説明

温度応答性高分子、およびこれを用いた温度応答性ファイバーおよび不織布、並びにその製造方法

【課題】
複雑な工程を用いずに、明瞭な温度応答性を備えた温度応答性高分子、及び温度応答性高分子からなる温度応答性高分子ファイバーおよび不織布、その製造方法を提供する。
【解決手段】
温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子であって、前記高分子は、温度応答性モノマーと、疎水性モノマーとの共重合体からなる。前記温度応答性高分子は、温度応答性モノマーと疎水性モノマーとの比が、50モル%:50モル%から99.9モル%対0.1モル%の組成比で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子および温度応答性高分子からなる温度応答性ファイバーおよび不織布、並びにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞培養に適した足場材料(培地)に応用できる高分子ファイバーや不織布が望まれている。細胞の培養の培地条件として、細胞の培養時は不溶であり、培養後に細胞を取り出す際に培養細胞を培地から簡単に分離できることが好ましい。その際に特別な酵素等を使わずに分離できることが望ましい。酵素等を使うと細胞にダメージを与える恐れがあるためである。
【0003】
培養細胞を特別な酵素等を使わずに取り出す方法として、温度応答性ファイバー等を培地として用いる方法がある。温度応答性高分子は、所定の温度以上の場合は水に不溶性であり、所定の温度以下の場合には水に可溶性となる特性を有している。このような温度応答性の機能を有するファイバー又は不織布ができれば、薬物放出デバイス、センサー材料、膜材料として広汎な応用が考えられる。
【0004】
従来、温度応答性ファイバーとして、例えば、ポリアクリロニトリル(P A N) 、ポリ乳酸(P L A) 、ポリエチレンオキサイド(P E O) などの高分子材料を用いてエレクトロスピニング法により作成した報告がある(非特許文献1)。
ここで、P A N及びP L Aは水に不溶な高分子であるため、作成した高分子ファイバー、及び不織布も水に不溶性となる。一方、P E Oは水溶性高分子であるため、作成した高分子ファイバー、及び不織布は水に可溶性となる。
【0005】
温度応答性高分子であるポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を用いて、エレクトロスピニング法により高分子ファイバーおよび不織布を作成した報告がある(非特許文献2)。しかし、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)からなる高分子ファイバーおよび不織布は、低温でも高温でも水に溶解・分散してしまい、明瞭な温度応答性機能を有していないという問題があった。
【0006】
下記特許文献1には、ドナーへの負担が少なく、高い選択性で高回収率と機能保持率を確保した細胞分離用材料が開示されている。この細胞分離用材料は、細胞に対する親和性が外部からの刺激に応じて変化する高分子ゲルを表面に被覆した高分子多孔体または繊維集合体よりなる細胞分離用材料である。しかし、特許文献1が開示する細胞分離用材料は、高分子多孔体または繊維集合体に高分子ゲルを被覆する必要があり、工程が煩雑であるという問題がある。
【特許文献1】特開平7-136508 号公報
【非特許文献1】高橋卓巳 奥崎秀典「エレクトロスピニングによる機能性高分子ナノファイバーの創製」工業材料 2 0 0 3年9月号 P 3 4〜 P 3 7
【非特許文献2】第56回高分子年次大会予稿集「エレクトロスピニングによるPNIPAM ナノファイバー不織布の作製」小林慶子、奥崎秀典 P 6 8 2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の課題は、温度応答性の高分子ゲルを被覆するといった複雑な工程を経なくても、明瞭な温度応答性機能を有する高分子を提供することにある。また、細胞培養に適し、薬物放出デバイス、センサー材料、膜材料など、再生医工学や各種産業分野に適用可能な温度応答性を有する高分子ファイバーおよび不織布を、簡便且つ低コストで製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子であって、温度応答性モノマーと、疎水性モノマーとの共重合体からなることを特徴とする。
前記温度応答性モノマーと疎水性モノマーとの比が、50モル%:50モル%から99.9モル%対0.1モル%の組成比で構成されることは好適である。
【0009】
本発明は、温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子であって、温度応答性モノマーと、疎水性モノマーと、親水性モノマーとの共重合体からなることを特徴とする。
前記温度応答性モノマーと疎水性モノマーと親水性モノマーとの比が、50モル%:49.9モル%:0.1モル%から99.8モル%:0.1モル%:0.1モル%の組成比で構成されることは好適である。
【0010】
本発明は、上記温度応答性高分子を用いた温度応答性ファイバー又は不織布を提供するものである。前記温度応答性ファイバー又は不織布を構成する繊維の直径が、数十ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲にあることは好ましい。
【0011】
本発明は、温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子からなる温度応答性ファイバー又は不織布の製造方法であって、記温度応答性高分子を溶媒に溶解させ、エレクトロスピニング法、又は湿式法のいずれかの方法で前記温度応答性高分子が溶解した高分子溶液から製造することを特徴とする。
【0012】
本発明は、温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子からなる温度応答性ファイバー又は不織布の製造方法であって、メルトブロー法、又はスパンボンド法のいずれかの方法で前記温度応答性高分子から製造することを特徴とする。
【0013】
前記エレクトロスピニング法に用いる高分子溶液は、前記温度応答性高分子を、11重量%から60重量%含むことは好ましい。また、前記エレクトロスピニング法における印加電圧は1kVから60kVであることは好適である。
温度応答性ファイバー又は不織布を構成する繊維の直径が数十ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲にあることは好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複雑な工程を用いずに、明瞭な温度応答性機能を有する高分子を製造することができる。また、細胞培養に適し、薬物放出デバイス、センサー材料、膜材料など、再生医工学や各種産業分野に適用可能な温度応答性を有する高分子ファイバーおよび不織布を、簡便且つ低コストで製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に係る温度応答性高分子、及び温度応答性高分子を用いた温度応答性ファイバー又は不織布について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の温度応答性モノマーと疎水性モノマーを共重合し得られた温度応答性高分子の水中における温度応答性を示した概念図である。温度応答性ファイバーおよび不織布が温度応答を示す温度よりも高い温度では、図1(a)に示すように温度応答性モノマーと疎水性モノマーが疎水結合している。水に溶解しはじめる温度(温度応答)を示す温度付近では、図1(b)に示すように、疎水性モノマーの疎水性相互作用により物理架橋を形成する。温度応答性を示す温度よりも低い温度では、図1(c)のように疎水性相互作用による物理架橋が無くなり、高分子ファイバーおよび不織布は水に溶解または分散する。
【0017】
温度応答性モノマーと疎水性モノマーに親水性モノマーを共重合することによって、疎水性モノマーの疎水性相互作用の他に、親水性モノマーの静電相互作用や水素結合などにより物理架橋した温度応答性を有する高分子ファイバーおよび不織布を提供することが可能である。
【0018】
図2は、温度応答性モノマーと疎水性モノマーに親水性モノマーを共重合した高分子の水中における温度応答性を示した概念図である。高分子ファイバーおよび不織布が温度応答を示す温度よりも高い温度では、図2(a)に示すように温度応答性モノマーと疎水性モノマーが疎水性相互作用しているが、親水性モノマーは疎水性相互作用に関与しない。
【0019】
温度応答を示す温度付近では、図2(b)に示すように、疎水性モノマーの疎水性相互作用により物理架橋を形成するが、親水性モノマーは水と強く相互作用している。温度応答性を示す温度よりも低い温度では、図2(c)のように疎水性相互作用による物理架橋が無くなり、高分子ファイバーおよび不織布は水に溶解または分散する。このように、水溶性モノマーを新たに加えることで、高分子ファイバーおよび不織布の温度応答性を制御することが可能になる。
【0020】
本発明の温度応答性高分子を構成する温度応答性モノマーとしては、例えば、N-エチルアクリルアミド、N-n-プロピルアクリルアミド、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-イソプロピルメタクリルアミド、N-シクロプロピルアクリルアミド、N-シクロプロピルメタクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド等のN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-エチルメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド等のN,N-ジアルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、さらに1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−プロペニル)−ピぺリジン、4−(1−オキソ−2−プロペニル)−ホルモリン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピロリジン、1−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ピぺリジン、4−(1−オキソ−2−メチル−2−プロペニル)−ホルモリン等の環状基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル誘導体である。
【0021】
好ましくは、N-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体、さらに好ましくはN-アルキル置換(メタ)アクリルアミド誘導体のうち、N-n-プロピルアクリルアミド)、N-n-プロピルメタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-エトキシエチルアクリルアミド、N-エトキシエチルメタクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミドがあげられる。
これらは1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0022】
上記温度応答性モノマーは、本発明の高分子化合物中に50〜99.9モル%、好ましくは70〜99モル%含有されることが好ましい。温度応答性モノマーが50モル%未満の場合は高分子ファイバーとその不織布の温度応答性が消失もしくは鈍くなり、99.9モル%を超えると耐水性が低下する。
【0023】
本発明において用いられる疎水性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ステアリル、スチレン、ビニルカルバゾール、塩化ビニル、アクリロニトリルなどが挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチルであり、さらに好ましくはメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸t−ブチル、があげられる。
これらは、1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0024】
上記疎水性モノマーは、温度応答性モノマーとの共重合した高分子中に0.1〜50モル%、好ましくは1〜13モル%含有されることが好ましい。疎水性モノマーが0.1モル%未満の場合は高分子ファイバーとその不織布の水に対する耐久性が低下し、50モル%を超えると水溶性が低下するためである。
【0025】
上記疎水性モノマーは、温度応答性モノマーと親水性モノマーとを共重合した高分子中に0.1〜49.9モル%、好ましくは1〜25モル%含有されることが好ましい。疎水性モノマーが0.1モル%未満の場合は高分子ファイバーとその不織布の水に対する耐久性が低下し、49.9モル%を超えると水溶性が低下するためである。
【0026】
上記親水性モノマーとして、より具体的には、例えば、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアルキレングリコール基含有単量体であり、ポリアルキレングリコール基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール等の(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸エトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール等の(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコール等の炭素数1〜3のアルキル基でアルコキシ化された(メタ)アクリル酸アルコキシポリアルキレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸フェノキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール等が挙げられる。さらにビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸類、(メタ)アクリル酸、等のビニル基を有するカルボン酸類、ビニルホスホン酸、ビニルホスフェート、アシッドホスホキシエチル(メタ)アクリレート等のリン酸類が挙げられる。
【0027】
3級アミノ基を有する単量体として、より具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド化合物等が挙げられる。
これらの単量体は有機酸、無機酸によって一部あるいは全部を中和して用いてもよい。中和は重合の前でも、後からでもよいが、重合後に行うのが好ましい。
【0028】
4級アンモニウム基を有する単量体として、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチル硫酸塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルリン酸塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルリン酸塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルジメチルアミノエチルエチル硫酸塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルリン酸塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルリン酸塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルクロライド塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルクロライド塩又はジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチル硫酸塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルリン酸塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルリン酸塩等が挙げられる。
【0029】
好ましくは(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアルキレングリコール基含有単量体、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアルキレングリコール基含有単量体(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジプロピルアミノエチル等の(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキル化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリルアミド化合物、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチル硫酸塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルエチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルジメチルアミノエチルエチル硫酸塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドメチルクロライド塩、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチルクロライド塩又はジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドエチル硫酸塩である。
【0030】
さらに好ましくは(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、ポリアルキレングリコール基含有単量体、メタクリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミドー2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸類、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチルクロライド塩、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルエチル硫酸塩である。
これらは、1種単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
親水性モノマーの含有量は0.1〜40モル%であり、好ましくは1〜15モル%である。0.1モル%未満ではその効果が薄く、40モル%を超えると温度応答性が消失もしくは鈍くなるためである。
【0031】
本発明の高分子化合物の製造方法は、上記各モノマーを共重合した高分子を作成できれば特に限定されない。例えば溶液重合、懸濁重合、塊状重合により重合することができるが、工業的には、溶液重合、懸濁重合によるラジカル重合が好ましく、中でも溶液重合による方法が好ましい。なお、本発明の共重合体は、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
【0032】
溶液重合によって重合する場合、溶媒としては、例えば、水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン等の芳香族・脂肪族又は複素環式化合物、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトンなどの各種有機溶剤が使用できる。重合濃度は特に規制されないが、通常10〜50%で重合するのが好ましい。
【0033】
重合開始剤としては、例えば過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等のパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0034】
重合開始剤濃度は、通常、使用するモノマーに対して0.1〜10モル%が好ましい。更に、分子量を規制するためにアルキルメルカプタンのような連鎖移動剤、ルイス酸化合物などの重合促進剤、リン酸、クエン酸、酒石酸、乳酸などのpH調整剤を使用してもよい。重合温度は、用いられる溶媒、重合開始剤により適宜定められるが、通常、室温〜200℃が良い。
【0035】
本発明である温度応答性を有する高分子ファイバーおよび不織布は、エレクトロスピニング法、湿式法、スパンレース法、メルトブロー法のいずれかの方法で製造することができる。エレクトロスピニング法は好適である。
【0036】
なお、湿式法とは、紙をつくる場合と同じように短繊維(6mm以下)を水中に懸濁し、ネットで漉き上げウェブをつくり、脱水して加熱ドラムで乾燥させることで不織布を製造する方法である。
スパンレース法とは、湿式法で極細・長繊維でウェブを形成し、高圧水流を当てて繊維同士を交絡させることで不織布を製造する方法である。
メルトブロー法とはスパンボンド法の一種で、原料樹脂チップを加熱・溶融し、ノズルから押し出して長繊維を作製し、高温エアに当てることで繊維をさらに細して1〜3μmの超極細繊維の不織布を製造する方法である。
【0037】
エレクトロスピニング法は、高分子溶液に電圧を印加することで溶液表面に電荷を誘発、蓄積させ、表面張力が電荷の反発力を超えたところで荷電した溶液のジェットが噴射し、溶媒の蒸発によりさらに細かいジェットとなって、最終的にターゲットと呼ばれる部分に高分子ファイバーおよび不織布を作製させる方法である。
エレクトロスピニングする際に用いる揮発性溶媒を含む溶液は、上記温度によって水溶性が変化する高分子を11重量%から60重量%を含むことを特徴としており、11重量%から20重量%が好ましい。
【0038】
上記温度応答性部位を有する高分子溶液の調整に用いる揮発性溶媒としては特に限定はされないが、例えば水、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン等の芳香族・脂肪族又は複素環式化合物、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトンなどの各種有機溶剤が使用でき、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、トルエン、ヘキサン、アセトンが好ましく、メチルアルコール、エチルアルコール、アセトンがさらに好ましい。
【0039】
形成される温度応答性を有する高分子ファイバーの外径は、高分子溶液の濃度、揮発性溶媒の種類、印加電圧、ジェットの飛散距離などによって調整することができ、数十ナノメートルから数百マイクロメートル程度の範囲の外径のものを作製することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
図3は、以下の方法で重合した共重合組成のことなる高分子(サンプル番号1〜20)を示している。また、サンプル番号1〜20の高分子を用いて、エレクトロスピニング法によって作製した高分子ファイバーおよび不織布についての、3℃と50℃における溶解性についても示してある。溶解性試験の詳細は後述する。
【0041】
(サンプル番号1の重合)
冷却還流管、滴下ロート、温度計、窒素導入管及び攪拌装置を取り付けた4口のセパラブルフラスコにエタノール(関東化学)104.62gを仕込み、攪拌しながら窒素ガスを導入して60℃に加熱し、温度応答性モノマー(A)であるN-イソプロピルアクリルアミド(東京化成)(以下、NIPAAmと略す)44.44g、疎水性モノマー(B)であるt−ブチルメタクリレート(東京化成)(以下、t-BMAと略す)0.56g(全単量体中のNIPAAm=99モル%、全単量体中のt-BMA=1モル%)、開始剤である2,2-(アゾビス(2-メチルブチロニトリル))(和光純薬)0.38gを加えて、5時間加熱し続けて、温度によって水溶性が変化する高分子(poly(NIPAAm-co-t-BMA):化学式1)を得た。
反応終了後,未反応モノマーを除去するために、透析膜 (UC36-32-100 Size:36/32,(株)三光純薬) に入れエタノールで2日間, 1日ずつ溶媒を交換して透析を行った。
【0042】
【化1】

【0043】
(サンプル番号2〜22の重合)
サンプル番号2〜20は、図3の共重合組成となるように温度応答性モノマー及び疎水性モノマーの配合比率を代えた以外は、上記サンプル番号1と同様の方法によって重合した。
(比較例1)
図4は、比較例であるサンプル番号21〜23の高分子を示す。また、サンプル番号21〜23の高分子を用いて、エレクトロスピニング法によって作製した高分子ファイバーおよび不織布についての、3℃と50℃における溶解性についても示してある。
(サンプル番号22)
市販の下記高分子化合物をサンプル番号22とした。
比較例1:ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド:化学式2):Aldrich製
【0044】
【化2】

【0045】
(サンプル番号22〜23の重合)
サンプル番号22〜23は、図4の共重合組成となるように配合比率を代え、上記サンプル1と同様の方法によって重合した。
サンプル番号22は、温度応答性モノマーであるNIPAAmと、親水性モノマーであるアニオン性のアクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)とを共重合した、温度によって水溶性が変化する高分子(poly(NIPAAm-co-AMPS):化学式3)である。
【0046】
サンプル23は、温度応答性モノマーであるNIPAAmと、親水性モノマーであるカチオン性のメタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロリド(MAPTAC)とを重合した温度によって水溶性が変化する高分子(poly(NIPAAm-co-MAPTAC):化学式4)である。
【0047】
【化3】

【0048】
【化4】

【0049】
(高分子ファイバーおよび不織布の製造)
図5は高分子ファイバーおよび不織布の製造に用いたエレクトロスピニングの装置1の構成図を示したものである。エレクトロスピニングの装置は、高分子ファイバーの飛散を防止するため、デシケータ(574×517×765mm,ガス置換デシケータGD-BG2PT,CS&Labo)の中に設置した。
【0050】
注射針11(互換針XX-MSL25G50mm90°,(株)伊藤製作所)を装着したルアーロック式のガラス製の注射器10(容量5 ml 内径12 mm,(株)トップ)に、高圧電源16(東和計測株式会社)を結合し、1〜60kVの直流電圧を印加する。
ターゲット電極14には、100mm×100mm、厚さ1mmの中央にステンレス板の中央にアースを取り付け、その上に厚さ12μmのアルミホイル13(住軽アルミ箔株式会社)をカバーしたものを用いた。なお、ターゲットの材質は問わない。注射器10は、ターゲット電極14から高さ 20 cmのところに設置した。
【0051】
エレクトロスピニングして得られた高分子ファイバーは、電界放射走査型電子顕微鏡(S-4500, Hitachi) (以下、FE-SEMと略す)を用いて観察した。エレクトロスピニングして得られたサンプルを,アルミホイル13に付着させたまま乾燥する。乾燥させたサンプルを、導電性カーボン両面テープ(応研商事株式会社)でFE-SEM用のサンプルステージに貼り付ける。スパッタリング(E-1030, Hitachi)を用いて、サンプルステージに貼り付けた試料にPt-Pb合金を2分間照射した後に、FE-SEM内部に導入し加速電圧5kVで観察を行った。
【0052】
図3および図4に記載の高分子を用いて、エレクトロスピニング法によって高分子ファイバーとその不織布を作製した。高分子溶液は、揮発性溶媒であるエタノールに17重量%となるように溶解させて作製し、印加電圧は20kVであった。
【0053】
PolyNIPAAm水溶液は、32℃以上では高分子の水溶性が低下するため白濁し、32℃以下では高分子の水溶性が高くなるため透明となる。Poly(NIPAAm-co-t-BMA)では疎水性モノマーの共重合組成によって水溶性の変化する濃度が異なるため、高分子の持つ特性が高分子ファイバーおよび不織布となったときにも維持されるかを判別した。
【0054】
試験方法は、サンプル番号1〜20までの20個の高分子と、比較例1のサンプル番号21〜23までの3個の高分子溶液を、エレクトロスピニングして得た高分子ファイバーおよび不織布を、20mlの水が入ったバイヤル瓶に入れ、3℃と50℃の恒温槽の中にそれぞれ入れて水への溶解性を目視で確認した。ここで、3℃で水に溶解した高分子ファイバーまたは不織布は透明であるため、これらが不溶な50℃で観察した。すなわち3℃で溶解、分散した高分子ファイバーおよび不織布が、50℃で不溶化し白濁するため、溶液の濁度変化を目視で観察することができる。
【0055】
3℃の恒温槽に入れた高分子ファイバーは、サンプル番号1〜9では溶解し、サンプル番号10〜13では一部溶解、またサンプル番号14〜20では溶解しなかった(図3)。比較例1のサンプル番号21〜23までは全て溶解した(図4)。また、50℃の恒温槽に入れたサンプルは、実施例1のサンプル番号1〜20の全てのサンプルで不溶であった(図3)。50℃の恒温槽に入れた比較例1のサンプル番号21〜23は、全て溶解した(図4)。
図6は実施例1のサンプル番号6〜15について、3℃の恒温槽に入れた後に、50℃の恒温槽に入れたバイヤル瓶の概観の様子を示している。
【0056】
上記高分子ファイバーおよび不織布の溶解性試験の結果から、50℃では水に不溶であり、3℃では溶解または一部溶解する実施例1のサンプル番号1〜13の高分子ファイバーおよび不織布は、温度応答性を有する高分子ファイバーおよび不織布である。50℃と3℃でともに高分子ファイバーとその不織布が不溶な実施例1のサンプル番号14〜20の高分子ファイバーとその不織布は、温度応答性を示さなかった。また、比較例1のサンプル番号21〜23の高分子ファイバーおよび不織布は、50℃と3℃でともに溶解してしまうため温度応答性を示さない。
【0057】
(実施例2)
エレクトロスピニング法は、用いる高分子溶液の濃度によって作製される高分子ファイバーおよび不織布の形態が大きく異なることが知られている。そのため、実施例2として図3記載のサンプル番号13の高分子を用いて、高分子ファイバーおよび不織布の形態へ与える高分子濃度の影響を調べた。
サンプル番号13の高分子をバイヤル瓶に移し、5重量%から20重量%の濃度となるようにエタノールを入れて調整し、マグネチックスターラーを用いて撹拌して高分子溶液を得た。エレクトロスピニング法によって得られた高分子ファイバーおよび不織布を、FE-SEMにて観察した結果を図7に示す。
【0058】
図7から明らかなように、5重量%のときには、高分子ファイバーの形成がほとんど見られず、粒状構造体のみが形成された。10重量%のときには、粒状構造体と高分子ファイバーの両方が形成され、15重量%から20重量%では粒状構造体の存在はほとんど確認できず、高分子ファイバーのみが形成している。この結果から、高分子ファイバーの形成には、高分子溶液の濃度が大きな影響を与えることが分かる。
【0059】
図8は、観察された図7中の17重量%のFE-SEM画像を、画像解析ソフト(Image SXM)を用いて解析し,高分子ファイバーの直径分布を測定した結果を示す。図8の横軸には高分子ファイバーの直径を、縦軸はその存在比率を示している。図8から、高分子ファイバーは1.5マイクロメートルから2.0マイクロメートルに直径のピークを持ち、直系2マイクロメートル以下のファイバーが50%以上占めることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
温度応答性を有する高分子ファイバーおよび不織布は、血管・神経再生に繋がる細胞増殖に適した足場材料や、薬物放出デバイス、センサー材料、膜材料など、再生医工学や各種産業分野へ適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】温度応答性モノマーと疎水性モノマーを共重合することにより作製した高分子の水中における温度応答性を示した概念図である。
【図2】温度応答性モノマーと疎水性モノマーと親水性モノマー共重合することにより作製した高分子の水中における温度応答性を示した概念図である
【図3】実施例1のサンプル番号1から20の共重合組成比と、高分子ファイバーおよび不織布の3℃及び50℃での溶解性試験の結果した図である。
【図4】比較例1のサンプル番号1〜3の共重合組成比と、高分子ファイバーおよび不織布の3℃及び50℃での溶解性試験の結果した図である。
【図5】本実施例に用いたエレクトロスピニングの装置の構成図である。
【図6】高分子ファイバーおよび不織布の溶解性試験の結果を示した図である。
【図7】高分子溶液110の濃度が5重量%、10重量%、15重量%、20重量%のときの高分子ファイバーのSEM写真である。
【図8】高分子ファイバーの直径分布を示した図である。
【符号の説明】
【0062】
1 エレクトロスピニングの装置
1 0 注射器
1 1 注射針
1 2 溶液のジェット
1 3 アルミホイル
1 4 ターゲット電極
1 5 絶縁シート
1 6 高圧電源
1 1 0 高分子溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子であって、
温度応答性モノマーと、疎水性モノマーとの共重合体からなることを特徴とする温度応答性高分子。
【請求項2】
前記温度応答性モノマーと疎水性モノマーとの比が、50モル%:50モル%から99.9モル%対0.1モル%の組成比で構成されることを特徴とする請求項1に記載の温度応答性高分子。
【請求項3】
温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子であって、
温度応答性モノマーと、疎水性モノマーと、親水性モノマーとの共重合体からなることを特徴とする温度応答性高分子。
【請求項4】
前記温度応答性モノマーと疎水性モノマーと親水性モノマーとの比が、50モル%:49.9モル%:0.1モル%から99.8モル%:0.1モル%:0.1モル%の組成比で構成されることを特徴とする請求項3に記載の温度応答性高分子。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の温度応答性高分子を用いた温度応答性ファイバー又は不織布。
【請求項6】
繊維の直径が数十ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲にあることを特徴とする請求項5に記載の温度応答性ファイバー又は不織布。
【請求項7】
温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子からなる温度応答性ファイバー又は不織布の製造方法であって、
前記温度応答性高分子を溶媒に溶解させ、
エレクトロスピニング法、又は湿式法のいずれかの方法で前記温度応答性高分子が溶解した高分子溶液から製造することを特徴とする温度応答性ファイバー、又は不織布の製造方法。
【請求項8】
温度によって水溶性が変化する温度応答性高分子からなる温度応答性ファイバー又は不織布の製造方法であって、
メルトブロー法、又はスパンボンド法のいずれかの方法で前記温度応答性高分子から製造することを特徴とする温度応答性ファイバー、又は不織布の製造方法。
【請求項9】
前記エレクトロスピニング法に用いる高分子溶液は、前記温度応答性高分子を、11重量%から60重量%含むことを特徴とする請求項7に記載の温度応答性ファイバー、又は不織布の製造方法。
【請求項10】
前記エレクトロスピニング法における印加電圧は1kVから60kVであることを特徴とする請求項9に記載の温度応答性ファイバー、又は不織布の製造方法。
【請求項11】
温度応答性ファイバー又は不織布を構成する繊維の直径が数十ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲にあることを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の温度応答性ファイバー、又は不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−57522(P2009−57522A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228385(P2007−228385)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(304023994)国立大学法人山梨大学 (223)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】