説明

温度応答性バルブおよびその製造方法

【課題】 流路の開閉や切り替えが可能で、小さな温度差で駆動可能で、かつ、マイクロ流体デバイスに使用可能な微小なバルブの製造が容易な温度応答性バルブ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 微細流路と、微細流路内に配置された微細流路を開閉、切替又は流量制御する弁体とからなるバルブであって、弁体が、ゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなり、温度変化により変形して微細流路を開閉、切替又は流量制御する温度応答性バルブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化により流路の開閉、切替、あるいは流量制御を行うことができる温度応答性バルブ及びその製造方法に関し、特に、マイクロ流体デバイス、即ち、部材に微小な流路が形成された化学・生化学用微小デバイスに組み込まれ、或いは接続されて好適に使用される微小な温度応答性バルブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流体デバイスの流路の開閉、流量制御、流路切り替えなどを行うバルブの駆動方法としては、圧縮空気、機械的な力や変位、磁気、温度、流体の水素イオン濃度(pH)など様々な方法が知られている。これらの中でも、温度変化により開閉等の制御が可能なものは、レーザーや赤外線などにより非接触で駆動できるため、各種の温度応答性のバルブの検討がなされている。
【0003】
温度応答性バルブに関する先行文献として、本発明者等の出願になる特許文献1には、感温性モノマ−を用いた、ゲル化可能な多孔質体の製造方法と、該多孔質体を不織布などの液体透過性の基材上に形成した温度の変化によりろ過速度が変化する濾過膜が開示されている。該濾過膜は、温度応答性バルブとして使用することが出来る。しかしながら本文献で開示されている前記濾過膜は、開閉バルブや流量調節バルブとしてのみ機能するものであり、流路切り変えバルブは形成できない上、マイクロ流体デバイスに組み込むには、微小な弁体を取り扱わなければならないという困難があった。
【0004】
また、本発明者等の出願になる特許文献2には、部材中に毛細管状の流路を有し、該流路の途中に流路に面して、温度応答性ゲルが充填されたゲル室を有する温度応答性バルブ、及びその製造方法が開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、当該構成のバルブは、温度変化により温度応答性ゲルをゲル室中で膨潤させることにより流路を閉塞するものであるため、流路切り替えバルブを形成することが出来なかった。また、流体を流通できるようゲル室中に一定の空隙が設けられた流路開放状態から、ゲル室が膨潤したゲルで実質的に満たされる流路閉塞状態への移行には、ゲルの体積の大きな変化が必要であるため応答速度も不十分であった。
【0005】
一方、温度変化により電気の流通/切断を行うスイッチとして、いわゆるバイメタル式のサーモスタットが知られている。これは、互いに熱膨張係数の異なる2種の金属板を接合した板が、温度変化により曲率を変えることを利用して電気の流通/切断を行うものである。しかしながら、これを流体の開閉バルブに使用しようとすると、温度変化に対する曲率変化が緩慢であるため、開閉や切り替え動作には大きな温度差が必要であった。また、微小なバイメタルを作製しマイクロ流体デバイスに組み込むことは相当に困難であった。
【0006】
【特許文献1】特開平6-228215号公報
【特許文献2】特開2002-66999号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、流路の開閉や切り替えが可能で、小さな温度差で駆動可能で、かつ、マイクロ流体デバイスに使用可能な微小なバルブの製造が容易な温度応答性バルブ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、バルブを構成する弁体が、ゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなるものであるため、温度変化により温度応答性ゲルがゲル−固体転移を生じる際に、接合された可撓性部材との曲率の違いから弁体が変形する。これにより、温度応答性ゲルのゲル−固体転移の体積変化が少しの体積変化であっても、弁体の変形に大きく影響を与えるため、過度な温度変化を与える必要がなく、優れた応答速度で好適に流路の開閉や切り替えが可能である。
【0009】
即ち、本発明は、微細流路と、微細流路内に配置された微細流路を開閉する弁体とからなるバルブであって、弁体が、ゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなり、温度変化により変形して微細流路を開閉するものである温度応答性バルブを提供する。
【0010】
さらに本発明は、前記温度応答性バルブの製造方法であって、
フィルム状の可撓性部材の少なくとも前記弁体と成す部分に温度応答性ゲルを接合し、該接合部に舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部を形成して前記弁体を有する弁体層を形成し、
該弁体層を、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層で、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように挟持して積層する温度応答性バルブの製造方法を提供する。
【0011】
さらに本発明は、前記温度応答性バルブの製造方法であって、
支持体上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射してフィルム状の可撓性部材を形成し、
該フィルム状の可撓性部材に、活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物を塗布して、舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射した後、非照射部の未硬化成分を除去することにより、前記弁体を有する弁体層を形成し、
該弁体層を、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層で、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように挟持して積層する温度応答性バルブの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、流路の開閉、切り替え、流量調節が可能であり、小さな温度差で駆動することが可能であり、かつ、マイクロ流体デバイスに容易に組み込み可能な、温度応答性バルブ及びその製造方法を提供することができる。
【0013】
また、本発明の温度応答性バルブは、積層構造のマイクロ流体デバイスを作製する際に、同時にあるいは並行して形成することが可能であるため、弁体の位置あわせが容易であり、複雑な工程等を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の温度応答性バルブは、微細流路と、微細流路内に配置された微細流路を開閉する弁体とからなるバルブであり、該弁体が、ゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなり、温度変化により変形して微細流路を開閉するものである。
【0015】
[微細流路]
本発明の温度応答性バルブを構成する微細流路の例としては、化学反応、生化学反応の分野や化学工学的処理の分野において、処理の高速化、副生成物の減少、条件検討の高速化などが期待されるマイクロ流体デバイスに設けられた微細な流路が挙げられる。ここで、マイクロ流体デバイスとは、マイクロ流路、マイクロ流路チップ、化学アイシー(IC)、マイクロリアクター、マイクロ分析チップ、マイクロタス(μ−TAS)等と称され、部材中に微細な毛細管状の流路を有するデバイスをいい、化学的、生化学的、電気化学的などの、反応、処理、分析、検出などに用いられるものである。
【0016】
微細流路の断面の幅(本温度応答性バルブの外形が板状やフィルム状などの場合には、流路に直角な方向の断面における、本温度応答性バルブの長軸方向の最大流路寸法を流路の「幅」、長軸方向に垂直な方向の最大流路寸法を流路の「高さ」と称する。マイクロ流体デバイスが棒状等の場合には、互いに直角な任意の方向を幅及び高さとしてよい。)は任意であり、好ましくは1〜1000μm、さらに好ましくは3〜500μm、最も好ましくは5〜300μmである。流路断面の高さも任意であり、好ましくは1〜3000μm、さらに好ましくは3〜1000μm、最も好ましくは5〜500μmである。これらの範囲内の場合には本発明の効果が十分に発揮されるため好ましい。
【0017】
また、微細流路の断面積は好ましくは1μm〜1mmであり、更に好ましくは10μm2〜0.1mm2である。流路断面積が1μm以上であると製造が容易であり、液体の遮断性が良好である。また、1mm以下であれば、良好にバルブの耐圧性や応答速度を確保できる。
【0018】
[温度応答性ゲル]
本発明の弁体を構成するゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲル(固体状態や乾燥状態にあるものも含む。)は、感温性ゲルとも呼ばれ、膨潤媒の凝固点と沸点の間にゲル−固体転移温度を持つものである。温度の変化によるゲルの膨潤度は、ゲル−固体転移温度付近で大きく変化するため、このような温度応答性ゲルを用いることにより、狭い温度範囲で開閉や流路切り替えが出来るバルブを形成することができる。ゲル−固体転移温度は、同じ単量体から成る線状高分子の場合の相分離温度(臨界共溶解温度とも言う)に相当する相転移温度を言う。本発明の温度応答性バルブを使用する温度変化の範囲は、必ずしもゲル−固体転移温度をまたぐ範囲である必要はない。例えば、ゲル−固体転移温度以上の温度範囲内での温度変化であっても良いし、ゲル−固体転移温度以下の温度範囲内での温度変化であってもよい。しかしながら、ゲル−固体転移温度付近での温度変化であることが好ましく、ゲル−固体転移温度をまたぐ温度変化であることがさらに好ましい。一般に、ゲルが下限臨界共溶解温度(LCST)型のゲル−固体転移を示す場合、即ち、ゲル−固体転移温度より低温側でゲル状態、高温側で固体状態となる場合には、低温側で一定温度差での曲率変化が大きくなるが、応答速度は遅くなる。上限臨界共溶解温度(UCST)を示す場合はこの逆となる。温度応答性の水性ゲルはLCST型のものが多く、温度応答性の非水ゲルはUCST型のものが多く知られている。
【0019】
本発明に使用する温度応答性ゲルは、水性ゲルであっても非水ゲルであっても良いが、本温度応答性バルブに流す流体により膨潤して温度応答性ゲルとなるものである。該ゲル−固体転移温度は、ゲル素材を選定することにより、使用目的に応じて好適な値に設計することが出来る。また、ゲル−固体転移温度は基本的には該ゲルを構成する単量体の特性で決まるが、架橋剤の種類、架橋密度、共重合モノマーの種類と共重合比、膨潤媒の種類や膨潤媒の塩濃度などの影響を受けるため、本温度応答性バルブに流す流体の種類に応じて、ゲル−固体転移温度を調節することが好ましい。
【0020】
このような温度応答性ゲルを構成する単量体(以下、「感温性単量体」と称する)は任意のものを使用することが出来、例えば水性ゲルの場合、N−アルキル(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルキレン(メタ)アクリルアミド等のN−置換(メタ)アクリルアミドや、ミリスチル(メタ)アクリレート等の長鎖アルキル基や長鎖アルキレン基を有する(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0021】
N−アルキル(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルキレン(メタ)アクリルアミドの例としては、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−メチルエチルアクリルアミド、N,N−メチルイソプロピルアクリルアミド、N,N−メチル−n−プロピルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−シクロプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N,N−シクロプロピルメタクリルアミド、、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−n−プロピルメタクリルアミド、N−メタクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピペリジン等を挙げることができる。
【0022】
長鎖アルキル基や長鎖アルキレン基を有する(メタ)アクリレートの例としては、炭素数9〜20のアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。なかでも、室温付近で転移が起こることから、N−イソプロピルアクリルアミドやミリスチル(メタ)アクリレートが好ましい。勿論、これらの感温性単量体は、これら同士、或いは感温性を示さない他の単量体との共重合体とすることも出来る。
【0023】
非水ゲルの場合、例えば架橋ポリスチレン−シクロヘキサン系のように、多くの架橋重合体−θ溶媒の組み合わせがUCST型のゲル−固体転移温度を示す。また、多くのアルケン型重合体−脂肪族又は芳香族溶媒系はLCST型のゲル−固体転移温度を示す。その他、架橋ポリイソブチレン−ベンゼン系のように、UCST型とLCST型の2つのゲル−固体転移温度を持つものもある。
【0024】
温度応答性ゲルは固体状態からゲル状態へ膨潤することにより膨張する。膨張の程度は任意であるが、好ましくは膨潤前に対する膨潤後の長さの比が、1.03〜2であり、更に好ましくは1.05〜1.6である。この値が上記下限値以上であると、上記弁体の曲率を好適に変化させることができ、バルブを良好に開閉できる。また、大きな弁体が必要とならず、バルブ部のデッドボリュームの増加等の不都合が生じにくいため好ましい。上記上限値以下であると、ゲル層と他方の素材間の剥離、ゲルの自己破壊、バルブの耐圧性の低下、耐久性の低下等が生じにくいため好ましい。
【0025】
温度変化によるゲルの寸法変化量は、感温性単量体の選択、架橋重合性単量体の添加量などによる架橋度の調節、前記感温性単量体と共重合性の、その重合体が温度応答性ゲルとならない単量体(以下、「非感温性単量体」と称する)の混合比、温度応答性ゲルへの非膨潤性重合体、固体粒子、非感温性ゲル粒子の添加量などによって調節できる。温度応答性ゲルへの非膨潤性重合体等の添加は、温度応答性ゲル素材にこれらを添加してゲル化させる方法で実施できる。
【0026】
本発明で使用する温度応答性ゲルは、室温で製造出来ることが生産性の面から好ましいが、室温で製造すると、室温で平らに伸びた弁体が形成されることが多い。これに対し、室温で反った形状とする場合には、例えば、室温以外の温度で製造する方法、温度応答性ゲルを形成する際に使用する溶剤(膨潤媒)として、本バルブに使用する流体より温度応答性ゲルの膨潤度が小さい溶剤を使用する方法、本バルブに使用する流体で膨潤する架橋重合体粒子をゲル形成材料に添加する方法、温度応答性ゲルを形成する際に使用する溶剤(膨潤媒)と、本バルブに流す流体とで膨潤度が異なる非温度応答性ゲル粒子をゲル形成材料に添加する方法、弁体形成時に反った形状に形成する方法、等により製造することが出来る。このように、室温で反った形状のものは、弁座を有する構造の場合には、室温において弁体が弁座を押さえつけて、閉状態での漏洩を防止するために、或いは、室温において弁体が弁座から完全に離れて流路を完全な開状態とするために、室温で弁体が反った状態にあることが好ましい場合が多い。
【0027】
温度応答性ゲルの形成方法は任意である。例えば、
(I)架橋重合法として、
(I−i)感温性単量体が架橋重合性単量体であって、該感温性単量体を架橋重合させる方法、
(I−ii)温度応答性ゲル素材が、非架橋重合性の感温性単量体と、該感温性単量体と共重合する架橋重合性化合物を含有し、これらを共重合させる方法、
(II)後架橋法として、
(II−i)感温性単量体から成る非架橋重合体を例えば電離放射線により架橋する方法、
(II−ii)温度応答性ゲル素材が、感温性単量体の非架橋重合体を架橋させる架橋剤、例えば光(又は熱又は水)架橋剤を含有し、感温性単量体の熱(又は光)重合に引き続いて該重合体の光(又は熱又は水)架橋反応を行う方法、
を例示できる。これらの中、上記(I−ii)の架橋重合法が製造が容易で好ましく、中でも、該架橋重合が、活性エネルギー線架橋重合であることが、形成速度が速く、また、容易に後述の多孔質ゲルを形成できるため好ましい。活性エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線の如き光線;エックス線、ガンマ線の如き電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線の如き粒子線が挙げられる。
【0028】
非架橋重合性の感温性単量体を用いる場合、これと共重合させる架橋重合性化合物は、代表的には1分子内に2個以上の重合性炭素−炭素二重結合を有する多官能単量体や多官能オリゴマーを挙げることができる。このような多官能単量体としては、例えば、メチレンビスアクリルアミド、エチレンビスアクリルアミド、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン等の2官能モノマー、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート等の3官能モノマー、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能モノマー、ジペンタエリスリト−ルヘキサアクリレート等の6官能モノマー等が挙げられる。これらのモノマーを混合して用いることも勿論可能である。
【0029】
エネルギー線照射により架橋可能な多官能オリゴマーは、例えば、重量平均分子量が500〜50000のオリゴマー(プレポリマーとも言う)であってもよく、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端にアクリル基又はメタクリル基を有するポリウレタン樹脂等を挙げることができる。もちろんこれらのオリゴマ−同士を混合して用いることもできるし、単量体と混合して用いることもできる。
【0030】
架橋重合性化合物は、前記感温性単量体と混合可能であるか、共通溶剤を有するものであればよい。また、後述のように、多孔質の温度応答性ゲルを形成する場合には、孔形成剤と相溶するものを選択することができる。架橋重合性化合物の混合量や種類を選択することで、温度応答性ゲルの膨潤度やその変化の程度を調節することが出来る。架橋重合性化合物の添加量を増すか、或いは官能基数の多い架橋重合性化合物を使用して、架橋密度を上げるほど、温度応答性ゲルの硬度や強度は増し、寸法変化量は減少する。
【0031】
本発明においては、温度応答性ゲルの強度、硬度、膨潤度、応答温度、応答感度などを調節する目的で、温度応答性ゲル素材に、感温性単量体と共重合可能な他の重合性化合物を加えることもできる。
【0032】
感温性単量体と共重合させることの出来る他の重合性化合物としては、温度応答性ゲル素材に溶解するものであればよく、単官能の単量体又は単官能オリゴマーを使用できる。例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−フェニルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸エチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニルセロソルブ(メタ)アクリレート、n−ビニルピロリドン、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0033】
温度応答性ゲルは少なくともゲル状態か固体状態のいずれかに於いて多孔質であることが好ましい(以下このようなゲルを「多孔質ゲル」と称する)。多孔質ゲルとは、重合体部分と空隙部分から成る多孔質体であり、該重合体部分がゲル又はゲル化しうる重合体で構成されている多孔質体である。該多孔質ゲルは、ゲル状態でも固体状態でも多孔質であることがさらに好ましい。
【0034】
温度応答性ゲルが固体状態で多孔質である場合には、電子顕微鏡により多孔質であることを確認することが出来るが、温度応答性ゲルがゲル相状態で多孔質である場合には測定が困難である。しかし、ゲル相状態で多孔質であることは、応答速度が桁違いに増加することで確認できる。即ち、多孔質とすることで、相変化時の膨潤媒の必要拡散距離が極端に短くなるため、膨潤媒の吸収によるゲル化や膨潤媒の吐き出しによる固体化の応答速度が増し、それにより、開閉等の応答速度が向上すると考えられる。従って、ゲル状態で多孔質、固体状値で非多孔質であるような多孔質ゲルは、(ゲル−固体転移温度マイナス5℃)以上の温度範囲で温度変化させることが、高い応答速度が得られるため好ましく、ゲル−固体転移温度以上の温度範囲で温度変化させることがさらに好ましい。また、ゲル状態で非多孔質、固体状値で多孔質であるような多孔質ゲルは、(ゲル−固体転移温度プラス5℃)以下の温度範囲で温度変化させることが、高い応答速度が得られるため好ましく、ゲル−固体転移温度以下の温度範囲で温度変化させることがさらに好ましい。ゲル状態でも固体状態でも多孔質であるような多孔質ゲルは、ゲル−固体転移温度をまたぐ温度で温度変化させることが、高い応答速度が得られるため好ましく、低温側を(ゲル−固体転移温度マイナス5℃)以下の温度とし、高温側を(ゲル−固体転移温度プラス5℃)以上の温度として温度変化させることがさらに好ましい。
【0035】
多孔質ゲルの製造方法は任意であるが、例えば、特開平5−16076号公報に開示されている方法で製造することが出来る。即ち、感温性単量体、架橋重合性単量体、及び、これらと相溶し、これらの共重合体とは相溶しない化合物〔以下、相分離剤と称する〕の均一混合溶液(以下、「多孔質ゲル原料」と称する場合がある)を調製し、この多孔質ゲル原料を用いて、上記の通常の温度応答性ゲル形成と同様の方法で、エネルギー線を照射して架橋重合体を形成すると共に相分離させて多孔質体となし、必要に応じて細孔中の相分離剤を水系液体と置換する方法により製造することが出来る。この方法により、相分離剤の混合比を多くすると、ゲル状態でも固体状態でも多孔質であるような多孔質ゲルが得られ、相分離剤を比較的少なくすると、ゲル状態で多孔質、固体状態で非多孔質であるような多孔質ゲルが得られる。また、溶剤として感温性ゲルとなる膨潤剤を用いて、固体となる温度で架橋重合させる方法、例えばN−イソプロピルアクリルアミドの場合には、相分離剤として水を用い、30℃以上の温度で架橋重合させる方法により、相分離剤の混合比を多くすると、ゲル状態でも固体状態でも多孔質であるような多孔質ゲルが得られ、相分離剤を比較的少なくすると、ゲル状態で非多孔質、固体状態で多孔質であるような多孔質ゲルが得られる。
【0036】
相分離剤としては、感温性単量体と架橋重合性単量体の混合物とは相溶するが、該混合物にエネルギー線を照射することにより生成する架橋重合体を膨潤させず、かつエネルギー線に対して不活性なものであれば特に限定無く用いることが出来る。
【0037】
より具体的には水、一価又は多価アルコール類、カプリン酸メチル等のアルキルエステル類、ジイソブチルケトン等のジアルキルケトン類、液状ポリエチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ルのモノエステル、ポリエチレングリコールのモノエーテル、ポリエチレングリコールソルビタンモノエステル、ポリエチレングリコールソルビタンジエステル、ポリエチレングリコールソルビタントリエステル、ポリエステルポリオール、ポリエチレングリコ−ルアミン等のオリゴマー類、酢酸セルロース、エチルセルロース、ニトロセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、キトサン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリカ−ボネ−ト、ポリスルホン、ポリエ−テルスルホン、ポリウレタン、フェノキシ樹脂、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール等及びこれらの共重合体等のオリゴマーやポリマー類が挙げられる。相分離剤はこれら同士やこれらを含む混合物であってよいし、これらに生成する架橋重合体を膨潤させる溶剤を混合したものであっても良い。
【0038】
相分離剤は、エネルギー線照射により重合体を成形した後、系によっては除去せずに用いることもできるが、除去することもできる。除去は洗浄、乾燥、置換等の任意の方法を採用しうるが、相分離剤を除去する必要がある場合には、相分離剤が水溶性であることが、除去しやすい為、好ましい。
【0039】
多孔質ゲル原料の粘度は任意であり、弁体となる部分に塗布して活性エネルギー線を照射する製造方法に於いては、1〜100PaSであることが、塗布が容易であり、好ましいが、(一時的な)支持体上に塗布して、活性エネルギー線をパターン露光する製造方法に於いては、25℃において0.1〜10PaSであることが、塗布が容易であり好ましい。
【0040】
[可撓性部材]
弁体を構成する他方の素材である可撓性部材は、温度に対する膨張収縮特性が前記温度応答性ゲルと異なるものであれば任意であり、例えば、有機重合体、金属、ガラス、水晶やダイヤモンドなどの結晶、セラミック、炭素などであってよいが、有機重合体が、好適なヤング率を有し、成形性も良いため好ましい。有機重合体は架橋重合体であることが、クリープが少なく、バルブ動作の再現性と安定性が向上するため好ましい。
可撓性部材の厚みは任意であるが、好適な厚みは引張弾性率に依存し、引張弾性率が大きいほど薄くすることが好ましい。例えば、「引張弾性率物性×厚み」の値を好ましくは0.1〜10kPam、更に好ましくは0.3〜3kPamとする。
可撓性部材は、温度応答性ゲルと良好に接合させる為に、温度応答性ゲルと共有結合できる官能基を表面に有することが好ましい。このような官能基を持たせる方法は任意であるが、例えば下記の方法を例示できる。即ち、
(i)可撓性部材を、温度応答性ゲル素材に含有される単量体と共重合可能な単量体の重合体で形成し、該部材の表面に未反応の該単量体を残存させておく方法、
(ii)可撓性部材を、温度応答性ゲル素材に含有される単量体と共重合可能な官能基、例えば(メタ)アクリロイル基を分子内に含有する熱重合性単量体、例えばエポキシ化合物)の熱重合による重合体で形成し、該部材の表面に未反応の該単量体を残存させておく方法、
(iii)可撓性部材を、例えば(メタ)アクリロイル基を軍資内に持つシランカップリング剤などの表面処理剤で処理し、表面に温度応答性ゲル素材に含有される単量体と共重合可能な官能基を導入する方法、
(iv)可撓性部材を、例えばエポキシ基、イソシアナト基、アルデヒド基、クロロアルデヒド基、水酸基、などの官能基を分子内に有する単量体の(共)重合体で形成し、一方、温度応答性ゲル素材に含有される例えば多感能単量体に、上記の官能基と結合する官能基をを分子内に有する化合物を使用する方法。
このとき、上記(i)の方法においては、可撓性部材を、特に(メタ)アクリロイル基含有単量体のエネルギー線インサイチュー重合で形成し、その際、照射量を不十分として不完全線硬化状態とする方法で作成できる。また、上記(i)〜(iii)においては、上記重合性官能基を有する可撓性部材の上に温度応答性ゲル素材を塗布して、エネルギー線照射によりゲルを形成する方法により、好ましく、共有結合で接合させることが出来る。
【0041】
[弁体]
本発明の温度応答性バルブを構成する弁体は、温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなるものであり、温度変化により温度応答性ゲルがゲル−固体転移を生じ、接合された可撓性部材との膨張収縮状態の違いにより弁体が変形して流路の開閉や切り替えを行うことができる。
【0042】
前記弁体の平面形状や寸法は流路の開閉や切り替えができるよう、流路の形状や構成により適宜設計すればよい。その形状としては舌片状のものが特に好適に使用でき、例えば、一方の端に線状の固定端を持つ舌片状、複数の点状の固定部を持つ舌片状、周囲の一部に複数の固定部を持つ短冊形や星形であり、複数の舌片が集合した形状であり得る。これらの中で、一方の端が固定された舌片状が、製造が容易で動作が確実なため好ましく、該舌片は、U字形、コの字形、又は台形が好ましい。該舌片は、固定端である基部に於ける幅が長さの1.0〜2倍が好ましく、1.1〜1.8倍が更に好ましく、1.2〜1.6倍が最も好ましい。この範囲とすることにより、弁体のねじれを抑制し、開閉、切り替え、流量調節、逆止などの動作が確実で再現性のあるものにすることが出来、かつ、寸法も過度に大きくならない。
【0043】
前記弁体においては、温度応答性ゲルと可撓性部材とが層状に積層されている状態が好ましい。また、積層弁体部分全体に両部材が積層されていても、可撓性部材の一部に温度応答性ゲルが積層されていてもよく、可撓性部材上に温度応答性の異なる二種以上の温度応答性ゲルが積層されていてもよい。
【0044】
また、微小なバルブを形成する場合には、微小な弁体をしかるべき位置に正確に固定する必要があるが、そのためには、弁体がフィルム状の部材の一部に設けられていることが好ましい。このためには、弁体がフィルム状の可撓性部材に設けられた舌片部分と、該舌片部分に積層された温度応答性ゲルとの接合体からなる構造であることが好ましく、具体的には次のような構造とすることが好ましい。
(1)弁体の基部にそれより大きな、例えば弁体の10〜10000倍の面積を持つ固定部が着いた弁部材を形成し、弁体部のみを残して、前記固定部を温度応答性バルブの部材に埋め込んだ形状。
(2)本温度応答性バルブ全体に渡るフィルム状の前記可撓性部材の一部に、コの字型やUの字型の貫通溝で囲まれた舌片状の弁体が形成された形状。
【0045】
弁体の形成順序は任意であり、例えば上記(2)の場合、可撓性部材に貫通溝で囲まれた舌片状部分を形成した後にゲルを接合しても良いし、可撓性部材の一部に舌片状に温度応答性ゲルを接合して弁体部を形成し、該弁体の周囲部を貫通溝を形成して舌片状の弁体と成しても良い。上記の貫通溝は、例えばフォトリソグラフィー、レーザー切断機、機械的打ち抜き、プラズマ加工により形成できる。
【0046】
該弁体に於ける前記温度応答性ゲルと他方の可撓性部材の厚み方向の形状は任意であり、例えば、一定厚みのフィルム状、厚みがテーパー状に変化するフィルム状、枠や支持部が厚くその他の部分がフィルム状等であり得るが、一定厚みのフィルム状であることが製造が容易であり好ましい。
【0047】
前記弁体の厚みの下限は任意であるが、1μm以上が好ましく、5μm以上が更に好ましく、10μm以上が更に好ましい。前記弁体の厚みの下限は、上記範囲であって、かつ、開閉や切り変えすべき流路、即ち、本バルブに接続される流路の直径の1/10以上であることが好ましく、該流路の直径の1/5以上であることが好ましい。前記流路の直径は、流路の断面形状が円以外の場合には、相当する断面積の円の直径とする。前記弁体の厚みをこの下限以上にすることにより、圧力差のある流路であっても開閉や切り替えが可能になり、又製造も容易になる。
【0048】
前記弁体の厚みの上限も任意であるが、500μm以下であることが好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが最も好ましい。前記弁体の厚みの上限は、上記範囲であって、かつ、流路の直径の10倍以下であることが好ましく、5倍以下であることが更に好ましく、2倍以下であることが最も好ましい。上記上限以下とすることで、該弁体の曲率変化を大きくすることが容易になるため弁体を小さくでき、微小なバルブの形成が容易になる上、応答速度も速くなる。なお、弁体の厚みが場所により異なる場合には、前記弁体の厚みは平均厚みとする。
【0049】
可撓性部材の厚みとゲル層の厚みの比は任意であるが、好適な比は可撓性部材の硬度に依存する。可撓性部材の「引張弾性率物性×厚み」の値をゲル層の該値の好ましくは1〜3000倍、さらに好ましくは1〜1000倍、最も好ましくは1〜300倍にする。この範囲の下限以上とすることにより、耐久性と再現性のある弁体が得られ易く、この範囲の上限以下とすることにより、弁体の曲率の変化量を大きくすることができる。しかし、ゲルのヤング率は他方の素材のヤング率に比べて数桁低い場合が多いので、前記他方の素材の厚みを上記範囲まで薄くすることが困難な場合には、前記他方の素材の厚みは出来るだけ上記範囲に近づけることが好ましい。なお、一般にゲルの引張弾性率の測定は困難であるため、曲げ剛性率の3倍を引張弾性率として良い。
【0050】
本発明で使用する弁体は、設定温度(例えば前記ゲル−固体転移温度)を中心とする±10℃の温度変化で、曲率が好ましくは0.1(mm−1)以上、さらに好ましくは、0.3(mm−1)以上、最も好ましくは、0.5(mm−1)以上変化するものである。曲率の変化範囲は正〜正の範囲で変化してもよいし、0〜正の範囲で変化してもよいし、負〜正の範囲で変化してもよい。形成するマイクロバルブの流路や弁座の形状に応じて好適なものを選択使用すればよい。これらの中で。負〜正の範囲で変化するものが、流路形状に対する適用性が広く、又、閉状態で弁座を圧迫する方向に付勢されるため流体の漏洩量が少なくなり好ましい。
【0051】
[温度応答性バルブ]
本発明の温度応答性バルブは、前記弁体が温度変化により変形して前記微細流路を開閉、切替、あるいは流量制御をできれば、その構成は任意であり、同一平面内に形成された一つの微細流路の流路途中に弁体が設けられた構成、同一平面内に形成された分岐状の微細流路の分岐部分に弁体が設けられた構成、又は、孔や切欠を有する層が多層に積層されて形成される連通孔による微細流路の流路途中に弁体層が設けられた構成などが例示できる。
【0052】
特に、積層構造により形成される温度応答性バルブは、流路途中への弁体の設置が容易であり、また、温度変化により変形する弁体が流路を好適に閉鎖させやすいため、好ましい。このような積層構造の温度応答性バルブとしては、フィルム状の可撓性部材に設けられた舌片部分と、該舌片部分に温度応答性ゲルが積層された温度応答性ゲルとの接合体からなる弁体を有するフィルム状の可撓性部材からなる弁体層と、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層とからなり、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように、二つの流路層が弁体層を挟持して積層された多層構造を有するものを好ましく例示できる。
【0053】
本発明の温度応答性バルブは、温度変化の前後のいずれかにおいて、弁体が微細流路を構成する部材の少なくとも一部に近接又は接触することで、流路断面積を減少させたり流路を閉鎖し、流量制御や流路の開閉を行うものである。(以下、微細流路を構成する部分のうち、温度変化の前後のいずれかにおいて弁体が近接又は接触する部分を弁座という。)
【0054】
また、分岐状の微細流路の分岐部分に弁体が設けられた構成、例えば、微細流路が三叉状の分岐流路を有し、且つ、前記弁体が、常体で三叉状の分岐流路の一の流路を閉鎖し、温度変化により前記一の流路を開放すると共に他の一つの流路を閉鎖する構成のものは、流路の切替が可能であるため、好適に使用できる。
【0055】
弁座は弁体が押さえることにより流路を遮断したり、流路断面積を減少させたりする部分であり、流路内開口部の周囲部である。弁座の構造は任意であり、例えば平面に開けられた孔の周囲、筒の先端、舌片状の弁体の固定端側から該弁体の中ほどまで、弁体に接して弁体の面と平行に伸びた流路の端部付近の周囲部等であり得る。これらの中で、上記流路の端部付近の周囲部であることが、構造が単純で製造が容易であるため好ましい。流路内開口部の平面形状も任意であり、用途目的によって設計できる。例えば、本発明のバルブが流量調節バルブである場合には弁座の平面形状をテーパー状として、弁体の曲率が小さな時には弁体で押さえられていない開口面積が小さく、弁体の曲率が大きくなるにつれ該開口面積が徐々に大きくなる形状が好ましい。また例えば、本発明のバルブが開閉バルブや流路切り替えバルブである場合には、弁座の平面形状を弁体の長さ方向に短く、幅方向に長くして、弁体が僅かに反れば一気に全開となる形状が好ましい。
【0056】
弁室は弁体が可動な空間であり、その構造は任意である。流路の一部であっても良いし、弁体の形状に応じた形状に形成しても良い。しかし、弁体と平行な方向に伸びる流路の一部とすることが、構造が単純で製造が容易なため好ましい。
【0057】
弁座に接続される流路や弁室に接続される流路の形状や構造も任意であるが、溝を有するフィルム状部材や板状部材に設けられた溝が他の部材と積層されることにより形成された形状であることが、構造が単純で製造が容易なため好ましい。
【0058】
本発明の温度応答性バルブの弁体以外の素材は任意であり、ガラス、石英のような結晶、シリコンのような半導体、ステンレススチールのような金属、セラミック、炭素、高分子重合体(以下、単に重合体と称する)などであり得るが、重合体が、電熱係数が低いことにより必要な部分のみ、例えば微小な弁質部のみを選択的に温度変化させることが容易であり、また、熱容量が小さいため、本温度応答性バルブが組み込まれたマイクロ流体デバイス全体の温度を変化させる場合に、省エネルギーであり好ましい。
【0059】
重合体は、単独重合体であっても、共重合体であっても良く、また、熱可塑性重合体であっても、熱硬化性重合体であっても良い。生産性の面から、熱可塑性重合体又はエネルギー線硬化性組成物の硬化物であることが好ましい。
【0060】
本発明の温度応答性バルブを形成する弁体以外の部材に使用できる重合体としては、例えば、ポリスチレン、ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン/マレイン酸共重合体、ポリスチレン/アクリロニトリル共重合体の如きスチレン系重合体;ポルスルホン、ポリエーテルスルホンの如きポリスルホン系重合体;ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルの如き(メタ)アクリル系重合体;ポリマレイミド系重合体;
【0061】
ビスフェノールA系ポリカーボネート、ビスフェノールF系ポリカーボネート、ビスフェノールZ系ポリカーボネートの如きポリカーボネート系重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1の如きポリオレフィン系重合体;塩化ビニル、塩化ビニリデンの如き塩素含有重合体;酢酸セルロース、メチルセルロースの如きセルロース系重合体;
【0062】
ポリウレタン系重合体;ポリアミド系重合体;ポリイミド系重合体;ポリ−2,6−ジメチルフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイドの如きポリエーテル系又はポリチオエーテル系重合体;ポリエーテルエーテルケトンの如きポリエーテルケトン系重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレートの如きポリエステル系重合体;エポキシ樹脂;ウレア樹脂;フェノール樹脂などが挙げられる。
【0063】
これらの中でも、接着性が良好な点などから、スチレン系重合体、(メタ)アクリル系重合体、ポリカーボネート系重合体、ポリスルホン系重合体、ポリエステル系重合体が好ましい。
【0064】
エネルギー線硬化性組成物を構成するエネルギー線硬化性化合物は、ラジカル重合性、アニオン重合性、カチオン重合性等の任意のものであってよい。
エネルギー線硬化性化合物は、重合開始剤の非存在下で重合するものに限らず、重合開始剤の存在下でのみエネルギー線により重合するものも使用することができる。
【0065】
そのようなエネルギー線硬化性化合物としては、重合性の炭素−炭素二重結合を有するものが好ましく、中でも、反応性の高い(メタ)アクリル系化合物やビニルエーテル類、また光重合開始剤の不存在下でも硬化するマレイミド系化合物が好ましい。
【0066】
エネルギー線硬化性化合物として好ましく使用することができる架橋重合性の(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,8−オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリエチレンオキシフェニル)プロパン、
【0067】
2,2’−ビス(4−(メタ)アクリロイルオキシポリプロピレンオキシフェニル)プロパン、ヒドロキシジピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジアクリレート、ビス(アクロキシエチル)ヒドロキシエチルイソシアヌレート、N−メチレンビスアクリルアミドの如き2官能単量体;
【0068】
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス(アクロキシエチル)イソシアヌレートの如き3官能単量体;ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートの如き4官能単量体;ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートの如き6官能単量体などが挙げられる。
【0069】
また、エネルギー線硬化性化合物として、重合性オリゴマー(プレポリマーとの呼ばれる)を用いることもでき、例えば、重量平均分子量が500〜50000のものが挙げられる。そのような重合性オリゴマーしては、例えば、エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエーテル樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、ポリブタジエン樹脂の(メタ)アクリル酸エステル、分子末端に(メタ)アクリロイル基を有するポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0070】
マレイミド系の架橋重合性のエネルギー線硬化性化合物としては、例えば、4,4’−メチレンビス(N−フェニルマレイミド)、2,3−ビス(2,4,5−トリメチル−3−チエニル)マレイミド、1,2−ビスマレイミドエタン、1,6−ビスマレイミドヘキサン、トリエチレングリコールビスマレイミド、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、m−トリレンジマレイミド、N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N’−ジフェニルメタンジマレイミド、N,N’−ジフェニルエーテルジマレイミド、
【0071】
N,N’−ジフェニルスルホンジマレイミド、1,4−ビス(マレイミドエチル)−1,4−ジアゾニアビシクロ−[2,2,2]オクタンジクロリド、4,4’−イソプロピリデンジフェニル=ジシアナート・N,N’−(メチレンジ−p−フェニレン)ジマレイミドの如き2官能マレイミド;N−(9−アクリジニル)マレイミドの如きマレイミド基とマレイミド基以外の重合性官能基とを有するマレイミドなどが挙げられる。
【0072】
マレイミド系の架橋重合性オリゴマーとしては、例えば、ポリテトラメチレングリコールマレイミドカプリエート、ポリテトラメチレングリコールマレイミドアセテートの如きポリテトラメチレングリコールマレイミドアルキレートなどが挙げられる。マレイミド系の単量体やオリゴマーは、これら同士、及び/又はビニル単量体、ビニルエーテル類、アクリル系単量体の如き重合性炭素・炭素二重結合を有する化合物と共重合させることもできる。これらの化合物は、単独で用いることもでき、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0073】
エネルギー線硬化性組成物には、必要に応じて、光重合開始剤を添加することもできる。光重合開始剤は、使用するエネルギー線に対して活性であり、エネルギー線硬化性化合物を重合させることが可能なものであれば、特に制限はなく、例えば、ラジカル重合開始剤、アニオン重合開始剤、カチオン重合開始剤であって良い。また、光重合開始剤は、マレイミド化合物であって良い。
【0074】
混合使用できる単官能マレイミド系単量体としては、例えば、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−ドデシルマレイミドの如きN−アルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドの如きN−脂環族マレイミド;N−ベンジルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−(アルキルフェニル)マレイミド、N−ジアルコキシフェニルマレイミド、N−(2−クロロフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2,6−ジエチルフェニル)マレイミド、
【0075】
2,3−ジクロロ−N−(2−エチル−6−メチルフェニル)マレイミドの如きN−(置換又は非置換フェニル)マレイミド;N−ベンジル−2,3−ジクロロマレイミド、N−(4’−フルオロフェニル)−2,3−ジクロロマレイミドの如きハロゲンを有するマレイミド;ヒドロキシフェニルマレイミドの如き水酸基を有するマレイミド;N−(4−カルボキシ−3−ヒドロキシフェニル)マレイミドの如きカルボキシ基を有するマレイミド;
【0076】
N−メトキシフェニルマレイミドの如きアルコキシ基を有するマレイミド;N−[3−(ジエチルアミノ)プロピル]マレイミドの如きアミノ基を有するマレイミド;N−(1−ピレニル)マレイミドの如き多環芳香族マレイミド;N−(ジメチルアミノ−4−メチル−3−クマリニル)マレイミド、N−(4−アニリノ−1−ナフチル)マレイミドの如き複素環を有するマレイミド等が挙げられる。
【0077】
エネルギー線としては、紫外線、可視光線、赤外線の如き光線;エックス線、ガンマ線の如き電離放射線;電子線、イオンビーム、ベータ線、重粒子線の如き粒子線が挙げられる。また、部材はポリマーブレンドやポリマーアロイであっても良いし、発泡体、積層体、その他の複合体であっても良い。また、部材は改質剤、着色剤など、その他の成分を含有していても良い。
【0078】
改質剤としては、例えば、シリコンオイルやフッ素置換炭化水素の如き疎水化剤(撥水剤);アニオン系、カチオン系、ノニオン系などの界面活性剤、シリカゲルの如き無機粉末、ポリビニルピロリドンの如き親水性重合体などの親水化剤;引張弾性率を調節するための可塑剤などが挙げられる。着色剤としては、例えば、任意の染料や顔料、蛍光性の染料や顔料、紫外線吸収剤が挙げられる。
【0079】
また、本発明の温度応答性バルブは、他の機構が形成されたマイクロ流体デバイスに組み込むことも好ましく、他の部材や他の機構と積層や接着などにより一体化することも好ましい。また、複数の温度応答性バルブを1つの部材中に形成することも可能であり、製造後、これらを切断して複数の温度応答性バルブとすることも可能である。
【0080】
以上のとおり、本発明の温度応答性バルブは、バルブを構成する弁体が、ゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなるものであるため、温度変化により温度応答性ゲルがゲル−固体転移を生じる際に、接合された可撓性部材との膨張収縮特性の違いから弁体が変形する。これにより、温度応答性ゲルのゲル−固体転移の体積変化が少しの体積変化であっても、弁体の変形に大きく影響を与えるため、過度な温度変化を与える必要がなく、優れた応答速度で好適に流路の開閉や切り替えが可能である。
【0081】
また、本発明の温度応答性バルブは、例えば積層構造の流路を形成する際にその積層部材の一部として組み込むことができるため、微細流路との正確な位置あわせが容易となる。
【0082】
[温度応答性バルブの製造方法]
前記温度応答性バルブの製造方法は、前記構成を形成できる方法であれば特に制限されず、微細流路を形成する部材と弁体を形成する部材とを適宜積層する方法を好適に使用できる。このような方法としては、下記の方法を好ましく例示できる。
【0083】
(I)フィルム状の可撓性部材の少なくとも前記弁体と成す部分に温度応答性ゲルを接合し、該接合部に舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部を形成して前記弁体を有する弁体層を形成し、
該弁体層を、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層で、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように挟持して積層する温度応答性バルブの製造方法。
【0084】
(II)支持体上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射してフィルム状の可撓性部材を形成し、
該フィルム状の可撓性部材に、活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物を塗布して、舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射した後、非照射部の未硬化成分を除去することにより、前記弁体を有する弁体層を形成し、
該弁体層を、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層で、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように挟持して積層する温度応答性バルブの製造方法。
【0085】
前記方法における弁体の接合は、前述したように官能基を持たせた可撓性部材や、不完全線硬化状態とした可撓性部材上で、温度応答性ゲルを形成する方法により、好ましく接合させることが出来る。なかでも、弁体となる部分を含む範囲に、活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物を塗布し、活性エネルギー線照射により温度応答性ゲルを形成してフィルム状の可撓性部材に接合させる方法を好ましく使用できる。
【0086】
また、ゲル形成素材として、活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物を使用する場合には、該組成物中に孔形成剤を含有させることで好適に多孔質ゲルを形成できる。
【0087】
[実施態様]
本発明の温度応答性バルブの実施態様について説明する。なお、同じ機能を持つ機構は各実施態様に共通した同じ番号で示す。
【0088】
本発明の第1態様は、図1、図2に示したように、表面に流入側流路(1)となる溝(1)と、弁体(15)が入り込む弁室(2)となる凹部(2)を有する板状の第1部材(3)、表裏を貫通する切欠部(4)(以下、切欠部(4)と略記。)で囲まれた部分として弁体(15)を構成する舌片(5)となる部分が形成されたフィルム状の第2部材(6)、及び、表面に流出側流路(7)となる溝を有する板状の第3部材(8)が積層して固着されており、該第2部材の舌片(5)の第1部材(8)側にはフィルム状の温度応答性ゲル(9)が接合されて弁体(5)とされている。
【0089】
第1部材(3)に設けられた流入側流路(1)の一方の端(図2中左側)は第2部材(6)及び第3部材(8)に開けられた連絡孔(10)を経て本温度応答性バルブ外に開口しており、流入口(11)とされる。流入側流路(1)の他端(図2中右側)は弁室(2)に接続されている。
【0090】
第3部材(8)の流出側流路(7)の一方の端(図2中左側)は、第2部材(6)に設けられた舌片状の弁体(5)の基部側から弁体(15)と重なるように弁体(15)の中央部まで形成されており、弁体(15)と第3部材(8)が接触する部分が弁座(12)として機能する。第3部材(8)の流出側流路(7)の他方の端(図2中右側)は、第3部材(8)に開けられた連絡孔(13)を通じて、本温度応答性バルブ外に開口しており、流出口(14)とされる。
【0091】
本第1態様の弁体(15)は、温度応答性ゲル(9)が下限臨界共溶解温度(LCST)型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には、該転移温度付近より高温側では温度応答性ゲル(9)の収縮により、図2の下方へ反り、弁体(15)は弁室(2)に入り込んで弁座(12)から離れることにより流入側流路(1)と流出側流路(7)は連絡する。逆に、該転移温度付近より低温側では膨張して図2の上方へ反る力が発生し、弁体(15)は弁座(12)を押さえる方向に付勢されて流路を遮断する。温度応答性ゲルが上限臨界共溶解温度(UCST)型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には、温度と動作の関係は上記の逆になる。
【0092】
第1部材(3)や第3部材(8)の溝の形成方法は任意であり、例えば射出成型や光造形法により溝を有する部材を直接形成する方法、エッチング工程を有するフォトリソグラフィー、機械的切削加工、レーザー加工、プラズマ加工等により部材に溝を形成する方法、貫通溝を有するフィルム状又は板状の部材(3b)(8b)と他の部材(3a)(8a)の貼り合わせや、部材の上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、選択的露光と洗浄を行うことにより、貫通溝を有するフィルム状の部材(3b)(8b)を形成すると同時に他の部材(3a)(8a)に貼り合わせる方法を例示できる。
【0093】
第1部材(3)、第2部材(6)、第3部材(8)の固着方法も任意であり、接着剤による接着、熱融着、超音波融着、不完全硬化状態の重合体を接触させて完全硬化させる固着などを利用できる。
【0094】
なお、上記説明に於いて、便宜上流入側と流出側を設けて説明したが、上記説明に於ける流入側、流出側とは逆の向きに使用しても良い。但し、その場合、流路を遮断する力は本例よりも弱くなる。本第1態様の温度応答性バルブは開閉バルブとして使用できるし、また、温度応答性ゲル(9)がLCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には該転移温度付近より低温側で逆止弁になり、高温側で常時開となるバルブ、UCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には該転移温度付近より高温側で逆止弁になり、低温側で常時開となるバルブとして使用できる。
【0095】
本第1態様のバリエーションとして、第3部材(8)の流出側流路(7)の弁体(15)と重なる側の端を、先端に行くほど徐々に細くなるテーパー状に形成すると、弁体の曲率変化に応じて流路抵抗が変わる流量調節弁として使用できる。
【0096】
本発明の第2態様は、図3に示したように、第2部材(6)が、舌片(5)を有する前記第一態様の第2部材(6)と同じ形状の部材(6a)と、舌片(5)が欠損していること以外は部材(6a)と同様の部材(6b)が積層固着されて形成されていること、温度応答性ゲル(9)が部材(6a)の舌片(5)の第3部材(8)側に、部材(6b)と同じ厚みだけコーティングされていること以外は前記第1態様と同様じである。本第2態様においては、温度応答性ゲル(9)が第1態様と比べて弁体(15)の裏面に形成されているため、本第2態様の温度応答性バルブは、温度変化に対して第1態様のバルブとは逆の動作をする。
【0097】
本発明の第3態様は、図4、図5に示したように、表面に流入側流路(1)となる溝と、流出側流路(7)となる溝を有する板状の第1部材(16)、切欠部(4)で囲まれた部分として舌片(5)となる部分が形成されフィルム状の第2部材(6)、及び表面に弁室(2)となる凹部を有する板状の第3部材(17)が積層して固着され、第2部材の舌片(5)の第3部材(17)側には温度応答性ゲル(9)がコーティングされて弁体(15)とされている。
【0098】
第1部材(16)の流入側流路(1)の一方の端(図5中左側)は第2部材(6)及び第3部材(17)に開けられた連絡孔(10)を経て本温度応答性バルブ外に開口して流入口(11)とされ、流入側流路(1)の他端(図5中右側)は第2部材(6)の弁体(5)周囲に設けられた切欠部(4)に連絡する位置まで形成されている。
【0099】
また、第1部材(16)の流出側流路(7)の一方の端(図5中左側)は弁体(15)の基部側から弁体(15)と重なるように弁体(15)の中央部まで形成されており、弁体(15)と第1部材(16)が接触する部分が弁座(12)として機能する。流出側流路(7)の他端(図5中右側)は第2部材(6)及び第3部材(17)に開けられた連絡孔(13)を経て本温度応答性バルブ外に開口して流出口(14)とされる。第1部材(16)には、弁体(15)が入り込み得る大きさのの凹部状の弁室(2)が形成されている。該弁室(2)は第2部材(6)に設けられた切欠部(4)を経て第1部材(3)の流入側流路(1)に連絡している。
【0100】
本第2態様の温度応答性バルブは、温度応答性ゲル(9)がLCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には、該転移温度付近より低温側では温度応答性ゲルの膨張により、弁体(15)は図5の下方へ反る力が発生し、弁座(12)を押さえる方向に付勢されて流路を遮断する。一方、該転移温度付近より高温側では温度応答性ゲルの収縮により弁体(15)は図5の上方へ反り、弁体(15)は弁座(12)から離れて弁室(2)に入り込むことにより流入側流路(1)と流出側流路(7)は連絡する。温度応答性ゲル(9)がUCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には、温度と動作の関係は上記の逆になる。
【0101】
なお、上記説明に於いて、便宜上流入側と流出側を設けて説明したが、上記説明に於ける流入側、流出側とは逆の向きに使用しても良い。但し、その場合、流路を遮断する力は本例よりも弱くなる。本第3態様の温度応答性バルブは開閉バルブとして使用できるし、また、温度応答性ゲル(9)がLCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には該転移温度付近より低温側で逆止弁になり、高温側で常時開となるバルブ、UCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には該転移温度付近より高温側で逆止弁になり、低温側で常時開となるバルブとして使用できる。
【0102】
本第3態様のバリエーションとして、第1部材(16)の流出側流路(7)の弁体(15)側の端を、先端に行くほど徐々に細くなるテーパー状に形成すると、弁体(7)の曲率変化に応じて、流路抵抗が変わる流量調節弁として使用できる。
【0103】
本第3態様についても第1態様と同様に、上記各部材は複数の部材で構成されていても良い。例えば第1部材(16)は第1態様に於ける第1部材(3)と同様に、貫通溝を有するフィルム状又は板状の部材(16b)と他の部材(16a)の接合体であっても良い。
【0104】
本発明の第4態様は、図5に示したように、第2部材(6)が、前記第3態様に於ける第2部材(6)と同じ構造の部材(6a)と、舌片(5)が欠損していること以外は部材(6a)と同様の部材(6b)が積層されて形成されていること、温度応答性ゲル(9)が部材(6a)の舌片(5)の第1部材(3)側に、部材(6b)と同じ厚みだけコーティングされていること、以外は前記第3態様と同様じである。本第4態様においては、温度応答性ゲル(9)が第3態様と比べて弁体(15)の裏面に形成されているため、本第4態様の温度応答性バルブは、温度変化に対して第1態様のバルブとは逆の動作をする。
【0105】
本発明の第5態様は、図7、図8に示したように、一つの流入口と2つの流出口を有する流路切り替えバルブであって、表面に流入側流路(1)となる溝と第1流出側流路(21)となる溝を有する板状の第1部材(22)、切欠部(4)で囲まれた部分として舌片(5)となる部分が形成されたフィルム状の第2部材(6)、弁室(2)となる貫通孔が設けられたフィルム状の第3部材(23)、弁室(2)と第2流出側流路(24)とを連絡する連絡孔(25)が設けられたフィルム状の第4部材(26)、及び、表面に第2流出側流路(24)となる溝を有する板状の第5部材(27)が積層して固着され、前記第2部材(6)の舌片(5)の第3部材側(23)には温度応答性ゲル(9)がコーティングされている。
【0106】
第1部材(22)の流入側流路(1)の一方の端(図8中左側)は第2部材(6)、第3部材(23)、第4部材(26)、及び第5部材(27)に設けられた連絡孔(10)を経て本温度応答性バルブ外に開口して流入口(11)とされ、他端(図8中右側)は弁体(5)の周囲に設けられた切欠部(4)に連絡する位置まで形成されている。第1部材(22)に設けられた第1流出側流路(21)の一方の端(図8中左側)は弁体(15)の基部側から該弁体(15)と重なるように弁体(15)の中央部まで形成されており、弁体(15)と第1部材(22)が接触する部分が第1流出側の弁座(28)として機能する。第1流出側流路(21)の他方の端(図8中右側)は第2部材(6)、第3部材(23)、第4部材(26)、及び第5部材(27)に開けられた連絡孔(31)を経て本温度応答性バルブ外に開口し、第1流出口(32)とされている。
【0107】
第3部材(23)の貫通孔(12)は、弁体(15)が入り込み得る大きさに形成されて弁室(2)となっている。第4部材(26)に設けられた孔(25)は、弁体(15)より小さく、弁体(15)により塞がれる位置に設けられて、該弁体(15)と第4部材(26)表面との接触部は第2流出側の弁座(29)として機能する。第4部材(26)に設けられた第2流出側流路(24)の一方の端(図8中左側)は、第4部材(26)の第2流出側の弁座(33)に続く連絡孔(25)に接続されており、第2流出側流路(24)の他端(図8中右側)は第5部材(27)に開けられた連絡孔(33)を通じて、本温度応答性バルブ外に開口し、第2流出口(34)とされる。
【0108】
本第5態様についても第1態様と同様に、上記各部材は複数の部材で構成されていても良い。例えば第1部材(22)は第1態様に於ける第1部材(3)と同様に、貫通溝を有するフィルム状又は板状の部材(22b)と他の部材(22a)の接合体であっても良い。
【0109】
本第5態様の温度応答性バルブは、温度応答性ゲルがLCST型のゲル−固体転移温度を持つ場合には、、該転移温度付近より低温側では温度応答性ゲル(9)の膨張により弁体(15)は図8の下方へ反る力が発生し、第1流出側の弁座(28)を塞いで流入側流路(1)と第1流出側流路(21)は遮断されると共に、弁体(15)は第2流出側の弁座(29)から離れ、流入側流路(1)と第2流出側流路(24)は連絡される。
【0110】
一方、該転移温度付近より高温側では温度応答性ゲル(9)の収縮により、弁体(15)は図8の上方へ反り、第1流出側の弁座(28)から離れて、流入側流路(1)と第1流出側流路(21)が連絡すると共に、弁室(2)に入り込んで第2流出側の弁座(29)を押さえて流入側流路(1)と第2流出側流路(24)を遮断する。温度応答性ゲルがUCST型のゲル−固体転移温度を持つものである場合には、温度と動作の関係は上記の逆になる。
【0111】
なお、上記説明に於いて、便宜上流入側と流出側を設けて説明したが、上記説明に於ける流入側、流出側とは逆の向きに使用して、2つの流入口と1つの流出口を持つ流路切り替えバルブとして使用しても良い。
【0112】
本発明の温度応答性バルブの開閉、流路切り替え、流量調節などの制御は、上記の温度応答性バルブの少なくとも弁体部分を温度調節することにより行うことができる。温度調節方法や用いる温度調節機構は任意であり、例えば温度応答性バルブに組み込まれた電気ヒーターによる加熱、組み込まれた熱媒流路や冷媒流路による加熱や冷却、組み込まれた又は接触されたペルチエ素子による加熱や冷却、温度調節された固体、液体、又は気体との接触による加熱や冷却、レーザー光線や赤外線やマイクロ波などの電磁波による加熱、超音波による加熱などが挙げられる。本発明で温度調節する領域は、他の部分に差し支えがなければ、該温度応答性バルブが組み込まれたマイクロ流体デバイス全体であっても良い。温度調節機構は本発明の温度応答性バルブに組み込まれていても良いし、外部機構であっても良いが、温度応答性バルブが組み込まれたマイクロ流体デバイスを保持する筐体に設けられていて、該マイクロ流体デバイス部分を取り替えて使用出来るものが好ましい。
【0113】
例えば、本温度応答性バルブを吸脱着式分離装置の自動流路切り替えバルブ使用する場合には、本温度応答性バルブが組み込まれたマイクロ流体デバイス全体を温度調節機構である温度調節された固体、液体、又は気体と接触させる方法が好ましい。また、一つのマイクロ流体デバイスに複数の本温度応答性バルブを組み込み、それらを独立に制御する場合には、各弁室付近に温度調節された固体を接触させる方法やペルチエ素子を用いる方法が単純であり好ましい。
【0114】
本発明の温度応答性バルブは、単純な構造で微小な流路の開閉や流量調節を行うことができる。本発明の温度応答性バルブは、反応、分析、検査などに使用するに当たり、マイクロ流体デバイス毎に、又は一つのマイクロ流体デバイスに組み込まれた独立した流路系毎に独立した送液ポンプを必要とせず、共通の圧力で原液を供給し、各デバイスの流量調節や流通/遮断を本バルブで行えるため、多数を同時・並列処理することが容易であり、作業効率の向上が計れる。
【0115】
また本発明の温度応答性バルブは、混合、反応、抽出、ろ過などの一つのマイクロ流体デバイスに複数の流体を流す用途においても、原液を共通の圧力で供給しながら流路毎の流量を調節することができるため、装置を単純化することができる。
さらに、本発明の温度応答性バルブで流路切り替えバルブを構成した場合には、例えば微小液体クロマトグラフのサンプル注入など、マイクロ流体デバイス内の流路切り替えバルブ一般の用途に広く使用できる。
【実施例】
【0116】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の範囲に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、「部」は、特に断りがない限り「質量部」を表わす。
【0117】
[エネルギー線照射装置]
200wメタルハライドランプが組み込まれた、ウシオ電機株式会社製のマルチライト200型露光装置用光源ユニットを用いた。紫外線強度は50mw/cm2である。
【0118】
[エネルギー線硬化性組成物の調製]
〔組成物(x−1)〕
架橋重合性化合物として平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマー(大日本インキ化学工業株式会社製の「ユニディックV−4263」)を60部、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(第1工業製薬株式会社製の「ニューフロンティアHDDA」)を20部、ノニルフェノキシポリエチレングリコール(n=17)アクリレート(第1工業製薬株式会社製の「N−177E」)20部、紫外線重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバガイギー社製の「イルガキュア184」;光重合開始剤)を5部、及び重合遅延剤として2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(関東化学株式会社製;重合遅延剤)0.1部を均一に混合してエネルギー線硬化性組成物(x−1)を調製した。
【0119】
本エネルギー線硬化性組成物(x−1)の紫外線硬化フィルムは引張弾性率が約580MPa、破断伸び率が約7.3%である。
【0120】
[温度応答性ゲル材料の調製]
〔多孔質ゲル材料(y−1)〕
感温性単量体としてN−イソプロピルアクリルアミド(和光純薬株式会社製)を95部、架橋重合性単量体として上記平均分子量約2000の3官能ウレタンアクリレートオリゴマーを5部、光重合開始剤として上記、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを5部、孔形成剤として分子量4万のポリビニルピロリドン(和光純薬株式会社製)を25部、及び架橋ポリビニルピロリドン粉末(半井化学株式会社製)を50部、N,N−ジメチルアセトアミド(和光純薬株式会社製)110部を混合してゲル材料(y−1)を調製した。
【0121】
なお、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド水性ゲルは32度〜37度付近にLCST型のゲル−固体転移温度を有することが知られている。
【0122】
[実施例1]
本実施例では前記第1態様の温度応答性バルブについてさらに詳細に述べる。
〔温度応答性バルブの作製〕
<第3部材>
図1、図2に示したように、75mm×25mm×1mmのアクリル板(8a)に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを通してて、流出側流路(7)となす部分以外の部分に紫外線を照射し、非照射部の未硬化の樹脂組成物を50%エタノール水溶液で洗浄除去することにより、アクリル板(8a)と硬化した樹脂組成物(x−1)硬化フィルム(8b)の積層固着体であり、該硬化フィルム(8b)の貫通溝(欠損部)として、流出側流路(7)となる溝(7)を有する第3部材(8)を作成した。その後、該第3部材の流出側流路(7)となる溝(7)の端にドリルで孔を開け、連絡孔(13)と流出口(14)を形成した。
【0123】
<第2部材及び弁体>
厚さ60μmのポリプロピレンシートを一時的な支持体(図示略)として用い、これに活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを通して、切欠部(4)となす部分以外の部分に、該活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)が完全硬化するには不十分な量だけ紫外線を照射して照射部を半硬化させ、非照射部の未硬化の樹脂組成物を50%エタノール水溶液で洗浄除去することにより、切欠部(4)とそれにより囲まれた舌片(5)となる部分を有する第2部材(6)を形成した。これを、図2(イ)に示したように位置を合わせて第3部材(8)に積層し、紫外線を照射して第2部材(6)を硬化させると同時に第3部材(8)に接合した。
【0124】
その後、前記一時的な支持体(図示略)を剥離除去し、第2部材(6)の舌片(5)に多孔質温度応答性ゲル材料(y−2)を塗布し、弁体(5)となす部分に紫外線照射して、温度応答性ゲル(9)をコーティングし、水で十分洗浄して弁体(15)とした。
【0125】
<第1部材>
第2部材(6)の作製に用いたものと同じ一時的な支持体(図示略)に、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)を塗布し、完全硬化するには不十分な量だけ紫外線を照射して照射部を半硬化させて部材(3a)を形成した。
【0126】
次いで、その上にさらに活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを通して、流入側流路(1)及び弁室(2)となす部分以外の部分に紫外線を完全硬化するには不十分な量だけ照射して照射部を半硬化させ、非照射部の未硬化の樹脂組成物を50%エタノール水溶液で洗浄除去することにより、流入側流路(1)となる溝(1)と、それに接続された、弁室(2)となる凹部が形成された部材(3b)を形成すると同時に部材(3a)と接合し、第1部材(3)とした。
【0127】
これを、図2(イ)(ロ)に示したように位置を合わせて第2部材(6)と第3部材(8)の接合体に積層し、紫外線を照射して第3部材(8)を硬化させると同時に第2部材(6)と第3部材(8)に接合し、その後、第3部材側から流入側流路(1)に連絡する深さまでドリルで孔を開けて、連絡孔(10)と流入口(11)を形成し、温度応答性バルブを作製した。
【0128】
〔各部の寸法〕
作製した温度応答性バルブは長さ75mm×幅25mm×厚さ1.45mmの板状であり、第1部材(3)は厚さ300μm、第2部材(6)は厚さ50μm、第3部材は厚さ1100μm、流入側流路(1)は幅300μm、長さ20mm、深さ200μm、弁室(2)は幅6mm、長さ5mm、深さ200μm、舌片(5)は幅5mm、長さ4mm、厚さ50μm、切欠部(4)は幅200μm、温度応答性ゲル(9)は幅5mm、長さ4mm、厚さ100μm、弁体(15)は幅5mm、長さ4mm、厚さ150μm、流出側流路(7)は幅300μm、長さ25mm、深さ100μm、連絡孔(10)、(13)は両方とも直径500μmである。
【0129】
〔使用試験〕
作製した温度応答性バルブの流入口(11)にフィッティング(図示略)を接着し、軟質塩化ビニルチューブ(図示略)を介して内径10mmのガラス管(図示略)に接続した。前記ガラス管を立てて着色水を入れて、流入口(11)に300mm水柱の圧力を掛け、温度応答性バルブを45℃に調節された温調プレートに乗せると、着色水は流路を流れて流出口(14)から流出した。着色水が流れている状態で、温度応答性バルブを25度に調節された温調プレートに乗せ変えたところ、約3秒後に着色水の流れは遮断された。次いで、温度応答性バルブを45℃に調節された温調プレートに再び乗せ変えると、着色水は2秒後に再度流通した。
【0130】
[実施例2]
本実施例では前記第2態様の温度応答性バルブについてさらに詳細に述べる。
〔温度応答性バルブの作製〕
<第3部材>
実施例1と全く同様にして、実施例1と同じ第3部材(7)を作製した。
【0131】
<第2部材>
<第2部材及び弁体>
厚さ60μmのポリプロピレンシートを一時的な支持体(図示略)として用い、これに活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを通して、切欠部(4)となす部分以外の部分に、完全硬化するには不十分な量だけ紫外線を照射して照射部を半硬化させ、非照射部の未硬化の樹脂組成物を50%エタノール水溶液で洗浄除去することにより切欠部(4)とそれにより囲まれた舌片(5)を有する部材(6a)を形成した。
【0132】
部材(6a)の上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物(x−1)を塗布し、フォトマスクを通して、切欠部(4)及び弁体(5)と成す部分以外の部分に、完全硬化するには不十分な量だけ紫外線を照射して照射部を半硬化させ、非照射部の未硬化の樹脂組成物を50%エタノール水溶液で洗浄除去することにより部材(6b)を部材(6a)の上に接合された形状に形成し、第2部材(6)とした。
【0133】
次いで、部材(6a)の舌片(5)に多孔質温度応答性ゲル材料(y−2)を部材(6b)と同じ厚さだけ塗布し、弁体(5)となす部分に紫外線照射して、温度応答性ゲル(9)をコーティングし、水で十分洗浄して弁体(5)とした。これを、図3(イ)に示したように位置を合わせて第3部材(8)に積層し、紫外線を照射して第2部材(6)を硬化させると同時に第3部材(8)に接合した。その後、前記一時的な支持体(図示略)を第2部材(6)から剥離除去した。
【0134】
<第1部材>
実施例1と全く同様にして、実施例1と同じ第1部材(7)を第3部材(7)−第2部材(6)接合体に接合し、第2態様の得温度応答性バルブを作製した。
【0135】
〔各部の寸法〕
作製した温度応答性バルブは、部材(6a)、部材(6b)が共に厚さ50μmで第2部材(6)の厚さが100μmであること、温度応答性ゲル(9)の厚さが50μmであること、板状の本バルブ全体の厚さが1.5mmであること以外は実施例1と同様である。。
【0136】
〔使用試験〕
実施例1と同様の試験を行ったところ、25℃にて着色水は流路を流れて流出口(14)から流出した。着色水が流れている状態で、温度応答性バルブを45℃に調節された温調プレートに乗せ変えたところ、約3秒後に着色水の流れは遮断された。次いで、温度応答性バルブを25度に調節された温調プレートに乗せ変えると、5秒後に着色水は再度流通した。
【図面の簡単な説明】
【0137】
【図1】本発明の第1態様の温度応答性バルブの組み立て模式図である。
【図2】本発明の第1態様の温度応答性バルブの(イ)平面模式図、(ロ)上記(イ)のA部に於ける、弁体が下方へ反るべく付勢している状態の側面断面模式図、(ハ)上記(イ)のA部に於ける、弁体が上方へ反った状態の側面断面模式図である。
【図3】本発明の第1態様の温度応答性バルブの(イ)平面模式図、(ロ)上記イ)のB部に於ける、弁体が下方へ反った状態の側面断面模式図、(ハ)上記(イ)のB部に於ける、弁体が上方へ反るべく付勢している状態の側面断面模式図である。
【図4】本発明の第3態様の温度応答性バルブの組み立て模式図である。
【図5】本発明の第3態様の温度応答性バルブの(イ)平面模式図、(ロ)上記(イ)のC部に於ける、弁体が下方へ反るべく付勢している状態の断面側面模式図、(ハ)上記(イ)のC部に於ける、弁体が上方へ反った状態の側面断面模式図である。
【図6】本発明の第4態様の温度応答性バルブの(イ)平面模式図、(ロ)上記(イ)のD部に於ける、弁体が下方へ反るべく付勢している状態の断面側面模式図、(ハ)上記(イ)のD部に於ける、弁体が上方へ反った状態の側面断面模式図である。
【図7】本発明の第5態様の温度応答性バルブの組み立て模式図である。
【図8】本発明の第5態様の温度応答性バルブの(イ)弁体付近の平面模式図、(ロ)上記(イ)のE部に於ける、弁体が下方へ反るべく付勢している状態の側面断面模式図、(ハ)上記(イ)のE部に於ける、弁体が上方へ反った状態の側面断面模式図である。
【符号の説明】
【0138】
1:流入側流路、溝
2:弁室
3:第1態様及び第2態様における第1部材
4:切欠部
5:舌片
6:第2部材
7:流出側流路
8:第1態様及び第2態様における第3部材
9:温度応答性ゲル
10:連絡孔
11:流入口
12:弁座
13:連絡孔
14:流出口
15:弁体
16:第3態様及び第4態様におけるの第1部材
17:第3態様及び第4態様におけるの第3部材
21:第1流出側流路
22:第5態様における第1部材
23:第5態様における第3部材
24:第2流出側流路
25:連絡孔
26:第5態様における第4部材
27:第5態様における第5部材
28:第1流出側の弁座
29:第2流出側の弁座
31:連絡孔
32:第1流出口
33:連絡孔
34:第2流出口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細流路と、微細流路内に配置された微細流路を開閉、切替又は流量制御する弁体とからなるバルブであって、弁体が、ゲル−固体転移温度を有する温度応答性ゲルと可撓性部材との接合体からなり、温度変化により変形して微細流路を開閉、切替又は流量制御することを特徴とする温度応答性バルブ。
【請求項2】
前記弁体が、フィルム状の可撓性部材に設けられた舌片部分と、該舌片部分に積層された温度応答性ゲルとの接合体からなるものである請求項1又は2に記載の温度応答性バルブ。
【請求項3】
フィルム状の可撓性部材に設けられた舌片部分と、該舌片部分に温度応答性ゲルが積層された温度応答性ゲルとの接合体からなる弁体を有するフィルム状の可撓性部材からなる弁体層と、
微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層とからなり、
二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように、二つの流路層が弁体層を挟持して積層された多層構造を有する請求項2に記載の温度応答性バルブ。
【請求項4】
前記微細流路が三叉状の分岐流路を有し、且つ、前記弁体が、常体で三叉状の分岐流路の一の流路を閉鎖し、温度変化により前記一の流路を開放すると共に他の一つの流路を閉鎖するものである請求項1〜3のいずれかに記載の温度応答性バルブ。
【請求項5】
前記温度応答性ゲルが、活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の硬化物からなるゲルである請求項1〜4のいずれかに記載の温度応答性バルブ。
【請求項6】
前記温度応答性ゲルが、固体状態で多孔質体である請求項1〜5のいずれかに記載の温度応答性バルブ。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の温度応答性バルブの製造方法であって、
フィルム状の可撓性部材の少なくとも前記弁体と成す部分に温度応答性ゲルを接合し、該接合部に舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部を形成して前記弁体を有する弁体層を形成し、
該弁体層を、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層で、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように挟持して積層することを特徴とする温度応答性バルブの製造方法。
【請求項8】
前記フィルム状の可撓性部材への温度応答性ゲルの接合が、前記弁体となる部分を含む範囲に、活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物を塗布し、活性エネルギー線照射により温度応答性ゲルを形成してフィルム状の可撓性部材に接合させるものである請求項7に記載の温度応答性バルブの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜6に記載の温度応答性バルブの製造方法であって、
支持体上に活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を塗布し、舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射してフィルム状の可撓性部材を形成し、
該フィルム状の可撓性部材に、活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物を塗布して、舌片部分を形成するための表裏を貫通する欠切部と成す部分以外の部分に活性エネルギー線を照射した後、非照射部の未硬化成分を除去することにより、前記弁体を有する弁体層を形成し、
該弁体層を、微細流路を構成する溝又は貫通孔を有する二つの流路層で、二つの流路層の溝又は貫通孔が前記弁体の変形により連通及び隔絶するように挟持して積層することを特徴とする温度応答性バルブの製造方法。
【請求項10】
前記活性エネルギー線硬化性の温度応答性ゲル形成組成物が孔形成剤を含有するものである請求項8又は9に記載の温度応答性バルブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−170469(P2007−170469A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−366262(P2005−366262)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】