説明

温度検出装置

【課題】温度検知の被測定物である調理用容器が非灰色体に属する鍋、灰色体に属する鍋、または低放射率系の鍋であっても、例えば低温度から高温度の範囲において、調理用容器の温度を高精度で測定することを目的とする。
【解決手段】第1赤外線受光素子19から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“A”)、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)を使用して得られる温度T1、温度T2、赤外線受光素子28から出力される受光パルス信号の電圧値“Vout”と第2しきい値“SH2”との比較結果に基づき、五徳7上に載せられている調理用容器2が有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋などの非灰色体に属する鍋、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋、またはステンレス鍋などの低放射率系に属する鍋のいずれかであるか判定して、調理用容器2の材質に適した温度演算方法にて温度を演算し検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の温度を非接触状態で検出する温度検出装置及び温度検出方法に関し、特に、ガス又は電気等のエネルギにより加熱される鍋、フライパン等の調理用器具の底面温度又は加熱調理される料理等の被加熱物の温度を非接触で検出する温度検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
温度測定対象の物体(本願では、「被測定物」という)の表面温度(以下、適宜単に「温度」という)を非接触状態で測定する温度測定技術が、従来から種々知られている。ここで、被測定物はその温度に依存した赤外線領域のエネルギを放射するため、被測定物の温度を非接触状態で測定するためには、赤外線センサを使用して被測定物が放射する赤外線強度を測定するのが一般的である。
【0003】
被測定物が鍋やフライパン等の調理用器具の場合は、検出した赤外線強度に基づいて当該調理用器具の温度を算出し、調理用容器の温度を設定温度に維持するべくガスや電気等の加熱手段を制御したり、調理用容器の過度の温度上昇を回避させるために加熱手段による加熱動作を停止させる等の処理を行うのである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、調理用容器が黒体、または灰色体、あるいは非灰色体の何れであっても、またステンレス鍋などのように、放射率が低い材料であっても、低い温度から高い温度まで、調理用容器の温度を高精度に測定することができる温度検出装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために本発明(請求項1)は、被測定物の温度を非接触状態で検出する温度検出装置であって、前記被測定物からその表面温度に応じて放射される赤外線領域における二つの異なる波長領域の赤外線強度を検出する放射光検出手段と、前記被測定物に対して所定の波長領域の赤外線を照射する赤外線照射手段と、前記赤外線照射手段から照射された前記赤外線の前記被測定物からの反射光を受光するように配置された赤外線受光手段と、前記放射光検出手段の出力及び前記赤外線受光手段の出力に基づいて前記被測定物の温度を検出する温度検出手段と、により構成され、前記温度検出手段は、前記被測定物から放射される前記二つの波長領域における第1の波長領域の赤外線強度に基づいて第1温度を算出し、前記被測定物から放射される前記二つの波長領域における前記第1の波長領域よりも長い第2の波長領域の赤外線強度に基づいて第2温度を算出し、(a)前記第2温度が前記第1温度よりも高い場合には前記被測定物を非灰色体とみなし、当該非灰色体の前記第2の波長領域の赤外線強度に基づいて前記被測定物の温度を算出し、(b)前記第2温度が前記第1温度と同じか又は低い場合であって前記赤外線照射手段点灯時における前記赤外線受光手段の出力値が予め設定された閾値と同じか又は小さい時には前記被測定物を灰色体とみなし、当該灰色体の前記第1の波長領域と前記第2の波長領域との赤外線強度比に基づいて前記被測定物の温度を算出し、(c)前記赤外線照射手段点灯時における前記赤外線受光手段の出力値が前記閾値よりも大きい場合は前記被測定物を低放射率体とみなし、当該低放射率体の前記第2の波長領域の赤外線強度に基づいて前記被測定物の温度を算出する、ことを特徴としている。
【0006】
また、本発明(請求項2)は、請求項1に記載の温度検出装置において、前記放射光検出手段が、前記被測定物の波長の変化に対する放射率の変化が小さい小変動範囲又は波長の変化に対する放射率の変化が大きい大変動範囲に対応させて、前記大変動範囲に設定した前記第1の波長領域についての赤外線強度と前記小変動範囲に設定した前記第2の波長領域についての赤外線強度と、の夫々を検出するように構成され、前記温度検出手段における前記第1温度の算出は、放射率が予め判明している基準体の温度変化に対する前記第1の波長領域における赤外線強度の変化を示す相関特性と前記被測定物から放射された前記第1の波長領域についての赤外線強度とに基づいて、前記被測定物から放射された赤外線強度と同じ赤外線強度に対応する前記基準体の温度を前記第1温度とし、前記温度検出手段における前記第2温度の算出は、前記温度検出手段が、前記基準体の温度変化に対する前記第2の波長領域の赤外線強度の変化を示す相関特性と前記被測定物から放射された前記第2の波長領域の赤外線強度とに基づいて、前記被測定物から放射された赤外線強度と同じ赤外線強度に対応する前記基準体の温度を前記第2温度とする、ことを特徴としている。
【0007】
また、本発明(請求項3)は、請求項1又は2に記載の温度検出装置において、前記第1の波長領域は、3.1乃至4.2μmの範囲内から選択され、前記第2の波長領域は、8.0乃至20.0μmの範囲内から選択されることを特徴としている。
【0008】
また、本発明(請求項4)は、請求項1乃至3の何れかの項に記載の温度検出装置において、前記被測定物が非灰色体とみなされると、当該被測定物の温度は、放射率が0.8乃至0.95の範囲にて算出されることを特徴としている。
【0009】
また、本発明(請求項5)は、請求項1乃至3の何れかの項に記載の温度検出装置において、前記被測定物が低放射率体とみなされると、当該被測定物の温度は、放射率が0.3未満の範囲で算出されることを特徴としている。
【0010】
また、本発明(請求項6)は、請求項1乃至5の何れかの項に記載の温度検出装置において、前記赤外線照射手段の点灯時において前記赤外線受光手段の出力値が、所定値よりも小さい場合には、前記被測定物が温度測定位置に存在していない旨の警告信号を出力することを特徴としている。
【0011】
そして、本発明(請求項7)は、請求項1乃至6の何れかに記載の温度検出装置において、前記被測定物は、外部から電気又は磁気エネルギ若しくはガス等の燃焼エネルギが与えられて加熱される鍋、フライパン等の調理用器具若しくは当該調理用器具上の食物等の被加熱物であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本願の温度検出装置では、調理用容器が黒色体、または灰色体、あるいは非灰色体の何れであっても、またステンレス鍋などのように、放射率が低い材料であっても、調理用容器を構成する物質の放射率を設定することなく、低い温度から高い温度まで、調理用容器の温度を高精度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による温度検出装置の一形態を使用した調理設備の一例を示す概略構成図である。
【図2】図1に示す調理設備の動作例を示すフローチャートである。
【図3】黒体炉、各鍋材料の放射率と、波長との関係を示す放射率/波長グラフである。
【図4】黒色塗装鍋から放射される赤外線の放射スペクトルを示すグラフである。
【図5】銀色塗装鍋から放射される赤外線の放射スペクトルを示すグラフである。
【図6】アルマイト鍋から放射される赤外線の放射スペクトルを示すグラフである。
【図7】火炎から放射される光のうち、赤外線成分の放射スペクトルを示すグラフである。
【図8】黒体炉から放射される赤外線の強度と、温度との関係を示すグラフである。
【図9】黒色塗装鍋から放射される赤外線の強度と、温度との関係を示すグラフである。
【図10】銀色塗装鍋から放射される赤外線の強度と、温度との関係を示すグラフである。
【図11】アルマイト鍋から放射される赤外線の強度と、温度との関係を示すグラフである。
【図12】黒色塗装鍋、銀色塗装鍋、アルマイト鍋から放射される赤外線の赤外線強度比と、温度との関係を示すグラフである。
【図13】調理用容器を外した状態で、赤外線発光素子に印加される駆動パルス信号と、赤外線受光素子から出力される受光パルス信号の関係を示すグラフである。
【図14】調理用容器として、黒色塗装鍋をセットした状態で、赤外線発光素子に印加される駆動パルス信号と、赤外線受光素子から出力される受光パルス信号の関係を示すグラフである。
【図15】調理用容器として、アルマイト鍋をセットした状態で、赤外線発光素子に印加される駆動パルス信号と、赤外線受光素子から出力される受光パルス信号の関係を示すグラフである。
【図16】調理用容器として、ステンレス鍋をセットした状態で、赤外線発光素子に印加される駆動パルス信号と、赤外線受光素子から出力される受光パルス信号の関係を示すグラフである。
【図17】調理用容器として、銅鍋をセットした状態で、赤外線発光素子に印加される駆動パルス信号と、赤外線受光素子から出力される受光パルス信号の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明による温度検出装置の一例について、詳細に説明する。
図1は、本発明による温度検出装置の一形態を使用した調理設備の一例を示す概略構成図である。図1に示す調理設備1は、燃料ガスによって調理用容器(特許請求の範囲で使用されている被測定物に対応する部分)2を加熱するガスレンジ機構3と、非接触で、調理用容器2の温度を測定する温度検出装置4とを備えており、ガスレンジ機構3によって、調理用容器2を加熱しながら、温度検出装置4によって、非接触で、調理用容器2の温度を測定し、調理用容器2の温度が指定温度になるように、また高温になりすぎないように、ガスレンジ機構3を制御する。
【0015】
ガスレンジ機構3は、面一状に形成される天板5と、天板5に形成された開口部6を囲むように、天板5上に載置される五徳7と、天板5に形成された開口部6の下側に、天板5から少し離間して配置される環状のガスバーナ8と、ガスバーナ8の中央部分に取り付けられる汁受皿9と、ガス管10などを介して供給される燃料ガスを断続させる燃料供給断続弁11と、燃料供給断続弁11から吐出される燃料ガスの通過量を調節する燃料供給量調節弁12と、外部から入力された信号などに基づき、燃料供給断続弁11、燃料供給量調節弁12などを制御する燃焼制御回路13と、燃料供給量調節弁12から吐出される燃料ガスを取り込み、勢い良く噴出させるガスノズル14と、ガスノズル14から噴出される燃料ガスによって生じる負圧を利用して、周囲から燃焼用の空気を取り込み、混合気にした後、ガスバーナ8の内周部側に形成された各炎口16から噴出させて、燃焼させる混合管15とを備えている。
【0016】
そして、ガスレンジ機構3の前面などに設けられた操作パネル(図示は省略する)などが操作されて、点火指示、火力指定指示などが入力されたとき、燃焼制御回路13によって、燃料供給断続弁11を開状態にさせるとともに、燃料供給量調節弁12の開度を調節させて、ガスノズル14から燃料ガスを噴射させることにより、混合管15からガスバーナ8に最適な量の混合気を供給させて、ガスバーナ8の各炎口16から噴出させ、燃焼させる。
【0017】
また、温度検出装置4は、汁受皿9の中央部に形成された開口部(図示ぜず)に配置され、五徳7上に載せられている調理用容器2から放射される赤外線のうち、第1波長領域“α1(K1)”の波長成分を透過させる第1光学フィルタ18と、第1光学フィルタ18の下側に配置され、第1光学フィルタ18を透過した赤外線を受光して、赤外線強度信号を出力する第1赤外線受光素子(特許請求の範囲で使用されている放射光検出手段に対応する部分)19と、汁受皿9の開口部に配置され、五徳7上に載せられている調理用容器2から放射される赤外線のうち、第2波長領域“α2(K2)”の波長成分を透過させる第2光学フィルタ20と、第2光学フィルタ20の下側に配置され、第2光学フィルタ20を透過した赤外線を受光して、赤外線強度信号を出力する第2赤外線受光素子(特許請求の範囲で使用されている放射光検出手段に対応する部分)21と、第1赤外線受光素子19から出力される赤外線強度信号、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号を使用して、調理用容器2の温度を演算し、操作パネル、燃焼制御回路13などに温度検知信号(調理用容器2の温度を示す信号)を供給する処理などを行う温度演算回路(特許請求の範囲で使用されている温度検出手段に対応する部分)22と、を備えている。
【0018】
さらに、温度検出装置4は、温度演算回路22から発光指示信号が出力されているとき、“0.1Hz”のパルス電圧を出力する発光制御回路23と、汁受皿9の側面上部に形成された開口部24に配置され、発光制御回路23からパルス電圧が出力されているとき、第1波長領域“α1(K1)”、第2波長領域“α2(K2)”と異なる波長(例えば、波長“H3”)の赤外線を生成して、五徳7上の調理用容器2下面に出射する赤外線発光素子(特許請求の範囲で使用されている赤外線照射手段に対応する部分)25と、汁受皿9の側面上部に形成された開口部26に配置され、五徳7上に載せられた調理用容器2下面から出射される赤外線のうち、波長“H3”の赤外線(赤外線発光素子25から出射され、五徳7上の調理用容器2下面で反射されたパルス状の赤外線)を選択的に受光して、受光パルス信号を出力する赤外線受光素子(特許請求の範囲で使用されている赤外線受光手段に対応する部分)28と、赤外線受光素子28から出力される受光パルス信号を電圧弁別し、温度演算回路22などに調理用容器検知信号を供給する反射検知回路29とを備えている。
【0019】
次に、本発明の温度検出装置で使用される単色、2色切り替え条件、ステンレス鍋などの低放射率系の鍋検出方法について説明する。
【0020】
本願発明者は、種々の材質の物体を選択し、波長の変化と、放射率の変化とを計測したところ、図3に示す放射率/波長グラフを得ることができた。図3は、具体的には、種々の物体を加熱して、物体の温度を200℃としたときのそれぞれの波長に対する放射率を表したものである。金属の表面に黒色塗装した黒色塗装板、金属の表面に銀色塗装した銀色塗装板、ステンレス板などでは、放射率の変化がほぼ一定であり、各々、“約0.9”、“約0.4”、“約0.2”でほぼ一定になる。すなわち、このような黒色塗装鍋や銀色塗装鍋などは、波長の変化に対する放射率の変化が小さいという放射率特性を持つ。
【0021】
一方、金属の表面に有機シリコン系耐熱塗料を塗布した有機シリコン系耐熱塗装調理用容器、アルミ板の表面をアルマイト処理した調理用容器(以下、アルマイト鍋という)では、波長が“8.0μm”より長めの波長領域にあるとき、放射率が“約0.9”でほぼ一定であるのに対して、波長が“8.0μm”より短かめの波長領域にあるとき、放射率が“約0.4”、“約0.2”になってしまう。すなわち、このような有機シリコン系耐熱塗装調理用容器、アルマイト鍋などでは、波長の変化に対する放射率の変化が大きいという放射率特性を持つ。
【0022】
次に、各種の材質の調理用容器(鍋)から放射される赤外線の分光スペクトルについて説明する。まず、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋、アルマイト鍋では、常温(約25℃)の状態から“300℃”前後まで加熱したとき、赤外線の分光スペクトルが図4乃至図6に示したように変化する。
【0023】
これらの図が示すように、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋、アルマイト鍋を加熱して、温度を上昇させたとき、例えば、常温から“300℃”前後まで上昇させたとき、“1.5μm”乃至“数十μm”の波長領域で、赤外線を放射し、そのうち、“3.5μm”乃至“15μm”の範囲内で、各種の赤外線センサで検出可能な放射強度になっている。
【0024】
また、ガス燃焼式のバーナにて形成される火炎から放射される赤外線の分光スペクトルは図7に示すように、“2.4μm”乃至“3.1μm”の波長領域と、“4.2μm”乃至“8.0μm”の波長領域で、赤外線強度が高くなることから、調理用容器から放射される赤外線の強度を測定するとき、このような火炎から放射される赤外線の強度が弱い領域、例えば図4〜図6に示す第1波長領域“α1(K1)”、第2波長領域“α2(K2)”を使用して、調理用容器から放射される赤外線の強度を測定する。このようにすれば、調理用容器から放射される赤外線の強度を測定するとき、火炎による影響を小さくさせて、温度測定誤差を極力小さくさせることができるのである。
【0025】
次に、各調理用容器から放射される赤外線のうち、第1波長領域“α1(K1)”を透過した赤外線の強度と、第2波長領域“α2(K2)”を透過した赤外線の強度との関係について説明する。
【0026】
最初に、基準となる放射率(ほぼ“1.0”)を持つ黒体炉では、黒体炉の温度を変化させたとき、図8のラインL1で示すように、第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度が変化するとともに、ラインL2で示すように、第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度が変化する。
【0027】
また、黒色塗装鍋を“100℃”、“200℃”、“300℃”に変化させたとき、図9中の各白点で示すように、黒色塗装鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度が変化するとともに、各黒点で示すように、黒色塗装鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度が変化する。すなわち、黒体炉の放射率(ほぼ“1.0”)と、黒色塗装鍋の放射率(ほぼ“0.9”)との比率に応じて、図9に記載されているラインL1(図8に記載されているラインL1と同一のもの)を“0.9”倍だけ、下側に移動させたライン(図示は省略する)が黒色塗装鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度になるとともに、図9に記載されているラインL2(図8に記載されているラインL2と同一のもの)を“0.9”倍だけ、下側に移動させたライン(図示は省略する)が黒色塗装鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度になる。
【0028】
そして、図8に示すラインL1、ラインL2を使用して、黒色塗装鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度と、第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度とを黒体炉での温度に換算する。
【0029】
また、銀色塗装鍋を“100℃”、“200℃”、“300℃”に変化させたとき、図10中の各白点で示すように、銀色塗装鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度が変化するとともに、各黒点で示すように、銀色塗装鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度が変化する。つまり、黒体鍋の放射率(ほぼ“1.0”)と、銀色塗装鍋の放射率(ほぼ“0.4”)との比率に応じて、図10に記載されているラインL1(図8に記載されているラインL1と同一のもの)を略“0.4”倍だけ、下側に移動させたライン(図示は省略する)が銀色塗装鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度になるとともに、図10に記載されているラインL2(図8に記載されているラインL2と同一のもの)を略“0.4”倍だけ、下側に移動させたライン(図示は省略する)が銀色塗装鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度になる。
【0030】
そして、図8に示すラインL1、ラインL2を使用して、銀色塗装鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度と、第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度とを黒体炉での温度に換算する。
【0031】
また、アルマイト鍋を“100℃”、“200℃”、“300℃”に変化させたとき、図11中の各白点で示すように、アルマイト鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度が変化するとともに、各黒点で示すように、アルマイト鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度が変化する。すなわち、黒体鍋の放射率(ほぼ“1.0”)と、アルマイト鍋の放射率(第1波長領域“α1(K1)”側でほぼ“0.4”、第2波長領域“α2(K2)”側でほぼ“0.9”)との比率に応じて、図11に記載されているラインL1(図8に記載されているラインL1と同一のもの)を“0.4”倍だけ、下側に移動させたライン(図示は省略する)がアルマイト鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度になるとともに、図11に記載されているラインL2(図8に記載されているラインL2と同一のもの)を“0.9”倍だけ、下側に移動させたライン(図示は省略する)がアルマイト鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度になる。
【0032】
そして、図8に示すラインL1、ラインL2を使用して、アルマイト鍋から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度と、第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度とを黒体炉での温度に換算する。
【0033】
上記の温度換算値の結果から、図9で示される黒色塗装鍋の場合、および図10で示される銀色塗装鍋の場合には、“100℃”、“200℃”、“300℃”のいずれにおいても、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度に対応する温度T1(100)、温度T1(200)、温度T1(300)の方が調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度に対応する温度T2(100)、温度T2(200)、温度T2(300)よりも大きいという関係式が成り立つ。
【0034】
これに対し、図11に示されるアルマイト鍋の場合には、“100℃”、200℃、300℃のいずれにおいても、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度に対応する温度T1(100)、温度T1(200)、温度T1(300)は、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度に対応する温度T2(100)、温度T2(200)、温度T2(300)よりも小さいという関係式が成り立つ。
【0035】
このような特性を利用すれば、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度に対応する温度T2(100)、温度T2(200)、温度T2(300)より、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度に対応する温度T1(100)、温度T1(200)、温度T1(300)が高いときには、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの調理用容器であると判定し、低いときには、アルマイト鍋などの調理用容器であると判定することができる。
【0036】
また、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”と、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度“A”との赤外線強度比“B/A”と温度の関係は図12に示す赤外線強度比/温度グラフである。
【0037】
この赤外線強度比/温度グラフから分かるように、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋については、常温(25℃)から“300℃”前後までの温度範囲であれば、温度が変化しても、ほぼ同じラインに沿って、赤外線強度比“B/A”が変化しており、両者は殆ど同じ特性になっている。つまり、赤外線強度比“B/A”が同じであれば、その赤外線強度比“B/A”に対する調理用容器の温度はほぼ同じになっている。
【0038】
そこで、黒色塗装鍋および銀色塗装鍋については、赤外線強度比“B/A”と、調理用容器の温度との関係を示す代表的な赤外線強度比/温度ラインを予め記憶しておき、調理用容器が加熱されているとき、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”と、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度“A”とを計測しながら、赤外線強度比“B/A”を求め、この赤外線強度比“B/A”と、予め記憶している赤外線強度比/温度ラインとに基づき、調理用容器の温度を判定することができる。
【0039】
これに対して、金属の表面に有機シリコン系塗料を塗布した有機シリコン系塗装鍋、表面をアルマイト処理したアルマイト鍋では、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋の赤外線強度比“B/A”と大きく異なることから、赤外線強度比“B/A”を使用して、調理用容器の温度を精度よく検出することができない。
【0040】
金属の表面に有機シリコン系塗料を塗布した有機シリコン系塗装鍋、表面をアルマイト処理したアルマイト鍋については、図3に示すように有機シリコン系塗装鍋では、波長が“8.0μm”以上の範囲で、放射率が“0.80”から“0.98”になっていることから、これらの平均値である“0.89”、またはこれに近い放射率を持つ調理用容器を用いて、調理用容器が加熱されているとき、調理用容器の温度と、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”とを計測して、計測結果を記憶させた。
【0041】
金属の表面に有機シリコン系塗料を塗布した有機シリコン系塗装鍋、表面をアルマイト処理したアルマイト鍋の温度を判定するとき、これら有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”を計測し、この赤外線強度“B”と、記憶しているデータとを使用して、有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋の温度を判定することにした。
【0042】
また、調理用容器がステンレス鍋である場合には、図3に示す如く全波長領域にわたり、放射率がほぼ一定であることから、上述した材質判定方法で、有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋かどうか、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋かどうかを判定したとき、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度に対応する温度T2(100)、温度T2(200)、温度T2(300)より、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度に対応する温度T1(100)、温度T1(200)、温度T1(300)が高くなる。
【0043】
したがって、調理用容器がステンレス鍋である場合には、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などと同様に、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”と、調理用容器から放射された第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度“A”とを計測しながら、赤外線強度比“B/A”を求め、この赤外線強度比“B/A”と、予め記憶している赤外線強度比/温度ラインとに基づき、調理用容器の温度を判定することができる。
【0044】
しかし、ステンレス鍋の場合、図3に示す如く放射率が“0.2”程度と、極めて低いことから、調理用容器の温度が“100℃”程度であるとき、調理用容器から放射される第1波長領域“α1(K1)”側の赤外線強度“A”と、第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”とが共に、小さい値になってしまい、赤外線強度比“B/A”を使用して、調理用容器の温度を精度よく検出することができない。
【0045】
そこで、第1波長領域“α1(K1)”、第2波長領域“α2(K2)”に含まれない波長の赤外線を出射する赤外線発光素子と、第1波長領域“α1(K1)”、第2波長領域“α2(K2)”に含まれない波長の赤外線を受光する赤外線受光素子とを用意し、調理用容器から鉛直距離で“4.5cm”だけ離間させるとともに、調理用容器の底面中心に対し、“45度”傾けて、赤外線発光素子を配置し、さらに調理用容器から鉛直距離で“4.5cm”だけ離間させるとともに、調理用容器の底面中心に対し、“45度”傾けて、赤外線受光素子を配置したものを制作した。
【0046】
そして、発光制御回路によって、赤外線発光素子をパルス発光させ、調理用容器の底面中心に出射させるとともに、赤外線受光素子によって、調理用容器の底面中心で反射された赤外線を受光させ、反射検知回路で、その大きさを判定させるという実験を行った。
【0047】
この結果、五徳上に調理用容器が載せられていない場合には、図13に示す如く発光制御回路から“0.1Hz”の周波数を持つ、“15V”のパルス電圧を出力させて、赤外線発光素子からパルス状の赤外線を出射させたとき、赤外線受光素子の出力がほぼ“0mV”になることが分かった。
【0048】
また、五徳上に調理用容器が載せられ、これが黒色塗装鍋、アルマイト鍋、ステンレス鍋、銅鍋である場合には、各々、図14〜図17に示す如く赤外線受光素子から“5mV”程度の電圧値を持つ受光パルス信号、“40mV”程度の電圧値を持つ受光パルス信号、“80mV”程度の電圧値を持つ受光パルス信号、“130mV”程度の電圧値を持つ受光パルス信号が出力されることが分かった。
【0049】
これらの実験から、反射検知回路内で、“2.5mV”程度の電圧値を持つ第1しきい値“SH1”と、“50mV”程度の電圧値“SH2”を持つ第2しきい値とを生成させ、赤外線発光素子からパルス電圧が出力されているとき、赤外線受光素子から出力される受光パルス信号の電圧値“Vout”が“Vout<SH1”であるとき、五徳上に調理用容器が載せられていないと判定させ、“SH2<Vout”であるとき、五徳上にステンレス鍋、銅鍋などの低い放射率を持つ調理用容器が搭載されていると判定するようにした。
【0050】
そして、本願発明においては、“0.2”、またはこれに近い放射率を持つ調理用容器の温度と、調理用容器から放射された第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”とを計測して得られたデータを記憶しておき、ステンレス鍋、銅鍋の温度を判定するとき、これらステンレス鍋、銅鍋から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度“B”を計測し、この赤外線強度“B”と、記憶しているデータとを使用して、有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋の温度を演算した。
【0051】
この結果、ステンレス鍋、銅鍋などの温度が“100℃”前後のときから、“300℃”前後のときまで、調理用容器から放射される第2波長領域“α2(K2)”側の赤外線強度を使用して得られた温度と、実際の温度とのずれが極めて小さくなるのを確認することができた。
【0052】
次に本構成における温度検出装置4により調理用容器での温度処理について具体的に説明する。
【0053】
ガスレンジ機構3の前面などに設けられた操作パネル(図示は省略する)などが操作されて、点火指示、火力指定指示などが入力されたとき、次のように動作する。
【0054】
まず、ガスレンジ機構3の前面などに設けられた操作パネル(図示は省略する)などが操作されて、図2のフローチャートに示す如く点火指示などが入力され、温度演算回路22から発光指示信号が出力されたとき、発光制御回路23からパルス電圧が出力されて、赤外線発光素子25から赤外線が出射されるとともに(ステップST1)、反射検知回路29によって、赤外線受光素子28で赤外線が受光されているかどうかがチェックされる。
【0055】
ここで、赤外線受光素子28で赤外線が受光されておらず、赤外線受光素子28から出力される受光パルス信号の電圧値“Vout”と、“2.5mV”程度の電圧値を持つ第1しきい値“SH1”とが比較され、“Vout<SH1であれば(ステップST2)、反射検知回路29によって、五徳7上に調理用容器2が載せられていないと判定されて、操作パネルなどに設けられた警告機構から、“調理用容器を載せてください”などの音声メッセージが出される(ステップST3)。
【0056】
また、赤外線受光素子28で赤外線が受光され、赤外線受光素子28から出力される受光パルス信号の電圧値“Vout”が第1しきい値“SH1”より高ければ(ステップST2)、反射検知回路29によって、五徳7上に調理用容器2が載せられていると判定されて、調理用容器検知信号が生成される。
【0057】
そして、反射検知回路29から調理用容器検知信号が出力されると、温度演算回路22によって、黒体炉用の赤外線強度/温度テーブルが参照されて、第1赤外線受光素子19から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“A”)に対応する温度T1が演算されるとともに、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)に対応する温度T2が演算される(ステップST4)。
【0058】
この後、ガスレンジ機構3によって、加熱される調理用容器2の温度が上昇し、温度T1、温度T2が予め設定されている温度以上になると、温度演算回路22によって、温度T1が温度T2より大きいかどうかがチェックされ、“T1<T2”であれば(ステップST5)、五徳7上に載せられている調理用容器2が有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋などの非灰色体に属する鍋であると判定される。
【0059】
そして、温度演算回路22によって、放射率“0.9”用の赤外線強度/温度テーブルが参照されて、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)に対応する温度が演算され(ステップST6)、これが操作パネルなどに表示されるとともに、燃料制御回路13に供給されて、指定された温度、またはパターン温度となるように、燃料供給量調節弁12の開度が調節される(ステップST7)。
【0060】
また、上述した温度T1、温度T2の比較動作で、“T1≧T2”であれば(ステップST5)、温度演算回路22によって、五徳7上に載せられている調理用容器2が黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋、またはステンレス鍋などの低放射率系に属する鍋のいずれかであると判定され、発光制御回路23に発光指示信号が出される。
【0061】
これにより、発光制御回路23からパルス電圧が出力されて、赤外線発光素子25からパルス状の赤外線が出射されるとともに、反射検知回路29によって、赤外線受光素子20から出力される受光パルス信号が取り込まれる(ステップST8)。
【0062】
この後、反射検知回路29によって、受光パルス信号の電圧値“Vout”と、“50mV”程度の電圧値“SH2”を持つ第2しきい値“SH2”とが比較され、“Vout≦SH2”であれば(ステップST9)、灰色体検知信号が生成されて、温度演算回路22に供給される。
【0063】
これにより、温度演算回路22によって、五徳7上に載せられている調理用容器2が黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋であると判定され、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)と、第1赤外線受光素子19から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“A”)との比を示す赤外線強度比“B/A”が演算されるとともに、黒色塗装鍋用の赤外線強度比/温度テーブルが参照されて、赤外線強度比“B/A”に対応する温度が演算され(ステップST10)、これが操作パネルなどに表示されるとともに、燃料制御回路13に供給されて、指定された温度、またはパターン温度となるように、燃料供給量調節弁12の開度が調節される(ステップST11)。
【0064】
また、上述した受光パルス信号の電圧値“Vout”チェックが行われたとき、“Vout>SH2”であれば(ステップST9)、反射検知回路29によって、ステンレス鍋検知信号が生成されて、温度演算回路22に供給される。
【0065】
これにより、温度演算回路22によって、五徳7上に載せられている調理用容器2がステンレス鍋などの低放射率系に属する鍋であると判定され、放射率“0.2”用の赤外線強度/温度テーブルが参照されて、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)に対応する温度が演算され(ステップST12)、これが操作パネルなどに表示されるとともに、燃料制御回路13に供給されて、指定された温度、またはパターン温度となるように、燃料供給量調節弁12の開度が調節される(ステップST13)。
【0066】
このように、この形態では、黒体鍋用の赤外線強度/温度テーブル、第1赤外線受光素子19から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“A”)、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)を使用して得られる温度T1、温度T2、赤外線受光素子28から出力される受光パルス信号の電圧値“Vout”と第2しきい値“SH2”との比較結果に基づき、五徳7上に載せられている調理用容器2が有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋などの非灰色体に属する鍋、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋、またはステンレス鍋などの低放射率系に属する鍋のいずれかであるか判定する。
【0067】
さらに、非灰色体に属する鍋である判定されたとき、放射率“0.9”用の赤外線強度/温度テーブル、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)を使用して、調理用容器2の温度を演算し、また黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋であると判定されたとき、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)と、第1赤外線受光素子19から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“A”)との比を示す赤外線強度比“B/A”、黒色塗装鍋用の赤外線強度比/温度テーブルを使用して、調理用容器2の温度を演算し、またステンレス鍋などの低放射率系に属する鍋であると判定されたとき、放射率“0.2”用の赤外線強度/温度テーブル、第2赤外線受光素子21から出力される赤外線強度信号の値(赤外線強度“B”)を使用して、調理用容器2の温度を演算する。
【0068】
これにより、この形態では、調理用容器2が有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋などの非灰色体に属する鍋、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋、またはステンレス鍋などのように、放射率が低い材料の鍋であっても、“100℃”程度の低い温度から高い温度まで、調理用容器2の温度を高精度で測定することができる(請求項1の効果)。
【0069】
また、この形態では、調理用容器2から放射される赤外線の中から、調理用容器2の温度変化に対する赤外線強度変化が大きい第1波長領域(波長領域“3.1μm”〜“4.2μm”)の赤外線成分と、調理用容器2の温度変化に対する赤外線強度変化が小さい第2波長領域(波長領域“8.0μm”〜“20.0μm”)の赤外線成分とを抽出させて、第1温度T1と、第2温度T2とを演算させるようにしているので、調理用容器2が非灰色体に属するものかどうかを判定させるときに必要な第1温度と、第2温度との差を大きくさせることができ、これによって材質判定精度を高くさせ、調理用容器2の温度を演算させるときの精度を大幅に向上させることができる(請求項2、3の効果)。
【0070】
また、この形態では、調理用容器2が非灰色体に属するものであると判定されたとき、放射率“0.9”用の赤外線強度/温度テーブルを使用させ、また調理用容器2がステンレス鍋などの低放射率系に属するものであると判定されたとき、放射率“0.2”用の赤外線強度/温度テーブルを使用させて、調理用容器2の温度を演算させるようにしているので、調理用容器2がアルマイト鍋などの非灰色体に属するものであっても、またステンレス鍋などの低放射率系に属するものであっても、調理用容器2の温度を正確に演算させることができる(請求項4、5の効果)。
【0071】
また、この形態では、ガスレンジ機構3の前面などに設けられた操作パネルなどが操作されて、点火指示などが入力されたとき、発光制御回路23からパルス電圧を出力させて、赤外線発光素子25から赤外線を出射させている状態で、赤外線受光素子28がパルス状の赤外線を受光していないとき、反射検知回路29によって、五徳7上に調理用容器2が載せられていないと判定させるようにしているので、五徳7上などに温度測定対象となる調理用容器2が無い状態で、点火指示などが入力されたとき、これを検知して、警報などを出させ、調理人などに知らせることができるとともに、調理用容器2の温度を演算させるとき、誤演算が発生しないようにすることができる(請求項6の効果)。
【0072】
また、この形態では、調理用容器2から放射される赤外線を受光して、調理用容器2の温度を演算させるようにしているので、温度測定対象として、外部からの熱によって加熱される鍋、フライパンなどの調理用容器、この調理用器具上の食物等の被加熱物など、赤外線を発生するものであれば、どのようなものの温度でも、非接触で、正確に測定させることができる(請求項7の効果)。
【0073】
本発明の上述した実施の形態では、環状に形成されたガスバーナ8を持つガスレンジ機構3を使用するようにしているが、他の形式のガスバーナ、例えば円筒状のガスバーナを持つガスレンジ機構を使用するようにしても良い。
【0074】
このようなガスレンジ機構を使用した調理設備に、上述した動作と同じ動作を行わせることにより、調理用容器2が有機シリコン系塗装鍋、アルマイト鍋などの非灰色体に属する鍋、黒色塗装鍋、銀色塗装鍋などの灰色体に属する鍋、またはステンレス鍋などのように、放射率が低い材料の鍋であっても、“100℃”程度の低い温度から高い温度まで、調理用容器の温度を高精度で測定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、被測定物の温度を非接触状態で検出する温度検出装置及び温度検出方法に関し、特に、ガス又は電気等のエネルギにより加熱される鍋、フライパン等の調理用器具の底面温度又は加熱調理される料理等の被加熱物の温度を非接触で検出する温度検出装置に関するものであり、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0076】
1:調理設備
2:調理用容器
3:ガスレンジ機構
4:温度検出装置
5:天板
6:開口部
7:五徳
8:ガスバーナ
9:汁受皿
10:ガス管
11:燃料供給断続弁
12:燃料供給量調節弁
13:燃焼制御回路
14:ガスノズル
15:混合管
16:炎口
17:開口部
18:第1光学フィルタ
19:第1赤外線受光素子
20:第2光学フィルタ
21:第2赤外線受光素子
22:温度演算回路
23:発光制御回路
25:赤外線発光素子
26:開口部
28:赤外線受光素子
29:反射検知回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物の温度を非接触状態で検出する温度検出装置であって、
前記被測定物からその表面温度に応じて放射される赤外線領域における二つの異なる波長領域の赤外線強度を検出する放射光検出手段と、
前記被測定物に対して所定の波長領域の赤外線を照射する赤外線照射手段と、
前記赤外線照射手段から照射された前記赤外線の前記被測定物からの反射光を受光するように配置された赤外線受光手段と、
前記放射光検出手段の出力及び前記赤外線受光手段の出力に基づいて前記被測定物の温度を検出する温度検出手段と、により構成され、
前記温度検出手段は、
前記被測定物から放射される前記二つの波長領域における第1の波長領域の赤外線強度に基づいて第1温度を算出し、前記被測定物から放射される前記二つの波長領域における前記第1の波長領域よりも長い第2の波長領域の赤外線強度に基づいて第2温度を算出し、
(a)前記第2温度が前記第1温度よりも高い場合には前記被測定物を非灰色体とみなし、当該非灰色体の前記第2の波長領域の赤外線強度に基づいて前記被測定物の温度を算出し、
(b)前記第2温度が前記第1温度と同じか又は低い場合であって前記赤外線照射手段点灯時における前記赤外線受光手段の出力値が予め設定された閾値と同じか又は小さい時には前記被測定物を灰色体とみなし、当該灰色体の前記第1の波長領域と前記第2の波長領域との赤外線強度比に基づいて前記被測定物の温度を算出し、
(c)前記赤外線照射手段点灯時における前記赤外線受光手段の出力値が前記閾値よりも大きい場合は前記被測定物を低放射率体とみなし、当該低放射率体の前記第2の波長領域の赤外線強度に基づいて前記被測定物の温度を算出する、
ことを特徴とする温度検出装置。
【請求項2】
前記放射光検出手段が、前記被測定物の波長の変化に対する放射率の変化が小さい小変動範囲又は波長の変化に対する放射率の変化が大きい大変動範囲に対応させて、前記大変動範囲に設定した前記第1の波長領域についての赤外線強度と前記小変動範囲に設定した前記第2の波長領域についての赤外線強度と、の夫々を検出するように構成され、
前記温度検出手段における前記第1温度の算出は、放射率が予め判明している基準体の温度変化に対する前記第1の波長領域における赤外線強度の変化を示す相関特性と前記被測定物から放射された前記第1の波長領域についての赤外線強度とに基づいて、前記被測定物から放射された赤外線強度と同じ赤外線強度に対応する前記基準体の温度を前記第1温度とし、
前記温度検出手段における前記第2温度の算出は、前記温度検出手段が、前記基準体の温度変化に対する前記第2の波長領域の赤外線強度の変化を示す相関特性と前記被測定物から放射された前記第2の波長領域の赤外線強度とに基づいて、前記被測定物から放射された赤外線強度と同じ赤外線強度に対応する前記基準体の温度を前記第2温度とする、ことを特徴とする請求項1に記載の温度検出装置。
【請求項3】
前記第1の波長領域は、3.1乃至4.2μmの範囲内から選択され、
前記第2の波長領域は、8.0乃至20.0μmの範囲内から選択される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の温度検出装置。
【請求項4】
前記被測定物が非灰色体とみなされると、当該被測定物の温度は、放射率が0.8乃至0.95の範囲にて算出されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかの項に記載の温度検出装置。
【請求項5】
前記被測定物が低放射率体とみなされると、当該被測定物の温度は、放射率が0.3未満の範囲で算出されることを特徴とする請求項1乃至3の何れかの項に記載の温度検出装置。
【請求項6】
前記赤外線照射手段の点灯時において前記赤外線受光手段の出力値が、所定値よりも小さい場合には、前記被測定物が温度測定位置に存在していない旨の警告信号を出力する請求項1乃至5の何れかの項に記載の温度検出装置。
【請求項7】
前記被測定物は、外部から電気又は磁気エネルギ若しくはガス等の燃焼エネルギが与えられて加熱される鍋、フライパン等の調理用器具若しくは当該調理用器具上の食物等の被加熱物であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の温度検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2010−210259(P2010−210259A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53618(P2009−53618)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(000177612)株式会社ミクニ (332)
【Fターム(参考)】