説明

測定対象物測定方法および装置

【課題】測定対象物の温度または/および圧力の分布を正確に測定することができる測定対象物測定方法および装置を提供することを目的とする。
【解決手段】測定対象物10から放射され、測定対象物10の周囲に配置された鏡20によって反射される赤外線を赤外線感知手段30で感知する段階と、前記感知された赤外線に基づいて前記測定対象物の温度または/および圧力の分布を算出する算出段階と、を有することを特徴とする測定対象物測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象物測定方法および装置に関するものであって、特に、測定対象物としてのガスの温度または/および圧力の分布を測定する測定対象物測定方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物、たとえば、ある容器内に密封されているガスの温度、圧力分布を容器と非接触で外部から測定する手法の開発は重要である。一例を挙げると、自動車に用いるエアバックは、エアバックの展開、収縮はおよそ200msという短時間で行われ、その展開に大きな衝撃を伴うために内部の温度・圧力分布を直接測定することが困難である。したがって、エアバックのように、容器の温度・圧力分を直接測定できないものにあっては、非接触で外部から測定することが望まれる。
【0003】
一般に、エアバックなどの容器内の燃焼ガスの温度の三次元分布などの分布を測定する方法としては、燃焼ガス(たとえば、二酸化炭素ガス)から放射され、エアバックなどの容器を透過する赤外線の強度を測定し、エアバック内の気体の温度分布を測定する方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−292433号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のガスの温度の三次元分布を測定する方法にあっては、複数の赤外線カメラを必要とするため、高コストとなり経済的ではないという問題点があった。また、複数の赤外線カメラを設置する場所などを確保する必要があり、測定場所が制限されるという問題点もあった。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決し、燃焼ガスの温度および圧力の三次元分布を正確に測定することができる測定対象物測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記の手段によって達成される。
【0007】
本発明の測定対象物測定方法は、測定対象物から放射され、当該測定対象物の周囲に配置された鏡によって反射される赤外線を赤外線感知手段で感知し、感知された赤外線に基づいて測定対象物の温度または/および圧力の分布を算出することを特徴とする。
【0008】
本発明の測定対象物測定装置は、測定対象物の周囲に配置された鏡と、前記測定対象物から放射され、鏡によって反射される赤外線を感知する赤外線感知手段と、感知された赤外線に基づいて測定対象物の温度または/圧力の分布を算出する算出手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃焼ガスの圧力と温度の三次元分布などの分布を正確に測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る測定対象物測定方法および装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明のそれぞれの実施形態では、測定対象物としてエアバックを例にとって、エアバック内の燃焼ガスである二酸化炭素ガスの圧力と温度の三次元分布を測定するものとする。
【0011】
<第1実施形態>
本実施形態の測定対象物測定装置は、測定対象物の周囲に配置した鏡、および一台の赤外線カメラを利用して、赤外線ふく射二色CT法を用いて、測定対象物内の温度および圧力分布を測定するものである。
【0012】
図1は、本実施形態に係る測定対象物測定装置の概略構成を示す図である。図2は、図1のA−A線に沿って切断した断面図である。
【0013】
本実施形態に係る測定対象物測定装置は、測定対象物である燃焼ガスを含むエアバック10と、エアバック10の周囲に配置された鏡20と、燃焼ガスから放射される赤外線を撮像する1台の赤外線カメラ30と、2波長域の赤外線をそれぞれ通過させるためのフィルタが設けられた回転チョッパ40と、赤外線強度および燃焼ガスの圧力・温度を算出するためのコンピュータ50と、を有する。
【0014】
エアバック10は、均一な通気性を有する布地で形成されており、その内部には、二酸化炭素ガス(以下、単に「ガス」)が充填される。エアバック10の布地は、赤外線を透過することが実験により知られている。エアバック10は、図示はしていないが、ガス噴射装置であるインフレータが取り付けられており、インフレータの作動によって円筒状のカバー内にガスが充満し、エアバック10が瞬時に展開する。
【0015】
鏡20は、図1および図2に示すように、エアバック10から透過されてくる赤外線を反射するものであって、エアバック10の周囲に配置される。本実施形態では、11枚の平面鏡20をエアバック10の周囲に等間隔で配置する。なお、鏡20は、11枚の平面鏡に限定されず、エアバック10の大きさ、後述する赤外線カメラの位置および最大視野角などの幾何学性質によって適宜平面鏡の枚数、あるいはその鏡20自体の形状を変更することができる。なお、鏡20は、複数枚の平面鏡以外の形状として、たとえば、図3〜5に示すように、円錐面鏡、放物面鏡、または球面鏡とすることもできる。
【0016】
赤外線カメラ30は、赤外線を感知し、撮像するものであって、赤外線感知手段として機能する。赤外線カメラ30は、エアバック10の布地を通して放射されてくる特定の赤外線吸収スペクトル帯における赤外線を画像として入力する。赤外線カメラ30によって入力された画像データは、コンピュータ50に送られる。ここで、特定の赤外線吸収スペクトル帯とは、エアバック10内に封入されるガスが二酸化炭素であるので、二酸化炭素の相対エネルギーが高く、温度分布の測定をするのに都合がよい赤外線吸収スペクトルであって、たとえば、4.3μm吸収スペクトル帯である。また、赤外線カメラ30の光軸は、エアバック30の中心を通る位置に置くことが望ましい。赤外線カメラ30の構成自体は、一般的な赤外線カメラと同様であるので、詳しい説明を省略する。なお、本実施形態では、赤外線を感知する赤外線感知手段として、赤外線カメラを例に用いたが、これに限られず、赤外線を感知することができる赤外線センサであれば代用できる。
【0017】
回転チョッパ40は、図1に示すように、赤外線カメラ30に装着にするものであって、赤外線の第1波長域を通す第1フィルタ41と、赤外線の第2波長域を通す第2フィルタ42とが交互に回転方向に順次取り付けられた円盤状の構造を含む。また、回転チョッパ40は、赤外線を感知するタイミング、すなわち、赤外線カメラ30のシャッタースピードに同期して回転し、第1フィルタ41および第2フィルタ42を切り換えながら赤外線を撮像する。なお、図1では、第1フィルタの領域および第2フィルタの領域が二つずつある例を示したが、本発明はこれに限られず、その領域の各フィルタの数、形状は適宜変更することができる。
【0018】
コンピュータ50は、赤外線カメラ30によって撮像された撮像結果に基づいて赤外線強度の三次元分布を算出するとともに、算出された赤外線強度の三次元分布からガスの圧力と温度の三次元分布を算出するものであって、情報処理装置である。また、コンピュータ50は、赤外線カメラ30および回転チョッパ40の制御を同時に行うこともできる。
【0019】
コンピュータ50は、マイクロプロセッサからなる中央演算処理装置(CPU)、CPUにバス結合されたROMメモリ、RAMメモリ、不揮発性メモリ、および通信インターフェイスなどの構成要素を備えている。ROMメモリには、たとえば赤外線ふく射2色CT法を実行するプログラムが格納される。RAMメモリは、CPUが実行する処理のためのデータの一時記憶などに使用される。不揮発性メモリには、たとえば二酸化炭素が放射する赤外線の温度とふく射強度との関係を表すデータなどガスの圧力と温度の三次元分を算出するのに必要な各種設定値が格納される。また、通信インターフェイスは、赤外線カメラ30とコンピュータ50とを通信可能に接続する。
【0020】
また、コンピュータ50は、以下のような赤外線強度の三次元分布を算出する赤外線強度算出手段として機能する。
【0021】
赤外線強度算出手段は、赤外線カメラ30によって撮像された撮像結果に基づいて赤外線強度の三次元分布を算出するものである。すなわち、赤外線強度算出手段は、複数枚の鏡20に映った二次元画像から三次元画像を算出するにあたって、鏡20の配置と形状に応じた座標変換式を用いることにより、CT(computerized tomography)演算に必要な円筒座標系で表現した赤外線強度の三次元分布を取得することができる。また、本実施形態の赤外線強度算出手段は、回転チョッパ40の第1フィルタおよび第2フィルタを介して撮像された赤外線の第1波長域および第2波長域のそれぞれの赤外線の三次元分布を算出する。なお、三次元分布を取得する算出方法は、従来から知られているベクトル解析などの一般的な幾何学的手法によって算出することができるので、詳細な説明は省略する。また、赤外線強度を算出する際に、赤外線がエアバック10の布地を透過する透過率を考慮するものとし、この透過率にあっては、従来と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0022】
さらに、コンピュータ50は、以下のようなガスの圧力と温度の三次元分布を算出する圧力・温度算出手段として機能する。
【0023】
圧力・温度算出手段は、算出された赤外線強度の三次元分布からガスの圧力と温度の三次元分布を算出するものである。具体的には、圧力・温度算出手段は、赤外線ふく射2色CT法を用いて、エアバック10内のガスの圧力と温度を算出する。なお、ガスの圧力と温度の詳細な算出方法は後述する。
【0024】
ここで、赤外線ふく射2色CT法について簡単に説明する。
【0025】
一般に気体がふく射する赤外線強度は気体の温度と濃度の関数になっているため1波長域において測定された赤外線強度だけでは温度と濃度を切り分けることができないが、二つの波長域において測定された赤外線強度を用いて濃度の影響に寄らない気体の温度を同定することができる。
【0026】
図6に一般的なCT法による測定装置の概念図を示す。計算領域1と測定対象であるガス2は静止座標系(x−y)に固定されており、光学系は回転座標系(X−Y)に固定されている。図6は、x−y座標系に対し、温度計の光軸(Y軸に平行)がθだけ回転した状態を表し、この軸をX軸に沿ってスキャンした後、次の投影角へ光軸を回転する。ガス2から発せられたふく射エネルギーは、途中のガスの吸収(自己吸収)を受けつつ、分光器5に達し、第1波長域と第2波長域で波長分離された後、各波長用の検出器6に入る。赤外線の測定は、種々の角度θ(その数をプロジェクション数とする)、位置X(その数をサンプリング数とする)において行い、角度θ、位置Xにて波長ωの光軸に沿って検出器に入射するふく射エネルギーの積分量、いわゆるプロジェクションデータPxθ1,Pxθ2を求めることができる。
【0027】
図7は、二酸化炭素の4.3μmバンドの赤外線吸収係数aω(T)[atm−1cm−1]と黒体のふく射強度IGω[Wcm−1]との積を、温度をパラメータにとって示した図である。この値は、微小ガス塊が単位圧力、単位体積あたりに出射するエネルギーであり、赤外線ふく射2色CT法において重要な因子である。図中に矢印で示したΔω1を第1波長域、Δω2を第2波長域の波長幅とし、その中心波数をωcとする。それぞれの波長域での赤外線吸収係数aω、黒体のふく射強度をIωとすると、赤外線ふく射2色CT法はこれら二つの波長域から求めたふく射強度a,aの比Rは以下の数式(1)で表すことができる。
【0028】
【数1】

【0029】
したがって、赤外線ふく射2色CT法は、Rと温度Tとの関係を予め調べておき、実測値と比較して温度を決める方法である。図8は、ωc=2200cm−1、Δω1=50cm−1、およびΔω2=50cm−1の場合のRを温度T(K)の関数として示したものである。図8により、ガス中の局所におけるRが測定されれば一義的に温度Tが求められる。
【0030】
以上のように構成される本実施形態の測定対象物測定装置は、以下のように処理を行う。
【0031】
図9は、本実施形態の測定対象物測定装置の処理内容の一例を示すフローチャートである。なお、以下に示す処理では、二酸化炭素が赤外線を吸収する自己吸収については考慮しないものとする。
【0032】
図9に示すとおり、本実施形態における測定対象物測定方法は、まず、赤外線カメラ30により第1波長域および第2波長域の赤外線を撮像する(ステップS100)。赤外線ふく射2色CT法に用いる二つの波長域の赤外線強度を求めるために、赤外線カメラ30に装着された回転チョッパ40を、赤外線カメラ30のシャッタースピードに同期して回転させ、第1フィルタ41および第2フィルタ42を切り換えながら赤外線を撮像する。なお、赤外線カメラ30および回転チョッパ40の制御は、たとえば、コンピュータ50がその役割を担うことができる。
【0033】
次いで、赤外線カメラ30によって撮像された撮像結果から、上記の赤外線ふく射2色CT法を用いて、第1波長域および第2波長域でのプロジェクションデータPxθ1,Pxθ2を求める(ステップS110)。
【0034】
次いで、プロジェクションデータPxθ1,Pxθ2から単位体積当たりのふく射エネルギーSxθ1,Sxθ2を以下の数式(2)を用いて算出する(ステップS120)。
【0035】
【数2】

【0036】
次いで、算出された単位体積当たりのふく射エネルギーSxθ1,Sxθ2の比Rを以下の数式(3)で算出する(ステップS130)。
【0037】
【数3】

【0038】
次いで、実際に算出されたふく射エネルギーの比Rと、予め用意されているRと温度Tとの関係(図9に示す関係)を比較して温度Tを算出する(ステップS140)。二酸化炭素の温度Tは、一般に下記の数式(4)のように、ふく射エネルギーの比Rの関数で表すことができる。
【0039】
【数4】

【0040】
次いで、算出された単位体積当たりのふく射エネルギーSxθ1,Sxθ2および温度Tから、下記の数式(5)を用いて、ガスの圧力Pを算出することができる(ステップS150)。
【0041】
【数5】

【0042】
したがって、種々の角度θ、位置Xにて波長ωの光軸におけるプロジェクションデータPxθ1,Pxθ2から圧力と温度を求めることで、ガスの圧力と温度の三次元分布を算出することができる。
【0043】
以上のように、本実施形態の測定対象物測定方法によれば、以下の効果を奏する。
【0044】
(a)測定対象物の周囲に鏡を配置することによって、特定の方向のみに赤外線感知手段を設けることによって、対象物の温度・圧力の分布を算出することができる。
【0045】
(b)また、測定対象物の周囲に鏡を配置することによって、一台の赤外線カメラのみで1回撮影するだけで、赤外線ふく射2色CT法を用いて、対象物である燃焼ガスの温度・圧力の三次元分布などの分布を測定することができる。
【0046】
(c)赤外線感知手段として、赤外線カメラを用いることで、表示装置にその撮像結果を表示させることで、視覚的に赤外線強度の分布を容易に把握することができる。
【0047】
(d)複数のフィルタを介して、赤外線の複数の波長域を感知することで、複数の波長域をそれぞれ感知するための赤外線カメラを用いる必要がなく、一つの赤外線カメラで測定対象物から放射される赤外線を感知することができる。
【0048】
(e)赤外線の第1波長域を通過させる第1フィルタおよび第2波長域を通過させる第2フィルタを介して赤外線を撮像することで、従来のように二つの波長(4.3μm,2.7μm帯)を同時に撮像できる赤外線カメラを用意する必要がなく、簡易に2波長域の赤外線を撮像することができる。
【0049】
(f)回転チョッパは赤外線カメラのシャッタースピードに同期して回転し、第1フィルタおよび第2フィルタを切り換えながら赤外線を撮像する。1台の赤外線カメラによって赤外線ふく射2色CT法を用いる場合、1回の撮影ごとにフィルタを切り換えることが必要となるが、赤外線カメラのシャッタースピードに同期して回転チョッパを回転させることで、フィルタを切換ながらの高速撮影が可能となる。
【0050】
(g)鏡として複数枚の平面鏡を用いることで、簡易に、1台の赤外線カメラで三次元CTを実現することができる。また、鏡として円錐面鏡、放物面鏡、または球面鏡のいずれかを用いることで、たとえば、測定対象物が球面状であれば、複数枚の平面鏡を測定対象物の周囲に配置するのに比べ、容易、かつ、安定して1台の赤外線カメラで三次元CTを実現することもできる。
【0051】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2実施形態の測定対象物測定方法について詳細に説明する。
【0052】
第2実施形態の測定対象物測定方法は、第1実施形態とは異なり、エアバック内のCO2ガスで赤外線が自己吸収されることを考慮して計算するものである。
【0053】
以下、第1実施形態とは異なる点、すなわち、単位体積当たりのふく射エネルギーSxθ1,Sxθ2を算出する方法を詳細に説明する。
【0054】
エアバック内のガスで赤外線が自己吸収されることを考慮すると、第1実施形態で用いた数式(2)は、以下の数式(6)に置き換えられる。ここで、fθωはガスに吸収されるエネルギーの割合(<0)を表す。
【0055】
【数6】

【0056】
数式(6)のSxθωとfθωを、圧力Pxy、黒体ふく射強度IωT、吸収係数εの微分項で表記し、非線形最小二乗法で解く。
【0057】
xθは赤外線のプロジェクションデータから求まり、aω(Txy),c(Txy),IGωは、たとえば、計算コードRADCALなどのライブラリを利用して求める。非線形項の計算式として数式(7)を用いて、Levenberg−Marquart法を利用して最小二乗法に帰着させた数式(8)の連立方程式を解くことで、各画素の未知定数である温度と圧力を導出することができる。
【0058】
【数7】

【0059】
【数8】

【0060】
以上のように、第2の実施形態の測定対象物測定方法によれば、第1の実施形態の(a)〜(g)の効果に加え、以下の(h)の効果を奏する。
【0061】
(h)赤外線の燃焼ガスによる自己吸収分が補正され、また収束計算のような発散の問題もなく、正確な測定対象物の温度と圧力の測定が可能となる。
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3実施形態の測定対象物測定方法について詳細に説明する。
【0062】
本実施形態に係る測定対象物測定方法は、有限な数の鏡に映った投影画像から三次元CTを実現するため、温度と圧力の三次元分布に対して、有限級数、たとえば、Zernike級数展開を行い、求める解の個数を減らして前述の非線形方程式を解くものである。
【0063】
以下、第2実施形態とは異なる点、温度と圧力の三次元分布に対して、有限級数の一例としてZernike級数展開を行い、温度と圧力を算出する方法を詳細に説明する。
【0064】
測定対象であるエアバック10と平面鏡20、赤外線カメラ30を図10に示すように配置した場合、赤外線カメラ30には測定対象の完全な側面投影図が写って見える。すなわち、エアバック10のプランビューでの断層面の赤外線のプロジェクションデータPxθがそのまま得られる。
【0065】
数式(8)の連立方程式を最小二乗法に帰着して解くには、2(Nx×Ny)個の赤外線カメラ(鏡の枚数)が必要となる。ここで、NxはX軸方向の1画素あたりの長さ、要素長であって、NyはY軸方向の1画素あたりの長さ、要素長である。
【0066】
そこで、本実施形態の測定対象物測定方法では、温度と圧力の三次元分布に対して、Zernike級数展開を行い、求める解の個数を減らすことにより、有限な数(せいぜい十数枚)の平面鏡、あるいは赤外線カメラの画像から、圧力と温度の三次元分布を得ることを目的とする。さらに、圧力と温度の分布は一様だと仮定して求めた平均値で初期値を設定し、局所解の発生を抑制する。
【0067】
以下、Zernike級数展開を行い、せいぜい十数枚の鏡で連続的な三次元分布が得られる理由を説明する。同定すべき物理量の分布φを下記の数式(9)のようにゼルニケ多項式に展開する。
【0068】
【数9】

【0069】
ここで、r,θは二次元空間の極座標成分を表す。Wはゼルニケの基底関数で、zはゼルニケの係数である。数式(9)において、1次以降の高次の項を無視し、同定すべき物理量の分布のベクトル表現は、下記の数式(10)となる。
【0070】
【数10】

【0071】
ここで、[W]は、ゼルニケの基底関数を離散化したベクトルを1個横に並べたマトリクスである。また、zは、1個のゼルニケの係数からなるベクトルである。本実施形態は、同定すべき物理量の分布が滑らかである場合には、1次以降の高次の項を無視し低次のゼルニケの級数の30〜70項ほどで分布を表現する。すなわち、分布を低次のゼルニケ級数展開する場合には、30〜70個の未知数を同定するだけで、分布を得ることができる。本発明では、それぞれの離散化されたポイントにおける物理量を直接同定するのではなく、分布を級数展開し、例えば、数式(10)のように低次の級数で展開し、少ない数の展開係数を同定するようにしている。
【0072】
すなわち、本実施形態では、設計変数を級数展開の展開係数(本例では、ゼルニケ係数)とし、数式(11)で表す評価関数を有する非線形最適化問題(以下、第2の非線形最適化問題とも称する)に帰着させ、この第2の非線形最適化問題を解くことで、同定すべき物理量の分布を同定するようにしている。これにより、第2の非線形最適化問題の解を精度良く安定に求めることができ、かつ、計算量を大幅に低減することができる。
【0073】
【数11】

【0074】
ここで、例えば、本実施形態の方法を用いないで、設計変数をTxy,pxyとし、次の数式(12)で表す評価関数を有する非線形最適化問題を解くことにすると、それぞれのポイントにおける温度Txy、圧力pxyを同定する必要がある。
【0075】
【数12】

【0076】
温度Tおよび圧力pの分布をたとえば、30×30の粗い解像度で同定する場合でも、同定すべき未知数は、目的のポイント数nの2倍、2n=30×30×2=1800となる。このような場合、数式(12)で表す評価関数を有する非線形最小化問題は、悪条件となり、解が安定しなかったり、また計算量が膨大になる問題が生じてしまう。なお、本実施形態では、温度・圧力分布を、有限級数の一例としてゼルニケの級数で展開した場合を説明したが、本実施形態では、それに限定されることなく、他にもフーリエ級数展開、ラグランジュ級数展開、スプライン関数による展開、またはベッセル関数による展開が利用できることはいうまでもない。
【0077】
以上のように、第3の実施形態の測定対象物測定方法によれば、第1の実施形態の(a)〜(g)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0078】
(i)有限な数の平面鏡の投影データから三次元CTを実現することができる。
【0079】
以上のように本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、以上の実施形態に限定されるべきものではなく、特許請求の範囲に表現された思想および範囲を逸脱することなく、種々の変形、追加、および省略が当業者によって可能である。
【0080】
たとえば、本実施の形態では、一台の赤外線カメラと、回転チョッパを用いて測定対象物の温度または/および圧力を測定する方法を例にとって説明したが、これに限られず、それぞれ異なる赤外線の波長域を透過するフィルタを装着した赤外線カメラを複数台用意することで、測定対象物の温度または/および圧力を測定することもできる。
【0081】
また、本実施の形態では、回転チョッパを用いて4.3μmバンド帯において第1波長域および第2波長域の赤外線を赤外線カメラにより取得することを例にとって説明したが、同様の思想で、二つの波長(4.3μm,2.7μm帯)を同時に撮像できる1台の赤外線カメラでできることはもちろんである。
【0082】
さらに、本実施の形態のように、回転チョッパを用いることが高速撮影を行う上では望ましいが、これに限られず、たとえば、回転チョッパを用いずに撮像ごとに手動で第1フィルタおよび第2フィルタを切り換えてもよい。
【0083】
さらに、本実施の形態では、第1フィルタおよび第2フィルタの二つのフィルタを用いて、赤外線ふく射2色CT法を用いる方法を説明したが、これに限られず、複数のフィルタを用いて二つ以上の赤外線の波長域から測定対象物の温度または/圧力を用いることができる。また、複数のフィルタを用いた場合、回転チョッパについても複数のフィルタを順次配置させ、回転チョッパを赤外線感知手段の感知するタイミングに同期して回転し、複数のフィルタを切り換えながら赤外線を感知することもできる。
【0084】
さらに、本実施の形態では、測定対象物の温度または/および圧力の三次元分布を測定する場合を例示したが、これに限られず、たとえば、温度または/および圧力の二次元断面分布などの分布も従来のCT法により測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本実施形態に係る測定対象物測定装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1のA−A´線に沿って切断した断面図である。
【図3】図1のA−A´線に沿って切断した断面図であって、鏡として円錐面鏡を用いた場合の図である。
【図4】図1のA−A´線に沿って切断した断面図であって、鏡として放物面鏡を用いた場合の図である。
【図5】図1のA−A´線に沿って切断した断面図であって、鏡として球面鏡を用いた場合の図である。
【図6】一般的なCT法による測定装置の概念図である。
【図7】二酸化炭素の4.3μmバンドの赤外線吸収係数と黒体のふく射強度との積を、温度をパラメータにとって示した図である。
【図8】二つの波長域におけるふく射エネルギーの比Rを温度の関数として示した図である。
【図9】本実施形態の測定対象物測定装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図10】測定対象と平面鏡、赤外線カメラの位置関係を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
10 エアバック、
20 鏡、
30 赤外線カメラ、
40 回転チョッパ、
50 コンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物から放射され、当該測定対象物の周囲に配置された鏡によって反射される赤外線を赤外線感知手段で感知する赤外線感知段階と、
前記感知された赤外線に基づいて前記測定対象物の温度または/および圧力の分布を算出する算出段階と、
を有することを特徴とする測定対象物測定方法。
【請求項2】
前記赤外線感知手段は、赤外線カメラであることを特徴とする請求項1に記載の測定対象物測定方法。
【請求項3】
前記赤外線感知段階は、
前記赤外線の複数の波長域それぞれを通過させる複数のフィルタを介して、前記赤外線を前記赤外線感知手段で感知することを特徴とする請求項1に記載の測定対象物測定方法。
【請求項4】
前記赤外線感知手段は、前記複数のフィルタが回転方向に順次配置された回転チョッパが取り付けられ、
前記赤外線感知段階は、
前記回転チョッパは前記赤外線感知手段の感知するタイミングに同期して回転し、前記複数のフィルタを切り換えながら前記赤外線を感知することを特徴とする請求項3に記載の測定対象物測定方法。
【請求項5】
前記赤外線感知段階は、
前記赤外線の第1波長域を通過させる第1フィルタを介して前記赤外線を感知する段階と、
前記赤外線の第2波長域を通過させる第2フィルタを介して前記赤外線を感知する段階と、を有し、
前記算出段階は、
前記第1波長域および前記第2波長域それそれで感知された赤外線に基づいて前記測定対象物の圧力または/圧力の分布を算出することを特徴とする請求項3に記載の測定対象物測定方法。
【請求項6】
前記赤外線感知手段は、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタが回転方向に順次配置された回転チョッパが取り付けられ、
前記赤外線感知段階は、
前記回転チョッパは前記赤外線感知手段の感知するタイミングに同期して回転し、前記第1フィルタおよび前記第2フィルタを切り換えながら前記赤外線を撮像することを特徴とする請求項5に記載の測定対象物測定方法。
【請求項7】
前記算出段階は、
前記感知された赤外線に基づいて赤外線強度の分布を算出する段階と、
前記赤外線強度の分布から前記測定対象物の温度または/および圧力の分布を算出する算出段階と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の測定対象物測定方法。
【請求項8】
前記赤外線強度の分布を算出する段階は、
前記感知された赤外線、および前記測定対象物が自己吸収する赤外線量に基づいて、前記赤外線強度を算出することを特徴とする請求項7に記載の測定対象物測定方法。
【請求項9】
前記鏡は、複数枚の平面鏡であることを特徴とする請求項1に記載の測定対象物測定方法。
【請求項10】
前記鏡は、円錐面鏡、放物面鏡、または球面鏡のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の測定対象物測定方法。
【請求項11】
前記算出段階は、
有限級数展開を行い、前記測定対象物の温度または/および圧力の連続的な分布を算出することを特徴とする請求項9に記載の測定対象物測定方法。
【請求項12】
測定対象物の周囲に配置された鏡と、
前記測定対象物から放射され、前記鏡によって反射される赤外線を感知する赤外線感知手段と、
前記感知された赤外線に基づいて前記測定対象物の温度または/および圧力の分布を算出する算出手段と、
を有することを特徴とする測定対象物測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−122050(P2009−122050A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298478(P2007−298478)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】