説明

温度等のインジケータ

【課題】温度および経過時間、さらに外気による湿度や酸素を簡便に監視可能なインジケータを提供する。
【解決手段】インジケータ10には、通気性を有する包装体11と、包装体11外部からの外気により変化し、その変化が包装体11の外部から認識可能であるインジケータ組成物12と、インジケータ組成物12の変化を阻害する揮発性物質13とが含まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度および、その他湿度等を監視するインジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
食料品や医薬品のような製品においては、所定の温度や湿度を超えることで、品質が劣化したり、腐敗したりすることがある。
【0003】
そのため、製品の温度履歴や水分付着の有無についての履歴を確認するために、特許文献1では、保湿剤や有機化合物からなる色の変わる試薬などを用い、明瞭で不可逆的な色調変化により温度履歴と水分の付着履歴を検知できるインジケータが開示されている。
【0004】
また、温度履歴をより明確にするために、グルコースなどの培地と凍結パン酵母を透明な袋に入れた製品も市販されている。この製品では、酵母の発酵により生じた二酸化炭素によって、袋の形状が変化することで温度履歴を積算的に監視することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−354323号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前者は、所定温度の超過または水分付着のいずれかの履歴の判定にしか用いることができない。また、後者は、酵母の発酵により生じた二酸化炭素による容積変化を目視するため、履歴による変化が利用者に分かりにくい。さらに、酵母の発酵が湿度の影響を受けるため、容積変化ひいては温度履歴による変化について、ばらつきを生じることになる。
【0007】
さらに、品質の劣化や腐敗の原因の一つである雑菌類は、温度や湿度、経過時間、空気中の酸素、栄養分の影響がある。このことから、雑菌類の発生および繁殖の有無を予測しうる監視媒体としては、単なる温度と、その他湿度や酸素の履歴だけでなく、経過時間も含めた監視が可能なインジケータが必要である。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、温度および経過時間、さらに外気による湿度や酸素を簡便に監視可能なインジケータを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るインジケータは、所定の通気性を有する包装体と、包装体外部からの外気により変化し、その変化が包装体外部から認識可能であるインジケータ組成物と、インジケータ組成物の変化を阻害する揮発性物質とを含むことを特徴とする。
【0010】
このようなインジケータであれば、以下の働きを有する。インジケータの温度が揮発性物質の沸点以上になり揮発性物質が気化することで、包装体の内部が揮発性物質の気体で充満するため、包装体内部にあるインジケータ組成物の変化が阻害される。そして、この状態で時間が経過すると、包装体の通気性により、充填していた気体が外部に拡散し、代わりに、包装体外部から外気が侵入する。そして、侵入した外気によりインジケータ組成物が変化することで、外気の侵入を包装体外部から認識可能となる。
【0011】
また、本発明に係るインジケータは、さらに、揮発性物質を保持する保持体を有することを特徴とする。
【0012】
このようなインジケータであれば、揮発性物質を安定に保持させつつ、インジケータ組成物の変化をより鮮明に確認することが可能となる。
【0013】
ここで、本発明に係るインジケータは、揮発性物質が脂肪酸、アルコール、エーテル、アミン、アミド、炭化水素、から少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0014】
このようなインジケータであれば、揮発性物質の物性に基づいて、監視対象とする雑菌などの内容に合わせて設定する温度に見合う沸点を有する揮発性物質を容易に選択でき、添加量を調節することで、経過時間を容易に設定することが可能となる。
【0015】
また、本発明に係るインジケータは、揮発性物質が無機化合物からなるガスを液体状態あるいは固体状態とした物質から少なくとも1種類を含むことを特徴とする。
【0016】
このようなインジケータであれば、揮発性物質の物性に基づいて、氷点下などの低温に設定可能な揮発性物質を容易に選択できる。
【0017】
さらに、本発明に係るインジケータにおけるインジケータ組成物としては、水分により変色する物質であることを特徴とする。
【0018】
このようなインジケータであれば、外気が侵入することによる湿度変化によって変色し、添加量を調節することで経過時間を容易に設定することが可能となる。
【0019】
次に、本発明に係るインジケータにおけるインジケータ組成物としては、酸素により酸化することで変色する物質とすることもできる。
【0020】
このようなインジケータであれば、外気から酸素が侵入することで、インジケータ組成物が変色し、添加量を調節することで経過時間を容易に設定することが可能となる。
【0021】
さらに、本発明に係るインジケータにおいて、通気性を有しない素材により包装体が構成するものであって、所定の操作により、この包装体に通気性を有する状態に移行する開封手段を備えることを特徴とする。
【0022】
このようなインジケータであれば、開封手段により包装体が通気性を得た時点からの経過時間を見積もることが可能となる。
【0023】
また、本発明に係るインジケータにおける製造方法としては、通気性を有しない素材により包装体を形成し、前記包装体に穿孔し、所定の通気性を有するようにしたことを特徴とする。
【0024】
このようにインジケータを製造することで、穿孔した部分により包装体が通気性を得ることのできるインジケータを得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係るインジケータにより、製品の劣化などの要因となる温度および経過時間、その他、外気からの湿度や酸素を簡便に監視可能とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明において、所定の通気性を有する包装体とは、包装体自体が通気孔などにより通気性を有するだけでなく、針などの開封手段によって通気性を有するものであってもよい。ここで、通気性とは、包装体の外部にある外気が包装体の内部に導入される性質をいう。
【0027】
また、インジケータ組成物としては、包装体外部から導入される外気に含まれる成分により物理的ないし化学的に変化し、その変化が包装体外部から認識可能となる物質から構成されていればよい。ここで、変化の態様としては、組成物自体の形状の変化や変色などがある。
【0028】
ここで、インジケータ組成物としては、水分との反応や酸素による酸化により、組成物が変色する物質がより好適である。
【0029】
さらに、揮発性物質としては、気化することでインジケータ組成物の変化を阻害する物質であればよく、脂肪酸、アルコール、エーテル、アミン、アミド、炭化水素、から選ばれる物質が好適である。
【0030】
脂肪酸類として、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、アジピン酸、オクタン酸、トリコサン酸、コハク酸が挙げられる。
【0031】
アルコール類として、例えば、エタノール、オクタデシルアルコール、コレステリン、アラキニルアルコール、ヘプタトリアコンタノール、ヘキサデカン−2−オールが挙げられる。
【0032】
エーテル類として、例えば、ジエチルエーテル、ジヘキサデシルエーテル、ジオクタデシルエーテル、シチジン、アデノシンが挙げられる。
【0033】
アミン類として、例えば、トリコシルアミン、ナフチルアミン、p−アミノ安息香酸エチル、1−フェニル−2−チオ尿素、4−アミノ安息香酸、スルファメタジン、硝酸グアニジンが挙げられる。
【0034】
アミド類として、例えば、ヘキシルアミド、オクタコシルアミド、N−メチルドデシルアミドが挙げられる。
【0035】
炭化水素類として、例えば、ヘキサデカン、テトラトリアコンタン、2−メチルナフタレン、ヘキサメチルベンゼンが挙げられる。
【0036】
また、揮発性物質としては、他に、無機化合物からなるガスを液体状態あるいは固体状態とした物質を用いることもできる。
【0037】
無機化合物からなるガスを液体状態あるいは固体状態とした物質としては、ドライアイスや液体窒素などが挙げられる。
【0038】
次に、保持体として用いる部材の材質としては、揮発性物質を保持可能な材質であればよく、好ましくは揮発性物質に耐性を有し、より好ましくは、さらに浸透性を有する材質である。
【0039】
ここで、耐性を有することで、揮発性物質と材質との反応による揮発性物質の損失を抑えることができ、定量性を上げることができる。また、浸透性を有することで、揮発性物質を安定に保持することができ、設定時間の調節が容易となる。
【0040】
また、部材の形状は、インジケータとしての製品形態や揮発性物質の保持形態に応じて選択することができる。この保持体は揮発性物質の湿潤等によりある程度の膨縮はあるにしても、その範囲内での定形性を維持できるものが好ましい。形状としては平板状や球状などから適宜選択可能であり、好ましくは、平板である。
【0041】
ここで、平板状とすることで、揮発性物質を均一に保持することができ、部材の表面積により設定時間の調節が容易となる。
【0042】
さらに、包装体に所定の通気性を得るための開封手段としては、使用するまでは孔を塞いでおき、使用直前に剥離や除去により通気性を得ることができる部材などがある。
【0043】
また、包装体に所定の通気性を得るための穿孔手段としては、包装体に孔を開ける針などがある。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
以下、本発明の実施例に係るインジケータについて図面を参照して説明する。
【0045】
図1は本発明の実施形態に係るインジケータの一例であり、インジケータ10には、包装体として用いられるビニール袋11に、インジケータ組成物であるシリカゲル12と、揮発性物質であるエタノール13を含浸した保持体である、ろ紙14を備えている。
【0046】
ここで、ビニール袋11としては、PP(ポリプロピレン)やPET(ポリエチレンテレフタレート)などの高密度フィルム素材からなる袋状のものを用いている。
【0047】
また、シリカゲル12は、吸湿剤として市販しているシリカゲルを使用することができる。好ましくは、シリカゲルにコバルトなどの発色剤を添加し、吸湿により変色するようにしておくことで、外観により変化を確認することができる。
【0048】
また、保持体である、ろ紙14にはエタノール13が含浸しており、この保持体が、シリカゲル12と共に、ビニール袋11に内包されている。
【0049】
ここで、ろ紙に含浸することにより、揮発性物質であるエタノールは、ろ紙中に均一に広がり、しかも、蒸発も均一に行われることから、定量性をより高めることができる。
【0050】
また、シリカゲルの変化する色相とは異なる色の保持体を用いることで、シリカゲルの変色を目立たせることができ、シリカゲルの変化を外部から認識可能とすることが容易となる。
【0051】
なお、含浸する揮発性物質の成分やその量は、監視したい対象に合わせて選択することができる。例えば、食品に繁殖する菌を監視対象とする場合、菌が増殖しやすい温度で揮発する成分を選定し、食品の安全性に影響を与える程度、例えば賞味期限経過時に揮発が完了するように物質量を調節することが可能となる。
【0052】
実施例に係るインジケータ10の食品における使用方法は下記の通りである。まず、監視したい食品に、インジケータ10を接着等により、密着させる。次に、監視開始時に、所定の操作として、穿孔手段である針などを用いてビニール袋の一部に通気孔15を開ける。このとき、孔を開ける数や孔を開ける大きさにより揮発性物質が揮発する速さを調節できることできる。
【0053】
まず、温度上昇がほとんどない状態では、ビニール袋内部では揮発性物質がわずかに蒸発し、内部は、揮発性物質によって満たされている状態であることから、シリカゲルは変色することがない。
【0054】
そして、輸送途中等で、何らかの原因により食品の温度が上昇して、揮発性物質の沸点以上になると、揮発性物質の揮発が盛んになり、開封手段により開けた通気孔から揮発性物質が徐々に逃げていくことになる。
【0055】
次に、設定した時間を越えると、ビニール袋に含まれていた揮発性成分はほとんど外部に逃げてしまい、逆に、外部から外気が入り込むことになる。そして、外気が入り込むことで、外気に含まれる水分により、シリカゲルが変色し、設定した温度が設定時間以上経過したことを外部から視認等により認識可能となる。また、シリカゲルが変色した割合から、湿度の積算も可能となる。
【0056】
以上より、温度だけでなく、湿度およびそれらの経過時間をも認識することが可能となる。特に、菌を監視対象とした場合には、菌の増殖に影響する温度、時間、湿度、空気(外気)、栄養の諸条件において、増殖条件に近い監視が可能となる。このことから、食品の安全性を向上することができる。
【0057】
ここで、実施例1では、包装体としては、PPなどの素材自体には通気性を有しない高密度フィルム素材からなるビニール袋を用いている。しかし、ポリエチレンのように、素材自体に空隙を有することで通気性がある素材を包装体として用いる場合には、インジケータとして使用する前に、通気性を有しない素材からなるフィルム等でこの包装体を覆い、使用直前に、開封手段として覆っているフィルムをはがすことで、通気性を得るようにすることができる。
【0058】
また、実施例1では、所定の操作として、穿孔手段である針などにより通気部としての孔を開けるようにしている。他には、使用直前にビニール袋の一部を切り取ることで開封して通気可能とすることや、ビニール袋に孔を予め開けておき、その孔をシールなどの開封手段で遮蔽しておくことで、使用直前にシールをはがすといった操作により、通気性を得るようにすることもできる。
【0059】
次に、水分との反応で変色するインジケータ組成物としては、シリカゲルの他に、コバルトやブチルシアノアクリレート、オクチルシアノアクリレートローダミンB、ローダミン6G、インドフェノールブルー、アミノナフタレンスルホン酸誘導体などを用いることができる。
【0060】
また、揮発性物質としては、エタノールの他に、ジエチルエーテルなども使用することができる。さらに、エタノールと低沸点化合物であるジエチルエーテルを適宜混合することで、設定したい温度の調節も可能となる。
【0061】
揮発性物質としては、他に、ドライアイスや液体窒素なども使用することができる。これらは、氷点下などの低温での監視が可能となる。
【0062】
また、保持体としては、ろ紙に限らず、揮発性液体を含浸可能な綿や布、スポンジなどを用いることもできる。他に、揮発性液体をカプセルなどに保持させて、包装体に針で孔を開ける際に、カプセルにも孔を開けて、揮発性液体を拡散させることもできる。
【0063】
<実施例2>
本発明の他の実施例に係るインジケータとしては、インジケータ組成物として、酸素による酸化で変色する物質、例えば、メチレンブルーを用いることで、温度、酸素およびそれらの経過時間を監視することができるインジケータとすることが可能となる。
【0064】
ここで、インジケータの構成としては、図1と同様に、包装体として用いられるビニール袋に、シリカゲルの代わりにインジケータ組成物であるメチレンブルーを含む錠剤と、揮発性物質であるエタノールを含浸した保持体である、ろ紙を備えている。
【0065】
使用方法としては実施例1と同様である。実施例2では、設定した時間を越えて、入り込む外気において、外気に含まれる酸素により、メチレンブルーが反応することで、変色し、設定した温度が設定時間以上経過したことを外部から視認等により認識可能となる。また、メチレンブルーが変色した割合から、酸素の積算も可能となる。
【0066】
以上より、実施例2では、温度だけでなく、酸素およびそれらの経過時間をも認識することが可能となる。特に、油や試薬などの酸化を嫌う製品においては、酸化の目安となる温度と酸素を経過時間と共に監視することが可能となる。このことから、製品の品質を向上することができる。
【0067】
ここで、酸素との反応で変色するインジケータ組成物としては、メチレンブルーの他に、酸素による酸化で変色する鉄やマンガン、ヨウ素などを用いることができる。
【0068】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のインジケータは、食品の輸送や保管など、製品の温度履歴や湿度等の履歴の確認が必要な分野で適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の実施形態に係るインジケータを示す構成図。
【符号の説明】
【0071】
10 ・・・インジケータ
11 ・・・ビニール袋
12 ・・・シリカゲル
13 ・・・エタノール
14 ・・・ろ紙
15 ・・・通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の通気性を有する包装体と、
前記包装体外部からの外気により変化し、その変化が包装体外部から認識可能であるインジケータ組成物と、
前記インジケータ組成物の変化を阻害する揮発性物質とを含む、インジケータ。
【請求項2】
前記揮発性物質を保持する保持体を有する請求項1に記載のインジケータ。
【請求項3】
前記揮発性物質が脂肪酸、アルコール、エーテル、アミン、アミド、炭化水素、から少なくとも1種類を含む、請求項1又は2に記載のインジケータ。
【請求項4】
前記揮発性物質が、無機化合物からなるガスを液体状態あるいは固体状態とした物質から少なくとも1種類を含む、請求項1又は2に記載のインジケータ。
【請求項5】
前記インジケータ組成物が、水分により変色する物質である請求項1ないし4のいずれかに記載のインジケータ。
【請求項6】
前記インジケータ組成物が、酸素により酸化することで変色する物質である請求項1ないし4のいずれかに記載のインジケータ。
【請求項7】
前記包装体が、通気性を有しない素材により構成するものであって、
所定の操作により、前記包装体に通気性を有する状態に移行する開封手段を備える、請求項1ないし6のいずれかに記載のインジケータ。
【請求項8】
通気性を有しない素材により包装体を形成し、
前記包装体に穿孔し、所定の通気性を有するようにした、請求項1ないし6のいずれかに記載のインジケータの製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2008−151716(P2008−151716A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−341943(P2006−341943)
【出願日】平成18年12月19日(2006.12.19)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)
【Fターム(参考)】