説明

温度応答性モノリス型多孔体、製造方法及びそれを用いた温度応答性クロマトグラフィー法

【課題】多孔体表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを高密度に固定化した温度応答性モノリス型多孔体及び、その製造方法を提供する。さらに、その担体を利用した温度応答性クロマトグラフィー法を提供する。
【解決手段】モノリス型多孔体表面に原子移動ラジカル重合開始剤を固定化し、その開始剤から触媒下で原子移動ラジカル法により0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを成長反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は温度という外的信号で、医薬品、生体関連物質(タンパク質、DNA、糖脂質等)及び細胞などの有用物を固体表面の相互作用を制御することで実施される液体クロマトグラフィ−充填材としての温度応答性モノリス型シリカ多孔体、製造方法及びそれを用いた温度応答性クロマトグラフィー法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフィ−(HPLC)は移動相液体と固定相の組合せが多種多様であり、試料に応じて種々選択できるので、近年、種々の物質の分離、精製に利用されている。しかし、従来使用されているクロマトグラフィ−では固定相の表面構造は変化させずに、主に移動相中に含まれている溶質と固定相表面との相互作用を移動相の溶媒を変化させることによって行われている。例えば、多くの分野で使用されているHPLCにおいては、固定相としてシリカゲル等の担体を用いた順相系のカラムではヘキサン、アセトニトリル、クロロホルムなどの有機溶媒を移動相として使用しており、また水系で分離されるシリカゲル誘導体を担体として用いた逆相系のカラムではメタノ−ル、アセトニトリルなどの有機溶媒が使用されている。また、陰イオン交換体あるいは陽イオン交換体を固定相とするイオン交換クロマトグラフィ−では外的イオン濃度あるいは種類を変化させて物質分離を行っている。近年遺伝子工学等の急速な進歩により、生理活性ペプチド、タンパク質、DNAなどが医薬品を含む様々な分野に広範囲にその利用が期待され、その分離・精製は極めて重要な課題となっている。特に、生理活性物質をその活性を損なうことなく分離・精製する技術の必要性が増大している。しかし、従来の移動相に用いられている有機溶媒、酸、アルカリ、界面活性剤は生理活性物質の活性を損なうと同時に夾雑物となるために、そのシステムの改良が期待されている。また、このような物質の環境汚染の回避という面からもこれらの物質を用いない分離・精製システムが必要となっている。
【0003】
このような背景のもと、これまでに種々の検討がなされてきた。その中で特に特許文献1で示される技術はそれらの基盤技術にあたる。ここでは、水に対する上限若しくは下限臨界溶解温度が0〜80℃であるポリマーで基材表面を被覆した細胞培養支持体上にて、細胞を上限臨界溶解温度以下又は下限臨界溶解温度以上で培養し、その後、上限臨界溶解温度以上又は下限臨界溶解温度以下にすることにより培養細胞を剥離する技術が記載されている。温度応答性ポリマーが生医学分野の細胞培養材料として初めて利用された例であるが、実は、細胞とは基材表面に付着する際、細胞は自ら接着性蛋白質を分泌しそれを介して付着する。従って、ここでの基材表面から細胞が剥離するという現象は、細胞が分泌した接着性蛋白質も基材表面から剥離することも含まれる。事実、この技術で得られた細胞を再播種したり、生体組織に移植したりするとき、この基材から剥離した細胞は基材や組織と良好に付着する。これは、剥離した細胞が培養時に分泌した接着性蛋白質をそのまま保持していることを意味している。すなわち、ここでの技術が本発明でいう温度変化で吸着した蛋白質を脱離させるという温度応答性クロマトグラフィー技術のコンセプトそのものである。
【0004】
このような中、特許文献2ではクロマトグラフィー担体として通常使われるシリカゲルやポリマーゲルへ固定化する検討がなされた。しかしながら、実施例を見る限り、実際にその担体を使ったときの溶質の分離した結果(分離チャート)は示されておらず、この担体を用いてどのような物質を分離できるのか、また具体的な課題についても何ら示されておらず、詳細は不明であった。
【0005】
一方、特許文献3では、シリカゲル表面に温度応答性ポリマーを固定化し、その担体を用いての実際に各種ステロイド類、さらにはリンパ球の分離例が示されている。実際にシリカゲル担体表面に固定化された温度応答性ポリマーの特性で各種ステロイド類、さらにはリンパ球を分離させられていることが明確に示されている。しかしながら、ここで例示されている温度応答性ポリマーの固定化法ではポリマーの嵩高さのため基材表面に0.7mg/m程度までしか固定化できず、クロマトグラフィー担体の機能が限られていた。基材表面に対する温度応答性ポリマーの固定化を詳細に設計し、従来技術を改善する革新的な技術が望まれていた。
【0006】
そのような中、特許文献4では、原子移動ラジカル重合法を用いることでシリカゲル表面に温度応答性ポリマーを高密度に固定化され、そして、実際にその担体を用いたときの分離例も例示されている。しかしながら、何れの実施例においても分離ピーク幅は大きく、有用な生理活性物質の分離方法として利用するにはさらなる技術改善が求められていた。
【0007】
さらに、最近の分析化学の分野ではモノリスシリカカラムがこれまでのシリカビーズに代わる新しいクロマトグラフィー担体として注目を集めている。モノリスシリカカラムは単一の三次元の網目構造のネットワークから構成されており、その網目構造の中を移動相が通過することで、クロマト分析時の送液圧が低く、溶質の相互作用までの拡散距離を短くすることができるようになり、さまざまな物質を高感度に分析することができるようになった(非特許文献1、2、3)。しかしながら、このような高性能なモノリス型カラムに対し、これまでに温度応答性ポリマーを固定化するという発想は全く、それを組み合わせることで被覆された温度応答性ポリマーの機能が果たして発現するのかどうか、或いはどのように発現するのかは容易に類推できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平06−104061号公報
【特許文献2】特開平05−133947号公報
【特許文献3】特開平07−318551号公報
【特許文献4】特開2007−69193号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】N.Tanaka,H.Kobayashi,K.Nakanishi,H.Minakuchi and N.Ishizuka,Anal.Chem.,73,420−429(2001)
【非特許文献2】O.Nunez,K.Nakanishi and N.Tanaka,J.Chromatogr.A,1191,231−252(2008)
【非特許文献3】R.E.Paproski,J.Cooley and C.A.Lucy,Analyst,131,422−428(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決することを意図してなされたものである。すなわち、本発明は、従来技術と全く異なった発想からの新規な温度応答性モノリス型多孔体を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような担体の製造方法を提供することを目的とする。さらにその担体を利用した温度応答性クロマトグラフィー法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するために、種々の角度から検討を加えて、研究開発を行った。その結果、驚くべくことに、多孔体表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーが0.01分子鎖/nm以上の割合で高密度に固定化した温度応答性モノリス型多孔体を利用すると従来技術より得たクロマトグラフィー担体に比べ、温度変化に対する変化量が著しく向上していることを見出した。本発明で示される技術は、従来技術からは全く予想し得なかったもので、従来技術には全くなかった新規なクロマトグイラフィーシステムへの発展が期待される。本発明はかかる知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明は、基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーが0.01分子鎖/nm以上の割合で高密度に固定化されていることを特徴とする温度応答性モノリス型多孔体を提供する。
また、本発明は、基材表面に原子移動ラジカル重合開始剤を固定化し、その開始剤から触媒下で原子移動ラジカル法により0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを成長反応させることを特徴とした上記温度応答性モノリス型多孔体の製造方法を提供する。
さらに、本発明はその温度応答性モノリス型多孔体を用いた温度応答性クロマトグラフィー法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に記載される温度応答性モノリス型多孔体により、新規な分離システムが提案される。このシステムを利用すれば、広範囲のペプチド、蛋白質、細胞を分離させられるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】 実施例1の原子移動ラジカル重合法を用いたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ブラシ修飾モノリスシリカの作製方法を示す図である。 図中の(A)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(B)はPIPAAm密度を下げたPIPAAm修飾モノリスシリカを示す。
【図2】 実施例1(IM100、IGM75)、比較例1(IB100)で得られたサンプルの元素分析結果を示す図である。
【図3】 実施例1(IM100、IGM75)、比較例1(IB100)で行ったGPCによる分析結果を示す図である。ここで、(A)はIM100、(B)はIGM75、(C)はIB100の結果である。GPCの移動相は50mmol/L LiClを含むDMFで行った。
【図4】 実施例1(IM100、IGM75)、比較例1(IB100)で得られたサンプルの表面の元素組成をXPSで測定した結果を示す図である。
【図5】 実施例1で得られたポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ブラシ修飾モノリスシリカを走査電子顕微鏡で観察した結果である。図中の(A)(B)は高密度修飾PIPAAm修飾モノリスシリカ、(C)(D)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(E)(F)は未修飾モノリスシリカを示す。
【図6】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを走査電子顕微鏡で観察した結果である。図中の(A)(B)は開始剤が固定化されたモノリスシリカ、(C)(D)はPIPAAmが固定化されたモノリスシリカ、(E)(F)はPIPAAmが固定化されたシリカビーズ、(G)(H)は開始剤が固定化されたシリカビーズ、(I)(J)は未修飾シリカビーズを示す。
【図7】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを用いた各カラムの温度による移動相送液圧変化の結果を示す図である。図中の(○)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(△)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(□)は高密度PIPAAm修飾シリカビーズ、(●)は未修飾モノリスシリカ、(△)未修飾モノリスシリカを示す。
【図8】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを用いた各カラムで疎水性ステロイドを分離したときの結果を示す図である。図中の(A)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(B)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(C)は高密度PIPAAm修飾シリカビーズを示す。移動相としては、Milli−Q水、流速を1.0mL/minとした。それぞれ、ピーク1はヒドロコルチゾン、2はプレドニゾロン、3はデキサメタゾン、4はヒドロコルチゾンアセテート、5はテストステロンを示す。
【図9】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを用いた各カラムで疎水性ステロイドを分離したときの結果を示す図である。温度による保持時間変化を調べた。図中の(A)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(B)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(C)は高密度PIPAAm修飾シリカビーズを示す。((○)ヒドロコルチゾン、(▲)プレドニゾロン、(□)デキサメタゾン、(◆)ヒドロコルチゾンアセテート、(●)テストステロン)
【図10】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを用いた各カラムで疎水性ステロイドを分離したときの結果を示す図である。ヴァントホッフプロットによる各カラムの温度による保持時間挙動の解析を行った。図中の(A)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(B)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(C)は高密度PIPAAm修飾シリカビーズを示す。((○)ヒドロコルチゾン、(▲)プレドニゾロン、(□)デキサメタゾン、(◆)ヒドロコルチゾンアセテート、(●)テストステロン)
【図11】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを用いた各カラムで疎水性ステロイドを分離したときの結果を示す図である。各カラムの温度による溶質分離能を解析した。図中の(A)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(B)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(C)は高密度PIPAAm修飾シリカビーズを示す。((○)ヒドロコルチゾン、(▲)プレドニゾロン、(□)デキサメタゾン、(◆)ヒドロコルチゾンアセテート、(●)テストステロン)
【図12】 実施例1、比較例1で得られたサンプルを用いた各カラムで疎水性ステロイドを分離したときの結果を示す図である。温度を急激に変化させた際の分析時間の短縮程度を検討した。図中の(A)は高密度PIPAAm修飾モノリスシリカ、(B)はPIPAAm修飾密度を下げたモノリスシリカ、(C)は高密度PIPAAm修飾シリカビーズを示す。それぞれ、ピーク1はヒドロコルチゾン、2はデキサメタゾン、3はテストステロンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、上記の要望を満足すべく種々検討した結果、固定相の表面構造を、例えば温度などの外的条件を変化させることによって、移動相を変化させることなく移動層に溶解、もしくは分散した特定物と固定相表面との相互作用を変化させることにより分離・精製、濃縮する技術を開発し、本発明を完成したもので、本発明の目的は、外的条件を変化させることによって固定相の表面特性を可逆的に変化させ、これによって単一の水系移動相によって分離、精製、濃縮可能なクロマトグラフィ−方法及び該クロマトグラフィ−に使用する固定相としての温度応答性モノリス型多孔体を提供するものである。
【0016】
本発明の要旨は、移動相を水系に固定したままで、固定相表面の特性を温度によって変化させることが可能である温度応答性モノリス型多孔体を用いて特定物の分離を行うことを特徴とするクロマトグラフィ−方法である。また、本発明はその温度応答性モノリス型多孔体の製造方法を提供する。さらに本発明ではそれを用いた温度応答性クロマトグラフィ−法を示す。即ち、本発明を用いることにより、外部温度を臨界温度以上にすることによってペプチドやタンパク質や細胞などの生体要素を分離することが可能となる。従って、この際、有機溶媒、酸、アルカリ、界面活性剤等の薬剤を全く用いないので、これらが夾雑物質となることを防ぎ、また、タンパク質や細胞などの機能を維持したままでの分析と同じに分離にも利用することができる。
【0017】
従来のクロマトグラフィ−法では1種類の移動相で種々の化合物が混じっている試料特に極性の大きく異なる複数の試料を分離・分析する場合、分離が困難であり、分離に要する時間が大変長くなってしまう。そのため、このような試料を扱う際には有機溶媒の量や種類を時間と共に連続的に変化させる溶媒グラディエント法或いは段階的に変化させるステップグラディエント法により分離を行っているが、本発明による温度グラディエント法或いはステップグラディエント法では有機溶媒を使用する代わりに単一の移動相でカラム温度を連続的或いは段階的に変化させることにより同様の分離を達成することが可能であり、この方法を採用することによって、上述の夾雑物の混入を防止し、タンパク質や細胞などの機能を維持したままで分離できると共に所望の成分を温度をコントロ−ルすることによって短時間で分離が可能なのである。
【0018】
以下に本発明を具体的に示す。本発明においては、多孔体としてモノリス型多孔体を利用する。その多孔体の材質は特に限定されるものではないが、例えばシリカ、ポリスチレン、或いはそれらが組み合わさったハイブリッド型のもの等が挙げられる。本発明における多孔体はゾルーゲル法等の常法に従って製造しても良いが、すでに上市されているものも数多くあり、特にシリカからなる多孔体の種類が豊富で好適である。本発明ではその製品の材質に応じて実施可能である。シリカビーズが充填された従来の高速液体クロマトグラフィーにおいては、分析時間の短縮、分離性能の向上、大量分析を目的に移動相の流速を上げていくと、充填されたシリカビーズへの負荷圧が上がり、分離性能が低下する傾向にある。本発明で用いるモノリス型多孔体であれば、そのような負荷はかからず。分離性能が低下するといった問題も起こらない。モノリス型多孔体の形態は特に制約されるものではないが、通常のカラムのサイズであれば内径2mm〜5mm、長さは2cm〜30cmとなる。用途によってそれよりも大きなサイズのもの、或いは分離性能を上げるためにキャピラリー状のモノリス型多孔体でも良い。
【0019】
本発明は多孔体表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーが0.01分子鎖/nm以上の割合で高密度に固定化されている温度応答性モノリス型多孔体である。そして、この高密度固定化により担体表面に固定化されたポリマーの特性が顕著に発現する。その理由は、現時点では明確になっていないが、おそらく固定化されたポリマーが担体表面に高密度に存在するため、近傍のポリマー鎖と緊密に関係した結果と考えられるが、この理由は本発明の技術を何ら制約するものではない。
【0020】
本発明に用いる0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーは下限臨界溶解温度(LCST)を有するポリマー、上限臨界溶解温度(UCST)を有するポリマーが挙げられるが、それらのホモポリマー、コポリマー、或いは混合物のいずれであってもよい。このような高分子としては、例えば、特公平06−104061号公報に記載されているポリマーが挙げられる。具体的には、例えば、以下のモノマーの単独重合または共重合によって得られる。使用し得るモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド化合物、N−(若しくはN,N−ジ)アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、またはビニルエーテル誘導体、ポリビニルアルコール部分酢化物が挙げられ、コポリマーの場合は、これらの中で任意の2種以上を使用することができる。更には、上記モノマー以外のモノマー類との共重合、ポリマー同士のグラフトまたは共重合、あるいはポリマー、コポリマーの混合物を用いてもよい。また、ポリマー本来の性質を損なわない範囲で架橋することも可能である。その際、分離される物質が生体物質であることから、分離が5℃〜50℃の範囲で行われるため、ポリマーとしては、ポリ−N−n−プロピルアクリルアミド(単独重合体の下限臨界溶解温度21℃)、ポリ−N−n−プロピルメタクリルアミド(同27℃)、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(同32℃)、ポリ−N−イソプロピルメタクリルアミド(同43℃)、ポリ−N−シクロプロピルアクリルアミド(同45℃)、ポリ−N−エトキシエチルアクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N−エトキシエチルメタクリルアミド(同約45℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(同約28℃)、ポリ−N−テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(同約35℃)、ポリ−N,N−エチルメチルアクリルアミド(同56℃)、ポリ−N,N−ジエチルアクリルアミド(同32℃)などが挙げられる。
【0021】
本発明に用いられる親水性ポリマーとしては、ホモポリマー、コポリマーのいずれであっても良い。例えば、ポリアクリルアミド、ポリ−N、N−ジエチルアクリルアミド、ポリ−N、N−ジメチルアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸及びその塩、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、セルロース、カルボキシメチルセルロースなどの含水ポリマーなどが挙げられるが、特に制約されるものではない。
【0022】
本発明では、上記ポリマーが高密度に固定化されている。その固定化程度は、単位面積あたりの分子鎖数にして、0.01分子鎖/nm以上が良く、好ましくは0.04分子鎖/nm以上が良く、さらに好ましくは0.08分子鎖/nm以上が良い。基材表面へのポリマーの固定化程度が0.01分子鎖/nm以下であると、従来法による基材表面へのポリマー固定化と同様に個々のポリマー鎖の特性が発現するだけで本発明の多孔体として好ましくない。固定化程度を示す数値の算出方法は特に限定されるものではないが、例えば同様な反応条件で基材表面に固定化されていないポリマーを作製し、そのポリマー鎖を分析することで求めた分子量とポリマーが固定化された多孔体の元素分析などから求めたポリマー固定化量から算出できる。
【0023】
固定化されるポリマーの分子量は0〜80℃の温度範囲内で水和力の変化が発現するに十分に大きな分子量であれば特に制約されるものではないが、ポリマー分子量は1000以上が良く、好ましくは2000以上、さらに好ましくは5000以上のものが良い。分子量が1000以下であると、分子量が低すぎるため、水和力の変化を発現できず好ましくない。また、分子量が5000以上であると、今度はポリマーの分子量が高すぎるため、分子そのものが嵩高くなり温度応答性が減少してしまうこととなり好ましくない。
【0024】
また、本発明で示すところの基材上へのポリマーの固定化量は0.2〜10.0mg/mの範囲が良く、好ましくは0.4〜8.0mg/mの範囲、さらに好ましくは0.8〜6.0mg/mの範囲が良い。0.2mg/m以下であると温度応答性が認められなくなり、また10.0mg/mより高い値であってもポリマーの嵩高さのため温度応答性が減少してしまうこととなり好ましくない。固定化量の測定は常法に従えば良く、例えば元素分析、ESCAを量などが挙げられるがいずれの方法を用いても良い。本発明で固定化されるポリマーの状態は特に限定されるものではなく、直鎖状のものでも良く、架橋状態のものでも良いが、温度に対する応答性を高めること、基材表面に高密度に固定化することを達成するには前者の直鎖状のものが好ましい。
【0025】
本発明では上述したポリマーをモノリス型多孔体に固定化したものである。その固定化方法としては、特に制約されるものではないが、例えば基材表面に原子移動ラジカル重合開始剤を固定化し、その開始剤から触媒下で原子移動ラジカル法により0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを成長反応させる方法があげられる。その際に使用する開始剤は特に限定されるものではないが、本発明のように基材がシリカやガラスの場合、例えば、2−m/p−クロロメチルフェニルエチルトリメトキシシラン、2−m/p−クロロメチルフェニルエチルトリクロロシラン、1−トリクロロシリル−2−m/p−クロロメチルフェニルエタン、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシラン、(3−(2−ブロモイソブチリル)プロピル)ジメチルエトキシシランなどがあげられる。本発明では、この開始剤よりポリマー鎖を成長させる。その際の触媒としては特に限定されるものでないが、水和力が変わるポリマーとしてN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体を選んだ場合、ハロゲン化銅(CuX)としてCuCl、CuBr等があげられる。また、そのハロゲン化銅に対するリガンド錯体も特に限定されるものではないが、トリス(2−(ジメチルアミノ)エチル)アミン(MeTREN)、N,N,N’’,N’’−ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラアミン(HMTETA)、1,4,8,11−テトラメチル 1,4,8,11−アザシクロテトラデカン(MeCyclam)、ビピリジン等があげられる。重合時に使用する溶媒も特に限定されるものではなく、例えばジメチルホルムアルデヒド(DMF)等があげられる。その他の重合時の開始剤濃度、ハロゲン化銅濃度、リガンド錯体濃度、反応温度、反応時間等は特に限定されるものではなく、目的に応じて変更して良い。さらに反応液の状態は静置させても多孔体へ還流しても良いが、担体表面に均一に固定化することを考えると後者の方が好ましい。
【0026】
本発明で使用する多孔体の形状は特に限定されるものではなく、例えば平板状、管状のものがある。特に本発明の多孔体をクロマトグラフィー用の担体として用いる場合、担体としてはシリカゲルが良い。その際、細孔径は特に制約されるものではないが、3〜500nmが良く、好ましく10〜100nm、さらに好ましくは12〜50nmである。3nm以下であると分離できる溶質の分子量のかなり低いものだけが対象となり、また500nm以上であると担体表面積が少なくなり分離が著しく悪くなる。
【0027】
本発明では、こうして得られた温度応答性モノリス型多孔体をカラムに充填し、通常の液体クロマトグラフィー装置に取り付けて、液体クロマトグラフィーシステムとして利用される。その際、本発明の分離はカラム内に充填された担体の温度に影響される。その際、担体への温度の負荷方法は特に制約されないが、例えば担体を充填したカラムの全部、もしくは一部を所定の温度にしたアルミブロック、水浴、空気層、ジャケットなどに装着すること等が挙げられる。
【0028】
その分離方法は特に限定されるものではないが、一例として、温度応答性モノリス型多孔体が設置されたカラムを一定の温度下で溶質の分離を行う方法が挙げられる。本発明の担体は温度によってその表面の特性が変わる。分離したい物質によっては、適正な一定温度に設定するだけで分離する場合もある。
【0029】
別の分離方法の一例としては、あらかじめ多孔体表面の特性が変わる温度を確認しておき、その温度を挟むようにして温度変化させながら溶質の分離を行っても良い。この場合、温度変化だけで担体表面の特性が大きく変わるので、溶質によってはシグナルの出てくる時間(保持時間)に大きな差が生じることが期待される。本発明の場合、この多孔体表面の特性が大きく変わる温度を挟むようにして分離することが最も効果的な利用方法である。
【0030】
その温度変化をさせる際、温度変化は溶質を流し始めてから1回もしくはそれ以上の回数で断続的に変化させても良く、連続的に変化させても良い。またそれらの方法を組み合わせても良い。その際の温度変化は、手動で行っても良く、プログラムに従って自動的に温度制御できる装置を利用しても構わない。
【0031】
或いは、別の分離方法の一例としては、得られた温度応答性モノリス型多孔体に溶質を一度吸着させ、その後、温度を変えて担体表面の特性を変化させることで吸着した溶質を遊離させるような、キャッチアンドリリース法に基づいて利用する方法が挙げられる。その際に吸着させる溶質量は多孔体に吸着しうる量を超えていても良く、超えていなくても良い。いずれにせよ、一度吸着させ、その後、温度を変えて担体表面の特性を変化させること吸着した溶質を遊離させる利用法である。
【0032】
さらに、2種類以上の温度応答性モノリス型多孔体を同一カラム内に充填し担体表面の特性が変わる温度を挟むようにして温度変化させながら溶質の分離を行っても良い。この場合、例えば2種類の担体を利用した場合、3カ所の担体表面の異なる温度域が生じることとなり、この3カ所の温度を挟むようにして上述したような方法で温度変化させれば良いことになる。このことを2種類以上の温度応答性モノリス型多孔体を2本以上のカラム内に充填して行っても良い。
【0033】
別の分離方法の一例としては、温度応答性モノリス型多孔体を用い、担体表面の特性が変わる温度を挟むようにしてカラム入口端温度とカラム出口端温度を設定し、カラム内の温度を入口端から出口端まで温度勾配をつけることで溶質の分離を行う方法が挙げられる。その段階的に温度を変える方法は特に限定されないが、例えばカラム入口端温度とカラム出口端温度を十分に監視しカラム全体を保温する方法、複数個の温度の異なるアルミブロックをつなげてカラムに接触させるような方法などが挙げられる。
【0034】
本発明は以上に示してきたように移動層を固定したまま温度だけで溶質の分離を行えるものである。その際、移動相が100%水系が好ましいが、本発明の場合、多孔体表面に固定化されているポリマーの特性によるため移動相の組成には特に制約されるはなく、例えば移動相に溶媒含まれていても、pHを変えても、塩を含んでいても良い。その際、溶媒濃度を変え、溶媒グラジエント法を併用して本発明の担体を利用しても構わない。また、移動相が100%有機溶媒でも構わない。
【0035】
以上に示してきた本発明の温度応答性モノリス型多孔体、及びそれを用いたクロマトグラフィー法を用いれば、医薬品、及びその代謝物、農薬、ペプチド、蛋白質、細胞を分離することができる。その際には、カラム内の温度を変化させるだけで簡便な操作だけで分離が達成できる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明を実施例に基づいて更に詳しく説明するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0037】
(モノリスシリカカラムへのシランカップリング剤への修飾)
図1に示す手法でポリ−N−イソプロピルアクリルアミド(PIPAAm、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドをPIPAAmと示すときがある。)修飾モノリスシリカカラムを得た。ATRP開始剤(m/p−クロロメチルフェニルエチルトリメトキシシラン)は以下の方法で修飾した。モノリスシリカカラム(製品名:Monobis、型番:3250H30SI)を75%の湿度にて18時間静置した。6mLのm/p−クロロメチルフェニルエチルトリメトキシシランを14mLの脱水トルエンに溶解した。その後HPLCポンプを用いて、カラム内に0.1mL/minで16時間還流した。その後、トルエン、アセトンを反応後のカラムに流して洗浄し、110℃のオーブンで減圧乾燥した。密度を減少させたPIPAAm修飾表面を作製するために、ATRP開始剤(4.5mL)とグリシジルプロピルトリメトキシシラン(1.36mL)を14mLのトルエン溶液で溶解し、混合溶液を作製し、HPLCポンプを用いて、カラム内に0.1mL/minで16時間還流した。その後、トルエン、アセトンを反応後のカラムに流して洗浄し、110℃のオーブンで減圧乾燥した。
【0038】
(モノリスシリカカラムへのPIPAAm修飾)
PIPAAmブラシ修飾モノリスシリカは以下の方法で作製した。IPAAm(14.6g,129mmol)を85.6mLの2−プロパノールに溶解し、その後、窒素ガスで60分バブリングし、溶存酸素を除去した。CuCl(168mg,1.70mmol)、CuCl(23.0mg,0.171mmol)、MeTREN(044g,1.91mmol)を窒素雰囲気下で添加し、20分混合してCuCl/CuCl/MeTRENを形成した。モノマー溶液、ATRP開始剤修飾シリカカラム、HPLCポンプをグローブボックス内に設置し、減圧、窒素ガス封入を3回繰り返してグローブボックス内の酸素を除去した後、HPLCポンプを用いて、カラム内に0.05mL/minで16時間流した。その後カラム内にアセトン、2−プロパノールを送液し、洗浄した後、50℃で減圧乾燥した。
【0039】
(ATRP開始剤、PIPAAm修飾モノリスシリカカラムの物性評価)
ATRP開始剤を修飾したモノリスシリカロッドは以下のように特性評価した。微量ハロゲン分析により測定した。ATRP開始剤は以下の式で算出した。
【式1】

ここで%Clは塩素の重量%、%Cl(calcd)は開始剤の塩素の重量%、Sは表面積である。表面に固定化されたシランカップリング剤は、以下の式により算出した。
【式2】

%Cは炭素の重量%、%C(calcd)はシランカップリング剤中の炭素の重量%である。
PIPAAmの修飾量は以下の式により求めた。
【式3】

%Cは炭素の重量%、%C(calcd)はPIPAAmの炭素の重量%である。
モノリスシリカに修飾されたPIPAAmの分子量は以下のように測定した。PIPAAm修飾モノリスシリカをフッ化水素酸に3時間浸漬し、その後、炭酸ナトリウムで中和した後、透析膜を用いて透析し修飾PIPAAmを精製した。その後、凍結乾燥によりPIPAAmを回収し、GPCにより分子量、分子量分布を測定した。得られた分子量から下記の式を用いて算出した。
【式4】

ここで、mはPIPAAmの修飾量(g/m)、Nはアボガドロ数、Mは数平均分子量である。表面の元素組成は、XPSにより測定した。表面の観察はSEMにより測定した。
【0040】
(生理活性物質の保持挙動)
ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾンアセテート、テストステロンの5種類の疎水性ステロイドを0.217mg/mLでMilli−Q水、エタノール混合溶液に溶解した。PIPAAm修飾モノリスシリカカラムをHPLCシステムに接続し、Milli−Q水を1.0mL/minで流した。疎水性ステロイドの検出は254nmでおこなった。また、ステロイドの保持挙動の解析には以下の式を用いた。
【式5】

ここで、tは疎水性ステロイドの保持時間、tはPIPAAmと相互作用しないウラシルの保持時間である。
【0041】
[比較例1]
(シリカビーズへのシランカップリング剤への修飾)
ATRP開始剤(m/p−クロロメチルフェニルエチルトリメトキシシラン)修飾シリカビーズは湿度60%に静置した後、53.4mmol/LのATRP開始剤のトルエン溶液をシリカビーズに16時間反応させることで得た。その後、トルエン、アセトンで洗浄し110℃で減圧乾燥した。
【0042】
(モノリスシリカカラムへのPIPAAm修飾)
PIPAAm修飾シリカビーズを以下のように調製した。ATRP開始剤修飾シリカビーズをIPAAAm、CuCl/CuCl/MeTRENを添加した2−プロパノール溶液を16時間反応させた。その後、アセトン、メタノール、EDTA溶液、Milli−Q水で洗浄し、50℃で減圧乾燥した。
【0043】
(ATRP開始剤、PIPAAm修飾シリカビーズの物性評価)
ATRP開始剤を修飾したシリカビーズは以下のように特性評価した。微量ハロゲン分析により測定した。ATRP開始剤は以下の式で算出した。
【式6】

ここで%Clは塩素の重量%、%Cl(calcd)は開始剤の塩素の重量%、Sは表面積である。表面に固定化されたシランカップリング剤は、以下の式により算出した。
【式7】

%Cは炭素の重量%、%C(calcd)はシランカップリング剤中の炭素の重量%である。
PIPAAmの修飾量は以下の式により求めた。
【式8】

%Cは炭素の重量%、%C(calcd)はPIPAAmの炭素の重量%である。
【式9】

ここで、mはPIPAAmの修飾量(g/m)、Nはアボガドロ数、Mは数平均分子量である。表面の元素組成は、XPSにより測定した。表面の観察はSEMにより測定した。
【0044】
(生理活性物質の保持挙動)
PIPAAm修飾シリカビーズをカラム(4.6mm i.d.x50mm)に充填した。ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾンアセテート、テストステロンの5種類の疎水性ステロイドを0.217mg/mLでMilli−Q水、エタノール混合溶液に溶解した。PIPAAm修飾シリカビーズカラムをHPLCシステムに接続し、Milli−Q水を1.0mL/minで流した。疎水性ステロイドの検出は254nmでおこなった。また、ステロイドの保持挙動の解析には以下の式を用いた。
【式10】

ここで、tは疎水性ステロイドの保持時間、tはPIPAAmと相互作用しないウラシルの保持時間である。
【0045】
以下に、実施例1及び比較例1で得られた結果を比較検討する。
(モノリスシリカカラムへの物性解析)
ATRP開始剤修飾モノリスシリカ、PIPAAm修飾モノリスシリカの元素分析をおこなった。開始剤とグリシジルプロピルトリメトキシシランを混合させて修飾させた表面、またその表面からPIPAAmを修飾させた表面も同様に評価した。元素分析の結果を図2に示す。塩素元素の組成から算出される開始剤固定化量は、炭素元素から算出される開始剤固定化量と比較して小さな値を示した。これは、それぞれの元素分析の感度の差によるものと考えられる。モノリスシリカカラム表面の炭素から算出したATRP開始剤量は、シリカビーズ上に修飾された値とほぼ同じ値であり、このことから、湿度75%での静置、30%濃度のATRP開始剤含有トルエン溶液、0.1mL/minの還流の条件により、モノリスシリカカラム表面に反応させることが可能であることがわかった。
塩素元素量はATRP開始剤のみで作製した表面の方がATRP開始剤とグリシジルプロピルトリメトキシシランを混合させて作製した表面よりも大きかった。これはグリシジルプロピルトリメトキシシランを競合的に結合させることで、表面の塩素元素量を少なくできると考えられる。
PIPAAm修飾モノリスシリカ、PIPAAm修飾シリカビーズを表面開始ATRPにより調製した。炭素元素量がATRP反応後に増加していることから、ATRP反応溶液をモノリスシリカカラムに流すことで、モノリスシリカカラム表面にPIPAAmを修飾できることが示された。
PIPAAm修飾鎖長、PIPAAm修飾密度を測定するために、PIPAAm修飾モノリスシリカ、PIPAAm修飾シリカビーズをフッ化水素酸でシリカを溶解し、修飾されていたPIPAAmを遊離させてGPCで測定した。GPCチャートを図3に示す。GPCチャートでは狭い二つのピークが混成していることが確認された。これはポリマーが表面に修飾される際に、モノリスシリカ表面と細孔内、およびモノリスシリカビーズ内と細孔内でポリマーの重合速度が異なること、および30nmの細孔内でポリマーの修飾が飽和し停止することによると考えられる。PIPAAm修飾密度はグリシジルプロピルトリメトキシシランを表面に反応さえたものは小さかった。これはPIPAAm修飾密度が開始剤密度を制御することで制御できることを示している。
表面の元素組成をXPSで確認したところ、ATRPによるPIPAAm修飾後はNの割合いが大きくなっており、N/Cの値も0.17に近づいていることがわかった(図4)。また、開始剤修飾シリカにはみられなかったC=0由来のピークがPIPAAm修飾後には確認できた。これによりPIPAAmの修飾が確認できた。
SEM画像によるPIPAAm修飾シリカ、未修飾モノリスシリカを比較したところ、マクロポアには違いが見られなかった。このことから、PIPAAm修飾によって移動相の流路を埋めてしまうことはないことが確認できた(図5、6)。
さらに各温度でのPIPAAm修飾シリカ、未修飾シリカの圧力を確認したところPIPAAm修飾モノリスシリカでは温度が上がるに従い、圧力が急激に下がっていることがわかった(図7)。これは、修飾したPIPAAmが脱水和により収縮するためと考えられる。
【0046】
(疎水性ステロイドの溶出挙動)
図8にステロイドの各温度での溶出挙動を示す。PIPAAmモノリス修飾シリカカラムでは、PIPAAm修飾シリカビーズの溶出挙動と比較して、著しく早い溶出時間(約1/5)を示していることがわかった(Fig.4)。これは、PIPAAm修飾シリカの移動相の線速度が著しく早くなっていること。また、モノリスシリカでは移動相内に溶解している溶質とモノリスシリカに修飾されているPIPAAmとの拡散距離が短いことによると考えられる。また、モノリスシリカに修飾されたPIPAAm密度を減少させた場合はさらに溶出時間を減少させることができた。これは、PIPAAmの修飾量が少なくなるため、溶質との疎水性相互作用が弱くなるためと考えられる。
図9の保持時間と温度のプロットではPIPAAmモノリスカラムの場合は相転移温度で急激に変化する挙動がみられたが、PIPAAm修飾シリカでは徐々に保持時間が増加し、40℃を極大点として減少する傾向が見られた。ここでの結果は、モノリスカラムの特徴と考えられる。つまりモノリスに修飾すると同じ修飾構造なのに保持挙動が異なる結果が得られた。
図10のヴァントホッフプロットによる解析においてもPIPAAm修飾モノリスシリカカラムはLCST付近で大きな保持挙動変化が得られた。一方、PIPAAm修飾シリカビーズでは、保持挙動変化が少ない傾向が見られた。
図11に疎水性ステロイドの分離度の変化を示す。PIPAAm修飾モノリスシリカではPIPAAm修飾シリカビーズよりも高い分離度を示した。これにより、PIPAAm修飾モノリスシリカは早い分析時間で、高い分離度を有する担体であるといえる。
図12にカラム温度を50℃から35℃に急激に下げる温度ステップグラジエントのクロマトグラムを示す。短い分析時間内においても、カラム温度を急激に変化することで、分析時間(保持時間)をさらに短縮できることがわかった。
以上の結果よりPIPAAm修飾モノリスシリカは短い分析時間での分析が可能であり、またその分析時間を温度により自由に制御できるクロマト担体であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、基材表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーが高密度に固定化された温度応答性モノリス型多孔体が得られる。この担体を利用すると温度変化に対する基材表面の変化量が著しく向上する。そのため分離操作が簡便となり、分離作業の効率性が良くなる。この分離対象としては、例えば広範囲のペプチド、蛋白質、細胞への利用が強く期待される。したがって、本発明は医学、生物学等の分野における極めて有用な発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔体表面に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーが0.01分子鎖/nm以上の割合で高密度に固定化されていることを特徴とする温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項2】
多孔体がシリカからなる、請求項1記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項3】
多孔体表面のポリマー固定化量が0.2〜10.0mg/mである、請求項1、2いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項4】
ポリマー分子鎖が非架橋である、請求項1〜3いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項5】
ポリマーが、ポリ−N−置換アクリルアミド誘導体、ポリ−N−置換メタアクリルアミド誘導体、これらの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物のいずれか一つ、もしくは二つ以上からなる、請求項1〜4いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項6】
ポリマーが、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドである、請求項1〜5いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項7】
ポリマーが、ポリマー分子鎖内に0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化する性質が失われない範囲で親水性分子、疎水性分子、イオン性分子が含まれた共重合物である、請求項5、6記載いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項8】
多孔体形状が平板状、管状である、請求項1〜7いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体。
【請求項9】
多孔体表面に原子移動ラジカル重合開始剤を固定化し、その開始剤から触媒下で原子移動ラジカル法により0〜80℃の温度範囲内で水和力が変化するポリマーを成長反応させることを特徴とする温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項10】
多孔体がシリカからなるものである、請求項9記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項11】
原子移動ラジカル重合開始剤が、2−m−クロロメチルフェニルエチルトリメトキシシランおよび/または2−p−クロロメチルフェニルエチルトリメトキシシランである、請求項9、10いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体製造方法。
【請求項12】
原子移動ラジカル重合開始剤が0.01分子鎖/nm以上の割合で高密度に固定化されていることを特徴とする請求項9〜11いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項13】
重合触媒が、ハロゲン化銅として塩化銅、リガンド錯体としてトリス(2−(ジメチルアミノ)エチル)アミンである、請求項9〜12いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項14】
多孔体表面のポリマー固定化量が0.2〜10.0mg/mである、請求項9〜13いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項15】
ポリマー分子鎖が非架橋である、請求項9〜14いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項16】
ポリマーが、ポリ−N−置換アクリルアミド誘導体、ポリ−N−置換メタアクリルアミド誘導体、これらの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物のいずれか一つ、もしくは二つ以上からなる、請求項9〜15いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項17】
多孔体がシリカゲル粒子、ガラス板、ガラス粒子である、請求項9〜16いずれか1項記載の温度応答性モノリス型多孔体の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜8記載の温度応答性モノリス型多孔体表面の特性が変わる温度を挟むようにして温度変化させながら特定物を分離、又は濃縮することを特徴とする温度応答性クロマトグラフィー法。
【請求項19】
請求項1〜8記載の温度応答性モノリス型多孔体に特定物を吸着させ、その後、温度を変えて担体表面の特性を変化させることで吸着した特定物を遊離させることを特徴とする請求項18記載の温度応答性クロマトグラフィー法。
【請求項20】
請求項1〜8記載の温度応答性モノリス型多孔体2種以上を同一カラム内に充填し担体表面の特性が変わる温度を挟むようにして温度変化させながら特定物の分離を行うことを特徴とする請求項18、19いずれか1項記載の温度応答性クロマトグラフィー法。
【請求項21】
請求項1〜8記載の温度応答性モノリス型多孔体を用い、担体表面の特性が変わる温度を挟むようにしてカラム入口端温度とカラム出口端温度を設定し、カラム内は入口端から出口端まで温度勾配をつけることで特定物の分離を行うことを特徴とする請求項18〜20いずれか1項記載の温度応答性クロマトグラフィー法。
【請求項22】
移動相が水系である、請求項18〜21いずれか1項記載の温度応答性クロマトグラフィー法。
【請求項23】
特定物が医薬品、もしくはその代謝物、農薬、ペプチド、蛋白質、細胞である、請求項18〜22記載の温度応答性クロマトグラフィー法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−189562(P2012−189562A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73486(P2011−73486)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(501345220)株式会社セルシード (39)
【出願人】(591173198)学校法人東京女子医科大学 (48)
【出願人】(503131777)