説明

温裏作用の評価方法

【課題】体を内側から温める「温裏作用」を簡便にかつ短期間で評価できる方法を提供する。
【解決手段】絶食した後の非ヒト動物に被験薬試料を投与し、水浸冷却負荷を与えた後、該動物の体温変化を測定することを特徴とする温裏作用評価方法を提供する。非ヒト動物の体温変化が直腸温の変化である。非ヒト動物がラットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中医学的な理論である「温裏作用」の評価方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
体を温める作用がある生薬、食品は多数存在するが、その作用の評価方法は、寒冷環境に曝露した動物モデルに被験物質を投与し、体表面や足蹠の温度変化をサーモグラフィーにより測定する方法が一般的である。
【0003】
また、寒冷環境に曝露させる方法として、モデル動物の首より下部を15℃の冷水に強制的に一定時間浸水させる水浸冷却負荷モデルも知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Comparison of pharmacological effects of Yanbian Toki, Yamato Toki and Hokkai Toki (Angelicae Radix) on oketsu (blood stagnation) and hie-sho (chilliness) in animal models. (J.Trad.Med. 25, 90-94, 2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの評価方法は、体表面の温度変化を評価する有効な方法であるが、測定部位の特定が困難であることや、体を内側から温める「温裏作用」を評価する場合には、正確な評価結果を得られないといった問題があった。
そこで、体を内側から温める「温裏作用」を簡便にかつ短期間で評価できる方法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、水浸冷却負荷試験と直腸温の温度変化を用いることで、「温裏作用」の評価を正確にかつ簡便・短時間で行えることを見出した。
すなわち、本発明は、絶食した後の非ヒト動物に被験薬試料を投与し、水浸冷却負荷を与えた後、該動物の体温変化を測定する温裏作用評価方法に関するものである。また、非ヒト動物の体温変化が直腸温の変化である温裏作用評価方法に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、温裏作用の効果が顕著に表れる直腸温変化を測定することで、「温裏作用」評価を正確に評価することが可能となった。
【0008】
また、直腸温の変化を測定することで、熱画像撮影による解析・操作などが不要となり、また水浸冷却負荷試験と直腸温測定の組み合わせにより、「温裏作用」評価を簡便かつ短時間で実施することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】直腸温回復値の経時変化(ハナトリカブトとオクトリカブト1)
【図2】体表面温回復値の経時変化(ハナトリカブトとオクトリカブト1)
【図3】直腸温回復値の経時変化(ハナトリカブトとオクトリカブト2)
【図4】体表面温回復値の経時変化(ハナトリカブトとオクトリカブト2)
【図5】直腸温回復値の経時変化(同栽培地のハナトリカブト間)
【図6】体表面温回復値の経時変化(同栽培地のハナトリカブト間)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(1)非ヒト動物
評価に用いる非ヒト動物は、例えば、マウスやラットなどを用いることができる。
【0011】
(2)非験薬試料
「温裏作用」を有する組成物を、経口および注射による投与が可能となるように加工し準備する。例えば、生体内での吸収・代謝後の薬理評価を行う場合、懸濁液として経口投与が望ましい。
【0012】
(3)非ヒト動物に対する水浸冷却負荷
非ヒト動物の首より下部を冷水の水中で一定時間浸水させ、急激な体温低下を誘発させる。水温は15℃、浸水時間は15分間が生命維持と体温低下の点で望ましい。
【0013】
(4)体温測定
電子温度計で、非ヒト動物の体温測定部位の体温変化を測定する。ここで体温測定部位は直腸が体内温度を正確に測定する点で好ましい。
【0014】
(試験例)
(実施例)
非ヒト動物として、日本SLC株式会社製のWistarラットを用いた。
8週齢のWistar雄性ラット(180〜200g)を、1週間の予備飼育後に実験を開始した。
予備飼育は当該ラットを温度23±2℃、湿度55±10%RH、9:00点灯、20:00消灯の12時間毎サイクルの環境下で飼育し、市販固形飼料;CE−2(オリエンタル酵母工業株式会社より購入)および水道水を自由摂取させた。
【0015】
非験薬試料は、加工附子末を用いた。加工附子末は附子を加熱処理することにより加工したものを指す。附子は中国原産であるハナトリカブトや日本原産のオクトリカブトの塊根のことをいい、古くから「温裏きょ寒薬」として知られている。附子には毒性が強いアルカロイド類が含まれているため、修治により減毒を行い、加工附子末としていくつかの処方に利用されている重要な生薬である。
なお本実験で使用した加工附子末はクラシエ製薬株式会社で試験栽培している12品種のものを用いた。
【0016】
12種類の加工附子末は、次のとおりである。

サンプル 植物種 由 来 栽培地
Bushi1 ハナトリカブト 四川省布施県 四川省北川県A
Bushi2 ハナトリカブト 四川省布施県 四川省北川県B
Bushi3 ハナトリカブト 四川省安県 四川省南江県A
Bushi4 ハナトリカブト 四川省安県 四川省北川県A
Bushi5 ハナトリカブト 四川省安県 四川省南江県B
Bushi6 ハナトリカブト 四川省安県 四川省北川県B
Bushi7 ハナトリカブト 四川省青川県 四川省北川県A
Bushi8 ハナトリカブト 四川省北川県 四川省北川県A
Bushi9 ハナトリカブト 四川省北川県 四川省北川県B
Bushi10 ハナトリカブト 四川省北川県 四川省北川県C
Bushi11 オクトリカブト 青森県 富山県
Bushi12 オクトリカブト 北海道 富山県
【0017】
9週齢のWistar雄性ラット30匹を無作為にControl群1群、Bushi群4群の計5群に各群6匹ずつに分けた。
16時間絶食した後、Control群には5%アラビアゴム溶液を、Bushi群には加工附子末懸濁液(1.5g/kg BW)を経口投与した。
【0018】
30分経過後に15℃の水中に首より下部を15分間浸水させた。浸水から解放後、室温下で直ちに体表の水を拭き取り、その直後から体表面温として、120分間、尾根部の熱画像をサーモトレーサ(TH9100、95μ拡大レンズR56、NEC三栄株式会社)により撮影し測定した。
一方、直腸温を同じく120分間、電子温度計(株式会社夏目製作所 KN-98 デジタル式サーミスター温度計(ラット用))により測定した。
【0019】
熱画像の撮影および直腸温の測定は、浸水解放後0、5、10、20、30、40、50、60、80、100、120分後に行った。それぞれ0分値と各時間における体温の差を、体温回復値(Δt)として評価した。結果は図1〜6に示した。
本実験で得られたデータは平均値±標準誤差で示し、データ解析においてはControl群との比較にStudent’s s−t検定法を用いた。なお、統計学的有意水準は危険率5%を基準とした。
【0020】
その結果、図1、3、5が示すように、直腸温の回復値は、Control群と比較してほぼ全てのBushi群で高値を示した。また、時間経過により継続的な上昇が見られた。
一方、図2、4、6が示すように、体表面温の回復値は、Control群と比較してBushi群で直腸温のような作用が見られなかった。さらに、一部のBushi群ではControl群より低値を示した。また、時間経過による上昇のバラつきが大きかった。
このことから、体を中から温める「温裏作用」の評価は、直腸温の回復値を指標とすることで可能であることを示している。
【0021】
符号の説明
* :対照群に対してp<0.05で有意差あり
**:対照群に対してp<0.01で有意差あり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶食した後の非ヒト動物に被験薬試料を投与し、水浸冷却負荷を与えた後、該動物の体温変化を測定することを特徴とする温裏作用評価方法。
【請求項2】
非ヒト動物の体温変化が直腸温の変化である請求項1に記載の温裏作用評価方法。
【請求項3】
非ヒト動物がラットである請求項1または2に記載の温裏作用評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−145520(P2012−145520A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5454(P2011−5454)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(306018343)クラシエ製薬株式会社 (32)
【Fターム(参考)】