説明

温度差発電システム

【課題】 ランニングコストが安価で発電効率の良好な寒冷地における温度差発電システムを提供することである。
【解決手段】 発電設備(12)と、発電設備に冷水を供給する冷水設備(30)と、発電設備に温水を供給する温水設備(40)とを備え、冷水設備が、堰(32)と、堰によって形成された空間に配置された氷層(34)と、氷層の上方に配置された水層(36)とを有する温度差発電システム(10)において、氷層との境界付近に位置する冷水を発電設備に供給するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温泉などから供給される温水と氷層で冷却された冷水との温度差を利用した温度差発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
寒暖の温度差を利用した温度差発電として実用化されているものとして、海洋温度差発電や温泉水温度差発電等がある。このうち海洋温度差発電システムは、海面(30°C程度)と深海(10°C以下)との間の20°C程度の温度差を利用するものであり、赤道付近の温暖な海域で実績がある。
【0003】
一方、北海道は、外気温が夏期に30°C以上、冬期に−20°C以下になる年較差の大きな地域であり、一年を通じて大きな温度差を確保することにより、温度差発電が可能となる。また、地域特性として、北海道には多数の温泉があり、温泉水の熱により1年を通じて比較的高い温度を確保することができる。
【0004】
本出願人は、このような温度差を利用した発電システムに関して、氷層を活用したシステムを提案している(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特願2009−65650号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、北海道は温度差発電を実施しやすい環境下にあるが、効率的に発電を行うためには、温度差の確保、すなわち冷水源と温水源をどのようにして確保するのかが問題となる。
【0007】
本発明は、上述の特許文献1に記載されたシステムを一層発展させたものであって、ランニングコストが安価で発電効率の良好な寒冷地における温度差発電システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願請求項1に記載された、発電設備と、発電設備に冷水を供給する冷水設備と、発電設備に温水を供給する温水設備とを備え、前記冷水設備が、堰と、堰によって形成された空間に配置された氷層と、氷層の上方に配置された水層とを有する温度差発電システムは、前記氷層との境界付近に位置する冷水を発電設備に供給するように構成されていることを特徴とするものである。
【0009】
本願請求項2に記載された温度差発電システムは、前記請求項1のシステムにおいて、前記温水設備が、地中に埋設される槽と、温泉井から槽内に供給される温水と、温水を前記発電設備に供給するための温水供給管路と、前記発電設備で熱交換された水を槽内に戻すための還元水用管路とを有していることを特徴とするものである。
【0010】
本願請求項3に記載された温度差発電システムは、前記請求項1又は2のシステムにおいて、前記氷層内に1又は複数段の金網が配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
本願請求項4に記載された温度差発電システムは、前記請求項3のシステムにおいて、前記金網上に重量物が載せられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、氷層との境界付近に位置する冷水を発電設備に供給することにより、より低温な冷水を提供して十分な温度差を確保することができ、発電効率を高めることが可能になる。また、還元水を利用することにより、蒸発器に供給する温水の量を確保することができ、発電効率を高めることが可能になる。さらに、氷層内に金網を配置したり、金網上に重量物を載せたりすることにより、冷水設備を保全することができる。本発明の発電システムは、構成が比較的簡単であるため、ランニングコストを低廉に抑えた状態で、発電を実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態に係る温度差発電システムの実施例について詳細に説明する。図1は、本発明の好ましい実施の形態に係る温度差発電システムの全体を模式的に示した図である。
【0014】
図1において全体として参照符号10で示される本発明の好ましい実施の形態に係る温度差発電システムは、発電設備12と、発電設備12に冷水を供給する冷水設備30と、発電設備12に温水を供給する温水設備40とを備えている。
【0015】
発電設備12は、蒸発器14と、蒸発器14に供給する作動流体を貯蔵するためのタンク16と、タービン18と、タービン18に連結された発電機20と、凝縮器22と、蒸発器14とタンク16とを接続する第1管路24aと、蒸発器14とタービン18とを接続する第2管路24bと、タービン18と凝縮器22とを接続する第3管路24cと、凝縮器22とタンク16とを接続する第4管路24dとを有しており、第1管路24aには、作動流体を圧送するためのポンプ24a1が配置されている。
【0016】
蒸発器14には、内部に伝熱面となる多数の薄板が配置されており、各薄板間には、2〜3mmの空隙があり、作動流体と温水との間で熱交換されるようになっている。また、凝縮器22にも、内部に伝熱面となる多数の薄板が配置されており、各薄板間には、2〜3mmの空隙があり、作動流体と冷水との間で熱交換されるようになっている。作動流体としては例えば、アンモニアと水とを所定の割合で混合したアンモニア液が使用される。なお、このような発電設備12の構成自体は公知である。
【0017】
冷水設備30は、堰32と、堰32によって形成された空間に配置された氷層34と、氷層34の上方に配置された水層36と、冷水を発電設備12に供給するための取水部38とを有している。冷水設備30は、春から秋にかけて発電に使用する作動流体を冷却するための冷水を発電設備12に供給するためのものである。
【0018】
図2は、冷水設備30の一例を示した模式図である。冷水設備30は、堰32によって形成された空間に給水して氷層34を形成する。この際、数十cm程度の水を張って氷層を形成し、これを繰り返すことによって数mの氷層を形成するのが好ましい。1年で形成される氷層厚さが計画厚さ以下である場合には、数年をかけて計画厚の氷層を形成するのが好ましい。このようにして形成された氷層34の上方に給水して、水層36を形成する。水層36の水は、取水および蒸発により減少するため、常時一定の水位を保持するように管理される。氷層34および水層36を形成するのに使用する水は、河川から取水したもの等が使用される。
【0019】
取水部38の取水口38aは、堰32の氷層34の上面より僅かに上の個所(換言すると、水層36の最下面付近の個所)に設置されており、氷層34との境界付近に位置する冷水を発電設備12に供給することができるようになっている。これは、冷水の密度が温水の密度よりも大きいため、水層36の下層により低温の冷水が貯留することを利用したものである。図3は、ダム貯留水の垂直方向の温度分布を示した図である。図3から、水深が深くなるにつれて水温が低下しているのが分かる。このような傾向は、流入量に比べて貯水容量が大きく、水の滞留時間が長いダムにおいて、とりわけ顕著である。本発明においては、氷層34との境界付近に位置する、より低温の冷水を発電設備12に供給することにより、温水との温度差を大きくすることができ、発電効率を高めることが可能になる。なお、図1において、参照符号39、39aは、冷水を発電設備12の凝縮器22に供給するための冷水供給管路、冷水を圧送するための冷水ポンプをそれぞれ示している。冷水設備30の取水部38は、冷水供給管路39に接続されている。
【0020】
冷水設備30の堰32は、水圧および氷圧に耐えることができるように、十分な安全性を有するものでなければならない。冷水設備30の設置場所は、温水設備40の設置場所を考慮して選定されるが、堰32の構築は、掘削土等の貯水池整形工事で発生する現地発生材を有効活用したCSG(Cemented Sand and Gravel)技術などを活用して、地形地質条件に柔軟に適合し、安価で環境負荷の軽減に配慮して実施するのが好ましい。
【0021】
氷層34は、地熱により下部が徐々に融解すると、下面に浮力が発生して氷全体が浮上するおそれがある。氷が割れて、水が氷層34内に浸透することによっても、同様の現象が生ずるおそれがある。そこで、氷が割れるのを防止するため、氷層34内に1又は複数段の金網34aを配置するのが好ましい(図4(a)参照)。また、浮力が生ずるのを防止するため、金網34a上に重量物(例えば石)34bを載せるのが好ましい(図4(b)参照)。
【0022】
温水設備40は、地中に埋設される槽42と、温泉井(図示せず)から槽42内に供給される温水44と、温水44を発電設備12の蒸発器14に供給するための温水供給管路46とを有しており(図5参照)、温水供給管路46には、温水を圧送するための温水ポンプ46aが配置されている(図1参照)。温水設備40は、発電に使用する作動流体を温めて気化させるための温水を発電設備12に供給するためのものである。
【0023】
温水設備40は、地熱を利用して槽42内の温水を保温することができるように(図5参照)、地温の高い場所を選定して設置するのが好ましい。また、槽42を断熱材料で形成したり、断熱処理を施したりすることによって、槽42内の温水の温度低下を防ぐようにするのが好ましい。
【0024】
好ましくは、温水設備40は、蒸発器14において熱交換された水(還元水)を槽42に戻すための還元水用管路48を有している。還元水を利用することにより、蒸発器14に供給する温水の量を確保することができ、発電効率を高めることが可能になる。なお、図5において参照符号48aは、過剰な余剰水を排出するための余剰水排出管路を示している。
【0025】
以上のように構成された本発明の温度差発電システム10による発電方法について説明する。本説明では、作動流体としてアンモニア液を使用するものとする。まず、温水設備40から温水供給管路46を介して、発電設備12の蒸発器14に温水を供給する。これとともに、ポンプ24a1を作動させてタンク16から第1管路24aを介して、蒸発器14に12°C程度のアンモニア液を供給する。すると、蒸発器14内において、アンモニア液が温水により加温されて気化し、アンモニア蒸気が発生する。このようにして発生したアンモニア蒸気は、第2管路24bを介して、タービン18に送られ、タービン18を回転させて発電機20で発電する。次いで、アンモニア蒸気は、第3管路24cを介して、凝縮器22に引き込まれる。一方、冷水設備30から冷水供給管路39を介して、凝縮器22に冷水が供給されている。凝縮器22に引き込まれたアンモニア蒸気は、冷水により冷却されて、アンモニア液となる。アンモニア液は、第4管路24dを介して、タンク16に戻される。アンモニア蒸気を冷却して温度が上昇した水は、河川に放流される。タンク16に戻されたアンモニア液は、再び蒸発器14に供給される。同様のサイクルを繰り返すことによって、温度差を利用して継続的に発電を行うことができる。
【0026】
本発明は、以上の発明の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で、種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好ましい実施の形態に係る温度差発電システムの全体を模式的に示した図である。
【図2】冷水設備の一例を示した模式図である。
【図3】ダム貯留水の垂直方向の温度分布を説明するための図である。
【図4】図2の部分4の拡大図であって、図4(a)は、冷水設備の氷層内に金網を配置した状態を示した図、図4(b)は、図4(a)において金網の上に更に石を載せた状態を示した図である。
【図5】温水設備を示した模式図である。
【符号の説明】
【0028】
10 温度差発電システム
12 発電設備
14 蒸発器
16 タンク
18 タービン
20 発電機
22 凝縮器
24a、24b、24c、24c 管路
24a1 ポンプ
30 冷水設備
32 堰
34 氷層
34a 金網
34b 重量物(石)
36 水層
38 取水部
38a 取水口
39 冷水供給管路
39a 冷水ポンプ
40 温水設備
42 槽
44 温水
46 温水供給管路
46a 温水ポンプ
48 還元水用管路
48a 余剰水排出管路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発電設備と、発電設備に冷水を供給する冷水設備と、発電設備に温水を供給する温水設備とを備え、前記冷水設備が、堰と、堰によって形成された空間に配置された氷層と、氷層の上方に配置された水層とを有する温度差発電システムにおいて、
前記氷層との境界付近に位置する冷水を発電設備に供給するように構成されていることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記温水設備が、地中に埋設される槽と、温泉井から槽内に供給される温水と、温水を前記発電設備に供給するための温水供給管路と、前記発電設備で熱交換された水を槽内に戻すための還元水用管路とを有していることを特徴とする請求項1に記載されたシステム。
【請求項3】
前記氷層内に1又は複数段の金網が配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載されたシステム。
【請求項4】
前記金網上に重量物が載せられていることを特徴とする請求項3に記載されたシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−41832(P2012−41832A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181997(P2010−181997)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(594157418)株式会社ドーコン (20)