説明

測定方法および測定装置

【課題】被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う測定装置において、試料液の送液速度の影響を排除して、測定精度を向上させる。
【解決手段】流路部材内に試料液を流通させる微小流路が設けられ、微小流路内の一部にセンサ部が配設されてなる分析チップ10を用いて、微小流路内に試料液を送液することによりセンサ部上に被検出物質を含む試料液を接触させて、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、光標識結合物質を励起させ、励起に起因して生じる光を検出して、被検出物質の量を測定する測定装置1において、データ分析手段70により、試料液が微小流路内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間を測定し、被検出物質の量の測定結果に対して、所要時間が長い程、被検出物質の量が多くなるように測定結果を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う光検出法を用いた測定方法および測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定等において、蛍光法は高感度かつ容易な測定法として広く用いられている。蛍光法とは、特定波長の光に励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に、上記特定波長の励起光を照射し、このとき発せられる蛍光を検出することによって定性的または定量的に被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質自身が蛍光材料ではない場合、この被検出物質を有機蛍光色素等の蛍光標識で標識し、その後同様にして蛍光を検出することにより、その標識の存在をもって被検出物質の存在を確認する方法である。
【0003】
上記蛍光法において、試料を流しながら特定の被検出物質のみを効率よく検出できる等の理由から、以下に示す2つの方法により被検出物質を分析チップのセンサ部表面に固定し、その後蛍光検出を行う手法が一般的である。このような手法の1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原を特異的に結合させ、次いで、蛍光標識が付与された、抗原と特異的に結合する2次抗体を、さらに上記抗原に結合させることにより、1次抗体―抗原―2次抗体という結合状態を形成し、2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂サンドイッチ法である。また、もう1つは、例えば被検出物質が抗原である場合に、センサ部表面に固定された1次抗体に、抗原と蛍光標識が付与された2次抗体(前述の2次抗体と異なり、1次抗体と特異的に結合する)とを、競合的に1次抗体と結合させ、競合的に結合した2次抗体に付与されている蛍光標識からの蛍光を検出する、所謂競合法である。
【0004】
また、蛍光検出においてS/N比を向上できる等の理由から、上記のような方法によって間接的にセンサ部に固定された蛍光標識を、エバネッセント光により励起するエバネッセント蛍光法が提案されている。エバネッセント蛍光法は、励起光をセンサ部裏面から入射し、センサ部表面に染み出すエバネッセント光により蛍光標識を励起して、その蛍光標識から生じる蛍光を検出するものである。
【0005】
一方、エバネッセント蛍光法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が、特許文献1、非特許文献1などに提案されている。この表面プラズモン増強蛍光法は、プラズモン共鳴を生じさせるため、センサ部に金属層を設け、この金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって、蛍光信号を増大させてS/N比を向上させるものである。
【0006】
また、エバネッセント蛍光法において、表面プラズモン増強蛍光法と同様に、センサ部の電場を増強する効果を有する方法として、光導波モードによる電場増強効果を利用する方法が非特許文献2に提案されている。この光導波モード増強蛍光分光法(OWF:Optical waveguide mode enhanced fluorescence spectroscopy)は、センサ部に金属層と、誘電体などからなる光導波層とを順次形成し、この光導波層に光導波モードを生じさせ、その電場増強効果によって、蛍光信号を増強させるものである。
【0007】
また、特許文献2および非特許文献3には、上記に示した蛍光法のように蛍光標識からの蛍光を検出するのではなく、その蛍光が金属層に新たに表面プラズモンを誘起することによって生じる放射光(SPCE: Surface Plasmon-Coupled Emission)を検出する方法が提案されている。
【0008】
以上のように、バイオ測定等における測定方法としては、種々の方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/0053974号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】W.Knoll他、Analytical Chemistry 77(2005), p.2426-2431
【非特許文献2】2007年春季 応用物理学会 予稿集 No.3,P.1378
【非特許文献3】Thorsten Liebermann Wolfgang Knoll, "Surface-plasmon field-enhanced fluorescence spectroscopy" Colloids and Surfaces A 171(2000)115-130
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記のような蛍光法を用いた測定装置に用いられる分析チップでは、生体から採取する検体溶液量を少なくしたり検出速度を速くするために、μTAS(Micro Total Analysis Systems)技術が多く採用されているが、μTAS方式の分析チップに形成される微小流路は一般的に非常に狭いため、試料液の粘度が高くなる程、試料液の送液速度が低下する。また、これ以外にも、微小流路内の湿潤状態等によっても試料液の送液速度が変化する。
【0012】
微小流路内のセンサ部上に供給される試料液の送液速度が変化すると、単位時間当たりにセンサ部上に供給される被検出物質の量が変化してしまうため、特にセンサ部における反応の変化速度を測定(レート測定)することによって被検出物質の量を特定する場合には、試料液の粘度や微小流路内の湿潤状態等の違いにより測定結果にバラツキが生じて正確な測定を行うことができない。
【0013】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、被検出物質と結合した光応答性標識物質から生じる光を検出して被検物質の分析を行う測定装置において、試料液の送液速度の影響を排除して、測定精度を向上させた測定方法および測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の測定方法は、流路部材内に試料液を流通させる微小流路が設けられ、微小流路内の一部にセンサ部が配設されてなる分析チップを用いて、微小流路内に試料液を送液することによりセンサ部上に被検出物質を含む試料液を接触させて、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、光標識結合物質を励起させ、励起に起因して生じる光を検出して、被検出物質の量を測定する測定方法において、試料液が微小流路内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間を測定し、被検出物質の量の測定結果に対して、所要時間が長い程、被検出物質の量が多くなるように測定結果を補正することを特徴とする。
【0015】
本発明の測定装置は、上記測定方法に用いられる測定装置であって、分析チップを収容するための収容部と、収容部に収容される分析チップのセンサ部の位置に、光標識結合物質を励起させるための励起光を照射する励起光照射光学系と、励起に起因して生じる光を検出する光検出手段と、光検出手段による検出結果に基づいて、被検出物質の量を算出する演算手段と、試料液が微小流路内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間を測定する所要時間測定手段と、被検出物質の量の算出結果に対して、所要時間が長い程、被検出物質の量が多くなるように算出結果を補正する補正手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の測定装置においては、微小流路内の圧力を測定する圧力測定手段をさらに備え、所要時間測定手段は、試料液の送液時の微小流路内の圧力変化に基づいて、測定開始位置および/または測定終了位置において試料液が通過したことを検出するものとしてもよい。
【0017】
また、所要時間測定手段は、測定開始位置および/または測定終了位置において試料液が通過したことを光学的に検出するセンサを備えたものとしてもよい。
【0018】
また、分析チップのセンサ部は、励起光の照射を受けてエバネッセント波を生じる誘電体プレート上に金属膜が積層されたものとしてもよい。
【0019】
なお、「励起に起因して生じる光」とは、励起により光標識結合物質から生じる蛍光、燐光、遅延蛍光、ラマン散乱光等の光に限らず、光標識結合物質と他の物質との間で生じる蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)により発生した光等、励起光の照射を引き金として発生する光であれば、どのような光であってもよい。
【0020】
また、光標識結合物質の励起については、光標識結合物質を励起光により直接励起させてもよいし、励起光をセンサ部に照射することによりセンサ部にエバネッセント光を生じさせ、このエバネッセント光により光標識結合物質を励起させてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の測定方法および測定装置によれば、流路部材内に試料液を流通させる微小流路が設けられ、微小流路内の一部にセンサ部が配設されてなる分析チップを用いて、微小流路内に試料液を送液することによりセンサ部上に被検出物質を含む試料液を接触させて、試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の光標識結合物質をセンサ部上に結合させ、光標識結合物質を励起させ、励起に起因して生じる光を検出して、被検出物質の量を測定する測定方法および測定装置において、試料液が微小流路内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間を測定し、被検出物質の量の測定結果に対して、所要時間が長い程、被検出物質の量が多くなるように測定結果を補正するようにしたので、試料液の粘度や微小流路内の湿潤状態等の違いにより微小流路内のセンサ部上に供給される試料液の送液速度が変化しても、これによる影響を補正して正確な測定結果を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の測定装置の一実施の形態である蛍光検出装置の模式図
【図2】上記蛍光検出装置のブロック図
【図3】上記蛍光検出装置に用いる分析チップの一例を示す模式図
【図4】図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図
【図5】図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図
【図6】図3中のVI−VI線断面図
【図7】上記蛍光検出装置における送液時の微小流路内の圧力変化の一例を示すグラフ
【図8】上記分析チップ、光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図
【図9】上記蛍光検出装置による測定結果の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の測定装置の一実施の形態である蛍光検出装置について詳細に説明する。図1は本発明の測定装置の一実施の形態である蛍光検出装置の模式図、図2は上記蛍光検出装置のブロック図、図3は上記蛍光検出装置に用いる分析チップの一例を示す模式図、図4は図2の検体処理手段によりノズルチップを用いて検体が検体容器から抽出される様子を示す模式図、図5は図2の検体処理手段によりノズルチップ内の検体が試薬セルに注入・撹拌される様子を示す模式図、図6は図3中のVI−VI線断面図、図7は上記蛍光検出装置における送液時の微小流路内の圧力変化の一例を示すグラフ、図8は上記分析チップ、光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図、図9は上記蛍光検出装置による測定結果の一例を示すグラフである。
【0024】
この蛍光検出装置1は、表面プラズモン共鳴を利用した免疫解析装置であって、蛍光検出装置1により分析を行う際、図1に示す検体が収容された検体容器CBと、検体および試薬を抽出する際に用いられるノズルチップNCと、試薬セルおよびマイクロ流路が形成された分析チップ10が装填される。なお、検体容器CB、ノズルチップNCおよび分析チップ10はいずれも一度使用したら破棄される使い捨てのものである。そして、蛍光検出装置1は検体を分析チップ10のマイクロ流路15に流しながら検体内の被検物質について定量的もしくは定性的な分析を行う。
【0025】
この蛍光検出装置1は、検体処理手段20、光照射手段30、蛍光検出手段40、光照射手段50、光検出手段60、データ分析手段70等を備えている。検体処理手段20は、ノズルチップNCを用いて検体を収容した検体容器CB内から検体を抽出し、抽出した検体を試薬と混合撹拌した検体溶液を生成するものである。また、データ分析手段70は、被検出物質の量を算出する演算手段としての機能、記試料液が流路15内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間tを測定する所要時間測定手段としての機能、そして被検出物質の量の算出結果を補正する補正手段としての機能を兼ね備える。データ分析手段70の作用については、後で詳細に説明する。
【0026】
図3は分析チップ10の一例を示す模式図である。分析チップ10は、光透過性の樹脂等の誘電体プレートからなる本体11に注入口12、排出口13、試料セル14a、14b、流路15が形成された構造を有している。注入口12は流路15を介して排出口13に連通しており、排出口13から負圧をかけることにより検体は注入口12から注入されて流路15内に流れ排出口13から排出される。試料セル14a、14bは検体容器CB内の検体に混合する蛍光試薬(第2抗体)を収容する容器である。なお、試料セル14a、14bの開口部はシール部材により封止されており、検体と蛍光試薬とを混合する際にシール部材が穿孔されるようになっている。
【0027】
また、流路15内には検体内の被検物質を検出するためのセンサ部としてのテスト領域TRおよびテスト領域TRの下流側に設けられたコントロール領域CRが形成されている。このテスト領域TR上には第1抗体が固定されており、いわゆるサンドイッチ方式により標識化された抗体を捕捉する。また、コントロール領域CRには参照抗体が固定されており、コントロール領域CR上に検体溶液が流れることにより参照抗体が蛍光物質を捕捉する。なお、コントロール領域CRは2つ形成されており、非特異吸着を検出するためのいわゆるネガ型のコントロール領域CRと、検体差による反応性の違いを検出するためのいわゆるポジ型のコントロール領域CRとが形成されている。
【0028】
検体処理手段20は、不図示のポンプおよび圧力センサを備えており、分析の開始が指示された際、検体処理手段20のノズル先端には図4に示すようにノズルチップNCが装着されて検体容器CBから検体を吸引する。その後、検体処理手段20は図5に示すように試料セル14aのシール部材を穿孔し試料セル14a内の試薬に検体を混合・撹拌させた後、検体溶液を再びノズルチップNCを用いて吸引する。この動作を試料セル14bについても同様に行う。すると、検体内に存在する被検物質(抗原)Aに試薬内の特異的に結合する第2の結合物質である第2抗体B2が表面に修飾された検体溶液が生成される。そして、検体処理手段20は、検体溶液を収容したノズルチップNCを注入口12上に設置するとともに、排出口13にノズル先端を嵌着し、排出口13から吸引して流路15内を負圧とすることによりノズルチップNC内の検体溶液を流路15内に流入させる。
【0029】
本測定時における検体溶液の送液速度を安定させるため、本実施の形態の蛍光検出装置1においては、本測定に先だって流路15内を濡らすための送液(一次送液)が行われる。
【0030】
また、検体溶液の粘度や流路15内の湿潤状態等の違いにより微小流路内のセンサ部上に供給される試料液の送液速度が変化すると測定結果に変動が生じるが、このような影響を補正するために、本実施の形態の蛍光検出装置1においては、一次送液の際に、検体溶液が流路15内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間tの測定を同時に行う。ここでは、センサ部(テスト領域TRおよびコントロール領域CR)が設けられたセンサ領域の入口を測定開始位置、出口を測定終了位置とする。
【0031】
図6に示すように、センサ領域の流路の深さは、センサ領域に連通する通路部の流路の深さと比較して浅いため、一次送液中の流路15内の圧力を測定すると、図7のグラフに示すように、検体溶液がノズルチップNCからセンサ領域に到達した時点で流路15内の圧力が上昇することになる。
【0032】
また、測定終了位置においては、分析チップ10を挟むようにLED等の光照射手段50および光検出手段60が配されている。これは検体溶液の先端が到達したかどうかを光透過によって見るためのものである。例えば、分析チップ10の下方から上方に向けて光照射手段50から光を照射し、上部の光検出手段60でその光量を検出すると、検体溶液が測定終了位置まで到達していない場合は、流路部材を構成する下側部材11と流路との境界および流路と上側部材12との境界で各々光の一部(約4%程度)が反射して最終的に約8%程度光量が低下し、検体溶液が測定終了位置まで到達している場合は、検体溶液と透明樹脂の屈折率が近く光が反射しないため光量の低下をほとんど生じない。従って、図7のグラフに示すように、検体溶液が測定終了位置まで到達している場合には、到達していない場合と比較して、検出光量が約8%高くなる。このようにして、検出光量の変化により、検体溶液の先端が測定終了位置まで到達したか(すなわち、検出領域部を全て通過したか)を知ることができる。
【0033】
上述の通り、検体溶液が流路15内の測定開始位置を通過したタイミングおよび測定終了位置に到達したタイミングを測定することができるため、データ分析手段70は、これらの情報に基づいて測定開始位置から測定終了位置に到達するまでの所要時間tの測定を行う。
【0034】
次に本測定時の動作について説明する。図8は分析チップ、光照射手段および蛍光検出手段の一例を示す模式図である。なお、図6においてはテスト領域TRに着目して説明するが、コントロール領域CRについても同様に励起光Lが照射されるものである。
【0035】
分析チップ10の本体11は、詳細には、光透過性の樹脂等の誘電体により形成された基盤11aおよび上蓋11bからなる。基盤(誘電体プレート)11aには流路15(試料液保持部)を形成するための溝が設けられており、この溝上に上蓋11bが取り付けられることにより、溝部分が流路15(試料液保持部)として機能する。流路15のテスト領域TR(コントロール領域CRも同様)の底面には金属膜16が積層されている。
【0036】
光照射手段30は、分析チップ10の裏面側から励起光Lを全反射条件となる入射角度でプリズムを介してテスト領域TRの誘電体プレート17と金属膜16に照射するものである。蛍光検出手段40は、たとえばCCD、CMOS等からなり、テスト領域TRを撮影して画像信号FSを取得するものである。
【0037】
流路15内に検体溶液が供給され、光照射手段30により励起光Lが誘電体プレート17と金属膜16との界面に対して全反射角以上の特定の入射角度で入射されることにより、金属膜16上の試料S中にエバネッセント波Ewが滲み出し、このエバネッセント波Ewによって金属膜16中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜16表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。すると、金属膜16上に固着された第1抗体B1と結合した蛍光標識物質Fはエバネッセント波Ewにより励起され増強された蛍光を発生する。
【0038】
なお、プラズモン増強を利用した検出においては、金属消光が発生して感度が低下するおそれがあるため、例えばシリカ層やポリスチレン層等からなる消光防止層を金属層16上に設けるようにすれば、このような問題を解消することができる。また、蛍光標識物質Fについて、例えば、蛍光色素をポリスチレン粒子やシリカ粒子に内包したものや、金コロイド表面をポリスチレンでコーティングしたもの等といった、消光防止性物質としても、金属消光の問題を解消することができる。
【0039】
図2のデータ分析手段70は、蛍光検出手段40により検出された蛍光信号FSの経時変化に基づいて被検物質の分析を行うものである。具体的には、蛍光強度は蛍光標識物質Fの結合した量によって変化するため、図9のグラフ中の実線に示すように時間経過とともに蛍光強度は変化する。データ分析手段70は、複数の蛍光信号FSを所定期間(例えば5分間)において所定のサンプリング周期(例えば5秒周期)で取得し、蛍光強度の時間変化率を解析することにより検体内の被検物質について定量的な分析を行う(レート法)。
【0040】
この場合、検体溶液の送液速度が遅い程、単位時間あたりにセンサ領域を通過する蛍光標識物質Fの量が少なくなるため、検出信号値が低くなる傾向となる。送液速度の違いによる検出信号値への影響については、予め既知濃度の検査液を使用した測定を行い、送液速度を変化させたときの検出信号値に基づいて補正係数として求めておく。これにより、データ分析手段70では、一次送液時に測定した所要時間tに基づいて、所要時間tが長い程、蛍光標識物質Fの結合量が多くなるように測定結果の補正を行う。具体的には、図9のグラフに示すように、本測定時に得られた結果(グラフ中実線表示)に対して、所要時間tが長い程、大きい係数を掛けることにより、送液速度の違いによる影響を補正した結果(グラフ中点線表示)を得ることができる。ここで、どの程度の係数を掛けるのかについては、予め取得されている測定結果や種々の条件を考慮して、適宜選択することができる。
【0041】
また、上記のようにして補正した結果に対して、さらにコントロール領域CRにおける測定結果を用いて補正を行うようにしてもよい。
【0042】
そして最終的に得られた分析結果は、モニタやプリンタ等からなる情報出力手段4から出力される。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、検体溶液が流路15内の測定開始位置を通過したタイミングおよび測定終了位置に到達したタイミングを検出する方法については、両方ともに流路15内の圧力変化に基づいて検出してもよいし、両方ともに光照射手段50および光検出手段60のようなセンサを用いて光学的に検出してもよい。また、上記以外の方法により検出するようにしてもよい。
【0045】
また、測定結果の補正の方法についても上記に限定されるものではなく、所要時間tが長い程、大きい数値を加算する等、どのような方法を用いてもよい。
【0046】
また、本発明の蛍光検出装置は、表面プラズモン増強蛍光法やエバネッセント蛍光法以外にも、光導波モード増強蛍光分光法等、種々の方式に対応させることが可能である。
【0047】
また、上記以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0048】
1 蛍光検出装置
10 分析チップ
20 検体処理手段
30 光照射手段
40 蛍光検出手段
50 光照射手段
60 光検出手段
70 データ分析手段
CR コントロール領域
FS 蛍光信号
L 励起光
TR テスト領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路部材内に試料液を流通させる微小流路が設けられ、該微小流路内の一部にセンサ部が配設されてなる分析チップを用いて、
前記微小流路内に前記試料液を送液することにより前記センサ部上に被検出物質を含む試料液を接触させて、該試料液に含有される被検出物質の量に応じた量の光標識結合物質を前記センサ部上に結合させ、
前記光標識結合物質を励起させ、
該励起に起因して生じる光を検出して、前記被検出物質の量を測定する測定方法において、
前記試料液が前記微小流路内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間を測定し、
前記被検出物質の量の測定結果に対して、前記所要時間が長い程、前記被検出物質の量が多くなるように測定結果を補正することを特徴とする測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法に用いられる測定装置であって、
前記分析チップを収容するための収容部と、
該収容部に収容される前記分析チップの前記センサ部の位置に、前記光標識結合物質を励起させるための励起光を照射する励起光照射光学系と、
前記励起に起因して生じる光を検出する光検出手段と、
該光検出手段による検出結果に基づいて、前記被検出物質の量を算出する演算手段と、
前記試料液が前記微小流路内の所定の測定開始位置から所定の測定終了位置に到達するまでの所要時間を測定する所要時間測定手段と、
前記被検出物質の量の算出結果に対して、前記所要時間が長い程、前記被検出物質の量が多くなるように前記算出結果を補正する補正手段とを備えることを特徴とする測定装置。
【請求項3】
前記微小流路内の圧力を測定する圧力測定手段を備え、
前記所要時間測定手段が、前記試料液の送液時の前記微小流路内の圧力変化に基づいて、前記測定開始位置および/または前記測定終了位置において前記試料液が通過したことを検出するものであることを特徴とする請求項2記載の測定装置。
【請求項4】
前記所要時間測定手段が、前記測定開始位置および/または前記測定終了位置において前記試料液が通過したことを光学的に検出するセンサを備えたものであることを特徴とする請求項2または3記載の測定装置。
【請求項5】
前記分析チップのセンサ部が、前記励起光の照射を受けてエバネッセント波を生じる誘電体プレート上に金属膜が積層されたものであることを特徴とする請求項2から4のいずれか1項記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−72823(P2013−72823A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213734(P2011−213734)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】