説明

温度応答性多孔質体及びその製造方法

【課題】 ろ過膜、吸着剤、ドラッグデリバリーシステム等に用いた場合、ろ過、吸着、放出等に充分な速度を有し、温度の変化によりろ過速度、吸着速度、放出速度等の変化が大きく、その変化に必要な時間も短いという特徴を有する感温性多孔質体及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
多孔質体の孔表面を、下限臨界溶解温度を有するポリマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合ヒドロゲルで被覆した温度応答性多孔質体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の孔表面を、下限臨界溶解温度を有するポリマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合ヒドロゲルで被覆した温度応答性多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品工業、医薬品工業、電子工業、排水処理、人工臓器、海水の淡水化等の種々のプロセスの高度化により、単なるろ過分離、吸着等では、充分ニーズに対応してゆくことができなくなりつつある。そのような背景から、外部からの刺激に対し自らの機能を変化させるという刺激応答性材料によるインテリジェントシステムの開発が注目を集めている。刺激応答性材料の1つとして、温度変化により膨潤収縮を行う含水ゲル状重合体が発見され、ドラッグデリバリーシステム、ろ過膜等への応用が盛んに研究されていた。
【0003】
例えば、非特許文献1には、ドラグデリバリーシステムへの応用につき記載されている。この例では、感温性モノマーと架橋可能なモノマーおよび/またはオリゴマーの混合物の熱重合により含水ゲル状重合体を成形していることから、その構造にはゲル網目より大きな孔を有していない。
【0004】
一方、優れた力学物性を示すナノコンポジット材料として、広い範囲の粘土鉱物含有率において粘土鉱物が有機高分子中に均一に分散した有機無機複合ヒドロゲルが開示されており、該有機無機複合ヒドロゲルは水媒体中で水膨潤性粘土鉱物と重合開始剤の存在下にアクリルアミドやメタクリルアミドの誘導体、(メタ)アクリル酸エステルなどを重合させることにより、力学物性の良い高分子複合体を製造できることが開示されている(例えば特許文献1、特許文献2参照)。
【0005】
また、酸素の影響を受けにくく、短時間で有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法が開示されており、即ち、非水溶性の重合開始剤(d)を水媒体(c)中に分散させた反応溶液中で、水膨潤性粘土鉱物(b)の共存下において、水溶性のアクリル系モノマー(a)をエネルギー線の照射により反応させることにより、力学物性の優れた有機無機複合ヒドロゲルを製造できる方法である(例えば特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、上記の特許文献等に記載された含水ゲルは、実用に供する上で充分な性能を有するとは言えない。即ち、含水ゲル状重合体をろ過膜、吸着剤、ドラッグデリバリーシステム等に用いた場合、孔を有さない構造である為、ろ過速度、吸着速度、放出速度等が重合体内での水や薬剤の拡散に支配されるため、非常に遅いという問題点を有する。また、温度変化に応答して、ろ過速度、吸着速度、放出速度等が変化するのに時間がかかり過ぎるという問題点も有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−53762
【特許文献2】特開2004−143212
【特許文献3】特開2006−169314
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】POLYMER JOURNAL,23,(1991)1179−1189
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、ろ過膜、吸着剤、ドラッグデリバリーシステム等に用いた場合、ろ過、吸着、放出等に充分な速度を有し、温度の変化によりろ過速度、吸着速度、放出速度等の変化が大きく、その変化に必要な時間も短いという特徴を有する感温性多孔質体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は、多孔質体の孔表面を、下限臨界溶解温度(LCST)を有するポリマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合ヒドロゲルで被覆した温度応答性多孔質体を提供するものである。
【0011】
また、本発明は、(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)及び重合開始剤(D)を水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた溶液を、多孔質体に含浸させた後、前記モノマー(a)を重合させる温度応答性多孔質体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法は、製造工程が少なく、高価な設備投資が不要で、簡便に短時間で温度応答性多孔質体を製造できる。また、本発明の製造方法で製造された温度応答性多孔質体は、速い温度応答性を有し、LCST前後の透過流束差が大きく、繰り返し使用時の性能変化が少ない。また、容易に任意形状の多孔質体を成形することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のポリマー(A)は、下限臨界溶解温度(LCST)を有するものであれば、任意のものを使用できる。LCSTは使用条件に応じて、モノマー(a)及びその他の架橋性モノマーの配合により適宜調整することができる。ポリマー(A)の分子量は1×10〜5×10であることが好ましい。分子量がこの範囲であれば、ポリマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)の間に十分な三次元網目を形成でき、得られたA/B複合体が十分な刺激応答速度を有し、好ましい。
【0014】
本発明の水膨潤性粘土鉱物(B)は、層状に剥離可能な膨潤性粘土鉱物が挙げられ、好ましくは水または水と有機溶剤との混合溶液中で膨潤し均一に分散可能な粘土鉱物、特に好ましくは水中で分子状(単一層)またはそれに近いレベルで均一分散可能な無機粘土鉱物が用いられる。具体的にはナトリウムを層間イオンとして含む水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリライト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母等が挙げられる。これらの粘土鉱物を混合して用いても良い。
【0015】
多孔質体は、使用目的に応じて、任意のものを使用することができる。例えば、限外ろ過膜、精密ろ過膜等のようなろ過膜、不織布、ガーゼ、布などを好適に使用することができる。
【0016】
本発明の温度応答性多孔質体は、前記ポリマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合ヒドロゲルで、多孔質体の外表面及び内部の孔の表面の全て、又は一部を被覆したものである。本発明の温度応答性多孔質体では、多孔質体の外表面及び孔内の表面の一部を有機無機複合ヒドロゲルで被覆したものでもよいが、できるだけ広い表面を被覆しているものが好ましく、全表面を被覆しているものが特に好ましい。被覆厚みは、使用される多孔質体の孔径、要求される膜透過流束等によって適宜調整することができる。
【0017】
本発明で用いる(メタ)アクリル系モノマー(a)は、その重合体(A)が水膨潤性粘土鉱物(B)と相互作用し、三次元網目構造を有する有機無機複合体を形成できるものであれば、好適に使用できるが、中でも、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドのようなN−置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N−ジチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリンのようなN,N−ジ置換(メタ)アクリルアミド誘導体、メトキシエチルアクリレートとポリエチレングリコールアクリレートの混合物、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。これらのモノマー(a)は、二種以上を混合して用いることができる。中では、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミドがより好ましく用いられる。
【0018】
また、前記モノマー(a)の他に、有機無機複合ヒドロゲルのLCST制御や官能基を付与するために、必要に応じてその他の共重合モノマーを併用することができる。例えば、メチレンビスアクリルアミド、スルホン基やカルボキシル基のようなアニオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基のようなカチオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、4級アンモニウム基と燐酸基とを持つ両性イオン基を有する(メタ)アクリル系モノマー、カルボキシル基とアミノ基とをもつアミノ酸残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、糖残基を有する(メタ)アクリル系モノマー、また、水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール鎖を有する(メタ)アクリル系モノマー、更にポリエチレングリコールのような親水性鎖とノニルフェニル基のような疎水基を合わせ持つ両親媒性(メタ)アクリル系モノマー、ポリエチレングリコールジアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレートなどを併用することができる。
【0019】
次いで、本発明の製造方法について説明する。
本発明の温度応答性多孔質体は、下記の方法で製造することができる。
即ち、(メタ)アクリル系モノマー(a)、前記水膨潤性粘土鉱物(B)及び重合開始剤(D)を前記水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた溶液を、多孔質体に含浸させた後、前記モノマー(a)を重合させる温度応答性多孔質体の製造方法である。
【0020】
(メタ)アクリル系モノマー(a)と水膨潤性粘土鉱物(B)は前記のものと同じものを使用できる。本発明に用いられる重合開始剤(D)としては、公知のラジカル重合開始剤を適時選択して用いることができる。好ましくは水分散性を有し、系全体に均一に含まれるものが好ましく用いられる。具体的には、重合開始剤として、水溶性の過酸化物、例えばペルオキソ二硫酸カリウムやペルオキソ二硫酸アンモニウム、水溶性のアゾ化合物、例えばVA−044、V−50、V−501(いずれも和光純薬工業株式会社製)の他、Fe2+と過酸化水素との混合物などが例示される。
【0021】
触媒としては、3級アミン化合物であるN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミンなどは好ましく用いられる。但し、触媒は必ずしも用いなくてもよい。重合温度は、重合触媒や開始剤の種類に合わせて例えば0℃〜100℃が用いられる。重合時間も数十秒〜数十時間の間で行うことが出来る。
【0022】
一方、光重合開始剤は、酸素阻害の影響を受けにくく、重合速度が速いため、好適に用いられる。具体的には、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノンなどのアセトフェノン類、4,4’−ビスジメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、2−メチルチオキサントンなどのケトン類、ベンゾインメチルエーテルなどのベンゾインエーテル類、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどのα−ヒドロキシケトン類、メチルベンゾイルホルメートなどのフェニルグリオキシレート類、メタロセン類などが挙げられる。
【0023】
前記光重合開始剤は非水溶性のものである。ここで言う非水溶性とは、重合開始剤の水に対する溶解量が0.5質量%以下であることを意味する。非水溶性の重合開始剤を使用することにより、開始剤がより水膨潤性粘土鉱物(B)の近傍に存在しやすく、水膨潤性粘土鉱物(B)近傍からの開始反応点が多くなり、得られる有機無機複合ヒドロゲルの力学物性が良く、好ましい。
【0024】
前記光重合開始剤を水媒体(C)と相溶する溶媒(F)に溶解させた溶液を前記水媒体(C)中に添加することが好ましい。この方法によって光重合開始剤がより均一に分散でき、より粒径の揃った複合体粒子が得られる。
【0025】
本発明の溶媒(F)としては、非水溶性の光重合開始剤を溶解できる水溶性の溶剤、または前記モノマー(a)やその他の水溶性のアクリル系モノマー(a’)を用いることができる。水溶性溶剤としては、例えば、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド類、メタノール、エタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これらの溶剤を混合して用いても良い。
【0026】
また、溶媒(F)として用いることのできる前記モノマー(a)または水溶性のアクリル系モノマー(a’)としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレートのようなポリプロピレングリコールジアクリレート類、ポリエチレングリコールジアクリレート類、ペンタプロピレングリコールアクリレートのようなポリプロピレングリコールアクリレート類、ポリエチレングリコールアクリレート類、メトキシエチルアクリレート、メトキシトリエチレングリコールアクリレートのようなメキシポリエチレングリコールアクリレート類、ノニルフェノキシポリエチレングリコ−ルアクリレート類、ジメチルアクリルアミドのようなN置換アクリルアミド類、ヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、などが挙げられる。これらのアクリル系モノマーは、二種以上を混合して用いることができる。
【0027】
ここで言う水溶性を有する溶剤とは、水100gに対し50g以上溶解できる溶剤であることが好ましい。この範囲であれば、非水溶性の光重合開始剤(D)の水媒体(C)への分散性が良好であり、得られる有機無機複合ヒドロゲルの力学物性が良く、重合収率が高く、好ましい。
【0028】
非水溶性光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液中における光重合開始剤(D)と溶媒(F)の質量比(D)/(F)は、0.001〜0.1であることが好ましく、0.01〜0.05が更に好ましい。0.001以上であると、エネルギー線の照射によるラジカルの発生量が十分に得られるため好適に重合反応を進行させることができ、0.1以下であれば、開始剤による発色や、臭気を実質的に生じることがなく、またコストの低減が可能である。
【0029】
以上のアクリル系モノマー(a’)および水溶性を有する溶剤のいずれの場合においても、光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液の添加量が、モノマー(a)、無機材料(B)、水媒体(C)、重合開始剤(D)及び溶媒(F)の総質量に対し、0.1質量%〜5質量%であることが好ましく、0.2質量%〜2質量%であることが更に好ましい。該分散量が0.1質量%以上であると、重合が十分に開始され、5質量%未満であると、複合ヒドロゲル中の重合開始剤の増加による臭気の発生、更には一旦分散された光重合開始剤が再び凝集する等の問題を低減でき、良好な有機無機複合ヒドロゲルを得ることができるため好ましい。
【0030】
本発明の製造方法に用いる水媒体(C)は、モノマー(a)や水膨潤性粘土鉱物(B)などを含むことができ、物性のよい有機無機複合ヒドロゲルが得られれば良く、特に限定されない。例えば水、または水と混和性を有する溶剤及び/またはその他の化合物を含む水溶液であってよく、その中には更に、防腐剤や抗菌剤、着色料、香料、酵素、たんぱく質、糖類、アミノ酸類、細胞、DNA類、塩類、水溶性有機溶剤類、界面活性剤、高分子化合物、レベリング剤などを含むことができる。
【0031】
前記光重合開始剤を用いた場合の重合方法としては、エネルギー線照射が挙げられ、例えば、電子線、γ線、X線、紫外線、可視光などを用いることができる。中でも装置や取り扱いの簡便さから紫外線を用いることが好ましい。照射する紫外線の強度は10〜500mW/cmが好ましく、照射時間は一般に0.1秒〜200秒程度である。通常の加熱によるラジカル重合においては、酸素が重合の阻害因子として働くが、本発明では、必ずしも酸素を遮断した雰囲気で溶液の調製およびエネルギー線照射による重合を行う必要がなく、空気雰囲気でこれらを行うことが可能である。但し、紫外線照射を不活性ガス雰囲気下で行うことによって、更に重合速度を速めることが可能で、望ましい場合がある。
【0032】
本発明のモノマー(a)、粘土鉱物(B)、重合開始剤(D)と水媒体(C)からなる反応溶液の多孔質体への含浸方法は公知慣用の方法でよい。例えば、一定大きさの多孔質体を前記反応液に浸漬した後、静置重合または紫外線照射による重合を行う枚葉式方法や、一定幅の巻き状多孔質体を複数のロールを通して反応液に浸漬させた後、紫外線照射ゾーンを通過させ重合させる連続方式がある。反応液の含浸量(塗布厚み)は、反応液含浸後の多孔質体を圧着ロール等で含浸液を適宜絞ることにより制御することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲がこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
[光重合開始剤(D)を溶媒(F)に溶解させた溶液(G)の調整]
溶媒(F)として、メタノール9.8g、非水溶性の光重合開始剤(D)として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン「イルガキュアー184」(チバガイギー社製)0.2gを、均一に混合して溶液(G1)を調製した。
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、非水溶性の光重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.13g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.08g、非水溶性の光重合開始剤(D)として溶液(G1)50μl、水媒体(C)として水10g、を均一に混合して反応液(E1)を調製した。
[温度応答性多孔質体の作製]
厚み0.2mm、目付50g/mの親水化処理ポリプロピレン製不織布(品番:MA−2014、日本バイリーン株式会社製)に上記反応液(E1)を400g/mになるように滴下した後、365nmにおける紫外線強度が40mW/cmの紫外線を180秒照射し、温度応答性多孔質体(1)を作製した。
[膜透過流速の測定]
上記得られた温度応答性多孔質体(1)を蒸留水で洗浄し、加圧式ろ過器(型番SM165−26、ザルトリュース株式会社製)を用いて、0.3kg/cmの圧力での膜透過流束を測定したところ、20℃の水を用いた場合の膜透過流束は0であり、水が多孔質体を透過しなかった。一方、50℃の水を使用してろ過試験を行った場合、膜透過流速は1100L/(m・hr・kg・cm−2)であった。
【0035】
上記反応液をスクリュウ管内で重合させて得たヒドロゲルについて、LCSTを測定したところ、LCSTは32℃であった。
【0036】
この実施例より、20℃の水中では、有機無機複合ヒドロゲルが膨潤し、その結果、多孔質体の孔が膨潤したゲルで塞がり、水が透過できなくなる。一方、温度が50℃(LCST以上)になると、前記ゲルが収縮し、多孔質体の孔が現れ、水が透過できるようになることが理解できる。
【0037】
(実施例2)
[モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)、水溶性の重合開始剤(D)、水媒体(C)を含む反応液(E)の調製]
モノマー(a)としてN−イソプロピルアクリルアミド(株式会社興人製)1.13g、粘土鉱物(B)としてLaponite XLG(Rockwood Additives Ltd.社製)0.4g、水溶性の重合開始剤(D)としてペルオキソ二硫酸カリウムの2質量%水溶液を50μl、触媒としてN , N,N′,N′−テトラメチルエチレンジアミン8μl、水媒体(C)として予め窒素でバブリングし酸素を除去した水10gを均一に混合して反応液(E2)を調製した。
[温度応答性多孔質体の作製]
厚み0.2mm、目付50g/mの親水化処理ポリプロピレン製不織布(品番:MA−2014、日本バイリーン株式会社製)に上記反応液(E2)を400g/mになるように滴下した後、窒素雰囲気中で15時間静置し、温度応答性多孔質体(2)を作製した。
[膜透過流速の測定]
実施例1と同様にして、膜透過流束を測定した。20℃の水を用いた場合の膜透過流束は0であり、水が多孔質体を透過しなかった。一方、50℃の水を用いた場合の膜透過流速は600L/(m・hr・kg・cm−2)であった。
【0038】
上記反応液をスクリュウ管内で重合させて得たヒドロゲルについて、LCSTを測定したところ、LCSTは32℃であった。
【0039】
この実施例より、有機無機複合ヒドロゲル中のクレイ量が増えると、ゲルの収縮度合いが小さくなり、LCST以上の温度でも、多孔質体の孔径が小さくなり、膜透過流束が低くなることが理解できる。
【0040】
(比較例1)
厚み0.2mm、目付50g/mの親水化処理ポリプロピレン製不織布(品番:MA−2014、日本バイリーン株式会社製)をそのまま、実施例1と同様にして膜透過流束を測定したところ、20℃の水を用いた場合の膜透過流束は6×10L/(m・hr・kg・cm−2)で、50℃の水を用いた場合の膜透過流束は8×10L/(m・hr・kg・cm−2)であり、温度による膜透過流束の差はほとんどなかった。
上記実施例及び比較例から、本発明の温度応答性多孔質体は、外部温度変化による膜透過流束の制御が容易で、また、有機無機複合ヒドロゲルの膨潤収縮特性を調整することにより、温度変化による多孔質体の孔径サイズの制御も可能である。更に、製造方法によれば、短時間、広い範囲の粘土鉱物含有率を有するヒドロゲルで被覆された多孔質体を製造できることが明らかであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質体の孔表面を、下限臨界溶解温度を有するポリマー(A)と水膨潤性粘土鉱物(B)とが三次元網目を形成してなる有機無機複合ヒドロゲルで被覆した温度応答性多孔質体。
【請求項2】
下限臨界溶解温度を有するポリマー(A)が(メタ)アクリル系モノマー(a)の重合体である請求項1に記載の温度応答性多孔質体。
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系モノマー(a)が、(メタ)アクリルアミド、もしくはこれらの誘導体である請求2に記載の温度応答性多孔質体。
【請求項4】
前記水膨潤性粘土鉱物(B)が、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト及び水膨潤性合成雲母から選ばれる少なくとも一種の、水媒体(C)中で1〜10層に層状剥離する粘土鉱物である請求項1〜3のいずれかに記載の温度応答性多孔質体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の温度応答性多孔質体を用いた濾過膜。
【請求項6】
(メタ)アクリル系モノマー(a)、水膨潤性粘土鉱物(B)及び重合開始剤(D)を水媒体(C)中に溶解または均一に分散させた溶液を、多孔質体に含浸させた後、前記モノマー(a)を重合させる温度応答性多孔質体の製造方法。

【公開番号】特開2011−195707(P2011−195707A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64105(P2010−64105)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】