説明

温度補償機能及び/又は温度測定機能を有する超音波探触子を用いた計測システム及びこの計測システムに用いられる超音波探触子

【課題】温度の影響をキャンセルした形での反射波の計測を行なうことが可能な超音波探触子を用いた計測システムを提供する。
【解決手段】温度補償機能を有する超音波探触子が、超音波を照射可能な前面側3aと後面側3bとを有し、前面側3aが被測定領域側に位置する前面体4に取り付けられる超音波振動子3と、振動子3の後面側3bが取り付けられる後面体5と、を有し、後面体5内部に照射された超音波が反射される反射面5bにおいて、その反射率がほぼ100%となるように設定され、前面体4からは、被測定領域の情報と温度の情報を含む反射波を超音波振動子3により受信すると共に、後面体5からは、温度の情報のみを含む反射波を受信するように構成し、かつ、前面体4からの反射波のピークとピークの間に、後面体5からの反射波のピークが受信できるように設定し、前面体4からの反射波と後面体5からの反射波を分離して計測する反射波計測部、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償機能を有する超音波探触子を用いて被測定領域の特性を計測するための計測システム、温度測定機能を有する超音波探触子を用いて温度を計測するための計測システム、及び、これらの計測システムに使用される超音波探触子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波探触子から被測定領域に超音波を照射し、その領域からの反射波を計測することで、被測定領域の特性を解析することができる(例えば、特許文献1,2)。例えば、第1面と第2面の間(例えば、ピストンリングとシリンダの間)に形成される膜厚計測に用いることが可能である。
【0003】
まず、超音波探触子により第1面と第2面の間の膜厚測定を行う場合の測定原理を図1により説明する。図1において、第1面1と第2面2の間に膜が形成され、膜厚さが符号Lで示されている。仮に、第2面2の背面側に超音波探触子を取り付けると、この探触子から照射された超音波(入射波)は、図1に示すように第1面1と第2面2の境界に向けて進行する。入射波は、その一部が第2面2と膜の境界2aで反射すると共に、残りの一部は境界2aを透過して膜部分を通過し、第1面1の表面(第1面1と膜の境界1a)に到達する。この境界1aにおいて、一部は反射し、残りは透過して第1面1内へ進行する。境界1aで反射した超音波は、再び境界2aに到達し、境界2aでの反射と透過が再び行われる。
【0004】
このように、膜中において超音波の多重反射が生じる。この膜厚さが、照射する超音波のパルス幅に比べて薄い場合には、境界2aでの反射波と膜内での多重反射波は分離せずに干渉しあうため、第1面1と第2面2の境界からの反射波の振幅(反射エコー高さ)は、膜厚Lに応じて変化することになる。これが、超音波探触子を用いた場合の、膜厚測定原理である。従って、予めエコー高さと膜厚の関係を較正曲線として求めておくことで、計測されたエコー高さから膜厚の計測を行うことができる。また、相手面との接触状態等を計測する場合も同様である。
【0005】
一方、超音波探触子により計測されるエコー高さは、膜厚のみならず温度の影響を受ける。これは、超音波探触子を測定対象物などに取り付ける場合、高分子やセラミック系の接着剤による接着が行なわれるが、この接着層における音速が温度に影響されるためである。また、超音波探触子自身にも温度特性があり、エコー高さの大きさは温度による影響を受ける。従って、較正曲線を求める場合には、各温度毎に較正曲線を用意しておく必要があり煩雑である。
【0006】
【特許文献1】特開2006−214905号公報
【特許文献2】特開2006−214904号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、温度の影響をキャンセルした形での反射波の計測を行なうことが可能な超音波探触子を用いた計測システムを提供することである。また、上記に加えて、温度の測定を行うことも可能な超音波探触子を用いた計測システムを提供することである。さらに、これらの計測システムにおいて使用される新規な構成を有する超音波探触子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<温度補償機能に関する課題解決手段>
上記課題を解決するため本発明に係る超音波探触子を用いた計測システムは、
温度補償機能を有する超音波探触子を用いて被測定領域の特性を計測するための計測システムであって、
この超音波探触子が、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が膜厚測定側に位置する前面体に取り付けられる超音波探触子と、
超音波探触子を用いて被測定領域の特性を計測するための計測システムであって、
この超音波探触子が、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が被測定領域側に位置する前面体に取り付けられる超音波振動子と、
超音波振動子の後面側が取り付けられる後面体と、を有し、後面体内部に照射された超音波が反射される反射面において、その反射率がほぼ100%となるように設定され、
前面体からは、被測定領域の情報と温度の情報を含む反射波を前記超音波振動子により受信すると共に、後面体からは、温度の情報のみを含む反射波を受信するように構成し、かつ、前面体からの反射波のピークとピークの間に、後面体からの反射波のピークが受信できるように設定し、
前面体からの反射波と後面体からの反射波を分離して計測する反射波計測部と、
第1温度における後面体からの反射波の大きさと第2温度における後面体からの反射波の大きさから求められた反射波の大きさの変化率と、第1温度における前面体からの反射波の大きさとから、第2温度における前面体からの反射波の大きさを演算する演算部と、を備えていることを特徴とするものである。
【0009】
かかる構成を有する計測システムの作用・効果を説明する。超音波振動子は、前面側と後面側を有し、夫々の側から超音波が照射される。前面側から照射された超音波は、前面体の内部を伝わり被測定領域に到達する。そして、被測定領域の特性(例えば、膜厚)に応じた反射波が再び前面体の内部を伝わり、送信と同じ超音波振動子により受信される。この反射波は、被測定領域の情報と温度の影響(接着層および超音波探触子自身の温度特性の影響)の両方を受けている。
【0010】
一方、後面側から照射された超音波は、後面体の内部を伝わり、後面体の反射面で反射する。この反射率がほぼ100%になるように設定する。すなわち、後面体の反射面から超音波がほとんど透過しないようにすることで、反射面に接している層の影響をなくすことができる。従って、かかる層の影響をほとんど受けないことで、後面体からの反射波は温度のみの影響(接着層および超音波探触子自身の温度特性の影響)を受けた状態で超音波振動子に受信される。このとき、前面体からの反射波のピークとピークの間に、後面体からの反射波のピークが受信できるように設定されている。このような設定は、例えば、前面体と後面体の厚みを変えたり、材質を変えるなどして行うことができる。超音波振動子を接着剤で前面体及び後面体に取り付ける場合の好ましい態様などについては、発明の実施形態の項目において詳述する。
【0011】
従って、温度のみの影響を受けている後面体からの反射波と、温度と被測定領域の情報の影響を受けている前面体からの反射波を明確に分離した状態で受信することができ、温度の影響をキャンセルした状態での反射波データを容易に得ることができる。この手順については、例えば、次のように行なうことができる。
【0012】
第1温度(例えば、25℃)と第2温度(例えば、40℃)における後面体からの反射波の大きさ(h01,h02)を夫々取得し、その変化率(h02/h01)と、第1温度における前面体からの反射波の大きさ(h)とから、第2温度における前面体からの反射波の大きさを演算することができる。ここで反射波の大きさは、エコー高さもしくはエコー高さ比(標準化されたデータ)として表わすことができる。詳しくは後述するが、上記の演算を行なうことで、温度に関わらず、ほぼ一致した較正曲線が得られることを本発明者は見出したものである。なお、この演算部の機能は、コンピュータのハードウェア及びソフトウェアの機能に基づいて実現できるものである。その結果、温度の影響をキャンセルした形での反射波の計測を行なうことが可能な超音波探触子を用いた計測システムを提供することができる。
【0013】
本発明において、後面体の反射面が空気層もしくは発泡体と接していることが好ましい。
【0014】
このような層を設定することで、反射面での超音波の反射率を100%近くにまで高めることができる。
【0015】
本発明において、前記後面体の裏面側に第2の超音波振動子を設けていることが好ましい。
【0016】
前面体からの反射波と後面体からの反射波を1つの超音波振動子で受信して分離することが難しい場合は、上記第2の超音波振動子を設ける(超音波探触子を2つ使用する)ことで、予め分離した形で別々に計測することができる。
【0017】
<温度測定機能に関する課題解決手段>
上記課題を解決するため本発明に係る計測システムは、
温度測定機能を有する超音波探触子を用いて温度を計測するための計測システムであって、
この超音波探触子が、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が前面体に、後面側が後面体に夫々取り付けられる超音波振動子を備え、
後面体内部に照射された超音波が反射される反射面において、その反射率がほぼ100%となるように設定され、
前面体からの反射波のピークとピークの間に、後面体からの反射波のピークが前記超音波振動子により受信できるように設定し、
前面体と後面体からの反射波のピーク値の差、及び/又は、前面体と後面体からの反射波のピークの伝播時間差、のデータを取得する手段と、
これらのデータを各温度ごとに求めた相関関係データを求める手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0018】
かかる構成を有する計測システムの作用・効果を説明する。超音波振動子は、前面側と後面側を有し、夫々の側から超音波が照射される。前面側から照射された超音波は、前面体の内部を伝わり前面体裏面等からの反射波が再び前面体の内部を伝わり、送信と同じ超音波振動子により受信される。後面体からの反射波も同様に超音波振動子に受信される。
【0019】
ここで、前面体からの反射波のピークとピークの間に、後面体からの反射波のピークが前記超音波振動子により受信できるように設定されており、前面体からの反射波と、後面体からの反射波とを分離した状態で計測することができる。さらに、前面体と後面体からの反射波のピーク値の差、及び/又は、前面体と後面体からの反射波のピークの伝播時間差、のデータを取得するように構成されており、このデータに温度依存性があることを本発明者は見出した。従って、このデータを各温度毎に取得することで相関関係を求め、較正曲線として使用することができる。これにより、温度計測機能を持たせることができる。もちろん、膜厚測定やその他の被測定領域の特性を計測する機能を備えていることは前述の通りである。
【0020】
本発明において、前記後面体の裏面側に第2の超音波振動子を設けていることが好ましい。
【0021】
前面体からの反射波と後面体からの反射波を1つの超音波振動子で受信して分離することが難しい場合は、上記第2の超音波振動子を設ける(超音波探触子を2つ使用する)ことで、予め分離した形で別々に計測することができる。
【0022】
<超音波探触子に関する課題解決手段>
上記課題を解決するため本発明に係る超音波探触子は、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が被測定領域側に位置する前面体に取り付けられる超音波振動子と、
超音波振動子の後面側が取り付けられる後面体と、を備え、
後面体内部に照射された超音波が反射される反射面において、その反射率がほぼ100%となるように設定されていることを特徴とするものである。
【0023】
かかる構成による超音波探触子の作用・効果については、既に述べてきたとおりである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明に係る超音波探触子を用いた計測システムの好適な実施形態を図面を用いて説明する。図2は、本実施形態に係る計測システム及び超音波探触子Sの概念図を示す図である。
【0025】
この計測システムは、超音波探触子を用いて膜厚測定や面と面の接触状態などの被測定領域の特性を行う装置であるが、温度保証機能や温度測定機能が備えられている点に特徴がある。なお、超音波探触子Sを用いて膜厚測定を行う場合の原理は図1で既に説明した通りである。
【0026】
<温度補償機能を有する超音波探触子の構成>
超音波振動子3は、前面側3aと後面側3bとを有しており、前面側3aは前面体4の取り付け面4aに接着剤により取り付けられる。前面体4の裏面4bには、例えば、膜形成部Aが存在し、超音波振動子3の前面側3aから照射される超音波により、膜形成部Aの膜厚Lの計測を行うことができる。すなわち、膜形成部Aにおける反射波は、膜厚Lや二面の接触特性、固体接触面積に応じた大きさの反射波(エコー高さ)となっているからである(前述)。なお、超音波振動子3の前面側3aと後面側3bという表現は便宜上使用するものであり、特定の側を前面側3aあるいは後面側3bとして扱うものではない。
【0027】
超音波振動子3の後面側3bは、後面体5の取り付け面5aに接着剤により取り付けられる。また、後面体5の反射面5bは取り付け面5aと平行であり、空気層6と接している。超音波振動子3、後面体5、空気層6の全体は、パッキング材7により覆われている。超音波振動子3は、超音波探傷器8と接続されており、超音波振動子3により受信した反射波の表示・解析などを行うことができる。
【0028】
以上のように、超音波振動子3は前面体4と後面体5に対して接着剤により接着される。ここで、前後の接着剤は同じ種類のものを使用し、接着層の厚さも同じになるようにする。これにより、前後の接着層における温度の影響が同じになるようにできるからである。また、接着剤としては、セラミック系のものを使用すれば、他の接着剤に比べて温度の影響が少なくなるので好ましい。超音波振動子3自身は、厚さが薄いものであり、前後の接着層における温度は同じになっていると見なすことができ、上記のように接着層を設定することで、温度補償機能の精度を高めることができる。
【0029】
超音波振動子3の後面側3bから照射された超音波は、後面体5の内部を伝達して反射面5bにおいて反射した反射波として、再び超音波振動子3により受信される。ここで、反射面5bに空気層6が接触していることから、照射された超音波は、反射面5bにおいてほぼ100%が反射し、空気層6の厚さなどの影響は受けない状態で超音波振動子3に受信されることになる。
【0030】
更に具体的な構成を説明すると、超音波振動子3としては、例えば、2MHz程度の超音波を照射するものが使用される。この周波数は、計測すべき膜厚の大きさに基づいて決めることができる。例えば、前面体4と後面体5は、例えば、共に、鋼が使用される。空気層6については、発泡体(ウレタンフォームなど)で充填した発泡層としても同じ目的を達成することができる。なお、前面体4と後面体5を同じ材質で形成する場合、後面体5の厚さ(取り付け面5aと反射面5bとの距離)は、前面体4の厚さ(取り付け面4aと裏面4bの距離)よりも厚くなるように設定する。図2の例では、前面体4の厚さを10mm、後面体5の厚さを17mmとしている。
【0031】
図3(a)は、前面体4と後面体5を同種材料とした場合に、温度T℃とエコー高さhの関係を示すグラフである。同種材料とした場合は、h/Tの傾斜は、前面体4も後面体5も同程度になる。異種材料とした場合は、図3(b)のように前面体4と後面体5とで大きく異なる。従って、温度補償の観点からは、同種材料とすることが好ましいことが分かる。
【0032】
以上説明した構成のうち、超音波振動子3の後面側3bに設けられる後面体5、空気層6は、温度保証機能を持たせるために設けたものであり、膜形成部Aの膜厚Lの測定そのものに必要とされるものではない。
【0033】
図4は、実際に観測されたエコー高さ(反射波の大きさを表わす物理量である)と、膜厚さとの関係を示すデータであり、10℃、25℃、40℃におけるデータが夫々示されている。なお、このデータは、本発明による超音波探触子Sではなく、公知の超音波探触子により計測されたデータである。このデータからも分かるように、同じ膜厚さであっても温度により異なるエコー高さを示していることがわかる。この温度による影響は、超音波振動子3を接着するために使用する高分子の接着剤層の内部における音速が温度に影響され、接着層内での音波の干渉状態が変化したためと考えられる。また、超音波振動子3自身も温度特性を有しているため、温度によりエコー高さが変化する。
【0034】
超音波振動子3を用いて膜厚計測を行う場合には、予め、膜厚値とエコー高さとの関係を求めておく必要があるが、この関係が温度に依存するため、各温度毎に膜厚さとエコー高さとの関係を求めておかねばならず煩雑である。そこで、本発明においては、温度保証機能を設けており、温度の影響のみを含むエコー高さデータを簡易に得られるようにしている。
【0035】
すなわち、超音波振動子3の前面側3aから照射した超音波は、膜厚さ及び温度の影響(接着層および超音波探触子自身の温度特性の影響)を受けた状態での反射波として、再び超音波振動子3に受信される。また、超音波振動子3の後面側3bから照射した超音波は、温度のみの影響(接着層および超音波探触子自身の温度特性の影響)を受けた反射波として、超音波振動子3に受信される。また、伝播経路での音波の減衰の影響は、予め別実験により取得しておき、温度補償の計算時に用いる。
【0036】
図5は、図2の超音波計測装置を用いて実際に計測された反射波(エコー高さ)を示すグラフ図である。試験に用いた超音波探触子3の周波数は2MHzであり、音速は5920m/s、測定範囲は25mmである。また、前面体4と後面体5は、共に鋼である。
【0037】
図5において、前面体4からの反射波がP1(第1反射波),P3(第2反射波)として示され、後面体5からの反射波がP2(第1反射波)として示されている。この図5を見ても分かるように、前面体4からの反射波のピークとピークの間に、後面体5からの反射波のピークが存在する。従って、両者を分離して取り出せる形で反射波を受信することができている。
【0038】
これは、前面体4の厚さと後面体5の厚さを変えているため(超音波が内部を伝達する時間が異なるため)であり、後面体5の方が厚さが厚いため、前面体4の第1反射波よりも後面体5の反射波のほうが遅れて受信されるように設定されている。すなわち、後面体5は、後面遅延材として機能するものである。
【0039】
なお、前面体4と後面体5とを同じ材質で形成した場合は、上記のようであるが、後面体5に前面体4よりも音速の遅い材質のものを使用すれば、前面体4よりも薄い後面体5を使用することができ、装置も小型化することができる。
【0040】
図6は、図2の装置を用いて膜厚および温度を変えながらエコー高さの測定を行った結果を示すグラフである。膜厚を設定するために、10,20,30μmの3種類のシクネスゲージを用意した。また、前面体4の裏面4bは平滑面となるものを用意した。温度は、10℃、25℃、40℃の3通りに変化させた。
【0041】
図6のグラフはエコー高さ比(%)と膜厚L(μm)との関係を示している。なおエコー高さ比Hは、
H=h/h0×100
で演算したものであり、h0は25℃での前面体の裏面4bが乾燥時(裏面4bでほぼ100%が反射する状態)におけるエコー高さである。
【0042】
前面体4からのエコー高さ比については、膜厚が大きくなるほどエコー高さ比が大きくなる傾向にあり、また、温度が高くなるほどエコー高さ比が大きくなる傾向にある。従って、前面体4からの反射波は、温度と膜厚の影響を受けていることが分かる。
【0043】
また、同じ図6に小さなグラフとして後面体5からのエコー高さ比が表示されている。このグラフからも分かるように、膜厚の影響は全く受けることなく、温度のみの影響を受けていることが分かる。
【0044】
このエコー高さ比(標準化したデータ)で評価を行う場合には、標準化に用いるh0は、夫々の温度におけるh0を用いる必要がある。そこで、最初に計測した前面体裏面が25℃のときのh0に、温度変化による後面裏面からのエコー高さの変化割合を掛けることで各温度でのh0を推定し、図6の結果を整理しなおしたものを図7に示す。
【0045】
例えば、25℃のときの後面体5からのエコー高さをh01とし、40℃のときがh02であったとすると、下記の式により40℃における前面体4裏面での乾燥時エコー高さh0(すなわち、分母)を推定している。なお、分子のhは各温度でのある膜厚に対する前面体4の裏面4bからの反射エコー高さである。
【0046】
H=h/(h0×(h02/h01))×100
このような演算を行なうことで、図7に示すように、温度変化が生じたとしても、較正曲線はある程度の範囲に収まることが分かる。特に、10μm以下の膜厚領域では良好な一致が見られている。
【0047】
上記式において100を掛けているのは%表示するためであり、本発明は、これに限定されるものではない。また、上記計算式は標準化されたエコー高さ比を求めているが、標準化するか否かは任意である。上記演算は、コンピュータのハードウェアとソフトウェアの機能により行なうことができる。
【0048】
そこで、実際に膜厚計測を行う場合には、図8に示すような温度と前面体4及び後面体5からのエコー高さの相関関係を求めておけばよい。このような計測は、恒温槽を用いて前もって行なうことができる。
【0049】
また、図7に示すように、h0の調整のみで良好な結果が得られたのは、超音波振動子3の特性によるところが大きい。すなわち、前面体4と後面体5が同じ材質であり、前述のように超音波振動子3が同じ接着状態で取り付けられているからである。
【0050】
<温度補償機能を有する超音波探触子の構成>
次に、温度のみを高精度に計測する方法を説明する。基本的には、図2に示す構造の超音波探触子Sを用いることができる。この場合は、後面体5として高分子のように音波の減衰や音速が温度によって大きく異なる物質を用いることが好ましい。また、超音波振動子3の前面体4との接着剤については、特に限定はなくどのようなものを用いてもよい。接着層の厚みについても同様である。したし、超音波振動子3の後面体5との接着剤については、温度の影響が現れやすい高分子やエポキシ系の接着剤を用いることが好ましい。また、接着層の厚さについても温度変化を受けやすくなるような設定が好ましい。
【0051】
図9は、接着層の厚さLとそこでの超音波波長の比(L/λ)と、エコー高さhの関係を示すグラフである。図9に示すように、接着層の厚さLは1/4λ未満とすることが好ましく、接着層内の多重反射が発生し、後面体5への音波の透過率や、後面体5から超音波振動子3への超音波の入射率は、温度変化によるわずかな層厚さの変化の影響を受けやすくなるため、エコー高さの変化が大きくなる。したがって、温度変化を捉えやすくなる。
【0052】
図10は、超音波探傷器における画面上でのエコー高さhの波形を示すグラフである。横軸は伝播時間を示し、縦軸はエコー高さhを表している。このグラフでΔs(mm)は、前面体4からの反射波と後面体5からの反射波の路程差を表し、Δhは同じくピーク値の差を表している。
【0053】
図11(a)は、温度T℃とΔsの関係を示す較正曲線であり、図11(b)は温度T℃とΔhの関係を示す較正曲線である。これらの較正曲線は、前面体4の裏面4bが乾燥している場合も同様であるので、前面体4と超音波振動子3を貼り付けたものを恒温槽内に置いて温度を変化させて求めておくことができる。
【0054】
超音波振動子3としては、広帯域のPVDFなどの高分子フィルムなどを用いる場合、PVDFが広い周波数にわたって音圧が高く、また温度の影響を比較的受けやすいために、後面体5からの反射波をFFT分析し、温度の変化による各周波数でのパワーの変化を図11のように求めることができる。
【0055】
図12(a)は、温度T1,T2,T3をパラメータとして、周波数とパワーの関係を示すグラフである。図12(b)は、各周波数f1,f2,f3をパラメータとして、温度とパワーの関係を示すグラフである。周波数f1では、T2℃程度までは精度よく測定できるが、それ以上の温度では、高周波成分の減衰が著しいため、温度変化を計測することができない。そのような場合は、低周波側のパワー変化が著しい部分を用いるようにすれば、広範囲での温度測定が可能になる。
【0056】
また、後面体5の厚さにより、上記減衰特性は変化するので、実際に使用する超音波探触子について、恒温槽で較正をとる必要がある。
【0057】
<2つの探触子による温度測定>
以上説明してきたのは超音波振動子を1つだけ用いる構成であったが、次に、2つの超音波振動子を用いて温度測定を行う構成を説明する。前面体4の厚さが薄い場合は、超音波振動子3を1つだけ用いる方法では、前面体4からの反射波のピークとピークの間に、後面体5からの反射波を位置させることが難しくなる。前面体4の厚さが薄いと、ピーク間の時間が短くなるためである。図13(a)に示すように、前面体4からの第1反射波(1)-1、第2反射波(1)-2、第3反射波(1)-3、の間隔が狭くなる。
【0058】
かかる場合は、図14に示すような構成を用いて、後面体5の裏面に受信用の超音波振動子10(第2の超音波振動子に相当し、以下、受信用振動子10)を取り付け、この受信用振動子10でのエコー高さの変化から温度変化を測定するようにすることが好ましい。図13(b)は、受信用振動子10で計測される反射波の波形を示すグラフである。
【0059】
受信用振動子10として、前述のPVDFを用いれば、図12で示したように周波数ごとのパワー変化を知ることができるため、温度測定精度を向上させることができる。
【0060】
なお、受信用振動子10を後面体5に取り付ける場合の接着層の厚さは、前面体4の温度のみを知りたい場合は、きわめて薄くするか、温度の影響を受けがたくするために、セラミックス製の接着剤の使用が好ましい。
【0061】
2つの超音波振動子を用いる場合、前面体4側の被測定領域の特性計測では、1つの超音波振動子3で、前面体4の温度測定のためには2つの超音波振動子3を用いるので、この2つの測定の切り替えを行う必要があるが、この点は、コンピュータ上で容易に切り替え制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】超音波探触子により膜厚測定を行う場合の原理を説明する図
【図2】超音波探触子を用いた計測システムの構成を示す概念図
【図3】前面体と後面体を同種・異種材料とした場合の温度とエコー高さの関係を示すグラフ
【図4】エコー高さと膜厚さの関係を示すグラフ
【図5】計測システムを用いて実際に計測された反射波(エコー高さ)を示すグラフ図
【図6】図2の装置を用いて膜厚及び温度を変えながらエコー高さの測定を行った結果を示すグラフ
【図7】エコー高さ比と油膜厚さの関係を示すグラフ
【図8】温度と後面体からのエコー高さの関係を示すグラフ
【図9】接着層厚さと超音波波長の比とエコー高さの関係を示すグラフ
【図10】超音波探傷器における画面上でのエコー高さhの波形を示すグラフ
【図11】温度とΔsおよびΔhの関係を示すグラフ
【図12】周波数、温度、パワーの関係を示すグラフ
【図13】反射波の波形を示すグラフ
【図14】2つの超音波探触子を用いる場合の装置構成を示す概念図
【符号の説明】
【0063】
1 第1面
2 第2面
3 超音波振動子
3a 前面側
3b 後面側
4 前面体
4a 取り付け面
4b 裏面
5 後面体
5a 取り付け面
5b 反射面
6 空気層
7 パッキング材
8 超音波探傷器
10 受信用振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度補償機能を有する超音波探触子を用いて被測定領域の特性を計測するための計測システムであって、
この超音波探触子が、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が被測定領域側に位置する前面体に取り付けられる超音波振動子と、
超音波振動子の後面側が取り付けられる後面体と、を有し、後面体内部に照射された超音波が反射される反射面において、その反射率がほぼ100%となるように設定され、
前面体からは、被測定領域の情報と温度の情報を含む反射波を前記超音波振動子により受信すると共に、後面体からは、温度の情報のみを含む反射波を受信するように構成し、かつ、前面体からの反射波のピークとピークの間に、後面体からの反射波のピークが受信できるように設定し、
前面体からの反射波と後面体からの反射波を分離して計測する反射波計測部と、
第1温度における後面体からの反射波の大きさと第2温度における後面体からの反射波の大きさから求められた反射波の大きさの変化率と、第1温度における前面体からの反射波の大きさとから、第2温度における前面体からの反射波の大きさを演算する演算部と、を備えていることを特徴とする超音波探触子を用いた計測システム。
【請求項2】
後面体の反射面が空気層もしくは発泡体と接していることを特徴とする請求項1に記載の計測システム。
【請求項3】
前記後面体の裏面側に第2の超音波振動子を設けていることを特徴とする請求項3に記載の計測システム。
【請求項4】
温度測定機能を有する超音波探触子を用いて温度を計測するための計測システムであって、
この超音波探触子が、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が前面体に、後面側が後面体に夫々取り付けられる超音波振動子を備え、
後面体内部に照射された超音波が反射される反射面において、その反射率がほぼ100%となるように設定され、
前面体からの反射波のピークとピークの間に、後面体からの反射波のピークが前記超音波振動子により受信できるように設定し、
前面体と後面体からの反射波のピーク値の差、及び/又は、前面体と後面体からの反射波のピークの伝播時間差、のデータを取得する手段と、
これらのデータを各温度ごとに求めた相関関係データを求める手段と、を備えていることを特徴とする超音波探触子を用いた計測システム。
【請求項5】
前記後面体の裏面側に第2の超音波振動子を設けていることを特徴とする請求項4に記載の計測システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の計測システムにおいて用いられる超音波探触子であって、
超音波を照射可能な前面側と後面側とを有し、前面側が被測定領域側に位置する前面体に取り付けられる超音波振動子と、
超音波振動子の後面側が取り付けられる後面体と、を備え、
後面体内部に照射された超音波が反射される反射面において、その反射率がほぼ100%となるように設定されていることを特徴とする超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−185548(P2008−185548A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−21458(P2007−21458)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(597154966)学校法人高知工科大学 (141)
【出願人】(392000110)オートマックス株式会社 (16)
【Fターム(参考)】