説明

温度補償発振器および電子機器

【課題】温度補償動作を行いつつ、温度補償動作の周波数調整より高精度での周波数補正を行う。
【解決手段】温度補償発振器1は、圧電素子11および前記圧電素子11に並列に接続された第1可変容量素子14,15を有し、入力された温度補償電圧に応じた周波数で発振した基準信号を出力する発振回路10と、前記第1可変容量素子に並列に接続され、前記第1可変容量素子より低い容量を有する第2可変容量素子91,92と、前記第2可変容量素子の端子間電圧として、起動時からの経過時間に応じて変化し、所定値に収束する電圧を起動時補償電圧として出力する補償回路30とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償発振器における起動時の周波数変動を抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器において、ある温度範囲において安定した周波数で発振する温度補償発振器が知られている。特許文献1は、圧電素子を用いた小型の圧電デバイスを開示している。圧電素子は例えばATカットとして常温付近に変曲点を持つ3次曲線の温度特性を描く。この圧電素子の3次の温度特性を精度よく補正するため、ICチップ内部には周囲温度変化を検出する温度センサーや温度補正回路が搭載されている。温度センサーは例えばダイオード等で構成され、周囲温度に応じて変化するダイオードの電圧値を温度変化として検出する。温度センサーによって得られる温度変化の情報をもとに、温度補正電圧を生成し、この補正電圧を電圧制御型の発振回路に加えることで、圧電素子の3次の温度特性をキャンセルし安定した周波数を得ることができる。また、特許文献2は、起動時の出力周波数の変動を安定化させるキャンセル電圧を発生させる温度補償発振器を開示している。特許文献3は、起動時補正回路を用いる温度補償発振器を開示している。特許文献4は、温度補償用の可変容量手段と周波数制御用の可変容量手段とを有する温度補償発振器を開示している。特許文献5は、ICチップの放熱効果を高めた温度補償発振器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−136169号公報
【特許文献2】特開2007−267246号公報
【特許文献3】特開2008−271355号公報
【特許文献4】特開2006−186860号公報
【特許文献5】特開2008−311826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、起動時において発振回路や出力ドライバ周辺の能動素子が発熱してICチップ周辺と圧電素子との間に微小な温度誤差が生じてしまうため、周波数がドリフト(時間経過とともに周波数がわずかに変動する現象)を抑えることが難しく、起動直後に数十ppbのレベルで安定した周波数を得ることができなかった。
特許文献2に記載の技術は、起動時から一定時間、温度センサーからの出力をキャンセルするものであり、ICチップ上の能動素子の発熱の影響を打ち消して温度補償電圧を一定に保つ効果はあるが、起動時からの一定期間は圧電素子の温度補償動作を行うことができないため、起動時の周囲温度状態によっては周波数が安定しないという課題を抱えていた。特許文献3に記載の技術は、温度補償電圧に対し起動時に補正電圧を加えるものであり、温度補償できる周波数範囲程度の精度でしか補正できなかった。
これに対し本発明は、温度補償動作を行いつつ、温度補償動作の周波数調整より高精度での周波数補正を行う技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、振動素子および第1可変容量素子を有し、前記第1可変容量素子に入力された温度補償電圧に応じた周波数で発振した発振信号を出力する発振回路と、前記振動素子の一方の端子と他方の端子との間に接続された第2可変容量素子と、起動時からの経過時間に応じて変化し、所定値に収束する電圧を起動時補償電圧として前記第2可変容量素子に出力する補償回路とを有し、前記第2可変容量素子は前記起動時補償電圧に従い、前記起動時からの経過時間に応じて変化する前記発振信号の周波数を補償することを特徴とする温度補償発振器を提供する。
この温度補償発振器によれば、温度補償動作を行いつつ、第1可変容量素子のみで周波数補正を行う場合と比較して、周波数の時間変動を抑制することができる。
【0006】
好ましい態様において、前記補償回路は、前記温度補償電圧に基づき前記起動時補償電圧を生成してもよい。
この温度補償発振器によれば、温度補償電圧を基準電圧として用いて周波数の時間変動を抑制することができる。
【0007】
別の好ましい態様において、前記補償回路は、所定の基準電圧に基づき前記起動時補償電圧を生成してもよい。
この温度補償発振器によれば、所定の電源電圧を基準電圧として用いて周波数の時間変動を抑制することができる。
【0008】
さらに別の好ましい態様において、前記補償回路は、前記温度補償電圧または前記基準電圧を分圧する分圧回路を含んでもよい。
この温度補償発振器によれば、基準電圧を分圧した電圧を用いて周波数の時間変動を抑制することができる。
【0009】
さらに別の好ましい態様において、前記分圧回路は、前記温度補償電圧または前記基準電圧が供給される第3容量素子と、前記第3容量素子に直列接続された第4容量素子とを含んでもよい。
この温度補償発振器によれば、容量素子を用いた回路により基準電圧を分圧した電圧を用いて周波数の時間変動を抑制することができる。
【0010】
さらに別の好ましい態様において、この温度補償発振器は、前記温度補償発振器の起動時からの経過時間に対する周波数変化特性を示すパラメーターを記憶した不揮発性メモリーを有し、前記第4容量素子は、容量素子とスイッチング素子からなる直列回路と、複数の前記直列回路が並列接続された構成とを有し、前記スイッチング素子は、前記不揮発性メモリーに記憶されている前記パラメーターに応じて制御されてもよい。
この温度補償発振器によれば、温度補償発振器の特性に応じて周波数の時間変動の抑制量を調節することができる。
【0011】
また、本発明は、上記いずれかの温度補償発振器と、前記温度補償発振器から出力される前記発振信号を用いて動作する電子回路とを有する電子機器を提供する。
この電子機器によれば、温度補償動作を行いつつ、第1容量のみで周波数補正を行う場合と比較して、周波数の時間変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る温度補償発振器1の構成を示す断面模式図。
【図2】圧電素子11の温度特性を例示する図。
【図3】従来技術に係る起動時の発振周波数の変動を例示する図。
【図4】温度補償発振器1の回路構成を示す図。
【図5】可変容量素子の容量−電圧特性を例示する図。
【図6】基準電圧Vrefおよび温度補償電圧Vcを例示する図。
【図7】ドリフト補償電圧Vdftの起動時からの経時変化を例示する図。
【図8】可変容量素子の容量の起動時からの経時変化を例示する図。
【図9】温度補償発振器1における周波数偏差の時間変動を例示する図。
【図10】第2実施形態に係る温度補償発振器2の回路構成を示す図。
【図11】温度補償電圧Vcと基準電圧Vrefの関係を例示する図。
【図12】変形例1に係る電子機器1000の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.第1実施形態
図1は、第1実施形態に係る温度補償型水晶発振器(temperature compensated crystal oscillator、TCXO)1の構成を示す断面模式図である。温度補償発振器1は、シート基板81と、圧電素子基板82と、圧電素子(振動素子の一例)11と、ICチップ83と、キャップ84とを有する。温度補償発振器1は、概ね、ICチップ83の上に、圧電素子11を配置した構成を有する。圧電素子基板82は内部に空間90を有する。圧電素子11は、空間90に収まるように設置されている。圧電素子11は、接着部材88により、圧電素子基板82に接着されている。圧電素子基板82には孔89が設けられている。圧電素子11は、孔89内に満たされた接着部材88を介して端子87と電気的に接続されている。シート基板81上には、ICチップ83が貼り付けられている。ICチップ83は、ワイヤ85を介して接続部材86に接続されている。接続部材は、端子87と接続されている。ICチップ83には、圧電素子11を用いた発振回路が形成されている。
【0014】
図2は、圧電素子11の温度特性を例示する図である。横軸は温度を、縦軸は周波数偏差をそれぞれ表す。周波数偏差は、25℃のときの周波数を基準にしている。この例で、圧電素子11は、ATカットされた水晶振動子である。圧電素子11は、室温(25℃)付近に変極点を有する3次曲線で近似される特性(図2の実線)を有する。この温度変動を補償するため、ICチップ83には、温度センサーと、不揮発性メモリーと、温度補償電圧発生回路が形成されている。温度補償電圧発生回路は、温度センサーから出力される温度情報と、不揮発性メモリーに記憶されている圧電素子11の温度特性とを用いて、圧電素子11の温度特性を補償する特性(図2の破線)を発生させるための電圧を出力する。なお、圧電素子11は水晶振動子に限らず、表面弾性波素子(SAW)であっても良い。また、圧電素子に限らず振動素子であればどのようなものでも良い。(例えば、音叉振動素子等)
【0015】
図3は、従来技術に係る温度補償発振器の起動時における発振周波数の変動(ドリフト)を例示する図である。横軸は温度補償発振器が起動してからの時間を、縦軸は周波数偏差をそれぞれ表す。この例では、温度補償発振器の起動直後における発振周波数は、基準周波数より数十ppb低い。これは、例えば図1の構成のように、圧電素子11と温度センサー(ICチップ83)との間に圧電素子基板82が設けられ、距離が離れている構成においては、起動直後には圧電素子11とICチップ83との間に温度差が生じていることに起因すると考えられる。起動直後には、温度センサーの測定結果は、ICチップ内に設けられた能動素子の発熱によって圧電素子11の温度よりも高い温度を示してしまう。温度補償電圧発生回路はこの正しくない温度に基づいて温度補償電圧を生成するので、その結果、温度補償発振器の発振周波数が基準周波数からずれてしまうと考えられる。温度補償発振器の起動から時間が経過すると、ICチップ83から圧電素子11に熱が伝導し、両者の温度はほぼ等しくなる。ICチップ83と圧電素子11とがほぼ同じ温度になると、温度センサーは正しい温度を測定することになり、温度補償電圧によって、基準周波数からのずれは小さくなる。
【0016】
例えば、GPS受信機に用いられる温度補償発振器においては、起動時の周波数変動を例えば10〜20ppb以下のレベルまで抑えることを要求される場合がある。しかし、例えば図3の特性ではこの要求を満たすことができない。
【0017】
図4は、温度補償発振器1の回路構成を示す図である。温度補償発振器1は、発振回路10と、緩衝増幅器20と、ドリフト補償回路30と、基準電圧発生回路40と、温度補償電圧発生回路50と、温度センサー60と、不揮発性メモリー70と、容量制御回路80と、可変容量素子91と、可変容量素子92とを有する。
【0018】
発振回路10は、外部から入力される温度補償電圧に応じた周波数で発振した信号を出力する回路である。発振回路10は、基準電圧Vrefが入力される基準電圧入力端子と、温度補償電圧Vcが入力される温度補償電圧入力端子と、発振信号出力端子とを有する。発振回路10は、基準電圧Vrefおよび温度補償電圧Vcに応じた周波数で発振した発振信号を発振信号出力端子から出力する。発振回路10は、圧電素子11と、増幅器12と、抵抗素子13と、可変容量素子14(第1可変容量素子の一例)と、可変容量素子15(第1可変容量素子の一例)と、容量素子16と、抵抗素子17と、抵抗素子18とを有する。圧電素子11、増幅器12、抵抗素子13、可変容量素子14、および可変容量素子15により、ピアース型発振回路が形成される。容量素子16は可変容量素子14、15の共通ゲート端子Gを交流的に接地電位にすると共に、圧電素子11、可変容量素子14、15から成る共振閉ループを構成するための容量素子である。抵抗素子17および抵抗素子18は交流電流遮断用の抵抗素子である。緩衝増幅器20は、発振回路10からの出力信号を増幅した後、温度補償発振器1の出力端子から出力する。基準電圧発生回路40は、発振回路10において温度補償に用いられる基準電圧を供給する回路である。
【0019】
図5は、可変容量素子14および可変容量素子15の容量−電圧特性(C−V特性)を例示する図である。可変容量素子14および可変容量素子15は、例えば、4端子FET(Field Effect Transistor)のゲート−バックゲート間の容量を用いた素子である。横軸はゲート−バックゲート間の電圧VGBを、縦軸は容量を示す。この例で、可変容量素子14および可変容量素子15は、V1<VGB<V2の範囲(V1<0かつV2>0)で、電圧VGBの増加に伴って容量が増加する。なお、可変容量素子14および可変容量素子15のうち、いずれか一方を容量値が固定された容量素子に置き換えた構成でも良い。
【0020】
再び図4を参照する。温度センサー60は、温度を示す温度信号を出力する。温度センサー60は、例えば、温度により電圧が変動するダイオードである。温度補償電圧発生回路50は、温度信号が入力される温度信号入力端子と、温度補償電圧出力端子とを有する。温度補償電圧発生回路50は、温度センサー60から出力される温度信号に応じて生成された温度補償電圧Vcを出力端子から出力する。温度補償電圧発生回路50は、3次回路と、1次回路と、0次回路と、不揮発性メモリーと、加算器とを有する。3次回路は、温度信号に応じて、温度の3次関数により得られる電圧を出力する。1次回路は、温度信号に応じて、温度の1次関数により得られる電圧を出力する。0次回路は、オフセット電圧(温度の0次項)を出力する。3次関数および1次関数の係数、並びにオフセット電圧の値は、不揮発性メモリーに記憶されている。不揮発性メモリーは、圧電素子11およびICチップ83の温度特性に応じた係数を記憶している。3次回路、1次回路、および0次回路は、不揮発性メモリーから係数を読み出し、この係数を用いて得られた電圧を出力する。加算器は、3次回路、1次回路、および0次回路の出力電圧を加算する。加算器は、加算により得られた電圧を温度補償電圧Vcとして出力する。なお、本実施形態に記載される温度補償電圧の次数については、3次関数までに限定する主旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。さらに高次の成分(4次、5次)を含んでいてもよいものとする。
【0021】
発振回路10の温度補償電圧入力端子には、温度補償電圧発生回路50の出力電圧Vcが供給される。電圧Vcは、抵抗素子17および抵抗素子18を介して、可変容量素子14および可変容量素子15のバックゲート端子Bに印加される。可変容量素子14および可変容量素子15のゲート端子Gには、基準電圧発生回路40から出力された基準電圧Vrefが印加される。すなわち、可変容量素子14および可変容量素子15には、基準電圧Vrefと温度補償電圧Vcとの差に応じた電圧が印加される。
【0022】
図6は、基準電圧Vrefおよび温度補償電圧Vcを例示する図である。基準電圧Vrefは、温度に対して一定の電圧が用いられる。温度補償電圧Vcは、図2に示した温度依存性を補償する温度依存性を有している。
【0023】
再び図4を参照する。可変容量素子91(第2可変容量素子の一例)および可変容量素子92(第2可変容量素子の一例)は、圧電素子11に並列に(すなわち、可変容量素子14および可変容量素子15に並列に)接続されている。可変容量素子91および可変容量素子92は、バックゲート端子B同士が接続されている。可変容量素子91および可変容量素子92のゲート端子Gには、温度補償電圧Vcが、抵抗素子17および抵抗素子18を介して印加される。可変容量素子91および可変容量素子92のバックゲート端子Bには、ドリフト補償回路30から出力されるドリフト補償電圧Vdftが印加される。すなわち、可変容量素子91および可変容量素子92には、ドリフト補償電圧Vdftと温度補償電圧Vcとの差に応じた電圧が印加される。
【0024】
ドリフト補償回路30は、起動時からの経過時間に応じて変化し、所定値に収束する電圧(すなわち、時定数を有する過渡応答を示す電圧)を起動時補償電圧Vcとして出力するための回路である。ドリフト補償回路30は、ドリフト補償電圧の基準となるドリフト基準電圧が入力される基準電圧入力端子と、ドリフト補償電圧を出力するドリフト補償電圧出力端子を有する。ドリフト補償回路30は、容量素子31(第3容量素子の一例)と、容量アレイ32(第4容量素子の一例)と、抵抗素子33とを有する。容量素子31および容量アレイ32は、直列に接続され、分圧回路を構成している。この分圧回路の入力端子には、温度補償電圧Vcが供給される。分圧回路は、容量素子31および容量アレイ32の容量比に応じて起動時から所定電位に安定するまでの収束時間が設定された電圧Vdftを出力端子から出力する。抵抗素子33は、交流電流遮断用の抵抗素子である。
【0025】
図7は、ドリフト補償電圧Vdftの起動時からの経時変化を例示する図である。横軸は温度補償発振器1が起動されてからの経過時間を、縦軸は電圧を示している。図中実線がドリフト補償電圧Vdftを、破線は比較のため温度補償電圧Vcを示している。温度補償発振器1が起動され、温度補償電圧Vcが供給されると、容量素子31への充電が開始される。温度補償電圧発生回路50の出力から、容量素子31および容量アレイ32を介しての接地電位までの直流経路は無いので、分圧回路の出力電圧Vdftは、時間の経過とともに緩やかに下降していき、十分に時間が経過すると電圧Vdftは温度補償電圧Vcに応じた所定の電位に収束する。ここで、容量アレイ32の容量C2と容量素子31の容量C1の比率を、例えばC2/C1=0.1〜10程度とし、温度補償電圧値に応じてC2/C1比率を容量アレイ32の容量C2で調整することで、電圧Vdftの収束時間と発振周波数のドリフト収束時間をうまくフィッティングさせることができる。温度補償発振器1の電源を切断した後で再度電源を投入するときに、容量アレイ32を放電する必要はない。また、温度補償発振器1の電源が切断されると、容量素子31に蓄積された電荷は、温度補償電圧発生回路内の直流経路を通って放電される。なお、可変容量素子91、92の容量値は可変容量素子14、15の容量値よりも十分小さい容量値とすることが好ましい。その理由は、電圧Vdftが所定の電位に収束した後も、可変容量素子91、92のそれぞれのゲート端子には温度補償電圧Vcが供給されるため、可変容量素子91、92の容量値は温度補償電圧Vcに応じて変化する。従って、この影響を極力小さくするために、可変容量素子91、92の容量値を可変容量素子14、15の容量値よりも十分に小さくするのが好ましいのである。
【0026】
再び図4を参照する。容量アレイ32は、並列接続されたk個の容量素子321を有する(kは1以上の整数)。容量素子321には、それぞれスイッチング素子322が直列に接続されている。スイッチング素子322は、対応する容量素子321と容量素子31との導通状態を制御する素子、例えばトランジスターである。k個の容量素子321のうち、対応するスイッチング素子322がオン状態であるものの容量が加算され、容量アレイ32の容量に寄与する。不揮発性メモリー70は、温度補償発振器1の起動時の周波数ドリフト特性に応じたパラメーターを記憶している。容量制御回路80は、不揮発性メモリーに記憶されているパラメーターに応じて、各スイッチング素子322の導通状態を制御する。
【0027】
図8は、可変容量素子91および可変容量素子92の容量の起動時からの経時変化を例示する図である。ドリフト補償電圧Vdftと温度補償電圧Vcとの差の経時変化(図7)に応じて、起動時から容量は徐々に増加し、十分な時間が経過すると一定値に収束する。
【0028】
図9は、温度補償発振器1における周波数偏差の時間変動を例示する図である。横軸は温度補償発振器1が起動してからの時間を、縦軸は周波数偏差を示す。図中実線が、温度補償発振器1による周波数偏差を示しており、図中破線は、対比例として図3の(従来技術による)周波数偏差を示している。例えば、起動時の温度が25℃であり、ICチップ83の温度(温度センサー60が計測した温度)が圧電素子11の温度よりも高い場合を考える。このとき、温度補償電圧発生回路50は、温度センサー60が計測した温度に基づいて、周波数を増加させるように作用する電圧Vcを生成する(図2)。しかし、このとき実際には、圧電素子11の温度は温度センサー60が計測した温度よりも低い。したがって、温度補償電圧発生回路50が出力する電圧によって、周波数は基準周波数よりも高くなってしまう。可変容量素子91および可変容量素子92は圧電素子11に対して並列に接続されており、発振に寄与している。具体的には、可変容量素子91および可変容量素子92の端子間電圧が増加すると(すなわち容量が増加すると)、発振周波数を低下させるように作用し、可変容量素子91および可変容量素子92の端子間電圧が減少すると(すなわち容量が減少すると)、発振周波数を増加させるように作用する。すなわちこの例で、可変容量素子91および可変容量素子92は、起動時から徐々に周波数を減少させるように作用する。すなわち、起動時におけるICチップの発熱現象によって圧電素子11の温度よりも高い温度を温度センサが計測してしまい周波数を必要以上に上昇させてしまう温度補償電圧発生回路50の過剰な補償作用を可変容量素子91、92が打ち消すように働く。これにより、周波数ドリフトがキャンセルされる。温度補償発振器1によれば、時間によらず一定のオフセット電圧を用いた場合と比較すると、より早く発振周波数が安定する。なお、以上説明した第1実施形態において、可変容量素子91、および可変容量素子92のうち、何れか一方を容量値が固定された容量素子に置き換えた構成としても良い。すなわち、圧電素子11の一方の端子(不図示)と他方の端子(不図示)との間に少なくとも一つの可変容量素子が接続されていれば、温度補償電圧発生回路50の過剰な補償作用を一つの可変容量素子で打ち消すことが可能である。
【0029】
2.第2実施形態
図10は、第2実施形態に係る温度補償発振器2の回路構成を示す図である。図4の構成と比較すると、基準電圧Vrefと温度補償電圧Vcとが入れ替えられている点が相違している。すなわち、温度補償発振器2において、ドリフト補償回路30は、ドリフト補償電圧の基準となるドリフト基準電圧として、基準電圧発生回路40から出力される基準電圧Vrefが用いられる。温度補償発振器2において、可変容量素子91および可変容量素子92には、基準電圧Vrefとドリフト補償電圧Vdftとの差に応じた電圧が印加される。
【0030】
図11は、温度補償発振器2における温度補償電圧Vcと基準電圧Vrefの関係を例示する図である。第1実施形態においては、ドリフト補償電圧Vdftは、温度補償電圧Vcの作用を打ち消すような電圧であった。すなわち、温度補償電圧Vcが周波数を増加させる作用があるときはドリフト補償電圧Vdftは周波数を減少させるように作用した。温度補償発振器2においては、ドリフト補償電圧Vdftは、温度に依存しない基準電圧Vrefに基づいて生成されるので、温度によらず一定である。すなわち、ドリフト補償回路30は、温度によらず、周波数変化の特性が一定となる。発振器のパッケージ構造によっては、起動時の周波数変動の特性が温度によらずほぼ一定である場合がある。これは、図1の構造断面模式図に示されるICチップ83で発生した熱と圧電素子11との間の熱結合の度合いがパッケージ構造によって大きく左右されるためと推定できるが、温度補償発振器2によれば、パッケージ構造によって決まる熱結合が大きく寄与する周波数ドリフトに対しても効果的である。なお、先述した第1実施形態と同様に第2実施形態においても、可変容量素子91、および可変容量素子92のうち、何れか一方を固定の容量素子に置き換えた構成としても良い。
【0031】
3.他の実施形態
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
【0032】
3−1.変形例1
図12は、変形例1に係る電子機器1000の構成を示す図である。電子機器1000は、温度補償発振器1と、CPU(Central Processing Unit)5と、GPS(Global Positioning System)受信機6と、メモリー7と、ディスプレイ8とを有する。この例で、電子機器1000は、携帯電話機である。GPS受信機6(電子回路の一例)は、温度補償発振器1から出力される基準信号をクロック信号として動作する。この例によれば、例えば温度補償発振器1およびGPS受信機6を間欠動作させる場合においても、周波数の時間変動が安定したクロック信号を、より低消費電力で供給することができる。なお、電子機器1000は、携帯電話機に限定されない。電子機器1000は、パーソナルコンピュータ、時計、携帯ゲーム機、家電製品、自動車、電子書籍リーダーなど、携帯電話機以外のものであってもよい。また、電子機器1000は、温度補償発振器1に代わり温度補償発振器2を有していてもよい。
【0033】
3−2.変形例2
温度補償発振器1または温度補償発振器2の構成は、図4および図10に例示したものに限定されない。例えば、これらの一部の要素は省略されてもよい。例えば、温度補償発振器1は、基準電圧発生回路40、温度補償電圧発生回路50、温度センサー60、不揮発性メモリー70、および容量制御回路80を有していなくてもよい。この場合、温度補償発振器1は、基準電圧発生回路40、温度補償電圧発生回路50、温度センサー60、不揮発性メモリー70、および容量制御回路80に相当する外付けの装置との間で、信号をやりとりする。別の例で、圧電素子11は水晶振動子に限定されない。水晶振動子に代わり、SAW(Surface Acoustic Wave)共振子またはセラミック振動子が用いられてもよい。さらに別の例で、可変容量素子の数は、実施形態で説明したものに限定されない。可変容量素子14および可変容量素子15に代わり、1つまたは3つ以上の可変容量素子が用いられてもよい。可変容量素子91および可変容量素子92についても同様である。さらに別の例で、スイッチング素子322はトランジスターに限定されない。機械式のスイッチが用いられてもよい。機械式のスイッチが用いられる場合、不揮発性メモリー70および容量制御回路80は不要である。
【符号の説明】
【0034】
1…温度補償発振器、2…温度補償発振器、10…発振回路、11…圧電素子、12…増幅器、13…抵抗素子、14…可変容量素子、15…可変容量素子、16…容量素子、17…抵抗素子、18…抵抗素子、20…増幅器、30…ドリフト補償回路、31…容量素子、32…容量アレイ、33…抵抗素子、40…基準電圧発生回路、50…温度補償電圧発生回路、60…温度センサー、70…不揮発性メモリー、80…容量制御回路、81…シート基板、82…圧電素子基板、83…ICチップ、84…キャップ、85…ワイヤ、87…端子、88…接着部材、89…孔、90…空間、91…可変容量素子、92…可変容量素子、321…容量素子、322…スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動素子および第1可変容量素子を有し、前記第1可変容量素子に入力された温度補償電圧に応じた周波数で発振した発振信号を出力する発振回路と、
前記振動素子の一方の端子と他方の端子との間に接続された第2可変容量素子と、
起動時からの経過時間に応じて変化し、所定値に収束する電圧を起動時補償電圧として前記第2可変容量素子に出力する補償回路と
を有し、
前記第2可変容量素子は前記起動時補償電圧に従い、前記起動時からの経過時間に応じて変化する前記発振信号の周波数を補償する
ことを特徴とする温度補償発振器。
【請求項2】
前記補償回路は、前記温度補償電圧に基づき前記起動時補償電圧を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の温度補償発振器。
【請求項3】
前記補償回路は、所定の基準電圧に基づき前記起動時補償電圧を生成する
ことを特徴とする請求項1に記載の温度補償発振器。
【請求項4】
前記補償回路は、前記温度補償電圧または前記基準電圧を分圧する分圧回路を含む
ことを特徴とする請求項2または3に記載の温度補償発振器。
【請求項5】
前記分圧回路は、前記温度補償電圧または前記基準電圧が供給される第3容量素子と、前記第3容量素子に直列接続された第4容量素子とを含む
ことを特徴とする請求項4に記載の温度補償発振器。
【請求項6】
前記温度補償発振器の起動時からの経過時間に対する周波数変化特性を示すパラメーターを記憶した不揮発性メモリーを有し、
前記第4容量素子は、容量素子とスイッチング素子からなる直列回路と、複数の前記直列回路が並列接続された構成と
を有し、
前記スイッチング素子は、前記不揮発性メモリーに記憶されている前記パラメーターに応じて制御される
ことを特徴とする請求項5に記載の温度補償発振器。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一項に記載の温度補償発振器と、
前記温度補償発振器から出力される前記発振信号を用いて動作する電子回路と
を有する電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−17074(P2013−17074A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149097(P2011−149097)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】