説明

測位データ処理方法

【課題】 測位センサの一部から測位データが得られなくなっても、複数の測位データの組み合わせ演算で得られる位置データに位置跳びの影響が出ることを回避でき、安定した制御を行うことができる測位データ処理方法を提供する。
【解決手段】 船舶又は浮体の位置制御において、複数の測位センサ1〜Nで検出される複数の測位データXaniに対して、それぞれドリフト補正を行い、該ドリフト補正を行った後のドリフト補正後測位データXcniに対して、それぞれの時系列データのバラツキに応じた加重平均処理を行って、位置制御のための位置データXciを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な位置制御が要求され、複数の測位センサからのデータで位置を定める船舶用の測位データ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、掘削船やケーブル敷設船等の高度な位置制御が要求される船舶には、複数の測位センサが搭載されている。その理由として、近年、測位センサの精度及び信頼性が向上してきているとはいえ、位置跳びやドリフト等の不安定要素が完全に解消できている測位センサはまだ無いため、制御を単独の測位センサに依存せず、複数のセンサで補うことを目的としている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
これらの測位センサとしては、音響測位装置(APRS:Acoustic Position Reference System)、GPS/GLONASS,DGPS等が一般的である。
【0004】
音響測位装置は、海底等に設置した目標に対して音波を送受信することで位置を計測するシステムであり、一般にはドリフトの生じないセンサと言われているが、水深や雑音等により音響信号の信頼性が著しく低下する。
【0005】
DGPS(Differential Global Positioning System)及びGPS/GLONASSはともに衛星測位装置に分類されるセンサであり、近年その精度は向上してきている。しかしながら、時々刻々の衛星位置の変化や電離層及び対流圏の状態によって位置跳びやドリフトを生じることがある。
【0006】
従来技術においては、一つの測位センサから得られたデータを単独で制御に使用する場合と、測位センサで検出された時系列データを統計的に処理した時の標準偏差をもとに、重み付き平均を取って、この重み付き平均値を制御に用いる場合がある。
【0007】
この重み付き平均値においては、標準偏差の逆数を加重平均演算の重みとすることが知られており、これにより、特定の測位センサのデータが何らかの要因で大きなバラツキが生じるようになった場合でも、その影響を小さくすることができる。
【0008】
しかし、単純に測位センサから得られた生(未加工)の測位データに対して加重平均を取る方法では、演算結果はバラツキの小さい測位センサに引っぱられるため、各センサの測位位置に定常的な差があった場合、バラツキの小さいセンサのデータが得られなくなった時、演算結果に跳びが生じ、制御に悪影響を与えるという問題がある。
【0009】
すなわち、A,B,Cという3式のセンサでデータ処理を行う場合を考えた時、仮に各センサの重みをA:10,B:2,C:1とすると、加重平均で得られるデータはAの値(ポジション)に引っ張られ、Aの値に近い値となる。ここで、Aのセンサが故障し、データが得られなくなった場合、加重平均で得られるデータは次に重みの大きいBの値へ引っ張られると考えられ、Aの値とBの値の差分が大きいほど位置跳びが生じる可能性がある。
【特許文献1】特開2000−289688号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、測位センサの一部から測位データが得られなくなっても、複数の測位データの組み合わせ演算で得られる位置データに位置跳びの影響が出ることを回避でき、安定した制御を行うことができる測位データ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するための本発明の測位データ処理方法は、船舶又は浮体構造物の位置制御において、複数の測位センサで検出される複数の測位データに対して、それぞれドリフト補正を行い、該ドリフト補正を行った後のドリフト補正後測位データに対して、それぞれの時系列データのバラツキに応じた加重平均処理を行って、位置制御のための位置データを得ることを特徴とする。
【0012】
このドリフト補正のための基準データとしては音響測位装置の測位データを使用することが好ましいが、音響測位装置を使用できない状況では、任意の測位センサから検出される測位データを使用することができる。ただし、使用中の全測位センサの測位データを比較し、他の測位データとの偏差が所定の判定値(閾値)以上となる測位センサから得られる測位データはドリフト補正の基準測位データに使用しないようにする。
【0013】
このデータ処理方法により、検出された測位データに対する加重平均では無く、各測位センサで検出された測位データをドリフト補正したドリフト補正後測位データに対して、加重平均処理を行うことで、特定の測位センサから提供される測位データが途切れた場合に発生し易い位置跳びの影響が減少されるので、位置制御における安定性が向上する。
【0014】
ドリフト補正とは位置跳びの原因となる、各センサ間の位置の差分(センサ固有のオフセット量や時間と共に生じるドリフト等に起因する)をキャンセルするものであり、基準となるセンサと各センサ位置の差分量を各センサの実測値から差し引く。本補正により各センサともに基準センサ付近でばらつくセンサと捉えることができ、前述の位置の差分をキャンセルすることができる。
【0015】
また、上記の測位データ処理方法において、前記加重平均処理の重みとして、それぞれのドリフト補正後測位データの所定の期間の時系列データから得られる標準偏差の逆数を採用すると、簡単なアルゴリズムで、適切な重み付けを行うことができる。
【0016】
そして、船舶の位置制御方法に測位データ処理方法を用いるとより大きな効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0017】
複数の測位センサから得られるデータを組合せ処理する本発明の測位データ処理方法によれば、ばらつきの大きな測位データの影響を抑えると共に、ばらつきが小さく、加重平均処理における重みが大きい測位データが途切れた場合でも加重平均処理で得られる位置データに位置跳びが生じるのを防止でき、残存する測位センサを利用して引き続き安定した制御を続行することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明に係る測位データ処理方法の実施の形態について説明する。本発明では、測位センサの未加工の測位データに対する加重平均ではなく、ドリフト補正後の補正後測位データに対してバラツキに応じた加重平均処理を行う。
【0019】
図1に処理フローを示す。この図1の例示では、測位センサの数をNとしている。また、Xは位置をベクトル表示したものであり、このベクトルXの各成分により、x方向位置、y方向位置、z方向位置等を表すものである。なお、水平方向の位置のみの場合はx方向位置、y方向位置等の2次元表示となる。また、点線は矢印の元の演算ステップで算出されたデータが矢印の先の演算ステップで使用するデータであることを示す。
【0020】
この測位センサとしては、例えば、音響測位装置(APRS)、GPS/GLONASS,DGPS,ロランA、ロランC、オメガ、NNSS(Navy Navigation Satellite System)等を使用することができる。
【0021】
この図1に示す測位データ処理のステップS1の第1段階では、N個の各測位センサ1〜Nから、計測時tiにおける時系列データである測位データXaniが検出される。ここでn=1,2,....Nである。この各測位データXaniは真値X0に対してバラツキやオフセットを持ち、時間とともに位置跳びや緩やかなドリフトを生じる場合がある。測位センサ1〜Nのこれらの特性は、時には真値X0と測位データXaniとの間に大きな誤差を生じさせることがある。
【0022】
なお、このドリフトとは、定点観測しているにも係わらず、即ち、正しい計測では位置が変化しないはずであるのに、測位データXaniの値が時間と共に緩やかに変化していく現象を指す。
【0023】
このドリフト現象は、測位センサの種類にもよるが、例えば、GPSにおいては時々刻々の衛星配置や電離層、対流圏の状態の変化が原因と考えられている。なお、音響測位装置には、このドリフトは無いとされている。
【0024】
次のステップS2の第2段階では、各測位センサ1〜Nの測位データXaniの移動平均値であるXmniを算出する。これは、それぞれの時系列データにおいて、第1の所定の時間Δtk(時刻tjから時刻tiまで:Δtk=ti−tj)まで逆上って、(i−j+1)個の測位データXnpの平均XmniをXmni=(ΣXanp)/(i−j+1)で計算する。なお、ここで、Σは、p=j...iの総和を表す。
【0025】
次のステップS3の第3段階では、ドリフト補正を行う。このドリフト補正とは、主測位センサ(基準測位センサ)に対して、各測位センサが持つ差分(瞬時値の差ではなく、各センサの移動平均値から求めた緩やかな差)を各センサの測位データに加算し、前述の差分をキャンセルした各センサのドリフト補正後測位データを得るための処理である。基本的には、ドリフトが無いか少ない測位センサ、例えば、音響測位装置等を主測位センサ1とし、この移動平均値Xm1iを基準にして、これ以外の非主測位センサ2〜Nの測位データXaniのドリフト量を補正する。
【0026】
このドリフト補正における各補正量ΔXni(n=2〜N)は、主測位センサ1のデータの移動平均値をXm1i、非主測位センサのデータの移動平均値をXmniとすると、ΔXni=Xm1i−Xmniとなる。
【0027】
更に、各非主測位センサ2〜Nのドリフト補正前の測位データXaniに、このドリフト値ΔXniを付加することで、ドリフトの影響をキャンセルする。即ち、ドリフト補正後測位データXcniを、Xcni=Xani+ΔXniから得る。なお、主測位センサ1においては、測位データXa1iをそのままドリフト補正後測位データXc1iとする。即ち、Xc1i=Xa1iとする。
【0028】
なお、音響測位装置を使用できない場合は、精度が高い任意の測位センサを主測位センサ1として利用するが、この場合には使用中の全測位センサ1〜Nからの移動平均値Xmniの状況を監視する必要がある。
【0029】
次のステップS4の第4段階では、各測位センサ1〜Nのドリフト補正後測位データXcniの時間的変化におけるバラツキの度合いを評価するために、ドリフト補正後測位データXcniの第2の所定の期間Δth(時刻tsから時刻ti:Δth=ti−ts)の時系列データの標準偏差σcniを算出する。
【0030】
先ず、所定の期間の時系列データのドリフト補正後測位データXcnpのp=s....iの平均値XcnmeanをXcnmean=(ΣXcnp)/(i−s+1)で算出する。次に、分散σcni2 をσcni2 =(Σ(Xcnp−Xcnmean)2 )/(i−s)で算出する。ここで、Σはp=s....iの総和を表す。この分散σcni2 の平方根として標準偏差σcniを求める。
【0031】
次のステップS5の第5段階では、加重平均演算を行う。ここでは、第4段階で求めた標準偏差σcniの逆数wni(=1/σcni)を重みとして、ドリフト補正後測位データXcniを加重平均する。ここで、加重平均値をXciとすると、Xci=(Σ(wni×Xcni))/(Σ(wni))となる。ここで、Σはn=1....Nの総和を表す。
【0032】
この加重平均値Xciを位置データとして用いることで、n=1〜Nの内の測位データXaniの内のn=qの、バラツキが小さく重みが大きい測位データXaqiが途切れた場合でも、演算結果の位置データXciに位置跳びが生じるのを防止でき、安定した制御が可能となる。
【0033】
従って、精度の良い新型の測位センサを導入することなく、複数の測位センサから得られた測位データを組み合わせ処理するだけで、特定の測位センサの精度及び信頼性が劣化した場合でも他の測位センサの測位データで補うことができ、制御を安定化することができる。
【実施例】
【0034】
実施例として、3つの測位センサ1,2,3、即ち、第1測位センサ1としてAPRS(Acousticu Position Reference System )を、第2測位センサ2としてGPS/GLONASSを、第3測位センサ3としてDGPS(Differential GPS)を、それぞれ想定して、これらの測位センサ1、2、3の測位データXa1i,Xa2i,Xa3iを疑似的に生成した。
【0035】
また、主測位センサ1に第1測位センサ1を選択し、ドリフト補正後測位データXc1i,Xc2i,Xc3iに対して加重平均を取って、位置データXciを求めた。この結果を図2に示す。
【0036】
この図2では、補正後測位データXc1i,Xc2i,Xc3iと位置データXciに関して、バラツキの様子が一目で分かるように標準偏差σc1i,σc2i,σc3i,σciを半径とする円で示してある。また、各測位センサ1、2、3のドリフト補正前の測位データXa2i,Xa3iに関しても、標準偏差σa2i,σa3iを半径とする円を示してある。また、点線の交点は真の位置X0と仮定した点を示し、白点は各センサの検出位置Xaniを表し、矢印はドリフト補正を行ったことを示す。
【0037】
本発明の測位データ処理方法により求められた位置データXciは、第1測位センサ1の測位データXa1i(=Xc1i)と第1測位センサ1の移動平均値Xm1iへドリフト補正された、第2測位センサ2及び第3測位センサ3のドリフト補正後測位データXc2i,Xc3iを加重平均しているため、第1測位センサ1の移動平均値Xm1i付近でばらついている。
【0038】
この実施例によれば、仮に第3測位センサ(DGPS)3が故障しても、位置データXciは位置跳びすることはなく、各測位センサ1、2、3のドリフトに大きく影響を受けることがないことが分かった。
【0039】
一方、比較例として、実施例と同様に疑似的に生成した測位データXa1i,Xa2i,Xa3iに対する加重平均を取って、比較用位置データXaiを求めた。この結果を図3に示す。図3に示すそれぞれの円は、各測位センサ1、2、3の検出測位データXa1i,Xa2i,Xa3iと位置データXaiに関して、バラツキの様子が一目で分かるように標準偏差σa1i,σa2i,σa3i,σaiを半径として示してある。
【0040】
この比較例では、比較用位置データXaiはバラツキの少ない第3測位センサ3に比較的大きく影響を受ける傾向がある。何らかの要因により、第3測位センサ3が故障し、その測位データXa3iを受信できなくなったと仮定した場合には、比較用位置データXaiは次にバラツキの少ない測位センサである第2測位センサ2の影響を比較的大きく受けるようになり、結果として、比較用位置データXaiに位置跳びが発生してしまう。また、バラツキの少ない第3測位センサ3に緩やかなドリフトが発生した場合に、比較用位置データXaiも影響を受けてドリフトしてしまうという問題もある。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る実施の形態の処理フローを示す図である。
【図2】実施例を示す図である。
【図3】比較例を示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 主測位センサ(測位センサ)
2〜N 非主測位センサ(測位センサ)
ti 計測時
X0 真値
Xani 測位データ
Xcni ドリフト補正後測位データ
Xci 位置データ(加重平均値)
Xmni 移動平均値
wni 重み
σcni ドリフト補正後測位データの標準偏差
Δtk 第1の所定の時間(移動平均用)
ΔXni ドリフト補正量
Δth 第2の所定の期間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶又は浮体構造物の位置制御において、複数の測位センサで検出される複数の測位データに対して、それぞれドリフト補正を行い、該ドリフト補正を行った後のドリフト補正後測位データに対して、それぞれの時系列データのバラツキに応じた加重平均処理を行って、位置制御のための位置データを得ることを特徴とする測位データ処理方法。
【請求項2】
前記加重平均処理において、それぞれのドリフト補正後測位データの所定の期間の時系列データから得られる標準偏差の逆数を重みとすることを特徴とする請求項1記載の測位データ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−3315(P2007−3315A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−182930(P2005−182930)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】