説明

温度制御方法及び装置

【課題】温調対象物が設定された温度範囲内にあるときの温度制御を効率よく確実に行うことができ、冷却運転からの切り替えや加温運転からの切り替えを圧縮機を一定条件で継続的に運転した状態で行う。
【解決手段】高圧高温ガス冷媒を凝縮、減圧し、冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させる冷却運転状態A1と、高圧高温ガス冷媒を加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を凝縮、減圧、蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させる加温運転状態B1と、高圧高温ガス冷媒を加温用熱交換器に導入し、加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を凝縮、減圧して低圧液冷媒とし、低圧液冷媒を冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させる保温運転状態C1とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御方法及び装置に関し、詳しくは、冷凍サイクルを利用して恒温水槽、恒温槽などの温調対象物の温度を調整する温度制御方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
恒温水槽や恒温槽の温度を制御する方法として、冷凍サイクルによる冷却と加熱手段による加熱とを組み合わせた方法が知られている。加熱手段としては、電気ヒータを用いたり、冷凍サイクルの圧縮機から吐出されるホットガスを用いたりするようにしている。しかし、電気ヒータを用いると、冷凍サイクルと電気ヒータの両方に電力が消費されるため、運転コストが高くなるという問題がある。
【0003】
ホットガスを用いる場合、冷凍サイクルの蒸発器(冷却用熱交換器)の下流側に再加熱器を設け、圧縮機から吐出されるホットガスを制御弁で分流して前記再加熱器に導入するようにしたもの(例えば、特許文献1参照。)や、温調対象物の加温時に冷凍サイクルの流路を切り替えてホットガスを蒸発器に直接導入するようにしたもの(例えば、特許文献2参照。)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−199657号公報
【特許文献2】特開2005−77047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、いずれの場合でも、温調対象物の温度が設定された温度範囲内にあって熱負荷がほとんどなくなったときにおいて、特許文献1に記載された方法では、ホットガスの流量調整が難しく、加温能力が安定しないという問題があり、また、特許文献2に記載された方法では、蒸発器に低温冷媒とホットガスとが交互に流入することになるため、急激な温度変化を生じやすく、温調対象物の温度が不安定になりやすいという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、冷凍サイクルを利用した温度制御を効率よく確実に行うことができる温度制御方法及び装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の温度制御方法は、圧縮した高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を減圧した低圧液冷媒を冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器で温調対象物を冷却する冷却運転状態と、圧縮した前記高圧高温ガス冷媒を加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を放熱用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記加温用熱交換器で温調対象物を加温する加温運転状態と、圧縮した前記高圧高温ガス冷媒を前記加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を前記冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器と前記加温用熱交換器とで温調対象物の温度をあらかじめ設定された温度範囲内に保持する保温運転状態とを有するとともに、前記温調対象物の温度を測定し、測定した温度に基づいて前記冷却運転状態、前記加温運転状態及び前記保温運転状態のいずれか一つの運転状態を選択することを特徴としている。
【0008】
また、圧縮機で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第1切換弁を介して凝縮器に導入し、該凝縮器で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を第2切換弁を介して第1減圧手段に導入し、該第1減圧手段で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を前記圧縮機に吸引して再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器で温調対象物を冷却する冷却運転状態と、前記圧縮機で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第3切換弁を介して加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を第4切換弁を介して前記凝縮器に導入し、該凝縮器で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を第5切換弁を介して第2減圧手段に導入し、該第2減圧手段で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を放熱用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を前記圧縮機に吸引して再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記加温用熱交換器で温調対象物を加温する加温運転状態と、前記圧縮機で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第3切換弁を介して加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を第4切換弁を介して前記凝縮器に導入し、該凝縮器で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を前記第2切換弁を介して前記第1減圧手段に導入し、該第1減圧手段で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を前記冷却用熱交換器で蒸発させて低圧ガス冷媒とし、該低圧ガス冷媒を前記圧縮機に吸引して再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器と前記加温用熱交換器とで温調対象物の温度をあらかじめ設定された温度範囲内に保持する保温運転状態とを有するとともに、前記温調対象物の温度を測定して前記各切換弁を開閉作動させる弁開閉制御手段により、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第1設定温度より高いときには、第1切換弁及び第2切換弁のみを開いて前記冷却運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第2設定温度より低いときには、第3切換弁、第4切換弁及び第5切換弁のみを開いて前記加温運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度が前記第1設定温度と前記第2設定温度との間にあるときには、第2切換弁、第3切換弁及び第4切換弁のみを開いて前記保温運転状態とすることを特徴とし、前記加温用熱交換器と前記圧縮機の吸引側との間に第6切換弁を備えた冷媒回収経路を設け、前記冷却運転状態のときに、前記第6切換弁を開いて前記加温用熱交換器内の冷媒を前記冷媒回収経路を介して圧縮機に回収することもできる。
【0009】
さらに、本発明の温度制御装置は、循環する冷媒を圧縮する圧縮機と、該圧縮機の吐出側に第1切換弁を介して接続した凝縮器と、該凝縮器の出口側に第2切換弁及び第1減圧手段を介して接続した冷却用熱交換器とを備え、該冷却用熱交換器の出口側と前記圧縮機の吸引側とを接続した冷凍サイクルに、入口側が前記圧縮機の吐出側と前記第1切換弁との間に第3切換弁を介して接続し、出口側が前記凝縮器と前記第1切換弁との間に第4切換弁を介して接続した加温用熱交換器と、入口側が前記凝縮器の出口側と前記第2切換弁との間に第5切換弁及び第2減圧手段を介して接続し、出口側が前記圧縮機の吸引側に接続した放熱用熱交換器とを備えるとともに、前記温調対象物の温度を測定して、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第1設定温度より高いときには、第1切換弁及び第2切換弁のみを開いて冷却運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第2設定温度より低いときには、第3切換弁、第4切換弁及び第5切換弁のみを開いて加温運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度が前記第1設定温度と前記第2設定温度との間にあるときには、第2切換弁、第3切換弁及び第4切換弁のみを開いて保温運転状態とする弁開閉制御手段を備えていることを特徴とし、前記加温用熱交換器と前記圧縮機の吸引側とを第6切換弁を介して接続し、前記冷却運転状態のときに、前記第6切換弁が開いて前記加温用熱交換器内の冷媒を前記冷媒回収経路を介して圧縮機に回収する冷媒回収経路を備えていても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、温調対象物が設定された温度の範囲に達するまでは、冷却運転又は加温運転を行い、設定された温度の範囲内では、冷却しつつ加温する保温運転を行うことにより、温調対象物を設定された温度範囲内に維持することができ、運転状態を切り替えても急激な温度変化を生じることはなく、また、圧縮機に負荷変動が生じることもなく、圧縮機を一定の条件で効率よく継続運転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一形態例を示す温度制御装置の冷媒回路図である。
【図2】同じく冷却運転状態を示す説明図である。
【図3】同じく加温運転状態を示す説明図である。
【図4】同じく保温運転状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本形態例に示す温度制御装置は、本発明を理化学実験用の恒温水槽10の温度制御に適用したもので、循環する冷媒を圧縮する圧縮機11と、該圧縮機11の吐出側に第1切換弁12を介して接続した凝縮器13と、該凝縮器13の出口側に第2切換弁14及び第1減圧手段15を介して接続した冷却用熱交換器16とを備え、該冷却用熱交換器16の出口側と圧縮機11の吸引側とを接続した冷凍サイクルを基本とし、該冷凍サイクルに、入口側が圧縮機11の吐出側と第1切換弁12との間に第3切換弁17を介して接続し、出口側が前記凝縮器13と第1切換弁12との間に第4切換弁18を介して接続した加温用熱交換器19と、入口側が凝縮器13の出口側と第2切換弁14との間に第5切換弁20及び第2減圧手段21を介して接続し、出口側が圧縮機11の吸引側に接続した放熱用熱交換器22とを備えている。
【0013】
前記冷却用熱交換器16と加温用熱交換器19とは、恒温水槽10の水槽内に設置されており、通常は、恒温水槽10内を循環する流体の流れ中に冷却用熱交換器16が配置され、該冷却用熱交換器16に隣接して加温用熱交換器19が配置される。
【0014】
また、加温用熱交換器19と圧縮機11の吸引側とは、第6切換弁23を介して接続している。さらに、第1切換弁12の下流側と第4切換弁18の下流側とには、第1逆止弁24と第2逆止弁25がそれぞれ設けられ、圧縮機11の吸引側にはアキュームレータ26が設けられるとともに、温調対象物の温度を測定する温度検知部27と、該温度検知部27で測定した温度に基づいて前述の各弁を開閉作動させる弁開閉手段28とが設けられている。
【0015】
上述の恒温水槽10では、温度検知部27により測定した温調対象物の温度があらかじめ設定した第1設定温度より高いときには、図2に示すように、弁開閉手段28により、第1切換弁12,第2切換弁14及び第6切換弁23のみを開いて冷却運転状態A1とする。この冷却運転状態A1では、圧縮機11で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第1切換弁12と第1逆止弁24とを介して凝縮器13に導入し、該凝縮器13で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を第2切換弁14を介して第1減圧手段15に導入し、該第1減圧手段15で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒(一部気化ガスを含むことがある。)とし、該低圧液冷媒を冷却用熱交換器16で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒をアキュームレータ26を介して前記圧縮機11に吸引し、再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させる。
【0016】
これにより、前記冷却用熱交換器16の低圧低温ガス冷媒と恒温水槽10内の流体とが熱交換を行い、温調対象物である恒温水槽10内の流体を冷却するとともに、前記低圧液冷媒の全量が気化して低圧低温ガス冷媒となる。
【0017】
さらに、これと同時に、加温用熱交換器19と圧縮機11の吸引側とを第6切換弁23とアキュームレータ26とを介して接続し、加温用熱交換器19内の冷媒を冷媒回収経路A2を介して圧縮機11に吸引して回収する。このようにして加温用熱交換器19の内部や、加温用熱交換器19に接続した配管内の冷媒を回収することにより、系内を循環する冷媒量を必要最小限とすることができ、冷媒量の削減を図れる。
【0018】
また、温度検知部27により測定した温調対象物の温度があらかじめ設定した第2設定温度より低いときには、図3に示すように、弁開閉手段28により、第3切換弁17,第4切換弁18及び第5切換弁20のみを開いて加温運転状態B1とする。この加温運転状態B1では、圧縮機11で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第3切換弁17を介して加温用熱交換器19に導入し、該加温用熱交換器19から導出した高圧高温ガス冷媒を第4切換弁18及び第2逆止弁25を介して凝縮器11に導入し、該凝縮器11で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を第5切換弁20を介して第2減圧手段21に導入する。該第2減圧手段21で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を放熱用熱交換器22で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧ガス冷媒をアキュームレータ26を介して圧縮機11に吸引し、再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させる。
【0019】
これにより、前記加温用熱交換器19に導入した高圧高温ガス冷媒(ホットガス)と恒温水槽10内の流体とが熱交換を行い、温調対象物である恒温水槽10内の流体を加温するとともに、高圧高温ガス冷媒の温度が低下し、高圧高温ガス冷媒を凝縮させるための凝縮器11の負荷が低減し、凝縮器11からの排熱量が低減するので、凝縮器11周辺の温度上昇を抑えることができる。さらに、放熱用熱交換器22を凝縮器11の排風側に設置することにより、凝縮器11からの排熱を放熱用熱交換器22で吸収することができるので、周辺温度の上昇を更に抑えることができる。
【0020】
そして、温度検知部27により測定した温調対象物の温度があらかじめ設定した温度範囲内にあり、前記冷却用熱交換器16と前記加温用熱交換器19とで温調対象物の温度を前記温度範囲内に保持するときには、図4に示すように、第2切換弁14,第3切換弁17及び第4切換弁18のみを開いて保温運転状態C1とする。この保温運転状態C1では、圧縮機11で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第3切換弁17を介して加温用熱交換器19に導入し、該加温用熱交換器19から導出した高圧高温ガス冷媒を第4切換弁18と第2逆止弁25とを介して凝縮器13に導入する。該凝縮器13で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を前記第2切換弁14を介して第1減圧手段15に導入し、該第1減圧手段15で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を前記冷却用熱交換器16で蒸発させて低圧ガス冷媒とし、該低圧ガス冷媒を冷却用熱交換器16からアキュームレータ26を介して圧縮機11に吸引して再び圧縮し、高圧高温ガス冷媒として循環させる。
【0021】
これにより、前記冷却用熱交換器16の低温の低圧ガス冷媒による冷却と、前記加温用熱交換器19の高温のホットガスによる加温とのバランスにより、温調対象物を適度に加温又は冷却する状態にすることができるので、温調対象物の温度をあらかじめ設定された温度範囲内に保持することができる。
【0022】
このように、各切換弁を、温調対象物の温度に応じて切替開閉するだけの簡単な操作で、温調対象物が設定された温度の範囲に達するまでは、冷却運転状態A1又は加温運転状態B1を実行し、設定された温度の範囲内では、冷却しつつ加温する保温運転状態C1を実行することにより、温調対象物を設定された範囲内に維持することができる。また、各切換弁として汎用の電磁弁を使用することができるので、比例電磁弁等を用いてホットガスの流量調節を行うものに比べて装置の簡略化を図ることができ、温度検知部や弁開閉手段としても、ON/OFF信号を出力する簡単な構成のものを採用することができるので、装置コストを低減することができるとともに、電気ヒータを使用せず、圧縮機も定常回転を継続するので電力消費も削減でき、さらに、保守作業も容易となる。
【0023】
設定温度をT、ディファレンシャルを±tに設定したとき、温調対象物を冷却するための冷却運転状態A1は、温調対象物の測定温度が低下して下限温度(T−t)に到達したときに終了して保温運転状態C1に切り換わり、温調対象物を加温するための加温運転状態B1は、測定温度が上昇して上限温度(T+t)に到達したときに終了して保温運転状態C1に切り換わる。また、保温運転状態C1で運転中に、測定温度が低下して下限温度(T−t)を下回ると加温運転状態B1に切り換わり、測定温度が上昇して上限温度(T+t)を上回ると冷却運転状態A1に切り換わる。
【0024】
すなわち、測定温度が下限温度(T−t)と上限設定温度(T+t)との間にあって保温運転状態C1で運転を行っているときには、恒温水槽10の周辺温度や恒温水槽10内の流体の状態、冷却用熱交換器16と加温用熱交換器19とにおける冷却能力と加温能力とのバランスといった条件により、温調対象物の温度が変化しない釣合温度Tbが存在する。したがって、設定温度Tと釣合温度Tbとが等しければ、保温運転状態C1が長時間継続する状態となり、保温運転状態C1にて温調対象物の温度を設定温度付近に保持することができる。
【0025】
設定温度Tに対して釣合温度Tbが低いときに保温運転状態C1を行っていると、温調対象物の温度が釣合温度Tbに向かって次第に低下していくことになる。そして、温調対象物の温度が下限温度(T−t)を下回ると加温運転状態B1に切り換わり、温調対象物の加温を開始する。この加温によって温調対象物の温度が上限温度(T+t)に達すると、加温運転状態B1から保温運転状態C1に切り換わる。したがって、設定温度Tに対して釣合温度Tbが低いときには、加温運転状態B1と保温運転状態C1とが自動的に切り換わって温調対象物の温度を設定温度付近に保持する。
【0026】
一方、設定温度Tに対して釣合温度Tbが高いときに保温運転状態C1を行っていると、温調対象物の温度が釣合温度Tbに向かって次第に上昇していくことになる。そして、温調対象物の温度が上限温度(T+t)を上回ると冷却運転状態A1に切り換わり、温調対象物の冷却を開始する。この冷却によって温調対象物の温度が下限温度(T−t)に達すると、冷却運転状態A1から保温運転状態C1に切り換わる。したがって、設定温度Tに対して釣合温度Tbが高いときには、冷却運転状態A1と保温運転状態C1とが自動的に切り換わって温調対象物の温度を設定温度付近に保持する。
【0027】
このように、通常の運転状態では、加温運転状態B1と保温運転状態C1との切り換え、あるいは、冷却運転状態A1と保温運転状態C1との切り換えによって温調対象物の温度を設定温度付近に保持することができるので、保温運転状態C1からの切り換えに比べて状態変化が大きな冷却運転状態A1と加温運転状態B1との切り換えはほとんど生じることがなく、温調対象物の急激な温度変化が発生することを確実に回避することができる。
【0028】
さらに、温調対象物の急激な温度変化によって運転状態が冷却運転状態A1から加温運転状態B1に切り換わったときには、冷却用熱交換器16内に残る冷媒が徐々に蒸発して冷却状態をしばらく継続するので、加温用熱交換器19にホットガスが流入して加温用熱交換器19が急激に温度上昇しても、冷却用熱交換器16が冷却状態を継続している間は、温調対象物の急激な温度上昇を抑えることができる。
【0029】
また、温調対象物の急激な温度変化で運転状態が加温運転状態B1から冷却運転状態A1に切り換わったときには、加温用熱交換器19及び放熱用熱交換器22内に冷媒が残留しているため、運転状態切換直後は、冷却用熱交換器16に流入する冷媒量が少なくなり、冷却用熱交換器16の温度が急激に低下することを抑えることができる。
【符号の説明】
【0030】
10…恒温水槽、11…圧縮機、12…第1切換弁、13…凝縮器、14…第2切換弁、15…第1減圧手段、16…冷却用熱交換器、17…第3切換弁、18…第4切換弁、19…加温用熱交換器、20…第5切換弁、21…第2減圧手段、22…放熱用熱交換器、23…第6切換弁、24…第1逆止弁、25…第2逆止弁、26…アキュームレータ、27…温度検知部、28…弁開閉手段、A1…冷却運転状態、A2…冷媒回収経路、B1…加温運転状態、C1…保温運転状態

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮した高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を減圧した低圧液冷媒を冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器で温調対象物を冷却する冷却運転状態と、
圧縮した前記高圧高温ガス冷媒を加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を放熱用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記加温用熱交換器で温調対象物を加温する加温運転状態と、
圧縮した前記高圧高温ガス冷媒を前記加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を前記冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器と前記加温用熱交換器とで温調対象物の温度をあらかじめ設定された温度範囲内に保持する保温運転状態とを有するとともに、
前記温調対象物の温度を測定し、測定した温度に基づいて前記冷却運転状態、前記加温運転状態及び前記保温運転状態のいずれか一つの運転状態を選択することを特徴とする温度制御方法。
【請求項2】
圧縮機で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第1切換弁を介して凝縮器に導入し、該凝縮器で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を第2切換弁を介して第1減圧手段に導入し、該第1減圧手段で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を冷却用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を前記圧縮機に吸引して再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器で温調対象物を冷却する冷却運転状態と、
前記圧縮機で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第3切換弁を介して加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を第4切換弁を介して前記凝縮器に導入し、該凝縮器で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を第5切換弁を介して第2減圧手段に導入し、該第2減圧手段で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を放熱用熱交換器で蒸発させて低圧低温ガス冷媒とし、該低圧低温ガス冷媒を前記圧縮機に吸引して再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記加温用熱交換器で温調対象物を加温する加温運転状態と、
前記圧縮機で圧縮した高圧高温ガス冷媒を第3切換弁を介して加温用熱交換器に導入し、該加温用熱交換器から導出した高圧高温ガス冷媒を第4切換弁を介して前記凝縮器に導入し、該凝縮器で前記高圧高温ガス冷媒を凝縮させて高圧液冷媒とし、該高圧液冷媒を前記第2切換弁を介して前記第1減圧手段に導入し、該第1減圧手段で前記高圧液冷媒を減圧して低圧液冷媒とし、該低圧液冷媒を前記冷却用熱交換器で蒸発させて低圧ガス冷媒とし、該低圧ガス冷媒を前記圧縮機に吸引して再び圧縮して高圧高温ガス冷媒として循環させることにより、前記冷却用熱交換器と前記加温用熱交換器とで温調対象物の温度をあらかじめ設定された温度範囲内に保持する保温運転状態とを有するとともに、
前記温調対象物の温度を測定して前記各切換弁を開閉作動させる弁開閉制御手段により、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第1設定温度より高いときには、第1切換弁及び第2切換弁のみを開いて前記冷却運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第2設定温度より低いときには、第3切換弁、第4切換弁及び第5切換弁のみを開いて前記加温運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度が前記第1設定温度と前記第2設定温度との間にあるときには、第2切換弁、第3切換弁及び第4切換弁のみを開いて前記保温運転状態とすることを特徴とする温度制御方法。
【請求項3】
前記加温用熱交換器と前記圧縮機の吸引側との間に第6切換弁を備えた冷媒回収経路を設け、前記冷却運転状態のときに、前記第6切換弁を開いて前記加温用熱交換器内の冷媒を前記冷媒回収経路を介して圧縮機に回収することを特徴とする請求項2記載の温度制御方法。
【請求項4】
循環する冷媒を圧縮する圧縮機と、該圧縮機の吐出側に第1切換弁を介して接続した凝縮器と、該凝縮器の出口側に第2切換弁及び第1減圧手段を介して接続した冷却用熱交換器とを備え、該冷却用熱交換器の出口側と前記圧縮機の吸引側とを接続した冷凍サイクルに、入口側が前記圧縮機の吐出側と前記第1切換弁との間に第3切換弁を介して接続し、出口側が前記凝縮器と前記第1切換弁との間に第4切換弁を介して接続した加温用熱交換器と、入口側が前記凝縮器の出口側と前記第2切換弁との間に第5切換弁及び第2減圧手段を介して接続し、出口側が前記圧縮機の吸引側に接続した放熱用熱交換器とを備えるとともに、前記温調対象物の温度を測定して、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第1設定温度より高いときには、第1切換弁及び第2切換弁のみを開いて冷却運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度があらかじめ設定した第2設定温度より低いときには、第3切換弁、第4切換弁及び第5切換弁のみを開いて加温運転状態とし、測定した前記温調対象物の温度が前記第1設定温度と前記第2設定温度との間にあるときには、第2切換弁、第3切換弁及び第4切換弁のみを開いて保温運転状態とする弁開閉制御手段を備えていることを特徴とする温度制御装置。
【請求項5】
前記加温用熱交換器と前記圧縮機の吸引側とを第6切換弁を介して接続し、前記冷却運転状態のときに、前記第6切換弁が開いて前記加温用熱交換器内の冷媒を前記冷媒回収経路を介して圧縮機に回収する冷媒回収経路を備えていることを特徴とする請求項4記載の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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