説明

温度測定装置、温度測定方法および電子顕微鏡

【課題】微小な試料の温度を精度良く測定すること。
【解決手段】電子銃10から放出された電子の試料1への衝突によって試料表面から放出された二次電子および熱電子をシンチレータ20によって光子に変換し、光電子倍増管30で光子数を増加させるとともに電気信号に変換し、光電子倍増管30が出力する電気信号を電気信号増幅器40が増幅し、温度変換器50が電気信号増幅器40によって増幅された電気信号と校正曲線と基づいて試料1の温度を算出するよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、微小領域の温度を正確に測定することができる温度測定装置、温度測定方法および電子顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイクロサイズの小さな試料を加熱し、高温化での試料表面の組織変化を調べるために電子顕微鏡が利用される。このような実験では、電子顕微鏡の観察用チャンバー内に加熱装置を具備した試料を置き、連続的に試料を加熱しながら試料表面の組織変化を電子顕微鏡で観察することが行われる。このとき、試料の正確な温度を測定することが求められ、通常、熱電対や放射温度計が用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−305028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱電対では、小さな試料に熱電対先端を接触させるために温度分布を生じて正確な温度を測定することが原理的にできない。また、放射線温度計では、スポット径が大きく、スポット径内の平均的な温度場を測定することはできるが、より微小な領域の温度を精度良く測定することができないという問題がある。
【0005】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、微小領域の温度を正確に測定することができる温度測定装置、温度測定方法および電子顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、請求項1の発明に係る温度測定装置は、電子線が被測定体表面に衝突した際に放出される二次電子とともに該被測定体から放出される熱電子を捕捉し、該捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成する電気信号生成手段と、前記電気信号生成手段により生成された電気信号に基づいて前記被測定体の温度を算出する温度算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
この請求項1の発明によれば、電子線が被測定体表面に衝突した際に放出される二次電子とともに被測定体から放出される熱電子を捕捉し、捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成し、生成した電気信号に基づいて被測定体の温度を算出するよう構成したので、被測定体から放出される熱電子を捕捉することによって温度を測定することができる。
【0008】
また、請求項2の発明に係る温度測定装置は、請求項1の発明において、前記温度算出手段は、前記電気信号生成手段により生成された電気信号と単位面積あたりの基準温度における電気信号との電気信号差を算出する電気信号差算出手段と、前記電気信号差算出手段により算出された電気信号差に対応する温度を該電気信号差と温度との関数関係を用いて特定する温度特定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
この請求項2の発明によれば、熱電子に基づいて生成した電気信号と単位面積あたりの基準温度における電気信号との電気信号差を算出し、算出した電気信号差に対応する温度を電気信号差と温度との関数関係を用いて特定するよう構成したので、被測定体から放出される熱電子を捕捉することによって温度を測定することができる。
【0010】
また、請求項3の発明に係る温度測定装置は、請求項1または2の発明において、前記関数関係の特定に用いる関数関係特定手段をさらに備えたことを特徴とする。
【0011】
この請求項3の発明によれば、関数関係を特定するように構成したので、関数関係が未知の被測定体の温度を測定することができる。
【0012】
また、請求項4の発明に係る温度測定装置は、請求項3の発明において、前記関数関係特定手段は、被測定体の温度および対応する電気信号の複数の測定結果に基づいて前記電気信号差と被測定体の温度との間の校正曲線を特定し、前記温度特定手段は、前記電気信号差算出手段により算出された電気信号差に対応する温度を該電気信号差と前記校正曲線とを用いて特定することを特徴とする。
【0013】
この請求項4の発明によれば、被測定体の温度および対応する電気信号の複数の測定結果に基づいて電気信号差と被測定体の温度との間の校正曲線を特定し、被測定体が放出した熱電子に基づいて算出した電気信号差に対応する温度を電気信号差と校正曲線とを用いて特定するよう構成したので、測定値から校正曲線を特定して温度を測定することができる。
【0014】
また、請求項5の発明に係る温度測定装置は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、前記電気信号は電圧であることを特徴とする。
【0015】
この請求項5の発明によれば、電圧を測定することによって温度を測定することができる。
【0016】
また、請求項6の発明に係る温度測定装置は、請求項1〜4のいずれか一つに記載の発明において、前記電気信号は電流であることを特徴とする。
【0017】
この請求項6の発明によれば、電流を測定することによって温度を測定することができる。
【0018】
また、請求項7の発明に係る温度測定装置は、請求項1〜6のいずれか一つに記載の発明において、前記電気信号生成手段は、シンチレータおよび光電子倍増管を備えることを特徴とする。
【0019】
この請求項7の発明によれば、シンチレータおよび光電子倍増管を備えるよう構成したので、電子顕微鏡の一部を利用することができる。
【0020】
また、請求項8の発明に係る温度測定装置は、請求項1〜7のいずれか一つに記載の発明において、前記電気信号生成手段により生成された電気信号を増幅する電気信号増幅手段をさらに備え、前記温度算出手段は、前記電気信号増幅手段により増幅された電気信号に基づいて温度を算出することを特徴とする。
【0021】
この請求項8の発明によれば、熱電子に基づいて生成した電気信号を増幅し、増幅した電気信号に基づいて温度を算出するよう構成したので、熱電子に基づいて生成した電気信号が小さい場合にも温度を測定することができる。
【0022】
また、請求項9の発明に係る温度測定方法は、電子線が被測定体表面に衝突した際に放出される二次電子とともに該被測定体から放出される熱電子を捕捉し、該捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成する電気信号生成工程と、前記電気信号生成工程により生成された電気信号に基づいて前記被測定体の温度を算出する温度算出工程と、を含んだことを特徴とする。
【0023】
この請求項9の発明によれば、電子線が被測定体表面に衝突した際に放出される二次電子とともに被測定体から放出される熱電子を捕捉し、捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成し、生成した電気信号に基づいて被測定体の温度を算出するよう構成したので、被測定体から放出される熱電子を捕捉することによって温度を測定することができる。
【0024】
また、請求項10の発明に係る電子顕微鏡は、試料に電子線をあてて該試料の拡大像を生成する電子顕微鏡であって、前記電子線が試料表面に衝突した際に放出される二次電子とともに該試料から放出される熱電子を捕捉し、該捕捉した電子に基づいて電気信号を生成する電気信号生成手段と、前記電気信号生成手段により生成された電気信号に基づいて前記試料の温度を算出する温度算出手段と、を備えたことを特徴とする。
【0025】
この請求項10の発明によれば、試料から放出される熱電子を捕捉し、捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成し、生成した電気信号に基づいて試料の温度を算出するよう構成したので、試料から放出される熱電子を捕捉することによって温度を測定することができる。
【発明の効果】
【0026】
請求項1、2および9の発明によれば、被測定体から放出される熱電子を捕捉することによって温度を測定するので、微小領域の温度を正確に測定することができるという効果を奏する。
【0027】
また、請求項3の発明によれば、関数関係が未知の被測定体の温度を測定することができるので、様々な被測定体の温度を測定することができるという効果を奏する。
【0028】
また、請求項4の発明によれば、測定値から校正曲線を特定して温度を測定することができるので、関数関係が未知の被測定体の温度を測定することができるという効果を奏する。
【0029】
また、請求項5の発明によれば、電圧を測定することによって温度を測定するので、測定を容易に行うことができるという効果を奏する。
【0030】
また、請求項6の発明によれば、電流を測定することによって温度を測定するので、測定を容易に行うことができるという効果を奏する。
【0031】
また、請求項7の発明によれば、電子顕微鏡の一部を利用するので、試料の温度を測定しながら試料表面の組織変化を調べることができるという効果を奏する。
【0032】
また、請求項8の発明によれば、熱電子に基づいて生成した電気信号が小さい場合にも温度を測定することができるので、被測定体が低温である場合にも測定することができるという効果を奏する。
【0033】
また、請求項10の発明によれば、試料から放出される熱電子を捕捉することによって温度を測定するので、微小試料の温度を正確に測定することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、本実施例に係る電子顕微鏡を利用した温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、光電子倍増管が出力する電圧の試料温度による変化を示す図である。
【図3】図3は、温度変換器が温度の計算に用いる校正曲線の一例を示す図である。
【図4】図4は、図3に示した校正曲線を求めるための装置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る温度測定装置、温度測定方法および電子顕微鏡の好適な実施例を詳細に説明する。なお、本実施例では、電子顕微鏡を利用した温度測定装置で試料の温度を測定する場合を中心に説明する。
【実施例】
【0036】
まず、本実施例に係る電子顕微鏡を利用した温度測定装置の構成について説明する。図1は、本実施例に係る電子顕微鏡を利用した温度測定装置の構成を示すブロック図である。
【0037】
同図に示すように、この温度測定装置は、電子銃10と、シンチレータ20と、光電子倍増管30と、電気信号増幅器40と、温度変換器50とを有する。このうち、電子銃10、シンチレータ20および光電子倍増管30は電子顕微鏡が備える機器をそのまま利用する。
【0038】
すなわち、電子顕微鏡は、電子銃10により電子線を放出して電子を試料1に衝突させたときに試料表面から放出される二次電子をシンチレータ20で検出して光子を発生させ、光電子倍増管30が光子数を増加させることによって光信号を増幅して電気信号に変換し、画像表示装置2のスクリーンに描写することによって試料1の拡大画像を得る。
【0039】
この際、試料1が高温に加熱されていると二次電子とあわせて熱電子が放出される。Fermi-Diracの分布法則に基づき、試料表面から単位面積、単位時間当たりに放出される熱電子放出電流密度Jsは、
【数1】

で与えられることが知られている。ここで、Tは試料温度、φは仕事関数、そして、
【数2】

であり、mは電子質量、eは素電荷、kはボルツマン定数、hはプランク定数である。
【0040】
式(1)に示すように、試料温度の上昇に伴って熱電子による電流密度は増加していく。また、電子顕微鏡における光電子倍増管30は、二次電子とともに熱電子を検出している。事実、試料温度を増加していくと光電子倍増管30が検出する信号強度は増加していく。
【0041】
そこで、本実施例に係る温度測定装置は、光電子倍増管30が出力する電気信号の信号強度の変化を試料温度と結びつけることによって試料温度を測定する。なお、電気信号としては電圧、電流を用いることができるが、ここでは、電圧を用いる場合について説明する。
【0042】
図2は、光電子倍増管30が出力する電圧の試料温度による変化を示す図である。同図において、xは試料1の中の位置を示し、T1〜T3は試料1の温度を示す。ここで、基準温度<T1<T2<T3である。
【0043】
図2に示すように、試料1の温度を基準温度からT1〜T3へ上昇させると、光電子倍増管30が出力する電圧は上昇する。このとき、ある温度での電圧と基準温度での電圧との電圧差ΔVは、温度に依存するがxには依存しない。すなわち、図2において、試料温度がT1〜T3の場合の電圧曲線は、基準温度での電圧曲線を平行移動したものであり、平行移動量ΔVが温度の変化量となる。
【0044】
そこで、本実施例に係る温度測定装置は、光電子倍増管30が出力する電気信号(電圧)を電気信号増幅器40で増幅し、増幅した電気信号を用いて温度変換器50が温度を計算して表示する。
【0045】
図3は、温度変換器50が温度の計算に用いる校正曲線、すなわち、試料温度と単位面積あたりの基準温度からの電圧差との関係の一例を示す図である。この例では、試料1はステンレス鋼であり、校正曲線としては二次式を用いている。図3に示す関係を用いて温度変換器50は、電気信号増幅器40で増幅された電圧と基準温度での電圧との差から試料1の温度を計算することができる。
【0046】
図4は、図3に示した校正曲線を求めるための装置の一例を示す図である。図4に示すように、熱電対4で測定した試料3の温度Tと光電子倍増管31が出力する電圧Vとを校正曲線算出器60が入力して校正曲線を算出することができる。例えば、校正曲線算出器60は、複数の電圧と温度の測定値から最小二乗法を用いて二次式の校正曲線を算出することができる。なお、試料3のサイズは熱電対4で温度が測定可能な大きさであり、試料1と比較してサイズが大きい。
【0047】
また、図3の校正曲線は一例を示すものであり、校正曲線の感度、すなわち試料温度変化に対する電圧差は電圧測定の精度に依存するものであり、電圧測定の精度を上げることによって、低温領域でより感度の高い校正曲線を得ることができる。
【0048】
上述してきたように、本実施例では、試料1への電子の衝突によって試料表面から放出される二次電子および熱電子による信号を光電子増幅管30で増幅し、光電子倍増管30が出力する電気信号を電気信号増幅器40が増幅し、温度変換器50が電気信号増幅器40によって増幅された電気信号と校正曲線と基づいて試料1の温度を算出することとしたので、微小な試料1の温度を精度良く測定することができる。
【0049】
なお、本実施例では、電子顕微鏡を利用して試料1の温度を測定する場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、微小な被測定体から放出される熱電子を光電子倍増管で電気信号に変換して温度を算出する場合にも同様に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上のように、本発明に係る温度測定装置、温度測定方法および電子顕微鏡は、試料の温度測定に有用であり、特に、微小な試料の温度測定に適している。
【符号の説明】
【0051】
1,3 試料
2 画像表示装置
4 熱電対
10 電子銃
20 シンチレータ
30,31 光電子倍増管
40 電気信号増幅器
50 温度変換器
60 校正曲線算出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線が被測定体表面に衝突した際に放出される二次電子とともに該被測定体から放出される熱電子を捕捉し、該捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成する電気信号生成手段と、
前記電気信号生成手段により生成された電気信号に基づいて前記被測定体の温度を算出する温度算出手段と、
を備えたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
前記温度算出手段は、
前記電気信号生成手段により生成された電気信号と単位面積あたりの基準温度における電気信号との電気信号差を算出する電気信号差算出手段と、
前記電気信号差算出手段により算出された電気信号差に対応する温度を該電気信号差と温度との関数関係を用いて特定する温度特定手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の温度測定装置。
【請求項3】
前記関数関係の特定に用いる関数関係特定手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
前記関数関係特定手段は、被測定体の温度および対応する電気信号の複数の測定結果に基づいて前記電気信号差と被測定体の温度との間の校正曲線を特定し、
前記温度特定手段は、前記電気信号差算出手段により算出された電気信号差に対応する温度を該電気信号差と前記校正曲線とを用いて特定することを特徴とする請求項3に記載の温度測定装置。
【請求項5】
前記電気信号は電圧であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の温度測定装置。
【請求項6】
前記電気信号は電流であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の温度測定装置。
【請求項7】
前記電気信号生成手段は、シンチレータおよび光電子倍増管を備えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の温度測定装置。
【請求項8】
前記電気信号生成手段により生成された電気信号を増幅する電気信号増幅手段をさらに備え、
前記温度算出手段は、前記電気信号増幅手段により増幅された電気信号に基づいて温度を算出することを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の温度測定装置。
【請求項9】
電子線が被測定体表面に衝突した際に放出される二次電子とともに該被測定体から放出される熱電子を捕捉し、該捕捉した熱電子に基づいて電気信号を生成する電気信号生成工程と、
前記電気信号生成工程により生成された電気信号に基づいて前記被測定体の温度を算出する温度算出工程と、
を含んだことを特徴とする温度測定方法。
【請求項10】
試料に電子線をあてて該試料の拡大像を生成する電子顕微鏡であって、
前記電子線が試料表面に衝突した際に放出される二次電子とともに該試料から放出される熱電子を捕捉し、該捕捉した電子に基づいて電気信号を生成する電気信号生成手段と、
前記電気信号生成手段により生成された電気信号に基づいて前記試料の温度を算出する温度算出手段と、
を備えたことを特徴とする電子顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−18937(P2012−18937A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224236(P2011−224236)
【出願日】平成23年10月11日(2011.10.11)
【分割の表示】特願2006−157134(P2006−157134)の分割
【原出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】