温度測定装置およびゼーベック係数算出方法
【課題】経時わたり良好な温度測定を行うことができ、かつ、利便性を向上することができる温度測定装置およびゼーベック係数算出方法を提供する。
【解決手段】冷接点を第1温度t1aに加熱し、冷接点が第1温度t1aのときの熱電対の熱起電力電圧値ΔV1を検出する。次に、冷接点を第1温度t1aより高温の第2温度t1bに加熱し、冷接点が第2温度t1bのときの熱電対の熱起電力電圧値ΔV2を検出する。そして、ΔV1=S×(t2−t1a)からなる第1式と、ΔV2=S×(t2−t1b)からなる第2式との連立解から上記ゼーベック係数Sを求める。
【解決手段】冷接点を第1温度t1aに加熱し、冷接点が第1温度t1aのときの熱電対の熱起電力電圧値ΔV1を検出する。次に、冷接点を第1温度t1aより高温の第2温度t1bに加熱し、冷接点が第2温度t1bのときの熱電対の熱起電力電圧値ΔV2を検出する。そして、ΔV1=S×(t2−t1a)からなる第1式と、ΔV2=S×(t2−t1b)からなる第2式との連立解から上記ゼーベック係数Sを求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置およびゼーベック係数算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電対を使用して、測定対象物の温度を測定する温度測定装置が知られている(例えば、特許文献1、2)。熱電対を使用した温度測定装置は、熱電対の一方の接合点である温接点を測定対象物に接触または近づけ、熱電対の他方の接合点である冷接点との温度差により生じる熱起電力ΔV10(ゼーベック効果)を計測する。また、これと同時に冷接点温度測定手段としての温度センサ(感温素子、サーミスタなど)により冷接点の温度t1を測定する。そして、不揮発性メモリに記憶されているゼーベック係数Sと、熱起電力ΔV10と、冷接点の温度t1とから、測定対象物の温度である温接点の温度t2を求める(t2=(ΔV10+S×t1)/S)
【0003】
上記ゼーベック係数Sは、熱電対の材質や形状毎に異なる値であり、装置の不揮発性メモリには、熱電対に対応する上記ゼーベック係数Sが記憶されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経時使用によって熱電対が劣化(酸化、金属構造の変化など)すると、熱電対の特性が変化して、ゼーベック係数Sが変化してしまう。その結果、不揮発性メモリに記憶されているゼーベック係数と、使用されている熱電対のゼーベック係数とが異なってしまい、経時にわたり、良好な温度測定を行うことができないという課題がある。
【0005】
また、従来、劣化した熱電対を交換する際は、ゼーベック係数Sが同じ熱電対を用意する必要があり、利便性が悪いという課題もあった。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、経時わたり良好な温度測定を行うことができ、かつ、利便性を向上することができる温度測定装置およびゼーベック係数算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、熱電対と、上記熱電対の冷接点の温度を測定する冷接点温度測定手段と、上記熱電対の出力値と、上記冷接点温度測定手段の測定結果と、ゼーベック係数とに基づいて測定対象物の温度を測定する温度測定装置において、上記冷接点を加熱する加熱手段と、上記加熱手段で冷接点を加熱し、上記冷接点の温度が第1温度ときの上記熱電対の出力値と、上記第1温度とは異なる第2温度ときの上記熱電対の出力値とを検出し、上記第1温度、上記第1温度ときの上記熱電対の出力値、上記第2温度および上記第2温度ときの上記熱電対の出力値に基づいて、上記ゼーベック係数を算出するゼーベック係数算出手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、第1温度と、冷接点の温度が第1温度のときの熱電対の出力値と、第2温度と、冷接点が第2温度のときの熱電対の出力値とに基づいて、ゼーベック係数を算出する。冷接点の温度が第1温度のときの熱電対の出力値(熱起電力)をΔV1とすると、次の式が成り立つ。
ΔV1=S×(t2−t1a)・・・・(1)
上記t1aは、冷接点の第1温度であり、上記t2は、温接点の温度(測定対象物)の温度である。
また、冷接点の温度が第2温度のときの熱電対の出力値(熱起電力)をΔV2とすると、次の式が成り立つ。
ΔV2=S×(t2−t1b)・・・・(2)
上記t1bは、冷接点の第2温度である。
上記ΔV1、上記ΔV2、上記t1a、上記t1bは、既知であるので、上記式(1)、上記式(2)の連立方程式を解くことにより、ゼーベック係数Sを求めることができる。また、上記式(1)、上記式(2)の連立方程式を解くことにより、測定対象物の温度t2も求めることができる。これにより、測定対象物の温度測定時におけるゼーベック係数Sを求めることができる。その結果、熱電対が経時変化して特性が変化したときのゼーベック係数Sで、測定対象物の温度t2を求めることができ、精度の高い温度測定を行うことができる。また、交換する熱電対のゼーベック係数Sが、交換前の熱電対のゼーベック係数Sと異なっても、精度よく、測定対象物の温度t2を測定することができ、装置の利便性を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱電対が経時変化して特性が変化しても、良好に測定対象物の温度を測定することができる。また、異なるゼーベック係数の熱電対を交換することができ、装置の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の温度測定装置のシース部の概略構成図。
【図2】同温度測定装置の温度計測部の概略構成図。
【図3】同温度計測部の基板の概略構成図。
【図4】温度測定装置の制御ブロック図。
【図5】時間推移における相変化物質の温度変化と、冷接点温度測定部の抵抗変化とを示す特性図。
【図6】相変化物質を加熱するときに冷接点温度測定部に流す電流に対する温度変化及び冷接点温度測定部の抵抗値変化を示す特性図。
【図7】冷接点温度測定部の抵抗値−温度特性を示すグラフ。
【図8】温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出および測定対象物の温度測定のタイミングチャート。
【図9】温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出および測定対象物の温度測定のフローチャート。
【図10】変形例1の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図11】変形例2の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図12】図11のA−A断面図。
【図13】変形例3の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の一例を示す概略平面図。
【図14】変形例3の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の他の例を示す概略平面図。
【図15】図14のB−B断面図。
【図16】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図。
【図17】変形例3の温度測定装置の温度キャリブレーションのタイミングチャート。
【図18】変形例3の温度測定装置の温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャート。
【図19】冷接点温度測定部の抵抗値−温度特性を示すグラフ。
【図20】変形例4の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図21】変形例4の温度測定装置の制御ブロック図。
【図22】相変化したときの相変化物質の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムについて説明する図。
【図23】相変化したときの相変化物質の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムの他の構成例について説明する図。
【図24】相変化したときの相変化物質の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムのさらに他の構成例について説明する図。
【図25】変形例5の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図26】図25のD−D断面図。
【図27】変形例5の温度測定装置の制御ブロック図。
【図28】変形例5の温度測定装置の温度キャリブレーションのタイミングチャート。
【図29】変形例5の温度測定装置の温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した温度測定装置の一実施形態について説明する。
図1は、温度測定装置100のシース部101の概略構成図であり、図2は、温度測定装置100の温度計測部110の概略構成図であり、図3は、温度計測部110の基板1の概略構成図である。
温度測定装置100は、熱電対の温接点を備えたシース部101と、冷接点を備えた温度計測部110とを有している。図1に示すように、温度測定装置100のシース部101は、金属保護管102(シース管)内に第1熱電材料103aと第2熱電材料103bとが接合された温接点Wを備えた熱電対103を有しており、セラミックなどの無機物質104が高圧充填されている。熱電対103の第1熱電材料103aの端部113aと、第2熱電材料103bの端部113bは、金属保護管102から露出している。
【0012】
図2に示すように、温度計測部110は、本体ケース内にベース材2と、電気絶縁層3とからなる図3に示す基板1を有している。基板1には、上記熱電対103の第1熱電材料103aと同じ熱電材料で構成された第1接続電極10と、上記熱電対103の第2熱電材料103bと同じ熱電材料の構成された第2接続電極11とを備えている。この第1接続電極10および第2接続電極11は、基板1の略中央部まで延びており、そこで、Al、Ni、Siなどの金属材料などの導電性材料からなり、信号処理回路部20と接続する回路接続電極7と接合されており、熱電対の一対の冷接点Cを形成している。
【0013】
第1接続電極10の冷接点と、第2接続電極11の冷接点との間には、冷接点の温度を測定する冷接点温度測定手段としての冷接点温度測定部5と、温度キャリブレーションのための相変化物質6とが図の2点鎖線Aを基準線として線対称、かつ、2点鎖線Bを基準線として線対称に配置されている。このように、冷接点温度測定部5と、相変化物質6とを一対の冷接点の間に対称配置することにより、一対の冷接点の温度を高精度に測定することができる。
【0014】
冷接点温度測定部5は、Pt、NiCr、SiC,Cなどの温度依存性を持つ抵抗体であり、信号処理回路部20でこの抵抗体の抵抗値を求めることにより、温度が検知される。また、この実施形態においては、この抵抗体からなる冷接点温度測定部5を発熱させて相変化物質6を加熱する加熱手段としての機能を有している。
【0015】
温度キャリブレーションの標準物質である相変化物質6は、狭い温度範囲を再現性良く高い精度で相転移するものであり、相転移前後において、温度(熱)、電気抵抗値、熱容量、粘性(流動性)、質量、固有振動数、誘電率いずれかの変化を伴うものである。本実施形態においては、その変化を検出することで、相変化物質6の相変化を検出する。相変化物質6はある温度で相転移する物質であればよい。特に、高精度に温度が決められている国際温度目盛として定められる温度を示す物質を用いれば高精度にキャリブレーションでき、好ましい。また、相変化物質6としては、固体と液体、液体と気体などの間で再現性よく可逆的に相転移する条件や材料を選択することが好ましい。これにより、いつでも、温度キャリブレーションを行い、いつでも精度が維持された温度測定が可能となる。また、高精度にキャリブレーションするためには、相変化物質6は、利用する温度に近い相転移温度を有するものを用いるのが好ましい。また、相変化物質6としてパラフィンや酢酸ナトリウムなどを用い、既知の温度における過冷却温度に基づいて、温度キャリブレーションを行ってもよい。
【0016】
相変化物質6の(熱)、粘性(流動性)や固有振動数の変化を検出して、相変化物質6の相変化を検出する場合は、次の材料を好適に用いることができる。すなわち、国際温度目盛ITS―90の定義定点であるGa:29.7646℃、In:156.5985℃、Sn:231.928℃、Zn:419.527℃、Al:660.323℃、Ag:961.78℃、Au:1064.18℃、Cu:1084.62℃などである。これらの材料は、融点(凝固点)が、特に高精度であり、好ましい。また、Bi:271.3 ℃や合金であるSn−Zn、Sn−Agや、Bi−Sn合金は混合比率によって130℃から170℃の範囲の加熱に際して、特定温度にて溶融させることができる。
【0017】
また、相変化物質6の相転移を、質量や熱容量の変化で検出する場合は、酸化物であるBi2O3、In2O3、Sb2O3、MoO3、P2O5などは固体から気体へ既知の狭い温度範囲で相転移するので、相転移温度における質量や熱容量の変化を良好に検知することができ、好ましい。
【0018】
また、相変化物質6の相転移を、電気伝導度の変化で検出する場合は、CTRサ−ミスタにも用いられているV2O5が好ましい。V2O5は、の結晶の構造変化による相転移が生じる相転移温度(80℃)よりも低いときは、単斜晶系で、抵抗が負の温度係数を持った半導体であるが、相転移温度(80℃)を超えると、ルチル構造・正方晶系となり、電気伝導度が2桁増加(抵抗が急激に減少)する。よって、相変化物質6の相転移を、電気伝導度の変化で検出する場合、相変化物質6として、V2O5を用いることにより、相変化物質6の相転移を良好に検出することができる。また、チタン酸バリウムを主成分とするPTCサ−ミスタも好適である。PTCサ−ミスタは、キュリー温度を超えると、結晶系は正方晶系から立方晶系へと相転移するため、それにともなって電気抵抗値が急激に上昇する。このように、既知の相転移温度で結晶性の変化に伴う電気伝導度の変化を生じる材料を、相変化物質6として用いることにより、相変化物質6の相転移を、電気伝導度の変化で良好に検出することができる。
【0019】
また、相変化物質6の相転移を、誘電率の変化で検出する場合、光学的に相変化物質6の相転移を検出する場合、および、固有振動数の変化で検出する場合は、相変化物質6として、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3)を好適に用いることができる。タンタル酸ニオブ酸カリウムは、相転移温度にて結晶の構造相転移を生じ、誘電率と二次電気光学定数(Kerr定数)が最大となり、固有振動数が相転移温度(35.6℃)付近で急激に変化する。よって、相変化物質6の相転移を、誘電率の変化を検出する場合、光学的に相変化物質6の相転移を検出する場合、および、固有振動数の変化を検出する場合は、相変化物質6として、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3)を用いることにより、良好に相変化物質6の相転移を検出することができる。
【0020】
基板1のベース材2は、Al、Ni、Siなどの金属材料などの導電性材料で構成される。電気絶縁層3は、相変化物質6の相転移温度よりも低いと、相転移してしまうので、相変化物質6よりも高い相転移温度の材料を選択する必要があり、SiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性材料が用いられる。本実施形態においては、導電性材料で形成されたベース材2上に形成された電気絶縁層3上に、第1、第2接続電極10、11、冷接点温度測定部5、相変化物質6などを設けているが、ベース材2をガラスやセラミックなど電気絶縁性材料で構成した場合は、ベース材2上に第1、第2接続電極10、11、冷接点温度測定部5、相変化物質6などを設けてもよい。
【0021】
電気絶縁層3はCVD、スパッタリングやゾルゲル法および各種薄膜製造方法により成膜する。その電気絶縁層3上にフォトリソグラフにより第1、第2接続電極10、11、冷接点温度測定部5、信号処理回路部20の回路などをパターン形成する。また、形成される冷接点温度測定部5、第1、第2接続電極10、11、信号処理回路部20の回路などの導電性、相変化物質6の相転移に伴う液化流動性、周囲雰囲気との化学反応などを考慮して、適宜、部材を電気絶縁層3で覆って保護するのが好ましい。例えば、冷接点温度測定部5や相変化物質6が、相変化物質6を加熱するときの熱により高温度になるため表面が周囲雰囲気により酸化したり腐食したりする場合、耐久性を高めるために、冷接点温度測定部5や相変化物質全体を耐熱性の酸化物や窒化物の電気絶縁層3で被覆し不活性化(パッシベーション)する。具体的には、金属材料などの相変化物質6の場合、相変化物質6が表面に露出していると、周囲雰囲気によって金属酸化物に変化して、相転移温度が変化するおそれがある。また、相変化物質6が液化する場合は流動変形によって、温度分布が変わるおそれがある。その結果、これらは相転移を繰り返すと再現性が得られない場合がある。従って、相変化物質6が周囲雰囲気により化学変化するのを防止するために相変化物質6を周囲雰囲気に接しないように電気絶縁層3でパッシベーションしたり、相変化物質6が液化する場合の流動変形を防止するため相変化物質6を電気絶縁層3で包囲したりする。さらに、国際温度目盛の定義定点を用い高精度にキャリブレーションする場合には、標準気圧下(10.1325Pa)にて相変化物質6の凝固点(融点)を検出する必要がある。相変化物質6は、上述したように、SiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性材料からなる耐熱性電気絶縁層3を被覆した剛性を有する構造にすることにより、耐熱性電気絶縁層3の内部は一定圧力に維持される。これにより、周囲雰囲気の気圧が変化しても、相変化物質6A,6Bが影響を受けず後述する温度キャリブレーションの精度を高くすることができる。
【0022】
また、半導体微細加工のフォトエッチング技術によって電気絶縁層3上にパターン形成する場合には積層段差が加工寸法精度に影響を与える。よって、冷接点と冷接点温度測定部5と相変化物質6とをそれぞれ離間させて隣接配置する場合は、並列に同一平面上に配置する。これにより、積層段差を小さくし精度ばらつきが小さくできる。また、冷接点温度測定部5と相変化物質6との間に間隔ができ、冷接点温度測定部5と相変化物質6とは電気的に絶縁され、相変化物質6が導電性を有する場合であっても冷接点温度測定部5との電気的影響をなくせる。
【0023】
また、図2、図3に示すように、ベース材2の電気絶縁層3に形成された冷接点C、相変化物質6、冷接点温度測定部5が設けられた領域22(以下、計測領域という)と対向する箇所は、エッチング処理により除去され、空洞部21となっている。これにより、冷接点C、冷接点温度測定部5、相変化物質6が形成された電気絶縁層3の計測領域22は、ベース材2と非接触となるので、冷接点温度測定部5、相変化物質6付近の熱容量を少なくすることができる。これにより、冷接点温度測定部5で発熱させて、すばやく相変化物質6を加熱することができる。また、測定領域の熱容量が少ないので、冷接点温度測定部5の温度応答を鋭敏にすることができ、冷接点Cの温度や、相変化物質6の温度を精度よく測定することができる。
【0024】
図2に示すように、温度計測部110のケース111には、シース部101が、温度計測部110から抜き差し可能な、ソケット上の接続口111aを有している。また、ケース111の第1、第2接続電極の接続部10a,10bと対向する箇所には、加圧板バネ112が設けられている。加圧板バネ112には、接続口111aから差し込まれた熱電対の第1熱電材料の端部113aと、第2熱電材料の端部113bとが突き当る突き当て部112aと、第1、第2熱電材料の端部113a,113bの第1、第2接続電極の接続部10a,10bと対向面と反対側の面を加圧する加圧部112bと有している。
【0025】
また、ケース111には、ケース111に対してスライド可能に設けられたスライドノブ114が設けられている。スライドノブ114には、加圧板バネ112に当接して、加圧板バネ112を、基板側へ押圧する押圧突起114aが設けられている。
【0026】
ケース111の接続口111aに熱電対の第1熱電材料の端部113aと、第2熱電材料の端部113bとを差し込んでいくと、第1、第2の熱電材料の端部113a,113bが、加圧板バネ112の突き当て部112aと突き当たり、第1熱電材料の端部113aが、第1接続電極の接続部10aと対向し、第2熱電材料の端部113bが、第2接続電極の接続部11aと対向する。次に、スライドノブ114を、図中右側へスライドさせると、スライドノブ114の押圧突起114aが、加圧板バネ112と当接して、加圧板バネ112を基板側へ押圧する。加圧板バネ112が押圧突起114aに押圧されると、加圧板バネ112が基板側に撓んで、加圧板バネの加圧部112bが、第1、第2の熱電材料の第1、第2接続電極の接続部と対向面と反対側の面を加圧する。これにより、第1熱電材料の端部113aが、第1接続電極の接続部10aに当接し、第2熱電材料の端部113bが、第2接続電極の接続部11aに当接した状態で、シース部101が、温度計測部110に固定される。
【0027】
シース部101を温度計測部110から取り外すときは、スライドノブ114を図中左側(シース部側)へスライドさせることにより、第1、第2の熱電材料の端部113a,113bの基板側への加圧が解除され、容易に第1、第2の熱電材料の端部113a,113bを、接続口111aから抜き出すことができる。
【0028】
また、ベース材2がSiであれば、信号処理回路部20の各回路を集積しやすい。例えば、Siベース材を熱酸化させることにより表面にSiO2を形成するか、Siベース材2上にCVDやスパッタリングによりSiO2、Si3N4、Al2O3等の単層または複層の電気絶縁層3を形成する。次に、ポリシリコン層および酸化膜を形成後、酸化膜をマスクとしてポリシリコン層に冷接点温度測定部5と信号処理回路部20の回路となる不純物拡散領域を形成する。次に、電気絶縁層3上にAl(アルミ)回路接続電極7、第1、第2接続電極10,11、相変化物質6などをCVD、スパッタリングやゾルゲル法および各種薄膜製造方法により成膜、フォトリソグラフによりパターン形成する。この場合、同一のSiベース材2、電気絶縁層3、ポリシリコン層、酸化膜および配線材料によりCMOS素子構造として、同一のチップ内に周辺回路を集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造の基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層3とし、SOI層に冷接点温度測定部5と信号処理回路部20の回路となる不純物拡散領域を形成する。次にBOX層上に回路接続電極7、第1、第2接続電極10,11、相変化物質6などをCVD、スパッタリングやゾルゲル法および各種薄膜製造方法により成膜、フォトリソグラフによりパターン形成する。このように、Siベース材2、BOX層やSOI層によりCMOS素子構造として、同一のチップ内に周辺回路を集積することができる。
【0029】
冷接点温度測定部5と信号処理回路部20の回路に設けられる冷接点温度測定部5の温度較正を行うためのプログラムや、熱電対による温度測定を行うためのプログラムなどの制御プログラムを記憶した記憶メモリ(P-ROM)を、相変化物質6と同じ材料からなる相変化記憶メモリ(Ovonic Unified Memory)としてもよい。この相変化メモリは、急速な熱変化によって結晶相をアモルファス相に遷移させることによって、情報を記憶させるものである。具体的には、相変化メモリを構成する相変化物質をヒーターで加熱して冷却するときの温度と時間を制御することで、結晶状態あるいはアモルファス状態を作る。結晶状態のときは、電気抵抗値が低く、アモルファス状態のときは、電気抵抗が高くなる。この電気抵抗値の違いを用いて、情報を読み出すことができるのである。また、レジスタ等の記憶部にも上記相変化メモリを用いてもよい。このように、信号処理回路部20の記憶メモリとして、相変化物質6と同一の材料からなる相変化メモリを用いることにより、相変化部と、信号処理回路部20の記憶メモリとを同時にパターン形成することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0030】
また、図3に示すように、電気絶縁層3の冷接点C、冷接点温度測定部5、相変化物質6が設けられた計測領域22の周囲には、貫通孔9が設けられている。これにより、冷接点温度測定部5で相変化物質6を加熱する際の熱が、計測領域以外へ伝播するのを抑制することができ、相変化物質6を効率よく加熱することができる。
【0031】
また、信号処理回路部20には、熱電対の出力値に基づいて、測定対象物の温度を測定するためのインターフェイス、制御回路、レジスタ、ΔΣA/D、発信回路などを備えている。また、基板1の図中左側の端部には、アドレス入力用端子、GND用端子、クロック入力用端子、データ入出力用端子、電源入力用端子などの各端子が設けられている。端子8は、例えば、図2に示すように、配線ワイヤ12、リードピン13を介して、電源や外部装置などに接続されている。このように、信号処理回路部20を冷接点Cが設けられた基板と同一基板に形成することで、冷接点温度測定部5、熱電対からの信号をΔΣA/Dへ電送させる配線長を短くでき、ノイズを受け難く高精度に冷接点Cの温度測定ができる。
【0032】
図4は、温度測定装置100の制御ブロック図である。
信号処理回路部20は、冷接点温度測定部5の温度キャリブレーションを行う温度較正手段としての機能、熱電対103の熱起電力を検出して、測定対象物30の温度を計測する機能、熱電対103のゼーベック係数を算出する機能などを有している。
図4に示すように、信号処理回路部20は、冷接点温度測定部5に交流バイアスを印加するための電源201と発振回路208を有している。また、冷接点温度測定部5の抵抗値を検出する抵抗値検出部202、相転移温度とそのときの冷接点温度測定部5の抵抗値などを記憶するため記憶手段たるレジスタ203、測定対象物30の温度計測を行うための熱起電力電圧検出部204、アナログ信号をデジタル信号に変換するためのΔΣA/D変換器205、ゼーベック係数Sを算出するためのゼーベック係数算出手段としてのゼーベック係数算出回路206、ゼーベック係数S、冷接点Cの温度、熱起電力などに基づいて、測定対象物の温度を計測する温度変換部207、各回路を制御する制御回路209などを有している。
【0033】
制御回路209からキャリブレーション実行の信号が、電源201に入力されると、加熱部としての冷接点温度測定部5が発熱する。同時に、冷接点温度測定部5の抵抗値が抵抗値検出部202で算出され、時刻と冷接点温度測定部5の抵抗値をレジスタ203に収納する。そして、冷接点温度測定部5の抵抗値によって相変化物質6の相転移を検出し、その時の冷接点温度測定部5の抵抗値を相変化物質6の既知の相転移温度として、温度依存性を示す関係式を求め、レジスタ203に記憶する。
【0034】
制御回路209から温度測定実行の信号が、電源201に入力されると、冷接点温度測定部5の抵抗値が抵抗値検出部202で算出され、算出された抵抗値と、先の温度依存性を示す関係式とを用いて、冷接点温度測定値として温度変換部207に出力される。また、熱起電力電圧検出部で検出された熱起電力が、温度変換部に出力される。温度変換部207は、後述するゼーベック係数算出回路により算出されたゼーベック係数Sと、熱起電力とに基づいて、温接点と冷接点との温度差を求める。次いで、求めた温接点と冷接点との温度差と、冷接点温度測定部5で測定された冷接点温度とに基づいて、温接点温度(測定対象物)の温度が求められ、温度測定値として、出力される。
【0035】
また、制御回路209からゼーベック係数算出実行の信号が、電源201に入力されると、加熱部としての冷接点温度測定部5を発熱させ、冷接点温度を予め決められた第1の温度に加熱する。冷接点温度測定部5の抵抗値が抵抗値検出部202で算出され、算出された抵抗値と、先の温度依存性を示す関係式とを用いて、冷接点温度が算出され、算出された冷接点温度が、上記第1の温度となったら、熱起電力電圧検出部204で熱電対103の熱起電力を検出する。次に、加熱部としての冷接点温度測定部5を発熱させ、冷接点温度を予め決められた第1の温度とは異なる第2の温度に加熱する。次に、算出された冷接点温度が、上記第2の温度となったら、熱起電力電圧検出部204で熱電対103の熱起電力を検出する。そして、第1の温度t1a、このときの熱起電力ΔV1から得られる下記式(a)の関係式、第2の温度t1b、このときの熱起電力ΔV2から得られる下記式(b)の関係式との連立解から、ゼーベック係数Sを算出する。
ΔV1=S×(t2−t1a)・・・(a)
ΔV2=S×(t2−t1b)・・・(b)
なお、上記t2は、温接点Wの温度である。
【0036】
次に、本実施形態の温度測定装置100における相変化物質の相転移を用いたキャリブレーションの原理について概説する。ここでは相変化物質の相転移を相変化物質の温度(熱)変化で検出する場合について、説明する。
図5は時間推移における相変化物質の温度変化と、冷接点温度測定部5の抵抗変化とを示す特性図である。図5に示すように、相変化物質6を加熱していき、相変化物質6が相転移温度(融点(凝固点):Mpa)になると吸熱反応が生じる。相変化物質が固体であれば温度が上がっていくと相転移温度にて液体となりはじめ、全てが液体となる期間は相転移温度MPaを維持し、全てが液体となった以降は再び温度が上昇する。そのため、冷接点温度測定部5の電気抵抗値が不連続な傾向となる部分が出現する。すなわち、図5に示すように、冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2のとき、温度が相転移温度であると判定できる。よって、温度依存性を有する抵抗体である冷接点温度測定部5の抵抗値を測定しておき、測定抵抗値が抵抗値R2となったときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を行う。このように、相転移温度と電気抵抗値との関係が1対1の関係となり、この関係を用いることによりキャリブレーションを行うことができる。
【0037】
相変化物質6を加熱する加熱部(本実施形態においては、冷接点温度測定部5)の熱容量を小さくし、かつ均一な温度領域に形成することにより、相変化の時点をより正確に検出できる。また、本実施形態においては、相変化物質6を加熱する加熱手段として、冷接点温度測定部5を用いている。相変化物質6を加熱するときは、冷接点温度測定部5にジュール熱が生じるような大きな電流を冷接点温度測定部5に流す。図5に示すように、相変化物質6が固体から液体へ相転移が発生すると、相変化物質6が吸熱反応を示し、相変化開始から終了まで温度が変化しないので温度が維持され、冷接点温度測定部5でもある抵抗体の電気抵抗値の増加傾向が平行状態へ変化する。相変化物質6の転移熱量(潜熱)が大きく、検出領域全体の熱容量に対して相変化物質6の熱容量が占める割合が大きいほど、この吸熱反応の時間(温度が変化しない時間)を長くすることができ、確実に相変化物質6の相変位を検出することができ、好ましい。信号処理回路部20の抵抗値検出部は、冷接点温度測定部5に印加した電圧値と、冷接点温度測定部5に流れた電流値とから、時刻T0の冷接点温度測定部5の電気抵抗値と、時刻T1の冷接点温度測定部5の電気抵抗値とを推移データとして記憶する。そして、時刻T0の電気抵抗値と時刻T1の電気抵抗値とから、抵抗値Rと時刻Tとの関数(一次関数:R=aT+b)が演算される。この関数により求められた時刻T1後の抵抗値と、測定した時刻T1後の抵抗値Rとを比較していく。すると、時刻T2後で関数にフィットしないデータが生じ、相変化物質6が相転移したことを検知することができる。
【0038】
相変化物質6の相転移を検知したら、冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2が既知の温度Mpaとしてメモリに保存し、図7に示すような温度依存性を示す関係式を補正する。冷接点温度測定部5で、冷接点の温度を測定するときは、冷接点温度測定部5に対しジュール発熱させないように微弱な電流を供給して、そのときの冷接点温度測定部5の電気抵抗値を測定する。そして、メモリに記憶されている図7に示すような温度依存性を示す関係式と、冷接点温度測定部5の既知の抵抗温度係数TCRとを用いることによって、冷接点温度測定部5の抵抗値から、温度を検出する。
図7に示す温度依存性を示す関係式:(抵抗値R、温度S、温度係数(TCR)α
R=R0*(1+α*S)・・・・(式1)
例えば、温度測定部が白金抵抗体の場合、温度係数(TCR)αは、α=3.9083E−03(0℃〜850℃)となる。
温度キャリブレーションにおいては、上述の抵抗値R2と温度MPaとの関係に基づいて、上記R0が補正される。
【0039】
また、本実施形態の温度の実用に必要な精度は、0〜850℃の範囲で±0.1℃の精度で十分であるので、下記式の温度依存性を示す関係式のβ×S2を0として線形な一次関数を、温度依存性を示す関係式として用いているが、下記式に示す2次関数の温度依存性を示す関係式を用いてもよい。下記式に示す2次関数の温度依存性を示す関係式を用いることで、0〜419.527℃の範囲で±0.01の精度を得ることができ、抵抗値−温度特性の精度を更に高めることもできる。
R=R0*(1+α*S+β*S2)・・・・(式)
例えば、白金抵抗体の温度係数(TCR)は
α=3.9083E−03、β=−5.7750E−07(0℃〜850℃)
【0040】
図6は、相変化物質6を加熱するときに冷接点温度測定部5に流す電流に対する温度変化及び冷接点温度測定部5の抵抗値変化を示す特性図である。この図6においては、相変化物質6が液体から気体に相変化する例であり、熱容量の変化で相転移を検知する例である。図6に示すように、冷接点温度測定部5へ流す電流値を増加させ、沸点Bpに達した時に相変化物質6が相転移する。相変化物質6が液体から気体へ既知の温度(昇華点又は沸点:Bp)で相転移すると、相変化物質6は蒸散が完了するまで、吸熱反応により温度上昇しない不連続な特性として現れる。しかし、蒸散により相変化物質6の質量が減少してゆくため、上記温度上昇しない不連続な特性は、図6に現れないほど、ごく短時間である。このため、相変化物質6が液体から気体に相変化する場合は、相変化物質6が固定から液体へ相変化する場合のように、吸熱反応により温度上昇しない不連続な特性を検出することは難しい。そこで、相変化物質6が液体から気体に相変化する場合は、蒸散前の温度上昇と、蒸散後の温度上昇の違いに基づいて、相転移温度を検知する。具体的には、相変化物質6が蒸散すると、検出領域の温度測定部周辺の熱容量が相変化物質の分減少する。相変化物質の蒸散により熱容量が減少することにより、温度上昇および冷接点温度測定部5の増加量(傾き)が、相変化物質6が蒸散する前に比べて大きくなり、図6に示すように、温度(電気抵抗値)は、不連続な特性として顕著に現れるので、この不連続開始点(ごくわずかな温度上昇しない領域における後端)を検出する。よって、この場合も、相変化物質加熱直後に得られたデータから、冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rと時刻Tの関数(一次関数:R=aT+b)を演算し、この関数にフィットしないデータが生じれば相変化物質6が相転移したことを検知することができる。相変化物質6の相転移を検知したら、冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2が既知の温度Mpaとしてメモリに保存する。冷接点温度測定部5で、冷接点の温度を測定するときは、冷接点温度測定部5に対しジュール発熱させないように微弱な電流を供給して、そのときの冷接点温度測定部5の電気抵抗値を測定する。そして、上述同様、温度キャリブレーションにより補正された温度依存性を示す関係式を用いて、冷接点の温度が演算される。
【0041】
図8は、温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出および測定対象物の温度測定のタイミングチャートであり、図9は、フローチャートである。
所定期間経過すると、制御回路209からキャリブレーション実行の信号が、出力される。キャリブレーション実行の信号が出力されたら(S1のYES)、レジスタ203に記憶されている前回のキャリブレーションで検出された相転移温度MPaのときの冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2を消去する(S2)。次に、冷接点温度測定部5にバイアスを印加する電源201が起動し(S3)、冷接点温度測定部5に相変化物質を加熱するための加熱電流Icが印加され、相変化物質6が加熱される。また、抵抗値検出部202で電圧値Vcを検出して、抵抗値が算出され、算出された抵抗値は、レジスタ203に記憶される。また、算出した抵抗値と、これよりもひとつ前に算出した抵抗値とから差分値ΔRを算出する(S5)。
【0042】
図8に示すように、時刻T2において、相変化物質6が相変化し冷接点温度測定部5の抵抗値Rの差分値(時間微分)ΔR=0となる。制御回路209は、算出したΔRが、0か否かをチェックする(S6)。差分値ΔRが0であったら(S6のYES)、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raに設定し(S7)、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raとに基づいて、温度依存性の関数を求めレジスタ203に記憶する(S8)。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにして、温度キャリブレーションが終了する。
【0043】
このように、本実施形態においては、冷接点温度測定部5、抵抗値検出部202、制御回路209で相転移検出手段が構成されており、制御回路209で温度較正手段が構成されている。
【0044】
温度キャリブレーションが終了したら、フラグが立ち、冷接点の温度が、常温に戻ったタイミングで、制御回路209からゼーベック係数算出実行の信号が出力される。経時使用により、第1熱電材料103a、第2熱電材料103bが、酸化したり、金属構造が変化したりして熱電対103のゼーベック係数Sが、変動する。このため、初期から同じゼーベック係数Sを用いた場合、経時使用により、測定対象物の温度測定値に誤差が生じてしまう。よって、所定のタイミングで、ゼーベック係数Sを算出して、第1熱電材料103a、第2熱電材料103bの劣化状態に対応したゼーベック係数Sを算出する(S9)。
【0045】
制御回路209からゼーベック係数算出実行の信号が出力されると、冷接点温度測定部5にバイアスを印加する電源201が起動し、冷接点を第1の温度t1aに加熱するための加熱電流が印加される。抵抗値検出部202で抵抗値が算出される。次に、温度依存性の関数と算出された抵抗値とから、冷接点温度を算出する。算出した冷接点温度が第1温度t1aであったら、熱起電力電圧検出部で、熱電対の熱起電力電圧値を検出し、ΔV1としてレジスタに記憶する。次に、冷接点温度測定部に印加する加熱電流を上げて、冷接点を第1温度より高温の第2温度t1bに加熱する。次に、抵抗値検出部202で抵抗値を算出し、温度依存性の関数と算出された抵抗値とから、冷接点温度を算出する。算出した冷接点温度が第2温度t1bであったら、熱起電力電圧検出部204で、熱電対の熱起電力電圧値を検出し、ΔV2としてレジスタ203に記憶する。そして、第1温度t1aと、このときの熱起電力ΔV1とから上記関係式(a)を求め、第2温度t1bと、このときの熱起電力ΔV2とから上記関係式(b)を求め、上記式(a)と式(b)との連立解から、ゼーベック係数Sを算出し、算出したゼーベック係数Sを、レジスタ203に記憶し、ゼーベック係数算出処理が終了する。
【0046】
なお、図8に示すように、冷接点を第1温度にする制御を開始してから、冷接点が第2温度のときの熱起電力を検出するまでの時間(時刻T6−時刻T4)は、1.0μsec程度であり、ごく短時間である。よって、図8に示すように、ゼーベック係数算出時に、温接点の温度t2は、ほぼ同一の温度である。よって、ゼーベック係数Sは、精度よく算出できる。さらに、精度を上げたい場合は、図8に示すように、もう一度、第1温度t1aにおける熱起電力ΔV1、第2温度t1bにおける熱起電力ΔV2を検出して、熱起電力ΔV1やΔV2の値に誤差があるか否かを検証してもよい。誤差が所定値以上ある場合は、再度、ΔV1、ΔV2を検出して、前回のΔV1、ΔV2に対する誤差が所定値以下であるか否かを検証する制御を繰り返し行う。そして、前回のΔV1、ΔV2に対する誤差が所定値以下であれば、前回のΔV1、ΔV2を用いて、ゼーベック係数Sを算出するようにしてもよい。また、複数回、ΔV1、ΔV2を検出して、その平均値に基づいて、ゼーベック係数Sを算出するようにしてもよい。
【0047】
そして、制御回路209に、測定対象物の温度測定実行信号が入力される(S10)と、冷接点温度測定部5にバイアスを印加する電源201が起動し(S11)、冷接点温度測定部5に冷接点の温度を検出するための検出電流が印加され、温度依存性の関数と算出された抵抗値とから、冷接点温度が算出され、温度変換部207へ入力される(S12)。また、熱起電力電圧検出部で、熱電対の熱起電力が検出され、温度変換部207へ入力される(S13)。温度変換部207は、算出されたゼーベック係数S、熱起電力、冷接点の温度に基づいて、温接点の温度である測定対象物の温度を算出して(S14)、出力する(S15)。具体的には、冷接点の温度t1、熱起電力ΔVとすると、温接点(測定対象物)の温度t2は、次の式で求めることができる。
t2=(ΔV+St1)/S・・・・(c)
【0048】
本実施形態においては、所定のタイミングでゼーベック係数Sを算出するので、熱電対が経時使用で劣化し、ゼーベック係数Sが変化しても、精度の高い温度測定を行うことができる。また、本実施形態においては、図2に示すように、シース部101が、温度計測部110に対して、着脱可能となっている。シース部101の熱電材料の大きさや長さが異なると、ゼーベック係数Sが異なるが、本実施形態においては、ゼーベック係数Sを算出するので、ゼーベック係数Sが異なるシース部101が、温度計測部110に装着されても、精度の高い温度測定を行うことができる。これにより、用途に合わせて、熱電対の長さや大きさの異なるシース部101を温度計測部110に装着して、温度測定を行うことができ、利便性が向上する。具体的には、温度計測部110に以前装着したシース部101とはゼーベック係数が異なるシース部101が装着されたときは、ゼーベック係数S算出を実行し、ゼーベック係数Sを算出する。このときのゼーベック係数Sの算出は、手動で行うようにしてもよいし、シース部101の着脱を検知する検知手段を設け、シース部101が装着されたことを検知したら、ゼーベック係数Sの算出を実行してもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、温度計測部110の基板1に、熱電対103の一部を構成する部分(第1接続電極10、第2接続電極11)を設けて、基板1に設けた第1接続電極10と、第2接続電極11とを回路接続電極7に接続させて冷接点を形成している。しかし、この場合、第1熱電材料103aが第1接続電極10と同一の材料、第2熱電材料103bが第2接続電極11と同一の材料のシース部101を用いる必要があり、用いることのできるシース部101が限定されてしまう。そのため、シース部101の第1熱電材料の端部113aと、第2熱電材料の端部113bとを、回路接続電極7に直接接触するように構成し、シース部101の第1熱電材料の端部113aと回路接続電極7との接続箇所、第2熱電材料の端部113bと回路接続電極7との接続箇所を冷接点にしてもよい。このように構成することにより、シース部101の第1熱電材料103a、第2熱電材料103bにも制限がなくなり、用いることのできるシース部101を増やすことができ、さらに利便性を高めることができる。この場合も、シース部101の第1熱電材料と第2熱電材料とが、以前装着されていたシース部の熱電材料と異なると、ゼーベック係数Sが異なるので、以前装着されていたシース部の熱電材料と異なる熱電材料が用いられたシース部101が温度計測部110に装着された場合は、ゼーベック係数Sを算出する。
【0050】
また、本実施形態においては、ゼーベック係数の算出と、測定対象物30の温度測定とを分けているが、上記した式(a)、式(b)の連立方程式を解くことで、ゼーベック係数だけでなく、温接点の温度を算出することができる。よって、ゼーベック係数の算出と、測定対象物30の温度測定とを同時に行ってもよい。しかし、この場合は、冷接点を第1温度に加熱して、そのときの熱起電力と、冷接点を第2温度に加熱して、そのときの熱起電力とを検出する必要があるため、測定対象物の温度が出力されるまでの時間がかかる。しかしながら、測定時の熱電対の劣化状態に対応したゼーベック係数で、測定対象物の温度が算出されるので、精度の高い温度検出を行うことができる。よって、例えば、精度の高い温度測定を行う高精度モードと、通常モードとを備えておき、高精度モードが選択された場合は、冷接点を第1温度に加熱して、そのときの熱起電力と、冷接点を第2温度に加熱して、そのときの熱起電力とを検出し、ゼーベック係数Sと、測定対象物の温度とを算出できるようにしてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、測定対象物30の温度測定時は、冷接点温度測定部5に検出電流を印加して、そのときの冷接点の温度を検出しているが、例えば、冷接点温度測定部に加熱電流を流し、冷接点温度を所定の温度にして、測定対象物30の温度測定を行ってもよい。特に、冷接点を相変化物質6が溶融する温度にまで加熱するのが好ましい。これは、そのとき検出される冷接点温度測定部5の抵抗値は、相変化物質が相変化する温度Mpaであるので、冷接点の温度の誤差をほぼ無くすことができる。これにより、測定対象物の温度を高精度に検出することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、相変化物質6を基板1に設けて、相変化物質を加熱して相変化させ、相変化が起きたときの冷接点温度測定部5の出力値(抵抗値)を、既知の相転移温度とする温度較正を行うので、精度のよく冷接点の温度を検出することができる。その結果、精度よく温接点(測定対象物30)の温度を測定することができる。また、随時簡便に冷接点温度測定部5の温度キャリブレーションを実施することができるので、精度の高い冷接点温度の測定結果を維持することができる。
【0053】
また、冷接点温度測定部5のキャリブレーションを行うことができるので、冷接点温度測定部5や冷接点が設けられた基板1に信号処理回路部20を設けることができる。すなわち、従来は、信号処理回路部20も含めてひとつの基板に集積すると、冷接点温度測定部5の精度に影響する要素が多くなり、かえって冷接点温度測定部5の出力値のばらつき範囲が拡大してしまい、精度よく冷接点の温度を測定できない。また、特別な設計上の工夫や高精度の製造条件で製造することで、冷接点温度測定部5の検知結果のばらつきを抑えることができるが、規格合格品の歩留まりが低くなり、冷接点が設けられた基板と、信号処理回路部が設けられた基板とを別々に設けたものに比べて、製造コストが高くなる。しかし、本実施形態においては、信号処理回路部20の個々の回路に特性ばらつきがあって、冷接点温度測定部5の出力値にばらつきがあっても、上述した温度キャリブレーションを行うことで、精度よく冷接点の温度を測定することができる。また、特別な設計上の工夫や高精度の製造条件で製造する必要がないため、製造コストを抑えて、信号処理回路部20を、冷接点が設けられた基板に集積することができる。また、信号処理回路部20を冷接点が設けられた基板に集積することで、信号処理回路部の各回路に接続するための配線を短くできノイズを受け難く高精度に相変化物質の相転移や、冷接点の温度測定、測定対象物の温度測定を行うことができる。
【0054】
次に、本実施形態の変形例について、説明する。
【0055】
[変形例1]
図10は、変形例1の温度測定装置100Aの冷接点Cが設けられた基板1の概略平面図である。
図10に示すように、この変形例1の湿度測定装置100Aは、冷接点温度測定部5と、加熱部とを別々に設けたものである。図に示すように、加熱部は、温度測定部と相変化物質との間に並列配置した。また、この図において、信号処理回路部20は、省略している。
【0056】
温度キャリブレーションを実行する場合は、加熱部に加熱電流を印加して、相変化物質を加熱するとともに、冷接点温度測定部5には、微弱な検出電流を印加して、抵抗値を算出し、上記のようにΔRを求める。ゼーベック係数S算出時においても、加熱部には、加熱電流を印加して、冷接点を加熱し、冷接点温度測定部5には、微弱な検出電流を印加して、冷接点の温度を検出する。
【0057】
冷接点温度測定部5を、相変化物質を溶融するための加熱手段や、ゼーベック係数Sを算出するために冷接点を加熱手段として用いた場合、冷接点温度測定部5に大電流を印加する必要がある。その結果、冷接点温度測定部5が、エレクトロマイグレーションにより抵抗温度係数のα、βが変化し易い。そのために、冷接点温度測定部5の材料や寸法や加熱部表面へのパッシベーション膜の被覆などの条件を工夫したり、精度を維持するために温度キャリブレーションの頻度を多めにしたりする必要がある。しかし、冷接点温度測定部5とは別に加熱部を設けることにより、冷接点温度測定部5には、微弱な検出用電流しか流れないので、抵抗温度係数のα、βの変化を抑えることができ、温度キャリブレーションの頻度が少なくても冷接点温度測定部5の冷接点温度測定の安定性を保つことができる。
【0058】
[変形例2]
図11は、変形例2の温度測定装置100Bの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図であり、図12は、図11のA−A断面図である。
この変形例2の温度測定装置100は、相変化物質6を、相変化物質6を加熱する冷接点温度測定部上に積層したものである。相変化物質6が導電性材料あれば図12に示すように、電気絶縁層3を冷接点温度測定部5上に設けて、電気絶縁層3を介して相変化物質6を冷接点温度測定部に積層させる。
【0059】
また、この変形例2においても、ベース材2の計測領域22と対向する箇所を、エッチング処理により除去し、空洞部21を形成している。また、計測領域22の周囲に貫通孔9を設けた。これにより、冷接点温度測定部5で相変化物質6を加熱する際の熱が、計測領域以外へ伝播するのを抑制することができ、相変化物質6や冷接点を効率よく加熱することができる。
【0060】
相変化物質6を冷接点温度測定部5上に積層することで、相変化物質6を加熱する冷接点温度測定部5と相変化物質6とが極近接し、冷接点温度測定部5と相変化物質6との伝熱も等距離で均等になる。これにより、図3に示すように、相変化物質6を加熱する冷接点温度測定部5と相変化物質6とを並列配置したものに比べて、相変化物質6を配置する面積分削減される。よって、図3に示す構成に比べて、計測領域22の熱容量が小さくなるため、計測領域の熱応答速度が早くなる。その結果、温度キャリブレーションを迅速に行うことができる。また、冷接点温度測定部5と冷接点とを近接配置することができ冷接点の温度測定精度が高めることができる。また、冷接点を所定の第1温度、第2温度にすばやく加熱することができ、ゼーベック係数を迅速に算出することができる。
【0061】
[変形例3]
図13、図14は、変形例3の温度測定装置100Cの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図である。また、図15は、図14のB−B断面図である。
この変形例3の温度測定装置100Cは、互いに異なる相変化物質6A,6Bを、相変化物質を加熱する冷接点温度測定部5近傍に分散配置したものである。図13は、基板1に信号処理回路部20を設けており、相変化物質6A,6Bを冷接点温度測定部近傍に並列に配置したものである。
【0062】
図14、図15に示す基板1は、信号処理回路部20を設けず、2種類の相変化物質6A,6Bを、冷接点温度測定部5上に積層配置したものである。また、この図14、図15に示す基板1は、計測領域22周囲に貫通孔9を設けたものである。
【0063】
2種類の相変化物質6A,6Bは、互いの相変化温度が異なる物質である。各相変化物質6A,6Bは、互いに接触していると相互に拡散し新たな合金や化合物に変化し相変化温度が変化してしまう。そのため、異なる相変化温度の複数の相変化物質を互いに分離させて形成する。このように、相転移温度が互いに異なる2種類の相変化物質6A,6Bを用いることにより、冷接点温度測定部の抵抗温度係数TCRをメモリに記憶しておく必要がなくなる。以下に、具体的説明する。
【0064】
図16は異なる相転移温度の2つの相変化物質6A,6Bにおいて時間推移に対する温度変化を示す特性図であり、図17は、変形例3の温度測定装置100Cの温度キャリブレーションの入出力信号のタイミングチャートであり、図18は、変形例3の温度測定装置100Cの温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャートである。
【0065】
図18に示すように、キャリブレーション実行の信号が出力される(S21)と、メモリに記憶された温度依存性の関数を消去し(S22)し、冷接点温度測定部5に相変化物質を加熱するための加熱電流が印加され、各相変化物質6A,6Bが加熱される(S24)。そして、図17に示すように、時刻T2で一方の相変化物質6Aが相転移する温度(相変化物質6A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。更に、加熱電流を供給し続けて温度を上昇させると、時刻T4で他方の相変化物質6Bが相転移する温度(相変化物質6B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb(>Mpa))になる。
【0066】
このように相変化物質が2種類あるときは、以下のようにして、2種類の相変化物質6A,6Bの相変化を検知する。すなわち、固体から液体へ相転移を完了するまでは吸熱反応によって印加電力を増しても温度の上昇はなくΔR=0であるので、時刻T2において一方の相変化物質6Aは既知の相転移温度Mpaになったことを検出することができる。同様に、時刻T4において他方の相変化物質6Bは既知の相転移温度Mpbになったと検出することができる。
【0067】
上述と同様にして、ΔRを算出して(S25)、ΔRが0か否かをチェックする(S26)ΔRが、0となったら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raに設定する(S27)。さらに、加熱電流を上げていき、吸熱反応(ΔR=0)でなくなり、冷接点温度測定部5の抵抗値が上昇を開始したら、再び、ΔR=0であるか否かをチェックする(S28〜S30)。ΔRが、0となったら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbに設定する(S31)。
【0068】
次に、図19に示すように、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raと、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとに基づいて、温度依存性の関数を求め、メモリに記憶する。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにして、温度キャリブレーションが終了する(S32)。その後のゼーベック係数の算出のフロー、測定対象物の温度測定のフローは、上述と同じであるので、説明は、省略する。
【0069】
このように、2つの異なる相変化物質6A,6Bを用いて、温度キャリブレーションが行われることにより、高精度の温度目盛が付与できる。また、温度依存性の関数を求めるので、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができる。
【0070】
また、より高精度な測定値を得るためには、国際温度目盛り(ITS-90)に示されている標準物質の凝固点の中でも、温度検出範囲に対してできるだけ相転移温度が近いことが好ましい。例えば、一般電子機器に用いられているIC温度センサの測定範囲である−40から+125℃に相当する用途であれば、相変化物質6AにIn(Mpa=156.5985℃)相変化物質6BにSn(Mpb=231.928℃)を選択し、冷接点温度測定部5にPt(0℃〜850℃では線形)を用いることで、MpaからMpbまでの範囲以外の温度領域でも高精度な測定値を得ることができる。また、この変形例3では、2種類の相変化物質を6A,6B用いているが、温度依存性を示す関係式として、2次関数を用いる場合、温度係数(TCR)α、βを用いずに、温度依存性を示す関数を算出するには少なくとも、3点の異なる既知の相転移温度が必要となる。この場合は、互いの相転移温度が異なる3種類以上の相変化物質を備えればよい。
【0071】
また、上記では、異なる相転移温度の複数の相変化物質6A,6Bが混ざりあわないように構成しているが、各相変化物質を互いに接触させて新たな合金や化合物を形成させて、この合金や化合物の既知の相転移温度で、温度キャリブレーションを行ってもよい。例えば、相変化物質6AにInを、相変化物質6BにSnをそれぞれ選択し、In−Sn合金を形成させ、InとSnの混合比率により融点(凝固点)は2元合金の状態図を参照することにより得られる。そこで、例えば、Inの相変化物質6Aからなる相変化部と、Snの相変化物質6Bからなる相変化部と、相変化物質6A上に相変化物質6Bが積層された相変化部とを、冷接点温度測定部5の近傍に並列配置する。そして、温度キャリブレーションを行う際、あるいは事前に、冷接点温度測定部5で加熱して、相変化物質6Aと相変化物質6Bとを溶融させ、相変化物質6A上に相変化物質6Bが積層された相変化部において、これら2つの金属を混ざりあわせ、In−Sn合金からなる相変化物質6ABを生成する。これにより、2種類の物質で、互いの相転移温度が異なる3種類の相変化物質を、基板に形成することができる。さらに、積層厚みの比率により、InとSnの混合比率が変わり、相変化温度が変わるので、積層させる相変化物質の厚みの比率が異なる相変化部を複数設けることにより、2種類の物質で、異なる相転移温度の相変化部を更に多数形成することができる。
【0072】
[変形例4]
図20は、変形例4の温度測定装置100Dの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図であり、図21は、変形例4の温度測定装置の制御ブロック図である。
この変形例4の温度測定装置100Dは、相変化物質6を導電性とし、相変化したときの相変化物質6の抵抗値変化、電気容量変化などの電気的特性の変化を電気的に検知することで、相変化物質6の相変化を検知するものである。
【0073】
この変形例4の温度測定装置100Dにおいては、冷接点温度測定部5の近傍に一対の検出用リード線16が設けられており、この一対の検出リード線間に2つの異なる相変化温度の導電性の相変化物質6A,6Bが並列に配置され、検出リード線16間を接続している。
相変化物質としては、V2O5などの相転移すると、電気伝導度(抵抗値)や電気容量が大きく変動する物質を用いる。
【0074】
図21に示すように、信号処理回路部20には、検出リード線に検出電流を流して、抵抗値や電気容量を検出する検出部210を有している以外は、先の図4と同じである。
【0075】
この変形例4の温度測定装置100Dにおける冷接点温度測定部5の温度キャリブレーションは、次のように行う。
まず、冷接点温度測定部5に加熱電流を印加して、相変化物質6A,6Bを加熱する。また、これと同時に、検出リード線16に検出電流を印加し、検出部210で抵抗値を算出する。相変化物質6Aが相変化すると、相変化物質6Aの電気伝導度が急激に変化し、抵抗値の値が変化する。これにより、相変化物質6Aが、相変化したことを検知することができる。また、相変化物質6Aが、相変化したことを検知したら、このとき抵抗値検出部202で算出された、冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raとして設定する。
【0076】
さらに、冷接点温度測定部5により、相変化物質を加熱していくと、相変化物質6Bが相変化して、相変化物質6Bの電気伝導度が急激に変化し、検出部210で算出された抵抗値の値が変化する。これにより、相変化物質6Bが、相変化したことを検知することができる。また、相変化物質6Bが、相変化したことを検知したら、このとき抵抗値検出部202で算出された、冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとして設定する。
【0077】
すなわち、この変形例4では、検出部210で検出された抵抗値の時間微分ΔRLが、所定値以上の値となったこと制御回路209が検知したら、抵抗値検出部202で検出された冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raとしてレジスタ203に記憶する。そして、再び、検出部210で検出された抵抗値の時間微分ΔRLが、所定の値以上となったこと制御回路209が検知したら、抵抗値検出部202で検出された冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとしてレジスタ203に記憶する。
【0078】
そして、変形例3と同様にして、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raと、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとに基づいて、温度依存性の関数を求め、メモリに記憶する。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにし、検出リード線16への検出電流をOFFにして温度キャリブレーションが終了する。
【0079】
上記では、相変化物質6A,6Bの相変化時の電気抵抗の変化を検出して、相変化物質6A,6Bが、相変化したことを検知しているが、相変化物質の相変化物質の電気容量変化を検出して、相変化物質6A,6Bが、相変化したことを検知してもよい。
【0080】
また、相変化したときの相変化物質6の流動(粘性)変化を電気的に検知することで、相変化物質の相変化を検知することもできる。
図22は、相変化したときの相変化物質6の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムについて説明する図である。同図では相変化物質6が固体から液体への相転移に伴う相変化物質6の流動(粘性)変化に伴う形状変化を説明している。
図22(a)に示すように、相変化物質6が固体の状態のときは、相変化物質6は、検出用リード線16a,16bに接しており、導通している。冷接点温度測定部5の加熱により、固体の相変化物質6が既知の相転移温度になると、液化によって表面張力が発生し、同図の(b)に示すように中央へ凝集する。すると、相変化物質6が、各検出用リード線16a,16bから離れ、その結果2つの検出用リード間の電気接続がOFFになる。このように、相変化物質6の導通状態を検出することで相変化物質6の相転移を検出できる。この場合、相変化物質6としては、表面張力が大きく、相変化物質6の下層との付着力が小さいものが好ましく、Snを用いるのが好適である。
【0081】
また、次のようにして、検出用リード間の電気接続をONからOFFに切り替えることもできる。
図23(a)に示すように、相変化物質6が固体ときは、相変化物質6は2つの検出リード線間にまたがって連続して配置され、検出リード間の電気接続がONとなっている。そして、冷接点温度測定部5の加熱により、固体の相変化物質6が既知の相転移温度になり液化すると、同図の(b)に示すように液化によって流動し、各検出リード16a、16bに相変化物質6が凝集し、相変化物質6が分離して、検出リード線間の電気接続がOFFになる。よって、検出リード間の電気接続がOFFとなったときの温度が既知の相転移温度となる。相変化物質6としては、表面張力が小さく、検出リード、相変化物質6の下層の電気絶縁層3との濡れ性が大きい材質のものが好ましく、Inが適する。
【0082】
上記では、相変化物質6の相変化によって、検出用リード16aと16b間の電気接続がOFFになることで、相変化物質の相転移を検知する場合について、説明したが、これとは逆に、相変化物質6の相変化によって、検出用リード16aと16b間の電気接続がOFFからONに切り替わる構成にすることもできる。
【0083】
図24は、検出用リード16aと16b間の電気接続がOFFからONに切り替わる構成を説明する図である。
図24(a)に示すように、相変化物質6が固体のときは、電気絶縁層3上の相変化物質は、2つの分離しており、相変化物質6は2つの検出リード16a,16b間にまたがって断続している。その結果、検出用リード16aと16bとの間の電気接続がOFFとなっている。冷接点温度測定部5の加熱により、固体の相変化物質6が既知の相転移温度になると、図の(b)に示すように液化によって流動し、電気絶縁層上の相変化物質6が一つとなり、相変化物質6は2つの検出リード16a,16b間にまたがって連続する。これにより、検出用リード16aと16bとの間の電気接続がOFFからONに切り替わり、相変化物質6の相転移を検出することができる。この場合も、図23の構成と同様、相変化物質6としては、表面張力が小さく、検出リード、相変化物質6の下層の電気絶縁層3との濡れ性が大きい材質のものが好ましく、Inが適する。相変化物質6が冷えて、固化するときは、相変化物質6が収縮することにより、電気絶縁層3上の相変化物質6は、再び2つの分離する。また、図22、図23の構成においては、一度、固体から液体に相変化してしまった後、再び、液体から固体に相変化物質6が相変化しても、始めの状態に戻って、検出用リード16aと16b間の電気接続がONとなることはないが、図24に示す構成においては、液体から固体に相変化物質6が相変化すると、始めの状態に戻るので、何度も温度キャリブレーションを行うことができる。
【0084】
また、相変化物質6が固体から液体に相転移することによる流動性(粘性)の変化を電気的に検知することで、相変化を検知する場合、相変化物質6を電気絶縁層で覆ってしまうと、相変化物質6の流動性を阻害して、流動変形しないおそれがある。よって、図22〜図24の構成を採用する場合は、相変化物質6は電気絶縁層を被覆せず露出させる。また、相変化物質6の量を少なくして、相変化物質6がすばやく相転移温度にまで加熱されるようにするのが好ましい。
【0085】
[変形例5]
図25は、変形例5の温度測定装置100Eの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図であり、図26は、図25のD−D断面図であり、図27は、変形例5の温度測定装置の制御ブロック図である。
この変形例5の温度測定装置100Eは、相変化物質6A,6Bの下に圧電膜17を設けて、圧電膜17で、相変化物質6A,6Bの相変化に伴う体積変化、剛性変化、固有振動数変化などを検出して、相変化物質6A,6Bの相変化を検出するものである。
【0086】
冷接点温度測定部5に隣接して設けられた一対の圧電駆動電極18間に圧電膜17を形成し電気絶縁層3を介して相変化物質6A,6Bが積層されている。図27に示すように、信号処理回路部20には、圧電膜17からの電圧や周波数を検出する検出部211が設けられている以外は、先の図4と同じである。
【0087】
まず、圧電膜17で相変化物質6の相変化に伴う固有振動数変化を検出する方法について説明する。周期的に力の周波数を試料に加え、その応答を測定する方法、すなわちメカニカルスペクトロスコピー(動的粘弾性測定:DMA)を適用することで、相変化物質6の相変化に伴う固有振動数変化を検出することができる。具体的には、圧電膜17に交流電圧を印加して、圧電膜17を所定の周波数で振動させる。例えば、相変化物質6が相変化して固有振動数が変化したとき、相変化物質6が圧電膜17の振動に共振するような周波数で、圧電膜17を振動させる。このように、圧電膜17を振動させることにより、圧電膜17上の相変化物質6が振動し、圧電膜17に対して、相変化物質6から応力が加わり、圧電膜17から所定の交流波が出力される。相変化物質6が相転移して、固有振動数が変化すると、相変化物質6が、圧電膜17の振動に共振して、大きく振動する。その結果、相変化物質6から圧電膜17に加わる力が増加し、圧電膜17ら出力される交流波の振幅が増大する。制御回路209では、圧電膜17から出力された交流波の振幅(電圧)の時間微分値ΔVを監視し、時間微分値ΔVが0でない値をとったら、相変化物質6が相変化したことを検知することができる。上記では、相変化物質6の相変化によって、相変化物質6が圧電膜17の振動に共振させているが、これとは逆に、相変化前の相変化物質6が、圧電膜17の振動に共振するよう、圧電膜17を振動させてもよい。また、図26に示すように、相変化物質6や圧電膜17は、基板1の空洞部21上に設けているので、圧電膜17が振動しやすく、高感度で相転移を検出することができる。
【0088】
次に、圧電材料を用いた相変化物質6の体積変化や剛性変化の検知について説明する。これは、相変化物質6から圧電膜17に加わる機械的な応力による圧電膜の抵抗変化である所謂ピエゾ抵抗効果を用いて、相変化物質6の体積変化や剛性変化を検知するものである。具体的には、圧電膜に検知用の電流を印加する。相変化物質6が加熱されて、固体から液体に相変化すると、電気絶縁層3に覆われている相変化物質6の体積が増加する。これにより、相変化物質6の圧電膜に対する応力が増加し、圧電膜の抵抗値が変化する。よって、制御回路209において、電圧変化や、圧電膜の抵抗値変化を検知することにより、相変化物質6の相変化を検知することができる。一方、相変化物質6の剛性変化を検知する場合は、相変化物質6が固体から液体に相変化すると、相変化物質6の剛性が低下し、圧電膜17に加わる応力が低下する。その結果、圧電膜の抵抗値が変化するので、制御回路209において、電圧変化や、圧電膜17の抵抗値変化を検知することにより、相変化物質の相変化を検知することができる。
【0089】
図28は、変形例5の温度測定装置100Eの温度キャリブレーションの入出力信号のタイミングチャートであり、図29は、変形例5の温度測定装置100Eの温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャートである。
この図28、図29においては、相変化物質6の相変化に伴う剛性変化による圧電膜17の抵抗値変化(電圧変化)を検出することにより、相変化を検出するものである。
【0090】
図29に示すように、キャリブレーション実行の信号が出力される(S41)と、メモリに記憶された温度依存性の関数を消去し(S42)し、冷接点温度測定部5に相変化を加熱するための加熱電流が印加され、各相変化物質6A,6Bが加熱される(S44)。また、圧電膜17に検知電流を印加し、検出部211で電圧値を検出する。そして、図28に示すように、時刻T2で一方の相変化物質6Aが相転移する温度(相変化物質6A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。そのとき、相変化物質6Aが固相から液相に相転移することにより、相変化物質6Aの剛性が変化し、圧電膜17に加わる応力が低下する。その結果、電圧値Vfが低下し、相変化物質6Aが相変化したことを検知することができる。
【0091】
よって、図29に示すように、電圧値Vfが変化したことを検知(S46のYES)したら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raに設定する(S47)。さらに、加熱電流を上げていくと、図28に示すように、時刻T4で他方の相変化物質6Bが相転移する温度(相変化物質6B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb)になる。そのとき、相変化物質6Bが固相から液相に相転移することにより、相変化物質6Bの剛性が変化し、圧電膜17に加わる応力がさらに低下する。その結果、電圧値Vfがさらに低下し、相変化物質6Bが相変化したことを検知することができる。
【0092】
よって、図29に示すように、再度、電圧値Vfが変化したことを検知(S50のYES)したら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbに設定する(S51)。
【0093】
次に、先の図19に示すように、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raと、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとに基づいて、温度依存性の関数を求め、メモリに記憶する。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにして、温度キャリブレーションが終了する(S52)。その後のゼーベック係数の算出のフロー、測定対象物の温度測定のフローは、上述と同じであるので、説明は、省略する。
【0094】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の(1)〜(21)態様毎に特有の効果を奏する。
【0095】
(1)
熱電対と、熱電対の冷接点の温度を測定する冷接点温度測定部5などの冷接点温度測定手段と、熱電対の出力値と、冷接点温度測定手段の測定結果と、ゼーベック係数とに基づいて測定対象物の温度を測定する温度測定装置において、冷接点を加熱する加熱部15などの加熱手段と、加熱手段で冷接点を加熱し、冷接点の温度が第1温度ときの熱電対の出力値と、第1温度とは異なる第2温度ときの熱電対の出力値とを検出し、第1温度、第1温度ときの熱電対の出力値、第2温度および第2温度ときの熱電対の出力値に基づいて、ゼーベック係数を算出するゼーベック係数S算出回路206などのゼーベック係数算出手段を備えた。
かかる構成を備えることで、上述したように、熱電対が経時使用で劣化し、ゼーベック係数Sが変化しても、精度の高い温度測定を行うことができる。その結果、経時にわたり、精度の高い温度測定を行うことができる。また、ゼーベック係数の異なる熱電対を用いることができ、装置の利便性を向上することができる。
【0096】
(2)
上記(1)に記載の態様の温度測定装置において、ゼーベック係数算出手段は、冷接点の温度が第1温度のときの熱電対の出力値と、冷接点の温度が上記第2温度のときの熱電対の出力値とを複数回計測し、第1温度のときの熱電対の出力値の誤差、第2温度のときの熱電対の出力値の誤差が、閾値以下のとき、ゼーベック係数を算出する。
かかる構成を備えることにより、温接点の温度が一定であることを検証して、ゼーベック係数を算出するので、精度の高いゼーベック係数を算出することができる。
【0097】
(3)
上記(1)または(2)に記載の態様の温度測定装置において、冷接点温度測定手段を、温度依存性を有する抵抗体とで構成し、冷接点温度測定手段を、加熱手段として用いた。
かかる構成を備えることで、加熱手段と冷接点温度測定手段とを別々に設けた場合に比べて、コストを安価にすることができる。また、基板の熱容量を少なくすることができ、迅速に冷接点を第1温度、第2温度に加熱することができる。
【0098】
(4)
上記(1)乃至(3)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、冷接点が設けられた基板は、ベース材上に積層された絶縁層が設けられており、絶縁層にベース材と接していない非接触領域を設け、上記非接触領域に、上記冷接点と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを設けた。
かかる構成を備えることにより、基板の上記冷接点、上記加熱手段、上記冷接点温度測定手段が配置された領域(計測領域)の熱容量を少なくなることがでる。これにより、迅速に冷接点を第1温度、第2温度に加熱することができる。
【0099】
(5)
上記(4)に記載の態様の温度測定装置において、上記絶縁層の上記非接触領域の近傍に貫通孔を設けた。
かかる構成を備えることにより、非接触領域に設けられた加熱手段の熱が、基板の非接触領域以外の箇所に伝播するのを抑制することができ、効率よく冷接点を加熱することができる。よって、迅速に冷接点を第1温度、第2温度に加熱することができる。
【0100】
(6)
上記(1)乃至(5)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、既知の相転移温度を持つ相変化物質と、温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する相転移検出手段と、相転移が起きたことを上記相転移検出手段が検出したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、既知の上記相転移温度とする上記冷接点温度測定手段の温度較正を行う制御回路209などの温度較正手段とを備えた。
かかる構成を備えることで、温度測定装置の製造工程において、温度測定装置を恒温環境槽内へ搬送して冷接点温度測定手段の温度較正を行う温度較正工程が必要なくなり、コストを抑えることができる。また、温度測定装置自身で冷接点温度測定手段の温度較正を行うことができるので、温度測定装置が取り付けられた機器から温度測定装置を取り外して、恒温環境槽内に温度測定装置を持ち込んで冷接点温度測定手段の温度較正を行う場合に比べて、随時簡便に冷接点温度測定手段の温度較正を実施することができる。これにより、冷接点温度測定手段の温度較正が必要なときに、冷接点温度測定手段の温度較正を行うことができるので、高い精度を維持することができる。このように冷接点の温度を高い精度で測定することができるので、温接点(測定対象物)の温度測定を高精度に行うことができる。
【0101】
(7)
上記(6)に記載の態様の温度測定装置において、上記冷接点と、上記相変化物質と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを同じ基板に設けた。
かかる構成を備えることにより、上記相変化物質と上記冷接点温度測定手段の温度とを、ほぼ同じにすることができ、精度よく冷接点温度測定手段の温度較正を行うことができる。また、冷接点温度測定手段の温度を冷接点の温度とほぼ同じにでき、冷接点温度測定手で、冷接点の温度を精度よく測定することができる。また、加熱手段で、冷接点および相変化物質を良好に加熱することもできる。
【0102】
(8)
上記(6)または(7)に記載の態様の温度測定装置において、上記相転移検出手段、上記温度較正手段、上記ゼーベック係数算出手段を上記冷接点が設けられた基板に設けた。
かかる構成により、上記相転移検出手段と、上記温度較正手段と、上記ゼーベック係数算出手段との配線長を短くすることができ、ノイズを受け難く高精度に相変化物質の相転移などを検出することができる。
【0103】
(9)
上記(6)乃至(8)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相転移検出手段は、上記冷接点温度測定手段が測定した温度変化に基づいて、相転移が起きたことを検出する。相変化物質が相変化すると、吸熱作用が生じたり、熱容量が小さくなったりするので、相変化するとき、温度変化が相変化前と異なる。よって、冷接点温度測定手段で温度変化を監視することにより、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。
【0104】
(10)
上記(6)乃至(8)いずれかの温度測定装置において、上記相転移検出手段は、上記相変化物質を積層させた圧電膜などの圧電体を有し、上記圧電体で上記相変化物質の体積、剛性および固有振動数のいずれかの変化を検出して、相転移が起きたことを検出する。相変化物質が相転移して、体積や剛性が変化すると、相変化物質に積層の圧電体に対する応力が変化する。その結果、圧電体の抵抗が変化する。よって、圧電体の抵抗変化を検知することにより、上記圧電体で上記相変化物質の相変化に伴う体積や剛性の変化を検知することができ、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。また、圧電体を振動させて相変化物質を振動させることで、相変化物質が相転移して、固有振動数が変化し、圧電体の振幅が変化する。よって、圧電体の振幅変化を検知することにより、上記圧電体で、相変化物質の相転移に伴う固有振動数の変化を検知することができ、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。
【0105】
(11)
上記(6)乃至(8)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質は、導電性であって、上記相転移検出手段は、上記相変化物質の電気特性の変化に基づいて、相転移が起きたことを検出する。相変化物質によっては、相変化に伴って抵抗値や電気容量などの電気特性が変化する。よって、上記相変化物質の相変化に伴う抵抗値や電気容量などの電気特性を検知することで、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。
【0106】
(12)
上記(6)乃至(11)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質を、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質にした。これにより、精度の高い冷接点温度測定手段の温度キャリブレーションを行うことができる。
【0107】
(13)
上記(6)乃至(12)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させた。これにより、相変化物質と加熱手段との伝熱効率が良くなり、迅速に相変化物質を相変化温度にまで加熱することができる。これにより、冷接点温度測定手段の温度キャリブレーションを迅速に行うことができる。
【0108】
(14)
上記(6)乃至(12)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に並列に配置した。上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させる場合は、加熱手段を基板に形成した後、加熱手段の上に絶縁層を積層させ、その上に相変化物質を設ける必要がある。一方、上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に並列に配置することにより、基板に加熱手段と相変化物質とを形成することができ、上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させる場合に比べて、製造工程を減らすことができ、その結果、製造コストを抑えることができる。
【0109】
(15)
上記(6)乃至(14)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記冷接点が設けられた基板に、上記相変化物質と、上記加熱手段とが設けられており、上記相変化物質を、上記加熱手段に隣接する箇所に分散配置した。これにより、各相変化物質の熱容量を少なくすることができ、迅速に相変化物質を相転移温度にまで加熱することができる。
【0110】
(16)
上記(6)乃至(15)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段と上記冷接点温度測定手段とを、一対の冷接点の間に形状と配置が対称となるように上記冷接点が設けられた基板に設けた。これにより、一対の冷接点を加熱手段で均一に加熱することができ、ゼーベック係数を精度よく算出することができる。また、冷接点の周囲の熱容量がほぼ同じとなるので、測定対象物の温度を高精度に測定することができる。
【0111】
(17)
上記(6)乃至(16)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質、上記加熱手段および上記冷接点温度測定手段のいずれかが導電性部材で構成されており、導電性部材で構成された部材を電気絶縁材で他の部材間で電気的に絶縁した。これにより、電気的な短絡によるノイズを抑制することができ、冷接点温度測定手段で高精度に冷接点の温度を測定することができる。
【0112】
(18)
上記(6)乃至(17)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質を相転移させるときの上記加熱手段の加熱温度を、上記相転移物質の相転移温度付近にした。これにより、温度キャリブレーション時の無駄な電力消費を抑えることができる。
【0113】
(19)
上記(6)乃至(18)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記冷接点が設けられた基板に、互いに異なる2種類以上の相変化物質を分散配置し、上記相転移検出手段は、各相変化物質の相転移をそれぞれ検出し、上記温度較正手段は、上記相転移検出手段が検出した各相変化物質が相転移したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、各相変化物質の既知の相転移温度として上記冷接点温度測定手段の温度較正を行う。
かかる構成を備えることで、上記冷接点温度測定手段の温度依存性の関数を求めるので、上記冷接点温度測定手段として、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができる。
【0114】
(20)
上記(6)乃至(19)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成する。これにより、相変化物質の化学的変化などを抑制することができ、相転移温度が変化してしまうのを抑制することができる。また、圧力変化に伴う相変化温度の変動を防ぐこともできる。これにより、長期にわたり安定した温度キャリブレーションを行うことができる。
【0115】
(21)
熱電対の温度測定方法において、上記冷接点の温度が第1温度t1aときの上記熱電対の出力値ΔV1を計測するステップと、上記第1の温度t1aとは異なる第2温度t1bときの上記熱電停の出力値ΔV2を計測するステップと、上記ゼーベック係数をS、温接点の温度をt2としたとき、ΔV1=S×(t1a−t2)からなる第1式と、ΔV2=S×(t1b−t2)からなる第2式との連立解から上記ゼーベック係数Sと、温接点の温度t2とを求めるステップとを有する。これにより、熱電対のゼーベック係数がわからずとも、温接点の温度を測定することができる。
【符号の説明】
【0116】
1:基板
2:ベース材
3:電気絶縁層
5:冷接点温度測定部
6:相変化物質
7:回路接続電極
9:貫通孔
10:第1接続電極
11:第2接続電極
15:加熱部
16:検出リード線
17:圧電膜
20:信号処理回路部
21:空洞部
22:計測領域
30:測定対象物
100:温度測定装置
101:シース部
102:金属保護管
103:熱電対
103a:第1熱電材料
103b:第2熱電材料
104:無機物質
110:温度計測部
111:ケース
111a:接続口
112:加圧板バネ
114:スライドノブ
201:電源
202:抵抗値検出部
203:レジスタ
204:熱起電力電圧検出部
206:ゼーベック係数算出回路
207:温度変換部
209:制御回路
C:冷接点
S:ゼーベック係数
t1a:第1温度
t1b:第2温度
t2:温接点温度
W:温接点
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開2002−156279号公報
【特許文献2】特許第3692908号公報
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置およびゼーベック係数算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、熱電対を使用して、測定対象物の温度を測定する温度測定装置が知られている(例えば、特許文献1、2)。熱電対を使用した温度測定装置は、熱電対の一方の接合点である温接点を測定対象物に接触または近づけ、熱電対の他方の接合点である冷接点との温度差により生じる熱起電力ΔV10(ゼーベック効果)を計測する。また、これと同時に冷接点温度測定手段としての温度センサ(感温素子、サーミスタなど)により冷接点の温度t1を測定する。そして、不揮発性メモリに記憶されているゼーベック係数Sと、熱起電力ΔV10と、冷接点の温度t1とから、測定対象物の温度である温接点の温度t2を求める(t2=(ΔV10+S×t1)/S)
【0003】
上記ゼーベック係数Sは、熱電対の材質や形状毎に異なる値であり、装置の不揮発性メモリには、熱電対に対応する上記ゼーベック係数Sが記憶されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
経時使用によって熱電対が劣化(酸化、金属構造の変化など)すると、熱電対の特性が変化して、ゼーベック係数Sが変化してしまう。その結果、不揮発性メモリに記憶されているゼーベック係数と、使用されている熱電対のゼーベック係数とが異なってしまい、経時にわたり、良好な温度測定を行うことができないという課題がある。
【0005】
また、従来、劣化した熱電対を交換する際は、ゼーベック係数Sが同じ熱電対を用意する必要があり、利便性が悪いという課題もあった。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、経時わたり良好な温度測定を行うことができ、かつ、利便性を向上することができる温度測定装置およびゼーベック係数算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、熱電対と、上記熱電対の冷接点の温度を測定する冷接点温度測定手段と、上記熱電対の出力値と、上記冷接点温度測定手段の測定結果と、ゼーベック係数とに基づいて測定対象物の温度を測定する温度測定装置において、上記冷接点を加熱する加熱手段と、上記加熱手段で冷接点を加熱し、上記冷接点の温度が第1温度ときの上記熱電対の出力値と、上記第1温度とは異なる第2温度ときの上記熱電対の出力値とを検出し、上記第1温度、上記第1温度ときの上記熱電対の出力値、上記第2温度および上記第2温度ときの上記熱電対の出力値に基づいて、上記ゼーベック係数を算出するゼーベック係数算出手段を備えたことを特徴とするものである。
【0008】
本発明によれば、第1温度と、冷接点の温度が第1温度のときの熱電対の出力値と、第2温度と、冷接点が第2温度のときの熱電対の出力値とに基づいて、ゼーベック係数を算出する。冷接点の温度が第1温度のときの熱電対の出力値(熱起電力)をΔV1とすると、次の式が成り立つ。
ΔV1=S×(t2−t1a)・・・・(1)
上記t1aは、冷接点の第1温度であり、上記t2は、温接点の温度(測定対象物)の温度である。
また、冷接点の温度が第2温度のときの熱電対の出力値(熱起電力)をΔV2とすると、次の式が成り立つ。
ΔV2=S×(t2−t1b)・・・・(2)
上記t1bは、冷接点の第2温度である。
上記ΔV1、上記ΔV2、上記t1a、上記t1bは、既知であるので、上記式(1)、上記式(2)の連立方程式を解くことにより、ゼーベック係数Sを求めることができる。また、上記式(1)、上記式(2)の連立方程式を解くことにより、測定対象物の温度t2も求めることができる。これにより、測定対象物の温度測定時におけるゼーベック係数Sを求めることができる。その結果、熱電対が経時変化して特性が変化したときのゼーベック係数Sで、測定対象物の温度t2を求めることができ、精度の高い温度測定を行うことができる。また、交換する熱電対のゼーベック係数Sが、交換前の熱電対のゼーベック係数Sと異なっても、精度よく、測定対象物の温度t2を測定することができ、装置の利便性を高めることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱電対が経時変化して特性が変化しても、良好に測定対象物の温度を測定することができる。また、異なるゼーベック係数の熱電対を交換することができ、装置の利便性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本実施形態の温度測定装置のシース部の概略構成図。
【図2】同温度測定装置の温度計測部の概略構成図。
【図3】同温度計測部の基板の概略構成図。
【図4】温度測定装置の制御ブロック図。
【図5】時間推移における相変化物質の温度変化と、冷接点温度測定部の抵抗変化とを示す特性図。
【図6】相変化物質を加熱するときに冷接点温度測定部に流す電流に対する温度変化及び冷接点温度測定部の抵抗値変化を示す特性図。
【図7】冷接点温度測定部の抵抗値−温度特性を示すグラフ。
【図8】温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出および測定対象物の温度測定のタイミングチャート。
【図9】温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出および測定対象物の温度測定のフローチャート。
【図10】変形例1の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図11】変形例2の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図12】図11のA−A断面図。
【図13】変形例3の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の一例を示す概略平面図。
【図14】変形例3の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の他の例を示す概略平面図。
【図15】図14のB−B断面図。
【図16】異なる相転移温度の2つの相変化物質において時間推移に対する温度変化を示す特性図。
【図17】変形例3の温度測定装置の温度キャリブレーションのタイミングチャート。
【図18】変形例3の温度測定装置の温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャート。
【図19】冷接点温度測定部の抵抗値−温度特性を示すグラフ。
【図20】変形例4の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図21】変形例4の温度測定装置の制御ブロック図。
【図22】相変化したときの相変化物質の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムについて説明する図。
【図23】相変化したときの相変化物質の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムの他の構成例について説明する図。
【図24】相変化したときの相変化物質の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムのさらに他の構成例について説明する図。
【図25】変形例5の温度測定装置の冷接点が設けられた基板の概略平面図。
【図26】図25のD−D断面図。
【図27】変形例5の温度測定装置の制御ブロック図。
【図28】変形例5の温度測定装置の温度キャリブレーションのタイミングチャート。
【図29】変形例5の温度測定装置の温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した温度測定装置の一実施形態について説明する。
図1は、温度測定装置100のシース部101の概略構成図であり、図2は、温度測定装置100の温度計測部110の概略構成図であり、図3は、温度計測部110の基板1の概略構成図である。
温度測定装置100は、熱電対の温接点を備えたシース部101と、冷接点を備えた温度計測部110とを有している。図1に示すように、温度測定装置100のシース部101は、金属保護管102(シース管)内に第1熱電材料103aと第2熱電材料103bとが接合された温接点Wを備えた熱電対103を有しており、セラミックなどの無機物質104が高圧充填されている。熱電対103の第1熱電材料103aの端部113aと、第2熱電材料103bの端部113bは、金属保護管102から露出している。
【0012】
図2に示すように、温度計測部110は、本体ケース内にベース材2と、電気絶縁層3とからなる図3に示す基板1を有している。基板1には、上記熱電対103の第1熱電材料103aと同じ熱電材料で構成された第1接続電極10と、上記熱電対103の第2熱電材料103bと同じ熱電材料の構成された第2接続電極11とを備えている。この第1接続電極10および第2接続電極11は、基板1の略中央部まで延びており、そこで、Al、Ni、Siなどの金属材料などの導電性材料からなり、信号処理回路部20と接続する回路接続電極7と接合されており、熱電対の一対の冷接点Cを形成している。
【0013】
第1接続電極10の冷接点と、第2接続電極11の冷接点との間には、冷接点の温度を測定する冷接点温度測定手段としての冷接点温度測定部5と、温度キャリブレーションのための相変化物質6とが図の2点鎖線Aを基準線として線対称、かつ、2点鎖線Bを基準線として線対称に配置されている。このように、冷接点温度測定部5と、相変化物質6とを一対の冷接点の間に対称配置することにより、一対の冷接点の温度を高精度に測定することができる。
【0014】
冷接点温度測定部5は、Pt、NiCr、SiC,Cなどの温度依存性を持つ抵抗体であり、信号処理回路部20でこの抵抗体の抵抗値を求めることにより、温度が検知される。また、この実施形態においては、この抵抗体からなる冷接点温度測定部5を発熱させて相変化物質6を加熱する加熱手段としての機能を有している。
【0015】
温度キャリブレーションの標準物質である相変化物質6は、狭い温度範囲を再現性良く高い精度で相転移するものであり、相転移前後において、温度(熱)、電気抵抗値、熱容量、粘性(流動性)、質量、固有振動数、誘電率いずれかの変化を伴うものである。本実施形態においては、その変化を検出することで、相変化物質6の相変化を検出する。相変化物質6はある温度で相転移する物質であればよい。特に、高精度に温度が決められている国際温度目盛として定められる温度を示す物質を用いれば高精度にキャリブレーションでき、好ましい。また、相変化物質6としては、固体と液体、液体と気体などの間で再現性よく可逆的に相転移する条件や材料を選択することが好ましい。これにより、いつでも、温度キャリブレーションを行い、いつでも精度が維持された温度測定が可能となる。また、高精度にキャリブレーションするためには、相変化物質6は、利用する温度に近い相転移温度を有するものを用いるのが好ましい。また、相変化物質6としてパラフィンや酢酸ナトリウムなどを用い、既知の温度における過冷却温度に基づいて、温度キャリブレーションを行ってもよい。
【0016】
相変化物質6の(熱)、粘性(流動性)や固有振動数の変化を検出して、相変化物質6の相変化を検出する場合は、次の材料を好適に用いることができる。すなわち、国際温度目盛ITS―90の定義定点であるGa:29.7646℃、In:156.5985℃、Sn:231.928℃、Zn:419.527℃、Al:660.323℃、Ag:961.78℃、Au:1064.18℃、Cu:1084.62℃などである。これらの材料は、融点(凝固点)が、特に高精度であり、好ましい。また、Bi:271.3 ℃や合金であるSn−Zn、Sn−Agや、Bi−Sn合金は混合比率によって130℃から170℃の範囲の加熱に際して、特定温度にて溶融させることができる。
【0017】
また、相変化物質6の相転移を、質量や熱容量の変化で検出する場合は、酸化物であるBi2O3、In2O3、Sb2O3、MoO3、P2O5などは固体から気体へ既知の狭い温度範囲で相転移するので、相転移温度における質量や熱容量の変化を良好に検知することができ、好ましい。
【0018】
また、相変化物質6の相転移を、電気伝導度の変化で検出する場合は、CTRサ−ミスタにも用いられているV2O5が好ましい。V2O5は、の結晶の構造変化による相転移が生じる相転移温度(80℃)よりも低いときは、単斜晶系で、抵抗が負の温度係数を持った半導体であるが、相転移温度(80℃)を超えると、ルチル構造・正方晶系となり、電気伝導度が2桁増加(抵抗が急激に減少)する。よって、相変化物質6の相転移を、電気伝導度の変化で検出する場合、相変化物質6として、V2O5を用いることにより、相変化物質6の相転移を良好に検出することができる。また、チタン酸バリウムを主成分とするPTCサ−ミスタも好適である。PTCサ−ミスタは、キュリー温度を超えると、結晶系は正方晶系から立方晶系へと相転移するため、それにともなって電気抵抗値が急激に上昇する。このように、既知の相転移温度で結晶性の変化に伴う電気伝導度の変化を生じる材料を、相変化物質6として用いることにより、相変化物質6の相転移を、電気伝導度の変化で良好に検出することができる。
【0019】
また、相変化物質6の相転移を、誘電率の変化で検出する場合、光学的に相変化物質6の相転移を検出する場合、および、固有振動数の変化で検出する場合は、相変化物質6として、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3)を好適に用いることができる。タンタル酸ニオブ酸カリウムは、相転移温度にて結晶の構造相転移を生じ、誘電率と二次電気光学定数(Kerr定数)が最大となり、固有振動数が相転移温度(35.6℃)付近で急激に変化する。よって、相変化物質6の相転移を、誘電率の変化を検出する場合、光学的に相変化物質6の相転移を検出する場合、および、固有振動数の変化を検出する場合は、相変化物質6として、タンタル酸ニオブ酸カリウム(KTa1-xNbxO3)を用いることにより、良好に相変化物質6の相転移を検出することができる。
【0020】
基板1のベース材2は、Al、Ni、Siなどの金属材料などの導電性材料で構成される。電気絶縁層3は、相変化物質6の相転移温度よりも低いと、相転移してしまうので、相変化物質6よりも高い相転移温度の材料を選択する必要があり、SiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性材料が用いられる。本実施形態においては、導電性材料で形成されたベース材2上に形成された電気絶縁層3上に、第1、第2接続電極10、11、冷接点温度測定部5、相変化物質6などを設けているが、ベース材2をガラスやセラミックなど電気絶縁性材料で構成した場合は、ベース材2上に第1、第2接続電極10、11、冷接点温度測定部5、相変化物質6などを設けてもよい。
【0021】
電気絶縁層3はCVD、スパッタリングやゾルゲル法および各種薄膜製造方法により成膜する。その電気絶縁層3上にフォトリソグラフにより第1、第2接続電極10、11、冷接点温度測定部5、信号処理回路部20の回路などをパターン形成する。また、形成される冷接点温度測定部5、第1、第2接続電極10、11、信号処理回路部20の回路などの導電性、相変化物質6の相転移に伴う液化流動性、周囲雰囲気との化学反応などを考慮して、適宜、部材を電気絶縁層3で覆って保護するのが好ましい。例えば、冷接点温度測定部5や相変化物質6が、相変化物質6を加熱するときの熱により高温度になるため表面が周囲雰囲気により酸化したり腐食したりする場合、耐久性を高めるために、冷接点温度測定部5や相変化物質全体を耐熱性の酸化物や窒化物の電気絶縁層3で被覆し不活性化(パッシベーション)する。具体的には、金属材料などの相変化物質6の場合、相変化物質6が表面に露出していると、周囲雰囲気によって金属酸化物に変化して、相転移温度が変化するおそれがある。また、相変化物質6が液化する場合は流動変形によって、温度分布が変わるおそれがある。その結果、これらは相転移を繰り返すと再現性が得られない場合がある。従って、相変化物質6が周囲雰囲気により化学変化するのを防止するために相変化物質6を周囲雰囲気に接しないように電気絶縁層3でパッシベーションしたり、相変化物質6が液化する場合の流動変形を防止するため相変化物質6を電気絶縁層3で包囲したりする。さらに、国際温度目盛の定義定点を用い高精度にキャリブレーションする場合には、標準気圧下(10.1325Pa)にて相変化物質6の凝固点(融点)を検出する必要がある。相変化物質6は、上述したように、SiO2、Si3N4、Al2O3等の耐熱性材料からなる耐熱性電気絶縁層3を被覆した剛性を有する構造にすることにより、耐熱性電気絶縁層3の内部は一定圧力に維持される。これにより、周囲雰囲気の気圧が変化しても、相変化物質6A,6Bが影響を受けず後述する温度キャリブレーションの精度を高くすることができる。
【0022】
また、半導体微細加工のフォトエッチング技術によって電気絶縁層3上にパターン形成する場合には積層段差が加工寸法精度に影響を与える。よって、冷接点と冷接点温度測定部5と相変化物質6とをそれぞれ離間させて隣接配置する場合は、並列に同一平面上に配置する。これにより、積層段差を小さくし精度ばらつきが小さくできる。また、冷接点温度測定部5と相変化物質6との間に間隔ができ、冷接点温度測定部5と相変化物質6とは電気的に絶縁され、相変化物質6が導電性を有する場合であっても冷接点温度測定部5との電気的影響をなくせる。
【0023】
また、図2、図3に示すように、ベース材2の電気絶縁層3に形成された冷接点C、相変化物質6、冷接点温度測定部5が設けられた領域22(以下、計測領域という)と対向する箇所は、エッチング処理により除去され、空洞部21となっている。これにより、冷接点C、冷接点温度測定部5、相変化物質6が形成された電気絶縁層3の計測領域22は、ベース材2と非接触となるので、冷接点温度測定部5、相変化物質6付近の熱容量を少なくすることができる。これにより、冷接点温度測定部5で発熱させて、すばやく相変化物質6を加熱することができる。また、測定領域の熱容量が少ないので、冷接点温度測定部5の温度応答を鋭敏にすることができ、冷接点Cの温度や、相変化物質6の温度を精度よく測定することができる。
【0024】
図2に示すように、温度計測部110のケース111には、シース部101が、温度計測部110から抜き差し可能な、ソケット上の接続口111aを有している。また、ケース111の第1、第2接続電極の接続部10a,10bと対向する箇所には、加圧板バネ112が設けられている。加圧板バネ112には、接続口111aから差し込まれた熱電対の第1熱電材料の端部113aと、第2熱電材料の端部113bとが突き当る突き当て部112aと、第1、第2熱電材料の端部113a,113bの第1、第2接続電極の接続部10a,10bと対向面と反対側の面を加圧する加圧部112bと有している。
【0025】
また、ケース111には、ケース111に対してスライド可能に設けられたスライドノブ114が設けられている。スライドノブ114には、加圧板バネ112に当接して、加圧板バネ112を、基板側へ押圧する押圧突起114aが設けられている。
【0026】
ケース111の接続口111aに熱電対の第1熱電材料の端部113aと、第2熱電材料の端部113bとを差し込んでいくと、第1、第2の熱電材料の端部113a,113bが、加圧板バネ112の突き当て部112aと突き当たり、第1熱電材料の端部113aが、第1接続電極の接続部10aと対向し、第2熱電材料の端部113bが、第2接続電極の接続部11aと対向する。次に、スライドノブ114を、図中右側へスライドさせると、スライドノブ114の押圧突起114aが、加圧板バネ112と当接して、加圧板バネ112を基板側へ押圧する。加圧板バネ112が押圧突起114aに押圧されると、加圧板バネ112が基板側に撓んで、加圧板バネの加圧部112bが、第1、第2の熱電材料の第1、第2接続電極の接続部と対向面と反対側の面を加圧する。これにより、第1熱電材料の端部113aが、第1接続電極の接続部10aに当接し、第2熱電材料の端部113bが、第2接続電極の接続部11aに当接した状態で、シース部101が、温度計測部110に固定される。
【0027】
シース部101を温度計測部110から取り外すときは、スライドノブ114を図中左側(シース部側)へスライドさせることにより、第1、第2の熱電材料の端部113a,113bの基板側への加圧が解除され、容易に第1、第2の熱電材料の端部113a,113bを、接続口111aから抜き出すことができる。
【0028】
また、ベース材2がSiであれば、信号処理回路部20の各回路を集積しやすい。例えば、Siベース材を熱酸化させることにより表面にSiO2を形成するか、Siベース材2上にCVDやスパッタリングによりSiO2、Si3N4、Al2O3等の単層または複層の電気絶縁層3を形成する。次に、ポリシリコン層および酸化膜を形成後、酸化膜をマスクとしてポリシリコン層に冷接点温度測定部5と信号処理回路部20の回路となる不純物拡散領域を形成する。次に、電気絶縁層3上にAl(アルミ)回路接続電極7、第1、第2接続電極10,11、相変化物質6などをCVD、スパッタリングやゾルゲル法および各種薄膜製造方法により成膜、フォトリソグラフによりパターン形成する。この場合、同一のSiベース材2、電気絶縁層3、ポリシリコン層、酸化膜および配線材料によりCMOS素子構造として、同一のチップ内に周辺回路を集積することができる。また、SOI(Si On Insulator)構造の基板を用いる場合は、BOX層を電気絶縁層3とし、SOI層に冷接点温度測定部5と信号処理回路部20の回路となる不純物拡散領域を形成する。次にBOX層上に回路接続電極7、第1、第2接続電極10,11、相変化物質6などをCVD、スパッタリングやゾルゲル法および各種薄膜製造方法により成膜、フォトリソグラフによりパターン形成する。このように、Siベース材2、BOX層やSOI層によりCMOS素子構造として、同一のチップ内に周辺回路を集積することができる。
【0029】
冷接点温度測定部5と信号処理回路部20の回路に設けられる冷接点温度測定部5の温度較正を行うためのプログラムや、熱電対による温度測定を行うためのプログラムなどの制御プログラムを記憶した記憶メモリ(P-ROM)を、相変化物質6と同じ材料からなる相変化記憶メモリ(Ovonic Unified Memory)としてもよい。この相変化メモリは、急速な熱変化によって結晶相をアモルファス相に遷移させることによって、情報を記憶させるものである。具体的には、相変化メモリを構成する相変化物質をヒーターで加熱して冷却するときの温度と時間を制御することで、結晶状態あるいはアモルファス状態を作る。結晶状態のときは、電気抵抗値が低く、アモルファス状態のときは、電気抵抗が高くなる。この電気抵抗値の違いを用いて、情報を読み出すことができるのである。また、レジスタ等の記憶部にも上記相変化メモリを用いてもよい。このように、信号処理回路部20の記憶メモリとして、相変化物質6と同一の材料からなる相変化メモリを用いることにより、相変化部と、信号処理回路部20の記憶メモリとを同時にパターン形成することができ、製造工程を簡略化することができる。
【0030】
また、図3に示すように、電気絶縁層3の冷接点C、冷接点温度測定部5、相変化物質6が設けられた計測領域22の周囲には、貫通孔9が設けられている。これにより、冷接点温度測定部5で相変化物質6を加熱する際の熱が、計測領域以外へ伝播するのを抑制することができ、相変化物質6を効率よく加熱することができる。
【0031】
また、信号処理回路部20には、熱電対の出力値に基づいて、測定対象物の温度を測定するためのインターフェイス、制御回路、レジスタ、ΔΣA/D、発信回路などを備えている。また、基板1の図中左側の端部には、アドレス入力用端子、GND用端子、クロック入力用端子、データ入出力用端子、電源入力用端子などの各端子が設けられている。端子8は、例えば、図2に示すように、配線ワイヤ12、リードピン13を介して、電源や外部装置などに接続されている。このように、信号処理回路部20を冷接点Cが設けられた基板と同一基板に形成することで、冷接点温度測定部5、熱電対からの信号をΔΣA/Dへ電送させる配線長を短くでき、ノイズを受け難く高精度に冷接点Cの温度測定ができる。
【0032】
図4は、温度測定装置100の制御ブロック図である。
信号処理回路部20は、冷接点温度測定部5の温度キャリブレーションを行う温度較正手段としての機能、熱電対103の熱起電力を検出して、測定対象物30の温度を計測する機能、熱電対103のゼーベック係数を算出する機能などを有している。
図4に示すように、信号処理回路部20は、冷接点温度測定部5に交流バイアスを印加するための電源201と発振回路208を有している。また、冷接点温度測定部5の抵抗値を検出する抵抗値検出部202、相転移温度とそのときの冷接点温度測定部5の抵抗値などを記憶するため記憶手段たるレジスタ203、測定対象物30の温度計測を行うための熱起電力電圧検出部204、アナログ信号をデジタル信号に変換するためのΔΣA/D変換器205、ゼーベック係数Sを算出するためのゼーベック係数算出手段としてのゼーベック係数算出回路206、ゼーベック係数S、冷接点Cの温度、熱起電力などに基づいて、測定対象物の温度を計測する温度変換部207、各回路を制御する制御回路209などを有している。
【0033】
制御回路209からキャリブレーション実行の信号が、電源201に入力されると、加熱部としての冷接点温度測定部5が発熱する。同時に、冷接点温度測定部5の抵抗値が抵抗値検出部202で算出され、時刻と冷接点温度測定部5の抵抗値をレジスタ203に収納する。そして、冷接点温度測定部5の抵抗値によって相変化物質6の相転移を検出し、その時の冷接点温度測定部5の抵抗値を相変化物質6の既知の相転移温度として、温度依存性を示す関係式を求め、レジスタ203に記憶する。
【0034】
制御回路209から温度測定実行の信号が、電源201に入力されると、冷接点温度測定部5の抵抗値が抵抗値検出部202で算出され、算出された抵抗値と、先の温度依存性を示す関係式とを用いて、冷接点温度測定値として温度変換部207に出力される。また、熱起電力電圧検出部で検出された熱起電力が、温度変換部に出力される。温度変換部207は、後述するゼーベック係数算出回路により算出されたゼーベック係数Sと、熱起電力とに基づいて、温接点と冷接点との温度差を求める。次いで、求めた温接点と冷接点との温度差と、冷接点温度測定部5で測定された冷接点温度とに基づいて、温接点温度(測定対象物)の温度が求められ、温度測定値として、出力される。
【0035】
また、制御回路209からゼーベック係数算出実行の信号が、電源201に入力されると、加熱部としての冷接点温度測定部5を発熱させ、冷接点温度を予め決められた第1の温度に加熱する。冷接点温度測定部5の抵抗値が抵抗値検出部202で算出され、算出された抵抗値と、先の温度依存性を示す関係式とを用いて、冷接点温度が算出され、算出された冷接点温度が、上記第1の温度となったら、熱起電力電圧検出部204で熱電対103の熱起電力を検出する。次に、加熱部としての冷接点温度測定部5を発熱させ、冷接点温度を予め決められた第1の温度とは異なる第2の温度に加熱する。次に、算出された冷接点温度が、上記第2の温度となったら、熱起電力電圧検出部204で熱電対103の熱起電力を検出する。そして、第1の温度t1a、このときの熱起電力ΔV1から得られる下記式(a)の関係式、第2の温度t1b、このときの熱起電力ΔV2から得られる下記式(b)の関係式との連立解から、ゼーベック係数Sを算出する。
ΔV1=S×(t2−t1a)・・・(a)
ΔV2=S×(t2−t1b)・・・(b)
なお、上記t2は、温接点Wの温度である。
【0036】
次に、本実施形態の温度測定装置100における相変化物質の相転移を用いたキャリブレーションの原理について概説する。ここでは相変化物質の相転移を相変化物質の温度(熱)変化で検出する場合について、説明する。
図5は時間推移における相変化物質の温度変化と、冷接点温度測定部5の抵抗変化とを示す特性図である。図5に示すように、相変化物質6を加熱していき、相変化物質6が相転移温度(融点(凝固点):Mpa)になると吸熱反応が生じる。相変化物質が固体であれば温度が上がっていくと相転移温度にて液体となりはじめ、全てが液体となる期間は相転移温度MPaを維持し、全てが液体となった以降は再び温度が上昇する。そのため、冷接点温度測定部5の電気抵抗値が不連続な傾向となる部分が出現する。すなわち、図5に示すように、冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2のとき、温度が相転移温度であると判定できる。よって、温度依存性を有する抵抗体である冷接点温度測定部5の抵抗値を測定しておき、測定抵抗値が抵抗値R2となったときの温度を既知の相転移温度とする温度較正を行う。このように、相転移温度と電気抵抗値との関係が1対1の関係となり、この関係を用いることによりキャリブレーションを行うことができる。
【0037】
相変化物質6を加熱する加熱部(本実施形態においては、冷接点温度測定部5)の熱容量を小さくし、かつ均一な温度領域に形成することにより、相変化の時点をより正確に検出できる。また、本実施形態においては、相変化物質6を加熱する加熱手段として、冷接点温度測定部5を用いている。相変化物質6を加熱するときは、冷接点温度測定部5にジュール熱が生じるような大きな電流を冷接点温度測定部5に流す。図5に示すように、相変化物質6が固体から液体へ相転移が発生すると、相変化物質6が吸熱反応を示し、相変化開始から終了まで温度が変化しないので温度が維持され、冷接点温度測定部5でもある抵抗体の電気抵抗値の増加傾向が平行状態へ変化する。相変化物質6の転移熱量(潜熱)が大きく、検出領域全体の熱容量に対して相変化物質6の熱容量が占める割合が大きいほど、この吸熱反応の時間(温度が変化しない時間)を長くすることができ、確実に相変化物質6の相変位を検出することができ、好ましい。信号処理回路部20の抵抗値検出部は、冷接点温度測定部5に印加した電圧値と、冷接点温度測定部5に流れた電流値とから、時刻T0の冷接点温度測定部5の電気抵抗値と、時刻T1の冷接点温度測定部5の電気抵抗値とを推移データとして記憶する。そして、時刻T0の電気抵抗値と時刻T1の電気抵抗値とから、抵抗値Rと時刻Tとの関数(一次関数:R=aT+b)が演算される。この関数により求められた時刻T1後の抵抗値と、測定した時刻T1後の抵抗値Rとを比較していく。すると、時刻T2後で関数にフィットしないデータが生じ、相変化物質6が相転移したことを検知することができる。
【0038】
相変化物質6の相転移を検知したら、冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2が既知の温度Mpaとしてメモリに保存し、図7に示すような温度依存性を示す関係式を補正する。冷接点温度測定部5で、冷接点の温度を測定するときは、冷接点温度測定部5に対しジュール発熱させないように微弱な電流を供給して、そのときの冷接点温度測定部5の電気抵抗値を測定する。そして、メモリに記憶されている図7に示すような温度依存性を示す関係式と、冷接点温度測定部5の既知の抵抗温度係数TCRとを用いることによって、冷接点温度測定部5の抵抗値から、温度を検出する。
図7に示す温度依存性を示す関係式:(抵抗値R、温度S、温度係数(TCR)α
R=R0*(1+α*S)・・・・(式1)
例えば、温度測定部が白金抵抗体の場合、温度係数(TCR)αは、α=3.9083E−03(0℃〜850℃)となる。
温度キャリブレーションにおいては、上述の抵抗値R2と温度MPaとの関係に基づいて、上記R0が補正される。
【0039】
また、本実施形態の温度の実用に必要な精度は、0〜850℃の範囲で±0.1℃の精度で十分であるので、下記式の温度依存性を示す関係式のβ×S2を0として線形な一次関数を、温度依存性を示す関係式として用いているが、下記式に示す2次関数の温度依存性を示す関係式を用いてもよい。下記式に示す2次関数の温度依存性を示す関係式を用いることで、0〜419.527℃の範囲で±0.01の精度を得ることができ、抵抗値−温度特性の精度を更に高めることもできる。
R=R0*(1+α*S+β*S2)・・・・(式)
例えば、白金抵抗体の温度係数(TCR)は
α=3.9083E−03、β=−5.7750E−07(0℃〜850℃)
【0040】
図6は、相変化物質6を加熱するときに冷接点温度測定部5に流す電流に対する温度変化及び冷接点温度測定部5の抵抗値変化を示す特性図である。この図6においては、相変化物質6が液体から気体に相変化する例であり、熱容量の変化で相転移を検知する例である。図6に示すように、冷接点温度測定部5へ流す電流値を増加させ、沸点Bpに達した時に相変化物質6が相転移する。相変化物質6が液体から気体へ既知の温度(昇華点又は沸点:Bp)で相転移すると、相変化物質6は蒸散が完了するまで、吸熱反応により温度上昇しない不連続な特性として現れる。しかし、蒸散により相変化物質6の質量が減少してゆくため、上記温度上昇しない不連続な特性は、図6に現れないほど、ごく短時間である。このため、相変化物質6が液体から気体に相変化する場合は、相変化物質6が固定から液体へ相変化する場合のように、吸熱反応により温度上昇しない不連続な特性を検出することは難しい。そこで、相変化物質6が液体から気体に相変化する場合は、蒸散前の温度上昇と、蒸散後の温度上昇の違いに基づいて、相転移温度を検知する。具体的には、相変化物質6が蒸散すると、検出領域の温度測定部周辺の熱容量が相変化物質の分減少する。相変化物質の蒸散により熱容量が減少することにより、温度上昇および冷接点温度測定部5の増加量(傾き)が、相変化物質6が蒸散する前に比べて大きくなり、図6に示すように、温度(電気抵抗値)は、不連続な特性として顕著に現れるので、この不連続開始点(ごくわずかな温度上昇しない領域における後端)を検出する。よって、この場合も、相変化物質加熱直後に得られたデータから、冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rと時刻Tの関数(一次関数:R=aT+b)を演算し、この関数にフィットしないデータが生じれば相変化物質6が相転移したことを検知することができる。相変化物質6の相転移を検知したら、冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2が既知の温度Mpaとしてメモリに保存する。冷接点温度測定部5で、冷接点の温度を測定するときは、冷接点温度測定部5に対しジュール発熱させないように微弱な電流を供給して、そのときの冷接点温度測定部5の電気抵抗値を測定する。そして、上述同様、温度キャリブレーションにより補正された温度依存性を示す関係式を用いて、冷接点の温度が演算される。
【0041】
図8は、温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出および測定対象物の温度測定のタイミングチャートであり、図9は、フローチャートである。
所定期間経過すると、制御回路209からキャリブレーション実行の信号が、出力される。キャリブレーション実行の信号が出力されたら(S1のYES)、レジスタ203に記憶されている前回のキャリブレーションで検出された相転移温度MPaのときの冷接点温度測定部5の電気抵抗値R2を消去する(S2)。次に、冷接点温度測定部5にバイアスを印加する電源201が起動し(S3)、冷接点温度測定部5に相変化物質を加熱するための加熱電流Icが印加され、相変化物質6が加熱される。また、抵抗値検出部202で電圧値Vcを検出して、抵抗値が算出され、算出された抵抗値は、レジスタ203に記憶される。また、算出した抵抗値と、これよりもひとつ前に算出した抵抗値とから差分値ΔRを算出する(S5)。
【0042】
図8に示すように、時刻T2において、相変化物質6が相変化し冷接点温度測定部5の抵抗値Rの差分値(時間微分)ΔR=0となる。制御回路209は、算出したΔRが、0か否かをチェックする(S6)。差分値ΔRが0であったら(S6のYES)、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raに設定し(S7)、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raとに基づいて、温度依存性の関数を求めレジスタ203に記憶する(S8)。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにして、温度キャリブレーションが終了する。
【0043】
このように、本実施形態においては、冷接点温度測定部5、抵抗値検出部202、制御回路209で相転移検出手段が構成されており、制御回路209で温度較正手段が構成されている。
【0044】
温度キャリブレーションが終了したら、フラグが立ち、冷接点の温度が、常温に戻ったタイミングで、制御回路209からゼーベック係数算出実行の信号が出力される。経時使用により、第1熱電材料103a、第2熱電材料103bが、酸化したり、金属構造が変化したりして熱電対103のゼーベック係数Sが、変動する。このため、初期から同じゼーベック係数Sを用いた場合、経時使用により、測定対象物の温度測定値に誤差が生じてしまう。よって、所定のタイミングで、ゼーベック係数Sを算出して、第1熱電材料103a、第2熱電材料103bの劣化状態に対応したゼーベック係数Sを算出する(S9)。
【0045】
制御回路209からゼーベック係数算出実行の信号が出力されると、冷接点温度測定部5にバイアスを印加する電源201が起動し、冷接点を第1の温度t1aに加熱するための加熱電流が印加される。抵抗値検出部202で抵抗値が算出される。次に、温度依存性の関数と算出された抵抗値とから、冷接点温度を算出する。算出した冷接点温度が第1温度t1aであったら、熱起電力電圧検出部で、熱電対の熱起電力電圧値を検出し、ΔV1としてレジスタに記憶する。次に、冷接点温度測定部に印加する加熱電流を上げて、冷接点を第1温度より高温の第2温度t1bに加熱する。次に、抵抗値検出部202で抵抗値を算出し、温度依存性の関数と算出された抵抗値とから、冷接点温度を算出する。算出した冷接点温度が第2温度t1bであったら、熱起電力電圧検出部204で、熱電対の熱起電力電圧値を検出し、ΔV2としてレジスタ203に記憶する。そして、第1温度t1aと、このときの熱起電力ΔV1とから上記関係式(a)を求め、第2温度t1bと、このときの熱起電力ΔV2とから上記関係式(b)を求め、上記式(a)と式(b)との連立解から、ゼーベック係数Sを算出し、算出したゼーベック係数Sを、レジスタ203に記憶し、ゼーベック係数算出処理が終了する。
【0046】
なお、図8に示すように、冷接点を第1温度にする制御を開始してから、冷接点が第2温度のときの熱起電力を検出するまでの時間(時刻T6−時刻T4)は、1.0μsec程度であり、ごく短時間である。よって、図8に示すように、ゼーベック係数算出時に、温接点の温度t2は、ほぼ同一の温度である。よって、ゼーベック係数Sは、精度よく算出できる。さらに、精度を上げたい場合は、図8に示すように、もう一度、第1温度t1aにおける熱起電力ΔV1、第2温度t1bにおける熱起電力ΔV2を検出して、熱起電力ΔV1やΔV2の値に誤差があるか否かを検証してもよい。誤差が所定値以上ある場合は、再度、ΔV1、ΔV2を検出して、前回のΔV1、ΔV2に対する誤差が所定値以下であるか否かを検証する制御を繰り返し行う。そして、前回のΔV1、ΔV2に対する誤差が所定値以下であれば、前回のΔV1、ΔV2を用いて、ゼーベック係数Sを算出するようにしてもよい。また、複数回、ΔV1、ΔV2を検出して、その平均値に基づいて、ゼーベック係数Sを算出するようにしてもよい。
【0047】
そして、制御回路209に、測定対象物の温度測定実行信号が入力される(S10)と、冷接点温度測定部5にバイアスを印加する電源201が起動し(S11)、冷接点温度測定部5に冷接点の温度を検出するための検出電流が印加され、温度依存性の関数と算出された抵抗値とから、冷接点温度が算出され、温度変換部207へ入力される(S12)。また、熱起電力電圧検出部で、熱電対の熱起電力が検出され、温度変換部207へ入力される(S13)。温度変換部207は、算出されたゼーベック係数S、熱起電力、冷接点の温度に基づいて、温接点の温度である測定対象物の温度を算出して(S14)、出力する(S15)。具体的には、冷接点の温度t1、熱起電力ΔVとすると、温接点(測定対象物)の温度t2は、次の式で求めることができる。
t2=(ΔV+St1)/S・・・・(c)
【0048】
本実施形態においては、所定のタイミングでゼーベック係数Sを算出するので、熱電対が経時使用で劣化し、ゼーベック係数Sが変化しても、精度の高い温度測定を行うことができる。また、本実施形態においては、図2に示すように、シース部101が、温度計測部110に対して、着脱可能となっている。シース部101の熱電材料の大きさや長さが異なると、ゼーベック係数Sが異なるが、本実施形態においては、ゼーベック係数Sを算出するので、ゼーベック係数Sが異なるシース部101が、温度計測部110に装着されても、精度の高い温度測定を行うことができる。これにより、用途に合わせて、熱電対の長さや大きさの異なるシース部101を温度計測部110に装着して、温度測定を行うことができ、利便性が向上する。具体的には、温度計測部110に以前装着したシース部101とはゼーベック係数が異なるシース部101が装着されたときは、ゼーベック係数S算出を実行し、ゼーベック係数Sを算出する。このときのゼーベック係数Sの算出は、手動で行うようにしてもよいし、シース部101の着脱を検知する検知手段を設け、シース部101が装着されたことを検知したら、ゼーベック係数Sの算出を実行してもよい。
【0049】
また、本実施形態においては、温度計測部110の基板1に、熱電対103の一部を構成する部分(第1接続電極10、第2接続電極11)を設けて、基板1に設けた第1接続電極10と、第2接続電極11とを回路接続電極7に接続させて冷接点を形成している。しかし、この場合、第1熱電材料103aが第1接続電極10と同一の材料、第2熱電材料103bが第2接続電極11と同一の材料のシース部101を用いる必要があり、用いることのできるシース部101が限定されてしまう。そのため、シース部101の第1熱電材料の端部113aと、第2熱電材料の端部113bとを、回路接続電極7に直接接触するように構成し、シース部101の第1熱電材料の端部113aと回路接続電極7との接続箇所、第2熱電材料の端部113bと回路接続電極7との接続箇所を冷接点にしてもよい。このように構成することにより、シース部101の第1熱電材料103a、第2熱電材料103bにも制限がなくなり、用いることのできるシース部101を増やすことができ、さらに利便性を高めることができる。この場合も、シース部101の第1熱電材料と第2熱電材料とが、以前装着されていたシース部の熱電材料と異なると、ゼーベック係数Sが異なるので、以前装着されていたシース部の熱電材料と異なる熱電材料が用いられたシース部101が温度計測部110に装着された場合は、ゼーベック係数Sを算出する。
【0050】
また、本実施形態においては、ゼーベック係数の算出と、測定対象物30の温度測定とを分けているが、上記した式(a)、式(b)の連立方程式を解くことで、ゼーベック係数だけでなく、温接点の温度を算出することができる。よって、ゼーベック係数の算出と、測定対象物30の温度測定とを同時に行ってもよい。しかし、この場合は、冷接点を第1温度に加熱して、そのときの熱起電力と、冷接点を第2温度に加熱して、そのときの熱起電力とを検出する必要があるため、測定対象物の温度が出力されるまでの時間がかかる。しかしながら、測定時の熱電対の劣化状態に対応したゼーベック係数で、測定対象物の温度が算出されるので、精度の高い温度検出を行うことができる。よって、例えば、精度の高い温度測定を行う高精度モードと、通常モードとを備えておき、高精度モードが選択された場合は、冷接点を第1温度に加熱して、そのときの熱起電力と、冷接点を第2温度に加熱して、そのときの熱起電力とを検出し、ゼーベック係数Sと、測定対象物の温度とを算出できるようにしてもよい。
【0051】
また、本実施形態においては、測定対象物30の温度測定時は、冷接点温度測定部5に検出電流を印加して、そのときの冷接点の温度を検出しているが、例えば、冷接点温度測定部に加熱電流を流し、冷接点温度を所定の温度にして、測定対象物30の温度測定を行ってもよい。特に、冷接点を相変化物質6が溶融する温度にまで加熱するのが好ましい。これは、そのとき検出される冷接点温度測定部5の抵抗値は、相変化物質が相変化する温度Mpaであるので、冷接点の温度の誤差をほぼ無くすことができる。これにより、測定対象物の温度を高精度に検出することができる。
【0052】
また、本実施形態においては、相変化物質6を基板1に設けて、相変化物質を加熱して相変化させ、相変化が起きたときの冷接点温度測定部5の出力値(抵抗値)を、既知の相転移温度とする温度較正を行うので、精度のよく冷接点の温度を検出することができる。その結果、精度よく温接点(測定対象物30)の温度を測定することができる。また、随時簡便に冷接点温度測定部5の温度キャリブレーションを実施することができるので、精度の高い冷接点温度の測定結果を維持することができる。
【0053】
また、冷接点温度測定部5のキャリブレーションを行うことができるので、冷接点温度測定部5や冷接点が設けられた基板1に信号処理回路部20を設けることができる。すなわち、従来は、信号処理回路部20も含めてひとつの基板に集積すると、冷接点温度測定部5の精度に影響する要素が多くなり、かえって冷接点温度測定部5の出力値のばらつき範囲が拡大してしまい、精度よく冷接点の温度を測定できない。また、特別な設計上の工夫や高精度の製造条件で製造することで、冷接点温度測定部5の検知結果のばらつきを抑えることができるが、規格合格品の歩留まりが低くなり、冷接点が設けられた基板と、信号処理回路部が設けられた基板とを別々に設けたものに比べて、製造コストが高くなる。しかし、本実施形態においては、信号処理回路部20の個々の回路に特性ばらつきがあって、冷接点温度測定部5の出力値にばらつきがあっても、上述した温度キャリブレーションを行うことで、精度よく冷接点の温度を測定することができる。また、特別な設計上の工夫や高精度の製造条件で製造する必要がないため、製造コストを抑えて、信号処理回路部20を、冷接点が設けられた基板に集積することができる。また、信号処理回路部20を冷接点が設けられた基板に集積することで、信号処理回路部の各回路に接続するための配線を短くできノイズを受け難く高精度に相変化物質の相転移や、冷接点の温度測定、測定対象物の温度測定を行うことができる。
【0054】
次に、本実施形態の変形例について、説明する。
【0055】
[変形例1]
図10は、変形例1の温度測定装置100Aの冷接点Cが設けられた基板1の概略平面図である。
図10に示すように、この変形例1の湿度測定装置100Aは、冷接点温度測定部5と、加熱部とを別々に設けたものである。図に示すように、加熱部は、温度測定部と相変化物質との間に並列配置した。また、この図において、信号処理回路部20は、省略している。
【0056】
温度キャリブレーションを実行する場合は、加熱部に加熱電流を印加して、相変化物質を加熱するとともに、冷接点温度測定部5には、微弱な検出電流を印加して、抵抗値を算出し、上記のようにΔRを求める。ゼーベック係数S算出時においても、加熱部には、加熱電流を印加して、冷接点を加熱し、冷接点温度測定部5には、微弱な検出電流を印加して、冷接点の温度を検出する。
【0057】
冷接点温度測定部5を、相変化物質を溶融するための加熱手段や、ゼーベック係数Sを算出するために冷接点を加熱手段として用いた場合、冷接点温度測定部5に大電流を印加する必要がある。その結果、冷接点温度測定部5が、エレクトロマイグレーションにより抵抗温度係数のα、βが変化し易い。そのために、冷接点温度測定部5の材料や寸法や加熱部表面へのパッシベーション膜の被覆などの条件を工夫したり、精度を維持するために温度キャリブレーションの頻度を多めにしたりする必要がある。しかし、冷接点温度測定部5とは別に加熱部を設けることにより、冷接点温度測定部5には、微弱な検出用電流しか流れないので、抵抗温度係数のα、βの変化を抑えることができ、温度キャリブレーションの頻度が少なくても冷接点温度測定部5の冷接点温度測定の安定性を保つことができる。
【0058】
[変形例2]
図11は、変形例2の温度測定装置100Bの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図であり、図12は、図11のA−A断面図である。
この変形例2の温度測定装置100は、相変化物質6を、相変化物質6を加熱する冷接点温度測定部上に積層したものである。相変化物質6が導電性材料あれば図12に示すように、電気絶縁層3を冷接点温度測定部5上に設けて、電気絶縁層3を介して相変化物質6を冷接点温度測定部に積層させる。
【0059】
また、この変形例2においても、ベース材2の計測領域22と対向する箇所を、エッチング処理により除去し、空洞部21を形成している。また、計測領域22の周囲に貫通孔9を設けた。これにより、冷接点温度測定部5で相変化物質6を加熱する際の熱が、計測領域以外へ伝播するのを抑制することができ、相変化物質6や冷接点を効率よく加熱することができる。
【0060】
相変化物質6を冷接点温度測定部5上に積層することで、相変化物質6を加熱する冷接点温度測定部5と相変化物質6とが極近接し、冷接点温度測定部5と相変化物質6との伝熱も等距離で均等になる。これにより、図3に示すように、相変化物質6を加熱する冷接点温度測定部5と相変化物質6とを並列配置したものに比べて、相変化物質6を配置する面積分削減される。よって、図3に示す構成に比べて、計測領域22の熱容量が小さくなるため、計測領域の熱応答速度が早くなる。その結果、温度キャリブレーションを迅速に行うことができる。また、冷接点温度測定部5と冷接点とを近接配置することができ冷接点の温度測定精度が高めることができる。また、冷接点を所定の第1温度、第2温度にすばやく加熱することができ、ゼーベック係数を迅速に算出することができる。
【0061】
[変形例3]
図13、図14は、変形例3の温度測定装置100Cの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図である。また、図15は、図14のB−B断面図である。
この変形例3の温度測定装置100Cは、互いに異なる相変化物質6A,6Bを、相変化物質を加熱する冷接点温度測定部5近傍に分散配置したものである。図13は、基板1に信号処理回路部20を設けており、相変化物質6A,6Bを冷接点温度測定部近傍に並列に配置したものである。
【0062】
図14、図15に示す基板1は、信号処理回路部20を設けず、2種類の相変化物質6A,6Bを、冷接点温度測定部5上に積層配置したものである。また、この図14、図15に示す基板1は、計測領域22周囲に貫通孔9を設けたものである。
【0063】
2種類の相変化物質6A,6Bは、互いの相変化温度が異なる物質である。各相変化物質6A,6Bは、互いに接触していると相互に拡散し新たな合金や化合物に変化し相変化温度が変化してしまう。そのため、異なる相変化温度の複数の相変化物質を互いに分離させて形成する。このように、相転移温度が互いに異なる2種類の相変化物質6A,6Bを用いることにより、冷接点温度測定部の抵抗温度係数TCRをメモリに記憶しておく必要がなくなる。以下に、具体的説明する。
【0064】
図16は異なる相転移温度の2つの相変化物質6A,6Bにおいて時間推移に対する温度変化を示す特性図であり、図17は、変形例3の温度測定装置100Cの温度キャリブレーションの入出力信号のタイミングチャートであり、図18は、変形例3の温度測定装置100Cの温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャートである。
【0065】
図18に示すように、キャリブレーション実行の信号が出力される(S21)と、メモリに記憶された温度依存性の関数を消去し(S22)し、冷接点温度測定部5に相変化物質を加熱するための加熱電流が印加され、各相変化物質6A,6Bが加熱される(S24)。そして、図17に示すように、時刻T2で一方の相変化物質6Aが相転移する温度(相変化物質6A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。更に、加熱電流を供給し続けて温度を上昇させると、時刻T4で他方の相変化物質6Bが相転移する温度(相変化物質6B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb(>Mpa))になる。
【0066】
このように相変化物質が2種類あるときは、以下のようにして、2種類の相変化物質6A,6Bの相変化を検知する。すなわち、固体から液体へ相転移を完了するまでは吸熱反応によって印加電力を増しても温度の上昇はなくΔR=0であるので、時刻T2において一方の相変化物質6Aは既知の相転移温度Mpaになったことを検出することができる。同様に、時刻T4において他方の相変化物質6Bは既知の相転移温度Mpbになったと検出することができる。
【0067】
上述と同様にして、ΔRを算出して(S25)、ΔRが0か否かをチェックする(S26)ΔRが、0となったら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raに設定する(S27)。さらに、加熱電流を上げていき、吸熱反応(ΔR=0)でなくなり、冷接点温度測定部5の抵抗値が上昇を開始したら、再び、ΔR=0であるか否かをチェックする(S28〜S30)。ΔRが、0となったら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbに設定する(S31)。
【0068】
次に、図19に示すように、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raと、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとに基づいて、温度依存性の関数を求め、メモリに記憶する。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにして、温度キャリブレーションが終了する(S32)。その後のゼーベック係数の算出のフロー、測定対象物の温度測定のフローは、上述と同じであるので、説明は、省略する。
【0069】
このように、2つの異なる相変化物質6A,6Bを用いて、温度キャリブレーションが行われることにより、高精度の温度目盛が付与できる。また、温度依存性の関数を求めるので、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができる。
【0070】
また、より高精度な測定値を得るためには、国際温度目盛り(ITS-90)に示されている標準物質の凝固点の中でも、温度検出範囲に対してできるだけ相転移温度が近いことが好ましい。例えば、一般電子機器に用いられているIC温度センサの測定範囲である−40から+125℃に相当する用途であれば、相変化物質6AにIn(Mpa=156.5985℃)相変化物質6BにSn(Mpb=231.928℃)を選択し、冷接点温度測定部5にPt(0℃〜850℃では線形)を用いることで、MpaからMpbまでの範囲以外の温度領域でも高精度な測定値を得ることができる。また、この変形例3では、2種類の相変化物質を6A,6B用いているが、温度依存性を示す関係式として、2次関数を用いる場合、温度係数(TCR)α、βを用いずに、温度依存性を示す関数を算出するには少なくとも、3点の異なる既知の相転移温度が必要となる。この場合は、互いの相転移温度が異なる3種類以上の相変化物質を備えればよい。
【0071】
また、上記では、異なる相転移温度の複数の相変化物質6A,6Bが混ざりあわないように構成しているが、各相変化物質を互いに接触させて新たな合金や化合物を形成させて、この合金や化合物の既知の相転移温度で、温度キャリブレーションを行ってもよい。例えば、相変化物質6AにInを、相変化物質6BにSnをそれぞれ選択し、In−Sn合金を形成させ、InとSnの混合比率により融点(凝固点)は2元合金の状態図を参照することにより得られる。そこで、例えば、Inの相変化物質6Aからなる相変化部と、Snの相変化物質6Bからなる相変化部と、相変化物質6A上に相変化物質6Bが積層された相変化部とを、冷接点温度測定部5の近傍に並列配置する。そして、温度キャリブレーションを行う際、あるいは事前に、冷接点温度測定部5で加熱して、相変化物質6Aと相変化物質6Bとを溶融させ、相変化物質6A上に相変化物質6Bが積層された相変化部において、これら2つの金属を混ざりあわせ、In−Sn合金からなる相変化物質6ABを生成する。これにより、2種類の物質で、互いの相転移温度が異なる3種類の相変化物質を、基板に形成することができる。さらに、積層厚みの比率により、InとSnの混合比率が変わり、相変化温度が変わるので、積層させる相変化物質の厚みの比率が異なる相変化部を複数設けることにより、2種類の物質で、異なる相転移温度の相変化部を更に多数形成することができる。
【0072】
[変形例4]
図20は、変形例4の温度測定装置100Dの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図であり、図21は、変形例4の温度測定装置の制御ブロック図である。
この変形例4の温度測定装置100Dは、相変化物質6を導電性とし、相変化したときの相変化物質6の抵抗値変化、電気容量変化などの電気的特性の変化を電気的に検知することで、相変化物質6の相変化を検知するものである。
【0073】
この変形例4の温度測定装置100Dにおいては、冷接点温度測定部5の近傍に一対の検出用リード線16が設けられており、この一対の検出リード線間に2つの異なる相変化温度の導電性の相変化物質6A,6Bが並列に配置され、検出リード線16間を接続している。
相変化物質としては、V2O5などの相転移すると、電気伝導度(抵抗値)や電気容量が大きく変動する物質を用いる。
【0074】
図21に示すように、信号処理回路部20には、検出リード線に検出電流を流して、抵抗値や電気容量を検出する検出部210を有している以外は、先の図4と同じである。
【0075】
この変形例4の温度測定装置100Dにおける冷接点温度測定部5の温度キャリブレーションは、次のように行う。
まず、冷接点温度測定部5に加熱電流を印加して、相変化物質6A,6Bを加熱する。また、これと同時に、検出リード線16に検出電流を印加し、検出部210で抵抗値を算出する。相変化物質6Aが相変化すると、相変化物質6Aの電気伝導度が急激に変化し、抵抗値の値が変化する。これにより、相変化物質6Aが、相変化したことを検知することができる。また、相変化物質6Aが、相変化したことを検知したら、このとき抵抗値検出部202で算出された、冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raとして設定する。
【0076】
さらに、冷接点温度測定部5により、相変化物質を加熱していくと、相変化物質6Bが相変化して、相変化物質6Bの電気伝導度が急激に変化し、検出部210で算出された抵抗値の値が変化する。これにより、相変化物質6Bが、相変化したことを検知することができる。また、相変化物質6Bが、相変化したことを検知したら、このとき抵抗値検出部202で算出された、冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとして設定する。
【0077】
すなわち、この変形例4では、検出部210で検出された抵抗値の時間微分ΔRLが、所定値以上の値となったこと制御回路209が検知したら、抵抗値検出部202で検出された冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raとしてレジスタ203に記憶する。そして、再び、検出部210で検出された抵抗値の時間微分ΔRLが、所定の値以上となったこと制御回路209が検知したら、抵抗値検出部202で検出された冷接点温度測定部5の抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとしてレジスタ203に記憶する。
【0078】
そして、変形例3と同様にして、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raと、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとに基づいて、温度依存性の関数を求め、メモリに記憶する。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにし、検出リード線16への検出電流をOFFにして温度キャリブレーションが終了する。
【0079】
上記では、相変化物質6A,6Bの相変化時の電気抵抗の変化を検出して、相変化物質6A,6Bが、相変化したことを検知しているが、相変化物質の相変化物質の電気容量変化を検出して、相変化物質6A,6Bが、相変化したことを検知してもよい。
【0080】
また、相変化したときの相変化物質6の流動(粘性)変化を電気的に検知することで、相変化物質の相変化を検知することもできる。
図22は、相変化したときの相変化物質6の流動(粘性)変化を電気的に検知するメカニズムについて説明する図である。同図では相変化物質6が固体から液体への相転移に伴う相変化物質6の流動(粘性)変化に伴う形状変化を説明している。
図22(a)に示すように、相変化物質6が固体の状態のときは、相変化物質6は、検出用リード線16a,16bに接しており、導通している。冷接点温度測定部5の加熱により、固体の相変化物質6が既知の相転移温度になると、液化によって表面張力が発生し、同図の(b)に示すように中央へ凝集する。すると、相変化物質6が、各検出用リード線16a,16bから離れ、その結果2つの検出用リード間の電気接続がOFFになる。このように、相変化物質6の導通状態を検出することで相変化物質6の相転移を検出できる。この場合、相変化物質6としては、表面張力が大きく、相変化物質6の下層との付着力が小さいものが好ましく、Snを用いるのが好適である。
【0081】
また、次のようにして、検出用リード間の電気接続をONからOFFに切り替えることもできる。
図23(a)に示すように、相変化物質6が固体ときは、相変化物質6は2つの検出リード線間にまたがって連続して配置され、検出リード間の電気接続がONとなっている。そして、冷接点温度測定部5の加熱により、固体の相変化物質6が既知の相転移温度になり液化すると、同図の(b)に示すように液化によって流動し、各検出リード16a、16bに相変化物質6が凝集し、相変化物質6が分離して、検出リード線間の電気接続がOFFになる。よって、検出リード間の電気接続がOFFとなったときの温度が既知の相転移温度となる。相変化物質6としては、表面張力が小さく、検出リード、相変化物質6の下層の電気絶縁層3との濡れ性が大きい材質のものが好ましく、Inが適する。
【0082】
上記では、相変化物質6の相変化によって、検出用リード16aと16b間の電気接続がOFFになることで、相変化物質の相転移を検知する場合について、説明したが、これとは逆に、相変化物質6の相変化によって、検出用リード16aと16b間の電気接続がOFFからONに切り替わる構成にすることもできる。
【0083】
図24は、検出用リード16aと16b間の電気接続がOFFからONに切り替わる構成を説明する図である。
図24(a)に示すように、相変化物質6が固体のときは、電気絶縁層3上の相変化物質は、2つの分離しており、相変化物質6は2つの検出リード16a,16b間にまたがって断続している。その結果、検出用リード16aと16bとの間の電気接続がOFFとなっている。冷接点温度測定部5の加熱により、固体の相変化物質6が既知の相転移温度になると、図の(b)に示すように液化によって流動し、電気絶縁層上の相変化物質6が一つとなり、相変化物質6は2つの検出リード16a,16b間にまたがって連続する。これにより、検出用リード16aと16bとの間の電気接続がOFFからONに切り替わり、相変化物質6の相転移を検出することができる。この場合も、図23の構成と同様、相変化物質6としては、表面張力が小さく、検出リード、相変化物質6の下層の電気絶縁層3との濡れ性が大きい材質のものが好ましく、Inが適する。相変化物質6が冷えて、固化するときは、相変化物質6が収縮することにより、電気絶縁層3上の相変化物質6は、再び2つの分離する。また、図22、図23の構成においては、一度、固体から液体に相変化してしまった後、再び、液体から固体に相変化物質6が相変化しても、始めの状態に戻って、検出用リード16aと16b間の電気接続がONとなることはないが、図24に示す構成においては、液体から固体に相変化物質6が相変化すると、始めの状態に戻るので、何度も温度キャリブレーションを行うことができる。
【0084】
また、相変化物質6が固体から液体に相転移することによる流動性(粘性)の変化を電気的に検知することで、相変化を検知する場合、相変化物質6を電気絶縁層で覆ってしまうと、相変化物質6の流動性を阻害して、流動変形しないおそれがある。よって、図22〜図24の構成を採用する場合は、相変化物質6は電気絶縁層を被覆せず露出させる。また、相変化物質6の量を少なくして、相変化物質6がすばやく相転移温度にまで加熱されるようにするのが好ましい。
【0085】
[変形例5]
図25は、変形例5の温度測定装置100Eの冷接点Cが設けられた基板の概略平面図であり、図26は、図25のD−D断面図であり、図27は、変形例5の温度測定装置の制御ブロック図である。
この変形例5の温度測定装置100Eは、相変化物質6A,6Bの下に圧電膜17を設けて、圧電膜17で、相変化物質6A,6Bの相変化に伴う体積変化、剛性変化、固有振動数変化などを検出して、相変化物質6A,6Bの相変化を検出するものである。
【0086】
冷接点温度測定部5に隣接して設けられた一対の圧電駆動電極18間に圧電膜17を形成し電気絶縁層3を介して相変化物質6A,6Bが積層されている。図27に示すように、信号処理回路部20には、圧電膜17からの電圧や周波数を検出する検出部211が設けられている以外は、先の図4と同じである。
【0087】
まず、圧電膜17で相変化物質6の相変化に伴う固有振動数変化を検出する方法について説明する。周期的に力の周波数を試料に加え、その応答を測定する方法、すなわちメカニカルスペクトロスコピー(動的粘弾性測定:DMA)を適用することで、相変化物質6の相変化に伴う固有振動数変化を検出することができる。具体的には、圧電膜17に交流電圧を印加して、圧電膜17を所定の周波数で振動させる。例えば、相変化物質6が相変化して固有振動数が変化したとき、相変化物質6が圧電膜17の振動に共振するような周波数で、圧電膜17を振動させる。このように、圧電膜17を振動させることにより、圧電膜17上の相変化物質6が振動し、圧電膜17に対して、相変化物質6から応力が加わり、圧電膜17から所定の交流波が出力される。相変化物質6が相転移して、固有振動数が変化すると、相変化物質6が、圧電膜17の振動に共振して、大きく振動する。その結果、相変化物質6から圧電膜17に加わる力が増加し、圧電膜17ら出力される交流波の振幅が増大する。制御回路209では、圧電膜17から出力された交流波の振幅(電圧)の時間微分値ΔVを監視し、時間微分値ΔVが0でない値をとったら、相変化物質6が相変化したことを検知することができる。上記では、相変化物質6の相変化によって、相変化物質6が圧電膜17の振動に共振させているが、これとは逆に、相変化前の相変化物質6が、圧電膜17の振動に共振するよう、圧電膜17を振動させてもよい。また、図26に示すように、相変化物質6や圧電膜17は、基板1の空洞部21上に設けているので、圧電膜17が振動しやすく、高感度で相転移を検出することができる。
【0088】
次に、圧電材料を用いた相変化物質6の体積変化や剛性変化の検知について説明する。これは、相変化物質6から圧電膜17に加わる機械的な応力による圧電膜の抵抗変化である所謂ピエゾ抵抗効果を用いて、相変化物質6の体積変化や剛性変化を検知するものである。具体的には、圧電膜に検知用の電流を印加する。相変化物質6が加熱されて、固体から液体に相変化すると、電気絶縁層3に覆われている相変化物質6の体積が増加する。これにより、相変化物質6の圧電膜に対する応力が増加し、圧電膜の抵抗値が変化する。よって、制御回路209において、電圧変化や、圧電膜の抵抗値変化を検知することにより、相変化物質6の相変化を検知することができる。一方、相変化物質6の剛性変化を検知する場合は、相変化物質6が固体から液体に相変化すると、相変化物質6の剛性が低下し、圧電膜17に加わる応力が低下する。その結果、圧電膜の抵抗値が変化するので、制御回路209において、電圧変化や、圧電膜17の抵抗値変化を検知することにより、相変化物質の相変化を検知することができる。
【0089】
図28は、変形例5の温度測定装置100Eの温度キャリブレーションの入出力信号のタイミングチャートであり、図29は、変形例5の温度測定装置100Eの温度キャリブレーション、ゼーベック係数算出、測定対象物の温度測定のフローチャートである。
この図28、図29においては、相変化物質6の相変化に伴う剛性変化による圧電膜17の抵抗値変化(電圧変化)を検出することにより、相変化を検出するものである。
【0090】
図29に示すように、キャリブレーション実行の信号が出力される(S41)と、メモリに記憶された温度依存性の関数を消去し(S42)し、冷接点温度測定部5に相変化を加熱するための加熱電流が印加され、各相変化物質6A,6Bが加熱される(S44)。また、圧電膜17に検知電流を印加し、検出部211で電圧値を検出する。そして、図28に示すように、時刻T2で一方の相変化物質6Aが相転移する温度(相変化物質6A固有の既知の値である融点(凝固点):Mpa)になる。そのとき、相変化物質6Aが固相から液相に相転移することにより、相変化物質6Aの剛性が変化し、圧電膜17に加わる応力が低下する。その結果、電圧値Vfが低下し、相変化物質6Aが相変化したことを検知することができる。
【0091】
よって、図29に示すように、電圧値Vfが変化したことを検知(S46のYES)したら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raに設定する(S47)。さらに、加熱電流を上げていくと、図28に示すように、時刻T4で他方の相変化物質6Bが相転移する温度(相変化物質6B固有の既知の値である融点(凝固点):Mpb)になる。そのとき、相変化物質6Bが固相から液相に相転移することにより、相変化物質6Bの剛性が変化し、圧電膜17に加わる応力がさらに低下する。その結果、電圧値Vfがさらに低下し、相変化物質6Bが相変化したことを検知することができる。
【0092】
よって、図29に示すように、再度、電圧値Vfが変化したことを検知(S50のYES)したら、制御回路209は、算出した抵抗値を、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbに設定する(S51)。
【0093】
次に、先の図19に示すように、相転移温度MPaにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Raと、相転移温度MPbにおける冷接点温度測定部5の電気抵抗値Rbとに基づいて、温度依存性の関数を求め、メモリに記憶する。そして、冷接点温度測定部5への加熱電流の印加をOFFにして、温度キャリブレーションが終了する(S52)。その後のゼーベック係数の算出のフロー、測定対象物の温度測定のフローは、上述と同じであるので、説明は、省略する。
【0094】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の(1)〜(21)態様毎に特有の効果を奏する。
【0095】
(1)
熱電対と、熱電対の冷接点の温度を測定する冷接点温度測定部5などの冷接点温度測定手段と、熱電対の出力値と、冷接点温度測定手段の測定結果と、ゼーベック係数とに基づいて測定対象物の温度を測定する温度測定装置において、冷接点を加熱する加熱部15などの加熱手段と、加熱手段で冷接点を加熱し、冷接点の温度が第1温度ときの熱電対の出力値と、第1温度とは異なる第2温度ときの熱電対の出力値とを検出し、第1温度、第1温度ときの熱電対の出力値、第2温度および第2温度ときの熱電対の出力値に基づいて、ゼーベック係数を算出するゼーベック係数S算出回路206などのゼーベック係数算出手段を備えた。
かかる構成を備えることで、上述したように、熱電対が経時使用で劣化し、ゼーベック係数Sが変化しても、精度の高い温度測定を行うことができる。その結果、経時にわたり、精度の高い温度測定を行うことができる。また、ゼーベック係数の異なる熱電対を用いることができ、装置の利便性を向上することができる。
【0096】
(2)
上記(1)に記載の態様の温度測定装置において、ゼーベック係数算出手段は、冷接点の温度が第1温度のときの熱電対の出力値と、冷接点の温度が上記第2温度のときの熱電対の出力値とを複数回計測し、第1温度のときの熱電対の出力値の誤差、第2温度のときの熱電対の出力値の誤差が、閾値以下のとき、ゼーベック係数を算出する。
かかる構成を備えることにより、温接点の温度が一定であることを検証して、ゼーベック係数を算出するので、精度の高いゼーベック係数を算出することができる。
【0097】
(3)
上記(1)または(2)に記載の態様の温度測定装置において、冷接点温度測定手段を、温度依存性を有する抵抗体とで構成し、冷接点温度測定手段を、加熱手段として用いた。
かかる構成を備えることで、加熱手段と冷接点温度測定手段とを別々に設けた場合に比べて、コストを安価にすることができる。また、基板の熱容量を少なくすることができ、迅速に冷接点を第1温度、第2温度に加熱することができる。
【0098】
(4)
上記(1)乃至(3)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、冷接点が設けられた基板は、ベース材上に積層された絶縁層が設けられており、絶縁層にベース材と接していない非接触領域を設け、上記非接触領域に、上記冷接点と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを設けた。
かかる構成を備えることにより、基板の上記冷接点、上記加熱手段、上記冷接点温度測定手段が配置された領域(計測領域)の熱容量を少なくなることがでる。これにより、迅速に冷接点を第1温度、第2温度に加熱することができる。
【0099】
(5)
上記(4)に記載の態様の温度測定装置において、上記絶縁層の上記非接触領域の近傍に貫通孔を設けた。
かかる構成を備えることにより、非接触領域に設けられた加熱手段の熱が、基板の非接触領域以外の箇所に伝播するのを抑制することができ、効率よく冷接点を加熱することができる。よって、迅速に冷接点を第1温度、第2温度に加熱することができる。
【0100】
(6)
上記(1)乃至(5)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、既知の相転移温度を持つ相変化物質と、温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する相転移検出手段と、相転移が起きたことを上記相転移検出手段が検出したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、既知の上記相転移温度とする上記冷接点温度測定手段の温度較正を行う制御回路209などの温度較正手段とを備えた。
かかる構成を備えることで、温度測定装置の製造工程において、温度測定装置を恒温環境槽内へ搬送して冷接点温度測定手段の温度較正を行う温度較正工程が必要なくなり、コストを抑えることができる。また、温度測定装置自身で冷接点温度測定手段の温度較正を行うことができるので、温度測定装置が取り付けられた機器から温度測定装置を取り外して、恒温環境槽内に温度測定装置を持ち込んで冷接点温度測定手段の温度較正を行う場合に比べて、随時簡便に冷接点温度測定手段の温度較正を実施することができる。これにより、冷接点温度測定手段の温度較正が必要なときに、冷接点温度測定手段の温度較正を行うことができるので、高い精度を維持することができる。このように冷接点の温度を高い精度で測定することができるので、温接点(測定対象物)の温度測定を高精度に行うことができる。
【0101】
(7)
上記(6)に記載の態様の温度測定装置において、上記冷接点と、上記相変化物質と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを同じ基板に設けた。
かかる構成を備えることにより、上記相変化物質と上記冷接点温度測定手段の温度とを、ほぼ同じにすることができ、精度よく冷接点温度測定手段の温度較正を行うことができる。また、冷接点温度測定手段の温度を冷接点の温度とほぼ同じにでき、冷接点温度測定手で、冷接点の温度を精度よく測定することができる。また、加熱手段で、冷接点および相変化物質を良好に加熱することもできる。
【0102】
(8)
上記(6)または(7)に記載の態様の温度測定装置において、上記相転移検出手段、上記温度較正手段、上記ゼーベック係数算出手段を上記冷接点が設けられた基板に設けた。
かかる構成により、上記相転移検出手段と、上記温度較正手段と、上記ゼーベック係数算出手段との配線長を短くすることができ、ノイズを受け難く高精度に相変化物質の相転移などを検出することができる。
【0103】
(9)
上記(6)乃至(8)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相転移検出手段は、上記冷接点温度測定手段が測定した温度変化に基づいて、相転移が起きたことを検出する。相変化物質が相変化すると、吸熱作用が生じたり、熱容量が小さくなったりするので、相変化するとき、温度変化が相変化前と異なる。よって、冷接点温度測定手段で温度変化を監視することにより、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。
【0104】
(10)
上記(6)乃至(8)いずれかの温度測定装置において、上記相転移検出手段は、上記相変化物質を積層させた圧電膜などの圧電体を有し、上記圧電体で上記相変化物質の体積、剛性および固有振動数のいずれかの変化を検出して、相転移が起きたことを検出する。相変化物質が相転移して、体積や剛性が変化すると、相変化物質に積層の圧電体に対する応力が変化する。その結果、圧電体の抵抗が変化する。よって、圧電体の抵抗変化を検知することにより、上記圧電体で上記相変化物質の相変化に伴う体積や剛性の変化を検知することができ、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。また、圧電体を振動させて相変化物質を振動させることで、相変化物質が相転移して、固有振動数が変化し、圧電体の振幅が変化する。よって、圧電体の振幅変化を検知することにより、上記圧電体で、相変化物質の相転移に伴う固有振動数の変化を検知することができ、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。
【0105】
(11)
上記(6)乃至(8)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質は、導電性であって、上記相転移検出手段は、上記相変化物質の電気特性の変化に基づいて、相転移が起きたことを検出する。相変化物質によっては、相変化に伴って抵抗値や電気容量などの電気特性が変化する。よって、上記相変化物質の相変化に伴う抵抗値や電気容量などの電気特性を検知することで、精度よく相変化物質の相転移を検知することができる。
【0106】
(12)
上記(6)乃至(11)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質を、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質にした。これにより、精度の高い冷接点温度測定手段の温度キャリブレーションを行うことができる。
【0107】
(13)
上記(6)乃至(12)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させた。これにより、相変化物質と加熱手段との伝熱効率が良くなり、迅速に相変化物質を相変化温度にまで加熱することができる。これにより、冷接点温度測定手段の温度キャリブレーションを迅速に行うことができる。
【0108】
(14)
上記(6)乃至(12)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に並列に配置した。上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させる場合は、加熱手段を基板に形成した後、加熱手段の上に絶縁層を積層させ、その上に相変化物質を設ける必要がある。一方、上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に並列に配置することにより、基板に加熱手段と相変化物質とを形成することができ、上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させる場合に比べて、製造工程を減らすことができ、その結果、製造コストを抑えることができる。
【0109】
(15)
上記(6)乃至(14)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記冷接点が設けられた基板に、上記相変化物質と、上記加熱手段とが設けられており、上記相変化物質を、上記加熱手段に隣接する箇所に分散配置した。これにより、各相変化物質の熱容量を少なくすることができ、迅速に相変化物質を相転移温度にまで加熱することができる。
【0110】
(16)
上記(6)乃至(15)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段と上記冷接点温度測定手段とを、一対の冷接点の間に形状と配置が対称となるように上記冷接点が設けられた基板に設けた。これにより、一対の冷接点を加熱手段で均一に加熱することができ、ゼーベック係数を精度よく算出することができる。また、冷接点の周囲の熱容量がほぼ同じとなるので、測定対象物の温度を高精度に測定することができる。
【0111】
(17)
上記(6)乃至(16)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質、上記加熱手段および上記冷接点温度測定手段のいずれかが導電性部材で構成されており、導電性部材で構成された部材を電気絶縁材で他の部材間で電気的に絶縁した。これにより、電気的な短絡によるノイズを抑制することができ、冷接点温度測定手段で高精度に冷接点の温度を測定することができる。
【0112】
(18)
上記(6)乃至(17)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記相変化物質を相転移させるときの上記加熱手段の加熱温度を、上記相転移物質の相転移温度付近にした。これにより、温度キャリブレーション時の無駄な電力消費を抑えることができる。
【0113】
(19)
上記(6)乃至(18)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、上記冷接点が設けられた基板に、互いに異なる2種類以上の相変化物質を分散配置し、上記相転移検出手段は、各相変化物質の相転移をそれぞれ検出し、上記温度較正手段は、上記相転移検出手段が検出した各相変化物質が相転移したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、各相変化物質の既知の相転移温度として上記冷接点温度測定手段の温度較正を行う。
かかる構成を備えることで、上記冷接点温度測定手段の温度依存性の関数を求めるので、上記冷接点温度測定手段として、未知の抵抗温度係数(TCR)の抵抗体材料を用いることができる。
【0114】
(20)
上記(6)乃至(19)いずれかに記載の態様の温度測定装置において、少なくとも上記相変化物質の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成する。これにより、相変化物質の化学的変化などを抑制することができ、相転移温度が変化してしまうのを抑制することができる。また、圧力変化に伴う相変化温度の変動を防ぐこともできる。これにより、長期にわたり安定した温度キャリブレーションを行うことができる。
【0115】
(21)
熱電対の温度測定方法において、上記冷接点の温度が第1温度t1aときの上記熱電対の出力値ΔV1を計測するステップと、上記第1の温度t1aとは異なる第2温度t1bときの上記熱電停の出力値ΔV2を計測するステップと、上記ゼーベック係数をS、温接点の温度をt2としたとき、ΔV1=S×(t1a−t2)からなる第1式と、ΔV2=S×(t1b−t2)からなる第2式との連立解から上記ゼーベック係数Sと、温接点の温度t2とを求めるステップとを有する。これにより、熱電対のゼーベック係数がわからずとも、温接点の温度を測定することができる。
【符号の説明】
【0116】
1:基板
2:ベース材
3:電気絶縁層
5:冷接点温度測定部
6:相変化物質
7:回路接続電極
9:貫通孔
10:第1接続電極
11:第2接続電極
15:加熱部
16:検出リード線
17:圧電膜
20:信号処理回路部
21:空洞部
22:計測領域
30:測定対象物
100:温度測定装置
101:シース部
102:金属保護管
103:熱電対
103a:第1熱電材料
103b:第2熱電材料
104:無機物質
110:温度計測部
111:ケース
111a:接続口
112:加圧板バネ
114:スライドノブ
201:電源
202:抵抗値検出部
203:レジスタ
204:熱起電力電圧検出部
206:ゼーベック係数算出回路
207:温度変換部
209:制御回路
C:冷接点
S:ゼーベック係数
t1a:第1温度
t1b:第2温度
t2:温接点温度
W:温接点
【先行技術文献】
【特許文献】
【0117】
【特許文献1】特開2002−156279号公報
【特許文献2】特許第3692908号公報
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱電対と、
上記熱電対の冷接点の温度を測定する冷接点温度測定手段と、
上記熱電対の出力値と、上記冷接点温度測定手段の測定結果と、ゼーベック係数とに基づいて測定対象物の温度を測定する温度測定装置において、
上記冷接点を加熱する加熱手段と、
上記加熱手段で冷接点を加熱し、上記冷接点の温度が第1温度ときの上記熱電対の出力値と、上記第1温度とは異なる第2温度ときの上記熱電対の出力値とを検出し、
上記第1温度、上記第1温度ときの上記熱電対の出力値、上記第2温度および上記第2温度ときの上記熱電対の出力値に基づいて、上記ゼーベック係数を算出するゼーベック係数算出手段を備えたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
請求項1の温度測定装置において、
上記ゼーベック係数算出手段は、上記冷接点の温度が上記第1温度のときの上記熱電対の出力値と、上記冷接点の温度が上記第2温度のときの上記熱電対の出力値とを複数回計測し、上記第1温度のときの上記熱電対の出力値の誤差、上記第2温度のときの上記熱電対の出力値の誤差が、閾値以下のとき、上記ゼーベック係数を算出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項3】
請求項1または2の温度測定装置において、
上記冷接点温度測定手段を、温度依存性を有する抵抗体で構成し、
上記冷接点温度測定手段を、上記加熱手段として用いたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかの温度測定装置において、
上記冷接点が設けられた基板は、ベース材上に積層された絶縁層が設けられており、
上記絶縁層に上記ベース材と接していない非接触領域を設け、上記非接触領域に、上記冷接点と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項5】
請求項4の温度測定装置において、
上記絶縁層の上記非接触領域の近傍に貫通孔を設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかの温度測定装置において、
既知の相転移温度を持つ相変化物質と、
温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する相転移検出手段と、
相転移が起きたことを上記相転移検出手段が検出したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、既知の上記相転移温度とする上記冷接点温度測定手段の温度較正を行う温度較正手段とを備えたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項7】
請求項6の温度測定装置において、
上記冷接点と、上記相変化物質と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを同じ基板に設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項8】
請求項6または7の温度測定装置において、
上記相転移検出手段、上記温度較正手段、上記ゼーベック係数算出手段とを上記冷接点が設けられた基板に設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項9】
請求項6乃至8いずれかの温度測定装置において、
上記相転移検出手段は、上記冷接点温度測定手段が測定した温度変化に基づいて、相転移が起きたことを検出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項10】
請求項6乃至8いずれかの温度測定装置において、
上記相転移検出手段は、上記相変化物質に積層させた圧電体を有し、上記圧電体で上記相変化物質の体積、剛性および固有振動数のいずれかの変化を検出して、相転移が起きたことを検出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項11】
請求項6乃至8いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質は、導電性であって、
上記相転移検出手段は、上記相変化物質の電気特性の変化に基づいて、相転移が起きたことを検出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項12】
請求項6乃至11いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質は、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質であることを特徴する温度測定装置。
【請求項13】
請求項6乃至12いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項14】
請求項6乃至12いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に並列に配置したことを特徴とする温度測定装置。
【請求項15】
請求項6乃至14いずれかの温度測定装置において、
上記冷接点が設けられた基板に、上記相変化物質と、上記加熱手段とが設けられており、
上記相変化物質を、上記加熱手段に隣接する箇所に分散配置したことを特徴とする温度測定装置。
【請求項16】
請求項6乃至15いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段と上記冷接点温度測定手段とを、一対の冷接点の間に形状と配置が対称となるように上記冷接点が設けられた基板に設けたことを特徴とする冷却点温度測定装置。
【請求項17】
請求項6乃至16いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質、上記加熱手段および上記冷接点温度測定手段のいずれかが導電性部材で構成されており、導電性部材で構成された部材を電気絶縁材で他の部材間で電気的に絶縁したことを特徴とする温度測定装置。
【請求項18】
請求項6乃至17いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質を相転移させるときの上記加熱手段の加熱温度を、上記相転移物質の相転移温度付近にしたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項19】
請求項6乃至18いずれかの温度測定装置において、
上記冷接点が設けられた基板に、互いに異なる2種類以上の相変化物質を分散配置し、上記相転移検出手段は、各相変化物質の相転移をそれぞれ検出し、
上記温度較正手段は、上記相転移検出手段が検出した各相変化物質が相転移したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、各相変化物質の既知の相転移温度として上記冷接点温度測定手段の温度較正を行うことを特徴とする温度測定装置。
【請求項20】
請求項6乃至19いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成することを特徴とする
温度測定装置。
【請求項21】
熱電対のゼーベック係数算出方法において、
上記冷接点の温度が第1温度t1aときの上記熱電対の出力値ΔV1を計測するステップと、
上記第1の温度t1aとは異なる第2温度t1bときの上記熱電停の出力値ΔV2を計測するステップと、
上記ゼーベック係数をS、温接点の温度をt2としたとき、ΔV1=S×(t2−t1a)からなる第1式と、ΔV2=S×(t2−t1b)からなる第2式との連立解から上記ゼーベック係数Sを求めるステップとを有することを特徴とするゼーベック係数算出方法。
【請求項1】
熱電対と、
上記熱電対の冷接点の温度を測定する冷接点温度測定手段と、
上記熱電対の出力値と、上記冷接点温度測定手段の測定結果と、ゼーベック係数とに基づいて測定対象物の温度を測定する温度測定装置において、
上記冷接点を加熱する加熱手段と、
上記加熱手段で冷接点を加熱し、上記冷接点の温度が第1温度ときの上記熱電対の出力値と、上記第1温度とは異なる第2温度ときの上記熱電対の出力値とを検出し、
上記第1温度、上記第1温度ときの上記熱電対の出力値、上記第2温度および上記第2温度ときの上記熱電対の出力値に基づいて、上記ゼーベック係数を算出するゼーベック係数算出手段を備えたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項2】
請求項1の温度測定装置において、
上記ゼーベック係数算出手段は、上記冷接点の温度が上記第1温度のときの上記熱電対の出力値と、上記冷接点の温度が上記第2温度のときの上記熱電対の出力値とを複数回計測し、上記第1温度のときの上記熱電対の出力値の誤差、上記第2温度のときの上記熱電対の出力値の誤差が、閾値以下のとき、上記ゼーベック係数を算出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項3】
請求項1または2の温度測定装置において、
上記冷接点温度測定手段を、温度依存性を有する抵抗体で構成し、
上記冷接点温度測定手段を、上記加熱手段として用いたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれかの温度測定装置において、
上記冷接点が設けられた基板は、ベース材上に積層された絶縁層が設けられており、
上記絶縁層に上記ベース材と接していない非接触領域を設け、上記非接触領域に、上記冷接点と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項5】
請求項4の温度測定装置において、
上記絶縁層の上記非接触領域の近傍に貫通孔を設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項6】
請求項1乃至5いずれかの温度測定装置において、
既知の相転移温度を持つ相変化物質と、
温度の変化に伴って上記相変化物質の相転移が起きたことを検出する相転移検出手段と、
相転移が起きたことを上記相転移検出手段が検出したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、既知の上記相転移温度とする上記冷接点温度測定手段の温度較正を行う温度較正手段とを備えたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項7】
請求項6の温度測定装置において、
上記冷接点と、上記相変化物質と、上記加熱手段と、上記冷接点温度測定手段とを同じ基板に設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項8】
請求項6または7の温度測定装置において、
上記相転移検出手段、上記温度較正手段、上記ゼーベック係数算出手段とを上記冷接点が設けられた基板に設けたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項9】
請求項6乃至8いずれかの温度測定装置において、
上記相転移検出手段は、上記冷接点温度測定手段が測定した温度変化に基づいて、相転移が起きたことを検出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項10】
請求項6乃至8いずれかの温度測定装置において、
上記相転移検出手段は、上記相変化物質に積層させた圧電体を有し、上記圧電体で上記相変化物質の体積、剛性および固有振動数のいずれかの変化を検出して、相転移が起きたことを検出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項11】
請求項6乃至8いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質は、導電性であって、
上記相転移検出手段は、上記相変化物質の電気特性の変化に基づいて、相転移が起きたことを検出することを特徴とする温度測定装置。
【請求項12】
請求項6乃至11いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質は、国際温度目盛ITS−90に定義されている物質であることを特徴する温度測定装置。
【請求項13】
請求項6乃至12いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に積層させたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項14】
請求項6乃至12いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段とを上記冷接点が設けられた基板に並列に配置したことを特徴とする温度測定装置。
【請求項15】
請求項6乃至14いずれかの温度測定装置において、
上記冷接点が設けられた基板に、上記相変化物質と、上記加熱手段とが設けられており、
上記相変化物質を、上記加熱手段に隣接する箇所に分散配置したことを特徴とする温度測定装置。
【請求項16】
請求項6乃至15いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質と上記加熱手段と上記冷接点温度測定手段とを、一対の冷接点の間に形状と配置が対称となるように上記冷接点が設けられた基板に設けたことを特徴とする冷却点温度測定装置。
【請求項17】
請求項6乃至16いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質、上記加熱手段および上記冷接点温度測定手段のいずれかが導電性部材で構成されており、導電性部材で構成された部材を電気絶縁材で他の部材間で電気的に絶縁したことを特徴とする温度測定装置。
【請求項18】
請求項6乃至17いずれかの温度測定装置において、
上記相変化物質を相転移させるときの上記加熱手段の加熱温度を、上記相転移物質の相転移温度付近にしたことを特徴とする温度測定装置。
【請求項19】
請求項6乃至18いずれかの温度測定装置において、
上記冷接点が設けられた基板に、互いに異なる2種類以上の相変化物質を分散配置し、上記相転移検出手段は、各相変化物質の相転移をそれぞれ検出し、
上記温度較正手段は、上記相転移検出手段が検出した各相変化物質が相転移したときの上記冷接点温度測定手段の検知結果を、各相変化物質の既知の相転移温度として上記冷接点温度測定手段の温度較正を行うことを特徴とする温度測定装置。
【請求項20】
請求項6乃至19いずれかの温度測定装置において、
少なくとも上記相変化物質の周囲を絶縁材で覆う表面保護膜を形成することを特徴とする
温度測定装置。
【請求項21】
熱電対のゼーベック係数算出方法において、
上記冷接点の温度が第1温度t1aときの上記熱電対の出力値ΔV1を計測するステップと、
上記第1の温度t1aとは異なる第2温度t1bときの上記熱電停の出力値ΔV2を計測するステップと、
上記ゼーベック係数をS、温接点の温度をt2としたとき、ΔV1=S×(t2−t1a)からなる第1式と、ΔV2=S×(t2−t1b)からなる第2式との連立解から上記ゼーベック係数Sを求めるステップとを有することを特徴とするゼーベック係数算出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【公開番号】特開2013−40885(P2013−40885A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179222(P2011−179222)
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】
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