説明

温湿度データを付与できる水質計

【課題】 pHなどの水質測定と共に、測定環境雰囲気の温湿度を自動的に測定することができ、その測定結果を水質計に取り込んで記憶又は印刷することが可能であり、更には測定環境雰囲気の温度を用いて測定精度の向上を図ることが可能な水質計を提供する。
【解決手段】 水質計本体1に温湿度測定ユニット5を備え、水質測定と共に、測定環境雰囲気の温度と湿度を測定できる。更に水質計本体1の内部に温度測定器6を備え、水質計本体1内部の温度を測定することもできる。この測定環境雰囲気及び/又は水質計本体内部の温度測定データに基づいて、水質計本体1に内蔵されている水質測定処理用の電気回路の温度ドリフトを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、河川や湖沼の水質調査、工業用水や工場排水などの水質調査において、液体試料のpH、イオン濃度、溶存酸素量、電気伝導率などの測定に用いられる水質計に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、pHやイオン濃度などを測定する水質計は、本体前面に入力操作部と表示部を備えると共に、センサー部からの信号に基づいて演算処理を行う制御部が本体内に内蔵されている。そして、pHなどの測定データは、表示部に表示ないし印字されると共に水質計本体に記憶され、あるいはパソコンなどへ測定データを出力したりしている。
【0003】
上記したpHなどの測定データには、その測定データの管理のために、測定の日付や日時、サンプル番号やサンプルIDが付加されている。また、特にpHの測定データについては、更に校正の日付や日時、校正の条件などが付加されることが多い。尚、pH測定電極の校正は使用する標準液の温度に影響されるため、標準液の温度を測定して、得られた温度に基づいて適正なpHに自動的に校正する装置が知られている(特開平05−133927号公報)。
【0004】
最近では、それらの測定データをレポートとしてまとめる際、測定環境(室内あるいは現地)の温度や湿度もあわせて記載することが多い。しかし、従来の水質計には温湿度の測定機能が備わっていいないため、測定環境の温度や湿度をそれぞれ別途測定しなければならず、その測定結果を水質計に取り込んで表示ないし記憶させ又は印刷させることも不可能であった。
【0005】
尚、発光分光分析装置では、周囲の温度変化により焦点のずれが生じ、これが測定精度を低下させることが知られている。従って、発光分光分析装置のような分析装置では、周囲の温度を測定し、周囲温度の一定時間あたりの変化量を測定者に知らせることによって、不安定要因を事前に察知するようにした装置も知られている(特開平11−166864号公報)。
【0006】
【特許文献1】特開平05−133927号公報
【特許文献2】特開平11−166864号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、安定した品質の製品やサービスを顧客に提供するため、品質マネジメントシステムISO9000の取得が増えている。このISO9000によれば、製品要求事項への適合を達成するために必要な作業環境を明確にし、管理することが規定されている。そのため、水質の測定においても、作業環境の代表である測定時の雰囲気温度・湿度などの測定と管理は欠かせない事項となっている。
【0008】
同様に品質管理の向上を目指して、幾つかの制度が実施されている。例えば、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」では、試験成績の信頼性の確保を目的として優良試験所規範制度が導入されている。また、「新規化学物質等に係る試験を実施する実施施設に関する基準」では、最終報告書に記載しなければならない項目として試験成績の信頼性に影響を及ぼしたと思われる環境要因が挙げられ、その代表的なものが測定時の雰囲気温度であると考えられている。更に、水道水質検査優良試験所規範には、水質検査に支障を生じない温度、湿度などの環境条件に関する事項にも注意すべきことが規定されている。
【0009】
しかしながら、従来の水質計には、測定環境の温度や湿度を測定する機能を備えたものは存在しなかった。そこで、現在では、水質計により測定したpHなどの測定データとは別に、測定環境である現場や室内の温度及び湿度を温度計や湿度計を用いて別途測定し、その結果をpHなどの水質測定データのレポートに付記している現状である。
【0010】
一方、従来から、上記した測定環境雰囲気の温度や湿度は、一般的なpH計を含めた水質計による測定データに影響を及ぼすことはないとされていた。しかし最近では、精度管理機能を中心とした水質計の高機能化の要求もあり、例えば高性能のpH計では測定環境雰囲気の温度などがpHの測定データに与える影響も注目されつつある。
【0011】
本発明は、このような従来の事情に鑑みてなされたものであり、pHなどの水質の測定と共に、その測定環境における雰囲気の温湿度を測定することができ、その測定結果を水質計に取り込んで表示・記憶又は印刷することも可能な水質計を提供することを目的とする。更に、本発明は、測定した測定環境雰囲気の温度を用いることにより、従来よりも測定精度の向上を図った水質計を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明が提供する水質計は、液体試料の少なくともpHを測定する水質計であって、水質計本体に固定又は着脱可能に設けるか若しくは水質計本体と有線又は無線で接続可能に設けた温湿度測定ユニットを備え、水質の測定と同時に、測定環境雰囲気の温度と湿度を測定できることを特徴とする。
【0013】
上記本発明の水質計においては、測定環境雰囲気の温湿度測定データを、液体試料の水質測定データと共に水質計本体に表示し、記憶し、印刷出力する各処理のうち、少なくとも1つの処理を行うことが好ましい。
【0014】
また、上記本発明にける水質計は、更に水質計本体の内部に温度測定器を備えることが好ましく、水質の測定と同時に、水質計本体内部の温度を測定することもできる。そして、前記測定環境雰囲気及び/又は水質計本体内部の温度測定データに基づいて、水質計本体に内蔵されている水質測定処理用の電気回路の温度ドリフトを補正することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、pHなどの水質の測定と共に、その測定環境における雰囲気の温度と湿度を自動的に測定できる水質計を提供することができる。従って、測定環境雰囲気の温度や湿度を別途測定する必要がなくなるうえ、その測定環境雰囲気の温湿度測定データを水質計に取り込み、水質測定データに付して印刷出力すれば、試験成績の品質管理及び信頼性確保に資することができる。
【0016】
また、本発明の水質計では、水質と共に測定した測定環境雰囲気あるいは水質計本体内部の温度測定データを用いることによって、水質計本体に内蔵されている水質測定処理用の電気回路の温度ドリフトを補正することができるため、従来よりもpHなどの水質測定データの精度向上を図ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の水質計は、液体試料のpH、イオン濃度、溶存酸素量、電気伝導率などを測定する本来の水質計としての機能と共に、その水質測定を行う室内あるいは屋外現場における測定環境雰囲気の温度と湿度を測定するための温湿度測定ユニットを備えている。使用する温湿度測定ユニットは、水質計本体の一部に取り付け可能な形態であって、周囲の温度及び湿度を測定できるものであれば特に制限はない。
【0018】
例えば、図1は本発明の水質計の一具体例を示すものであり、水質計本体1の前面に入力操作部2と表示部3を備えると共に、センサー部4からの信号に基づいて演算処理を行う制御部が水質計本体1内に内蔵されている。そして、水質計本体1の一部には、測定環境雰囲気の温度と湿度を測定するための温湿度測定ユニット5が取り付けてある。温湿度測定ユニット5は、図1に示すように水質計本体1の一部に固定して又は着脱可能に設けてもよいし、水質計本体1に対して有線又は無線で接続可能に設けることもできる。
【0019】
尚、水質計本体1の入力操作部2には複数の操作ボタンが設けてあり、これらの操作ボタンは操作キーシートのように一まとめにされている場合が多い。これらの操作ボタンには予め特定の機能が割り当てられ、例えば図1においては、CALボタンは校正操作、MENUボタンは測定条件の設定操作、ENTERボタンは設定や操作の決定、CLEARボンタンはデータの消去やエラーの解除の機能などがそれぞれ設定されている。
【0020】
また、上記した本発明の水質計においては、水質測定時における測定環境雰囲気の温度と湿度の管理範囲を、操作ボタンを用いて予め又は後から任意に設定することもできる。その場合、水質測定時における測定環境雰囲気の温度及び湿度のいずれかが設定された管理範囲外にあるときには、その温度又は湿度の管理範囲からのズレを表示したり、あるいは警報を発したりすることも可能である。
【0021】
上記した測定環境雰囲気の温度と湿度を測定するための温湿度測定ユニットを備えた本発明の水質計では、通常のごとくpHなどの水質測定を実施できるだけでなく、その測定環境における雰囲気の温度と湿度を測定することができる。得られた測定環境雰囲気の温湿度測定データは、液体試料の水質測定データと共に水質計に取り込んで、水質計本体に表示したり、記憶したり、あるいは印刷出力することができる。
【0022】
例えば、水質計の表示部に、図2に示すように、pH、試料番号、試料液温度などの水質測定データ、測定日時や校正日時などと共に、測定環境雰囲気の温度(図では23.5℃)及び湿度(図では48%)を温湿度測定データとして表示する。また、水質計の印字装置によって、これらの表示内容と同様の内容を印刷出力することもできる。この測定環境雰囲気の温湿度測定データを水質測定データに付記することによって、品質マネジメントシステムISO9000や水道水質検査優良試験所規範その他の基準に容易に準拠でき、試験成績の品質管理及び信頼性確保に寄与することができる。
【0023】
更に、本発明者らの研究によれば、高分解能を有する水質計、特に0.001pHクラスの高分解能表示が可能なpH計においては、測定環境雰囲気の温度が水質測定データに対して無視できない影響を及ぼすことが分かった。即ち、一般にpH電極からの入力電位は、増幅器、マルチプレクサ、A/D変換器、CPU回路などを経て、pH値として表示部に表示される。その際、演算処理を行うCPU回路などを含む制御部の電気回路が温度による影響を受け、入力電位やpH値の処理に誤差を生じる(温度ドリフト)ことが確認された。
【0024】
このような温度ドリフトに対して、上記した本発明の水質計では、測定環境雰囲気の温度測定データを用いて、水質計本体に内蔵されている水質測定処理用の電気回路に対する温度の影響を排除することができる。例えば、pH電極からの入力電位あるいは入力電位から求めるpH値と、その測定環境雰囲気の温度との関係を予め調べ、得られた関係を制御部に記憶しておき、この関係に基づいて実際に測定した際の入力電位あるいはpH値について温度ドリフトを補正する。その結果、特に0.001pHクラスの高分解能表示が可能なpH計について、従来よりも水質測定データの精度向上を図ることができる。
【0025】
かかる温度ドリフトは、上記した測定環境雰囲気の温度だけでなく、制御部の電気回路が存在する水質計本体の内部の温度とも関係している。従って、本発明の水質計においては、上記のごとく温湿度測定ユニットによって測定環境雰囲気の温湿度を測定するだけでなく、更に水質計本体の内部の温度も温度測定器により測定して、その両方の温度又はいずれか片方の温度を用いて上記温度ドリフトを補正することも可能である。
【0026】
測定環境雰囲気の温湿度と共に、水質計本体の内部の温度を測定する機能を備えた水質計の一例を、図3に示す。水質計本体1の一部にコネクタ7が設けてあり、このコネクタ7の水質計本体1の内部側に温度測定器6が、及び外部側には温湿度測定ユニット5がそれぞれ取り付けられている。図中の8は、センサー部からの信号に基づいて演算処理を行う制御部を構成する本体内回路基板である。この水質計によれば、通常の水質測定と共に、温湿度測定ユニット5により測定環境雰囲気の温湿度を測定し、更には温度測定器6によって水質計本体1の内部の温度を測定することができる。
【実施例】
【0027】
pH計(東亜ディーケーケー(株)製、IM−55G)について、測定環境雰囲気の温度と入力電位及びpHの表示値の関係を求めて、pH計の温度ドリフトを評価した。即ち、周囲の室内雰囲気温度が0℃、23℃及び40℃の各測定環境において、pH電極からの入力電位の代わりに−1000mV〜+1000mVの等価入力電位を入力し、CPU回路を含む制御部を経て、表示部に表示された電位及びpHを調べた。
【0028】
その結果得られた電位の表示値を下記表1に、及びpHの表示値を下記表2にそれぞれ示した。尚、pH表示値は、得られた電位表示値(mV)から、制御部において59.2mV/1pH(25℃)により換算した値である。また、表中のrdg誤差とは、23℃での値に対する0℃及び40℃における誤差(表1では電位表示値の誤差、表2ではpHの誤差)を意味する。参考のために、表2のpH表示値とrdg誤差との関係を、グラフにして図4に示した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
上記表1〜2の結果及び図4から分かるように、23℃での表示値に対し、電位表示値では最大で2mV程度、pH表示値では最大で0.01〜0.02pH程度の温度ドリフトが発生している。また、この温度ドリフトは、電位が0mVからずれるほど、またpHが7.000から離れるほど大きくなる。従って、このような温度ドリフトは、0.001pHクラスの高分解能表示が可能なpH計では無視できないものである。
【0032】
上記の温度ドリフトを補正するプログラムを作成し、上記pH計の制御部のCPU回路に入力して記憶させた。その後、本体内回路が温度変化するように周囲の測定環境雰囲気の温度を変化させ、上記と同様に−1000mV〜+1000mVの等価入力電位を入力し、同時に測定した測定環境雰囲気の温度をCPU回路に供給して、表示部に温度ドリフト補正済の電位及びpHを表示させた。
【0033】
補正後の電位の表示値を下記表3に、及び補正後のpHの表示値を下記表4にそれぞれ示した。また、参考のために、表4のpH表示値とrdg誤差との関係を、グラフにして図5に示した。これらの結果から分かるように、温度ドリフトは著しく抑えられ、0.001pHクラスの高分解能表示が可能なpH計でも無視できる程度のものとなった。
【0034】
【表3】

【0035】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明による水質計の一具体例を示す概略の平面図である。
【図2】水質測定データと共に測定環境雰囲気の温湿度測定データを表示した表示部を示す概略の平面図である。
【図3】本発明による水質計の他の具体例を示す概略の一部切欠平面図である。
【図4】実施例における温度ドリフト補正前のpH表示値とrdg誤差の関係示すグラフである。
【図5】実施例における温度ドリフト補正後のpH表示値とrdg誤差の関係示すグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1 水質計本体
2 入力操作部
3 表示部
4 センサー部
5 温湿度測定ユニット
6 温度測定器
7 コネクタ
8 本体内回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料の少なくともpHを測定する水質計であって、水質計本体に固定又は着脱可能に設けるか若しくは水質計本体と有線又は無線で接続可能に設けた温湿度測定ユニットを備え、水質の測定と同時に、測定環境雰囲気の温度と湿度を測定できることを特徴とする水質計。
【請求項2】
測定環境雰囲気の温湿度測定データを、液体試料の水質測定データと共に水質計本体に表示し、記憶し、印刷出力する各処理のうち少なくとも1つの処理を行うことを特徴とする、請求項1に記載の水質計。
【請求項3】
前記水質計本体の内部に温度測定器を備え、水質の測定と同時に、水質計本体内部の温度を測定できることを特徴とする、請求項1又は2に記載の水質計。
【請求項4】
測定環境雰囲気及び/又は水質計本体内部の温度測定データに基づいて、水質計本体に内蔵されている水質測定処理用の電気回路の温度ドリフトを補正することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の水質計。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−3311(P2007−3311A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182879(P2005−182879)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)