説明

温度計測用中空導波路

【課題】温度計測する微小領域より内径の大きな中空導波路を用いても微小領域のみの温度計測が正確に行える温度計測用中空導波路を提供する。
【解決手段】試料7の温度計測に用いられ、試料7から輻射される赤外線を伝搬させるための中空領域5を有する温度計測用中空導波路1において、試料側に位置する温度計測用中空導波路1の一端部分に、赤外線を透過しない材料で形成されたアパーチャ板6を、アパーチャ板6に形成された開口部6aと温度計測用中空導波路1の中空領域5とが一致するように取り付けられているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から輻射される赤外線を導光して温度計測を行うための温度計測用中空導波路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
波長2μm以上の赤外光は、医療、工業加工、計測、分析、あるいは化学等の様々な分野で利用されている。波長2.94μm帯のEr−YAGレーザ、5μm帯のCOレーザ、および10.6μm帯のCO2レーザは、発振効率が高く高出力が得られ、また、水に対しても大きな吸収力を持つことから、医療用の治療機器や工業加工用等の光源として重要である。
【0003】
従来の通信用に使用されている石英系光ファイバは、波長2μm以上のレーザ光を使用すると分子振動による赤外吸収が大きくなって高損失となる。このため、これらのレーザ光を伝搬させる導波路として石英系の光ファイバを使用することができない。そこで、応用範囲の広い赤外波長帯で使用する新しいタイプの光導波路の研究および開発が活発に行われている。
【0004】
現在、研究開発が行われている波長2μm以上の赤外光用の導波路は、種々のタイプがある。なかでも、石英系ガラスキャピラリをベースにし、内壁を金属膜および誘電体膜で順次コーティングした中空導波路は、端面反射がないために端面損傷のおそれが無く、フレキシブルという点で優れており、有望視されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
中空導波路は、赤外波長帯の光を伝搬させることができるため、物体から輻射される赤外線により温度計測を行う温度計測用の導波路としての適用も検討、実用化されている。
【0006】
図4は、従来より一般に用いられている中空導波路を示す図であり、(a)は長手方向の断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【0007】
図4に示すように、従来の中空導波路11は、管状部材2と、その内面に反射面として形成された金属薄膜3と、その金属薄膜3の内面に形成された誘電体膜4とを有しており、誘電体膜4で囲まれた領域には中空領域5が形成されている。この中空導波路11を用いて温度計測する際には、中空導波路11の先端部分(図4(a)では右側)を物体に対向させ、物体から輻射された赤外光を中空導波路11内に導光し、これを図示しない赤外線検出器に伝搬させ、温度計測を行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−227707号公報
【特許文献2】特開平1−312510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一般に、中空導波路では、内径0.7mm〜1mm程度の構造のものが使用されているが、温度計測においては、0.5mm以下の微小領域をポイントで測定する用途がある。しかしながら、内径0.7mm〜1mm程度の中空導波路では、その微小領域の周囲の赤外光も導光してしまい、計測される温度は平均化された値となり、0.5mm以下の微小領域の温度計測を正確に行えないという問題があった。
【0010】
微小領域の温度計測に対応するためには、中空導波路の内径を小さくし、物体からの輻射計測の範囲を小さくする必要があるが、内径の小さい中空導波路の製造は、金属薄膜や誘電体膜の形成が難しく、製造ばらつきが大きい、伝搬損失が大きい、というような問題があった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、温度計測する微小領域より内径の大きな中空導波路を用いても微小領域のみの温度計測が正確に行える温度計測用中空導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明は、試料の温度計測に用いられ、前記試料から輻射される赤外線を伝搬させるための中空領域を有する温度計測用中空導波路において、前記試料側に位置する前記温度計測用中空導波路の一端部分に、前記赤外線を透過しない材料で形成されたアパーチャ板を、当該アパーチャ板に形成された開口部と前記温度計測用中空導波路の前記中空領域とが一致するように取り付けられている温度計測用中空導波路である。
【0013】
前記アパーチャ板に形成される前記開口部の内径は、前記温度計測用中空導波路の前記中空領域の直径より小さくてもよい。
【0014】
前記アパーチャ板は、石英系材料で構成されてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、温度計測する微小領域より内径の大きな中空導波路を用いても微小領域のみの温度計測が正確に行える温度計測用中空導波路を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る温度計測用中空導波路を示す図であり、(a)は長手方向の断面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図2】図1の温度計測用中空導波路を用いた温度計測装置の模式図である。
【図3】(a)は図1の温度計測用中空導波路の温度計測領域を示す図であり、(b)は従来の温度計測用中空導波路の温度計測領域を示す図である。
【図4】従来の温度計測用中空導波路を示す図であり、(a)は長手方向の断面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0018】
図1は、本発明の一実施の形態に係る温度計測用中空導波路1を示したものであり、(a)は長手方向の断面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【0019】
図1に示すように、温度計測用中空導波路1は、管状部材2と、管状部材2の内面に形成した反射面に形成され、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明となる誘電体膜4と、管状部材2の先端部分に形成されたアパーチャ板6とで構成される。
【0020】
温度計測用中空導波路1は、例えば、特許文献1に示される内付け法、外付け法で中空導波路を形成した後、先端部分にアパーチャ板6を取り付けて形成される。
【0021】
本実施の形態では、管状部材2は、石英系管状部材であるガラスキャピラリからなり、管状部材2の内面には反射面として金属薄膜3が形成される。金属薄膜3としては、Au,Ag,Cu等を用いることができる。金属薄膜3の形成には、めっき法、真空蒸着法、スパッタリング法等、種々の方法を適宜用いることができる。
【0022】
管状部材2のガラスキャピラリは、例えば、石英系ガラスからなり、その内径は0.7〜1.0mm程度が好ましい。管状部材2として、ガラスキャピラリの代わりに、金属系管状部材、例えばNi、SUS等の金属系のキャピラリを用いることもできる。この場合、金属薄膜3で反射面を形成する代わりに、金属系のキャピラリを用い、その製造時に同時に同一部材で反射面を形成するようにしてもよい。
【0023】
反射面に形成される誘電体膜4は、例えば、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明となるGeを用い、膜厚は0.49μmに形成される。誘電体膜4の材質や膜厚は適宜変更可能であり、誘電体膜4の材料としては、波長2μm以上の赤外領域の波長帯で透明となる無機物あるいは有機樹脂を用いることができ、例えば、COP(シクロオレフィンポリマ)を用い、膜厚を0.35μmとしても良い。
【0024】
誘電体膜4で囲まれた領域には、中空領域5が形成される。中空領域5の直径(温度計測用中空導波路1の内径)は、0.7〜1.0mm程度に形成されるが、製造ばらつきが生じない範囲でサイズの変更が可能である。
【0025】
アパーチャ板6は、赤外領域の波長を透過しない材料、例えば石英系ガラスからなる。アパーチャ板6は、例えば、管状部材2の外径より僅かに大きな外径をもつ円板状に形成され、略中央に、中空領域5の直径より小さな円形の開口部6aを有している。開口部6aの内径は、温度計測する微小領域のサイズに合わせて形成される。
【0026】
アパーチャ板6は、開口部6aの中心が温度計測用中空導波路1の中心軸(中空領域5の中心軸)と一致するように、管状部材2の先端部分に取り付けられる。管状部材2としてガラスキャピラリを用いる場合には、アパーチャ板6は、例えば、融着によって取り付けられる。管状部材2として金属系のキャピラリを用いる場合には、アパーチャ板6は、例えば、接着剤或いはフェルールなどで機械的に取り付けられる。
【0027】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0028】
図2に示すように、温度計測時には、温度計測用中空導波路1の管状部材2の先端部分に形成されたアパーチャ板6を、ステージ8上の微小領域である被測定物(試料)7に対向するように配置する。ステージ8や、ステージ8上の微小領域である被測定物(試料)7から輻射された赤外光は、アパーチャ板6の開口部6aから導光され、温度計測用中空導波路1内を伝搬して赤外線検出器で検出される。赤外線検出器で検出された赤外線は、電気信号処理され、温度に変換される。
【0029】
本実施の形態においては、温度計測用中空導波路1の内径(中空領域5の直径)が微小領域である被測定物(試料)7より大きくても、管状部材2の先端部分にアパーチャ板6を取り付けることで、アパーチャ板6の開口部6aから導光される赤外光は、微小領域である被測定物(試料)7からの赤外光のみとなるため、正確な計測が行える。
【0030】
また、本発明によれば、ガラスキャピラリの代わりに金属系のキャピラリを用いても、微小領域である被測定物(試料)7の正確な温度計測が行える。金属系のキャピラリを用いた温度計測用中空導波路では、金属薄膜3で反射面を形成する代わりに、金属系のキャピラリと同一部材で反射面を形成でき、製造コストを低減できる。
【0031】
次に、本発明の温度計測用中空導波路1と、従来の温度計測用中空導波路11を用いた温度計測について、図3(a),(b)により詳述する。
【0032】
図3(b)に示すように、従来の温度計測用中空導波路11を用いた温度計測では、輻射計測範囲は、温度計測用中空導波路11の内径のサイズとほぼ等しくなる。例えば、温度計測用中空導波路11の内径を1mmとした場合、輻射測定範囲は、ほぼ直径1mmの範囲となる。微小領域である被測定物(試料)7が直径1mmより小さい場合、従来の温度計測用中空導波路11では、微小領域である被測定物(試料)7の周囲の温度も測定してしまい、正確な温度を計測できない。
【0033】
これに対し、本実施の形態においては、図3(a)に示すように、管状部材2の先端部分に、赤外領域の波長を透過しない材料で形成されたアパーチャ板6が取り付けられており、微小領域である被測定物(試料)7の周囲の赤外線はアパーチャ板6で遮断され、開口部6aから微小領域である被測定物(試料)7の赤外光のみを導光することができる。これにより、微小領域のサイズに合わせてアパーチャ板6の開口部6aの内径を変えることで、微小領域のサイズに応じた正確な温度計測が行える。従って、アパーチャ板6の開口部6aの内径を0.1mmとすれば、0.1mmの微小領域の正確な温度計測が可能となる。
【0034】
以上要するに、本実施の形態に係る温度計測用中空導波路1は、管状部材2の先端部分に、赤外領域の波長を透過しない材料で形成されたアパーチャ板6を有している。これにより、温度計測する微小領域より内径の大きな中空導波路を用いても、微小領域の温度計測を正確に行うことができる。また、温度計測を正確に行うために温度計測用中空導波路1の内径を小さくする必要がないので、製造ばらつきが小さく、伝搬損失が小さい。
【0035】
さらに、管状部材2は、石英系管状部材で形成され、反射面は石英系管状部材の内面に形成された金属薄膜で構成され、または、管状部材2は、内面に反射面を有する金属系管状部材で構成される。管状部材2を石英系管状部材で構成することで、フレキシブルな温度計測用中空導波路1を得ることができる。或いは、管状部材2を金属系管状部材で構成することで、金属薄膜3で反射面を形成する代わりに管状部材に反射面を直接形成でき、製造コストを低減できる。また、金属系管状部材を用いることで、ロバスト性に優れた温度計測用中空導波路を得ることができる。
【符号の説明】
【0036】
1 温度計測用中空導波路
2 管状部材
3 金属薄膜
4 誘電体膜
5 中空領域
6 アパーチャ板
6a 開口部
7 被測定物(試料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の温度計測に用いられ、前記試料から輻射される赤外線を伝搬させるための中空領域を有する温度計測用中空導波路において、
前記試料側に位置する前記温度計測用中空導波路の一端部分に、前記赤外線を透過しない材料で形成されたアパーチャ板を、当該アパーチャ板に形成された開口部と前記温度計測用中空導波路の前記中空領域とが一致するように取り付けられていることを特徴とする温度計測用中空導波路。
【請求項2】
前記アパーチャ板に形成される前記開口部の内径は、前記温度計測用中空導波路の前記中空領域の直径より小さい請求項1記載の温度計測用中空導波路。
【請求項3】
前記アパーチャ板は、石英系材料で構成される請求項1又は2記載の温度計測用中空導波路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−37476(P2012−37476A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180226(P2010−180226)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】