説明

温度制御装置

【課題】光学素子の中心部分の温度を精度よく制御できる温度制御装置を提供する。
【解決手段】第1の主面及び第1の主面と対向する第2の主面を有する光学素子の温度制御装置であって、第1の主面に一定の接触熱抵抗で接する第1の筐体と、第1の筐体と第1の主面とが接する面積と等しい面積で、第2の主面に一定の接触熱抵抗で接する第2の筐体と、第1の筐体の温度を調整する温度調整素子と、第1の筐体の温度を測定する第1の温度測定素子と、第2の筐体の温度を測定する第2の温度測定素子と、第1の温度測定素子により測定された第1の筐体の測定温度と第2の温度測定素子により測定された第2の筐体の測定温度との平均値を光学素子の温度として、平均値が予め設定された設定値であるように温度調整素子を制御して第1の筐体の温度を調整させる制御装置とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の温度を制御する温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
波長変換素子などの光学素子の温度を制御する方法として、熱電素子などを光学素子に接触させる方法が採られている。例えば、光学素子を熱伝導率の良い筐体で挟んで固定し、熱電素子によって一方の筐体の温度を制御することによって、光学素子の温度を制御する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−305592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記方法は一方の筐体の温度をモニタしているにすぎず、周囲の環境温度などによっては光学素子の下面の温度と上面の温度に大きなズレが生じるおそれがある。これは、一方の筐体の温度をモニタするだけでは、対流などの影響を考慮することが困難であり、光学素子の中心温度を精度よく制御することができないためである。光学素子の一方の面のみの温度をモニタした場合に生じるモニタ温度と光学素子の実際の温度とのズレは、光学素子の特性に大きな影響を及ぼす。
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明は、光学素子の中心部分の温度を精度よく制御できる温度制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、第1の主面及び第1の主面と対向する第2の主面を有する光学素子の温度制御装置であって、(イ)第1の主面に一定の接触熱抵抗で接する第1の筐体と、(ロ)第1の筐体と第1の主面とが接する面積と等しい面積で、第2の主面に一定の接触熱抵抗で接する第2の筐体と、(ハ)第1の筐体の温度を調整する温度調整素子と、(ニ)第1の筐体の温度を測定する第1の温度測定素子と、(ホ)第2の筐体の温度を測定する第2の温度測定素子と、(ヘ)第1の温度測定素子により測定された第1の筐体の測定温度と第2の温度測定素子により測定された第2の筐体の測定温度との平均値を光学素子の温度として、平均値が予め設定された設定値であるように温度調整素子を制御して第1の筐体の温度を調整させる制御装置とを備える温度制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光学素子の中心部分の温度を精度よく制御できる温度制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態に係る温度制御装置の構成を示す模式図である。
【図2】環境温度と第1の筐体の温度差と、第1の筐体と第2の筐体の温度差との関係を示すグラフである。
【図3】第1の筐体と第2の筐体の温度差を説明するためのモデルを示す模式図である。
【図4】光学素子のSHG光出力の温度特性を示すグラフである。
【図5】本発明の実施形態の変形例に係る温度制御装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係等は現実のものとは異なることに留意すべきである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0010】
又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る光学素子の温度制御装置10は、第1の主面101及び第1の主面101と対向する第2の主面102を有する光学素子100の温度制御装置である。図1に示すように、温度制御装置10は、光学素子100の第1の主面101に接する第1の筐体11と、光学素子100の第2の主面102に接する第2の筐体12と、第1の筐体11の温度を調整する温度調整素子13と、第1の筐体11の温度を測定する第1の温度測定素子14と、第2の筐体12の温度を測定する第2の温度測定素子15と、温度調整素子13を制御する制御装置16とを備える。制御装置16は、第1の温度測定素子14により測定された第1の筐体11の測定温度と第2の温度測定素子15により測定された第2の筐体12の測定温度との平均値を光学素子100の温度として、この平均値が予め設定された設定値であるように温度調整素子13を制御して第1の筐体11の温度を調整させる。この設定値は、例えば光学素子100の温度特性に応じて最も特性がよい温度などに設定される。光学素子100は、例えば波長変換素子などである。
【0012】
第1の筐体11は、第1の主面101に一定の接触熱抵抗h1で接する。また、第2の筐体12は、第1の筐体11と第1の主面101とが接する面積と等しい面積で、第2の主面102に一定の接触熱抵抗h2で接する。そして、接触熱抵抗h1と接触熱抵抗h2とが等しいように、光学素子100が第1の筐体11と第2の筐体12とで挟まれて支持される。
【0013】
第1の筐体11と第2の筐体12は、熱伝導率の高い例えば同一の材料からなる。第1の筐体11と第2の筐体12には、アルミニウム(Al)合金材や黄銅などを採用可能である。
【0014】
第1の筐体11の内部又は表面に第1の温度測定素子14が配置され、第1の温度測定素子14によって第1の筐体11の温度が測定される。第1の温度測定素子14によって測定される第1の筐体11の測定温度を、以下において「第1の測定温度TM1」という。同様に、第2の筐体12の内部又は表面に第2の温度測定素子15が配置され、第2の温度測定素子15によって第2の筐体12の温度が測定される。第2の温度測定素子15によって測定される第2の筐体12の測定温度を、以下において「第2の測定温度TM2」という。例えば、第1の筐体11や第2の筐体12に孔をあけてサーミスタを挿入することにより、中心部分の温度を測定できるようにする。
【0015】
第1の筐体11と第2の筐体12の熱伝導率は高いため、光学素子100の第1の主面101の温度は第1の測定温度TM1に等しく、光学素子100の第2の主面102の温度は第2の測定温度TM2に等しいとみなすことができる。
【0016】
温度調整素子13には、例えばペルチェ素子などの熱電素子を採用可能である。熱電素子を温度調整素子13に使用した場合、図1に示すように、電流コントローラ131によって温度調整素子13に供給される電流ST大きさに応じて、第1の筐体11の温度が調整される。制御装置16は、第1の測定温度TM1と第2の測定温度TM2に基づいて、温度調整素子13に供給される電流STを信号Scによってコントロールし、光学素子100の温度を制御する。
【0017】
温度制御装置10では、第1の筐体11と第2の筐体12を同一材料で形成し、第1の筐体11と第2の筐体12のそれぞれが光学素子100に接触する面積を等しくする。このとき、第1の筐体11と光学素子100の第1の主面101との接触熱抵抗h1と、第2の筐体12と光学素子100の第2の主面102との接触熱抵抗h2とが等しくなるように温度制御装置10を設計することにより、第1の測定温度TM1と第2の測定温度TM2の平均値が光学素子100の膜厚方向の中心部分の温度とみなせる。接触熱抵抗h1と接触熱抵抗h2が等しくなるようにするには、例えば第1の筐体11と第2の筐体12の光学素子100に接する面の面精度と表面粗さを等しくすればよい。
【0018】
第1の筐体11と第2の筐体12のそれぞれが光学素子100に接触する面積を等しくし、且つ、接触熱抵抗h1と接触熱抵抗h2とを等しくすることにより、制御装置16は、第1の測定温度TM1と第2の測定温度TM2との平均値を光学素子100の温度として用いて温度調整素子13を制御し、光学素子100の温度を所望の設定値に調整できる。例えば、第1の測定温度TM1と第2の測定温度TM2との平均値が光学素子100の性能が最もよく発揮される温度になるように、制御装置16は温度調整素子13を制御する。
【0019】
以下に、本発明の実施形態に係る温度制御装置10による光学素子100の温度制御の効果について説明する。
【0020】
図2に示したグラフは、制御装置16による光学素子100の温度制御を行わない場合における、第1の筐体11と第2の筐体12の温度差ΔT12と、第1の筐体11の温度と環境温度Taの温度差ΔT1aとの関係を示す。ここで「環境温度」とは温度測定時の光学素子100及び温度制御装置10の周囲の温度であり、例えば室内空気の温度である。このとき、光学素子100の大きさは長さ15mm、幅2mm、厚み1mmである。第1の筐体11と第2の筐体12の材質はAl合金からなり、第2の筐体12の大きさは長さ20mm、幅30mm、厚み3mmであり、第1の筐体11は第2の筐体12に対して十分に大きいとする。
【0021】
図2に示した温度差ΔT12が生じる要因は、第1の筐体11と第2の筐体12間の熱伝導・熱伝達によるものと、周囲の対流によるものがある。この点について、図3に示すモデルを用いて以下に説明する。なお、光学素子内部には熱源が無いとする。
【0022】
図3に示したモデルには、第1の筐体11Mにのみ温度測定素子14Mが配置され、第2の筐体12Mには温度測定素子が配置されていない。つまり、第2の筐体12Mの温度はモニタされず、第1の筐体11Mの温度のみがモニタされる。図3において、熱量Qの流れを矢印で示した。
【0023】
光学素子100Mの周囲の流体、例えば空気の温度を環境温度Ta、光学素子100Mの膜厚方向の中心部分の温度を中心温度Tsとすれば、環境温度Taと中心温度Tsが等しくない場合、光学素子100Mと流体との間に熱伝達が起こる。簡単のために一次元モデルで説明する。
【0024】
光学素子100Mを貫通する熱量Qは、第1の主面101の温度をTS1、第2の主面102の温度をTS2、光学素子100の半分の厚みでの熱抵抗をhsとして、以下の式(1)で表される:

Q=(TS1−TS2)/2hs ・・・(1)

一方、第1の筐体11Mと第2の筐体12Mとの温度差ΔT12は、第1の筐体11Mの温度をT1、第2の筐体12Mの温度をT2として式(2)で表される:

ΔT12=T1−T2=Q×(h1+h2+2hs) ・・・(2)

式(2)で、h1は第1の筐体11Mと光学素子100Mの第1の主面101との接触熱抵抗、h2は第2の筐体12Mと光学素子100Mの第2の主面102との接触熱抵抗である。なお、第1の筐体11Mと第2の筐体12Mは熱伝導率の高い材料からなるため、第1の筐体11Mと第2の筐体12Mの温度はそれぞれ一様である。
【0025】
第1の筐体11Mの温度T1と流体の温度である環境温度Taとの温度差ΔT1aとの関係は、第2の筐体12Mと流体間の熱抵抗をhaとして式(3)で表される:

ΔT1a=T1−Ta=Q×(h1+h2+2hs+ha) ・・・(3)

熱抵抗haは、層流領域では小さく、乱流領域では大きい。式(2)、(3)から、以下の式(4)が求まる:

T1−T2={(h1+h2+2hs)/(h1+h2+2hs+ha)}×(T1−Ta) ・・・(4)

1、h2、hsは定数なので、h1+h2+2hs=Aとして式(5)が得られる:

T1−T2={1/(1+ha/A)}×(T1−Ta) ・・・(5)

式(5)に示すように、流体と第1の筐体11との温度差が小さい層流領域では、熱抵抗haが小さいため、第1の筐体11の温度T1と流体の温度である環境温度Taとの温度差ΔT1aに対する第1の筐体11と第2の筐体12との温度差ΔT12の傾きが大きい。一方、流体と第1の筐体11との温度差が大きい乱流領域では、熱抵抗haが大きいため、温度差ΔT1aに対する温度差ΔT12の傾きが小さい(図2参照。)。なお、環境温度Taと第1の筐体11の温度T1との温度差が大きい乱流領域で温度差ΔT12のばらつきがあるのは、乱流による揺らぎが影響しているためである。
【0026】
上記のように、第2の筐体12の温度をモニタせずに第1の筐体11の温度をモニタするだけでは、対流などの影響を考慮することが困難である。その結果、光学素子100の中心部分の温度を正確に把握し、精度よく温度を制御することができない。この場合は、光学素子100の特性に大きな影響が及ぶ。例えば、波長変換素子から得られる光出力は、波長変換素子の温度変化に大きく影響を受ける。一例として、素子長15mmのMgLN波長変換素子の場合、図4に示すように、位相整合温度(波長変換素子から得られる光出力が最大となる温度)から1℃ずれただけで、光学素子の第二高調波発生光(SHG光)の出力が半分に低下する。このように、光学素子100の温度を正確に制御できない場合、十分な性能が得られない。
【0027】
これに対し、図1に示した光学素子100の温度制御装置10では、h1=h2である。このため、式(2)から:

T1−T2=2Q×(h1+hs) ・・・(6)

が成立する。なお、T1=TM1、T2=TM2である。また、第1の筐体11と光学素子100の膜厚方向の中心部分での中心温度Tsとの温度差T1−Tsは、式(7)で表される:

T1−Ts=Q×(h1+hs) ・・・(7)

よって、以下の式(8)が成立する:

Ts=(T1+T2)/2=(TM1+TM2)/2 ・・・(8)

式(8)に示されるように、中心温度Tsは熱抵抗haに依存しない。つまり、図2に示した層流領域においても、乱流領域で揺らぎが生じている場合においても、第1の測定温度TM1と第2の測定温度TM2の平均値が光学素子100の中心部分の温度である。
【0028】
第2の筐体12の温度T2は環境温度Taに依存するが、例えば0℃〜50℃程度である。第1の筐体11の温度T1は温度調整素子13の性能に依存するが、例えば20℃〜200℃程度に設定できるようにする。第1の筐体11の温度T1を設定する温度調整素子13の性能は、環境温度Taや光学素子100の性能を発揮させる温度によって決定される。
【0029】
温度制御装置10によれば光学素子100の中心付近の温度を制御できるが、環境温度Taによっては光学素子100自体に温度分布が生じるおそれがある。例えば周囲の温度と光学素子100に所望の温度との差が大きい場合などである。しかし、例えば図2に示すように光学素子100の厚みが1mmであるときの温度差は1℃であり、光のビーム径は一般に200μm程度であるため、実際にビームが通過する範囲では0.2℃程度しか温度差は生じない。このため、光学素子100自体に温度分布が生じた場合に、光学素子100の特性に大きな影響はない。
【0030】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る温度制御装置10によれば、環境温度Taや対流の影響によらず、光学素子100の中心部分の温度を精度よく制御できる。その結果、光学素子100の性能を十分に発揮させることができる。なお、温度制御装置10では温度調整素子13を1個しか使用しないため、小型化が可能である。
【0031】
また、温度制御装置10が光学素子100の2つの面のみに接する構成であるため、第1の筐体11と第2の筐体12の間隔を可変にすることにより、任意の大きさの光学素子100を支持し、光学素子100の温度を制御することが可能である。例えば図5に示すように、第1の筐体11と第2の筐体12との間にバネ17を配置し、ピン18によってバネ17を第1の筐体11及び第2の筐体12に固定する。
【0032】
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0033】
上記の説明では、光学素子100や温度制御装置10の周囲が空気であったが、空気以外であっても、例えば窒素(N2)ガス中などのように周囲に対流が生じる環境である場合において、温度制御装置10によれば光学素子100の温度を精度よく制御することができる。
【0034】
上記のように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0035】
10…温度制御装置
11…第1の筐体
12…第2の筐体
13…温度調整素子
14…第1の温度測定素子
15…第2の温度測定素子
16…制御装置
100…光学素子
101…第1の主面
102…第2の主面
131…電流コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主面及び前記第1の主面と対向する第2の主面を有する光学素子の温度制御装置であって、
前記第1の主面に一定の接触熱抵抗で接する第1の筐体と、
前記第1の筐体と前記第1の主面とが接する面積と等しい面積で、前記第2の主面に前記一定の接触熱抵抗で接する第2の筐体と、
前記第1の筐体の温度を調整する温度調整素子と、
前記第1の筐体の温度を測定する第1の温度測定素子と、
前記第2の筐体の温度を測定する第2の温度測定素子と、
前記第1の温度測定素子により測定された前記第1の筐体の測定温度と前記第2の温度測定素子により測定された前記第2の筐体の測定温度との平均値を前記光学素子の温度として、前記平均値が予め設定された設定値であるように前記温度調整素子を制御して前記第1の筐体の温度を調整させる制御装置と
を備えることを特徴とする温度制御装置。
【請求項2】
前記温度調整素子が熱電素子であって、前記制御装置が前記温度調整素子に供給される電流を制御することによって前記第1の筐体の温度を調節させることを特徴とする請求項1に記載の温度制御装置。
【請求項3】
前記第1の筐体と前記第2の筐体の間隔が可変であることを特徴とする請求項1又は2に記載の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−50640(P2013−50640A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189442(P2011−189442)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】