。ここで、前記上蓋支持枠体84の他、貫通孔83、バネ102、バネ支持用突部108は前記上蓋支持部材に相当する。
【0093】
また、該上蓋支持枠体84は、その一端において、前記固定用ブロック87に前記開閉ヒンジ87aを介して軸支されている。前記開閉ヒンジ87aは、前記ステージ14または前記固定用ブロック87に設けられた開閉駆動用モータ(図示せず)により指示によって開閉駆動される。
【0094】
前記被覆面86bと前記縁壁部107に密接するようにしてパッド106が設けられ、これによって、前記反応容器98の開口部の密閉性を高めている。なお、前記中空部分105には、前記反応容器98の開口部における結露防止のため加熱パネルを設けることが好ましい。
【0095】
さらに、前記各反応容器98はその外周面に沿って突条103が設けられ、該突条103の外径よりも小さく該各反応容器98本体の外径よりも大きい内径をもつ複数(この例では32個)の孔が穿設された各反応容器98の浮き上り防止用プレート104を温度制御器100に取り付けることによって前記反応容器98が前記被覆面86bまたは前記パッド106に密着して上方に持ち上げられる事態を防止している。
【0096】
また、前記上蓋付反応容器82には、温度制御器100が前記反応容器98の下側を囲むように設けられて前記反応容器98を温度制御する。該温度制御器100には、指示によって温度を昇降させることができるペルチェ素子を有するサーマルサイクラーが設けられている。
【0097】
図6は、前記上蓋付反応容器82の押圧時の状態を示すものであって、前記ロッド88の溝92および前記ロッド90の溝94が前記フック85の2つのU字状切欠き部85aに各々嵌合するとともに、該ロッド88,90を下降させて、前記上蓋86による開口部の閉塞時において、前記被押圧面86aを押圧することによって、前記被覆面86bが前記パッド106を介して、前記反応容器98の開口部を押圧して密閉している状態を示す。
ここで、前記フック85、U字状切欠き部85a等は、前記ロッド88,90とともに、前記上蓋閉塞時作用機構19に相当する。
【0098】
なお、温度制御終了後、前記上蓋86の開放時には、前記ロッド88,90を前記吸引吐出機構23および前記移動機構20,21を用いて上下、または左右に前記反応容器98に対して動かすことで、前記上蓋86の被覆面86bまたはパッド106と前記反応容器98の開口部との間の張り付きを解消することができる。
【0099】
図7乃至図9に基づいて、本発明の第1の実施の形態に係る前記温度制御反応処理装置10を用いて、DNAまたはゲノムを、温度制御してPCR処理を行なう場合の動作を説明する。
【0100】
ステップS1において、例えば、口腔粘膜、血液、爪等の検体を4人の被検者から採取して、水に投入したものを容器70の各液収容部71内に収容し、4本の前記穿孔用チップ75を前記チップ収容部74aにおいて、前記ノズル22を一斉に下降させることで前記ノズル22に装着させて前記カートリッジ状容器62の開口部を覆う薄膜を穿孔した後、前記脱着機構によって前記チップ収容部74aにおいて脱着し、前記チップ収容部74bに収容された前記ゲノム抽出用チップ76を、前記ノズル22を下降することで前記ノズル22に装着させる。4本の該ゲノム抽出用チップ76を前記移動機構20,21によって移動して、吸引吐出機構23を用いて、該当する抽出用試薬が収容されている液収容部40cから必要な試薬を一斉に吸引し、検体が収容された前記液収容部71内に磁性粒子を含む所定試薬と共に吐出して、前記吸引吐出機構23によって一斉に吸引および吐出を繰り返すことで攪拌してインキュベートして反応させ、DNAを前記磁性粒子の表面に結合して捕獲する。
【0101】
ステップS2において、前記磁力手段43を用いて、前記永久磁石36を、太径管76a、太径管76aよりも細く形成した細径管76b、および太径管76aと細径管76bをつなぐ移行部76cよりなる4本の前記ゲノム抽出用チップ76の細径管76bに一斉に接近させることによって磁場を及ぼして前記磁性粒子を前記細径管76bの内壁に吸着させることによってDNAを分離する。
【0102】
ステップS3で、4本の該ゲノム抽出用チップ76を、前記DNAを捕獲した磁性粒子を該内壁に吸着させたまま前記移動機構(20,21)によって移動させて、前記乖離液を収容する前記カートリッジ状容器62の液収容部40cに位置させ、該ゲノム抽出用チップ76の先端口部76dを前記収容部40c内に挿入して、前記磁性粒子を内壁に吸着したまま吸引吐出を繰り返すことによって前記磁性粒子から前記DNAを乖離する。磁性粒子から乖離したDNAを含有する該DNA溶液を前記PCR試薬保冷用ブロック64の1行の4個のゲノム保管用液収容部64b内に吐出させて収容した後、該ゲノム抽出用チップ76を内壁に前記磁性粒子に吸着したまま空いた前記チップ収容部74bで脱着させる。
【0103】
ステップS4で、該ノズルヘッド12を移動させて、該ノズルヘッド12の端に配列されたノズル22を前記容器78の端にあるチップ収容部78aにまで移動させた後、前記Z軸移動機構21によって、該ノズル22を下降させることによって、収容された1本の該PCR用チップ80のノズル装着用開口部80eに前記ノズル22を挿入させて装着させる。
【0104】
ステップS5で、図7に示すように前記開閉ヒンジ87aを開閉駆動することによって、前記上蓋86を上方に開いて前記反応容器98の開口部を外部に露出させる。次に、1本の前記PCR用チップ80を用いて、PCR試薬保冷用ブロック64の該当する1の液収容部64aから、前記各反応容器98(個々では、前記所定ピッチの半分の9mm)の1本に必要な量(例えば、数μリットル)の複数倍(この例では、4倍)のPCR用の試薬、例えば、前記プライマー含有液を吸引して、前記上蓋付反応容器82内のピッチの異なる複数の各反応容器98に順次分注することによって収容する。その際、1本の反応容器で必要とする液量の複数倍の液量を取り扱っているので、液量が増えて吸引吐出を行いやすい。以上の工程を必要な試薬を分注し終わるまで繰り返す。
【0105】
ステップS6で、前記ノズルヘッド12を前記移動機構20,21を用いて、前記ノズルヘッド12に装着した1本のPCR用チップ80を前記容器78の空いたチップ収容部78bに脱着した後、前記ノズルヘッド12の端または2番目に配列された前記ノズル22に、前記容器78の2番目のチップ収容部78aに収容されている新たな1本のPCR用チップ80を装着し、前記移動機構20,21を用いて前記PCR試薬保冷用ブロック64の抽出した前記DNAを収容している前記ゲノム保管用液収容部64bにまで移動して、4人の患者から抽出した前記各DNAの内の該当するDNA溶液を各反応容器98で必要とする量の複数倍(この例では、4倍)を吸引して、前記反応容器98にまで移動して必要な個数の容器数に順次分注する。以上の処理を、全4人の患者について繰り返す。
【0106】
ステップS7において、前記上蓋付反応容器82について、前記反応容器98に対して前記浮上り防止用プレート104を装着した後、前記上蓋86の被覆面86bにパッド106を密接させて取り付け、前記開閉ヒンジ87aを回転駆動させることによって該上蓋支持枠体84を回転させて、前記反応容器98の開口部を前記上蓋86の被覆面86bまたは前記パッド106が被覆する状態にする。
【0107】
ステップS8において、前記ノズルヘッド12を移動機構20,21によって移動させて、空の前記チップ収容部78bの位置にまで移動した後、前記ノズル22から前記PCR用チップ80を前記脱着機構(29,27)によって脱着させる。
【0108】
ステップS9において、図8に示すように、前記吸引吐出機構23および前記移動機構(20,21)を用いて、前記ロッド88およびロッド90を前記ノズル22と連動し、または前記シリンダ内のピストンとともに連動して、前記ステージ14に対して所定高さにまで下降させた後、前記XY軸移動機構20によって、前記上蓋86が位置する前記上蓋付反応容器82までX軸方向に沿って移動させた後、前記XY軸移動機構20を用いてY軸方向に沿って移動させる。
【0109】
ここで、前記「所定高さ」とは、前記ロッド88,90の下端部に形成した前記溝92、94が前記上蓋86の前記フック85と係合可能な高さである。
【0110】
ステップS10で、図9に示すように、前記ロッド88の溝92および前記ロッド90の溝94が前記上蓋86の前記フック85の各U字状切欠き部85aに嵌合することでロッド88,90と前記フック85を介して前記上蓋86と係合させて連結する。
【0111】

ステップS11で、前記ロッド88および前記ロッド90を、さらに下方向に移動させることで、前記上蓋86の被押圧面86aを押圧することによって、前記被覆面86bおよび前記パッド106を前記反応容器98の開口部を密閉することになる。
【0112】
ステップS12で、前記反応容器98に対して前記温度制御器100によって、PCR法に従った温度制御を行う。PCR法に従った温度制御は、投入された2本鎖の検体のDNAを、1本鎖に変性するために前記反応容器98の温度を94℃に設定し、次に、1本鎖のDNAとプライマーとのアニーリングまたはハイブリダイゼイションを行なわしめるために、前記反応容器98の温度を50℃から60℃に設定する。次に、前記一本鎖に相補的なDNA鎖を合成するために前記温度を74℃に設定してインキュベートするという操作を1サイクルとして、所定回繰り返して、例えば、約数分間行なうという温度制御を行う。
【0113】
ステップS13で、温度制御終了後、前記ロッド88,90を、前記吸引吐出機構23または前記移動機構(20,21)を用いて、上下方向または水平方向(X軸方向)に振盪させまたは移動を繰り返すことによって、前記上蓋86の被覆面86bまたは前記パッド106に結露による水分を除去することによって、または位置をずらすことによって、前記反応容器98の開口部が前記パッド106または前記被覆面86bに密着した状態を解除して前記上蓋86を容易に開放させる。
【0114】
ステップS14で、前記上蓋86を開放させて、各反応容器98内に収容されたPCR産物を回収して、該PCR産物を用いて、前記解析用チップ77等を用いた種々の検査や解析が行なわれることになる。
【0115】
図10は、第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置110を示す。
該温度制御反応処理装置110は、気体の吸引吐出を行う吸引吐出機構123(シリンダ124等)、および、該吸引吐出機構123によって液体が吸引及び吐出される前述した各種チップ(76,80、図2参照)を着脱可能に装着する所定ピッチで配列された2以上のノズル122(この例では、6本)を有するノズルヘッド112と、種々の容器が設けられたステージ114と、前記ノズル122を前記ステージ114に対して移動させる移動機構(120,121)とを有する。該移動機構は、前記ノズルヘッド112外に主として設けられたY軸移動機構120、および該ノズルヘッド112内に設けられた前記上下移動機構としてのZ軸移動機構121を有する。
【0116】
これらのノズルヘッド112、前記移動機構(120,121)、および前記ステージ114は、前面及び片方の側面が開いた筐体116に組み込まれている。該筐体116の他方の側面側には、操作パネル118が設けられている。該操作パネル118は、ディスプレイ、および操作用キーボードを有し、前記ノズルヘッド、移動機構、吸引吐出機構、前記ステージ114に設けた後述する温度制御器等と共に、前記筐体116内に設けた情報処理装置(図示せず)と電気的に接続されている。前記情報処理装置については、第1の実施の形態で説明したように、CPU及びメモリの他、CDもしくはDVDドライバ等の外部メモリを含む周辺機器を有し、前記メモリには、前記ノズルヘッド112、吸引吐出機構123、移動機構(120,121)、したがって、後述する上蓋閉塞時作用機構119、および、後述する温度制御器200等を制御するプログラムが導入されている。
【0117】
該ノズルヘッド112には、モータ支持台135上に取り付けられたZ軸モータ134と、該Z軸モータ134によって回転駆動されるボール螺子131と、該ボール螺子131と螺合するナット部(141)が設けられ前記所定ピッチで配列された前記6本のシリンダ124を固定して支持するシリンダ支持体125とを有し、前記ノズル122をZ軸方向(上下方向)に移動させる前記Z軸移動機構121に相当する。該ボール螺子131の下端は、基板139に回転可能に軸支されている。
【0118】
また、該ノズルヘッド112には、前記吸引吐出機構123として、前記モータ支持台135に設けられたP軸モータ132と、該P軸モータ132によって回転駆動されるボール螺子130と、該ボール螺子130に螺合するナット部133が設けられた駆動用プレート128と、該駆動用プレート128に前記所定ピッチで配列されて支持された6本のピストン126と、該ピストン126がその内部を摺動するシリンダ124とを有する。該シリンダ124の下端には、前記チップ(76,80)が装着可能な前記ノズル122が設けられている。前記ボール螺子130の下端は、前記基板139に回転可能に支持されている1。
【0119】
該ノズルヘッド112には、さらに前記チップ(76,80)を前記ノズル122から脱着させる脱着機構(129,127)が設けられている。該脱着機構(129,127)は、前記ノズル122の外径よりも大きいが前記チップ(76,80)の装着用開口部の外径またはチップ(76,80)の上端に設けたフランジや突条等よりも小さい内径をもつ6個の孔(図示せず)が、前記各ノズル122が貫通可能となるように前記所定ピッチで配列された脱着用プレート129と、6個の前記孔を両側から挟むようにそのX軸方向に沿った前記脱着用プレート129の両端近くの位置でその下端が取り付けられ、前記駆動用プレート128にその上端が取り付けられて前記脱着用プレート129を前記駆動用プレート128に連動させる2本の支持柱127と、を有する。
【0120】
したがって、前記チップ(76,80)を前記ノズル122から脱着するには、前記駆動用プレート128を、吸引吐出のためのピストン126の上下方向に沿った移動範囲を超えてさらに下方にZ軸方向に沿って移動させることによって、前記ノズル122から該チップ(76,80)を剥がすようにして落とす。したがって、該チップ(76,80)を吸引吐出に用いる場合には、前記脱着用プレート129は、その孔に前記ノズル122が貫通した状態で前記チップ(76,80)の上側の前記移動範囲で上下動することになる。
【0121】
前記ノズルヘッド112の基板139の下方には、前記磁力手段143が設けられている。該磁力手段143は、8個の永久磁石136がX軸方向(行方向)に沿って前記所定ピッチで配列され、この8個の内の両端を除く中央の6個の永久磁石136が前記各ノズル122の各軸線に対して、接近しかつ離間するようにY軸方向(列方向)に沿って移動可能に設けられている。この永久磁石136のY軸方向に沿った移動はモータ137によって実行される。前記ノズル本数よりも2個多い個数の永久磁石136を配列し、その中央の6個の永久磁石136のみを利用しているので、両端にある分注チップに対しても中央にある分注チップと同一の条件で磁場を及ぼすことができる。
【0122】
前記ノズルヘッド112は、Y軸移動機構120によって、前記ステージ114または筐体116に対してY軸方向に沿ってのみ移動可能に設けられている。該Y軸移動機構120は、前記筐体116またはステージ114に対してY軸方向に沿って移動可能に設けられたヘッド支持部材155と、前記筐体116に取り付けられてY軸方向に沿って延びる2本のシャフト154とを有する。
【0123】
該ノズルヘッド112は、前記ボール螺子130によって回転駆動されるナット部133が設けられた駆動用プレート128と、前記ボール螺子131によって回転駆動されるナット部141(図示せず)が設けられたシリンダ支持体125とを有する。第2の実施の形態では、上蓋閉塞時作用機構119としては、第1の実施の形態とはロッド90およびロッド88を有していない点で異なる。
【0124】
代わりに、前記ノズル122を用いて前記上蓋の押圧、振盪、または移動を行なう。なお、上蓋閉塞時作用機構119の作用の内容については、第1の実施の形態で説明したように、指示の内容等に基づいて制御する。該ノズル122の先端部が前記フック185のU字状切欠き部185aと嵌合可能な高さレベルをもつように高さ位置が制御される。なお、前記ボール螺子130,131の下端は、ボールベアリング(131a)によって前記基板139に軸支されている。該上蓋閉塞時作用機構119としては、ノズル122、移動機構(120,121)、フック185等を有する。なお、該ノズルヘッド112は前面および後面が開いた枠体196に組み込まれている。そのため、前記磁力手段143を駆動するモータ137は、該ロッド90,88の存在によってそのサイズが制限されないので、磁力手段143に対して、十分大きなモータを利用することができるという効果を奏する。
【0125】
図11(a)(b)は、本発明の第2の実施の形態に係る前記ステージ114を上側から詳細に示す平面図であり、図11(a)は、後述する上蓋186が反応容器198の開口部に対して開放された状態を示し、図11(b)は、該上蓋186が前記反応容器198の開口部に対して閉塞した状態を示すものである。なお、図11(b)は図11(a)と同一のものを示すので、図11(a)と同一の物については、理解しにくい場合を除いてその符号を省略した。
【0126】
ステージ114には、抽出されたゲノムを収容する回収用の6個の液収容部174a、検体等を収容する6個の液収容部174d、および、これらの液収容部174a,174dに挟まれるように設けられた12個の4行×6列のマトリクス状に配列されたチップ収容部174b,174cを有する容器174と、2種類のPCR用試薬、例えば、プライマー、ポリメラーゼ、リバース・プライマー、塩基等から選択した2種類を1行ずつ収容可能な液収容部170a,170bからなる2行×6列のマトリクス状に設けられたPCR試薬保冷用ブロック170とが設けられている。各列の間隔は前記所定ピッチ(例えば、18mm)に等しい。
【0127】
前記容器174の前記チップ収容部174b,174cには、磁性粒子を内壁に吸着させるのに適した前記分注チップとしての6本のゲノム抽出用チップ76と、分注チップとしての6本のPCR用チップ80と、が各々収容されている。なお、カートリッジ状容器162の穿孔は、第1の実施の形態とは異なり、ノズルヘッド112に設けた穿孔用のニードル(図示せず)によって行う。
【0128】
また、該ステージ114には、6個のプレパックされたカートリッジ状容器162が、前記所定ピッチの間隔で配列して列方向に沿って設けられている。各カートリッジ状容器162は、インキュベーション用の液収容部140aと、チューブ保持用の孔部140bと、10個の所定試薬が予め収容された10個の液収容部140cとを有し、各々穿孔可能な薄膜で被覆されている。カートリッジ状容器162は、ゲノム抽出用の試薬等、例えば、シリカ等で被覆された磁性粒子、乖離用液、バッファ液、洗浄用液等各々が収容されたゲノム抽出用のカートリッジ状容器である。前記ステージ114内には、前記インキュベーション用の液収容部140aまたはチューブ保持用の孔部140bに保持されたチューブを加熱可能なヒータが設けられている。
【0129】
さらに、該ステージ114には、温度制御可能な2行×6列のマトリクス状に配列された12個の反応容器198(そのピッチは前記所定ピッチと同一である。この例では18mm)と、その開口部を開閉可能に覆う上蓋186とを有する上蓋付反応容器182が設けられている。該上蓋付反応容器182は、さらに、ステージ114に設けられた固定用ブロック187と、該固定用ブロック187に設けられ指示により開閉駆動される開閉ヒンジ187aと、該開閉ヒンジ187aを介して前記固定用ブロック187に軸支され、前記上蓋186を遊嵌して弾性的に支持する貫通孔183が設けられた前記上蓋支持部材としての上蓋支持枠体184とを有する。
【0130】
また、前記上蓋支持枠体184には、弾性体としてのバネ202の一端が取り付けられ、その他端は前記上蓋186のバネ支持用突部208に取り付けられ、該上蓋186は、該貫通孔183内において、被覆面186bから被押圧面186aに向かう方向に前記バネ202によって付勢して支持されていることになる。したがって、前記ノズル122によって前記被押圧面186aが押圧されない状態では、前記被覆面186bまたは後述するパッド206は、前記反応容器98の開口部を被覆するだけで接触していない。ここで、前記上蓋支持枠体184の他、貫通孔183、バネ202、バネ支持用突部208は前記上蓋支持部材に相当する。
【0131】
また、該上蓋支持枠体184は、その一端において、固定用ブロックに前記開閉ヒンジ187aを介して軸支されている。該開閉ヒンジ187aは、前記ステージ114または前記固定用ブロックに設けられた開閉用モータ(図示せず)により指示によって開閉駆動される。なお、このステージ114の大きさは、例えば、縦横が各々0.5mから1m程度の大きさである。
【0132】
図12から図15に基づいて、本発明の第2の実施の形態に係る温度制御反応処理装置110を用いて、該当する遺伝子のDNAまたはゲノムを、温度制御を行ってPCR処理を行なう場合の動作を説明する。
【0133】
ステップS21において、例えば、口腔粘膜、血液、爪等の検体を6人の被検者から採取して、水に投入したものを液収容部171内に収容し、前記ノズルヘッド112に設けられた穿孔用のニードル(図示せず)によって、前記カートリッジ状容器162の該当する試薬が収容されている液収容部140cの開口部を覆う薄膜を穿孔した後、前記移動機構(120,121)を用いて、前記ゲノム抽出用チップ76が収容されたチップ収容部174bにまで移動させ、前記ノズルヘッド112のノズル122を下降させることで6本の前記ノズル122に6本の前記ゲノム抽出用チップ76を一斉に装着させた後、前記移動機構(120,121)によって移動して、吸引吐出機構123を用いて、該当する抽出用試薬が収容されている液収容部140cから必要な試薬を吸引し、検体が収容された前記液収容部171内に磁性粒子を含む所定試薬とともに吐出し、前記吸引吐出機構によって吸引および吐出を繰り返すことで攪拌してインキュベートして反応させてDNAを前記磁性粒子の表面に結合して捕獲する。
【0134】
ステップS22において、前記磁力手段143を用いて、前記永久磁石136を、太径管76a,太径管76aよりも細く形成した細径管76b,および太径管76aと細径管76bをつなぐ移行部76cよりなる6本の前記ゲノム抽出用チップ76の細径管76bに一斉に接近させることによって磁場を及ぼして前記磁性粒子を前記細径管76bの内壁に吸着させることによって分離する。
【0135】
ステップS23で、6本の該ゲノム抽出用チップ76を、前記DNAを捕獲した磁性粒子を内壁に吸着させたまま前記移動機構(120,121)によって移動させて、前記乖離液を収容する液収容部140cに位置させ、該ゲノム抽出用チップ76の先端口部76dを該液収容部140c内に挿入して、前記磁性粒子を内壁に吸着したまま吸引吐出を繰り返すことによって前記磁性粒子から前記DNAを乖離する。磁性粒子から乖離したDNAを含有する該DNA溶液を前記容器174の前記液収容部174a内に吐出させた後、6本の該ゲノム抽出用チップ76を、前記磁性粒子を内壁に吸着したまま、元の6個の前記チップ収容部174bにおいて一斉に脱着させる。
【0136】
ステップS24で、該ノズルヘッド112を移動させて、該ノズル122を、前記PCR用チップ80が収容されているチップ収容部174c上に位置させた後、前記Z軸移動機構によって、6本の該ノズル122を一斉に下降させることによって、6本の該PCR用チップ80のノズル装着用開口部80eに前記ノズル122を一斉に挿入させて装着させる。
【0137】
ステップS25で、図12に示すように、前記開閉ヒンジ187aをモータ201を回転駆動させることによって開閉駆動させて前記上蓋186を上方に開いて、前記反応容器198の開口部を外部に露出させておく。次に、6本の前記PCR用チップ80を用いて、前記PCR試薬保冷用ブロック170にまで移動させて、該当するPCR試薬が収容されている液収容部170aから、例えば、プライマー含有液を一斉に吸引して、前記移動機構(120,121)を用いて6個の前記反応容器198内に一斉に吐出することによって収容する。同様にして、液収容部170bについても、PCR試薬を一斉に吸引し、6個の前記反応容器198内に吐出する。
【0138】
ステップS26で、前記ノズルヘッド112を前記移動機構を用いて、前記容器174の前記抽出したDNAまたはゲノムが収容されている液収容部174aにまで移動して、6人の患者から抽出した前記DNAまたはゲノムを6本のPCR用チップ80に一斉に吸引し、再び、6個の前記反応容器198内にまで移動して一斉に吐出して収容する。
【0139】
ステップS27において、前記ノズルヘッド112を移動機構によって移動させて、前記チップ収容部174cの位置にまで移動した後、前記ノズル122から前記PCR用チップ80を前記脱着機構によって脱着させる。図13にPCR用チップ80を脱着した状態を示す。
【0140】
ステップS28において、図14に示すように、前記上蓋付反応容器182について、前記反応容器198に前記浮上り防止用プレート204を装着した後、前記上蓋186の被覆面にパッド206を密接させて取り付けた後、前記開閉ヒンジ187aを回転駆動させることによって該上蓋支持枠体184を一定角度回転させて、前記反応容器198の開口部を前記上蓋186の被覆面186bまたはパッド206が被覆する状態にする。前記反応容器198には、その外周面に沿って突条203が設けられ、該突条203の外径よりも小さく該各反応容器198の本体の外径よりも大きい内径をもつ複数(この例では12個)の孔が穿設された各反応容器198の浮き上り防止用プレート204を温度制御器200の上側に取り付けることによって前記反応容器198が前記被覆面186bまたは前記パッド206に密着して上方に持ち上げられる事態を防止している。
【0141】
ステップS29において、図14に示すように、移動機構(120,121)を用いて、前記ノズルヘッド112のノズル122の位置を、前記ステージ114に対して所定高さ位置に下降させた後、Y軸移動機構120によって、前記上蓋186の位置にまで移動させる。
【0142】
ここで、前記所定高さとは、前記ノズル122の下端部が前記上蓋186の前記フック185のU字状切欠き部185aと嵌合可能な高さである。
【0143】
ステップS30で、図15に示すように、前記ノズル122の下端部が前記上蓋186の前記フック185のU字状切欠き部185aに嵌合することでノズル122と前記フック185を介して前記上蓋186と結合する。
【0144】
ステップS31で、前記ノズル122を、さらに下方向に移動させることで、前記上蓋186の被押圧面186aを押圧することによって、前記被覆面186bおよび前記パッド206を前記反応容器198の開口部を密閉することになる。
【0145】
ステップS32で、前記反応容器198に対して前記温度制御器200によって、PCR法に従った温度制御を行う。PCR法に従った温度制御は、投入された2本鎖の検体のDNAを、一本鎖に変性するために反応容器198の温度を94℃に設定し、次に、1本鎖のDNAとプライマリーとのアニーリングまたはハイブリダイゼイションを行なわしめるために、前記反応容器198の温度を50℃から60℃に設定する。次に、前記一本鎖に相補的なDNA鎖を合成するために前記温度を74℃に設定してインキュベートするという操作を1サイクルとして、所定回繰り返して、例えば、約数分間行なうという温度制御を行う。
【0146】
ステップS33で、温度制御終了後、前記ノズル122を、前記移動機構(120,121)を用いて、上下方向および水平方向(Y軸方向)に振盪させまたは移動を繰り返すことによって前記反応容器198の開口部が前記パッド206または前記被覆面186bに密着した状態を解除することにより、前記上蓋186の開放を容易にさせる。
【0147】
ステップS34で、前記上蓋186を開放させて、各反応容器198内に収容されたPCR産物を回収して、該PCR産物を用いて、例えば、前記解析用チップ77等を用いた種々の検査や解析が行なわれることになる。
【0148】
続いて、図16乃至図21に基づいて、本発明の第3の実施の形態に係る温度制御反応処理装置210を説明する。
【0149】
図16に示すように、該温度制御反応処理装置210は、第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置10において、上方向に開く上蓋86をもった上蓋付反応容器82に代えて、水平面内で開く上蓋286をもった上蓋付反応容器282を設けたものであり、その他の構成は、第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置10と同じである。そこで、第1の実施の形態に係る温度制御反応処理装置10に用いた符号と同一の符号を持つものは、同一のものを表すので、その説明を省略する。上蓋閉塞時作用機構については第1の実施の形態に係るものと同一の構成であるが、上蓋付反応容器の構造の相違により制御の内容は異なり得る。
【0150】
図16および図17(a)に示すように、本実施の形態に係る上蓋付反応容器282は、ステージ214の右上側に設けられ、温度制御可能な8列×4行のマトリクス状に配列された32個の前記反応容器98(図5、図6等参照)と、該反応容器98の下側を囲むように設けられて前記反応容器98を温度制御する温度制御器300と、その開口部を水平面内で開閉可能に覆う上蓋286と、前記上蓋286を弾性的に支持するための上蓋支持部材としての上蓋支持用取手283と、を有するものである。前記上蓋286による前記反応容器98の開口部の閉塞時における上側の被押圧面286aには、フック85が設けられている。該反応容器98のピッチは、前記所定ピッチの半分(例えば、9mmピッチ)に設定されている。これによって、集積した状態で温度制御を行うことができることになる。
【0151】
図17(b)および図17(c)に示すように、前記上蓋付反応容器282は、さらに、前記上蓋支持用取手283の下側から下方に突設された上蓋回転軸284を有し、該上蓋回転軸284の下端部には、該上蓋回転軸284よりも大きな半径を持ち上側に、1個またはある間隔で配列された複数個の歯、爪、突部、突条または溝が形成された下端部284aが設けられている。
【0152】
コイル状バネ302が該上蓋回転軸284の外周に沿って同軸に囲むように設けられている。該上蓋回転軸284の前記下端部284aは、ステージ214に固定して設けられたモータによって駆動され、前記軸支部に相当する中空の回転筒287内に挿入されている。前記コイル状バネ302は前記回転筒287と前記上蓋支持用取手283との間を軸方向に突っ張るように付勢して、前記上蓋286またはパッド306が前記各反応容器98の開口部と接触しないように持ち上げられている。
【0153】
該回転筒287の内部の上端の内壁の下側の前記下端部284aと向かい合う面には、前記歯、爪、突部、突条または溝と係合可能な歯、爪、突部、突条または溝が形成され、前記コイル状バネ302によって前記下端部284aと前記内壁の下側とが接触した場合には、前記回転筒287の回転により前記歯、爪、突部、突条または溝との間で周方向に係合して開閉駆動用モータ(図示せず)の回転を前記回転筒287、上蓋回転軸284等を介して前記上蓋286に伝達し、前記反応容器98の開口部と接触することなく上蓋286を水平面内で回転させることができる。
【0154】
ここで、符号304は、前記温度制御器300の上側に取り付けられて反応容器98が、の浮き上り防止用プレートであり、符号306は、上蓋の前記被覆面286bに密接するようにしてスライドして取り外し可能に挿入された断面L字状に形成されたパッドである。これによって、前記反応容器98の開口部の密閉性を高めている。なお、中空部分305には、前記反応容器98の開口部における結露防止のため加熱パネルを設けるのが好ましい。
【0155】
前記浮き上り防止用プレート304は、32個の孔が穿設されて、各反応容器98が、前記被覆面286bまたは前記パッド306に密着して上方に持ち上げられる事態を防止している。ここで、前記上蓋支持用取手283の他、前記コイル状バネ302、および回転筒287等は、前記上蓋支持部材に相当する。
【0156】
また、前記上蓋付反応容器282には、温度制御器300が前記反応容器98の下側を囲むように設けられて前記反応容器98を温度制御する。温度制御器300には、指示によって温度を昇降させることができるペルチェ素子を有するサーマルサイクラーが設けられている。
【0157】
図18(a)図18(b)および図18(c)は、前記ロッド88の溝92および前記ロッド90の溝94が前記フック85の2つのU字状切欠き部85aに各々嵌合させ該ロッド88,90を下降させて、前記上蓋86による開口部の閉塞時を示す。前記被押圧面286aを押圧することによって、前記被覆面286bを、前記パッド306を介して、前記反応容器98の開口部に押圧して密閉している状態である。
【0158】
この場合には、前記回転筒287の上端内壁の下側と上蓋回転軸284の下端部284aの上側とは離間しており、前記開閉駆動用モータの回転は上蓋286まで伝達されない状態となっている。
【0159】
図19乃至図21に基づいて、本発明の第3の実施の形態に係る前記温度制御反応処理装置210を用いて、DNAまたはゲノムを、温度制御してPCR処理を行う場合の動作を説明する。
【0160】
該動作は、前述した、第1の実施の形態に係る前記温度制御反応処理装置10を用いて、DNAまたはゲノムを、温度制御してPCR処理を行う場合の動作に略等しいが。上蓋付反応容器282に関する処理についてのみ異なっている。そこで、該上蓋付反応容器282に関する処理に係るステップS5乃至ステップS14に対応するステップS'5乃至S'14に関する処理についてのみ説明する。
【0161】
ステップS'5において、図19に示すように、前記回転筒287を回転駆動することによって、前記上蓋286を水平面内で回転させて開き、前記反応容器98の開口部を外部に露出させる。次に、1本の前記PCR用チップ80を用いて、PCR試薬保冷用ブロック64の該当する1の液収容部64aから、前記各反応容器98(個々では、前記所定ピッチの半分の9mm)の1本に必要な量(例えば、数μリットル)の複数倍(この例では、4倍)のPCR用の試薬、例えば、前記プライマー含有液を吸引して、前記上蓋付反応容器282内のピッチの異なる複数の各反応容器98に順次分注することによって収容する。その際、1本の反応容器で必要とする液量の複数倍の液量を取り扱っているので、液量が増えて吸引吐出を行いやすい。以上の工程を必要な試薬を分注し終わるまで繰り返す。
【0162】
ステップS'6で、前記ノズルヘッド12を前記移動機構20,21を用いて、前記ノズルヘッド12に装着した1本のPCR用チップ80を前記容器78の空いたチップ収容部78bに脱着した後、前記ノズルヘッド12の端または2番目に配列された前記ノズル22に、前記容器78の2番目のチップ収容部78aに収容されている新たな1本のPCR用チップ80を装着し、前記移動機構20,21を用いて前記PCR試薬保冷用ブロック64の抽出した前記DNAを収容している前記ゲノム保管用液収容部64bにまで移動して、4人の患者から抽出した前記各DNAの内該当するDNA溶液を各反応容器98で必要とする量の複数倍(この例では、4倍)を吸引して、前記反応容器98にまで移動して必要な個数の容器数に順次分注する。以上の処理を、全4人の患者について繰り返す。
【0163】
ステップS'7において、前記上蓋付反応容器282について、前記反応容器98に対して前記浮上り防止用プレート304を温度制御器300の上面に装着して反応容器98の浮き上りを防止させた後、前記上蓋286の被覆面286bに断面L字状のパッド306を、前記被覆面286bの下側に側方からスライドさせて挿入させて(前記被覆面286b側には、前記パッド306を支持する支持溝等が設けられている)密接させて取り付け、前記回転筒287を開閉駆動用モータによって回転駆動させることによって、前記上蓋回転軸284を回転させて、前記上蓋支持用取手283および前記上蓋286を、前記パッド306を前記反応容器98の開口部と接触することなく水平面内で回転させて、前記反応容器98の開口部を前記上蓋86の被覆面286bまたはパッド306が被覆する状態とする。
【0164】
ステップS'8において、前記ノズルヘッド12を移動機構20,21によって移動させて、空の前記チップ収容部78bの位置にまで移動した後、前記ノズル22から前記PCR用チップ80を前記脱着機構(29,27)によって脱着させる。
【0165】
ステップS'9において、図20および図21に示すように、前記吸引吐出機構23および前記移動機構(20,21)を用いて、前記ロッド88およびロッド90を前記ノズル22と連動し、または前記シリンダ内のピストンとともに連動して、前記ステージ214に対して所定高さまで下降させた後、前記XY軸移動機構20によって、前記上蓋86が位置する前記上蓋付反応容器282まで、X軸方向に沿って移動させた後、前記XY軸移動機構20を用いてY軸方向に沿って移動させる。
【0166】
ここで、前記「所定高さ」とは、前記ロッド88,90の下端部に形成した溝92,94が前記上蓋286の前記フック85と係合可能な高さである。
【0167】
ステップS'10で、図21に示すように、前記ロッド88の溝92および前記ロッド90の溝94が前記上蓋286の前記フック85の各U字状切欠き部85aに嵌合することでロッド88,90と前記フック85を介して前記上蓋86と係合させて連結する。
【0168】
ステップS'11で、前記ロッド88および前記ロッド90を、さらに下方向に移動させることで、前記上蓋286の被押圧面286aを押圧することによって、前記被覆面286bおよび前記パッド306を前記反応容器98の開口部を密封することになる。
【0169】
ステップS'12で、前記反応容器98に対して前記温度制御器300によって、PCR法に従った温度制御を行う。PCR法に従った温度制御は、投入された2本鎖の検体DNAを、1本鎖に変性するために前記反応容器98の温度を94℃に設定し、次に、1本鎖のDNAとプライマーとのアニーリングまたはハイブリダイゼイションを行なわしめるために、前記反応容器98の温度を50℃から60℃に設定する。次に、前記1本鎖に相補的なDNA鎖を合成するために前記温度を74℃に設定してインキュベートするという操作を1サイクルとして、所定回繰り返して、例えば、約数分間行なうという温度制御を行う。
【0170】
ステップS'13で、温度制御終了後、前記ロッド88,90を、前記吸引吐出機構23または前記移動機構(20,21)を用いて、上下方向または水平方向(X軸方向)に振盪させまたは移動を繰り返すことによって、前記上蓋286の被覆面286bの下側に設けたパッド306に結露による水分を除去することによって、または位置をずらすことによって、前記反応容器98の開口部が前記パッド306または前記被覆面286bに密着した状態を容易に開放させる。
【0171】
ステップS'14で、前記上蓋286を開放させて、各反応容器98内に収容されたPCR産物を回収して、該PCR産物を用いて、前記解析用チップ77等を用いた種々の検査や解析が行なわれることになる。
【0172】
以上の実施の形態は、本発明をより良く理解させるために具体的に説明したものであって、別形態を制限するものではない。したがって、発明の主旨を変更しない範囲で変更可能である。例えば、上蓋閉塞時作用機構としてロッド等の作動具とノズルの双方を用いて形成することも可能である。また実施の形態にあっては、ゲノムのPCRの処理についてのみ記載したが、該例に限られず、他の生体化合物、例えば、タンパク質等の温度制御にも用いることができる。
【0173】
また、ノズルの本数またはロッドの本数や、容器の種類、その配列、使用した試薬、検体等についても実施の形態に示した例に限られるものではない。さらに、上蓋付反応容器の構成についても実施の形態に示した例に限られない。以上の例では、ノズルをステージに対して移動させるようにしたが、ステージをノズルに対して移動させることも可能である。
【0174】
また、本発明の各実施の形態で説明した、上蓋付反応容器、温度制御器、上蓋支持部材、分注チップ、反応容器、移動機構、吸引吐出機構、ノズル、作動具、試薬、液収容部、チップ収容部の個数、配列、大きさ等は、本例に限られるものではない。また、これらの部品は適当に選んで、適当な変更を加えながら相互に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、例えば、主としてDNA、RNA、mRNA、rRNA、tRNA、プラスミド等の生体物質、検査、解析が要求される分野、例えば、工業分野、食品、農産、水産加工等の農業分野、薬品分野、衛生、保健、疾病、遺伝等の医療分野、生化学もしくは生物学等の埋学分野等に関係するものである。本発明は、特に、PCR、リアルタイムPCR等の種々のDNA等を扱う処理や解析に用いることができる。
【符号の説明】
【0176】
10,110,210 温度制御反応処理装置
12,112 ノズルヘッド
14,114,214 ステージ
16,116,216 筐体
19,119 上蓋閉塞時作用機構
20 XY軸移動機構
120 Y軸移動機構
21,121 Z軸移動機構
22,122 ノズル
23,123 吸引吐出機構
24,124 シリンダ
43,143 磁力手段
75,76,80 穿孔用チップ、ゲノム抽出用チップ、PCR用チップ
82,182,282 上蓋付反応容器
86,186,286 上蓋
88,90 ロッド(作動具)
92,94 溝
98,198 反応容器
100,200,300 温度制御器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の吸引および吐出を行う吸引吐出機構、および該吸引吐出機構によって液体の吸引および吐出が可能な分注チップを着脱可能に装着する1または2以上のノズルを有するノズルヘッドと、
前記分注チップの先端が挿入可能な開口部をもつ1または2以上の反応容器と、
前記ノズルと前記反応容器との間を相対的に移動可能とする移動機構と、
1または2以上の前記反応容器内を温度制御可能な温度制御器と、
前記温度制御器によって温度制御される1または2以上の前記反応容器の前記開口部に対して開閉可能に設けた上蓋と、
前記吸引吐出機構または前記移動機構によって、前記上蓋による前記開口部の閉塞時に該上蓋の押圧、振盪または移動を可能とする上蓋閉塞時作用機構と、を有する温度制御反応処理装置。
【請求項2】
前記吸引吐出機構は、前記ノズルと連通するシリンダと、該シリンダ内を摺動するピストンと、該ピストンを駆動するピストン駆動機構とを有し、前記上蓋閉塞時作用機構は、前記ノズルヘッドに設けられ、前記ピストンと連動する1または2以上の作動具を有する請求項1に記載の温度制御反応処理装置。
【請求項3】
前記上蓋閉塞時作用機構は、前記ノズルヘッドに設けられ、前記移動機構によって駆動される前記ノズルに連動する1または2以上の作動具を有する請求項1または請求項2のいずれかに記載の温度制御反応処理装置。
【請求項4】
前記上蓋閉塞時作用機構は、前記移動機構によって駆動される1または2以上の前記ノズルを有する請求項1に記載の温度制御反応処理装置。
【請求項5】
前記上蓋の上面には、前記移動機構または前記吸引吐出機構によって前記作動具または前記ノズルと係合可能なフックを有する請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の温度制御反応処理装置。
【請求項6】
前記反応容器が設けられたステージに取り付けられた軸支部と、該軸支部に軸支され、前記上蓋を弾性的に支持する上蓋支持部材をさらに有するとともに、
前記上蓋は、前記上蓋閉塞時作用機構によって押圧される被押圧面、該被押圧面に向き合うように形成され前記反応容器の開口部を被覆する被覆面を有し、前記上蓋支持部材は、該上蓋を前記被覆面から前記被押圧面に向かう方向に沿って弾性的に付勢した状態で支持する請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の温度制御反応処理装置。
【請求項7】
ノズルヘッドに設けた1または2以上のノズルと1または2以上の反応容器との間を相対的に移動可能とする移動機構および前記ノズルヘッドに設けた気体の吸引吐出を行う吸引吐出機構によって、1または2以上の前記ノズルに着脱可能に装着した分注チップ内に吸引した液体を、内部が温度制御可能であって、その開口部に対し開閉可能に設けた上蓋を開放した1または2以上の該反応容器内に吐出して収容する収容工程と、
前記上蓋によって1または2以上の前記反応容器の開口部を閉塞し、前記吸引吐出機構または移動機構によって、前記上蓋を上側から押圧して前記反応容器内を温度制御する閉塞工程と、
前記吸引吐出機構または前記移動機構によって、前記反応容器の開口部に対して閉塞した上蓋を振盪または移動させることで前記反応容器の開口部を開放する開放工程と、を有する温度制御反応処理方法。
【請求項8】
前記閉塞工程は、前記吸引吐出機構によって駆動される1または2以上の作動具を用いて、または前記移動機構によって駆動され、前記ノズル、または前記ノズルヘッドに設けられ、該ノズルに連動する1または2以上の作動具を用いて、前記開口部を閉塞した前記上蓋を上側から押圧し、
前記開放工程は、前記ノズルまたは前記作動具を用いて、前記開口部を閉塞した前記上蓋を振盪または移動させる請求項7に記載の温度制御反応処理方法。
【請求項9】
前記分注チップを前記ノズルから脱着させる脱着工程をさらに有し、該脱着工程は、
前記収容工程において、または、前記収容工程の後、前記閉塞工程の前で実行される請求項7に記載の温度制御反応処理方法。
【請求項10】
前記収容工程は、前記ノズルヘッドに配列された複数の前記ノズルの内、1の前記ノズルのみに1の前記分注チップを装着することによって行なう請求項7乃至請求項9のいずれかに記載の温度制御反応処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−94049(P2010−94049A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265702(P2008−265702)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(502338292)ユニバーサル・バイオ・リサーチ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】