説明

温度勾配付加型コアホルダー装置及びこれを用いた成分産出挙動時間変化測定方法

【課題】 特に寒冷な地域や、海底下などのコアサンプルを用いた測定に対して、地圧・静水圧をコアに作用させつつ、低温から高温まで網羅した温度勾配をコアに付加する装置において、有効な温度調整機構を有する温度勾配付加型コアホルダー装置及びそれを用いた成分分析方法を提供する。
【解決手段】
耐圧構造の温調ジャケットの内側に、2つのエンドキャップで固定された円筒状のコア試料を有し、温調ジャケットの内側に拘束圧加圧用流体を圧入すし、その外部に拘束圧加圧用流体を圧入・排出できる高圧注入装置を有し、かつ、内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料より発生するガス、及び各種成分を抽出して取り出すこと。温調ジャケット中に、所望の箇所に複数の独立空間を形成させ、当該所望の箇所の独立空間にそれぞれ所望の温度の熱媒体を、弁を介して対流させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボーリング地質調査のコアサンプルを収めたコアホルダーに関し、より詳しくは、コアホルダーの温度調節装置及びこれを用いた成分産出挙動時間変化測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の技術では、地圧・静水圧をコアに作用させることが可能な装置(コアホルダー装置)であり、温調機能は持たないものが知られている(特許文献1)。
また、様々な全長のコア試料に簡便に対応できるよう、コアホルダー装置の圧力伝搬機構を改良したものであり、温調機能は持たないものが知られている(特許文献2)。
さらに、コア外側を被うスリーブを改良しコアとスリーブの密着性・気密性を向上させる供試体の製造方法が知られている(特許文献3)。

また、低温から高温まで網羅した温度勾配をコアに付加する装置があるが、地圧・静水圧をコアに付加する機能(コアホルダー機能)は持たない(非特許文献1)。
さらに、地圧・静水圧をコアに作用させつつ、ヒーターにより熱を与える装置があるが、低温の制御機能は持たない(非特許文献2)。
【0003】
メタンハイドレート(以下MHと記す。)は、日本近海の地層中に大量に存在することが確認され、石油や石炭に替わる次世代のエネルギー資源として注目を浴びている。MHを資源として開発する場合、賦存原位置(海底下)においてMHを水と天然ガスに分解させ、発生したガスを回収する手法が有効と考えられている。MHを分解させるためには、1)熱を与える2)圧力を低下させる3)MHを分解させる効果を持つ添加物を注入する、などの操作をMHに施す必要がある。したがって、これらの操作に対するMHの分解挙動は非常に重要な基礎データとなる。
また、賦存原位置(海底下)においては、MH層に地圧・静水圧が作用しているため、実験室でその状態を模擬する必要が生じる。さらには、MHの分解反応は吸熱反応であるため、分解の過程においてコア下端の未分解の領域と、既に分解が完了した上流の領域に温度勾配が生じ、それが時々刻々変化する。したがって、コアの上流側と下流側で異なった温度で温度調整をする必要が生じる。また、その温度域は低温(−10℃以下)から高温(80℃以上)まで網羅する必要がある。
地圧・静水圧をコアに作用させることが可能な装置(コアホルダー装置)は、一般に市販されており(TEMCO.INC)石油業界などでは一般的である。
低温から高温まで網羅した温度勾配をコア試料に付加する装置(コアホルダー機能は持たない)は、坂本らにより開発されている。
地圧・静水圧をコアに作用させつつ、ヒーターにより熱を与える装置は、石油開発における火攻法などの実験で用いられている。
しかしながら、地圧・静水圧をコアに作用させつつ、低温から高温まで網羅した温度勾配をコアに付加する装置はこれまで存在しなかった。
【特許文献1】米国特許第 4,753,107号公報
【特許文献2】米国特許第4,996,872 号公報
【特許文献3】特開昭62-250327号公報
【非特許文献1】SAKAMOTO Y, KOMAI T, KAWABE Y, TENMA N and YAMAGUCHI T “GasHydrate Extraction from Marine Sediments by Heat Stimulation Method” TheProceedings of the ISOPE-2004, p52-55 (2004)
【非特許文献2】CLARA C, DURANDEAU M, QUENAULT G and NGUYEN T “LaboratoryStudies for Light Oil Air Injection Projects: Potential Application in HandilField” SPE 54377
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、MHをはじめとする鉱物資源のコアサンプルを対象として開発され、コアサンプル中で熱の移動を伴う反応を扱う実験(石油産出における、水蒸気攻法、火攻法など)、特に寒冷な地域や、海底下などのコアサンプルを用いた測定に対して、地圧・静水圧をコアに作用させつつ、低温から高温まで網羅した温度勾配をコアに付加する装置において、有効な温度調整機構を有する温度勾配付加型コアホルダー装置及びそれを用いた成分産出挙動時間変化測定方法提供する。


【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために本発明は、コアホルダー機能を備え、コアサンプルに拘束圧と静水圧を独立に作用させることを可能とする。さらに、これらの周囲をいくつかの部屋に仕切られた温調ジャケットにより覆い、それぞれの部屋を独立に温・冷媒で温調することで、任意の箇所を低温から高温まで任意の温度に調整することを可能とする。
すなわち、本発明は、耐圧構造の温調ジャケットの内側に、弾性体スリーブを保持し、当該弾性体スリーブ中に、2つのエンドキャップで固定された円筒状のコア試料を有し、温調ジャケットの内側に拘束圧加圧用流体を圧入する空間を有し、その外部に拘束圧加圧用流体を圧入・排出できる高圧注入装置を有し、かつ、一方のエンドキャップから他方のエンドキャップに向けて、コア内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料より発生するガス、及び各種成分を抽出して取り出すことを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置において、拘束圧加圧用流体が接する温調ジャケット中に、所望の箇所に複数の独立空間を形成させ、当該所望の箇所の独立空間にそれぞれ所望の温度の熱媒体を、弁を介して循環させることを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置である。
また、本発明においては、弁が三方電磁弁とすることができる。
さらに、本発明においては、 弾性体スリーブと温調ジャケット内壁間の空間が、流体対流防止フィンによって幾つかの部分に仕切ることが出来る。
また、本発明は、 耐圧構造の温調ジャケットの内側に、弾性体スリーブを保持し、当該弾性体スリーブ中に、2つのエンドキャップで固定された円筒状のコア試料を有し、温調ジャケットの内側に拘束圧加圧用流体を圧入する空間を有し、その外部に拘束圧加圧用流体を圧入・排出できる高圧注入装置を有し、かつ、一方のエンドキャップから他方のエンドキャップに向けて、内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料より発生するガス、及び各種成分を抽出して取り出すことを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置において、拘束圧加圧用流体が接する温調ジャケット中に、所望の箇所に複数の独立空間を形成させ、当該所望の箇所の独立空間にそれぞれ所望の温度の熱媒体を、弁を介して循環させることを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置を用いて、コア試料の特定箇所に対応する独立空間の温度・圧力を、特定物質の分解条件・抽出条件等に調整し、内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料中の熱・物質移動を任意に制御しつつ特定成分産出挙動の時間変化を測定することを特徴とする、成分産出挙動時間変化測定方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の温度勾配付加型コアホルダー装置は、それぞれの部屋を独立に温・冷媒で温調することで、任意の箇所を低温から高温まで任意の温度に温調可能であるので円筒状のコア試料の所望の箇所において、コア試料中の熱・物質移動を任意に制御しつつ特定成分産出挙動の時間変化を精密に測定することができる。
さらに、本発明の温度勾配付加型コアホルダー装置は、ゴムスリーブ周囲の高圧流体もジャケットの仕切り部分の位置で仕切られており、高圧流体の対流による熱伝達を最小限に押さえることが出来るので、精密な熱移動の制御が可能である。
また、本発明の、成分産出挙動時間変化測定方法を用いれば、コア試料中の熱・物質移動を任意に制御しつつ精密な特定成分産出挙動の時間変化を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で用いる典型的な装置を図1に示す。耐熱性ゴムなどにより作成された弾性体スリーブ1に、ボーリング等により採取した円筒状のコア試料3を封入し、コア試料3の両端をエンドキャップ2で封止する。両端のエンドキャップ2には、コア試料中の成分を抽出して取り出すための成分抽出用の流体を通すパイプ等を通す穴が形成されている。内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体は、液体でも気体でも良い。拘束圧加圧用流体5を圧入・排出できる高圧注入装置を用いて、弾性体スリーブ1と耐圧構造の温調ジャケット4の間の空間に拘束圧加圧用流体5を圧入して、圧力0〜30MPa程度の拘束圧を実現することが出来る。
【0008】
流体対流防止フィン6を、弾性体スリーブと温調ジャケット内壁との間に設けることが出来る。流体対流防止フィン6を設けることにより、熱移動を精密に制御することが出来る。
本発明の温度勾配付加型コアホルダー装置は、拘束圧加圧用流体が接する温調ジャケット中に、所望の箇所に複数の独立空間を形成させ、当該所望の箇所の独立空間にそれぞれ所望の温度の熱媒体を、弁を介して循環させることができる。
所望の独立空間には、三方電磁弁7を用いて、所望の温度の冷媒若しくは熱媒を循環させることが出来、それぞれの独立空間を独立に温・冷媒で温調することで、任意の箇所を低温から高温まで任意の温度に温調可能である。
調節可能な温度は、−80℃〜200℃程度を目安とする。
このようにすることにより、コア試料中の熱・物質移動を任意に制御しつつ精密な特定成分産出挙動の時間変化を測定することができる。
【0009】
本発明では、例えば特定の地層をターゲットにして、特定の独立空間のみをメタンハイドレートの特定の圧力下における分解温度、若しくは安定温度に合わせて、メタンハイドレートの含有量の検知、及びガス産出速度の定量評価をすることが出来る。以下、本発明について実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
図1に示す装置を用いて、MHコア試料に分解反応を起こさせ、分解による発生ガス産出量、及びコア内部温度・外部温度の時間変化を測定した。MHコアは人工的に合成した模擬コアで、豊浦標準砂中で純水とメタンガスよりMHを生成させることにより作製した。分解は、MHコア全体を初期条件13.5℃・10MPaに調整した後、上流より流速5ml/minで40℃に温調した純水を圧入した。実施例1では、時間経過と共に上昇するコア内部温度にコア外部温度を追随させる操作(温度勾配操作)をした。すなわち、圧入水の熱が外部へ逃げる熱損失が発生しないように操作した。MHの分解により下流からガスが産出され、その積算量の時間変化、およびコア内部の温度変化を測定した。コア内部、外部及び圧入温度の時間変化を図2に示す。それぞれの温度センサーはコア上端から5、15、25、35、45cmの部分に設置している。図2より、導入温度はほぼ40℃で一定であることがわかる。はじめにコア内温(5cm)の温度が上昇し、ほぼ同時にコア外温(5cm)の温度が変化していることが分かる。その後時間の経過とともに15、25、35、45cmの順でコア内温と外温が同様に上昇していることが分かる。最高到達温度は約40℃であり、圧入水の熱が定常的に下流へ移動しており、精密な分解挙動測定が可能となっている。
次に産出ガス量の時間変化を図4に示す。分解は時間とともに速やかに進み、開始から約180minでコア試料中のMHが完全に分解し、ガスの産出が停止した。
【比較例1】
【0011】
比較の為、MHコアに温度勾配を付加する操作をしない従来の装置・手法に相当する実施例を示す。実施例2においては、MHコア試料・初期条件・圧入速度・圧入温度などは実施例1の場合と同様にした。ただし、コア外部の温度をコア内部温度に追随させず、初期条件(13.5℃)のまま固定した。すなわち、MHコアに温度勾配を付加する操作をしない、従来までの装置・手法に相当する。コア内部、外部及び圧入温度の時間変化を図3に示す。図3より、導入温度はほぼ40℃で一定であることがわかる。はじめにコア内温(5cm)の温度が上昇し、それから遅れるかたちでコア外温(5cm)が上昇した。コア内温(5cm)の最高到達温度は約30℃、コア外温(5cm)の最高到達温度は約20℃で導入温度の40℃には到達しなかった。これは圧入水の熱が外部に逃げている為であり、熱が効率よく下流へ伝搬していないことを示している。時間の経過とともにコア内温(10cm)の温度が上昇するが、最高到達温度は約20℃であり、コア内温(5cm)と比べても低い温度になっている。すなわち圧入水の熱が外部に逃げるため、下流に行くにしたがって温度上昇が小さくなっており、精密な分解挙動測定が困難になっていることがわかる。
次に産出ガス量の時間変化を図4に示す。時間とともに分解は進行するが、その速度は実施例1の場合と比べて遅く、開始から約180minの時点でMH全量の約1/4〜1/3程度しか分解していない。これにより圧入水の熱が十分にMH分解に使われず、相当量が外部へ流出していることがわかる。
以上により、温度勾配付加型コアホルダー装置及びこれを用いた成分産出挙動時間変化測定方法の有効性が明らかである。

【産業上の利用可能性】
【0012】
本発明の本発明の温度勾配付加型コアホルダー装置及びそれを用いた成分産出挙動時間変化測定方法は、精密分析が行えるばかりか、多種類の鉱物資源の探索に応用できるので産業界へのインパクトは極めて大きい。

【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】温度勾配付加型コアホルダー装置
【図2】温度匂配操作をした場合の各位置の温度変化(新規装置・手法)
【図3】温度匂配操作をしない場合の各位置の温度変化(従来装置・手法)
【図4】温度匂配操作がガス産出挙動に与える影響
【符号の説明】
【0014】
1ゴムスリーブ
2エンドキャップ
3コア試料
4温度調節用ジャケット
5拘束圧加圧用流体
6加圧流体対流防止フィン
7三方電磁弁
8冷媒又は熱媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐圧構造の温調ジャケットの内側に、弾性体スリーブを保持し、当該弾性体スリーブ中に、2つのエンドキャップで固定された円筒状のコア試料を有し、温調ジャケットの内側に拘束圧加圧用流体を圧入する空間を有し、その外部に拘束圧加圧用流体を圧入・排出できる高圧注入装置を有し、かつ、一方のエンドキャップから他方のエンドキャップに向けて、コア内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料より発生するガス、及び各種成分を抽出して取り出すことを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置において、拘束圧加圧用流体が接する温調ジャケット中に、所望の箇所に複数の独立空間を形成させ、当該所望の箇所の独立空間にそれぞれ所望の温度の熱媒体を、弁を介して還流させることを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置。
【請求項2】
弁が三方電磁弁である請求項1に記載した温度勾配付加型コアホルダー装置。
【請求項3】
弾性体スリーブと温調ジャケット内壁間の空間が、流体対流防止フィンによって幾つかの部分に仕切られていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した温度勾配付加型コアホルダー装置。
【請求項4】
耐圧構造の温調ジャケットの内側に、弾性体スリーブを保持し、当該弾性体スリーブ中に、2つのエンドキャップで固定された円筒状のコア試料を有し、温調ジャケットの内側に拘束圧加圧用流体を圧入する空間を有し、その外部に拘束圧加圧用流体を圧入・排出できる高圧注入装置を有し、かつ、一方のエンドキャップから他方のエンドキャップに向けてコア内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料より発生するガス、及び各種成分を抽出して取り出すことを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置において、拘束圧加圧用流体が接する温調ジャケット中に、所望の箇所に複数の独立空間を形成させ、当該所望の箇所の独立空間にそれぞれ所望の温度の熱媒体を、弁を介して循環させることを特徴とする温度勾配付加型コアホルダー装置を用いて、コア試料の特定箇所に対応する独立空間の温度・圧力を、特定物質の分解条件・抽出条件等に調整し、内部成分の相転移、及び成分抽出用の流体を圧入し、コア試料中の熱・物質移動を任意に制御しつつ特定成分産出挙動の時間変化を測定することを特徴とする成分産出挙動時間変化測定方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−336435(P2006−336435A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166253(P2005−166253)
【出願日】平成17年6月6日(2005.6.6)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、経済産業省委託研究「メタンハイドレード開発促進事業(生産手法開発に関する研究開発)」産業活力特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】