温度計測装置及び車両
【課題】高精度に絶対温度分布を測定することができる温度計測装置及び該温度計測装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】遠赤外線撮像部11から出力された撮像画像信号を補正することで各画素の階調値を算出し、該階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置に、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を記憶する温度パラメータメモリ17と、温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号及び温度の対応関係とを記憶するパラメータメモリ15と、前記所定画素の撮像画像信号及び前記対応関係に基づいて、温度計測標準体の温度を算出する温度算出部14と、温度算出部14が算出した温度、温度パラメータメモリ17が記憶している関係、前記所定画素の階調値、及び他の画素の階調値に基づいて、各画素の階調値を被撮像体の温度を示す階調値に変換する温度補正処理部16とを備える。
【解決手段】遠赤外線撮像部11から出力された撮像画像信号を補正することで各画素の階調値を算出し、該階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置に、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を記憶する温度パラメータメモリ17と、温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号及び温度の対応関係とを記憶するパラメータメモリ15と、前記所定画素の撮像画像信号及び前記対応関係に基づいて、温度計測標準体の温度を算出する温度算出部14と、温度算出部14が算出した温度、温度パラメータメモリ17が記憶している関係、前記所定画素の階調値、及び他の画素の階調値に基づいて、各画素の階調値を被撮像体の温度を示す階調値に変換する温度補正処理部16とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像して得た撮像画像の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置及び温度計測装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の温度分布を測定する車両用温度測定装置が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る車両用温度測定装置は、赤外線を検知することで車室内の温度分布を測定するサーモパイルモジュールと、サーモパイルモジュールの検知範囲に配設され、所定温度で発熱する標準発熱体とを備えている。車両用温度測定装置は、外乱光の影響を除去すべく、標準発熱体から放射される赤外線をサーモパイルモジュールで検知し、その検知結果に基づいて温度分布の較正を行う。
このように構成された車両用温度測定装置にあっては、外乱光がある場合であっても、車室内の絶対温度分布を精度良く測定することができる。
一方、長波長、例えば8〜14μmの赤外線にて車室内の被撮像体、例えば乗員を撮像する車載撮像装置が開発されている。長波長の赤外線を用いた場合、外乱光の影響を受けることなく車室内の相対的な温度分布を測定することができる。
【特許文献1】特開2006−113025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に係る車両用温度測定装置においては、ヒータの電源を入切することによって標準発熱体の温度制御を行っているため、数分周期で標準発熱体の温度が2〜3℃変動し、結果として車室内の温度分布を正確に測定することができないという問題があった。具体的には、ヒータの電源が入になったとき、標準発熱体の温度は瞬間的に高温になり、サーモパイルモジュールで検知される温度は全体的に数℃低くなる。また、ヒータの電源が切りになった場合、標準発熱体の温度はなだらかに低下し、サーモパイルモジュールで検知される温度も全体的に上昇するという不具合が生ずる。
また、ヒータへの通電を制御するためには、CPU(Central Processing Unit)、温度センサ、通信回路、電源ケーブル等が必要であり、車両用温度測定装置の構成が複雑になり、コストが増大するという問題があった。
更に、ヒータへの通電及び通電制御を行う必要があるため、消費電力が増大するという問題があった。
更にまた、ヒータへの通電を制御するための通信線、電源ケーブル等を引き回し、各種回路を配置する必要があるための配置空間が必要であるという問題があった。
【0004】
一方、従来の車載撮像装置においては、外乱光の影響を受けることなく、車室内の相対的な温度分布を測定することはできるが、被撮像体の絶対温度を測定することはできない。これは、車載撮像装置の周囲環境の変動によって、階調値のオフセットが変動し、撮像画像の階調値と温度との対応関係が変動するためである。例えば、階調値32と20℃とが対応していても、周囲環境が変動した場合、階調値32と25℃とが対応することもある。
なお、オフセットを固定することも考えられるが、車載撮像装置のオフセットを固定した場合、特定の周囲環境でしか被撮像体を撮像できなくなるという問題が生ずる。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができ、しかも標準発熱体及び温度センサが不要であり、装置を簡単且つ低コストで構成することができる温度計測装置及び該温度計測装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る温度計測装置は、赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する赤外線撮像部を備え、該赤外線撮像部から出力された撮像画像信号の信号レベルに対応した各画素の階調値を、前記赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正し、補正した各画素の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置であって、所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号及び該温度計測標準体の温度の対応関係と、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係とを記憶する記憶手段と、前記所定画素の撮像画像信号及び前記対応関係に基づいて、前記所定画素に対応する温度計測標準体の温度を算出する温度算出手段と、該温度算出手段が算出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記所定画素の補正後の階調値、及び他の画素の補正後の階調値に基づいて、前記所定画素以外の他の画素の階調値を該画素に対応する被撮像体部分の温度を示す階調値に変換する変換手段とを備える。
【0007】
第2発明に係る温度計測装置は、前記記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶しており、更に、前記温度算出手段が算出した温度に基づいて、該温度に対応する前記関係を選択する選択手段を備え、前記変換手段は、前記選択手段が選択した前記関係に基づいて、前記他の画素の階調値を変換するようにしてあることを特徴とする。
【0008】
第3発明に係る温度計測装置は、前記記憶手段が記憶している関係は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係であり、該比例関係を規定する比例係数は前記温度算出手段が算出する温度の関数であることを特徴とする。
【0009】
第4発明に係る車両は、第1発明乃至第3発明のいずれか一つに記載の温度計測装置と、車室内に配されており、所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体とを備え、前記温度計測装置は、前記所定画素と前記温度計測標準体とが対応するように配されていることを特徴とする。
【0010】
第1及び第4発明にあっては、赤外線撮像部が赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する。撮像画像信号の信号レベルに対応した階調値は、赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正される。補正された階調値は、被撮像体の温度に応じた値を有しているが、該階調値は被撮像体の相対温度を示しているに過ぎない。
温度算出手段は、温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号と、記憶手段が記憶している対応関係とに基づいて、所定画素に対応する温度計測標準体の温度を算出する。特に第4発明によれば、赤外線撮像部は、温度計測標準体と所定画像とが対応するように車室内に配されているため、温度計測標準体に係る既知の赤外線放射率に基づいて温度計測標準体の温度と、撮像画像信号とを一対一で対応付けることができる。
変換手段は、温度算出手段が算出した温度計測標準体の温度と、所定画素の補正後の階調値と、記憶手段が記憶している関係とに基づいて、所定画素以外の他の画素の階調値を、被撮像体部分の温度と一対一対応した階調値に変換する。
温度算出手段が算出した温度と、所定画素の階調値とに基づいて、一の温度と一の階調値とを対応付けることができる。また、前記一の温度及び一の階調値を基準とし、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を用いることによって、他の階調値も温度に対応付けることができる。よって、変換手段は、撮像して得た階調値を、温度に一対一対応した階調値に変換することができる。
【0011】
第2及び第4発明にあっては、記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶している。一般に各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係は、周囲温度によって変動することが知られている。
選択手段は、温度算出手段が算出した温度に基づいて、記憶手段が記憶している複数の関係の内、前記温度に対応する関係を選択する。従って、変換手段は、周囲温度に応じた関係に基づいて、より正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変換することができる。
【0012】
第3及び第4発明にあっては、記憶手段は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係として比例関係を記憶しており、該比例関係を規定する比例係数は温度算出手段が算出する温度、つまり温度計測装置の周囲温度の関数である。一般に各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係は、周囲温度によって変動することが知られている。
変換手段は、温度算出手段が算出した温度に基づいて、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係を特定することができ、周囲温度に応じた比例関係に基づいて、撮像して得た階調値をより正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変換することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができ、しかも標準発熱体及び温度センサが不要であり、装置を簡単且つ低コストで構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明の実施の形態に係る温度計測システムの構成を示す模式図である。図中1は、車両Cに搭載された本発明に係る温度計測装置であり、温度計測装置1は被駆動部3の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)2に通信網を介して接続されている。通信網は、例えば専用ケーブル等の通信線、又は有線若しくは無線の車内LAN(Local Area Network)によって構成されている。
【0015】
図2は、本発明に係る温度計測装置1の構成を示すブロック図である。温度計測装置1は、遠赤外線にて被撮像体を撮像する遠赤外線撮像部11を備えている。遠赤外線撮像部11は、運転者の前方、例えば車両Cのハンドル、ダッシュボード等に配設され、運転者の上半身及び車両C内の天井部分4を撮像することができ、天井部分4の一部を構成する温度計測標準体4aが所定の撮像範囲に入り、且つ遠赤外線撮像部と温度計測標準体4aとの距離が所定距離になるような姿勢で固定されている。
本発明に係る温度計測装置1は、温度計測標準体4aから放射される遠赤外線強度を基準にして温度を計測する構成であるため、温度計測標準体4aとしては赤外線放射率が高い部材、例えば布、ゴムが好ましい。一般に温度計測標準体4aの赤外線放射率が低い程、温度計測標準体4aで反射される遠赤外線の反射エネルギーが高くなり、温度計測標準体4aから該温度計測標準体4aの温度に応じて放射される遠赤外線強度を測定することが困難になる。
また、温度計測標準体4aを構成する平面状表面部の法線と、赤外線レンズ11a群の光軸とのなす角が50度以内になるように、遠赤外線撮像部11を配設することが好ましい。
このように配置することによって、温度計測標準体4aの温度に応じた遠赤外線を受光することが可能になる。
【0016】
遠赤外線撮像部11は、赤外線レンズ11a及び遠赤外線撮像素子11bを備えている。赤外線レンズ11aは、例えば硫化亜鉛原料粉末、カルコゲンガラス、ゲルマニウム、、ジンクセレン等を焼結してなる焼結体であり、8〜14μm帯の遠赤外線に対して透過性を有している。
遠赤外線撮像素子11bは、波長が8〜14μmの遠赤外線にて運転者を撮像、つまり赤外線レンズ11aにて結像した遠赤外線像を撮像画像信号vに光電変換する素子であり、例えば抵抗ボロメータ方式、強誘電方式、SOIダイオード方式、サーモパイル方式等を用いた非冷却型の撮像素子である。なお、遠赤外線撮像素子11bのアスペクト比は、例えば3/2、画素数は360×240である。遠赤外線撮像部11は、連続的又は断続的に撮像処理を行い、撮像画像を構成する複数画素(x,y)夫々の撮像画像信号v(x,y)を、例えば1秒当たり30枚のフレームレートで生成し、画像構成処理部12及び温度算出部14へ出力する。なお、xは撮像画像の水平方向における画素の座標を示しており、yは撮像画像の垂直方向における画素の座標を示している。
【0017】
画像構成処理部12は、遠赤外線撮像部11から出力された撮像画像信号vの信号レベルに対応した階調値を、遠赤外線撮像部11の撮像特性に基づいて補正することで各画素の階調値を算出し、該階調値を有する撮像画像データを温度補正処理部16に与える。具体的には、画像構成処理部12は、遠赤外線撮像部11から出力されたアナログの撮像画像信号v(x,y)をデジタルの画像データにAD変換し、AD変換した画像データを画像メモリ13に一時記憶させる。画像メモリ13は、例えばSRAM、DRAM等の揮発性メモリである。そして、画像構成処理部12は、画像メモリ13に記憶させた画像データに対して撮像画像の不均一性を補正するNUC(Non-Uniformity Correction)処理、欠陥画素の補正処理等の各種画像処理を行い、画像処理された画像データを温度補正処理部16に与える。撮像画像を構成する各画素は、二次元に配列されており、画像データは各画素の位置(x,y)及び階調値V(x,y)として示される各画素の輝度を示すデータを含んでいる。NUC処理で補正された階調値V(x,y)は、下記式(1)で表される。
Vij=Gij・vij+Oij…(1)
但し、Vijは画素(x,y)=(i,j)の補正後の階調値、vijは画素(x,y)=(i,j)の撮像画像信号vの信号レベルに対応した階調値、Gijはゲイン補正値、Oijはオフセット補正値であり、i,jは、画素位置を示している。Gij、Oijは、例えば黒体炉、シャッタ等の温度分布が均一の物体を撮像して得た階調値に基づいて算出したものである。
【0018】
なお、画像構成処理部12で得られる画像データから被撮像体の相対的な温度分布を計測することは可能であるが、各画素の階調値V(x,y)と温度とは一対一対応していないため、温度を計測することはできない。これは、画像構成処理部12が、遠赤外線撮像部11の周囲環境の変動によって階調値のオフセットを変動させるためである。オフセットが変動した場合、被撮像体の温度が同じであっても階調値V(x,y)が変動してしまう。
【0019】
温度算出部14には、温度計測の基準となる温度計測標準体4aの温度(以下、標準体温度Ts という)を算出するために必要な定数を記憶したパラメータメモリ15が設けられている。パラメータメモリ15は、フラッシュメモリのような不揮発性メモリであり、温度計測標準体4aの赤外線放射率εと、遠赤外線撮像素子11bの感度、特に温度計測標準体4aから放射された遠赤外線が集光する撮像素子画素の感度Rと、ステファンボルツマン定数σと、温度計測標準体4aに対応する画素の位置(xT ,yT )を記憶している(図1、図5参照)。赤外線放射率ε及び感度Rは、温度計測装置1の製造時に測定し、測定して得た定数をパラメータメモリ15に記憶させておけば良い。
温度算出部14は、遠赤外線撮像部から出力された撮像画像信号vと、パラメータメモリ15が記憶している定数とに基づいて、標準体温度TSを算出する。
【0020】
次に、標準体温度TSの算出原理を説明する。熱平衡状態にある温度計測標準体4aから放射され、赤外線レンズ11aに入射する遠赤外線の放射エネルギーは下記式(2)で表される。但し、Uは放射エネルギー、λは温度計測標準体4aから放射される遠赤外線の波長、Ts は温度計測標準体の温度、Ωは立体角、Bλ (Ts )は、温度計測標準体4aの温度がTs である場合における波長λの遠赤外線の強度を示している。積分範囲は、波長8〜14μm、温度計測標準体4aが赤外線レンズ11aを見込む立体角の範囲である。
【0021】
【数1】
【0022】
温度計測標準体4aから放射された赤外線が赤外線レンズ11aに入射し、遠赤外線撮像素子11bに集光した場合、遠赤外線撮像素子11bは集光した放射エネルギーに応じた電圧レベルを有する撮像画像信号v(xT ,yT )を出力する。撮像画像信号vの信号レベルは下記式(3)で表される。但し、Rは遠赤外線撮像素子11bの感度R、特に温度計測標準体4aから放射された遠赤外線が集光する撮像素子画素の感度Rである。
v(xT ,yT )=R・U…(3)
【0023】
上記式(2)、(3)より、標準体温度TSは下記式(4)で表され、温度算出部14は下記式(4)を用いて、標準体温度TSを算出し、算出された標準体温度TSを温度補正処理部16に与える。
【0024】
【数2】
【0025】
なお、温度を算出する際、温度計測標準体4aから放射された遠赤外線のみを考慮したが、言うまでもなく、遠赤外線撮像部11を構成する赤外線レンズ11a、遠赤外線撮像素子11b、及び赤外線レンズ11aを保持する図示しない鏡筒も、周囲温度に応じた遠赤外線を放射している。また、車室内の周辺環境から反射された遠赤外線も存在する。従って、遠赤外線撮像素子11bから出力される撮像画像信号vの信号レベルと、温度の絶対値とを対応させるためには、赤外線レンズ11a、鏡筒及び遠赤外線撮像素子11b夫々の温度変動に対応する撮像画像信号vの信号レベルの変動に基づいて、標準体温度TSを補正する必要がある。例えば、温度計測標準体4aから放射された放射エネルギーから、遠赤外線撮像部11、その他の部材から放射される放射エネルギー分を減算する必要がある。遠赤外線撮像部11から放射されるエネルギーと温度との関係は予め測定し、パラメータメモリ15に記憶させておけば良い。
【0026】
温度補正処理部16は、例えばMPU(Microprocessor Unit)を備えたマイクロコンピュータであり、画像構成処理部12で画像処理された画像データを、温度に一対一対応した階調値W(x,y)を有する画像データに変換する後述の温度補正処理を実行する。MPUには、図示しないバスを介してMPUの制御に基づき実行される各種コンピュータプログラム及びデータを記録するROM、ROMに記録されたコンピュータプログラムの実行時に一時的に発生する各種データを記録するRAM、画像データを一時的に記録するフレームメモリ、I/Oポート等が接続されており、MPUが前記コンピュータプログラムを実行することによって、階調値W(x,y)の変換処理を実行する。温度補正処理部16は、温度補正された画像データを通信インタフェース18に与える。通信インタフェース18は、温度補正された画像データをNTSC(National Television System Committee Standard)等のアナログ信号、IEEE1394、MOST規格に準拠したデジタルの画像データに変換し、ECU2に送信する。
【0027】
また、温度計測装置1は、温度補正処理に必要な各種パラメータを記憶する温度パラメータメモリ17を備えている。
温度パラメータメモリ17は、フラッシュメモリのような不揮発性メモリであり、被撮像体の絶対温度分布を測定するためのゲインDb、温度計測標準体4aに対応すべき所定画素(xT、yT)の座標位置を記憶している。ゲインDbは、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の時間的な変化量、つまり被撮像体の温度が単位温度1℃変化した場合の階調値の変化量を示している。ゲインDbは、被撮像体の温度に拘わらずほぼ一定の値であるため、温度計測装置1の製造時に測定しておき、測定して得たゲインDbを温度パラメータメモリ17に記憶させておけば良い。
また、温度パラメータメモリ17は、外部のECU2にて絶対温度分布を認識できるように画像データの階調値を変換するためのゲインDx及び測定基準温度TMINを記憶している。ゲインDxは、下記式(5)で表される定数である。
Dx=最大階調値PMAX/(測定上限温度TMAX−測定基準温度TMIN)…(5)
【0028】
ゲインDxは、絶対温度分布を示す画像データにおいて、単位温度1℃の変化量に対応する階調値の変化量を示している。
【0029】
図3は、ECU2の構成を示すブロック図である。ECU2は、車室内の絶対温度分布を利用して空調装置、エアバッグ装置等の被駆動部3の動作を制御する制御装置である。ECU2は制御部21を備えており、制御部21には、バス27を介してROM22、RAM23、通信インタフェース24、画像メモリ25、制御インタフェース26等が接続されている。
【0030】
ROM22は、温度計測装置1から送信された画像データに基づいて、車室内の温度を算出する処理、車室内の絶対温度分布に基づいて被駆動部3の動作を制御するためのコンピュータプログラムを記憶している。また、ROM22は、ゲインDx、測定基準温度TMINを記憶している。
【0031】
RAM23は、制御部21によるコンピュータプログラムの実行時に発生する各種データを記憶する揮発性メモリである。
【0032】
通信インタフェース24は、温度計測装置1から送信された画像データを受信し、画像メモリ25は、通信インタフェース24で受信した画像データを一時記憶する。制御インタフェース26は、制御部21の制御によって制御信号を被駆動部3へ出力し、被駆動部3の動作を制御する。
【0033】
被駆動部3は、例えば空調装置であり、運転者の上半身部分及びその周辺の絶対温度分布を用いて、空調装置による送風温度、送風方向、送風速度等を制御することができ、より快適に車室内を空調することができる。
また、被駆動部3は、例えばエアバッグ装置であり、絶対温度分布を用いることによって、運転者の頭部、上半身、その周辺部分を判別し、運転者の有無、眼鏡装着の有無、体型、姿勢等をより正確に認識することができ、運転者の頭部の位置、眼鏡装着の有無、体格、姿勢等に応じてエアバッグの展開方法を制御することができ、車両C衝突時、安全に運転者を保護することができる。
【0034】
図4は、温度補正処理に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。温度補正処理部16は、画像構成処理部12から出力された画像データを取得する(ステップS11)。そして温度補正処理部16は、温度算出部14に所定画素(xT、yT)の撮像画像信号vを取得させ(ステップS12)、パラメータメモリ15から赤外線放射率ε、感度R及びボルツマン定数σを読み出させ(ステップS13)、標準体温度TSを算出させる(ステップS14)。
【0035】
次いで、温度補正処理部16は、温度計測標準体4aに対応する所定画素(xT、yT)の階調値Z=V(xT ,yT )を特定する(ステップS15)。
【0036】
図5は、撮像画像及び所定画素(xT、yT)を説明するための説明図である。横長矩形枠は撮像画像を示しており、横軸Xは水平ライン、縦軸Yは垂直ラインを示している。白丸部分は温度計測標準体4aに対応する所定画素(xT、yT)を示している。温度補正処理部16は、所定画素(xT、yT)の階調値Zと、標準体温度TSとから一の階調値Zと一の温度Ts とを対応付けることができる。
【0037】
次いで、温度補正処理部16は、ゲインDb、ゲインDx、及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS16)、階調値V(x,y)を、温度を示す階調値W(x,y)に変換する温度補正処理を実行する(ステップS17)。
【0038】
図6は、階調値V(x,y)と温度TABS との対応関係を示すグラフである。横軸は階調値V(x,y)、縦軸は各画素に対応する被撮像体の温度TABS を示している。なお、温度TABSは、温度の絶対値を示している。図6に示すように、温度TABS は、階調値V(x,y)に比例しており、その比例係数は1/ゲインDbである。従って、温度算出部14から取得した標準体温度TSと、温度計測標準体4aを撮像して得た所定画素(xT、yT)の階調値Zと、ゲインDbとから、階調値V(x,y)と、温度TABS とを一対一で対応付けることができる。温度TABS は、下記式(6)で表される。
TABS =V(x,y)/Db+Ts −Z/Db…(6)
【0039】
なお、上記式(6)は、階調値V(x,y)が温度TABS に比例することを前提としており、撮像画像信号vの信号レベルが温度の4乗に比例することと矛盾するように見えるが、室温範囲では階調値V(x,y)は近似的に温度TABS に比例することが知られている。
【0040】
ところが、階調値V(x,y)を有する画像データをそのまま外部のECU2に送信しても、ECU2側では階調値V(x,y)と温度との対応が取れていないため、被撮像体の温度を算出することができない。そこで、温度補正処理部16は、2つの要素に対して対応付けを行う。第1の要素は、オフセット、即ち測定基準温度TMINであり、第2の要素はゲイン、即ち温度変化量に対する階調値の変化量の比率である。ECU2は、オフセット及びゲインとして、所定の測定基準温度TMIN及びゲインDxを記憶しているため、温度補正処理部16は、ECU2側で測定基準温度TMIN及びゲインDxにて温度を算出することができるように階調値V(x,y)を階調値W(x,y)に変換する。
【0041】
図7は、階調値と温度TABS との対応関係を示すグラフである。横軸は階調値W(x,y)、縦軸は温度TABS を示している。ステップS15で温度補正処理部16は、図7に示すように階調値1を測定基準温度TMINに合わせ、単位温度1℃変化した場合の階調値の変化量がゲインDxになるように、階調値V(x,y)を階調値W(x,y)に変換する。
【0042】
温度補正された階調値W(x,y)は、下記式(7)で表される。
W(x,y)=(TABS −TMIN )×Dx…(7)
結局、上記式(7)は下記式(8)のように式変形することができ、温度補正処理部16は、下記式(8)にて階調値W(x,y)を算出する。
W(x,y)=Dx/Db×〔V−{Z−(Ts −TMIN )×Db}〕…(8)
【0043】
例えば、測定基準温度TMINを16℃、ゲインDxを8とした場合、16℃〜48℃の範囲と、階調値1〜256とを一対一で対応付けることができる。この場合、20℃は階調値32に対応する。
なお、変換後の階調値W(x,y)が0以下又は256より大きな値になった場合、階調値W(x,y)は夫々1と、256とに丸められる。
【0044】
次いで、温度補正処理部16は、温度補正された階調値W(x,y)を有する画像データをECU2へ送信する(ステップS18)。
【0045】
図8は、ECU2の制御部21の処理手順を示すフローチャートである。制御部21は、温度計測装置1にて温度補正された画像データを受信する(ステップS21)。次いで、制御部21は、ROM22からゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS22)、階調値W(x,y)、ゲインDx及び測定基準温度TMINに基づいて温度TABS を算出し(ステップS23)、処理を終える。
【0046】
温度TABS は、下記式(9)によって算出することができる。
TABS =W(x,y)/Dx+TMIN …(9)
【0047】
このように構成された実施の形態に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、従来の車両用温度測定装置に比してより正確に被撮像体の絶対温度分布を測定することができる。
【0048】
また、従来技術のように標準発熱体及び温度センサが不要であるため、該標準発熱体を制御する各種回路が不要になり、温度計測装置1を簡単且つ低コストで構成することができる。
【0049】
更に、一般のサーモグラフィに比べて簡単な構成で、被撮像体の温度の絶対値を測定することができる。なお、サーモグラフィは、測定する度に測定物の赤外線放射率の値を求めて入力する必要があるが、本発明では、温度計測標準体4aの赤外線放射率εを予めパラメータメモリ15に記憶させているため、赤外線放射率を求めて、入力する手間を省くことができる。
【0050】
更にまた、従来技術のようにヒータへの通電及び通電の制御を行う必要がないため、低消費電力で被撮像体の絶対温度分布を測定することができる。
【0051】
更にまた、従来技術のようにヒータへの通電を制御するための通信線、電源ケーブル等を引き回し、各種回路を配置する必要がないため、省スペースを図ることができる。特に自動車分野ではエレクトロニクス化が進む一方で車両Cの小型化、車内空間の拡大が求められているため、車両C搭載用の温度計測装置1にあっては特に効果的である。
【0052】
更にまた、温度測定装置の周囲環境に応じて画像構成処理部12が階調値V(x,y)のオフセットを変更させるように構成した場合であっても、温度と一対一対応した階調値W(x,y)を外部装置に送信することができる。
【0053】
図9は、第1の変形例に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。第1の変形例に係る温度パラメータメモリ17は、周囲温度に応じて異なる複数のゲインDb1、…、Dbk、…を記憶しており、温度補正処理部16は、周囲温度に対応したゲインDbkを用いることによって、より正確な温度の測定を可能にしたものである。但し、kは2以上の自然数である。
【0054】
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS31)、温度算出部14に所定画素(xT、yT)の撮像画像信号vを取得させ(ステップS32)、パラメータメモリ15から赤外線放射率ε、感度R及びボルツマン定数σを読み出させ(ステップS33)、標準体温度TSを算出させる(ステップS34)。次いで、温度補正処理部16は、所定画素(xT、yT)の階調値Zを特定する(ステップS35)。そして、温度補正処理部16は、ステップS34で算出された標準体温度TSに基づいて、該標準体温度TSに対応するゲインDbkを選択して読み出す(ステップS36)。以下、図4と同様、ゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS37)、温度補正処理を行い(ステップS38)、温度補正された画像データを送信し(ステップS39)、処理を終える。
【0055】
第1の変形例に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、温度計測装置1の周囲温度に応じたゲインDbkを用いることによって、周囲温度に拘わらず、被撮像体の温度を正確に計測することができる。
【0056】
図10は、第2の変形例に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。第2の変形例に係る温度パラメータメモリ17は、周囲温度に応じて線形的に変化するゲインDbを規定する定数a,bを記憶している。定数a,bは、Db(Ts )=a×Ts +bで表されるゲインDbを規定する値であり、温度計測装置1の製造時に予め測定及び算出し、温度パラメータメモリ17に記憶させておく。温度補正処理部16は、定数a,b及び温度算出部14が算出した標準体温度TSに基づいてゲインDbを算出し、算出されたゲインDbを用いることによって、より正確な温度の測定を可能にしたものである。
【0057】
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS41)、温度算出部14に所定画素(xT、yT)の撮像画像信号vを取得させ(ステップS42)、パラメータメモリ15から赤外線放射率ε、感度R及びボルツマン定数σを読み出させ(ステップS43)、標準体温度TSを算出させる(ステップS44)。次いで、温度補正処理部16は、所定画素(xT、yT)の階調値Zを特定する(ステップS45)。そして、温度補正処理部16は、温度パラメータメモリ17からゲインDb算出用の定数a,bを読み出し(ステップS46)、標準体温度TS、及び定数a,bに基づいて、ゲインDb(TS )=a×TS +bを算出する(ステップS47)。以下、図4と同様、ゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS48)、温度補正処理を行い(ステップS49)、温度補正された画像データを送信し(ステップS50)、処理を終える。
【0058】
第2の変形例に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、温度計測装置1の周囲温度に応じたゲインDbを算出することによって、温度計測装置1の周囲温度に拘わらず、被撮像体の温度を正確に計測することができる。
【0059】
なお、実施の形態及び変形例にあっては、遠赤外線にて被撮像体を撮像する場合を説明したが、他の周波数帯域の赤外線にて被撮像体を撮像し、温度を測定するように構成しても良い。但し、遠赤外線撮像素子を用いた場合、車室内に入射する外光の影響を受けないため、正確に被撮像体の絶対温度分布を計測することができ、好適である。
【0060】
また、標準体温度TSとして、瞬間の温度を用いる場合を説明したが、異なる時刻で複数の標準体温度TSを取得し、該複数の標準体温度TSから移動平均を算出し、該移動平均を用いて階調値を変更するように構成しても良い。同様に、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタにて標準体温度TSの変動を抑制するように構成しても良い。フィルタ期間は、例えば0.5〜1.5秒程度が好ましく、温度変化に追従でき、且つノイズを効果的に抑制することができる。このように構成した場合、標準体温度TSの短期的変動によって、測定される温度が揺らぐことを防止することができる。
更に、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る温度計測システムの構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る温度計測装置の構成を示すブロック図である。
【図3】ECUの構成を示すブロック図である。
【図4】温度補正処理に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】撮像画像及び所定画素を説明するための説明図である。
【図6】階調値と温度との対応関係を示すグラフである。
【図7】階調値と温度との対応関係を示すグラフである。
【図8】ECUの制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】第1の変形例に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】第2の変形例に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 温度計測装置
2 ECU
3 被駆動部
4 天井部分
4a 温度計測標準体
11 遠赤外線撮像部
11a 赤外線レンズ
11b 遠赤外線撮像素子
12 画像構成処理部
13 画像メモリ
14 温度算出部
15 パラメータメモリ
16 温度補正処理部
17 温度パラメータメモリ
18 通信インタフェース
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像して得た撮像画像の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置及び温度計測装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車室内の温度分布を測定する車両用温度測定装置が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に係る車両用温度測定装置は、赤外線を検知することで車室内の温度分布を測定するサーモパイルモジュールと、サーモパイルモジュールの検知範囲に配設され、所定温度で発熱する標準発熱体とを備えている。車両用温度測定装置は、外乱光の影響を除去すべく、標準発熱体から放射される赤外線をサーモパイルモジュールで検知し、その検知結果に基づいて温度分布の較正を行う。
このように構成された車両用温度測定装置にあっては、外乱光がある場合であっても、車室内の絶対温度分布を精度良く測定することができる。
一方、長波長、例えば8〜14μmの赤外線にて車室内の被撮像体、例えば乗員を撮像する車載撮像装置が開発されている。長波長の赤外線を用いた場合、外乱光の影響を受けることなく車室内の相対的な温度分布を測定することができる。
【特許文献1】特開2006−113025号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に係る車両用温度測定装置においては、ヒータの電源を入切することによって標準発熱体の温度制御を行っているため、数分周期で標準発熱体の温度が2〜3℃変動し、結果として車室内の温度分布を正確に測定することができないという問題があった。具体的には、ヒータの電源が入になったとき、標準発熱体の温度は瞬間的に高温になり、サーモパイルモジュールで検知される温度は全体的に数℃低くなる。また、ヒータの電源が切りになった場合、標準発熱体の温度はなだらかに低下し、サーモパイルモジュールで検知される温度も全体的に上昇するという不具合が生ずる。
また、ヒータへの通電を制御するためには、CPU(Central Processing Unit)、温度センサ、通信回路、電源ケーブル等が必要であり、車両用温度測定装置の構成が複雑になり、コストが増大するという問題があった。
更に、ヒータへの通電及び通電制御を行う必要があるため、消費電力が増大するという問題があった。
更にまた、ヒータへの通電を制御するための通信線、電源ケーブル等を引き回し、各種回路を配置する必要があるための配置空間が必要であるという問題があった。
【0004】
一方、従来の車載撮像装置においては、外乱光の影響を受けることなく、車室内の相対的な温度分布を測定することはできるが、被撮像体の絶対温度を測定することはできない。これは、車載撮像装置の周囲環境の変動によって、階調値のオフセットが変動し、撮像画像の階調値と温度との対応関係が変動するためである。例えば、階調値32と20℃とが対応していても、周囲環境が変動した場合、階調値32と25℃とが対応することもある。
なお、オフセットを固定することも考えられるが、車載撮像装置のオフセットを固定した場合、特定の周囲環境でしか被撮像体を撮像できなくなるという問題が生ずる。
【0005】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができ、しかも標準発熱体及び温度センサが不要であり、装置を簡単且つ低コストで構成することができる温度計測装置及び該温度計測装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る温度計測装置は、赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する赤外線撮像部を備え、該赤外線撮像部から出力された撮像画像信号の信号レベルに対応した各画素の階調値を、前記赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正し、補正した各画素の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置であって、所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号及び該温度計測標準体の温度の対応関係と、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係とを記憶する記憶手段と、前記所定画素の撮像画像信号及び前記対応関係に基づいて、前記所定画素に対応する温度計測標準体の温度を算出する温度算出手段と、該温度算出手段が算出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記所定画素の補正後の階調値、及び他の画素の補正後の階調値に基づいて、前記所定画素以外の他の画素の階調値を該画素に対応する被撮像体部分の温度を示す階調値に変換する変換手段とを備える。
【0007】
第2発明に係る温度計測装置は、前記記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶しており、更に、前記温度算出手段が算出した温度に基づいて、該温度に対応する前記関係を選択する選択手段を備え、前記変換手段は、前記選択手段が選択した前記関係に基づいて、前記他の画素の階調値を変換するようにしてあることを特徴とする。
【0008】
第3発明に係る温度計測装置は、前記記憶手段が記憶している関係は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係であり、該比例関係を規定する比例係数は前記温度算出手段が算出する温度の関数であることを特徴とする。
【0009】
第4発明に係る車両は、第1発明乃至第3発明のいずれか一つに記載の温度計測装置と、車室内に配されており、所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体とを備え、前記温度計測装置は、前記所定画素と前記温度計測標準体とが対応するように配されていることを特徴とする。
【0010】
第1及び第4発明にあっては、赤外線撮像部が赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する。撮像画像信号の信号レベルに対応した階調値は、赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正される。補正された階調値は、被撮像体の温度に応じた値を有しているが、該階調値は被撮像体の相対温度を示しているに過ぎない。
温度算出手段は、温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号と、記憶手段が記憶している対応関係とに基づいて、所定画素に対応する温度計測標準体の温度を算出する。特に第4発明によれば、赤外線撮像部は、温度計測標準体と所定画像とが対応するように車室内に配されているため、温度計測標準体に係る既知の赤外線放射率に基づいて温度計測標準体の温度と、撮像画像信号とを一対一で対応付けることができる。
変換手段は、温度算出手段が算出した温度計測標準体の温度と、所定画素の補正後の階調値と、記憶手段が記憶している関係とに基づいて、所定画素以外の他の画素の階調値を、被撮像体部分の温度と一対一対応した階調値に変換する。
温度算出手段が算出した温度と、所定画素の階調値とに基づいて、一の温度と一の階調値とを対応付けることができる。また、前記一の温度及び一の階調値を基準とし、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係を用いることによって、他の階調値も温度に対応付けることができる。よって、変換手段は、撮像して得た階調値を、温度に一対一対応した階調値に変換することができる。
【0011】
第2及び第4発明にあっては、記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶している。一般に各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係は、周囲温度によって変動することが知られている。
選択手段は、温度算出手段が算出した温度に基づいて、記憶手段が記憶している複数の関係の内、前記温度に対応する関係を選択する。従って、変換手段は、周囲温度に応じた関係に基づいて、より正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変換することができる。
【0012】
第3及び第4発明にあっては、記憶手段は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係として比例関係を記憶しており、該比例関係を規定する比例係数は温度算出手段が算出する温度、つまり温度計測装置の周囲温度の関数である。一般に各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係は、周囲温度によって変動することが知られている。
変換手段は、温度算出手段が算出した温度に基づいて、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係を特定することができ、周囲温度に応じた比例関係に基づいて、撮像して得た階調値をより正確に温度と階調値とが一対一対応した階調値に変換することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、従来の車両用温度測定装置に比してより高精度に絶対温度分布を測定することができ、しかも標準発熱体及び温度センサが不要であり、装置を簡単且つ低コストで構成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は、本発明の実施の形態に係る温度計測システムの構成を示す模式図である。図中1は、車両Cに搭載された本発明に係る温度計測装置であり、温度計測装置1は被駆動部3の動作を制御するECU(Electronic Control Unit)2に通信網を介して接続されている。通信網は、例えば専用ケーブル等の通信線、又は有線若しくは無線の車内LAN(Local Area Network)によって構成されている。
【0015】
図2は、本発明に係る温度計測装置1の構成を示すブロック図である。温度計測装置1は、遠赤外線にて被撮像体を撮像する遠赤外線撮像部11を備えている。遠赤外線撮像部11は、運転者の前方、例えば車両Cのハンドル、ダッシュボード等に配設され、運転者の上半身及び車両C内の天井部分4を撮像することができ、天井部分4の一部を構成する温度計測標準体4aが所定の撮像範囲に入り、且つ遠赤外線撮像部と温度計測標準体4aとの距離が所定距離になるような姿勢で固定されている。
本発明に係る温度計測装置1は、温度計測標準体4aから放射される遠赤外線強度を基準にして温度を計測する構成であるため、温度計測標準体4aとしては赤外線放射率が高い部材、例えば布、ゴムが好ましい。一般に温度計測標準体4aの赤外線放射率が低い程、温度計測標準体4aで反射される遠赤外線の反射エネルギーが高くなり、温度計測標準体4aから該温度計測標準体4aの温度に応じて放射される遠赤外線強度を測定することが困難になる。
また、温度計測標準体4aを構成する平面状表面部の法線と、赤外線レンズ11a群の光軸とのなす角が50度以内になるように、遠赤外線撮像部11を配設することが好ましい。
このように配置することによって、温度計測標準体4aの温度に応じた遠赤外線を受光することが可能になる。
【0016】
遠赤外線撮像部11は、赤外線レンズ11a及び遠赤外線撮像素子11bを備えている。赤外線レンズ11aは、例えば硫化亜鉛原料粉末、カルコゲンガラス、ゲルマニウム、、ジンクセレン等を焼結してなる焼結体であり、8〜14μm帯の遠赤外線に対して透過性を有している。
遠赤外線撮像素子11bは、波長が8〜14μmの遠赤外線にて運転者を撮像、つまり赤外線レンズ11aにて結像した遠赤外線像を撮像画像信号vに光電変換する素子であり、例えば抵抗ボロメータ方式、強誘電方式、SOIダイオード方式、サーモパイル方式等を用いた非冷却型の撮像素子である。なお、遠赤外線撮像素子11bのアスペクト比は、例えば3/2、画素数は360×240である。遠赤外線撮像部11は、連続的又は断続的に撮像処理を行い、撮像画像を構成する複数画素(x,y)夫々の撮像画像信号v(x,y)を、例えば1秒当たり30枚のフレームレートで生成し、画像構成処理部12及び温度算出部14へ出力する。なお、xは撮像画像の水平方向における画素の座標を示しており、yは撮像画像の垂直方向における画素の座標を示している。
【0017】
画像構成処理部12は、遠赤外線撮像部11から出力された撮像画像信号vの信号レベルに対応した階調値を、遠赤外線撮像部11の撮像特性に基づいて補正することで各画素の階調値を算出し、該階調値を有する撮像画像データを温度補正処理部16に与える。具体的には、画像構成処理部12は、遠赤外線撮像部11から出力されたアナログの撮像画像信号v(x,y)をデジタルの画像データにAD変換し、AD変換した画像データを画像メモリ13に一時記憶させる。画像メモリ13は、例えばSRAM、DRAM等の揮発性メモリである。そして、画像構成処理部12は、画像メモリ13に記憶させた画像データに対して撮像画像の不均一性を補正するNUC(Non-Uniformity Correction)処理、欠陥画素の補正処理等の各種画像処理を行い、画像処理された画像データを温度補正処理部16に与える。撮像画像を構成する各画素は、二次元に配列されており、画像データは各画素の位置(x,y)及び階調値V(x,y)として示される各画素の輝度を示すデータを含んでいる。NUC処理で補正された階調値V(x,y)は、下記式(1)で表される。
Vij=Gij・vij+Oij…(1)
但し、Vijは画素(x,y)=(i,j)の補正後の階調値、vijは画素(x,y)=(i,j)の撮像画像信号vの信号レベルに対応した階調値、Gijはゲイン補正値、Oijはオフセット補正値であり、i,jは、画素位置を示している。Gij、Oijは、例えば黒体炉、シャッタ等の温度分布が均一の物体を撮像して得た階調値に基づいて算出したものである。
【0018】
なお、画像構成処理部12で得られる画像データから被撮像体の相対的な温度分布を計測することは可能であるが、各画素の階調値V(x,y)と温度とは一対一対応していないため、温度を計測することはできない。これは、画像構成処理部12が、遠赤外線撮像部11の周囲環境の変動によって階調値のオフセットを変動させるためである。オフセットが変動した場合、被撮像体の温度が同じであっても階調値V(x,y)が変動してしまう。
【0019】
温度算出部14には、温度計測の基準となる温度計測標準体4aの温度(以下、標準体温度Ts という)を算出するために必要な定数を記憶したパラメータメモリ15が設けられている。パラメータメモリ15は、フラッシュメモリのような不揮発性メモリであり、温度計測標準体4aの赤外線放射率εと、遠赤外線撮像素子11bの感度、特に温度計測標準体4aから放射された遠赤外線が集光する撮像素子画素の感度Rと、ステファンボルツマン定数σと、温度計測標準体4aに対応する画素の位置(xT ,yT )を記憶している(図1、図5参照)。赤外線放射率ε及び感度Rは、温度計測装置1の製造時に測定し、測定して得た定数をパラメータメモリ15に記憶させておけば良い。
温度算出部14は、遠赤外線撮像部から出力された撮像画像信号vと、パラメータメモリ15が記憶している定数とに基づいて、標準体温度TSを算出する。
【0020】
次に、標準体温度TSの算出原理を説明する。熱平衡状態にある温度計測標準体4aから放射され、赤外線レンズ11aに入射する遠赤外線の放射エネルギーは下記式(2)で表される。但し、Uは放射エネルギー、λは温度計測標準体4aから放射される遠赤外線の波長、Ts は温度計測標準体の温度、Ωは立体角、Bλ (Ts )は、温度計測標準体4aの温度がTs である場合における波長λの遠赤外線の強度を示している。積分範囲は、波長8〜14μm、温度計測標準体4aが赤外線レンズ11aを見込む立体角の範囲である。
【0021】
【数1】
【0022】
温度計測標準体4aから放射された赤外線が赤外線レンズ11aに入射し、遠赤外線撮像素子11bに集光した場合、遠赤外線撮像素子11bは集光した放射エネルギーに応じた電圧レベルを有する撮像画像信号v(xT ,yT )を出力する。撮像画像信号vの信号レベルは下記式(3)で表される。但し、Rは遠赤外線撮像素子11bの感度R、特に温度計測標準体4aから放射された遠赤外線が集光する撮像素子画素の感度Rである。
v(xT ,yT )=R・U…(3)
【0023】
上記式(2)、(3)より、標準体温度TSは下記式(4)で表され、温度算出部14は下記式(4)を用いて、標準体温度TSを算出し、算出された標準体温度TSを温度補正処理部16に与える。
【0024】
【数2】
【0025】
なお、温度を算出する際、温度計測標準体4aから放射された遠赤外線のみを考慮したが、言うまでもなく、遠赤外線撮像部11を構成する赤外線レンズ11a、遠赤外線撮像素子11b、及び赤外線レンズ11aを保持する図示しない鏡筒も、周囲温度に応じた遠赤外線を放射している。また、車室内の周辺環境から反射された遠赤外線も存在する。従って、遠赤外線撮像素子11bから出力される撮像画像信号vの信号レベルと、温度の絶対値とを対応させるためには、赤外線レンズ11a、鏡筒及び遠赤外線撮像素子11b夫々の温度変動に対応する撮像画像信号vの信号レベルの変動に基づいて、標準体温度TSを補正する必要がある。例えば、温度計測標準体4aから放射された放射エネルギーから、遠赤外線撮像部11、その他の部材から放射される放射エネルギー分を減算する必要がある。遠赤外線撮像部11から放射されるエネルギーと温度との関係は予め測定し、パラメータメモリ15に記憶させておけば良い。
【0026】
温度補正処理部16は、例えばMPU(Microprocessor Unit)を備えたマイクロコンピュータであり、画像構成処理部12で画像処理された画像データを、温度に一対一対応した階調値W(x,y)を有する画像データに変換する後述の温度補正処理を実行する。MPUには、図示しないバスを介してMPUの制御に基づき実行される各種コンピュータプログラム及びデータを記録するROM、ROMに記録されたコンピュータプログラムの実行時に一時的に発生する各種データを記録するRAM、画像データを一時的に記録するフレームメモリ、I/Oポート等が接続されており、MPUが前記コンピュータプログラムを実行することによって、階調値W(x,y)の変換処理を実行する。温度補正処理部16は、温度補正された画像データを通信インタフェース18に与える。通信インタフェース18は、温度補正された画像データをNTSC(National Television System Committee Standard)等のアナログ信号、IEEE1394、MOST規格に準拠したデジタルの画像データに変換し、ECU2に送信する。
【0027】
また、温度計測装置1は、温度補正処理に必要な各種パラメータを記憶する温度パラメータメモリ17を備えている。
温度パラメータメモリ17は、フラッシュメモリのような不揮発性メモリであり、被撮像体の絶対温度分布を測定するためのゲインDb、温度計測標準体4aに対応すべき所定画素(xT、yT)の座標位置を記憶している。ゲインDbは、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の時間的な変化量、つまり被撮像体の温度が単位温度1℃変化した場合の階調値の変化量を示している。ゲインDbは、被撮像体の温度に拘わらずほぼ一定の値であるため、温度計測装置1の製造時に測定しておき、測定して得たゲインDbを温度パラメータメモリ17に記憶させておけば良い。
また、温度パラメータメモリ17は、外部のECU2にて絶対温度分布を認識できるように画像データの階調値を変換するためのゲインDx及び測定基準温度TMINを記憶している。ゲインDxは、下記式(5)で表される定数である。
Dx=最大階調値PMAX/(測定上限温度TMAX−測定基準温度TMIN)…(5)
【0028】
ゲインDxは、絶対温度分布を示す画像データにおいて、単位温度1℃の変化量に対応する階調値の変化量を示している。
【0029】
図3は、ECU2の構成を示すブロック図である。ECU2は、車室内の絶対温度分布を利用して空調装置、エアバッグ装置等の被駆動部3の動作を制御する制御装置である。ECU2は制御部21を備えており、制御部21には、バス27を介してROM22、RAM23、通信インタフェース24、画像メモリ25、制御インタフェース26等が接続されている。
【0030】
ROM22は、温度計測装置1から送信された画像データに基づいて、車室内の温度を算出する処理、車室内の絶対温度分布に基づいて被駆動部3の動作を制御するためのコンピュータプログラムを記憶している。また、ROM22は、ゲインDx、測定基準温度TMINを記憶している。
【0031】
RAM23は、制御部21によるコンピュータプログラムの実行時に発生する各種データを記憶する揮発性メモリである。
【0032】
通信インタフェース24は、温度計測装置1から送信された画像データを受信し、画像メモリ25は、通信インタフェース24で受信した画像データを一時記憶する。制御インタフェース26は、制御部21の制御によって制御信号を被駆動部3へ出力し、被駆動部3の動作を制御する。
【0033】
被駆動部3は、例えば空調装置であり、運転者の上半身部分及びその周辺の絶対温度分布を用いて、空調装置による送風温度、送風方向、送風速度等を制御することができ、より快適に車室内を空調することができる。
また、被駆動部3は、例えばエアバッグ装置であり、絶対温度分布を用いることによって、運転者の頭部、上半身、その周辺部分を判別し、運転者の有無、眼鏡装着の有無、体型、姿勢等をより正確に認識することができ、運転者の頭部の位置、眼鏡装着の有無、体格、姿勢等に応じてエアバッグの展開方法を制御することができ、車両C衝突時、安全に運転者を保護することができる。
【0034】
図4は、温度補正処理に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。温度補正処理部16は、画像構成処理部12から出力された画像データを取得する(ステップS11)。そして温度補正処理部16は、温度算出部14に所定画素(xT、yT)の撮像画像信号vを取得させ(ステップS12)、パラメータメモリ15から赤外線放射率ε、感度R及びボルツマン定数σを読み出させ(ステップS13)、標準体温度TSを算出させる(ステップS14)。
【0035】
次いで、温度補正処理部16は、温度計測標準体4aに対応する所定画素(xT、yT)の階調値Z=V(xT ,yT )を特定する(ステップS15)。
【0036】
図5は、撮像画像及び所定画素(xT、yT)を説明するための説明図である。横長矩形枠は撮像画像を示しており、横軸Xは水平ライン、縦軸Yは垂直ラインを示している。白丸部分は温度計測標準体4aに対応する所定画素(xT、yT)を示している。温度補正処理部16は、所定画素(xT、yT)の階調値Zと、標準体温度TSとから一の階調値Zと一の温度Ts とを対応付けることができる。
【0037】
次いで、温度補正処理部16は、ゲインDb、ゲインDx、及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS16)、階調値V(x,y)を、温度を示す階調値W(x,y)に変換する温度補正処理を実行する(ステップS17)。
【0038】
図6は、階調値V(x,y)と温度TABS との対応関係を示すグラフである。横軸は階調値V(x,y)、縦軸は各画素に対応する被撮像体の温度TABS を示している。なお、温度TABSは、温度の絶対値を示している。図6に示すように、温度TABS は、階調値V(x,y)に比例しており、その比例係数は1/ゲインDbである。従って、温度算出部14から取得した標準体温度TSと、温度計測標準体4aを撮像して得た所定画素(xT、yT)の階調値Zと、ゲインDbとから、階調値V(x,y)と、温度TABS とを一対一で対応付けることができる。温度TABS は、下記式(6)で表される。
TABS =V(x,y)/Db+Ts −Z/Db…(6)
【0039】
なお、上記式(6)は、階調値V(x,y)が温度TABS に比例することを前提としており、撮像画像信号vの信号レベルが温度の4乗に比例することと矛盾するように見えるが、室温範囲では階調値V(x,y)は近似的に温度TABS に比例することが知られている。
【0040】
ところが、階調値V(x,y)を有する画像データをそのまま外部のECU2に送信しても、ECU2側では階調値V(x,y)と温度との対応が取れていないため、被撮像体の温度を算出することができない。そこで、温度補正処理部16は、2つの要素に対して対応付けを行う。第1の要素は、オフセット、即ち測定基準温度TMINであり、第2の要素はゲイン、即ち温度変化量に対する階調値の変化量の比率である。ECU2は、オフセット及びゲインとして、所定の測定基準温度TMIN及びゲインDxを記憶しているため、温度補正処理部16は、ECU2側で測定基準温度TMIN及びゲインDxにて温度を算出することができるように階調値V(x,y)を階調値W(x,y)に変換する。
【0041】
図7は、階調値と温度TABS との対応関係を示すグラフである。横軸は階調値W(x,y)、縦軸は温度TABS を示している。ステップS15で温度補正処理部16は、図7に示すように階調値1を測定基準温度TMINに合わせ、単位温度1℃変化した場合の階調値の変化量がゲインDxになるように、階調値V(x,y)を階調値W(x,y)に変換する。
【0042】
温度補正された階調値W(x,y)は、下記式(7)で表される。
W(x,y)=(TABS −TMIN )×Dx…(7)
結局、上記式(7)は下記式(8)のように式変形することができ、温度補正処理部16は、下記式(8)にて階調値W(x,y)を算出する。
W(x,y)=Dx/Db×〔V−{Z−(Ts −TMIN )×Db}〕…(8)
【0043】
例えば、測定基準温度TMINを16℃、ゲインDxを8とした場合、16℃〜48℃の範囲と、階調値1〜256とを一対一で対応付けることができる。この場合、20℃は階調値32に対応する。
なお、変換後の階調値W(x,y)が0以下又は256より大きな値になった場合、階調値W(x,y)は夫々1と、256とに丸められる。
【0044】
次いで、温度補正処理部16は、温度補正された階調値W(x,y)を有する画像データをECU2へ送信する(ステップS18)。
【0045】
図8は、ECU2の制御部21の処理手順を示すフローチャートである。制御部21は、温度計測装置1にて温度補正された画像データを受信する(ステップS21)。次いで、制御部21は、ROM22からゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS22)、階調値W(x,y)、ゲインDx及び測定基準温度TMINに基づいて温度TABS を算出し(ステップS23)、処理を終える。
【0046】
温度TABS は、下記式(9)によって算出することができる。
TABS =W(x,y)/Dx+TMIN …(9)
【0047】
このように構成された実施の形態に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、従来の車両用温度測定装置に比してより正確に被撮像体の絶対温度分布を測定することができる。
【0048】
また、従来技術のように標準発熱体及び温度センサが不要であるため、該標準発熱体を制御する各種回路が不要になり、温度計測装置1を簡単且つ低コストで構成することができる。
【0049】
更に、一般のサーモグラフィに比べて簡単な構成で、被撮像体の温度の絶対値を測定することができる。なお、サーモグラフィは、測定する度に測定物の赤外線放射率の値を求めて入力する必要があるが、本発明では、温度計測標準体4aの赤外線放射率εを予めパラメータメモリ15に記憶させているため、赤外線放射率を求めて、入力する手間を省くことができる。
【0050】
更にまた、従来技術のようにヒータへの通電及び通電の制御を行う必要がないため、低消費電力で被撮像体の絶対温度分布を測定することができる。
【0051】
更にまた、従来技術のようにヒータへの通電を制御するための通信線、電源ケーブル等を引き回し、各種回路を配置する必要がないため、省スペースを図ることができる。特に自動車分野ではエレクトロニクス化が進む一方で車両Cの小型化、車内空間の拡大が求められているため、車両C搭載用の温度計測装置1にあっては特に効果的である。
【0052】
更にまた、温度測定装置の周囲環境に応じて画像構成処理部12が階調値V(x,y)のオフセットを変更させるように構成した場合であっても、温度と一対一対応した階調値W(x,y)を外部装置に送信することができる。
【0053】
図9は、第1の変形例に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。第1の変形例に係る温度パラメータメモリ17は、周囲温度に応じて異なる複数のゲインDb1、…、Dbk、…を記憶しており、温度補正処理部16は、周囲温度に対応したゲインDbkを用いることによって、より正確な温度の測定を可能にしたものである。但し、kは2以上の自然数である。
【0054】
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS31)、温度算出部14に所定画素(xT、yT)の撮像画像信号vを取得させ(ステップS32)、パラメータメモリ15から赤外線放射率ε、感度R及びボルツマン定数σを読み出させ(ステップS33)、標準体温度TSを算出させる(ステップS34)。次いで、温度補正処理部16は、所定画素(xT、yT)の階調値Zを特定する(ステップS35)。そして、温度補正処理部16は、ステップS34で算出された標準体温度TSに基づいて、該標準体温度TSに対応するゲインDbkを選択して読み出す(ステップS36)。以下、図4と同様、ゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS37)、温度補正処理を行い(ステップS38)、温度補正された画像データを送信し(ステップS39)、処理を終える。
【0055】
第1の変形例に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、温度計測装置1の周囲温度に応じたゲインDbkを用いることによって、周囲温度に拘わらず、被撮像体の温度を正確に計測することができる。
【0056】
図10は、第2の変形例に係る温度補正処理部16の処理手順を示すフローチャートである。第2の変形例に係る温度パラメータメモリ17は、周囲温度に応じて線形的に変化するゲインDbを規定する定数a,bを記憶している。定数a,bは、Db(Ts )=a×Ts +bで表されるゲインDbを規定する値であり、温度計測装置1の製造時に予め測定及び算出し、温度パラメータメモリ17に記憶させておく。温度補正処理部16は、定数a,b及び温度算出部14が算出した標準体温度TSに基づいてゲインDbを算出し、算出されたゲインDbを用いることによって、より正確な温度の測定を可能にしたものである。
【0057】
温度補正処理部16は、図4と同様、画像データを取得し(ステップS41)、温度算出部14に所定画素(xT、yT)の撮像画像信号vを取得させ(ステップS42)、パラメータメモリ15から赤外線放射率ε、感度R及びボルツマン定数σを読み出させ(ステップS43)、標準体温度TSを算出させる(ステップS44)。次いで、温度補正処理部16は、所定画素(xT、yT)の階調値Zを特定する(ステップS45)。そして、温度補正処理部16は、温度パラメータメモリ17からゲインDb算出用の定数a,bを読み出し(ステップS46)、標準体温度TS、及び定数a,bに基づいて、ゲインDb(TS )=a×TS +bを算出する(ステップS47)。以下、図4と同様、ゲインDx及び測定基準温度TMINを読み出し(ステップS48)、温度補正処理を行い(ステップS49)、温度補正された画像データを送信し(ステップS50)、処理を終える。
【0058】
第2の変形例に係る温度計測装置1及び車両Cにあっては、温度計測装置1の周囲温度に応じたゲインDbを算出することによって、温度計測装置1の周囲温度に拘わらず、被撮像体の温度を正確に計測することができる。
【0059】
なお、実施の形態及び変形例にあっては、遠赤外線にて被撮像体を撮像する場合を説明したが、他の周波数帯域の赤外線にて被撮像体を撮像し、温度を測定するように構成しても良い。但し、遠赤外線撮像素子を用いた場合、車室内に入射する外光の影響を受けないため、正確に被撮像体の絶対温度分布を計測することができ、好適である。
【0060】
また、標準体温度TSとして、瞬間の温度を用いる場合を説明したが、異なる時刻で複数の標準体温度TSを取得し、該複数の標準体温度TSから移動平均を算出し、該移動平均を用いて階調値を変更するように構成しても良い。同様に、IIR(Infinite Impulse Response)フィルタにて標準体温度TSの変動を抑制するように構成しても良い。フィルタ期間は、例えば0.5〜1.5秒程度が好ましく、温度変化に追従でき、且つノイズを効果的に抑制することができる。このように構成した場合、標準体温度TSの短期的変動によって、測定される温度が揺らぐことを防止することができる。
更に、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の実施の形態に係る温度計測システムの構成を示す模式図である。
【図2】本発明に係る温度計測装置の構成を示すブロック図である。
【図3】ECUの構成を示すブロック図である。
【図4】温度補正処理に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】撮像画像及び所定画素を説明するための説明図である。
【図6】階調値と温度との対応関係を示すグラフである。
【図7】階調値と温度との対応関係を示すグラフである。
【図8】ECUの制御部の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】第1の変形例に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【図10】第2の変形例に係る温度補正処理部の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0062】
1 温度計測装置
2 ECU
3 被駆動部
4 天井部分
4a 温度計測標準体
11 遠赤外線撮像部
11a 赤外線レンズ
11b 遠赤外線撮像素子
12 画像構成処理部
13 画像メモリ
14 温度算出部
15 パラメータメモリ
16 温度補正処理部
17 温度パラメータメモリ
18 通信インタフェース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する赤外線撮像部を備え、該赤外線撮像部から出力された撮像画像信号の信号レベルに対応した各画素の階調値を、前記赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正し、補正した各画素の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置であって、
所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号及び該温度計測標準体の温度の対応関係と、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係とを記憶する記憶手段と、
前記所定画素の撮像画像信号及び前記対応関係に基づいて、前記所定画素に対応する温度計測標準体の温度を算出する温度算出手段と、
該温度算出手段が算出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記所定画素の補正後の階調値、及び他の画素の補正後の階調値に基づいて、前記所定画素以外の他の画素の階調値を該画素に対応する被撮像体部分の温度を示す階調値に変換する変換手段と
を備える温度計測装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶しており、
更に、前記温度算出手段が算出した温度に基づいて、該温度に対応する前記関係を選択する選択手段を備え、
前記変換手段は、
前記選択手段が選択した前記関係に基づいて、前記他の画素の階調値を変換するようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記記憶手段が記憶している関係は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係であり、該比例関係を規定する比例係数は前記温度算出手段が算出する温度の関数である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の温度計測装置と、
車室内に配されており、所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体と
を備え、
前記温度計測装置は、前記所定画素と前記温度計測標準体とが対応するように配されている
ことを特徴とする車両。
【請求項1】
赤外線にて被撮像体を撮像し、撮像画像を構成する複数画素夫々の撮像画像信号を出力する赤外線撮像部を備え、該赤外線撮像部から出力された撮像画像信号の信号レベルに対応した各画素の階調値を、前記赤外線撮像部の撮像特性に基づいて補正し、補正した各画素の階調値に基づいて被撮像体の温度を計測する温度計測装置であって、
所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体に対応すべき所定画素の撮像画像信号及び該温度計測標準体の温度の対応関係と、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の関係とを記憶する記憶手段と、
前記所定画素の撮像画像信号及び前記対応関係に基づいて、前記所定画素に対応する温度計測標準体の温度を算出する温度算出手段と、
該温度算出手段が算出した温度、前記記憶手段が記憶している関係、前記所定画素の補正後の階調値、及び他の画素の補正後の階調値に基づいて、前記所定画素以外の他の画素の階調値を該画素に対応する被撮像体部分の温度を示す階調値に変換する変換手段と
を備える温度計測装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、周囲温度に応じて異なる複数の前記関係を記憶しており、
更に、前記温度算出手段が算出した温度に基づいて、該温度に対応する前記関係を選択する選択手段を備え、
前記変換手段は、
前記選択手段が選択した前記関係に基づいて、前記他の画素の階調値を変換するようにしてある
ことを特徴とする請求項1に記載の温度計測装置。
【請求項3】
前記記憶手段が記憶している関係は、各画素に対応する被撮像体部分の温度の変化量及び各画素の階調値の変化量の比例関係であり、該比例関係を規定する比例係数は前記温度算出手段が算出する温度の関数である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の温度計測装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一つに記載の温度計測装置と、
車室内に配されており、所定の赤外線放射率を有する温度計測標準体と
を備え、
前記温度計測装置は、前記所定画素と前記温度計測標準体とが対応するように配されている
ことを特徴とする車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−150842(P2009−150842A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330831(P2007−330831)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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