説明

温度調節機能を持つ不織布及びその製造方法

【課題】 温度調節機能に優れた不織布を提供すること。
【解決手段】 融点が30〜50℃の、アクリル酸もしくはそのエステル誘導体、あるいはメタクリル酸もしくはそのエステル誘導体とワックスとの重合体0.2〜40wt%、および熱可塑性重合体60〜99.8wt%で、示差走査熱量測定法(DSC)による融解熱量が1〜90J/gである樹脂組成物からなる芯部が、繊維形成性重合体からなる鞘部で完全に包み込まれた芯鞘構造で、DSCによる融解熱量が0.5J/g以上、凝固熱量が0.1J/g以上である複合繊維を用いたことを特徴とする温度調節機能を持つ不織布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度調節機能を持つ不織布に関するものである。例えば、背広、作業服、スキー・スケートウエア,ダイビングスーツ,釣り・登山等のウエア,トレーニングウエア等のスポーツ衣料品等の衣服の芯材、寝具品等の中綿、その他、靴内材、ヘルメット内材、車両内装材、室内用内装材、合成皮革基布等の製品、または保温・保冷が要求される食品包装材等の分野に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
従来、温度変化が著しい環境で着用する防寒着、スポーツ衣料品等では、綿、ダウン、フェザー等の保温材料を用いて体温の低下を防ぐ方法が知られている。しかし、このような方法は衣料品の重量が増加したり、嵩高になってしまうという問題があるため、布地の一部にアルミニウム等の金属蒸着膜を形成し、保温材料とすることが具体化されている。さらに近年では、吸水すると発熱する材料を布地に付着させたスポーツ衣料品等が利用されている。
【0003】
しかし、このような材料は、確かに保温材料とはなるが、温度調節機能を有していない。そこで、合成樹脂繊維と、この合成樹脂繊維に長手方向に略沿った方向に略連続して混入された蓄熱性物質とを具備した蓄熱性繊維及びそれを用いた不織布に関する技術が提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかし、この方法で潜熱蓄熱剤として具体的に用いられているパラフィン系炭化水素(パラフィンワックス)は、融点が30℃以下、即ち人間の皮膚表面温度以下であるので、この繊維で作られた不織布を使用した衣服を身に付けた時点で相転移をしてしまい、温度調節の機能を果たさない。
【0005】
一方、本出願人は、良好な温度調節機能を有する複合繊維を既に提案している(特許文献2)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−317329号公報
【特許文献2】国際公開第WO2005/005699号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、実用に適する優れた温度調節機能を有する不織布を提供することにある。また、本発明の目的は、不織布の強度、柔らかさ、軽量性、通気性、加工のし易さなど製品の扱い易さを保持しながらも、実用に適する優れた温度調節機能を有する不織布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的は、融点が30〜50℃の、アクリル酸もしくはメタクリル酸およびそれらのエステル誘導体とワックスとの重合体0.2〜40wt%、および熱可塑性重合体60〜99.8wt%で、示差走査熱量測定法(DSC)による融解熱量が1〜90J/gであることを特徴とする混合樹脂からなる芯部が、繊維形成性重合体からなる鞘部で完全に包み込まれた芯鞘構造で、DSCによる融解熱量が0.5J/g以上、凝固熱量が0.1J/g以上である複合繊維を用いた不織布により達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の不織布は、優れた温度調節機能を有しているので、環境温度の変化による衣服内の急激な温度変化が少なく、快適性をもたらす効果が非常に高い。また、不織布の強度、柔らかさ、軽量性、通気性にも優れており、加工のし易さや製品の取り扱い易さも保持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に用いる温度調節機能を持つ複合繊維は、融点が30〜50℃の、アクリル酸もしくはメタクリル酸あるいはそれらのエステル誘導体とワックスとの重合体(以下、「温調成分」と記す)0.2〜40wt%、および熱可塑性重合体60〜99.8wt%で、示差走査熱量測定法(DSC)による融解熱量が1〜90J/gである混合樹脂からなる芯部が、繊維形成性重合体からなる鞘部で完全に包み込まれた芯鞘構造であることを特徴とする。
【0011】
上記アクリル酸としては、ポリエイコシルアクリレート、ポリノナデシルアクリレート、ポリヘプタデシルアクリレート、ポリパルミチルアクリレート、ポリペンタデシルアクリレート、ポリステアリルアクリレート、ポリラウリルアクリレート、ポリミリスチルアクリレート等、またはこれらのアクリル酸の誘導体である。同じくメタクリル酸としては、ポリドコシルメタクリレート、ポリヘンエイコシルメタクリレート、ポリミリスチルメタクリレート、ポリペンタデシルメタクリレート、ポリパルミチルメタクリレート、ポリヘプタデシルメタクリレート、ポリノナデシルメタクリレート、ポリエイコシルメタクリレート、ポリヘステアリルメタクリレート、ポリ(パルミチル/ステアリル)メタクリレート等、またはこれらのメタクリル酸のエステルである。これらアクリル酸もしくはメタクリル酸およびそれらの誘導体のエステルは、単独で用いても、または2つ以上を組み合わせて用いても良い。
【0012】
上記ワックスとしては、パラフィンワックスを用いる。例えば、ヘプタデカン(融点22℃)、オクタデカン(融点28℃)、ノナデカン(融点32℃)、エイコサン(融点36℃)、ヘンエイコサン(融点40℃)、ドコサン(融点44℃)等が挙げられる。
【0013】
そして、前述した温調成分の融点は、30〜50℃である必要がある。融点を30℃未満とすると、相転移温度が人体の皮膚表面温度以下となり、身に付けた時点で相転移をしてしまうので温度調節が機能せず、50℃を超えると、相転移温度が日常の生活温度以上となり、同様に温度調節が機能しない。より好ましくは、32〜40℃である。
【0014】
熱可塑性重合体に混合する温調成分は、0.2wt%未満では温度調節機能を充分に確保できず、40wt%を超えると、繊維強度、紡糸性が低下する。好ましくは1.0〜40wt%、より好ましくは5〜30wt%とするのがよい。
【0015】
温調成分を混合する熱可塑性重合体は、溶融紡糸可能な繊維形成性重合体であればよく、このような重合体の具体例としてはナイロン6やナイロン66等ポリアミド、ポリエチレンテレフタレ−トやポリブチレンテレフタレ−ト等ポリエステル、ポリエチレンやポリプロピレン等ポリオレフィン等、又はこれらを主成分とする重合体、更にはポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン2,6ナフタレ−ト、全芳香族ポリエステル等の耐熱性熱可塑性重合体が挙げられるが、好ましくはポリプロピレンである。
【0016】
複合繊維の鞘部を構成する繊維形成性重合体は、溶融紡糸可能な繊維形成性重合体であればよく、このような重合体の具体例としてはナイロン6やナイロン66等ポリアミド、ポリエチレンテレフタレ−トやポリブチレンテレフタレ−ト等ポリエステル、ポリ乳酸、ポリエチレンやポリプロピレン等ポリオレフィン等、又はこれらを主成分とする重合体、更にはポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン2,6ナフタレ−ト、全芳香族ポリエステル等の耐熱性熱可塑性重合体が挙げられるが、好ましくは、ナイロン6、ポリエチレンテレフタレートおよびポリ乳酸である。
【0017】
本発明に用いる複合繊維は、通常のコンジュゲート型複合紡糸装置を用いることにより、容易に製造することができる。通常の速度500〜1500m/分程度で紡糸し、ついで延伸熱処理する方法、またスピンドロー法、高速紡糸法により製造することが可能である。
【0018】
複合繊維の断面形状は円形、多角形、多葉形などの非円形など問わないが、温調成分を混合した熱可塑性重合体からなる芯部を、繊維形成性重合体からなる鞘部で完全に包み込んだ芯鞘構造を特徴とする。これによって、芯部の温調成分の飛散を防止するので、重量割合が紡糸中に低下することはない。
【0019】
上記繊維形成性重合体には少量の他の任意の重合体や酸化防止剤、制電剤、顔料、艶消し剤、抗菌剤、不活性微粒子その他の添加剤が含有されても良い。
【0020】
更に述した複合繊維は、繊維径方向断面の芯部の面積割合が8〜60%であるのが好ましい。芯部の面積割合が8%以上であれば、充分な温度調節機能を確保することができる。また、芯部の面積割合が60%以下であれば、繊維強度を確保することができる。
【0021】
特に、ポリプロピレンのような染色性の悪い樹脂組成物を芯部に用いる場合、繊維全体の染色性を考慮して、芯部の面積割合は20〜50%であることが好ましい。
【0022】
また、前述した温調成分と熱可塑性重合体とからなる樹脂組成物の融解熱量は、1〜90J/gである必要がある。
融解熱量を1J/g未満とすると温度調節機能の低下を招き、90J/gを超えると、紡糸した際の繊維物性が低下する。好ましくは2〜50J/gである。
【0023】
この樹脂組成物を芯部に配した複合繊維の融解熱量は、樹脂組成物の融点付近において、0.5J/g以上であることが必要である。好ましくは0.5〜60J/g、更に好ましくは1.0〜30J/gである。また、この複合繊維の凝固熱量は、樹脂組成物の凝固点付近において、0.1J/g以上で有ることが必要である。好ましくは0.1〜20J/g、更に好ましくは0.5〜10J/gである。
【0024】
本発明に用いる複合繊維の単糸繊度は特に規定しないが、1〜20dtexが好ましい。単糸繊度が1dtex以上であれば、繊維化は容易であるし、20dtex以下であれば不織布の柔らかさを確保できるからである。
【0025】
また、不織布を形成する複合繊維のカット長は、30〜150mmのものが多く使用される。
【0026】
本発明の不織布においては、複合繊維を、不織布の繊維全体中、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上、特に好ましくは25wt%以上含有させる。複合繊維が5wt%以上含有されていれば、充分な温度調節が可能である。不織布中、複合繊維少量でも、充分な温度調節機能を発揮できるので、一緒に用いる他の素材の特徴を活かしながら、温度調節機能を付与できる。
【0027】
本発明の不織布には、上記複合繊維の他、一般的な合成繊維として、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ナイロン6、ナイロン66等、再生繊維として、レーヨン、アセテート等、天然繊維として、綿、麻、羊毛、絹等が使用される。
【0028】
また、本発明の不織布は、熱融着バインダー繊維を含有させてもよい。
【0029】
バインダー繊維は、サイドバイサイド型、芯鞘型の、融点の異なるポリマーを複合した繊維である。ポリマーの種類としては、低融点ポリマーとして、ポリオレフィン、共重合ポリエステル、ナイロン及びこれらの変成物が使用される。高融点ポリマーとして、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66等が使用される。
【0030】
これらバインダー繊維を用いる場合、その含有量は、不織布の繊維全体中、5〜20wt%とすることが好適である。
【0031】
本発明の不織布は、目付が100g/m以下、厚みが5mm以下であることが好適である。目付は60g/m以下であることがより好ましい。軽くて、ソフトな手触りであり、衣類のファッション性を損なわない不織布を得るには、不織布の目付が小さい方が好適である。
【0032】
本発明の不織布を製造するにあたり、その製造方法としては、例えば、カード、クロスレイ、ドロー、ニードルパンチによる製造方法が挙げられる。また、ランダムカード、ニードルパンチによる製造方法でもよい。
【0033】
また、バインダー繊維を使用する場合、サーマルボンディングを行ってもよい。複合繊維の繊維形成性重合体がポリアミドであるとき、不織布の予熱温度を90〜140℃とし、熱融着部分を90〜140℃、すなわち、90〜140℃の成形温度に加温された加温された金型を用いてプレス成形することが好適である。
【0034】
熱融着部分の温度が90℃未満であると、十分な熱融着が得られない。140℃を超えると、複合繊維の芯鞘構造の剥離が発生し、温度調節機能の低下を招く。
【0035】
また、成形時の圧力は、30kg/cm以上で行う。30kg/cm未満であると、十分な熱融着が得られない。好ましくは50kg/cm以上である。
【0036】
本発明の不織布は、複合繊維が少量で優れた温度調節機能を発揮するので、不織布の目付が小さい、薄い厚みの不織布とすることができ、軽くて、ソフトな手触りであり、衣類のファッション性を損なわない不織布が得られる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0038】
各評価は下記のようにして行った。
1)融解熱量及び凝固熱量
示差走査熱量計(DSC−7:パーキンエルマージャパン社製)にて、試料10mg、昇温および降温速度5℃/分で測定し、温調成分の融点の±5℃の範囲においてそれぞれの熱量を求めた。
2)機械方向破断伸度
JIS L 1906
3)幅方向破断伸度
JIS L 1906
4)引張り強度
JIS L 1085
5)成形状況
i)実施例又は比較例と同じ条件でポリエステルを用いて不織布を作り、操業し易さ及び成形品を比較する。ポリエステル品より悪ければ ×。良ければ、保留する。
ii)140℃、60kg/cmとする他はi)の条件で新たにポリエステルの不織布を作り、条件i)で作った成形品と再度比較して、ポリエステル品より悪ければ ×、 余り差が無かったら ○、良ければ ◎。
6)風合い
良好 ○、悪い ×。
7)総合評価
上記4)〜6)が良好であったもの、○、1つでもだめであれば、×。
〔実施例1〕
メタクリル酸とパラフィンワックスとの重合体を混合したポリプロピレンを芯部、ナイロン6を鞘部に配した複合繊維を調製した。
【0039】
なお、この複合繊維の芯部に用いた樹脂組成物は、融点が34℃の、メタクリル酸とパラフィンワックスとの重合体を、ポリプロピレンに30%混合したものである。この樹脂組成物の融点における融解熱量は50J/g、凝固点における凝固熱量は20J/gであった。また、複合繊維において、その芯部の面積割合は40%であり、融解熱量は4.0J/g、凝固熱量は3.6J/gであった。
【0040】
上記複合繊維(繊度78dtex、長さ51mm)を25質量%、ポリエステル繊維(繊度70dtex、長さ51mm)70質量%、ポリエステル系バインダー繊維(繊度80dtex、長さ51mm)5質量%を用い、定法によりカード、クロスレイ、ドロー後、軽くニードルパンチを行ない、目付50g/m、厚さ2mmの不織布を製造した。この不織布の機械方向の破断伸度は75%、幅方向の破断伸度は85%であった。
【0041】
この不織布をプレス型不織布成形機で成形した。不織布成形する際に不織布の予熱温度を110℃、110℃に加温された金型を用いて、50kg/cmの圧力で、30秒間プレス成形した。金型には、30cm角の上部開口部と20cm角の底部の深さ1cmの台形の金型を使用した。金型は縁部および3cm角の3mm幅の格子部分のみが加圧により熱融着されるようにクリアランスをゼロとし、その他の部分はクリアランスが3mmの仕様とした。
【0042】
本発明の不織布成形品は加圧熱融着部分のみが熱融着された角皿状に厚さムラも殆どなくきれいに成形された。加圧熱融着部分は引張り強度15kg/5cmの強度を示し、殆どフィルム化されていた。
〔実施例2〜6〕
複合繊維の混率を表1に示すように変化させ、予熱温度を120℃、120℃に加温された金型を用いた他は実施例1と同様にして不織布を調製した。
【0043】
【表1】

【0044】
〔実施例7〜10、比較例1〕
不織布の目付けを表2に示すように変化させ、予熱温度を120℃、120℃に加温された金型を用いた他は実施例1と同様にして不織布を調製した。
【0045】
【表2】

【0046】
〔実施例11〜15〕
予熱温度及びプレス温度を表3に示すように変化させ、その他は実施例1と同様にして不織布を調製した。
【0047】
【表3】

【0048】
〔実施例16〜17〕
プレス圧力を表4に示すように変化させ、予熱温度を120℃、120℃に加温された金型を用いた他は実施例1と同様にして不織布を調製した。
【0049】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0050】
このような温度調節機能を持つ不織布を、背広、作業服、スキー・スケートウエア,ダイビングスーツ,釣り・登山等のウエア,トレーニングウエア等のスポーツ衣料品等の衣服の芯材、寝具品等の中綿、食品包装材等の材料とすることにより、これらの製品に温度調節機能を持たせることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が30〜50℃の、アクリル酸もしくはそのエステル誘導体、あるいはメタクリル酸もしくはそのエステル誘導体とワックスとの重合体0.2〜40wt%、および熱可塑性重合体60〜99.8wt%で、示差走査熱量測定法(DSC)による融解熱量が1〜90J/gである樹脂組成物からなる芯部が、繊維形成性重合体からなる鞘部で完全に包み込まれた芯鞘構造で、DSCによる融解熱量が0.5J/g以上、凝固熱量が0.1J/g以上である複合繊維を用いたことを特徴とする温度調節機能を持つ不織布。
【請求項2】
繊維形成性重合体がポリアミドである請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
複合繊維を不織布の繊維全体に対して5wt%以上含有してなり、かつ不織布の目付けが100g/m以下、厚みが5mm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の不織布。
【請求項4】
請求項2記載の不織布を熱融着により製造するに際し、熱融着部分を90℃以上、140℃以下の温度で、30kg/cm以上の加圧を行い、熱融着することを特徴とする温度調節機能を持つ不織布の製造方法。