測定方法及びこれを用いた核燃料破損の検出方法、並びに、測定装置及びその使用方法

【課題】試料ガス中のキセノンガス等の測定対象ガスを、バックグランド放射能の影響を受けずに高感度で測定し、しかも、試料ガスの制約を少なくする。
【解決手段】試料ガス中の、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスである測定対象ガスを測定する測定装置1は、前記試料ガスとアルゴンガス及び/又はヘリウムガスとを混合して混合ガスを得る混合手段34と、混合手段34により得られた前記混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させる低減手段33と、低減手段33により前記成分が選択的に低減された前記混合ガスが導入され、当該導入されたガスの質量分析を行う大気圧イオン化質量分析装置2と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ガス中の、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスである測定対象ガスを測定する測定方法及び測定装置、前記測定方法を用いた核燃料破損の検出方法、並びに、前記測定装置の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高速増殖炉の核燃料破損時に放出されるキセノン、クリプトン、セシウム等の核分裂生成物質を多光子増感イオン化法により検出することを特徴とした核燃料破損時における核分裂生成物質の検出方法が、開示されている。
【0003】
この従来の検出方法によれば、多光子増感イオン化法が用いられ、多光子増感イオン化法では放射能に無関係な検出が可能であることから、核分裂生成物質ガスをバックグランド放射能の影響を受けずに高感度で検出することができる。
【0004】
また、従来から、高感度でガスを分析し得る装置として、大気圧イオン化質量分析装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−294890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載されているように、多光子増感イオン化法を実際の試料の分析に適用する場合の問題点の多くは、分子化合物の原子化にあると考えられている。そこで、前記従来の検出方法では、検出対象が、高速増殖炉の核燃料破損時に放出されるキセノン、クリプトン、セシウム等の核分裂生成物質に限られている。上記特許文献1に記載されているように、高速増殖炉で発生する核分裂生成物質ガスは、単原子分子であり、しかも不活性ガス(アルゴン又はヘリウム)雰囲気であるために、分子化合物を形成する可能性は極めて少ない。したがって、前記従来の検出方法では、検出対象が、高速増殖炉の核燃料破損時に放出されるキセノン、クリプトン、セシウム等の核分裂生成物質に限られているため、発生する核分裂生成物質ガスを多光子増感イオン化法により高感度で検出することにより、燃料棒の破損を迅速に検知可能である。
【0007】
このように、前記従来の検出方法では、分子化合物の原子化の問題点を回避するために、検出対象が限られていた。このため、例えば、大気中のキセノンガスやクリプトンガスやラドンガスを検出することができれば、原子炉の形式(高速増殖炉であるか軽水炉であるか等)を問わずに、原子炉から離れた箇所において原子炉の核燃料破損を検出することが可能となるが、前記従来の検出方法では、大気中のキセノンガスやクリプトンガスやラドンガスを検出することはできなかった。
【0008】
また、大気等の試料ガスを大気圧イオン化質量分析装置に導入し、大気圧イオン化質量分析装置で試料ガスの質量分析を行うことによって、大気等の試料ガス中のキセノンガスやクリプトンガスやラドンガスを測定しようとしても、キセノンガスやクリプトンガスやラドンガスの信号が大気等に含まれる酸素や窒素や水分やその他の物質の信号中に埋もれてしまい、大気等の試料ガス中のキセノンガスやクリプトンガスやラドンガスを測定することはできない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、試料ガス中の測定対象ガス(キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガス)を、バックグランド放射能の影響を受けずに高感度で測定することができ、しかも、試料ガスの制約が少ない測定方法及び測定装置、前記測定方法を用いた核燃料破損の検出方法、並びに、前記測定装置を使用する使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するための手段として、以下の各態様を提示する。第1の態様による測定方法は、試料ガス中の、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスである測定対象ガスを測定する測定方法であって、前記試料ガスとアルゴンガス及び/又はヘリウムガスとを混合して混合ガスとし、前記混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させ、前記成分が選択的に低減された前記混合ガスを大気圧イオン化質量分析装置に導入し、前記大気圧イオン化質量分析装置によって当該導入されたガスの質量分析を行うものである。
【0011】
前記アルゴンガス及び/又はヘリウムガスは、アルゴンガス及びヘリウムガスのうちのいずれか一方又は両方を意味する。この点は、以下の記載についても同様である。
【0012】
前記混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させるためには、例えば、ゲッター材を用いることができる。このとき、ゲッター材の前段においてモレキュラシーブス材及び/又はシリカゲル材を用いて、これらによって前記混合ガスから水分等を予め除去した後に、その混合ガスからゲッター材によって不活性ガス以外の成分を選択的に低減してもよい。この場合、ゲッター材の劣化等を低減することができるので、好ましい。
【0013】
本発明では、大気圧イオン化質量分析装置が用いられているが、大気圧イオン化質量分析装置に試料ガスを直接に導入するのではなく、不活性ガスであるキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスよりもイオン化ポテンシャルの高い不活性ガスであるアルゴンガス及び/又はヘリウムガスと試料ガスとを混合して混合ガスとし、この混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させ、前記成分が選択的に低減された前記混合ガスを大気圧イオン化質量分析装置に導入する。したがって、本発明によれば、大気圧イオン化質量分析装置を用いながらも、測定対象ガス(キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガス)の信号が大気等に含まれる酸素や窒素や水分やその他の物質の信号中に埋もれてしまうようなことがなくなるため、試料ガス中の測定対象ガスを高感度で測定することができる。
【0014】
そして、大気圧イオン化質量分析装置は、放射能に無関係に質量分析を行うことが可能であることから、本発明によれば、測定対象ガスをバックグランド放射能の影響を受けずに高感度で測定することができる。
【0015】
さらに、大気圧イオン化質量分析装置では、分子化合物の原子化の問題点が生じないので、本発明によれば、前記従来の検出方法のように多光子増感イオン化法を用いる場合に比べて、試料ガスの制約が少なくてすみ、大気その他の種々の試料ガス中の測定対象ガスを測定することができる。
【0016】
第2の態様による測定方法は、前記第1の態様において、前記試料ガスは、大気、原子炉建屋内の雰囲気、原子炉の排気流路内又は排気口付近の排気ガス、原子炉格納容器内における原子炉圧力容器外の空間内のガス、あるいは、原子炉圧力容器内のガスであるものである。
【0017】
この第2の態様は、前記第1の態様における試料ガスの例を挙げたものであるが、前記第1の態様では、試料ガスはこれらの例に限定されるものではない。
【0018】
第3の態様による測定方法は、前記第1又は第2の態様において、前記試料ガスが、サンプリング容器を用いることなく直接的にサンプリングされるガスであるか、サンプリングボンベ又はサンプリングバッグ等のサンプリング容器内に収容されたガスであるか、あるいは、核燃料又はその他の所定物体が内部に収容された容器にキャリアガスを通流させたときに前記容器の下流側で得られるガスであるものである。
【0019】
この第3の態様は、供給元の観点から前記第1及び第2の態様における試料ガスを例示したものであるが、前記第1及び第2の態様では、試料ガスはこれらの例に限定されるものではない。
【0020】
第4の態様による核燃料破損の検出方法は、前記第1乃至第3のいずれかの態様による測定方法を用いて、前記試料ガス中に所定濃度以上の前記測定対象ガスを検出することによって、核燃料破損を検出するものである。
【0021】
この第4の態様は、核燃料破損に伴ってキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスが発生することから、前記第1乃至第3のいずれかの態様による測定方法を利用して核燃料破損を検出するものである。もっとも、前記第1乃至第3のいずれかの態様による測定方法は、核燃料破損検出以外の用途に用いてもよい。
【0022】
第5の態様による測定装置は、試料ガス中の、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスである測定対象ガスを測定する測定装置であって、前記試料ガスとアルゴンガス及び/又はヘリウムガスとを混合して混合ガスを得る混合手段と、前記混合手段により得られた前記混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させる低減手段と、前記低減手段により前記成分が選択的に低減された前記混合ガスが導入され、当該導入されたガスの質量分析を行う大気圧イオン化質量分析装置と、を備えたものである。
【0023】
この第5の態様による測定装置は、前記第1の態様による測定方法を実現するものである。
【0024】
前記低減手段は、例えば、ゲッター材で構成してもよい。また、前記低減手段は、例えば、ゲッター材とその前段に設けたモレキュラシーブス材及び/又はシリカゲル材とで構成し、モレキュラシーブス材及び/又はシリカゲル材によって前記混合ガスから水分等を予め除去した後に、その混合ガスからゲッター材によって不活性ガス以外の成分を選択的に低減してもよい。この場合、ゲッター材の劣化等を低減することができるので、好ましい。
【0025】
第6の態様による測定装置の使用方法は、前記第5の態様による測定装置を使用する使用方法であって、前記混合手段に前記試料ガスと前記アルゴンガス及び/又はヘリウムガスとの混合を間欠的に行わせ、前記大気圧イオン化質量分析装置に前記混合に同期して前記混合ガスの質量分析を行わせ、前記混合ガスが前記低減手段に供給されていない間は、前記混合ガスの代わりに前記アルゴンガス及び/又はヘリウムガスを前記低減手段に供給するものである。
【0026】
この第6の態様によれば、時間間隔をあけて間欠的に測定が行われ、前記混合ガスが前記低減手段に供給されていない間は、前記混合ガスの代わりに前記アルゴンガス及び/又はヘリウムガスが前記低減手段に供給されるので、測定を行わない時間中にも前記混合ガスを前記低減手段に供給し続ける場合に比べて、低減手段の劣化を低減することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、試料ガス中の測定対象ガス(キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガス)を、バックグランド放射能の影響を受けずに高感度で測定することができ、しかも、試料ガスの制約が少ない測定方法及び測定装置、前記測定方法を用いた核燃料破損の検出方法、並びに、前記測定装置を使用する使用方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施の形態による測定装置を模式的に示す概略構成図である。
【図2】図1に示す測定装置の測定原理を模式的に示す図である。
【図3】大気圧イオン化質量分析装置の測定結果の例を示す図である。
【図4】比較例による測定装置を示す概略構成図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態による測定装置を模式的に示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明による測定方法、測定装置、核燃料破損の検出方法、及び、測定装置の使用方法について、図面を参照して説明する。
【0030】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明の第1の実施の形態による測定装置1を模式的に示す概略構成図である。
【0031】
本実施の形態による測定装置1は、公知の大気圧イオン化質量分析装置2を備えている。本実施の形態では、大気圧イオン化質量分析装置2は、ほぼ大気圧にされたイオン化部3と、差動排気部4と、質量分析部5とを有している。イオン化部3には、ガス流入口6、ガス流出口7、及び、ガス流入口6から導入されたガスをイオン化するための放電針8が設けられている。ガス流入口6から導入されたガスは、ガス流出口7に接続された排気管9を経て排気される。イオン化部3と差動排気部4との間は細孔10を介して仕切られ、差動排気部4と質量分析部5との間は細孔11を介して仕切られている。差動排気部4には、静電レンズ12が設けられている。差動排気部4内の圧力は真空ポンプ13により比較的低い所定圧力に維持され、質量分析部5内の圧力は真空ポンプ14により高真空度に維持されるようになっている。質量分析部5には質量分離部15及び検出部16が設けられ、イオン化部3でイオン化されたイオンが差動排気部4を通って、高真空の質量分析部5で質量分析できるようになっている。なお、本発明で用いることができる大気圧イオン化質量分析装置の構成は、図示の例に限定されるものではない。
【0032】
本実施の形態による測定装置1は、大気圧イオン化質量分析装置2の他、サンプリング管21と、微粒子を除去するフィルタ22,23と、吸引加圧ポンプ24と、圧力調整器25と、開閉弁26〜28と、高圧ボンベ29,30と、流量調整器31,32と、ガス純化器33とを備えている。
【0033】
サンプリング管21の先端が、試料ガスとしての大気を捕集するサンプリング口21aとなっている。サンプリング口21aには、必要に応じて、ノズル等が設けられる。サンプリング管21の基端側は、フィルタ22を介して、吸引加圧ポンプ24の吸引口に接続されている。吸引加圧ポンプ24の吐出口は、圧力調整器25の導入口に接続されるとともに、開閉弁26を介して流量調整器31の導入口に接続されている。圧力調整器25の排出口は大気に解放されている。
【0034】
図1に示す例では、サンプリング口21aが原子力発電所100の周辺に配置されて、原子力発電所100の周辺の大気がサンプリングされて試料ガスとして用いられる。
【0035】
高圧ボンベ29内には、大気圧イオン化質量分析装置2の濃度較正を行うための標準ガス(例えば、ベースとなるアルゴンガスに100ppbのキセノンガス、100ppbのクリプトンガス及び100ppbのラドンガスを混入した標準ガス)が収容され、高圧ボンベ29の排出口は、開閉弁27を介して、流量調整器31の導入口に接続されている。高圧ボンベ29は、その排出口に減圧弁29aを有している。
【0036】
高圧ボンベ30内には、純度の高いアルゴンガスが収容され、高圧ボンベ30の排出口は、開閉弁28を介して、流量調整器32の導入口に接続されている。高圧ボンベ30は、その排出口に減圧弁30aを有している。
【0037】
流量調整器31の排出口及び流量調整器32の排出口は、一部が両者について共通する配管34を介して、ガス純化器33の導入口に接続されている。したがって、流量調整器31から排出されるガスと流量調整器32から排出されるガスとが配管34で混合された後に、ガス純化器33に導入される。このように、本実施の形態では、配管34が、流量調整器31から排出されるガスと流量調整器32から排出されるガスとを混合する混合手段を構成している。
【0038】
本実施の形態では、ガス純化器33は、公知のゲッター材で構成され、導入されたガス中の不活性ガス以外の成分を選択的に低減させる低減手段を構成している。このような低減手段は、ゲッター材とその前段に設けたモレキュラシーブス材及び/又はシリカゲル材とで構成し、モレキュラシーブス材及び/又はシリカゲル材によって水分等を予め除去した後に、ゲッター材によって不活性ガス以外の成分を選択的に低減してもよい。この場合、ゲッター材の劣化等を低減することができる。
【0039】
ガス純化器33の排出口は、フィルタ23を介して、大気圧イオン化質量分析装置2のイオン化部3のガス流入口6に接続されている。
【0040】
本実施の形態では、大気圧イオン化質量分析装置2の濃度較正を行う場合には、開閉弁26を閉じ、開閉弁27,28を開き、流量調整器31,32により、高圧ボンベ29内の標準ガスを高圧ボンベ30内のアルゴンガスで希釈して任意の濃度を作って濃度較正を行うことができる。
【0041】
本実施の形態では、測定を行う場合には、開閉弁27が閉じられる一方で、開閉弁26,28が開かれ、吸引加圧ポンプ24が作動される。これにより、原子力発電所100の周辺の大気が、吸引加圧ポンプ24の吸引によって、試料ガスとしてサンプリング口21aからサンプリングされる。この試料ガスは、フィルタ22で微粒子が除去された後に吸引加圧ポンプ24を経て、圧力調整器25でその圧力が調整されるとともに流量調整器31でその流量が調整され、配管34に供給される。一方、高圧ボンベ30内のアルゴンガスが、減圧弁30aで減圧され更に流量調整器32でその流量が調整されて、配管34に供給される。これにより、流量調整器31から排出された試料ガスと流量調整器32から排出されたアルゴンガスとが混合される。この混合ガスは、配管34を介してガス純化器33の導入口に供給され、ガス純化器33によって不活性ガス以外の成分が選択的に低減され、更にフィルタ23で微粒子(ガス純化器33等から発生する可能性のある微粒子)が除去された後に、大気圧イオン化質量分析装置2のイオン化部3のガス流入口6へ供給される。そして、大気圧イオン化質量分析装置2によって、ガス流入口6から大気圧イオン化質量分析装置2に導入されたガスの質量分析が行われる。
【0042】
図2は、本実施の形態による測定装置1の測定原理を模式的に示す図である。今、原子力発電所100の核燃料が破損しているものとすると、図2に示すように、原子力発電所100の周辺の大気である試料ガスは、空気(Air)中に所定濃度以上のキセノンガス(Xe)、クリプトンガス(Kr)及びラドンガス(Rn)を含んだものとなる。この試料ガスと高圧ボンベ30内のアルゴンガス(Ar)とが配管34で混合された後に、その混合ガスは、ガス純化器33によって不活性ガス以外の成分が選択的に低減される。このとき、ガス純化器33によって、不活性ガスであるキセノンガス、クリプトンガス、ラドンガス及びアルゴンガスはほとんど除去されずに、空気(Air)はほとんど除去される。したがって、前記成分が選択的に低減された混合ガス(ガス純化器33から排出されて大気圧イオン化質量分析装置2のガス流入口6からイオン化部3に導入されるガス)は、図2に示すように、試料ガスにおいてキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスをほとんどそのまま残す一方で空気をアルゴンガスで置換したようなガスとなる。
【0043】
イオン化部3への導入ガスは、放電針8によるコロナ放電によって、その一部が一次イオン化される。一次イオン化により生成されたイオン(Ar,Xe,Kr,Rn)の組成比は、前記導入ガス(Ar,Xe,Kr,Rn)の組成比とほぼ同じである。ArはXe,Kr,Rnよりもイオン化ポテンシャルが高いので、一次イオン化後に、Arの電荷がXe,Kr,Rnに移動する2次イオン化が生じ、Ar,Xe,Kr,Rnの量が増大する。これらのイオンが差動排気部4を経由して質量分析部5に導入され、質量分析部5によってこれらのイオンのイオン強度が検出される。
【0044】
図3は、大気圧イオン化質量分析装置2の測定結果の例を示す図である。ただし、図3に示す測定結果は、ベースとなるアルゴンガスに100ppbのキセノンガスを混入した標準ガスを、大気圧イオン化質量分析装置2のイオン化部3のガス流入口6に供給した場合に得られた測定結果である。この図3から、大気圧イオン化質量分析装置2によって、アルゴンガス中の微量のキセノンガスを高感度で測定し得ることがわかる。同様に、アルゴンガス中の微量のクリプトンガスや微量のラドンガスについても、大気圧イオン化質量分析装置2によって高感度で測定し得る。
【0045】
本実施の形態は、大気圧イオン化質量分析装置2が用いられているが、大気圧イオン化質量分析装置2に試料ガスを直接に導入するのではなく、不活性ガスであるキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスよりもイオン化ポテンシャルの高い不活性ガスであるアルゴンガスと試料ガスとを混合して混合ガスとし、ガス純化器33によってこの混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させ、前記成分が選択的に低減された前記混合ガスを大気圧イオン化質量分析装置2に導入する。したがって、本実施の形態によれば、大気圧イオン化質量分析装置2を用いながらも、測定対象ガス(本実施の形態では、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスであるが、そのうちのいずれか1つ又は2つのガスでもよい。)の信号が大気に含まれる酸素や窒素や水分やその他の物質の信号中に埋もれてしまうようなことがなくなるため、試料ガス中の測定対象ガスを高感度で測定することができる。
【0046】
図4は、本実施の形態による測定装置1と比較される比較例による測定装置201を示す模式的に示す概略構成図である。図4において、図1中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0047】
この比較例による測定装置201が本実施の形態による測定装置1と異なる所は、この比較例では、開閉弁27及び高圧ボンベ29が取り除かれるとともに、開閉弁28、高圧ボンベ30及び流量調整器32が取り除かれ、流量調整器31の排出口がフィルタ23を介して大気圧イオン化質量分析装置2のイオン化部3のガス流入口6に接続されている点のみである。
【0048】
この比較例では、試料ガスである原子力発電所100の周辺の大気が大気圧イオン化質量分析装置2のイオン化部3に直接に導入されているので、大気圧イオン化質量分析装置2による測定結果において、キセノンガスやクリプトンガスやラドンガスの信号(イオン強度)が大気等に含まれる酸素や窒素や水分やその他の物質の信号(イオン強度)中に埋もれてしまい、当該試料ガス中のキセノンガスやクリプトンガスやラドンガスを測定することはできない。
【0049】
これに対し、本実施の形態では、前述したように、試料ガスをアルゴンガスと混合し、その混合ガスからガス純化器33で不活性ガス以外の成分を除去した後のガスを大気圧イオン化質量分析装置2に導入するので、試料ガス中の測定対象ガス(本実施の形態では、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガス)を高感度で測定することができるのである。
【0050】
そして、大気圧イオン化質量分析装置2は、放射能に無関係に質量分析を行うことが可能であることから、本実施の形態によれば、測定対象ガスをバックグランド放射能の影響を受けずに高感度で測定することができる。
【0051】
さらに、大気圧イオン化質量分析装置では、分子化合物の原子化の問題点が生じないので、本実施の形態によれば、前記従来の検出方法のように多光子増感イオン化法を用いる場合に比べて、試料ガスの制約が少なくてすみ、大気その他の種々の試料ガス中の測定対象ガスを測定することができる。
【0052】
また、本実施の形態では、原子力発電所100の周辺の大気を試料ガスとしており、原子力発電所100の核燃料が破損すると、その試料ガスは所定濃度以上のキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスを含んだものとなる。したがって、大気圧イオン化質量分析装置2の測定結果に基づいて、前記試料ガス中に所定濃度以上のキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガス(それらのガスのうちの少なくとも1つのガスでもよい。)を検出することによって、原子力発電所100の核燃料破損を検出することができる。本実施の形態では、検出感度が高いので、試料ガスを、原子力発電所100からかなり離れた箇所の大気とする場合であっても、原子力発電所100の核燃料破損を検出することができる。
【0053】
本発明では、試料ガスは、原子力発電所100の周辺又はそこから離れた箇所の大気のみならず、原子炉建屋内の雰囲気、原子炉の排気流路内又は排気口付近の排気ガス、原子炉格納容器内における原子炉圧力容器外の空間内のガス、あるいは、原子炉圧力容器内のガスであってもよい。また、本発明では、試料ガスは、核燃料破損に関連するガスに限定されるものではなく、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスを含み得る任意のガスであればよい。
【0054】
本実施の形態では、前述したように、試料ガスは、サンプリング容器を用いることなく直接的にサンプリングされるガスである。もっとも、本発明では、試料ガスは、これに限らず、サンプリングボンベ又はサンプリングバッグ等のサンプリング容器内に収容されたガス、あるいは、核燃料又はその他の所定物体が内部に収容された容器にキャリアガスを通流させたときに前記容器の下流側で得られるガスもよい。後者の例として、第2の実施の形態による測定装置51について、後に説明する。
【0055】
本実施の形態では、前述したように、試料ガスと混合するガスとして、アルゴンガスが用いられている。本発明では、これに限らず、試料ガスと混合するガスとして、ヘリウムガス、あるいは、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスを用いることができる。この場合、高圧ボンベ30内に、ヘリウムガス、あるいは、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスを収容しておけばよい。
【0056】
本実施の形態による測定装置1によって、試料ガス中の測定対象ガス(本実施の形態では、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガス)を間欠的に行う場合(例えば、長時間に渡って、1時間毎に1回ずつ測定する場合)には、試料ガス及びアルゴンガスを両方とも配管34に供給し続けてもよいが、常時アルゴンガスを配管に供給し続ける一方、開閉弁26を開閉することで1時間毎に1回ずつなどの測定期間中だけ試料ガスを配管34に供給し他の期間中は試料ガスを配管に供給しなくてもよい。後者の場合、試料ガスとアルゴンガスとを混合を間欠的に行わせ、大気圧イオン化質量分析装置2に前記混合に同期して質量分析を行わせ、試料ガスとアルゴンガスとの混合ガスがガス純化器33に供給されていない間は、前記混合ガスの代わりに、アルゴンガスをガス純化器33に供給することになる。この場合、測定を行わない時間中にも前記混合ガスをガス純化器33に供給し続ける場合に比べて、ガス純化器33の劣化を低減することができるので、好ましい。
【0057】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明の第2の実施の形態による測定装置51を模式的に示す概略構成図である。図5において、図1中の要素と同一又は対応する要素には同一符号を付し、その重複する説明は省略する。
【0058】
本実施の形態による測定装置51は、サンプリング管21及びフィルタ22に代えて、核燃料としての冷却状態等の燃料集合体(燃料棒単体等でもよい。)61を出し入れ可能に収容する容器62と、容器62に通流させるキャリアガスを収容した高圧ボンベ63と、を備えている。高圧ボンベ63の排出口は、容器62の導入口62aに接続されている。高圧ボンベ63は、その排出口に減圧弁63aを有している。容器62の排出口62bは、吸引加圧ポンプ24の吸引口に接続されている。高圧ボンベ63から供給されたキャリアガスは、燃料集合体61を収容した容器62内を通流した後に、試料ガスとして、吸引加圧ポンプ24、開閉弁26及び流量調整器31を経て、配管34に供給される。なお、吸引加圧ポンプ24及び圧力調整器25を取り除いて、容器62の排出口62bを開閉弁26に接続してもよい。
【0059】
高圧ボンベ63に収容されたキャリアガスとしては、測定対象ガス(本実施の形態では、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガス)以外のガスであればよく、例えば、アルゴンガス、ヘリウムガス、あるいは、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスなどを挙げることができる。また、キャリアガスとして空気を用いてもよく、この場合は、高圧ボンベ63を取り除いて容器62の導入口62aを大気に解放してもよい。
【0060】
本実施の形態では、燃料集合体61の少なくとも一部が破損していれば、燃料集合体61からキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスが発生するため、試料ガス中に所定濃度以上のキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスが含まれる一方で、燃料集合体61が破損していなければ、試料ガス中に所定濃度以上のキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスが含まれない。したがって、本実施の形態によれば、大気圧イオン化質量分析装置2の測定結果に基づいて、前記試料ガス中に所定濃度以上のキセノンガス、クリプトンガス及びラドンガス(それらのガスのうちの少なくとも1つのガスでもよい。)を検出することによって、容器62内の燃料集合体61の破損を検出することができ、これにより、燃料集合体61の良否(破損しているか否か)の検査を行うことができる。
【0061】
燃料集合体61に代えて任意の物体を容器62内に収容すれば、測定対象物(キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つ)が当該物体に付着しているか否かや当該物体から漏れ出ているか否かなどの検査を行うことができる。
【0062】
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0063】
1,51 測定装置
2 大気圧イオン化質量分析装置
33 ガス純化器(低減手段)
34 配管(混合手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料ガス中の、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスである測定対象ガスを測定する測定方法であって、
前記試料ガスとアルゴンガス及び/又はヘリウムガスとを混合して混合ガスとし、
前記混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させ、
前記成分が選択的に低減された前記混合ガスを大気圧イオン化質量分析装置に導入し、前記大気圧イオン化質量分析装置によって当該導入されたガスの質量分析を行うことを特徴とする測定方法。
【請求項2】
前記試料ガスは、大気、原子炉建屋内の雰囲気、原子炉の排気流路内又は排気口付近の排気ガス、原子炉格納容器内における原子炉圧力容器外の空間内のガス、あるいは、原子炉圧力容器内のガスであることを特徴とする請求項1記載の測定方法。
【請求項3】
前記試料ガスが、サンプリング容器を用いることなく直接的にサンプリングされるガスであるか、サンプリングボンベ又はサンプリングバッグ等のサンプリング容器内に収容されたガスであるか、あるいは、核燃料又はその他の所定物体が内部に収容された容器にキャリアガスを通流させたときに前記容器の下流側で得られるガスであることを特徴とする請求項1又は2記載の測定方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の測定方法を用いて、前記試料ガス中に所定濃度以上の前記測定対象ガスを検出することによって、核燃料破損を検出することを特徴とする核燃料破損の検出方法。
【請求項5】
試料ガス中の、キセノンガス、クリプトンガス及びラドンガスのうちの少なくとも1つのガスである測定対象ガスを測定する測定装置であって、
前記試料ガスとアルゴンガス及び/又はヘリウムガスとを混合して混合ガスを得る混合手段と、
前記混合手段により得られた前記混合ガスから不活性ガス以外の成分を選択的に低減させる低減手段と、
前記低減手段により前記成分が選択的に低減された前記混合ガスが導入され、当該導入されたガスの質量分析を行う大気圧イオン化質量分析装置と、
を備えたことを特徴とする測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の測定装置を使用する使用方法であって、
前記混合手段に、前記試料ガスと前記アルゴンガス及び/又はヘリウムガスとの混合を間欠的に行わせ、
前記大気圧イオン化質量分析装置に、前記混合に同期して前記混合ガスの質量分析を行わせ、
前記混合ガスが前記低減手段に供給されていない間は、前記混合ガスの代わりに前記アルゴンガス及び/又はヘリウムガスを前記低減手段に供給することを特徴とする測定装置の使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−19672(P2013−19672A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150623(P2011−150623)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(595115754)株式会社日本エイピーアイ (6)
【Fターム(参考)】