説明

温熱治療装置及び温熱治療方法

【課題】生体への負担を少なくしつつ、効率よく癌細胞を死滅させることができる温熱治療装置を提供することにある。
【解決手段】生体の患部に非侵襲で電磁波を照射し、患部を加温する加温手段と、生体に非侵襲で電磁波を照射し、生体の誘電率を検出する誘電率検出手段と、生体の患部の誘電率の変化量に基づいて加温手段の出力を調整する制御部とを有することで、上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の患部を加温する温熱治療装置及び温熱治療方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌の治療法として、ハイパーサーミア法という温熱療法がある。
このハイパーサーミア法とは、癌細胞が、正常細胞よりも酸性度が高く正常細胞に比べて熱に弱いこと、また、癌細胞で形成された領域にある血管が正常な血管とは異なり温度が上昇しても広がらないため加温されても放熱が充分にできず高温になりやすいことを利用し、患部を加温することで癌細胞を死滅させる方法である。
【0003】
このようなハイパーサーミア法を用いた温熱療法では、事前にX線、MRI等の画像診断により癌細胞のある領域(以下「患部」という。)を特定し、患部の大きさ、数量に応じて少なくとも1本以上の針状温度センサを患部に刺入し、針状温度センサの検出結果に基づいて加温量を制御しながら、患部を目標領域内の温度に加温する方法がある。ここで、患部の加温方法としては、患部に電磁波を照射し、加温する方法がある。
しかしながら、針状温度センサを患部に刺入して温度測定を行うと、生体(患者)に苦痛を与える等の負担が大きくなるという問題がある。また、温度の分布を把握するため、複数の患部の温度を測定するために、複数本の針状温度センサを刺入して温度測定を行う場合、及び/または、長時間温度を測定する場合は、生体に与える負担がより一層大きくなるという問題もある。
また、加温手段に電磁波を用いる場合は、加温のために照射している電磁波が温度検出手段の温度センサの検出信号のノイズとなり、正確な温度検出が困難であり、また、温度検出のために生体に刺入している針状温度センサ(のプローブ)が電磁波を吸収してしまい加温効率を低下させるという問題もある。
【0004】
この問題を解決した温熱治療装置としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されている生体に非侵襲で患部の温度を検出する温熱治療装置がある。
特許文献1には、先端にアンテナが内蔵され生体の体腔内に挿入が可能なアプリケータを生体と接触させ、先端のアンテナから加温波を放射して生体を加温する温熱治療装置が記載されている。
また、引用文献2には、加温対象の温度を検出するための加温温度センサと異なる少なくとも1つの熱傷防止用温度センサを加温温度センサとは異なる位置に配設し、熱傷防止用温度センサの測定温度が危険な温度域になった事を検出した場合は、マイクロ波発振部から出力されるマイクロ波を制御して熱傷防止用温度センサの測定温度が危険な温度域から離脱するように制御するマイクロ波温熱治療装置が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平07−185018号公報
【特許文献2】特開平06−319814号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
引用文献1及び2に記載されているように、生体に非侵襲な状態で温度を測定することにより、温熱治療時に生体へ与える負担を少なくすることができる。
ここで、温熱治療装置では、温度を測定しつつ、予め設定された時間の間(例えば30分から1時間)、患部を加温している。
【0007】
しかしながら、癌細胞の特性は、生体によって異なるため、つまり、癌細胞が出来ている位置や患者個人個人により異なり、組織差、個人差があるため、温度によって加温を制御し、癌細胞を死滅できる温度に一定時間に達した状態で加温しても癌細胞が死滅していない場合や、癌細胞を死滅できる温度に一定時間に達していなくても癌細胞が死滅している場合がある。また、既に癌細胞が死滅していている場合でも設定した時間まで継続して加温している場合もある。
【0008】
また、電磁波を照射して患部を加温する方法では、加温手段と患部との間の表皮や患部周辺の正常細胞は、患部の温度以上の温度に加温され、正常細胞が死滅する温度(46℃以上)に達することがある。加温手段と患部との間の正常細胞が死滅する温度まで加温されると、加温された部分が熱傷等になり、生体、つまり患者に痛みが生じ、また患者に負担をかけることになる。そのため、患者に痛みが生じた場合は、患部を充分に加温することができない、あるいは、一定時間に達する前に加温を停止してしまうため、癌細胞を死滅できない。
さらに、温度を測定しつつ患部を設定温度に加温をしても患部の温度を一定に保つことが困難であるため、癌細胞を効率よく死滅させることができない。
【0009】
本発明の目的は、上記従来技術に基づく問題点を解消し、生体への負担を少なくしつつ、効率よく癌細胞を死滅させることができる温熱治療装置及び温熱治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、生体の患部に非侵襲で電磁波を照射し、前記患部を加温する加温手段と、前記生体に非侵襲で電磁波を照射し、前記生体の誘電率を検出する誘電率検出手段と、前記生体の前記患部の誘電率の変化量に基づいて前記加温手段の出力を調整する制御部とを有することを特徴とする温熱治療装置を提供するものである。
【0011】
ここで、前記制御部は、前記患部の誘電率の変化量がしきい値を超えたことを検出した場合に前記加温手段による加温を停止することが好ましい。
また、前記しきい値は、高含水成分の細胞の誘電率と低含水成分の細胞の誘電率との差分であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記生体の外に配置された基準誘電体と、前記誘電率検出手段が検出した基準誘電体の誘電率に基づいて、前記誘電率検出手段の検出値を補正する補正手段とを有することが好ましい。
また、前記基準誘電体は、前記誘電率検出手段と当接して配置されていることが好ましい。
前記誘電率検出手段は、チャープパルス方式またはUWB方式の電磁波を照射し、前記患部の誘電率を検出することが好ましい。
【0013】
さらに、前記加温手段から照射され前記生体の表皮で反射された電磁波の強度を検出する反射電磁波検出手段を有し、前記制御部は、前記加温手段から放射された電磁波の強度と前記反射電磁波検出手段が検出した前記生体の表皮で反射された電磁波の強度との差分が設定した強度となる強度の電磁波を前記加温手段から放射させることが好ましい。
さらに、前記誘電率検出手段が検出した前記生体の誘電率から前記生体の温度を算出する温度算出手段を有し、前記制御部は、前記温度算出手段で算出した前記生体の温度に基づいて、前記患部の温度が設定温度となるように前記加温手段から放射する電磁波の強度を調整することが好ましい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明は、生体の患部に電磁波を照射し、患部を加温する温熱治療方法であって、前記生体に非侵襲で電磁波を照射し、前記患部の誘電率を検出する誘電率検出ステップと、前記誘電率検出ステップで検出した前記患部の誘電率の変化量としきい値とを比較し、前記患部の誘電率の変化量がしきい値を超えていた場合は、電磁波の照射を終了させる出力切替ステップとを有することを特徴とする温熱治療方法を提供するものである。
【0015】
さらに、患部の位置を特定する患部特定ステップを有することが好ましい。
また、前記患部特定ステップは、前記生体の誘電率に基づいて前記患部の位置を特定することが好ましい。
また、前記出力切替ステップは、前記生体を加温する時間が設定時間を超えたら電磁波の照射を終了させることが好ましい。
また、前記出力切替ステップは、前記電磁波の出力する電力量の積算値が設定量を超えたら電磁波の照射を終了させることが好ましい。
【0016】
また、前記誘電率検出ステップは、さらに、前記患部の周辺部の誘電率を検出し、前記出力切替ステップは、前記患部の周辺部の誘電率の変化量としきい値とを比較し、前記患部の周辺部の誘電率の変化量がしきい値を超えていた場合は、電磁波の照射を終了させることが好ましい。
また、前記誘電率検出ステップは、さらに、前記生体の表皮の誘電率を検出し、前記出力切替ステップは、前記表皮の誘電率の変化量としきい値とを比較し、前記表皮の誘電率の変化量がしきい値を超えていた場合は、電磁波の照射を終了させることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、癌細胞が死滅したか否かを検出しつつ生体の患部を加温することができる。これにより、生体への負担を少なくしつつ、効率よく癌細胞を死滅させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明に係るに温熱治療装置及び温熱治療方法について、添付の図面に示す実施形態を基に詳細に説明する。
【0019】
図1(A)は、本発明の温熱治療装置の一実施形態であるハイパーサーミアシステム10の概略構成を示すブロック図であり、図1(B)は、図1(A)に示すハイパーサーミアシステム10の生体Bの周辺部を拡大して示す拡大側面図であり、図2は、図1に示すハイパーサーミアシステムの加温手段の概略構成を示すブロック図であり、図3は、図2に示す加温手段の出力端子の概略構成を示す断面図であり、図4は、図1に示すハイパーサーミアシステムの温度検出手段のアレイアンテナの概略構成を示す斜視図であり、図5は、図1に示すハイパーサーミアシステムの温度検出手段の概略構成を示すブロック図である。
【0020】
図1(A)及び図1(B)に示すハイパーサーミアシステム10は、生体(つまり被検体、患者)Bの患部Tにマイクロ波を照射することで、患部Tを加温するシステムであり、マイクロ波を照射する加温手段12と、患部Tを生体の誘電率を検出する誘電率検出手段14と、誘電率検出手段14の検出結果に基づいて加温手段12の出力を調整する制御部16と、検出結果を表示し、各種条件を入力する入力表示手段18を有する。
ここで、患部Tは、癌細胞である。また、本実施形態では、患部Tを一箇所としたが、患部Tが複数箇所の場合も同様の動作で患部Tを加温することができる。
【0021】
以下、ハイパーサーミアシステム10の各部について詳細に説明する。
まず、加温手段12は、基本的に、患部Tに対向する生体Bの外周に配置され、電磁波を生成し出力する出力部22と、出力部22から出力された電磁波を生体Bに向けて放射する出力端子20と、出力端子20と生体Bとの間に配置され、出力端子20から出力された電磁波を均一に拡散させるボーラス36と、ボーラス36を冷却する冷却部38とを有する。なお、加温手段12(特に出力端子20)の配置位置は、生体Bの外周に限定されず、生体Bの前面、側面、背面に配置してもよい。
【0022】
出力部22は、発振部30と、アイソレータ31と、方向性結合器32と、電力計33a、33bと、減衰器34a、34bと、整合回路35とを有する。
発振部30は、マイクロ波を生成し、増幅して出力するものである。
発振部30から出力されたマイクロ波は、アイソレータ31、方向性結合器32、整合回路35を通過し、出力端子20に供給される。
【0023】
アイソレータ31は、発振部30から方向性結合器32に向う方向のマイクロ波は通過させ、方向性結合器32から発振部30に向う方向のマイクロ波は通過させない非可逆伝送回路素子であり、マイクロ波が発振部30側に流れることを防止する。
【0024】
方向性結合器32は、発振部30から出力されたマイクロ波の一部を電力計33aおよび減衰器34aに供給し、出力端子20から射出された後、生体の表皮で反射され、再び出力端子20に入力されたマイクロ波の一部を電力計33bおよび減衰計34bに供給する。なお、方向性結合器32が電力計33a及び減衰計34aまたは電力計33b及び減衰計34bに供給するマイクロ波は、入力されたマイクロ波のうち一定割合のマイクロ波である。
【0025】
電力計33a及び減衰計34aは、方向性結合器32から供給されたマイクロ波の電力を算出することで、発振部30から出力されたマイクロ波の強度を検出し、制御部16に送信する。
また、電力計33b及び減衰計34bは、方向性結合器32から供給されたマイクロ波の電力を算出することで、表皮で反射されたマイクロ波の強度を検出し、制御部16に送信する。
【0026】
整合回路35は、方向性結合器32と出力端子20との間に配置され、発振部30(つまり電源側)と生体(つまり負荷側)とのインピーダンス整合をとる。
【0027】
出力端子20は、マイクロストリップ型アプリケータであり生体Bに対向して配置され、図3に示すように、同軸コネクタ100と、接地部102と、誘電体基板104と、アンテナ106とを有する。
同軸コネクタ100は、出力部22から供給されたマイクロ波をアンテナ106に供給する。
また、接地部102と誘電体基板104とアンテナ106とは、同軸コネクタ100側から接地部102、誘電体基板104、アンテナ106の順に積層されている。
誘電体基板104は、厚さ数mmの薄い平板状誘電体である。
接地部102及びアンテナ106は、薄い金属板であり、誘電体基板104を挟むように配置されている。接地部102は、接地されており、アンテナ106は、同軸コネクタ100と接続されている。
このように出力端子20を薄い板状にすることで、柔軟にすることができ、また、大面積化が可能で広範囲を加温することができる。
【0028】
ボーラス36は、導波管型アプリケータであり、生体Bと出力端子20との間に挿入されている。ボーラス36は、出力端子20から出力されたマイクロ波を生体Bに均一に伝達する。
さらに、冷却部38は、ボーラス36の表面を冷却する冷却機構である。
冷却部38によりボーラス36の表面を冷却することで、ボーラス36と接している領域の生体Bを冷却することができ、ボーラス36と接触している領域の生体(特に表皮)が加温されすぎ、火傷となることを防止できる。
【0029】
加温手段12は、出力部22の発振部30からマイクロ波を出力し、方向性結合器32及び整合回路35を介して、出力端子20に出力する。出力端子20は、出力部22から供給されたマイクロ波を同軸コネクタ100からアンテナ106に供給し、生体Bを加温する。
【0030】
誘電率検出手段14は、生体Bの外周に患部Tを挟み込むように配置され、マイクロ波を送受信するアレイアンテナ24a、24bと、アレイアンテナ24a、24bが送信するマイクロ波を生成し、アレイアンテナ24a,24bが受信したマイクロ波を解析するマイクロ波制御解析部26とを有し、減衰定数(誘電率)の変化により電波の反射・透過特性が変化するという特性に基づいて、患部Tを含む生体Bを透過、反射したマイクロ波を測定し、測定結果から患部Tを含む生体Bの各部の誘電率を算出する。
【0031】
アレイアンテナ24aとアレイアンテナ24bとは、生体Bを挟んで互いに対抗する位置に配置されている。ここで、アレイアンテナ24aとアレイアンテナ24bとは、同様の形状、構成であるので、以下、代表してアレイアンテナ24aについて説明する。
【0032】
アレイアンテナ24aは、図3に示すように、断面が円弧となり、温度を測定する領域の断面よりも大きい表面積を有する板状の基材40と、基材40にアレイ状に配置された複数(本実施形態では、m×n個)のアンテナエレメント42とを有する。
また、複数のアンテナエレメント42は、少なくとも送信するマイクロ波の波長の半分以上の距離離間させ、等間隔で基材40に配置されている。
【0033】
アンテナエレメント42は、生体Bに向けてマイクロ波を放射するマイクロ波用送信アンテナ44(以下単に「送信アンテナ44」ともいう。)、および、生体Bを透過したマイクロ波を受信するマイクロ波用受信アンテナ46(以下単に「受信アンテナ46」ともいう。)とをそれぞれ1つずつ有する。
【0034】
次に、マイクロ波制御解析部26は、図5に示すように、基本的に、チャープパルスのマイクロ波を発生するチャープパルス発生器48と、マイクロ波を生体(被検体)に走査するために、マイクロ波を送信する送信アンテナ44を選択的に切り替える送信側マルチプレクサ54およびマイクロ波を受信する受信アンテナ46を選択的に切り替える受信側マルチプレクサ56と、送信したマイクロ波と受信したマイクロ波とのビート信号を取り出す帯域通過フィルタ62と、ビート信号のうち、マイクロ波を送受信した送信アンテナ44および受信アンテナ46間を直進するマイクロ波に相当する周波数成分を選択的に取り出すFFTアナライザ64と、取り出された周波数成分から、生体B内の三次元の比誘電率分布を表す三次元画像データを生成する三次元画像データ生成回路66とを有する。
【0035】
チャープパルス発生器48は、数GHzの周波数帯域のマイクロ波を規定の掃引周波数で時間に応じて掃引し、チャープパルスのマイクロ波(以下単に「マイクロ波」という。)を発生させる。チャープパルス発生器48で発生されたマイクロ波は、分配器50によって、増幅器52およびミキサー60に分配される。すなわち、増幅器52、およびミキサー60には、分配器50から同一のマイクロ波が入力される。
【0036】
増幅器52は、分配器50から入力されたマイクロ波を所定の増幅率で増幅し、送信側マルチプレクサ54に出力する。
送信側マルチプレクサ54は、2m×n個の送信アンテナ44のうち、マイクロ波を放射する一個の送信アンテナ44を選択的に切り替える。具体的には、送信側マルチプレクサ54は、アレイアンテナ24aの基材30の曲面の軸方向の一番上(つまり、頭部に最も近い位置)の任意のアンテナエレメント42の送信アンテナ44からマイクロ波を放射し、次に、そのアンテナエレメント42に隣接したアンテナエレメント42の送信アンテナ44からマイクロ波を放射する。このようにマイクロ波を放射する送信アンテナ44を、アレイアンテナ24a及びアレイアンテナ24bの周方向にわたって2m個の送信アンテナ44を順次一個ずつ選択し切り替える。その後、アレイアンテナ24aの基材30の曲面の軸方向の上から2段目のアンテナエレメント42についても同様に各送信アンテナ44から順次マイクロ波を放射させ、全周終了したら、さらに一段下のアンテナエレメントについても行い、これを軸方向にn回繰り返す。
【0037】
次に、受信アンテナ33には、送信側マルチプレクサ54と同様の機能を有する受信側マルチプレクサ56が接続されている。受信側マルチプレクサ56は、2m×n個の受信アンテナ46のうち、送信側マルチプレクサ54で選択され、マイクロ波を放射する送信アンテナ44と対向する位置に配された受信アンテナ46が選択されるように切り替える。つまり、送信アンテナ44から放射されたマイクロ波は、点線矢印で示すように生体Bの体内を一部透過して、マイクロ波を放射した送信アンテナ44と対向する位置に配された受信アンテナ46で受信される。
【0038】
増幅器58は、受信側マルチプレクサ56で選択された受信アンテナ46で受信したマイクロ波を所定の増幅率で増幅し、ミキサー60に出力する。
ミキサー60は、分配器50から入力(送信)されたマイクロ波と、増幅器58から入力(送信)されたマイクロ波とを掛け合わせ、帯域通過フィルタ62に出力する。
帯域通過フィルタ62は、分配器50から入力されたマイクロ波と、増幅器62から入力されたマイクロ波とのビート信号を選択的に取り出す。
【0039】
FFTアナライザ64は、帯域通過フィルタ62で取り出されたビート信号に対して、高速フーリエ変換を用いたスペクトル分析を行う。FFTアナライザ64は、ビート信号のうち、マイクロ波を送受信した送信アンテナ44および受信アンテナ46間を直進するマイクロ波に相当する時間遅れをもつ周波数成分のみを選択的に取り出す。これにより、時間遅れと所定時間異なる時間遅れをもった回折波や反射波がビート信号から除去され、略直進波成分のみを取り出すことができる。すなわち、マイクロ波をあたかもX線のような直線伝搬するビームとして扱うことができる。
【0040】
FFTアナライザ64で取り出したデータ(以下「一次元画像データ」ともいう。)は、マイクロ波を送受信した送信アンテナ44および受信アンテナ46間における一次元的なマイクロ波の減衰量を積分した値となっている。マイクロ波の減衰量は、対象物(この場合は生体Bの体内)の導電率と比誘電率によって決まる。このため、マイクロ波の減衰量を解析すれば、対象物の比誘電率分布を知ることができ、比誘電率の変化分を色の階調値に変換して表せば画像化することができる。
【0041】
三次元画像生成回路66は、X線CTなどで用いられる周知の画像再構成法、ボリュームレンダリング法に基づいて、比誘電率分布の一次元画像データから比誘電率分布の三次元画像データを生成する。具体的には、三次元画像生成回路66は、まず、画像再構成法を適用して、アレイアンテナ24a、24bの周方向にわたる2m個分の一次元画像データを元に、アレイアンテナ24a、24bの軸方向に直交する面における二次元誘電率分布を表す二次元画像データを求める。
【0042】
二次元画像データは、アンテナエレメント42が軸方向にn個並んでいるので、n個分求められる。二次元画像データは、送信アンテナ44および受信アンテナ46間にある生体を、アレイアンテナ24a、24bの軸方向に直交する面で輪切りした断層像を表している。
【0043】
三次元画像生成回路66は、ボリュームレンダリング法により、適当な方法で隣り合う二次元画像データ間の画素補間などを行いつつ、n個分の二次元画像データから三次元画像データを算出する。つまり、二次元画像データで表される断層像を、アレイアンテナ24a、24bの軸方向にn個分積み重ねることで比誘電率分布の三次元画像データを算出する。
【0044】
このように、誘電率検出手段14は、チャープパルスのマイクロ波を生体Bに照射して、生体B内の比誘電率分布を検出する。
ここで、チャープパルスのマイクロ波による比誘電率の空間分解能は数mmであるため、本実施形態のように測定することで、高い精度で患部の誘電率を検出することができる。
【0045】
制御部16は、設定されている加温条件、誘電率検出手段14により検出された患部Tの誘電率、つまり癌細胞の誘電率に基づいて、加温手段12の出力を調整する。
具体的には、検出した患部Tの誘電率の変化量がしきい値を超えたことを検出したら、癌細胞が死滅したと判断し、加温手段12からのマイクロ波の照射を停止し、加温を終了する。
【0046】
ここで、癌細胞と誘電率の関係について説明する。
図6(A)は、水における誘電率と温度との関係を示すグラフであり、図6(B)は、高含水性組織(高含水性の細胞)および低含水性組織(低含水性の細胞)についての比誘電率と測定周波数との関係を示すグラフである。図6(A)に示すグラフは、縦軸を誘電率とし、横軸を温度とした。また、図6(B)に示すグラフは、縦軸を比誘電率とし、横軸を周波数とした。
図6(A)に示すように、温度と誘電率とは、略比例関係であるため、患部Tを加温すると、誘電率は一定割合で徐々に変化する。なお、図6(A)は、水における誘電率と温度との関係であるが、生体は、基本的に水分で構成されているため、生体の癌細胞、正常細胞も基本的に同様の傾向を有する。
次に、図6(B)に示すように、高含水性組織と低含水性組織とでは、比誘電率が大きく異なる。ここで、高含水性組織としては、水分で構成される組織である、血液、筋肉、心臓等の血液を多く含む臓器が例示され、低含水性組織としては、水分の少ない組織である、骨や脂肪が例示される。これらの組織を2.45GHzのマイクロ波で、空気の比誘電率を1として測定したところ、血液の比誘電率は、58.2であり、筋肉の比誘電率は、54.4であり、心臓の比誘電率は、50であり、骨の比誘電率は、38.8であり、脂肪の比誘電率は、5.28であった。また、皮膚(表皮)の比誘電率は、37.9であった。測定結果を下記表1に示す。なお、本測定結果は、一例であり、相対的な関係は同様であるが、比誘電率の値は、測定条件、基準により変化する。
【0047】
【表1】

【0048】
ここで、癌細胞は、加温されて死滅すると細胞の性質が変化する。具体的には、癌細胞は、正常な組織(細胞)と異なり、周辺の血管から急いで延長された血管が形成されているだけであるため、細胞に対して血管の配置量及び配置位置が不完全な状態である。つまり、癌細胞は、細胞に対して血管がにわか作りである。そのため、癌細胞は、周囲の温度に応じて血管を拡張したり収縮したりして血流を調整するような機能を有していない。そのため、加温されると癌細胞の部分だけ高い温度が持続し、細胞あるいは細胞壁が壊れることになる。
癌細胞は、加温されて死滅すると、細胞が壊れ、水分が流動化し、高含水性組織から低含水性組織に変化する。したがって、図6(B)に示すように癌細胞は、死滅すると比誘電率が大きく変化する。この図6(B)に示すような細胞の死滅時の変化は、図6(A)に示すような細胞の温度による変化よりも変化量が格段に大きく、明らかな差異があるため検出することができる。
【0049】
制御部16は、上述の関係に基づいて、生存している癌細胞の誘電率と死滅した癌細胞の誘電率との差をしきい値とし、患部Tの誘電率の変化から癌細胞が死滅したか否かを検出する。
【0050】
また、制御部16は、さらに、図6(A)の関係に基づいて検出した生体の誘電率から温度も検出し、検出した生体の温度に基づいても加温手段12の出力を調整する。
例えば、制御部16は、1回の治療(つまり生体を加温する時間)を30分程度とすると、約10分程度で患部Tの温度を設定温度まで上昇させ、その後20分間は、設定温度に維持する。ここで、制御部16は、誘電率検出手段14により検出した患部Tの誘電率から算出した温度に基づいてPID制御(例えばフィードバック制御)や、フィードフォワード制御により加温手段12の出力を制御し、患部Tの加温量を制御することで患部Tの温度を制御する。なお、設定温度は、1℃から数℃の範囲(幅)を持つ温度範囲としてもよい。
【0051】
表示入力部18は、画面を表示する表示部とオペレータが条件を入力することができる入力部とを有するPC(パーソナルコンピュータ)等であり、制御部16と接続されている。
表示入力部18は、誘電率検出手段14で検出した生体の各部、具体的には患部とその周辺部の温度分布や、各種条件を表示する。また、表示入力部18は、入力部から入力された加温時間(治療時間)や、しきい値、患部の温度の上限値、下限値、設定温度や、患部の場所(加温する領域)を制御部16に送信する。
【0052】
本実施形態のハイパーサーミアシステム10は基本的に以上のような構成である。
次に、ハイパーサーミアシステム10の動作を説明することで、本発明の温熱治療装置及び温熱治療方法についてより詳細に説明する。
【0053】
図7は、本発明のハイパーサーミアシステム10を用いた本発明の温熱治療方法の一例を示すフロー図であり、図8は、制御部16による加温手段12の出力の決定方法の一例を示すフロー図である。
【0054】
以下、図7を用いて、ハイパーサーミアシステム10を用いた温熱治療方法を説明する。
まず、生体B内の患部Tを検出し、患部Tの位置を特定する(ステップS10)。
例えば、検査で生体内に癌細胞があることを発見したら、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、PET(Positron Emission Tomography)検査等の精密検査で癌細胞を含有する患部Tを検出する。また、患部Tの検出時に生体B内での患部Tの位置も検出する。
次に、患部Tを検出する際に検出した位置データに基づいて、生体B内における患部Tの位置を特定する。さらに、患部Tに電磁波を照射でき、かつ、患部Tの誘電率を検出できるように、出力端子20a、20bの配置位置、アレイアンテナ24a、24bの配置位置及び生体Bの位置との位置関係を決定し、出力端子20、アレイアンテナ24a、24bを及び生体Bを決定した位置に配置する。
【0055】
次に、加温条件を決定する(ステップS12)。
入力表示手段18により入力された各種条件、予め制御部16に設定されている条件、患部の位置、大きさ、状態等から、患部の誘電率の変化量のしきい値、加温手段12により患部を加温する時間、患部の温度の上限値、下限値、設定温度、また、初期時の入力電力、目標電力、マイクロ波の出力等の加温条件を決定する。
【0056】
次に、患部Tの誘電率を検出する(ステップS14)。
ステップS10で特定した位置情報に基づいて、患部Tの誘電率を誘電率検出手段14で検出する。ここで、誘電率検出手段14は、上述したように生体を通るようにマイクロ波を送受信し、その検出結果から生体の各部の誘電率を算出する。算出した生体Bの各部の誘電率から患部Tに相当する位置の誘電率を抽出し、抽出した誘電率を患部Tの誘電率とする。
【0057】
次に、ステップS12で決定された加温条件、およびステップS14で検出された患部Tの誘電率に基づいて、検出した患部Tの誘電率の変化量がしきい値を超えているか(つまり、患部Tの誘電率の変化量≦しきい値であるか否か)を判定する(ステップS16)。ここで、変化量は、最初に検出した誘電率を初期値として、その初期値と検出した誘電率との差を変化量として、直前の測定で検出した誘電率との差を変化量としてもよい。また、事前に標準的な人体の誘電体データサンプルを用意し、この値を初期値として用いてもよい。
【0058】
患部Tの誘電率の変化量がしきい値以下である場合は、加温制御を行い(ステップS18)、その後ステップS14に進む。ここで、加温制御とは、加温条件と検出した生体Bの状態に基づいて、加温手段12の出力を調整することである。加温制御については後ほど説明する。
また、ステップS18において、患部Tの誘電率の変化量がしきい値より大きい場合は、処理を終了する。
【0059】
このように、患部Tの誘電率の変化量を検出し、変化量がしきい値を超えているか否かを検出することで、癌細胞が生存しているか、死滅しているかを確実に検出することができる。また、癌細胞が死滅したことを検出したら、処理を終了することで、生体の加温量を必要以上に加温することを防止できるため、生体(患者)にかかる負担を小さくすることができる。また、医師、技師の作業時間や、装置の稼働時間を高効率にすることができる。
【0060】
次に、図8を用いて、ステップS18の加温制御、つまり加温手段12の出力の決定方法の一例について説明する。
まず、入力電力と反射電力との差分が目標電力であるか、つまり、入力電力−反射電力=目標電力であるかを判定する(ステップS32)。
ここで、入力電力とは、発振部30から出力されるマイクロ波の強度であり、電力計33aでの検出値に基づいて算出される値である。また、反射電力とは、生体の表皮で反射されたマイクロ波の強度であり、電力計33bでの検出値に基づいて算出される値である。したがって、入力電力と反射電力との差分は、生体に入射したマイクロ波の強度となる。
【0061】
入力電力−反射電力=目標電力ではない場合は、入力電力と反射電力との差分が目標電力より小さいか(つまり、入力電力−反射電力<目標電力であるか)を判定する(ステップS32)。
入力電力−反射電力<目標電力である場合は、入力電力を大きくし(ステップS34)、ステップS30に進む。
入力電力−反射電力<目標電力ではない、つまり入力電力−反射電力>目標電力である場合は、入力電力を小さくし(ステップS36)、その後ステップS30に進む。
【0062】
次に、ステップS30において、入力電力−反射電力=目標電力である場合は、検出温度と目標温度とが等しいか(つまり、検出温度=目標温度)であるかを判定する(ステップS38)。
【0063】
検出温度=目標温度ではない場合は、検出温度が目標温度より小さいか(つまり、検出温度<目標温度であるか)を判定する(ステップS40)。ここで、検出温度とは、誘電率に基づいて算出した患部の温度である。
検出温度<目標温度である場合は、目標電力を大きくし(ステップS42)、ステップS30に進む。
検出温度<目標温度ではない、つまり検出温度>目標温度である場合は、目標電力を小さくし(ステップS44)、その後ステップS30に進む。
次に、ステップS38において、検出温度=目標温度である場合は、加温制御を終了する。
【0064】
以上のようにして、加温制御を行い、加温手段12から生体Bに向けてマイクロ波の出力を調整することで、生体Bの患部Tを目標温度に加温する。
また、マイクロ波の入力電力と反射電力とを検出し、入射電力と反射電力との差から生体に入射して生体の加温に寄与しているマイクロ波の強度を検出し、検出結果に基づいて入力電力の強度を調整することで、生体の加温に寄与しているマイクロ波の強度を一定にすることができる。これにより、患部をより高い精度で加温することができる。
【0065】
なお、上記実施形態では、誘電率から患部の温度を算出し、患部の温度が目標温度になるように加温手段の出力を調整したが、温度を検出することなく、目標誘電率を設定し、患部の誘電率が目標誘電率となるように、加温手段の出力を調整してもよい。
この場合は、図6(A)に示すような誘電率と温度の関係が略比例関係となる領域の誘電率を目標誘電率として設定することが好ましい。
また、上記実施形態では、目標電力と目標温度の両方を設定したが、いずれか一方としてもよい。具体的には、目標電力のみを設定し、生体に入射するマイクロ波の強度が一定となるようにマイクロ波の強度を調整する制御制御としても、目標温度のみを設定し、患部の温度が一定となるようにマイクロ波の強度を調整する加温制御としてもよい。
【0066】
ここで、上記実施形態では、患部の誘電率の変化量のみに基づいて、患部の加温を終了するか否かを判定したが、本発明はこれに限定されず、患部の誘電率の変化量に加え、表皮の誘電率の変化量、患部の周辺部の誘電率の変化量、患部の加温を開始してからの経過時間等で患部の加温を終了するか否かを判定してもよい。
【0067】
図9にハイパーサーミアシステム10を用いた温熱治療方法の他の一例のフロー図を示す。なお、図7に示す温熱治療方法と同様のステップは、同様のステップ番号を付す。
まず、生体B内の患部Tを検出し、患部Tの位置を特定する(ステップS10)。
次に、加温条件を決定する(ステップS12)。
【0068】
次に、生体の誘電率を検出する(ステップS50)。
具体的には、ステップS10で特定した位置情報に基づいて、患部Tの誘電率を誘電率検出手段14で検出する。ここで、誘電率検出手段14は、上述したように生体を通るようにマイクロ波を送受信し、その検出結果から生体の各部の誘電率を算出する。算出した生体Bの各部の誘電率から患部Tに相当する位置、患部Tの周辺部に相当する位置、生体Bの表皮に相当する位置の誘電率を抽出し、抽出した誘電率をそれぞれ患部Tの誘電率、周辺部の誘電率、表皮の誘電率とする。
【0069】
次に、ステップS12で決定された加温条件、および、ステップS14で検出された表皮の誘電率に基づいて、検出した表皮の誘電率の変化量がしきい値を超えているか(つまり、表皮の誘電率の変化量≦しきい値であるか否か)を判定する(ステップS52)。ここで、誘電率の変化量は、上述した患部の誘電率の変化量と同様に、最初に検出した誘電率を初期値として、その初期値と検出した誘電率との差を変化量として、直前の測定で検出した誘電率との差を変化量としてもよい。また、しきい値は、表皮に対応したしきい値を別途設定することが好ましいが、患部と同様のしきい値としてもよい。
【0070】
表皮の誘電率の変化量がしきい値より大きい場合は、処理を終了し、表皮の誘電率の変化量がしきい値以下である場合は、ステップ54に進む。
【0071】
次に、ステップS12で決定された加温条件、および、ステップS14で検出された周辺部の誘電率に基づいて、検出した周辺部の誘電率の変化量がしきい値を超えているか(つまり、周辺部の誘電率の変化量≦しきい値であるか否か)を判定する(ステップS54)。ここで、誘電率の変化量は、上述した患部の誘電率の変化量と同様で種々の設定にすることができる。また、しきい値は、周辺部に対応したしきい値を別途設定することが好ましいが、患部や表皮と同様のしきい値としてもよい。
【0072】
周辺部の誘電率の変化量がしきい値より大きい場合は、処理を終了し、周辺部の誘電率の変化量がしきい値以下である場合は、ステップ56に進む。
【0073】
次に、ステップS12で決定された加温条件、および、ステップS14で検出された患部Tの誘電率に基づいて、検出した患部Tの誘電率の変化量がしきい値を超えているか(つまり、患部Tの誘電率の変化量≦しきい値であるか否か)を判定する(ステップS56)。
【0074】
患部Tの誘電率の変化量がしきい値より大きい場合は、処理を終了し、患部Tの誘電率の変化量がしきい値以下である場合は、ステップ58に進む。
【0075】
次に、患部の加温を開始してからの時間(以下「経過時間」という。)がしきい値を超えているか(つまり、経過時間≦しきい値であるか否か)を判定する(ステップS58)。
経過時間がしきい値以下である場合は、加温制御を行い(ステップS18)、その後ステップS50に進む。
また、経過時間がしきい値より大きい場合は、処理を終了する。
【0076】
このように、表皮の誘電率の変化量にも基づいて、表皮の誘電率の変化量が一定値を超えたら患部の加温を停止することで、生体の表皮(生体表面の正常組織(正常細胞))の損傷(例えば火傷)を抑制することができる。また、患部の周辺部の誘電率の変化量に基づいて、患部の周辺部の変化量が一定値を超えたら患部の加温を停止することで、患部の周辺部の正常組織(正常細胞)の損傷を抑制することができる。
また、生体の表皮及び正常細胞の場合は、生存している細胞と死滅した細胞との誘電率の差をしきい値とすることに限定されず、細胞の温度が所定温度変化した場合の誘電率の変化量をしきい値としてもよい。
【0077】
さらに、制御部16による患部の加温の終了タイミング(具体的には、マイクロ波照射の終了のタイミング)は、上述した癌細胞の死滅を検出した場合に加温を終了することに加えて、種々の方法で決定すればよく、例えば、全体の加温時間(つまり、患部Tを加温するために、加温手段12からマイクロ波を照射させ始めてからの時間、治療時間)や設定温度に達してからの時間が設定された時間を経過したら加温手段による加温を停止(終了)する方法、患部が設定温度(たとえば45℃)となっていた時間が一定時間(例えば20分)に達したら加温手段による加温を停止する方法、基準温度(設定温度の一種であり、例えば定常体温)から温度上昇した温度と時間の積が規定値を超えたら加温手段12による加温を終了する方法等がある。
ここで、患部Tの癌細胞を効果的に壊死(死滅)させることができるため、患部Tが一定の温度となっていた時間が一定時間、もしくは、基準温度から温度上昇した温度と時間の積が規定値以上となるまで患部を加温することが好ましい。
【0078】
また、上記実施形態では、誘電率から温度を検出したが、熱電対等の検出対象に接触して温度を検出する温度センサを用いて生体の各部の温度を検出してもよい。特に生体の表皮の温度は、非侵襲で測定できるため、温度センサを用いた場合も生体への負担を少なくすることができるため好ましい。
【0079】
また、上記実施形態では、加温時間が設定時間以上経過している場合に、処理を終了つまり患部Tの加温を終了したが、本発明はこれに限定されず、上述したように、設定温度に達してからの時間が設定された時間を経過したら処理を終了するようにしても、患部が設定温度となっていた時間が一定時間に達したら処理を終了するようにしても、基準温度から温度上昇した温度と時間の積が規定値を超えたら処理を終了するようにしてもよい。
【0080】
また、上記実施形態の加熱手段は、出力端子と生体との間にボーラスを配置したが、これに限定されず、出力端子を生体に直接接触させる構成としてもよい。
出力端子と生体とを直接接触させることで、出力端子と生体との位置関係を簡単に調整することができ、さらに、照射するマイクロ波を効率よく生体に伝達することができる。
また、上記実施形態のようにボーラスを配置した場合は、凹凸がある部分を加熱する場合も好適に加温することができる。
【0081】
また、ハイパーサーミアシステムは、生体の外に誘電率が既知の基準誘電体を配置し、誘電率検出手段は、基準誘電体の誘電率を測定し、測定結果と既知の誘電率とに基づいて、キャリブレーション(較正)を行い、誘電体検出手段の検出値を補正することが好ましい。
このように、基準誘電体を設け、キャリブレーションをすることで、生体の各部の誘電率をより正確に検出することができる。
【0082】
ここで、基準誘電体は、誘電率検出手段に当接させて配置することが好ましい。
基準誘電体と誘電率検出手段とを当接させることで、誘電率検出手段のキャリブレーションをより高精度に行うことができる。
また、基準誘電体としては、プリント基板、FPC(Flexible printed circuits)、ボーラスであることが好ましい。基準誘電体を、プリント基板、FPC、ボーラスとすることで、新たな部材を用いる必要がなくなるため、装置構成を簡単にすることができ、また、誘電率の変化が少ないため、正確にキャリブレーションを行うことができる。
また、基準誘電体としては、食塩水、FR4を用いることも好ましい。
基準誘電体として、食塩水、FR4を用いることで、生体の高含水性組織、低含水性組織、癌細胞等の誘電率に近いまたは同一の誘電率を基準誘電体の誘電率とすることができ、より高精度にキャリブレーションを行うことができる。
【0083】
ここで、温熱治療装置は、患部Tを42℃以上44℃以下に加温することが好ましい。
患部Tの温度を上記範囲とすることで、本発明の効果をより好適に得ることができる。
【0084】
また、上記実施形態では、誘電率検出手段12で検出した患部の誘電率に加え、生体の患部の温度を検出したが、生体の患部の温度に加え、または替えて、生体Bの患部Tの周辺部(より正確には、生体の患部の周辺部の正常細胞)Aの温度を検出してもよい。なお、上記実施形態の温度検出手段12は、患部Tの周辺部Aの温度を、患部Tの温度の検出と同様の方法で、さらに、患部Tの温度の検出と同時に検出することができる。
本実施形態のように、患部の温度と患部の周辺の温度とを同一の手段で同時に検出することで、装置構成を簡単にすることができる。
【0085】
また、制御部16は、温度検出手段12が検出した生体Bの患部Tの温度に替えて、または、生体Bの患部Tの温度とともに、温度検出手段12が検出した患部Tの周辺部Aの温度に基づいて磁気発生手段14の出力を調整してもよい。
例えば、制御部16で、誘電率検出手段12の検出結果から患部Tの周辺部の温度を算出し、患部Tの周辺部の正常細胞の温度が規定温度(たとえば40℃)以上であることを検出した場合は、加温手段12は、発振部30に出力する電力を弱め、または停止させ、加温手段12が発生させるマイクロ波を弱く、または加温手段12によるマイクロ波の発生を停止させる。
このように、誘電率検出部14で検出した患部Tの周辺部Aの正常細胞の誘電率から温度を検出し、その検出結果に基づいて制御部16により加温手段12の出力を調整し、正常細胞を規定温度(つまりオペレータ等により設定された温度、たとえば40℃)より低い温度に保持することで、正常細胞を高温にすることなく、患部Tの癌細胞だけを高温(例えば45℃程度)にすることができる。これにより、正常細胞を死滅させるまたは正常細胞に負担をかけることなく、患部の癌細胞を死滅させることができる。
なお、より確実に患部の温度と周辺部の温度を調整でき、正常細胞を死滅させるまたは正常細胞に負担をかけることなく、患部の癌細胞を死滅させることができるため、誘電率検出手段12で検出した誘電率から患部と周辺部の両方の温度を検出し、制御部16は、両方の温度の検出結果にも基づいて加温手段12の出力を調整することが好ましい。
【0086】
また、上記実施形態では、誘電率検出手段14の検出結果と設定された条件に基づいて、制御部16が加温手段12の出力、つまり、加温手段14で発生させるマイクロ波の強度を自動的に調整したが、本発明はこれに限定されず、誘電率検出手段14の検出結果に基づいてオペレータが調整してもよい。
具体的には、まず、誘電率検出手段14の検出結果を入力表示手段18の表示部に表示する。次に、オペレータは、表示部にされた検出結果に基づいて、加温手段12が発生させる磁界の強度を判断し、所望の強度の数値や、磁界を発生させるか、磁界の発生を停止するか等を入力表示手段18の入力部に入力する。
そして、制御部16は、入力された情報に基づいて加温手段12を制御する。
【0087】
このように、表示入力手段18からの入力に基づいて制御部16で加温手段12の出力を調整しても、誘電率検出手段14により患部Tの癌細胞が死滅したか否かで出力を調整することができるため、生体に負担をかけることなく患部Tの癌細胞を死滅させることができ、患部Tの加温を必要以上加温することを防止できる等の上記効果を得ることができる。
【0088】
以上、本発明に係る温熱治療装置及び温熱治療方法について詳細に説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよい。
【0089】
例えば、本実施形態では、生体の患部にマイクロ波を照射して患部を加温するマイクロ波加温方式を用いたが、生体に高周波電流を通電して患部を加温するRF(ラジオ波)誘電加温方式、生体に高周波磁界を印加することで生体内に誘導電流を流し、その抵抗加温により患部を加温するRF誘導加温方式を用いることも好ましい。マイクロ波加温方式、RF誘導加温方式、RF誘導過熱方式等の非侵襲で生体の患部を加温する方式を用いることで、加温時の生体への負担を少なくすることができる。
【0090】
また、本実施形態では、生体を挟みこむように2つのアレイアンテナを配置し、生体を透過したマイクロ波の強度から誘電率を検出したが、これに限定されず、生体で反射されたマイクロ波の強度から誘電率を検出してもよい。
また、本実施形態では、高い測定精度で各位置の誘電率を検出することができるため、チャープパルスのマイクロ波を照射し、透過または反射したマイクロ波の出力から誘電率を検出する検出手段を用いたが、UWB方式の電磁波を照射し、誘電率を検出する方法を用いることも好ましい。
また、本発明はこれらにも限定されず、生体に非侵襲で、生体の誘電率を測定することができればよく、例えば、インピーダンス方式等種々の誘電率検出手段を用いることが出来る。
【0091】
また、上記実施形態では、加温手段と誘電率検出手段とを別々の装置としたが、1つの電磁波を照射する装置で患部の加温と誘電率の検出を行ってもよい。
また、本実施形態では、電磁波としてマイクロ波を用いたが、これに限定されず、数MHz帯からUHF帯、ミリ波の30GHz帯等の種々の波長の電磁波を用いることができる。
【0092】
また、上記実施形態では、加熱手段の出力端子及び誘電率検出手段のアレイアンテナを生体の外周に配置したが、これに限定されず、出力端子及び/またはアレイアンテナを食道、胆管、尿道などの管腔臓器に挿入するようにしてもよい。出力端子及び/またはアレイアンテナを内視鏡等とあわせて管腔に挿入することで、生体に非侵襲で出力端子及び/またはアレイアンテナをより患部に近接させることができ、患部を効率よく加熱することができ、また患部の誘電率をより正確に検出することができる。
また、この場合は、管腔粘膜の火傷を防止するため、冷却部により出力端子を冷却することが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】(A)は、本発明の温熱治療装置の一実施形態のハイパーサーミアシステムの概略構成を示すブロック図であり、(B)は、(A)に示すハイパーサーミアシステムの生体の周辺部を拡大して示す拡大側面図である。
【図2】図1に示すハイパーサーミアシステムの加温手段の概略構成を示す正面図である。
【図3】図2に示す加温手段の出力端子の概略構成を示す断面図である。
【図4】図1に示すハイパーサーミアシステムの温度検出手段のアレイアンテナの概略構成を示す斜視図である。
【図5】図1に示すハイパーサーミアシステムの温度検出手段の概略構成を示すブロック図である。
【図6】(A)は、誘電率と温度との関係を示すグラフであり、(B)は、比誘電率と測定周波数との関係を示すグラフである。
【図7】ハイパーサーミアシステムを用いた温熱治療方法の一例を示すフロー図である。
【図8】ハイパーサーミアシステムの動作の一例を示すフロー図である。
【図9】ハイパーサーミアシステムを用いた温熱治療方法の他の一例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0094】
10 ハイパーサーミアシステム
12 加温手段
14 誘電率検出手段
16 制御部
18 入力表示手段
20 出力端子
22 出力部
24a、24b アレイアンテナ
26 マイクロ波制御解析部
30 発振部
31 アイソレータ
32 方向性結合器
33a、33b 電力計
34a、34b 減衰器
35 整合回路
36 ボーラス
38 冷却部
40 基材
42 アンテナエレメント
44 マイクロ波用送信アンテナ
46 マイクロ波用受信アンテナ
48 チャープパルス発生器
50 分配器
52、58 増幅器
54 送信側マルチプレクサ
56 受信側マルチプレクサ
60 ミキサー
62 帯域通過フィルタ
64 FFTアナライザ
66 三次元データ画像生成回路
100 同軸コネクタ
102 接地部
104 誘電体基板
106 アンテナ
B 生体
T 患部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の患部に非侵襲で電磁波を照射し、前記患部を加温する加温手段と、
前記生体に非侵襲で電磁波を照射し、前記生体の誘電率を検出する誘電率検出手段と、
前記生体の前記患部の誘電率の変化量に基づいて前記加温手段の出力を調整する制御部とを有することを特徴とする温熱治療装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記患部の誘電率の変化量がしきい値を超えたことを検出した場合に前記加温手段による加温を停止する請求項1に記載の温熱治療装置。
【請求項3】
前記しきい値は、高含水成分の細胞の誘電率と低含水成分の細胞の誘電率との差分である請求項2に記載の温熱治療装置。
【請求項4】
さらに、
前記生体の外に配置された基準誘電体と、
前記誘電率検出手段が検出した基準誘電体の誘電率に基づいて、前記誘電率検出手段の検出値を補正する補正手段とを有する請求項1〜3のいずれかに記載の温熱治療装置。
【請求項5】
前記基準誘電体は、前記誘電率検出手段と当接して配置されている請求項4に記載の温熱治療装置。
【請求項6】
前記誘電率検出手段は、チャープパルス方式またはUWB方式の電磁波を照射し、前記患部の誘電率を検出する請求項1〜5のいずれかに記載の温熱治療装置。
【請求項7】
さらに、前記加温手段から照射され前記生体の表皮で反射された電磁波の強度を検出する反射電磁波検出手段を有し、
前記制御部は、前記加温手段から放射された電磁波の強度と前記反射電磁波検出手段が検出した前記生体の表皮で反射された電磁波の強度との差分が設定した強度となる強度の電磁波を前記加温手段から放射させる請求項1〜6のいずれかに記載の温熱治療装置。
【請求項8】
さらに、前記誘電率検出手段が検出した前記生体の誘電率から前記生体の温度を算出する温度算出手段を有し、
前記制御部は、前記温度算出手段で算出した前記生体の温度に基づいて、前記患部の温度が設定温度となるように前記加温手段から放射する電磁波の強度を調整する請求項1〜7のいずれかに記載の温熱治療装置。
【請求項9】
生体の患部に電磁波を照射し、患部を加温する温熱治療方法であって、
前記生体に非侵襲で電磁波を照射し、前記患部の誘電率を検出する誘電率検出ステップと、
前記誘電率検出ステップで検出した前記患部の誘電率の変化量としきい値とを比較し、前記患部の誘電率の変化量がしきい値を超えていた場合は、電磁波の照射を終了させる出力切替ステップとを有することを特徴とする温熱治療方法。
【請求項10】
さらに、患部の位置を特定する患部特定ステップを有する請求項9に記載の温熱治療方法。
【請求項11】
前記患部特定ステップは、前記生体の誘電率に基づいて前記患部の位置を特定する請求項10に記載の温熱治療方法。
【請求項12】
前記出力切替ステップは、前記生体を加温する時間が設定時間を超えたら電磁波の照射を終了させる請求項9〜11のいずれかに記載の温熱治療方法。
【請求項13】
前記出力切替ステップは、前記電磁波の出力する電力量の積算値が設定量を超えたら電磁波の照射を終了させる請求項9〜12のいずれかに記載の温熱治療方法。
【請求項14】
前記誘電率検出ステップは、さらに、前記患部の周辺部の誘電率を検出し、
前記出力切替ステップは、前記患部の周辺部の誘電率の変化量としきい値とを比較し、前記患部の周辺部の誘電率の変化量がしきい値を超えていた場合は、電磁波の照射を終了させる請求項9〜13のいずれかに記載の温熱治療方法。
【請求項15】
前記誘電率検出ステップは、さらに、前記生体の表皮の誘電率を検出し、
前記出力切替ステップは、前記表皮の誘電率の変化量としきい値とを比較し、前記表皮の誘電率の変化量がしきい値を超えていた場合は、電磁波の照射を終了させる請求項9〜14のいずれかに記載の温熱治療方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−125257(P2009−125257A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302615(P2007−302615)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】