説明

温度補償型圧電発振器の調整方法およびその方法により調整された温度補償型圧電発振器

【課題】調整工程を簡略化して温度特性の測定時間を短縮することができる温度補償型圧電発振器の調整方法およびその方法により調整された温度補償型圧電発振器を提供する。
【解決手段】振動子12とIC14を実装した圧電発振器のパッケージ内にヒータ抵抗26を備え、前記温度補償型圧電発振器10を加熱しながら加熱途中で周波数を複数測定し、温度係数を求めて温度特性を調整する温度補償型圧電発振器10の調整方法において、前記周波数の測定のうち少なくとも1つは、前記ヒータ抵抗26により前記温度補償型圧電発振器10を加熱したのち前記周波数を測定し、前記周波数の複数の測定値から温度係数の補正計算を行って補償データを作成し、前記補償データを前記温度補償型圧電発振器10の記憶部に書き込むことを特徴とする温度補償型圧電発振器10の調整方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償型圧電発振器の温度特性を補正する温度補償型圧電発振器の調整方法およびその方法により調整された温度補償型圧電発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パーソナルコンピュータ、携帯情報端末等の電子機器のクロック信号源などに広く利用されている温度補償型圧電発振器がある。温度補償型圧電発振器は、水晶振動子の温度特性の補償を行うことで動作温度領域における周波数の変位を数ppmにすることができ、これにより高精度の基準クロックとして機能する。
【0003】
一般に水晶振動子の温度特性は、加工時にばらつきが発生し、またIC(発振回路)の特性ばらつき、発振器の設定環境の温度変化によるばらつきもあるため、製造した発振器すべての温度特性を同一に形成することは困難である。このため温度補償発振器は個々の発振器の温度特性をそれぞれ調整できるように、PROM(Programmable Read Only Memory)を内蔵し、補償度合いを設定できるようになっており、加工時に温度補償データを作成し個々の発振器に内蔵されたPROMに保存する調整作業が必要となる。
【0004】
従来の温度補償発振器の調整方法は、特許文献1に示すような恒温槽などに調整作業を行う発振器を入れ、周囲温度を変化させて水晶振動子の温度特性を測定し、水晶振動子の温度特性を打ち消すような補償データを決定し、発振器IC内のPROMに温度補償データを書き込んでいる。
【特許文献1】特開2002−76774号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来の温度補償発振器の調整方法は、発振器の周囲温度を変化させるために恒温槽が必要となる。また恒温槽による温度調整は、設定温度に加熱して設定温度を維持するまでに時間がかかる。周波数測定のための設定温度は複数の温度を設定しているため、さらに時間がかかるという問題があった。
【0006】
ところで、発振器内の記憶部に記憶される補正電圧を表わすデータは、圧電発振器を恒温槽内に収容した後、圧電発振器を発振させた状態で周囲温度を変化させて取得しなければならないので、データの取得に時間がかかるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は上記従来技術の問題点を解決するため、調整工程を簡略化して温度特性の測定時間を短縮することができる温度補償型圧電発振器の調整方法およびその方法により調整された温度補償型圧電発振器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]振動子と、前記振動子の周波数温度特性を補正する温度補償回路および前記振動子を発振させる発振回路を有するICとを備えた温度補償型圧電発振器の調整方法であって、前記温度補償型圧電発振器に内蔵されたヒータ抵抗により前記温度補償型圧電発振器を加熱しながら前記温度補償型圧電発振器の出力周波数を測定し、前記出力周波数の測定値から温度係数を求め補償データを作成し、前記補償データを前記温度補償型圧電発振器の記憶部に書き込むことを特徴とする温度補償型圧電発振器の調整方法。
【0010】
これにより温度補償型圧電発振器に内蔵したヒータ抵抗による加熱により発振器の加熱をすばやく行うことができ、設定温度までの加熱時間を大幅に短縮することができる。
【0011】
[適用例2]前記温度補償型圧電発振器の前記出力周波数を測定する工程の前に、前記記憶部に初期値を書き込むことを特徴とする適用例1に記載の温度補償型圧電発振器の調整方法。
これにより調整量を小さくすることができ、結果として温度係数の計算精度を上げることができる。
【0012】
[適用例3]前記ヒータ抵抗は、前記ICに形成されていることを特徴とする適用例1または2に記載の温度補償型圧電発振器の調整方法。
これにより部品点数を少なくすることができる。
【0013】
[適用例4]適用例1ないし適用例3のいずれかの方法により調整されたことを特徴とする温度補償型圧電発振器。
これにより適用例1ないし3のいずれかの作用効果を備えた温度補償型圧電発振器を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明に係る温度補償型圧電発振器の調整方法およびその方法により調整された温度補償型圧電発振器の最良の実施形態について説明する。
図1は本発明に用いられる実施形態の温度補償型圧電発振器の回路構成の説明図である。図示のように温度補償型圧電発振器10は、パッケージ30に振動子12とIC14を備えている。
【0015】
パッケージ30は、電源端子(Vcc)32、周波数出力端子34、PROM書込み端子36、温度センサ出力端子38、接地端子(GND)40を有している。ここで周波数出力端子34は発振器からの周波数を出力するための端子である。PROM書込み端子36は外部からPROMに書き込むための端子である。温度センサ出力端子38は温度センサ20の出力電圧を外部に出力するための端子である。なおパッケージ30は熱伝導性のよいセラミックパッケージを用いると良い。
【0016】
振動子12は、パッケージ30内に収容されており、一例としてATカットされた圧電振動子や、弾性表面波共振子などを用いることができる。ATカットされた圧電振動子は3次曲線で示される固有の周波数温度特性を有している。
【0017】
IC14は、発振回路16、温度補償回路18、温度センサ20、PROM22、ヒータ抵抗制御回路24、ヒータ抵抗26を備えている。またIC14は電源端子32と接地端子40に接続されている。
【0018】
発振回路16は、振動子12の図示しない励振電極と電気的に接続されており、振動子12を発振させる回路である。発振回路16は周波数出力端子34に接続されている。
【0019】
記憶部となるPROM22は、複数のレジスタを有し、PROM書込み端子36に接続している。PROM22は、後述する温度センサ20で発生する1次の電圧から温度補償回路18で発生させる3次関数の電圧へ変換する情報がパーソナルコンピュータ(以下単にPCという)50から書き込まれる。PROM22の複数のレジスタには、PROM書込み端子36から書き込まれた水晶振動子特有の周波数温度特性を補正するためのデータを記憶することができるように構成されている。
【0020】
温度補償回路18は、本実施形態では一例として3次関数発生回路を用いている。3次関数発生回路は、温度センサ20からの電圧値を温度の3次関数の式で示される電圧値に変換する回路を有している。温度補償回路18は、発振回路16に接続し、PROM22のレジスタに記憶された3次関数の各次係数の値に従って、3次関数を発生し、温度センサ20から入力された電圧に対応した3次関数の値を電圧として発振回路16に出力するように構成されている。前記発振回路16は、電圧制御発振回路(VCXO)であるため、この温度補償回路18の出力電圧を制御電圧として入力することにより、温度補償回路18の出力電圧に応じて発振回路16の出力周波数が変化するように構成されている。
【0021】
温度センサ20は、本実施例ではIC14の内部に配置されている。温度センサ20は、温度補償回路18に接続し、検出した周囲温度の1次関数で示される電圧を発生する回路を有している。
【0022】
PC50は、PROM書込み端子36を介してPROM22と接続し、温度センサ出力端子38を介して温度センサ20と接続している。PC50は、あらかじめ水晶振動子の平均的な温度特性を近似する3次関数の式の3次係数、1次係数、及び0次係数などの初期値データがデータベースに収納されている。PC50は、初期値データに基づいて、振動子12の温度補正データを演算する処理機能を有している。
【0023】
ヒータ抵抗制御回路24は、PROM22に接続している。ヒータ抵抗制御回路24は、PROM22からの温度制御データを読み取り、温度センサ22によって測定される温度が設定温度になるように、後述するヒータ抵抗26を制御している。
【0024】
本実施形態のヒータ抵抗26は、IC14の内部や表面に形成されている。IC14の表面に形成する場合は、一対の電極膜間に発熱膜が配置された発熱体を用いる。発熱体は、一対の電極膜間に電圧を印加することにより発熱する薄型のヒータ抵抗である、発熱体は、IC14の表面に形成された第1の電極膜上に発熱膜、第2の電極膜の順に成膜されて形成される。なお、発熱膜の材質は、例えばTaSiO、TaまたはBaTiOを適用する。ヒータ抵抗26はヒータ抵抗制御回路24と接続し、設定温度でパッケージ30内部を加熱させることができる。
【0025】
なお振動子12と温度センサ20の温度が近いほうが補償精度が上がるため、パッケージ30内のヒータ抵抗26、振動子12、温度センサ20はできるだけ近くに配置させるとよい。
【0026】
次に、上記構成による実施形態の温度補償型圧電発振器の調整方法について説明する。図2は本発明の温度補償型圧電発振器の調整方法のフローチャートである。
パッケージ30内に振動子12、ヒータ抵抗26が形成されたIC14を実装し、以下に示す温度特性の補正を行う。まず図2のフローチャートに示すように、PROM22のレジスタに初期値を書き込む(ステップ100)。すなわちPC50にあらかじめ記憶された水晶振動子の平均的な温度特性を近似する3次関数の式の3次係数、1次係数、及び0次係数などの初期値データがPROM22のレジスタに記憶される。
【0027】
ついで周波数出力端子34に接続された図示しない周波数測定器により周波数を測定し、第1の測定値f1とする(ステップ200)。温度補償回路18は、3次関数を発生し、温度センサ20から入力された周囲温度に対応する1次関数で示される電圧に応じた電圧を出力する。
【0028】
そしてPC50からPROM22にヒータ抵抗26を加熱させる制御データを書き込む。ヒータ抵抗26に電流を流し発振器内の温度を上げる(ステップ300)。
【0029】
ヒータ抵抗26により発振器を加熱し、出力周波数を測定し、第nの測定値fnとする。ここでn−1次係数を求める場合にはn回の周波数測定を行う(ステップ400)。一例として3次係数を求める場合には、加熱しながら合計4回の周波数測定を行っている。
【0030】
第1の測定値f1〜第nの測定値fnに基づいてn−1次係数の補正計算を行う(ステップ500)。複数の周波数測定値f1〜fnから、周波数温度特性のn−1次関数で表される近似式を求める。この近似式により、ヒータ抵抗の加熱前後で周波数変化がなくなるような温度補償回路から出力すべき補償電圧信号を表すn−1次関数の係数(補正データ)が求められる。
得られた補正データがPROM22に書き込まれる(ステップ600)。
【0031】
パッケージ30内の温度補償回路18は、温度センサ20で計測された測定値と、PROM22に書き込みされた補正データに基づいて、電圧信号を発生し、補償電圧信号として発振回路16に出力する。補償電圧信号に基づいて発振回路16の出力周波数が制御される。
【0032】
図3は実施形態の温度補償型圧電発振器の温度特性を説明するグラフである。同図の縦軸は周波数偏差Δf/f(×10−6)、縦軸は温度(℃)をそれぞれ示している。ここで図中の破線はATカット水晶振動子の温度特性を示している。図中の一点鎖線は、ステップ100で初期値書き込みを行った直後の発振回路16の出力周波数の温度特性を示している。図中の実線は、ステップ600で補正データをPROM22に書き込み調整が完了した状態の発振回路16の出力周波数の温度特性を示している。図3は一例として、常温における測定点1:f1と40℃に加熱した測定点2:f2の周波数を測定し、1次係数の補正を行った温度特性を示している。図示のように水晶振動子の温度特性を打ち消すような補償データを決定し、補正後の温度特性のような±数ppmの精度で補償される。
【0033】
このような温度補償型圧電発振器の調整方法によれば、パッケージ内部に発熱体を形成させているので、従来のような恒温槽を用いた加熱に比べ、短時間で設定温度に加熱することができ、温度特性の調整時間を大幅に短縮することができる。またパッケージのIC内に形成した温度センサにより発振器の温度を測定しているため、測定の精度がよい。恒温槽などを用いて周囲温度を変化させる設備が必要なくなるため、設備投資のコストを低減することができる。また周囲温度を変化させる時間がなくなるため、生産性を向上させることができる。さらに記憶部のレジスタに初期値を書き込んでいるため、補償後のデータを微調整できる。また温度係数の計算精度を上げることができる。
上記温度補償型圧電発振器の調整方法により、補正後の温度特性のような±数ppmの精度で補償された温度補償型圧電発振器を調整することができる。
【0034】
図4は温度補償型圧電発振器の調整方法の変形例の説明図である。図1に示す温度補償型圧電発振器と変形例との相違は、ヒータ抵抗制御回路およびヒータ抵抗261の配置箇所である。その他の構成は図1の温度補償型圧電発振器と同様であり、その詳細な説明を省略する。
【0035】
変形例の温度補償型圧電発振器100は、ヒータ抵抗261をパッケージ30の内部に配置している。具体的には、ヒータ抵抗261は、パッケージ30の表面であって振動子12及びIC14の近傍にニクロム線などの発熱体が形成されている。ヒータ抵抗261は、ヒータ抵抗接続端子42と接続し、パッケージ30外部に形成している図示しないヒータ抵抗制御回路と接続している。
【0036】
このような構成による変形例の温度補償型圧電発振器であっても、図1に示す温度補償型圧電発振器と同様に、パッケージ30内部にヒータ抵抗を形成させているので、温度特性の調整時間を大幅に短縮させることができ、図1の温度補償型圧電発振器と同様の作用効果が得られる。
【0037】
なお本実施形態では3次関数発生回路を用いて説明したが、温度補償回路はこれに限らず、1次関数発生回路、2次関数発生回路を設けることができる。また4次関数発生回路など高次の関数発生回路を設けることにより、さらに高精度に温度補償をすることができる。なお、ある温度範囲で一次関数的に変化する領域においては、少なくとも2点を測定することにより容易に補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に用いられる温度補償型圧電発振器の回路構成の説明図である。
【図2】本発明の温度補償型圧電発振器の調整方法のフローチャートである。
【図3】実施形態の温度補償型圧電発振器の温度特性を説明するグラフである。
【図4】温度補償型圧電発振器の調整方法の変形例の説明図である。
【符号の説明】
【0039】
10、100………温度補償型圧電発振器、12………振動子、14………IC、16………発振回路、18………温度補償回路、20………温度センサ、22………PROM、24………ヒータ抵抗制御回路、26、261………ヒータ抵抗、30………パッケージ、32………電源端子(Vcc)、34………周波数出力端子、36………PROM書込み端子、38………温度センサ出力端子、40………接地端子(GND)、42………ヒータ抵抗接続端子、50………パーソナルコンピュータ(PC)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動子と、前記振動子の周波数温度特性を補正する温度補償回路および前記振動子を発振させる発振回路を有するICとを備えた温度補償型圧電発振器の調整方法であって、
前記温度補償型圧電発振器に内蔵されたヒータ抵抗により前記温度補償型圧電発振器を加熱しながら前記温度補償型圧電発振器の出力周波数を測定し、
前記出力周波数の測定値から温度係数を求め補償データを作成し、
前記補償データを前記温度補償型圧電発振器の記憶部に書き込むことを特徴とする温度補償型圧電発振器の調整方法。
【請求項2】
前記温度補償型圧電発振器の前記出力周波数を測定する工程の前に、前記記憶部に初期値を書き込むことを特徴とする請求項1に記載の温度補償型圧電発振器の調整方法。
【請求項3】
前記ヒータ抵抗は、前記ICに形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の温度補償型圧電発振器の調整方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の方法により調整されたことを特徴とする温度補償型圧電発振器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−9419(P2013−9419A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196041(P2012−196041)
【出願日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【分割の表示】特願2008−90148(P2008−90148)の分割
【原出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】