説明

測位システム、基地局、及び移動局

【課題】ジッタによる測距への影響を低減し、測距精度を向上する。
【解決手段】測位システム8は、測距用電波信号を複数回送信する移動局10と、送信された測距用電波信号を受信する基地局12A〜Dと、予め算出された、受信信号の時間分散と受信信号強度との相関を格納保持した記憶部45とを有し、複数回の測距用電波信号の送信時に、各回の測距用電波信号が相関上において互いに異なる測定点となるように異点化処理し、基地局12A〜Dで複数回受信した測距用電波信号のうち、記憶部45に記憶された相関に応じて選択された測距用電波信号に基づき、移動局10から基地局12A〜Dまでの測距処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動局と基地局との間で行われる無線通信の結果に基づき、それらの間の距離の算出可能な測位システム、その測位システムに備えられる基地局又は移動局に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動局と基地局との間の無線通信の結果に基づいて、移動局の位置の算出(移動局までの距離の算出)を行うシステムが既に提唱されている。移動局と基地局との間の距離を算出する(=測距)手法としては、例えば、TOA(Time of Arrival)方式や、TDOA(Time Difference of Arrival)方式等がある。TOA方式は、ある移動局における電波の送信時刻と基地局における電波の受信時刻とに基づいて算出した、電波の伝搬時間に基づいて移動局と基地局との間の距離を算出する方式である。TDOA方式は、各基地局の受信時刻の相対受信時刻を用いて、移動局と基地局との間の距離を算出する方式である。
【0003】
このようなシステムの例としては、例えば、特許文献1記載のものがある。この従来技術では、移動局(被測定体)からの送信信号を、異なる位置に配置された複数の基地局(受信局)で受信する。そして、各基地局での受信信号の到達時間差を検出することにより、移動局までの距離を算出するようになっている(TDOA方式)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−233063号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電波は光速c(=約3.0×10m/s)の速度で進むことが知られている。この結果、仮に移動局の有する時計と基地局の有する時計とが1μ(10−6)秒だけずれているとすると、移動局と基地局との距離に約300mの誤差が生じる。したがって、上記のように電波の受信時刻に基づいて電波の伝搬時間を算出するTOA方式では、移動局の有する時計と基地局の有する時計とが正確に一致している必要がある。同様に、電波の受信時刻の相対的な時間差を算出するTDOA方式では、各基地局の有する時計がそれぞれ正確に一致している必要がある。
【0006】
しかしながら、このように時計どうしが正確に一致していたとしても、さらに以下のような誤差要因がある。
【0007】
すなわち、一般に、無線通信における電波信号の送受信においては、信号波形の揺らぎによる信号の時間軸方向の揺れが避けられない。上記のようなシステムにおいても、移動局からの信号を基地局で受信する際、時間分散(いわゆるジッタ)が生じる場合がある。上記と同様、このジッタによって、受信信号の信号波形が本来の信号波形とずれると、検出した距離に大きな誤差が生じる。上記特許文献1においては、このようなジッタによる受信信号の検出精度の低下を配慮してしない。このため、測距精度を向上させることが困難であった。
【0008】
本発明の目的は、ジッタによる測距への影響を低減し、測距精度を向上できる測位システム、これに備えられる基地局及び移動局を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、第1の発明は、測距用電波信号を複数回送信する送信部を備えた移動局と、前記送信部から送信された前記測距用電波信号を受信する受信部を備えた基地局と、前記受信部で受信した前記測距用電波信号に基づき、前記移動局から前記基地局までの測距処理を行う測距処理手段とを有する測位システムであって、予め算出された、受信信号の時間分散と受信信号強度との相関を格納保持した相関記憶手段と、前記送信部による前記複数回の測距用電波信号の送信時に、各回の測距用電波信号が前記相関上において互いに異なる測定点となるように異点化処理する異点化処理手段とを有し、前記測距処理手段は、前記送信部から複数回送信された前記測距用電波信号のうち、前記相関記憶手段に記憶された前記相関に応じて選択された測距用電波信号に係わる前記測距処理を行うことを特徴とする。
【0010】
移動局の送信部から測距用電波信号が送信されると、その信号が基地局の受信部にて受信される。そして、その受信された信号に基づき、測距処理手段が、移動局から基地局までの距離を算出する測距処理を行う。
【0011】
ここで、無線通信における電波信号の送受信においては信号の時間軸方向の揺れが不可避であり、このため上記の基地局での測距用電波信号の受信時に、時間分散(いわゆるジッタ)が生じる。このジッタは、受信信号強度の相関として表すことができる。すなわち、受信信号強度が減少すると共にジッタは減少していき、ある受信信号強度でジッタは極小値となり、これを超えると受信信号強度の減少と共にジッタが増加する挙動となる。
【0012】
本願第1発明においては、予め上記のジッタと受信信号強度との相関を相関記憶手段に格納保持しておく。測距時には移動局の送信部から測距用電波信号が複数回送信されるが、異点化処理手段により、それら複数回送信される測距用電波信号が上記相関において互いに異なる測定点となるように制御される。この結果、上記のようなジッタの挙動に応じ、複数回の測距用電波信号のそれぞれはジッタの大きさに大小の差が生じる。これにより、測距処理手段で、それら複数回の測距用電波信号のうち、ジッタが小さいほうの信号に係わる測距処理を行うことが可能となる。この結果、上記ジッタによる測距への影響を低減し、測距精度を向上することができる。
【0013】
第2発明は、上記第1発明において、前記異点化処理手段は、前記移動局に備えられ、複数回のそれぞれで互いに出力強度が異なる前記測距用電波信号を送信するように、前記送信部を制御する送信制御手段であることを特徴とする。
【0014】
これにより、測距時に移動局の送信部から複数回送信される測距用電波信号は、互いに異なる出力強度となるように制御される。この結果、複数回の測距用電波信号のそれぞれにおいてジッタの大きさに大小の差を生じさせることができる。
【0015】
第3発明は、上記第2発明において、前記送信制御手段は、前記複数回の測距用電波信号の出力強度の大きさが、各回ごとに一定の出力差で順次異なるように、前記送信部を制御することを特徴とする。
【0016】
これにより、測距時において、移動局は、一定の出力差で複数回の測距用電波信号を順次出力することができる。
【0017】
第4発明は、上記第2発明において、前記送信制御手段は、前記複数回の測距用電波信号の出力強度の大きさが、各回ごとに前回の出力の所定の比で順次異なるように、前記送信部を制御することを特徴とする。
【0018】
ジッタと受信信号強度との相関を表す場合、横軸の受信信号強度を対数軸で表すと、受信信号強度の減少にしたがって、ジッタ減少→極小値→ジッタ増加という、いわゆるバスタブ型の曲線として表すことができる。そこで、移動局からの測距用電波信号の出力強度を前回の出力の所定の比で順次異ならせることにより、上記曲線上において略等間隔にて複数個の測定点をとることができる。
【0019】
第5発明は、上記第2乃至第4発明のいずれかにおいて、前記送信制御手段は、互いに出力強度が異なる前記測距用電波信号を3回送信するように、前記送信部を制御することを特徴とする。
【0020】
これにより、ジッタと受信信号強度との相関上において、受信信号強度大、受信信号強度中、受信信号強度小の3個の測定点をとることができる。上記相関は、受信信号強度の減少にしたがって、ジッタ減少→極小値→ジッタ増加という、下に凸の曲線状に表されるが、上記のように3個の測定点をとることにより、各測定点が上記曲線のどの領域に属するか(極小値となる前の右下がり領域か、極小値を挟む領域か、極小値以降の右上がり領域か)を確実に推定することができる。また、何らかの支障により1回の測距用電波信号の受信が不調に終わった場合でも、2回の測距用電波信号の受信は確保することができるので、測距信頼性を向上することができる。
【0021】
第6発明は、上記第2乃至第5発明のいずれかにおいて、前記送信制御手段は、前記測距用電波信号を所定の時間間隔で複数回順次出力するように、前記送信部を制御することを特徴とする。
【0022】
一定時間間隔で順次出力される複数回の測距用電波信号のそれぞれにおいてジッタの大きさに大小の差を生じさせることができる。また移動局側から一定時間間隔で送信を行うことにより、基地局における受信制御(復調や拡散符号を用いる場合の逆拡散等)をより容易かつ円滑に行うことが可能となる。
【0023】
第7発明は、上記第3乃至第6発明のいずれかにおいて、前記送信制御手段は、前記複数回送信される前記測距用電波信号のそれぞれに、互いを識別するための識別子が含まれるように、前記送信部を制御することを特徴とする。
【0024】
これにより、移動局から順次出力される複数回の測距用電波信号を、基地局でそれぞれ識別しつつ受信することができる。この結果、受信制御をより容易かつ円滑に行うことが可能となる。
【0025】
第8発明は、上記第7発明において、前記送信部は、拡散符号を含む前記測距用電波信号を送信し、前記送信制御手段は、前記複数回の測距用電波信号に含まれる前記拡散符号が、前記識別子として各回ごとに異なるように、前記送信部を制御することを特徴とする。
【0026】
測距用電波信号に拡散符号を含ませ、本来よりも広い帯域にスペクトラム拡散して送信することにより、高い通信品質や高い秘匿性を容易に確保することができる。また符号分割多重通信を行うことも可能である。そして、各回の測距用電波信号の拡散符号を異ならせることで、移動局から順次出力される測距用電波信号を基地局で拡散符号によって識別しつつ受信することができる。この結果、受信制御を容易かつ円滑に行うことができる。
【0027】
第9発明は、上記第1乃至第8発明のいずれかにおいて、前記基地局の前記受信部は、前記受信アンテナを介して受信した前記測距用電波信号を減衰させる可変減衰手段を備え、前記異点化処理手段は、前記基地局に備えられ、前記移動局から送信される前記複数回の測距用電波信号のそれぞれごとに、前記可変減衰手段の減衰量を変化させる減衰制御手段であることを特徴とする。
【0028】
これにより、測距時において移動局から同一出力強度の測距用電波信号が複数回送信されたとしても、減衰制御手段を介した受信信号強度を各回の測距用電波信号で互いに異ならせることが可能となる。この結果、それら複数回の測距用電波信号のそれぞれにおいてジッタの大きさに大小の差を生じさせることができる。
【0029】
上記目的を達成するために、第10発明は、予め算出された受信信号の時間分散と受信信号強度との相関を格納保持した相関記憶手段と、所定の移動可能領域を移動可能な移動局から送信され、互いに出力強度が異なる複数回の測距用電波信号を、受信アンテナを介し受信する受信部と、前記受信部で受信した前記測距用電波信号の到来時刻を検出する到来時刻検出部と、前記到来時刻検出部で検出された複数回の前記測距用電波信号の前記到来時刻のうち、前記受信信号の時間分散が最も小さい前記測距用電波信号に対応するものを前記相関に基づき選択する信号選択手段とを有する。
【0030】
本願第10発明の基地局においては、移動局からの信号を受信アンテナを介し受信部で受信し、到来時刻検出部でそのときの到来時刻を検出する。これにより、この検出した到来時刻に基づき、移動局までの距離を算出することが可能となる。
【0031】
一方、予めジッタと受信信号強度との相関を相関記憶手段に格納保持しておく。測距時には移動局から測距用電波信号が複数回送信されるが、それら複数回送信される測距用電波信号は互いに出力強度が異なっている。この結果、各信号はジッタの大きさに大小の差が生じる。これに応じて、信号選択手段は、上記複数回受信した測距用電波信号のうち、ジッタが最小の測距用電波信号に対応した到来時刻を選択する。これにより、上記ジッタによる測距への影響を低減し、測距精度を向上することができる。
【0032】
上記目的を達成するために、第11発明は、予め算出された受信信号の時間分散と受信信号強度との相関に基づく選択候補とするために、複数回の測距用電波信号を送信アンテナを介して移動局へ送信する送信部と、前記複数回の測距用電波信号の出力強度の大きさが、各回ごとに一定の出力差で順次異なるように、前記送信部を制御する送信制御部とを有することを特徴とする。
【0033】
本願第11発明の移動局においては、送信部から送信アンテナを介し測距用電波信号を出力する。これにより、この測距用電波信号を基地局で受信することで、そのときの到来時刻に基づき、移動局から基地局までの距離を算出することが可能となる。
【0034】
一方、測距時には送信部から測距用電波信号を複数回送信するが、それら複数回送信される測距用電波信号は送信制御部によって互いに出力強度が異なるよう制御される。この結果、基地局側で受信するときに各信号はジッタの大きさに大小の差が生じる。したがって、各回の測距用電波信号を受信した基地局では、複数回受信した測距用電波信号のうちジッタが最小の測距用電波信号に対応した到来時刻を選択し、これを用いて移動局から基地局までの距離を算出することが可能となる。これにより、上記ジッタによる測距への影響を低減し、測距精度を向上することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、ジッタによる測距への影響を低減し、測距精度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、この実施形態では、前述のTDOA方式により測距を行う場合を例にとって説明する。
【0037】
(A)測位システムの基本構成
図1は、本実施形態の測位システム8の構成の一例を表す説明図である。
【0038】
図1において、平面上の任意の形状(この例では一辺30(m)の正方形状)を備えた移動可能領域50が設けられる。この移動可能領域50には、3つの移動局10A,10B,10Cと、4つの基地局12(第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12C、第4基地局12D)と、測位サーバ14(測距サーバ)とが設けられている。
【0039】
移動局10A〜10Cは、移動可能領域50内を移動可能に配置されている。第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12C、及び第4基地局12Dは、正方形の移動可能領域50の既知の位置に(この例では4隅それぞれに1つずつ)固定的に配置されている。
【0040】
測位サーバ14は、例えば有線ケーブル52により各基地局12A〜12Dと接続され、互いに情報通信可能となっている。そして、測位サーバ14は、移動局10によって送信された電波(=測距用電波信号;詳細は後述)が上記基地局12A〜12Dによって受信されるときの受信時刻情報に基づき(詳細には後述のように各基地局12A〜12Dにおける測距用電波信号の受信時刻の時間差に基づき)、移動可能領域50内における基地局10の位置を算出する(=測位)。
【0041】
図2は、上記位置算出のために、移動可能領域50において便宜上設定される座標系を表す説明図である。
【0042】
図2において、x軸およびy軸を備えた座標系が定義されており、移動可能領域50上の点はこれらxy座標系において座標が規定される。この例では、(理解の容易のため)x座標y座標の値は、原点(0,0)からの距離[m]に対応させてある。すなわち、第1基地局12Aは座標(0,0)に配置され、第2基地局12Bは座標(0,30)に配置され、第3基地局12Cは座標(30,30)に配置され、第4基地局12Dは座標(30,0)に配置されている。
【0043】
図3は、移動局10の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【0044】
図3において、移動局10は、電波を送受信するために用いるアンテナ部20(送信アンテナ兼受信アンテナ。基地局からの送信命令を受け取る機能を備える)と、平衡不平衡変換器22と、送受信切換部24と、送信アンプ部26と、無線部28と、制御部32と、電源部40と、コントローラ401と、増幅率一定の低雑音増幅器27とを有する。なお、時計41についてはTDOA方式を行う本実施形態では必ずしも必要ない(後述の(5)の変形例を参照)。
【0045】
平衡不平衡変換器22は、例えばバラン(Balun)で構成される。この平衡不平衡変換器22は、送受信切換部24の不平衡線路をアンテナ部20に適合するように平衡線路に変換する。
【0046】
送受信切換部24は、移動局10の送信状態と受信状態とを切り換える。すなわち、送受信切換部24が移動局10を送信状態に切り換えると、移動局10は送信機として機能し、送受信切換部24が移動局10を受信状態に切り換えると、移動局10は受信機として機能する。
【0047】
コントローラ401は、周知のマイコン及びその周辺回路からなる制御回路であり、送受信切換部24を制御して移動局10の動作を制御する。
【0048】
無線部28は、移動局10が送信機として機能する場合には、制御部32によって生成される信号を無線通信を行うための形式に変換する。移動局10が受信機として機能する場合には、アンテナ部20によって受信された受信波から制御部32によって処理されるための信号に変換する。この無線部28は、この例では、PLL回路(phase lock loop)回路29、VCO(voltage controlled oscillator)回路31、及びデジタル変調復調部30などを備えたIC等によって実装される。
【0049】
PLL回路29は、コントローラ401からの指令により所定の周波数の搬送波を発生させるものである。デジタル変調復調部30は、制御部32によって生成される信号をデジタル変調する。またデジタル変調復調部30は、受信された受信信号の復調を行い、生成されたデジタルデータを制御部32に出力する。これにより、移動局10と基地局12との間の無線通信がデジタル通信によって実行される。
【0050】
送信アンプ部26は、移動局10が送信機として機能する場合に、上記無線部28によって生成された信号波を増幅する。
【0051】
制御部32は、スペクトラム拡散部34と、逆拡散処理部341と、ベースバンド信号生成復元部36と、拡散符号発生部38とを有する。この制御部32は、例えば、これら各機能部を制御し拡散符号を発生する機能を有するゲートアレイやマイコンなどによって実装される。
【0052】
ベースバンド信号生成復元部36は、移動局10が送信機として機能する場合には、伝送したい情報を符号化しベースバンド信号を生成する。またベースバンド信号生成復元部36は、移動局10が受信機として機能する場合には、逆拡散処理部341によって復号されたベースバンド信号から、伝送された情報を取りだす。
【0053】
拡散符号発生部38は、スペクトラム拡散部34によってスペクトラム拡散を行うための拡散符号を発生させる。この発生させる拡散符号の第1条件は、自己相関関数に高いピークを持つ符号であることである。すなわち、位相差がゼロである場合において自己相関が大きな値となる一方、位相差がゼロでない場合には自己相関が十分に小さいような符号が用いられる。発生させる拡散符号の第2条件は、相互相関が小さい符号であることである。すなわち、符号間における相関が全ての位相差において十分小さい符号列が用いられる。これら2つの条件を満たす符号としては、例えば、M系列符号や、GPSにおいても使用されているGold系列符号等を用いることができる。このGold系列符号は疑似雑音符号(pseudo−noise code;PN信号)とも呼ばれる。
【0054】
スペクトラム拡散部34は、移動局10が送信機として機能する場合に、ベースバンド信号生成復元部36が生成したベースバンド信号を、拡散符号発生部38が発生した拡散符号を用いてスペクトラム拡散を行い、送信のための信号を生成する。具体的には、例えば、上記ベースバンド信号と上記拡散符号との排他的論理和を用いる直接拡散(direct spread)方式が用いられる。
【0055】
逆拡散処理部341は、移動局10が受信機として機能する場合に、上記デジタル変調復調部30によって復調された受信波に対し、上記拡散符号を用いてスペクトラム逆拡散を行い、ベースバンド信号を取りだす。この受信の場合も、上記送信の場合と同じ拡散符号が用いられる。
【0056】
このようなスペクトラム拡散を利用し本来よりも広い帯域に拡散して送受信することで、正確な受信タイミングの検出が可能になり、時計と合わせて受信時刻の判定を行うことができるのである。
【0057】
電源部40は、上述した送信アンプ26、無線部28、制御部32、時計41等の各機能部に対し、必要な電力を供給する。
【0058】
なお、上記アンテナ部20、平衡不平衡切換器22、送受信切換部24、送信アンプ26、無線部28、制御部32等の、電波の送信及び受信のための機能部が各請求項記載の送信部及び受信部に相当する。
【0059】
図4は、基地局12A〜12Dの機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。図3と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0060】
図4において、基地局12A〜12Dは、移動局10に備えられたものと共通の機能である、アンテナ部20(受信アンテナ)、平衡不平衡変換器22、送受信切換部24、送信アンプ26、無線部28、低雑音増幅器27、制御部32、時計41、電源部40等を有する。すなわち、基地局12A〜12Dも、上述の移動局10と同様、送信機(送信部)及び受信機(受信部)としての両方の機能を有する。
【0061】
時計41は、制御部32ほかの各機能部の動作時や、電波の送信・受信時において参照可能な時刻情報を供給する。この時計41は、例えばリファレンスクロック等により構成される。
【0062】
また基地局12A〜12Dは、上記以外に、到来時刻検出部42と、測位サーバ14との通信を行うための有線通信部43と、記憶部(メモリ)45とを有する。
【0063】
到来時刻検出部42は、移動局10から送信された上記電波(測距用電波信号)が基地局12A〜12Dで受信された時刻を検出する。なお、本実施形態では、後述のように移動局10からは複数回(例えば3回)測距用電波信号が送信され、到来時刻検出部42では、各回ごとに測距用電波信号の受信時刻を検出する。この到来時刻検出部42は例えばマッチドフィルタを含んで構成され、この例では、レプリカ符号発生部44と、遅延回路46と、相関計算部50と、RSSI部47と、信号選択部48(信号選択手段)とを備えている。
【0064】
レプリカ符号発生部44は、レプリカ符号を発生する。このレプリカ符号は、移動局10の拡散符号発生部38により発生されスペクトラム拡散部34で用いられた拡散符号と同一の符号である。
【0065】
遅延回路46は、例えば周知のシフトレジスタにより構成される。この遅延回路46は、移動局10から送信され基地局12A〜12Dで受信された電波に含まれる信号波を入力し、その信号波を予め定められた所定の時間間隔ごとにサンプリングして遅延させる。
【0066】
相関計算部50は、遅延回路46によって遅延された受信波とレプリカ符号との相関値を算出する。そして、算出された相関値が最大となった際の時刻を、移動局10からの電波(測距用電波信号)の到来時刻(=受信時刻)とする。
【0067】
なお、RSSI部47及び信号選択部48については、後述する。
【0068】
有線通信部43は、例えばLANケーブルなどの有線ケーブル52によって測位サーバ14と接続されている。これにより、基地局12は、有線通信部43を介し、到来時刻検出部42によって測定された上記測距用電波信号の受信時刻情報や、基地局12各部の動作に関する情報などを、測距サーバ14と送受信可能となっている。
【0069】
図5は、測位サーバ14の機能的構成を表す機能ブロック図である。
【0070】
測位サーバ14は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたいわゆるコンピュータにより構成されている。これにより、測位サーバ14は、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムにしたがって信号処理を行い、移動局10の位置の算出(=測位)を実行する。この測位サーバ14は、機能的構成として、インターフェース部82と、測位部84と、記憶部86とを備えている。
【0071】
インターフェース部82は、通信ケーブル52を介し接続された基地局12との間で必要となる情報を入出力する。例えば測位サーバ14は、基地局12の作動を指令するコマンド等を上記インターフェース部82を介し出力し、基地局12の到来時刻検出部42で検出された上記受信時刻情報をインターフェース部82を介し入力する。
【0072】
記憶部86は、いわゆるメモリなどの記憶手段であり、測位部84等を実行する際に必要となる情報や、インターフェース部82を介して基地局12などから得られた情報を読み出し可能に記憶する。例えば、基地局12の位置に関する情報や、基地局12から取得した受信時刻情報等が記憶される。
【0073】
測位部84は、各基地局12で取得した前述の受信時刻情報に基づき、移動可能領域50中の移動局10と各基地局12との距離を算出(=測距)する。
【0074】
なお、図5においては、本実施形態の測位に関する制御作動に直接関係のない機能についてはその記載が省略されている。例えばサーバ14には、図示しない電源が設けられ、各機能部に対して必要となる電力が供給されている。
【0075】
図6は、上記測位部84による測距原理の手法を説明するための説明図である。この例では第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12Cの3つを用いる場合を例にとって説明する。
【0076】
すなわち、例えば座標(x1,y1)に位置する第1基地局12Aと座標(x,y)に位置する移動局10との距離をr1、座標(x2,y2)に位置する第2基地局12Bと移動局10との距離をr2、座標(x3,y3)に位置する第3基地局12Cと移動局10との距離をrとする。また、第1〜第3基地局12A〜12Cの時計がそれぞれ有する時刻のずれに基づく誤差sとする。そして、第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12Cそれぞれにおいて、移動局10から時刻T0で送信された測距用電波信号を受信した受信時刻をT1,T2,T3とする。
【0077】
以上のような条件においては、図6において、
r1+s=√{(x−x1)+(y−y1)} ・・(1A)
r2+s=√{(x−x2)+(y−y2)} ・・(1B)
r3+s=√{(x−x3)+(y−y3)} ・・(1C)
が成り立つ。
【0078】
すると、式(1A)から式(1B)を減じることで、
|r1-r2|=c×|T1-T2| …(1D)
また、式(1A)から式(1C)を減じることで、
|r1-r3|=c×|T1-T3| …(1E)
で表される関係が成り立つ。なお、cは電波速度(光速=2.997×108[m/s])である。
【0079】
このとき、(受信時刻T1,T2,T3は測定値として既知であり)変数はr1,r2,r3の3つのみであるから、上記(1D)(1E)の2つの式を例えばニュートンラプソン法などにより解くことにより、移動局10の位置のx座標、y座標を特定することができる。
【0080】
なお、基地局12が4つ以上存在する場合には、算出における誤差を最小化する最小二乗法等を用いることで、より精度のよい移動局10の位置の算出が可能である。
【0081】
(B)ジッタの影響、及びジッタ回避の手法原理
ところで、一般に、無線通信における電波信号の送受信においては、信号波形の揺らぎによる信号の時間軸方向の揺れが避けられない。上記測位システム8においても、移動局10からの信号(上記測距用電波信号等)を基地局12A〜12Dで受信する際、時間分散(いわゆるジッタ)が生じる場合がある。
【0082】
図7は、このようなジッタの挙動を説明するための説明図である。この例では、横軸に時間をとったパルス波形の例を示している。図7において、破線で表す本来の波形が、上記ジッタの影響により、(ジッタを含む)実線で示す波形となった場合を表している。電波は光速c(=約3.0×10m/s)の速度で進むため、仮に上記2つの波形(本来の波形とジッタを含む波形)のずれ△tが1μ(10−6)秒だけずれていても測距において約300mの誤差が生じる。
【0083】
ここで、上記の時間分散(ジッタ)の発生原因としては種々の原因が考えられ、それらが複合的に作用している。例えば比較的強度が大きい信号の場合、信号の増幅時において、入力信号の増幅以外にひずみ成分やノイズの増幅が行われたことが考えられる。また比較的強度が小さい信号の場合、信号対ノイズ比(SN比)が小さく信号波形にノイズ成分が重畳しやすいため、必要な信号にノイズが混入してジッタが大きくなる傾向となる。
【0084】
図8は、発明者が実験により求めた受信信号強度とジッタとの相関関係を表す図である。横軸に受信信号強度(Received Signal Strength Indicator)を(対数軸で)とっており、図示左側ほど受信信号強度が大きく、図示右側ほど受信信号強度が弱くなっている。縦軸にはジッタの大きさをとっている。図8において、図示左端の受信信号強度が大きくジッタの値も大きい状態から、受信信号強度が小さくになるにつれて、ジッタの値も右下がりに減少する。そのジッタの減少度合いは受信信号強度が小さくなるほど徐々に小さくなり(右下がりが緩やかになり)、ある信号強度Soで下げ止まってジッタは極小値Zminとなる。この状態の後は、受信信号強度が小さくになるにつれて、ジッタの値は右上がりに増大する。そして、このジッタの増加度合いは受信信号強度が大きくなるほど徐々に大きくなる(右上がりが急になる)。
【0085】
(C)本発明に関わる要部構成
本実施形態においては、上記のような受信信号強度の大きさによって変化するジッタの特性に基づき、ジッタがなるべく小さな値となるような信号強度において、通信を行うものである。
【0086】
具体的には、移動局10が、送信出力を変えて複数回(この例では3回)の測距用電波信号の送信を所定の時間間隔で行い(=本実施形態での異点化処理。後述の図11及び図13参照)、各基地局12A〜12Dにおいて3回の測距用電波信号が受信される(後述の図11及び図12参照)。この結果、基地局12においては、それら3つの測距用電波信号の受信信号強度が互いに異なることとなる。これに対応して、本実施形態では、上記図4で前述したように、基地局12に、RSSI部(Received Signal Strength Indicator)47が設けられている。RSSI部47では、上記各回の受信ごとに受信信号強度を検出する。
【0087】
このとき、各基地局12A〜12Dの記憶部45では、上記図8で示したようなジッタと受信信号強度との相関を格納保持している(=相関記憶手段)。そして、基地局12A〜12Dにはこの相関を利用して信号選択を行う信号選択部48が設けられている。信号選択部48は、記憶部45の上記相関を参照しつつ、上記3つの測距用電波信号のうちジッタが最も少なくなるものを選択する。図9はこのような信号選択の一例を表す説明図であり、図8に対応する図である。
【0088】
図9の例では、3回の測距用電波信号が受信されたとき、それぞれの受信信号強度が、図中の「ア」、「イ」、「ウ」の互いに異なる3つの測定点で表されている。そして、図示のように、ジッタが最も小さくなるのは図中「ウ」で表される測定点である。したがって、信号選択部48は、この「ウ」で表される測距用電波信号(例えば1回目の信号)を、(その受信時刻情報をサーバ14へ出力するべき信号として)選択する。なお、3回の測距用電波信号の受信時に、各信号の受信時刻と何回目の測距用電波信号かという情報はその都度記憶部45に記憶されている。上記のようにして信号選択部48で信号が選択されると、その信号についての受信時刻情報が記憶部45から読み出され、選択された信号が何回目かに基づいて時間間隔を補正されて有線通信部43及び有線ケーブル52を介しサーバ14へと出力される。
【0089】
次に、上記の動作を実行するための制御内容を、図10〜図14により説明する。
【0090】
図10は、4つの基地局12A〜12Dで移動局10からの測距用電波信号を受信するに先立ち、各基地局12A〜12Dの時計41を同期させる際の通信の流れを表すタイムチャートである。縦線で表された第1〜第4基地局12A〜12Dと測位サーバ14との間を横方向に結ぶ矢印が、各基地局12A〜12Dと測位サーバ14との間の通信の挙動を示す。矢印の向きは通信方向を示しており、矢印の先が向いている機器が受信側である。また、波線で表された矢印は無線による通信を表している。また、図中下向きに時間軸がとられており、下へ行くほど長い時間が経過したことを表す。
【0091】
図10において、まず時刻t1で、測位サーバ14の上記測位部84が、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)に対し、無線通信における空きチャンネルの探索命令をインターフェース部82を介し出力する。これに対応して、第1基地局12Aでは、制御部32がチャンネルスキャンを実行し、発見した空きチャンネルについての情報を時刻t2において測位サーバ14へ有線通信部43を介し出力する。
【0092】
その後、時刻t3で、測位サーバ14の上記測位部84が、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)に対し、時刻情報を無線で送信させるための送信命令をインターフェース部82を介し出力する。そして、時刻t4,t5,t6で、測位サーバ14の上記測位部84が、上記1つの基地局以外の基地局(この例では第2〜第4基地局12B〜12D)のそれぞれに対し、時刻情報を無線を介し受信させるための受信命令をインターフェース部82を介して出力する。
【0093】
そして、時刻t7で、第1基地局12Aの制御部32が、無線部28を介し、時計41の時刻情報を無線により送信し、第2〜第4基地局12B〜12Dがその送信された時刻情報を受信する。
【0094】
その後、時刻t8,t9,t10で、第2〜第4基地局12B〜12Dの制御部32が、受信した時刻情報(すなわち第1基地局12Aによって送信された電波を第2〜第4基地局12B〜12Dのそれぞれで受信した時刻)を、有線通信部43を介し測位サーバ14に対し順次出力する。
【0095】
ここで、各基地局12の位置は既知であることから、上記第1基地局12Aから送信された(時計41の時刻情報を含む)電波が第2〜第4基地局12B〜12Dのそれぞれへ到達するのに要する伝搬時間は予め算出することができる。したがって、第2〜第4基地局12B〜12Dのそれぞれについて、上記受信時刻と第1基地局12Aからの送信時刻との時間差から上記伝搬時間を引いたものが、第2〜第4基地局12B〜12Dの時計41と第1基地局12Aの時計41との時間ずれとなる。
【0096】
図11は、4つの基地局12A〜12Dが移動局10からの測距用電波信号を受信し、対応する受信時刻情報を測位サーバ14へ出力する際の通信の流れを表すタイムチャートである。上記図10と同様、縦線で表された第1〜第4基地局12A〜12Dと測位サーバ14と移動局10との間を横方向に結ぶ矢印が、各基地局12、測位サーバ14、及び移動局10の間の通信の挙動を示す。
【0097】
図11において、まず時刻t21で、測位サーバ14が、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)に対し、無線通信における空きチャンネルの探索命令をインターフェース部82を介し出力する。これに対応して、第1基地局12Aでは、制御部32がチャンネルスキャンを実行し、発見した空きチャンネルについての情報を時刻t22において測位サーバ14に対し有線通信部43を介し出力する。
【0098】
その後、時刻t23で、測位サーバ14の上記測位部84が、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)に対し、上記測距用電波信号を移動局10から無線送信させるための情報送信命令をインターフェース部82を介し出力する。これに対応し、時刻t24で、第1基地局12Aの制御部32が、無線部28を介し、移動局10に対し、上記測距用電波信号を無線を介し送信させる情報送信命令を送信する。
【0099】
そして、時刻t25,t26,t27,t28において、測位サーバ14の上記測位部84が、全ての基地局(第1〜第4基地局12A〜12D)のそれぞれに対し、時刻情報を無線を介し受信させるための情報受信命令をインターフェース部82を介し出力する。
【0100】
その後、時刻t29,t30,t31で、移動局10の制御部32が、無線部28を介し、測距用電波信号を無線を介し送信する。その後第1〜第4基地局12A〜12Dがその送信された測距用電波信号を受信する。このように送信及び受信を複数回(この例では3回)行う。なお、本実施形態では先に説明したようにこの複数回の間隔を所定の等時隔で行う。すなわち、t31−t30=t30−t29(=△to;後述の図13のステップS40参照)である。基地局12Aが受信した3回の受信時刻をt121,t122,t123とし、それぞれの受信信号強度が上記図9に示した「ア」、「イ」、「ウ」であったとすると、3回目の「ウ」の信号がジッタが最も少ない。
【0101】
その後、第2〜第4基地局12B〜12Dの制御部32が、上記3回の中から前述のようにして選択した1回の信号に係わる受信時刻情報を、測位サーバ14へ有線通信部43を介し出力する。
【0102】
図12は、上記測距用電波信号の送信及びそれに先立つ時計合わせ時において、基地局12A,12B,12C,12Dのそれぞれの制御部32が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【0103】
まず、ステップS110において、各基地局12同士の時計41の時刻合わせ処理を行う。具体的には、図10を用いて前述したように、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)については、チャンネルスキャンを実行し(図10の時刻t2参照)、無線部28を介して時計41の時刻情報を無線により送信する(時刻t7参照)。上記1つの基地局以外の基地局(この例では第2〜第4基地局12B〜12D)については、サーバ14からの受信命令(時刻t4,t5,t6参照)に対応して、第1基地局12Aからの時計41の時刻情報を受信する(時刻t7参照)。その後、第1基地局12Aから受信した時刻情報を測位測位サーバ14に対し出力する(時刻t8,t9,t10参照)。
【0104】
その後、ステップS120に移り、受信回数Nをカウントする変数N=1とする。
【0105】
そして、ステップS130において、到来時刻検出部42に制御信号を出力し、移動局10からの測距用電波信号が、アンテナ部20を介し無線部28で受信されたかどうか(図10の時刻t29参照)を判定する。このときの判定は、前述したように、相関計算部50が算出した、遅延回路46で遅延された受信波とレプリカ符号発生部44のレプリカ符号との相関値に基づいて行う。測距用電波信号が受信されるまでステップS130の判定が満たされずループ待機し、測距用電波信号が受信されたら判定が満たされて、ステップS140に移る。
【0106】
ステップS140では、上記測距用電波信号受信時の時計41による時刻(受信時刻)を、受信時刻として検出する。そして、検出された受信時刻を記憶部45に記憶させる。その後、ステップS150に移る。
【0107】
ステップS150では、到来時刻検出部42に制御信号を出力し、RSSI部47において、上記ステップS130で受信した測距用電波信号の信号強度を測定する。そして、測定された信号強度を記憶部45に記憶させる。
【0108】
そして、ステップS160において、予め定められた送信回数Nmax(この例では前述したようにNmax=3)にNが等しくなったかどうかを判定する。Nmaxより小さい場合(この例ではN=1又は2であった場合)は判定が満たされず、ステップS165に移る。
【0109】
ステップS165では、Nの値に1を加え、ステップS130に戻り、以降、同様の手順を繰り返す。これにより、ステップS130で測距用電波信号を受信する都度、ステップS140での受信時刻の検出・記憶、ステップS150での受信信号強度の検出・記憶を繰り返す(上記図11の時刻t30,t31参照)。そして、N=Nmaxとなったら(この例では3回目の送信が終わったら)ステップS160の判定が満たされ、ステップS170へ移る。
【0110】
ステップS170では、到来時刻検出部42に制御信号を出力し、信号選択部48に対し信号強度に基づく前述の信号選択処理を行わせる。すなわち、信号選択部48は、記憶部45に記憶された(図8に一例を示した)信号強度とジッタとの相関を参照しつつ、記憶部45に記憶された各回の受信信号強度に基づき、Nmax回(この例では3回)だけ受信した上記3つの測距用電波信号のうちジッタが最も少なくなるものを選択する。その後、ステップS180に移る。
【0111】
ステップS180では、上記ステップS170で選択された測距用電波信号に対応した受信時刻を記憶部45から読み出し、時刻補正処理を行う。この補正処理は、測距のための前述の式(1A)〜(1C)を適用するにあたって必要に応じて行うものである。すなわち、複数回(前述の例では3回)のうちの最初の回を基準として、それよりも(上記時隔△toだけ経過した)1回あとの測距用電波信号が信号選択部48で選択された場合には、その信号に対応した受信時刻から上記△toを差し引く補正を行う。同様に基準より2回後の信号であれば2×△toを受信時刻より差し引く。一般的には最もジッタの少ない受信回をi(iは1,2,3のいずれか)、基地局をnとした場合、受信時刻情報は「tni−Δto×(i−1)」となる。このような時刻補正を行うことにより、各基地局12A〜12Dの信号選択部48で複数回のいずれの回の信号が選択されたとしても、測位サーバ14が、全基地局12A〜12Dからの4つの受信時刻情報に対して一括して式(1A)〜(1C)を適用することができる。
【0112】
そして、ステップS190で、上記ステップS180で(必要に応じて)補正処理が行われた受信時刻情報を測位サーバ14へ出力し(上記図11の時刻t32,t33,t34,t35参照)、このフローを終了する。
【0113】
図13は、上記測距用電波信号の送信時において、移動局10の制御部32が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【0114】
まず、ステップS5において、無線部28を介しアンテナ部20から送信するときの送信出力の値Pを、予め定められた所定の値Poとする。その後、ステップS10において、送信回数(前述の基地局12での受信回数と同じ)をカウントする変数N=1とする。
【0115】
そして、ステップS20に移り、送信出力の値Pに上記Nの値を乗じ、これを新たな送信出力の値Pとする。その後、ステップS30において、ステップS20で設定した出力値Pで無線部28を介しアンテナ部20から測距用電波信号を送信する(上記図11の時刻t29参照)。なおこれらステップS20及びステップS30が、各請求項記載の送信制御手段や送信制御部を構成すると共に、異点化処理手段をも構成する。
【0116】
その後、ステップS40に移り、予め定められた複数回送信の送信間隔△toが経過したかを判定する。△toが経過するまでステップS40の判定が満たされずループ待機し、△toが経過したら判定が満たされて、ステップS50に移る。
【0117】
そして、ステップS50において、予め定められた送信回数Nmax(この例では前述したようにNmax=3)にNが等しくなったかどうかを判定する。Nmaxより小さい場合(この例ではN=1又は2であった場合)は判定が満たされず、ステップS60に移る。
【0118】
ステップS60では、Nの値に1を加え、ステップS20に戻り、以降、同様の手順を繰り返す。これにより、ステップS20でその都度送信出力Pを等比級数的に2倍、3倍、…としながらN=Nmaxとなる回数までステップS30で送信を繰り返す(上記図11の時刻t30,t31参照)。なお、このような等比級数的な順序ではなく、例えば送信出力Pを1倍、3倍、2倍の順で切り替えるような、順不同の態様であってもよい。すなわち、各回ごとに前回の出力の所定の比で順次異なるようにすれば足りる。そして、N=Nmaxとなったら(この例では3回目の送信が終わったら)ステップS50の判定が満たされ、このフローを終了する。なお、ステップS20においてPをN倍することで等比級数的に送信出力Pを等比級数的に2倍、3倍、…とするのに限られない。例えば、ステップS20において、Pに一定値(=出力差ピッチ)Xを加え、P=P+Xとするようにしてもよい。この場合、送信出力Pは等差数列的に増大することとなる。
【0119】
図14は、上記測距用電波信号の送信及びそれに先立つ時計合わせ時において、測位サーバ14の測位部84が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【0120】
まず、ステップS210において、前述した各基地局12同士の時計41の時刻合わせを行わせる時計合わせ指示処理を行う。具体的には、図10を用いて前述したように、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)に対しては、チャンネルスキャン命令を出力し(図10の時刻t1参照)、その応答が入力されたら、当該基地局12Aに対し時刻情報送信命令を出力する(時刻t3参照)。上記1つの基地局以外の基地局(この例では第2〜第4基地局12B〜12D)に対しては、時刻情報受信命令を出力(時刻t4,t5,t6参照)した後、これに応じた、各基地局12B〜12Dからの時刻情報を入力する(時刻t8,t9,t10参照)。
【0121】
その後、ステップS220に移り、上述したようにして移動局10から各基地局12A〜12Dへ測距用電波信号を送信させ、対応する受信時刻情報を取得する受信時刻情報取得処理を行う。具体的には、図11を用いて前述したように、任意の1つの基地局12(この例では第1基地局12A)に対しては、チャンネルスキャン命令を出力し(図11の時刻t21参照)、その応答が入力されたら、当該基地局12Aに対し移動局10からの測距用電波信号の送信を促す情報送信命令を出力する(時刻t23参照)。その後、全基地局12A〜12Dに対して上記移動局10からの測距用電波信号の受信待機状態を促す情報受信命令を出力し(時刻t25,t26,t27,t28参照)、受信後の各基地局12A〜12Dからの受信時刻情報を入力する。
【0122】
そして、ステップS230において、上記ステップS220で取得した全基地局12A〜12Dからの受信時刻情報(必要に応じて前述の補正済)に対し、式(1A)(1B)(1C)や図6を用いて説明した手法を適用し、各基地局12A〜12Dから移動局10までの距離を算出する(=測距処理手段)。全基地局12A〜12Dの位置は既知であり、例えば図2に示した座標系における各基地局12A〜12Dのx座標y座標を適用することで、移動局10の当該座標系における位置、すなわち座標(x,y)を算出することができる(=測位処理手段)。
【0123】
以上説明したように、本実施形態においては、予めジッタと受信信号強度との相関(図8参照)を各基地局12A〜12Dの記憶部45に格納保持しておく。測距時には移動局10から測距用電波信号が複数回送信されるが、このとき各回において出力が異なるよう制御されることで、各回の測距用電波信号が上記ジッタと受信信号強度の相関において互いに異なる測定点となる。そして、各基地局12A〜12Dの信号選択部42がそれら複数回の測距用電波信号のうち、ジッタが小さい信号を選択し、それに係わる受信時刻情報を測距サーバ14へ出力する。これにより、測距サーバ14では、各基地局12A〜12Dそれぞれにおいてジッタの影響が最も小さく精度が高かった受信時刻情報を元に、測距処理を行うことができる。この結果、測距精度を向上することができる。
【0124】
また、図8に示したように、ジッタと受信信号強度との相関を、横軸の受信信号強度を対数軸で表した場合、受信信号強度の減少にしたがって、ジッタ減少→極小値→ジッタ増加という、バスタブ型曲線として表される。本実施形態では特に、移動局10からの複数回送信時の送信出力制御の際、送信出力を等比級数的に変化させる(図13のステップS20参照)ことにより、上記(横軸を対数軸で表した)曲線上において、略等間隔にて複数個の測定点をとることができる。
【0125】
またこのとき、本実施形態では特に、上記のように固定局10から3回の送信を行うことで、上記相関曲線状で3個の測定点をとることができる。これにより、各測定点が上記曲線のどの領域に属するか(例えば図8における、極小値となる前の上記右下がり領域S1か、上記極小値を挟む領域S2か、極小値以降の上記右上がり領域S3か)を確実に推定することができる。また、何らかの支障により1回の測距用電波信号の受信が不調に終わった場合でも、2回の測距用電波信号の受信は確保することができるので、測距信頼性を向上することができる。
【0126】
さらに、本実施形態では特に、複数回の測距用電波信号の送信時に、移動局10側から一定時間間隔△toで送信を行う。これにより、各基地局12A〜12dにおける受信制御(復調や拡散符号の逆拡散等)をより容易かつ円滑に行うことができる。
【0127】
なお、本発明は上記実施形態に限られず、その趣旨及び技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。以下、そのような変形例を順を追って説明する。
【0128】
(1)各送信信号に識別符号を含ませる場合
すなわち、移動局10から複数回(例えば3回)送信される測距用電波信号のそれぞれについて、互いを識別するための識別子が含まれるようにしてもよい。この場合、上記図13における上記ステップS50→ステップS60→ステップS20→…のループにおいてステップS30が繰り返されるたびに測距用送信を行うとき、その都度、信号に含まれる識別子を変えるように制御部32が制御を行う。識別子の例としては、例えば上記拡散符号発生部38で発生する(スペクトラム拡散のための)拡散符号を用いることができる。この場合、制御部32の拡散符号発生部38が、複数回送信される測距用電波信号の各回ごとに、拡散符号が異なるように制御する。これにより、基地局12A〜12Dでは、移動局10から順次出力される測距用電波信号を、含まれる拡散符号によって識別しつつ受信することができる。この結果、各基地局12A〜12Dにおいて受信制御を容易かつ円滑に行える効果がある。
【0129】
また、上記以外に、移動局10の制御部32での測距用電波信号の生成において副搬送波を用いる場合(←1つの電波信号に多くのデータを一度に付加して送信することができる)には、その副搬送波を上記識別子として用いることもできる。この場合、上記同様、基地局12A〜12Dでは、移動局10から順次出力される測距用電波信号を、含まれる副搬送波によって識別しつつ受信することができ、受信制御を容易かつ円滑に行うことができる。
【0130】
(2)受信時刻の選択をサーバで行う場合
上記実施形態及び(1)の変形例においては、基地局12A〜12Dの記憶部45に格納保持したジッタと受信信号強度との相関に基づき、基地局12A〜12Dの信号選択部42で測距用電波信号の選択を行った。しかしながらこれに限られず、そのような信号選択を測距サーバ14で行う(信号選択部42の機能を測距サーバ14へ移す)ようにしてもよい。この場合、各基地局12A〜12Dは、移動局10から受信した複数回の測距用電波信号のそれぞれを、RSSI部47で検出した受信信号強度と対応させる形で測距サーバ14で出力する。測距サーバ14は、予め(記憶部45に代わって)上記ジッタと受信信号強度との相関を格納保持しておき、その相関に基づき、各基地局12ごとに、ジッタが小さく精度が高い受信時刻情報を選択する。そして、各基地局12ごとに選択した信号を元に測距処理を行う。
【0131】
本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0132】
なお、上記のように測距サーバ14側で測距用電波信号の選択を行う場合、上記のように各基地局12ごとに個別に選択を行う以外に、さらに以下の(i)〜(iii)に示すようなバリエーションも考えられる。
【0133】
(i)移動局10が測距用電波信号を送信したとき、基地局12A〜12Dでの受信信号強度が、それぞれ、ある(少なくとも1つの、以下同様)基地局12では図8の右下がり領域S1に位置し、別の基地局12では極小値を挟む領域S2に位置し、さらに別の基地局では右上がり領域S3に位置する、というように各基地局12ごとにばらつくような場合があり得る。このような場合には、全基地局12A〜12Dにおける複数回(この例では3回)の全測距用電波信号を鑑みて、受信信号強度が領域S2に位置する基地局12の数が最大となる(領域S1や領域S3に位置する基地局12の数よりも多くなる)ような、測距用電波信号を選択するようにしてもよい。
【0134】
(ii)ある基地局12では図8の右下がり領域S1に受信信号強度が位置し、別の基地局12では右上がり領域S3に受信信号強度がばらついた場合(領域S2に受信信号強度が位置する基地局12はなかった場合)は、それらのうち最大ジッタを与えている基地局12に着目し、当該基地局12のジッタを最小としている送信出力値の測距用電波信号を選択する。さらにこの場合で、もし領域S1に係る基地局12と領域S3に係る基地局とで最大ジッタが同程度であったときには、領域S1に係る基地局の数が多い測距用電波信号を選択する(受信信号強度の誤差があると、領域S3のほうが急に悪化するため悪影響が出やすいため)ようにしてもよい。
【0135】
(iii)どの基地局12A〜Dにおける受信信号強度も領域S1か領域S2にある(領域S3には存在しない)ような送信出力値の測距用電波信号を選ぶ。この際、領域S1に受信信号強度が位置するような基地局12に関しては、後述の(4)の変形例の手法で基地局12側の受信感度を落とすことにより、受信信号強度が領域S2に位置するようにしてもよい。この際、基地局12側で受信感度を調整しても領域S2に入らなければ、その旨(誤差が過大である)を測距サーバ14に報知するようにしてもよい。
【0136】
なお、上記実施形態や(1)の変形例において、この(2)の変形例と同様に測距サーバ14側にジッタと受信信号強度との相関を記憶させておくことも可能である(=相関記憶手段としての機能)。この場合、信号選択を行う各基地局12A〜12Dは、信号選択を行うにあたり、上記ジッタと受信信号強度との相関を測距サーバ14から取得し、その取得した相関に基づき信号選択部42で選択を行うようにすればよい(信号選択機能は基地局12に残し、相関の記憶機能のみを測距サーバ14へ移す)。この場合、上記相関のデータが適宜最新のものに更新されうる場合に、測距サーバ14に格納された相関データのみを一括して更新するだけで足りるという効果がある。
【0137】
あるいは、各基地局12A〜12Dが、RSSI部47で検出した各測距用電波信号の受信信号強度情報のみを測距サーバ14へ出力するようにしてもよい。この場合、測距サーバ14が、自ら記憶保持した上記ジッタと受信信号強度との相関に基づき(各基地局12ごとに)最適な測距用電波信号を選択してその選択指示情報を各基地局12へ返す。各基地局12では、その選択指示に応じて、信号選択部42が測距用電波信号を選択し、対応する受信時刻情報を選択する。そして、この選択された受信時刻情報が各基地局12から測距サーバ14へ出力され、測距サーバ14で測距処理が行われる。
【0138】
上記2つの例によっても、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0139】
(3)距離データ化を各基地局で行う場合
以上においては、基地局12A〜12Dから取得した受信時刻情報に基づき、測距サーバ14が上記式(1A)〜(1C)を適用して各基地局12A〜12Dから移動局10までの距離を算出する測距処理(距離データ化)を行ったが、これに限られない。すなわち、基地局12A〜12Dそれぞれが、受信時刻情報に基づき前述の式(1A)〜(1C)を適用し、距離データ化を行うようにしてもよい(測距処理手段としての機能)。この場合、TDOA方式では各基地局12は自らの受信時刻情報以外に他の基地局12の受信時刻情報も必要であるが、基地局12どうしでそのための通信を行うか、測距サーバ14を介して情報送受を行うようにすれば足りる(TOA方式ではこのような通信は不要。後述する(5)の変形例参照)。測距サーバ14は、前述と同様、各基地局12A〜12Dで算出した各基地局12A〜12Dから移動局10までの距離に対し、各基地局12A〜12Dのx座標y座標を適用して、移動局10の座標(x,y)を算出する(測位処理手段としての機能)。
【0140】
なお、この場合も、既に上述した各例と同様、ジッタと受信信号強度との相関を基地局12A〜12Dの記憶部45に格納保持しておいてもよいし、測距サーバ14側で格納保持しておくようにしてもよい。また複数回の測距用電波信号からの信号選択についても、基地局12A〜12Dの信号選択部42で行うようにしてもよいし、測距サーバ14で行うようにしてもよい。さらに各基地局12は複数回の受信信号強度の報告のみを行って、測距サーバ14でこれに対応した上記選択指示情報を返すようにしてもよい。
【0141】
本変形例によっても、前述と同様の効果を得ることができる。
【0142】
(4)基地局側で異点化処理を行う場合
以上においては、(各回の測距用電波信号がジッタと受信信号強度との相関上において互いに異なる測定点となる)異点化処理として、移動局10が、送信出力を変えて複数回(この例では3回)の測距用電波信号の送信を行うようにした。しかしながら、これに限られず、他の手法でもよい。例えば、移動局10側からの送信出力は略同一としつつ、基地局12A〜12Dにおける受信感度を各回で変える(=本変形例での異点化処理)ことにより、各回の測距用電波信号が上記相関上において互いに異なる測定点となるようにしてもよい(なお移動局10からの送信出力も併せて可変としてもよい)。
【0143】
図15は、そのような変形例における基地局12A〜12Dの機能的構成の概略を表す機能ブロック図であり、上記実施形態の図4に相当する図である。図4と同等の部分については同一の符号を付し、適宜説明を省略又は簡略化する。
【0144】
図15において、送受信切換部24と無線部28との間に、可変減衰手段としての可変減衰器(アッテネータ)25が新たに設けられている。
【0145】
可変減衰器25の減衰率は、制御部32によって可変に制御される。移動局10側が略同一の送信出力で複数回の測距用電波信号を送信するとき、制御部32が可変減衰器25の減衰率を各回で変えることにより、各測距用電波信号の受信信号強度を変化させることができる。この結果、上記実施形態と同様、複数回の測距用電波信号それぞれが、ジッタと受信信号強度との上記相関上において互いに異なる測定点となるようにすることができる。
【0146】
図16は、本変形例において、移動局10の制御部32が測距用電波信号の送信時に実行する制御手順の要部を表すフローチャートであり、上記図13に相当する図である。図16において、図13のフローにおけるステップS20が省略され、送信出力P=Poで一定化されている。その他は図13のフローと同様であり、説明を省略する。
【0147】
図17は、測距用電波信号の送信及びそれに先立つ時計合わせ時において、基地局12A,12B,12C,12Dのそれぞれの制御部32が実行する制御手順の要部を表すフローチャートであり、上記図12に相当する図である。
【0148】
図17において、ステップS160とステップS165との間に、新たにステップS162が設けられている。ステップS160でN<Nmaxとなり判定が満たされない場合、ステップS162に移る。ステップS162では、上記可変減衰器25に制御信号を出力し、減衰量(減衰率)を変化させる(=減衰制御手段、異点化処理手段)。これによって、上述したように基地局12の受信感度を変更し、各測距用電波信号の受信信号強度を変化させる。ステップS162が終了したら、ステップS165へ移る。その他の手順は図12のフローと同様であり、説明を省略する。
【0149】
本変形例によっても、上記実施形態と同様の効果を得る。すなわち、測距時には移動局10から測距用電波信号が出力一定で複数回送信されるが、このとき各回において基地局12A〜12Dの受信感度が異なるよう制御されることで、各回の測距用電波信号が上記ジッタと受信信号強度の相関において互いに異なる測定点となる。そして、各基地局12A〜12Dの信号選択部42がそれら複数回の測距用電波信号のうち、ジッタが小さい信号を選択し、それに係わる受信時刻情報を測距サーバ14へ出力する。これにより、測距サーバ14では、各基地局12A〜12Dそれぞれにおいてジッタの影響が最も小さく精度が高かった受信時刻情報を元に、測距処理を行うことができる。この結果、測距精度を向上することができる。
【0150】
なお、上記においては、基地局12A〜12Dに設けた可変減衰器25の減衰率を制御することにより上記異点化処理を実行したが、これに限られない。すなわち、複数回の測距用電波信号の受信時において、受信アンテナとしてのアンテナ部20(可変減衰手段)のアンテナ感度を各回ごとに変化させるようにしてもよい(=減衰制御手段、異点化処理手段)。この場合も、同様の効果を得ることができる。
【0151】
(5)TOA方式で測距を行う場合
以上においては、同一の測距用電波信号に対する各基地局12A〜12Dの受信時刻の比較により測距処理を行ういわゆるTDOA方式を例にとって説明したが、これに限られず、本発明に対しTOA方式を適用することもできる。
【0152】
図18は、TOA方式を行う本変形例における上記測位部84による測距原理の手法を説明するための説明図であり、上記図6に対応する図である。図6と同様、第1基地局12A、第2基地局12B、第3基地局12Cの3つを用いる場合を例にとって説明する。
【0153】
図18において、前述の図6と同様、座標(x1,y1)に位置する第1基地局12Aと座標(x,y)に位置する移動局10との距離をr1、座標(x2,y2)に位置する第2基地局12Bと移動局10との距離をr2、座標(x3,y3)に位置する第3基地局12Cと移動局10との距離をrとし、第1〜第3基地局12A〜12Cの時計がそれぞれ有する時刻のずれに基づく誤差s(前述と同様、各基地局12A〜12Cの時計41は同期されて誤差sは各基地局に共通)とすると、下記の式(2)で表される関係が成り立つ。
(x−x12+(y−y12=(r1+s)2
(x−x22+(y−y22=(r2+s)2
(x−x32+(y−y32=(r3+s)2 …(2)
【0154】
上記3つの式を例えばニュートンラプソン法などにより解くことにより、x,y,sの値を算出し、移動局10の位置のx座標、y座標を特定することができる。
【0155】
なお、各基地局12A〜12Cの測距部42が測定した各基地局12A〜12Cと移動局10との距離r1,r2,r3はそれぞれ、移動局10と基地局12とがそれぞれ有する時計41の時刻のずれに基づく誤差sが考慮されていない、いわゆる疑似距離と呼ばれるものである。そこで、これらに代えて、距離r1,r2,r3として、上記時計のずれに基づく誤差sが補正された正確な距離を用いるようにしてもよい。
【0156】
前述の図3において、本変形例では、図3に示した移動局10の時計41が必須の構成となる。この移動局10の時計41と各基地局12A〜12Dの時計41との時刻合わせが行われる。そして、本変形例では、基地局12A〜12Dに備えられた到来時刻検出部42(図3参照)が、移動局10から測距用電波信号が送信された時刻と、その測距用電波信号が基地局12A〜12Dで受信された時刻とを検出する。移動局10からの測距用電波信号の送信時刻は、例えば、制御部32に備えられたベースバンド信号生成復元部36が測距用電波信号に含まれるベースバンド信号を復元することによって取得することができる。なお、例えば移動局10と各基地局12A〜12Dとで、予め所定の時隔で移動局10から送信する旨の事前設定をしておき、これに基づき基地局12A〜12D側で移動局10からの送信時刻を決定する等、他の手法でもよい。このようにして得られた移動局10の送信時刻と各基地局12A〜12Dの受信時刻とが測距サーバ14へ出力される(このとき、前述と同様にして、各基地局12A〜12Dの信号選択部42が、複数回の測距用電波信号のうちジッタが小さい信号を選択し、それに係わる送信時刻情報及び受信時刻情報を測距サーバ14へ出力する)。測距サーバ14は、その送信時刻と受信時刻との差で測距用電波信号の伝搬時間を求める。そして、この伝搬時間に前述の電波速度(光速)c(=2.997×108[m/s])を乗じることで、移動局10と各基地局12A〜12Dとの距離を算出することができる。なお、前述と同様、上記伝搬時間の算出や距離算出を基地局12A〜12D側で実行するようにしてもよい。
【0157】
本変形例によっても、上記実施形態や各変形例と同様の効果を得る。
【0158】
(6)その他
上記においては、被測位局として移動可能な移動局が設けられる場合を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、上記基地局12のように固定的に配置されるものに対し無線通信を介して測位を行う場合であっても、本発明を適用することができる。この場合も、上記同様、ジッタの影響を低減して測距精度を向上することができる。
【0159】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0160】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0161】
【図1】本発明の一実施形態の測位システムの構成の一例を表す説明図である。
【図2】位置算出のために、移動可能領域において便宜上設定される座標系を表す説明図である。
【図3】移動局の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【図4】基地局の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【図5】測位サーバの機能的構成を表す機能ブロック図である。
【図6】測距部による測距原理の手法を説明するための説明図である。
【図7】ジッタの挙動を説明するための説明図である。
【図8】信号強度とジッタとの相関関係を表す図である。
【図9】信号選択の一例を表す説明図である。
【図10】基地局で移動局からの測距用電波信号を受信するに先立ち、各基地局の時計を同期させる際の通信の流れを表すタイムチャートである。
【図11】基地局が移動局からの測距用電波信号を受信し、対応する受信時刻情報を測位サーバへ出力する際の通信の流れを表すタイムチャートである。
【図12】測距用電波信号の送信及びそれに先立つ時計合わせ時において、基地局のそれぞれの制御部が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【図13】測距用電波信号の送信時において、移動局の制御部が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【図14】上記測距用電波信号の送信及びそれに先立つ時計合わせ時において、測位サーバの測距部が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【図15】基地局側で異点化処理を行う変形例における基地局の機能的構成の概略を表す機能ブロック図である。
【図16】移動局の制御部が測距用電波信号の送信時に実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【図17】測距用電波信号の送信及びそれに先立つ時計合わせ時において、基地局のそれぞれの制御部が実行する制御手順の要部を表すフローチャートである。
【図18】TOA方式を行う変形例における上記測距部による測距原理の手法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0162】
8 測位システム
10 移動局(被測位局)
12A〜D 基地局(測位局)
14 測位サーバ(測距サーバ)
25 可変減衰器(可変減衰手段)
42 到来時刻検出部
45 記憶部(相関記憶手段)
48 信号選択部(信号選択手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測距用電波信号を複数回送信する送信部を備えた移動局と、
前記送信部から送信された前記測距用電波信号を受信する受信部を備えた基地局と、
前記受信部で受信した前記測距用電波信号に基づき、前記移動局から前記基地局までの測距処理を行う測距処理手段と
を有する測位システムであって、
予め算出された、受信信号の時間分散と受信信号強度との相関を格納保持した相関記憶手段と、
前記送信部による前記複数回の測距用電波信号の送信時に、各回の測距用電波信号が前記相関上において互いに異なる測定点となるように異点化処理する異点化処理手段とを有し、
前記測距処理手段は、
前記送信部から複数回送信された前記測距用電波信号のうち、前記相関記憶手段に記憶された前記相関に応じて選択された測距用電波信号に係わる前記測距処理を行う
ことを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記異点化処理手段は、
前記移動局に備えられ、
複数回のそれぞれで互いに出力強度が異なる前記測距用電波信号を送信するように、前記送信部を制御する送信制御手段である
ことを特徴とする請求項1記載の測位システム。
【請求項3】
前記送信制御手段は、
前記複数回の測距用電波信号の出力強度の大きさが、各回ごとに一定の出力差で順次異なるように、前記送信部を制御する
ことを特徴とする請求項2記載の測位システム。
【請求項4】
前記送信制御手段は、
前記複数回の測距用電波信号の出力強度の大きさが、各回ごとに前回の出力の所定の比で順次異なるように、前記送信部を制御する
ことを特徴とする請求項2記載の測位システム。
【請求項5】
前記送信制御手段は、
互いに出力強度が異なる前記測距用電波信号を3回送信するように、前記送信部を制御する
ことを特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項記載の測位システム。
【請求項6】
前記送信制御手段は、
前記測距用電波信号を所定の時間間隔で複数回順次出力するように、前記送信部を制御する
ことを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれか1項記載の測位システム。
【請求項7】
前記送信制御手段は、
前記複数回送信される前記測距用電波信号のそれぞれに、それぞれを識別するための識別子が含まれるように、前記送信部を制御する
ことを特徴とする請求項3乃至請求項6のいずれか1項記載の測位システム。
【請求項8】
前記送信部は、
拡散符号を含む前記測距用電波信号を送信し、
前記送信制御手段は、
前記複数回の測距用電波信号に含まれる前記拡散符号が、前記識別子として各回ごとに異なるように、前記送信部を制御する
ことを特徴とする請求項7記載の測位システム。
【請求項9】
前記基地局の前記受信部は、
前記受信アンテナを介して受信した前記測距用電波信号を減衰させる可変減衰手段を備え、
前記異点化処理手段は、前記基地局に備えられ、前記移動局から送信される前記複数回の測距用電波信号のそれぞれごとに、前記可変減衰手段の減衰量を変化させる減衰制御手段であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の測位システム。
【請求項10】
予め算出された受信信号の時間分散と受信信号強度との相関を格納保持した相関記憶手段と、
所定の移動可能領域を移動可能な移動局から送信され、互いに出力強度が異なる複数回の測距用電波信号を、受信アンテナを介し受信する受信部と、
前記受信部で受信した前記測距用電波信号の到来時刻を検出する到来時刻検出部と、
前記到来時刻検出部で検出された複数回の前記測距用電波信号の前記到来時刻のうち、前記受信信号の時間分散が最も小さい前記測距用電波信号に対応するものを前記相関に基づき選択する信号選択手段と
を有することを特徴とする基地局。
【請求項11】
予め算出された受信信号の時間分散と受信信号強度との相関に基づく選択候補とするために、複数回の測距用電波信号を送信アンテナを介して移動局へ送信する送信部と、
前記複数回の測距用電波信号の出力強度の大きさが、各回ごとに一定の出力差で順次異なるように、前記送信部を制御する送信制御部と
を有することを特徴とする移動局。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−244242(P2009−244242A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94555(P2008−94555)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】