説明

測定物質定量方法及びそれを用いるガスクロマトグラフ質量分析装置

【課題】測定試料中の測定物質の濃度を正確に算出することができる測定物質定量方法及びガスクロマトグラフ質量分析装置の提供。
【解決手段】データベース記憶ステップS101と、内部標準物質の設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する内部標準物質算出ステップS104と、選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する測定物質算出ステップS107と、設定質量電荷比のイオンの強度と、選択質量電荷比のイオンの強度との強度比をイオン比補正係数として算出するイオン比補正係数算出ステップS108と、ピーク面積比又は高さ比にイオン比補正係数を乗じることにより、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を算出するイオン比補正比算出ステップS109と、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を相対検量線に当てはめることにより、測定物質の濃度を算出する測定物質濃度算出ステップS110とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定物質定量方法及びそれを用いるガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)は、ガスクロマトグラフ装置(GC)と質量分析装置(MS)とからなる。分析対象試料(以下、「実試料」ともいう)中の特定の測定物質の定量を行うには、まず、GCによって、実試料に含有される各測定物質が時間軸で分離される。次に、時間軸で分離された各測定物質を、MSによって測定することにより測定物質が質量電荷比(以下、「質量m/電荷z」という)毎の各イオンに開裂されて検出される。この測定を短い時間間隔で繰り返すことにより、横軸をm/zとし、縦軸をイオンの強度とするマススペクトルが作成される。また、複数のマススペクトルを得て、複数のマススペクトル毎に或るm/zのピークに着目して、その着目したm/zのイオン強度を時間軸方向に並べることにより、或るm/zのイオンのマスクロマトグラムが作成される。さらに、複数のマススペクトルについてそれぞれ1つのマススペクトルに現れている全てのm/zのイオン強度を積算し、これを時間軸方向に並べることにより、トータルイオンクロマトグラムが作成される。
【0003】
そして、検量線を利用することにより、このようなマスクロマトグラムやトータルイオンクロマトグラムに現れるピークの面積や高さに基づいて、実試料中の特定の測定物質の定量を行っている。このとき、特定の測定物質の定量を行う前に、GC/MSで予め検量線を作成する必要があり、特定の測定物質を既知の重量濃度で含有する試料(以下、「標準試料」ともいう)をGC/MSに一定の測定条件下で導入して測定し、さらに特定の測定物質を先程と異なる既知の重量濃度で含有する標準試料をGC/MSに一定の測定条件下で導入して測定した結果、得られたピーク面積又は高さと測定物質の重量濃度との関係に基づいて検量線を作成している。つまり、このような検量線を利用するためには、それぞれGC/MSの装置毎に、一定の測定条件下で特定の測定物質を様々な重量濃度で含有する複数の標準物質を測定し、検量線を作成する必要があった。よって、使用するGC/MSで、予め検量線を作成する手間がかかっていた。
【0004】
そこで、使用するGC/MSに依存することなく、実試料中の特定の測定物質を定量することができるGC/MSにおける汎用多成分一斉同定・定量方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このような汎用多成分一斉同定・定量方法では、特定の測定物質から開裂により発生した或る特定の質量電荷比(m/z)(以下、「設定質量電荷比」ともいう)のイオンと内部標準物質から開裂により発生した或る特定の質量電荷比のイオンとのピーク面積比と、特定の測定物質と内部標準物質との重量濃度比との関係を示す検量線(図2参照)(m/z)(以下、「相対検量線」ともいう)が登録されたデータベースを記憶部に記憶させるデータベース記憶ステップと、特定の測定物質を未知の重量濃度で含有する実試料に、内部標準物質が既知の重量濃度で添加された測定試料を測定することにより、内部標準物質のマススペクトルと特定の測定物質のマススペクトルとを得る試料測定ステップと、内部標準物質から開裂により発生する質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、内部標準物質から開裂により発生する設定質量電荷比のイオンのピーク面積を算出する内部標準物質算出ステップと、設定質量電荷比(m/z)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、特定の測定物質から発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンのピーク面積を算出する測定物質算出ステップと、内部標準物質から開裂により発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積と、特定の測定物質から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンのピーク面積とのピーク面積比を算出するピーク面積比算出ステップと、ピーク面積比を相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の特定の測定物質の重量濃度(存在量)を算出する測定物質濃度算出ステップとを含む。
【0005】
このような汎用多成分一斉同定・定量方法によれば、相対検量線を用いて測定試料中の特定の測定物質の重量濃度を算出することができるため、どこか(他の装置等)で作成された相対検量線を得ることができれば、使用するGC/MS毎に一定の測定条件下で特定の測定物質を様々な重量濃度で含有する複数の標準試料を測定し、検量線を作成する必要がなくなる。つまり、様々な種類の測定物質についての相対検量線が登録されたデータベースを、使用するGC/MSに記憶させれば、使用するGC/MSでは検量線を全く作成する必要がなく、使用するGC/MSで様々な種類の測定物質の重量濃度を算出することができる。
【特許文献1】特開2003−139755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した汎用多成分一斉同定・定量方法によれば、特定の測定物質から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンと内部標準物質から開裂により発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比と、特定の測定物質と内部標準物質との重量濃度比との関係を示す相対検量線を記憶させているので、測定試料の測定を行った後、特定の測定物質から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンのマスクロマトグラムを作成してピーク面積を算出する必要があるが、設定質量電荷比(m/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合、ピーク面積を正確に算出することができないことがあった。特に、農作物から抽出された実試料中の農薬分析では夾雑成分等を多く含有しているため、特定の測定物質(例えば、Simazine等)から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けることがあった。
【0007】
また、特定の測定物質から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合、設定質量電荷比(m/z)と異なる質量電荷比(m’/z)のイオンを利用することも考えられるが、異なる質量電荷比(m’/z)のイオンを利用するためには、特定の測定物質から開裂により発生した異なる質量電荷比(m’/z)のイオンと内部標準物質から開裂により発生した質量電荷比のイオンとのピーク面積比と、特定の測定物質と内部標準物質との重量濃度比との関係を示す相対検量線も記憶させておく必要がある。しかし、特定の測定物質から発生するm/z毎(m/z、m’/z、m’’/z、・・・)の各イオンについての複数の相対検量線を、使用するGC/MSに予め記憶させることは、様々な種類の測定物質の重量濃度を算出するためのデータベースのデータ容量を膨大に要することになり、実用的でなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本件発明者らは、設定質量電荷比(m/z)のイオンと、設定質量電荷比(m/z)と異なる他の質量電荷比(m’/z)のイオンとの関係について検討を行った。そこで、或るGC/MSで得られた測定物質のマススペクトルにおける設定質量電荷比(m/z)のイオンと他の質量電荷比(m’/z)のイオンとの強度比は、他のGC/MSで得られた測定物質のマススペクトルにおける設定質量電荷比(m/z)のイオンと他の質量電荷比(m’/z)のイオンとの強度比と同じであることを見出している。すなわち、同一の測定物質のマススペクトルは、使用するGC/MSに依存することなく、同様のイオンの強度比のパターンを示す。
そこで、本件発明者らは、測定物質から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンと内部標準物質から開裂により発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線のみを、使用するGC/MSに記憶させても、測定物質のマススペクトルにおける設定質量電荷比(m/z)のイオンと他の質量電荷比(m’/z)のイオンとの関係を利用することで、実試料を測定した結果、測定物質から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合でも、実試料中の測定物質の濃度を正確に算出することができる測定物質定量方法及びガスクロマトグラフ質量分析装置を提供する。
【0009】

すなわち、本発明の測定物質定量方法は、ガスクロマトグラフ質量分析装置で測定物質を定量する測定物質定量方法であって、測定物質から発生した設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線が登録されたデータベースを記憶部に記憶させるデータベース記憶ステップと、測定物質を未知の濃度で含有する実試料に、内部標準物質が既知の濃度で添加された測定試料を測定することにより、測定物質のマススペクトル及び内部標準物質のマススペクトルを得る試料測定ステップと、測定物質から発生した設定質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する内部標準物質算出ステップと、設定質量電荷比と異なる選択質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する測定物質算出ステップと、測定物質のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比のイオンの強度と、選択質量電荷比のイオンの強度との強度比をイオン比補正係数として算出するイオン比補正係数算出ステップと、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さと、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さとのピーク面積比又は高さ比に、イオン比補正係数を乗じることにより、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を算出するイオン比補正比算出ステップと、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を、ピーク面積比又は高さ比として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質の濃度を算出する測定物質濃度算出ステップとを含むようにしている。
【0010】
ここで、「相対検量線」とは、マスクロマトグラムにおける測定物質から発生した設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係により、あらゆるGC/MSに使用することができる検量線のことをいう(図2参照)。
また、「内部標準物質」としては、GC/MSに対する応答が測定物質と類似し、かつ、測定物質と分離測定可能なものであり、安定同位体化合物及び化学的物理的性質が類似した化合物から選択される。具体的には、Anthracene-d10(アントラセン)、Chrysene-d12(クリセン)等の多環芳香族の水素原子を重水素原子に置換した重水素体(D体)等が挙げられる。
また、「選択質量電荷比」とは、設定質量電荷比(m/z)とは異なる数値のことをいい、具体的には、測定物質のマススペクトルにおいては様々な質量電荷比(m/z)のイオンのピークが現れているが、設定質量電荷比(m/z)のイオンのピーク以外から選択される任意の一つのイオンのピークにおける質量電荷比(m’/z)のことをいう。
また、「物質から発生する質量電荷比のイオン」には、例えば、物質から開裂により発生する質量電荷比のイオンや、物質からプロトン付加により発生する質量電荷比のイオン等が含まれる。
【0011】
本発明の測定物質定量方法によれば、まず、測定物質から発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンと内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線を、使用するGC/MSに記憶させる(図2参照)。
次に、実試料に内部標準物質を添加して、測定試料を調製する。この測定試料を測定することにより、測定物質のマススペクトル(図3参照)と内部標準物質のマススペクトルとを得る。
次に、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、ピーク面積又は高さを算出する。次に、従来の汎用多成分一斉同定・定量方法では、測定物質から発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンのピーク面積又は高さを算出していたが、上述したように測定物質から発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合に、設定質量電荷比(m/z)のイオンのピーク面積又は高さを正確に算出することができないことがある。
【0012】
そこで、本発明の測定物質定量方法では、測定物質から発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合に、測定物質のマススペクトルにおける設定質量電荷比(m/z)のイオンと選択質量電荷比(m’/z)のイオンとの関係を利用することで、測定物質の濃度を算出する。
具体的には、まず、選択質量電荷比(m’/z)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質から発生した選択質量電荷比(m’/z)のイオンのピーク面積又は高さを算出する(図4参照)。つまり、夾雑成分等の影響を受けた設定質量電荷比(m/z)のイオンと異なり、夾雑成分等の影響を受けていない選択質量電荷比(m’/z)のイオンに着目する。
次に、測定物質のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比(m/z)のイオンの強度と、選択質量電荷比(m’/z)のイオンの強度との強度比をイオン比補正係数として算出する。
次に、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さと、測定物質から発生した選択質量電荷比(m’/z)のイオンのピーク面積又は高さとのピーク面積比又は高さ比に、イオン比補正係数を乗じることにより、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を算出する。
最後に、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を、ピーク面積比又は高さ比として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質の濃度を算出する。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の測定物質定量方法によれば、測定物質から発生した設定質量電荷比(m/z)のイオンと内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線のみを、使用するGC/MSに記憶させても、測定物質のマススペクトルにおける設定質量電荷比(m/z)のイオンと選択質量電荷比(m’/z)のイオンとの関係を利用することにより、設定質量電荷比(m’/z)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合に、測定試料中の測定物質の濃度を正確に算出することができる。したがって、データベースのデータ容量を膨大に要する必要もなく、実用的である。
【0014】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
また、本発明のガスクロマトグラフ質量分析装置は、測定物質を定量するガスクロマトグラフ質量分析装置であって、測定物質から発生した設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線が登録されたデータベースを記憶するデータベース記憶部と、測定物質を未知の濃度で含有する実試料に、内部標準物質が既知の濃度で添加された測定試料を測定することにより、測定物質のマススペクトル及び内部標準物質のマススペクトルを得る試料測定部と、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のマスクロマトグラムを作成して、イオンのピーク面積又は高さを算出する内部標準物質算出部と、測定物質から発生した設定質量電荷比と異なる選択質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する測定物質算出部と、測定物質のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比のイオンの強度と、選択質量電荷比のイオンの強度との強度比をイオン比補正係数として算出するイオン比補正係数算出部と、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さと、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さとのピーク面積比又は高さ比に、イオン比補正係数を乗じることにより、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を算出するイオン比補正比算出部と、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を、ピーク面積比又は高さ比として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質の濃度を算出する測定物質濃度算出部とを備えるようにしている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0016】
図1は、本発明に係る測定物質定量方法が利用されるガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)の構成図の一例である。GC/MS100は、ガスクロマトグラフ装置(GC)1と、質量分析装置(MS)5と、コンピュータ20とからなる。
以下、農薬である実試料中の特定の測定物質(Simazine)の重量濃度を算出する場合について説明する。そして、内部標準物質として、GC/MSに対する応答が特定の測定物質(Simazine)と類似し、かつ、特定の測定物質(Simazine)と分離測定可能なものであり、化学的物理的性質が類似した化合物であるAnthracene-d10を使用することとする。よって、測定試料として、測定物質(Simazine)を未知の重量濃度で含有する農薬に、内部標準物質(Anthracene-d10)が重量濃度Ca=1μg/Lで添加されたものを使用する。
【0017】
GC1は、カラムオーブン4と、カラムオーブン4に内装されるカラム3と、カラム3の入口端に接続されるサンプル注入部2とからなる。測定試料である試料ガスは、キャリアガスに押されてサンプル注入部2からカラム3内に導入されることになる。これにより、試料ガスに含まれる各測定物質(SimazineやAnthracene-d10や夾雑成分等)は、カラム3内を通過する間に時間軸方向に分離されて、カラム3の出口端に到達することになる。なお、カラム3の出口端は、MS5に接続されている。
【0018】
MS5には、真空排気される分析室6内に、カラム3の出口端と接続されるイオン源7と、イオンレンズ8と、電圧が印加される四重極フィルタ9と、検出器10とが配設されている。カラム3から順次流出する各測定物質(Simazineやアントラセンや夾雑成分等)は、イオン源7にて電子との衝突や化学反応等によってイオン化されることになる。その結果、発生したイオンは、イオン源7から飛び出し、イオンレンズ8により収束されるとともに適度に加速され、その後、四重極フィルタ9の長手方向の空間に導入されることになる。
直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加された四重極フィルタ9では、印加電圧に応じた質量電荷比(質量m/電荷z)のイオンのみが選択的に通過するので、選択されたm/zのイオンが検出器10に到達することになる。このとき、四重極フィルタ9を通過するイオンのm/zは印加電圧に依存するので、印加電圧を走査することにより、特定のm/zのイオンにおけるイオン強度信号(イオンの強度)を検出器10で得ることができる。なお、検出器10で得られたイオン強度信号は、コンピュータ20に出力されることになる。
【0019】
コンピュータ20は、CPU(データ処理装置)11を備え、さらに、メモリ12と、入力装置であるキーボード13aやマウス13bと、モニタ画面14a等を有する表示装置14とが連結されている。
CPU11が処理する機能をブロック化して説明すると、試料測定部21と、内部標準物質算出部22と、測定物質算出部23と、イオン比補正係数算出部24と、イオン比補正比算出部25と、測定物質濃度算出部26と、ピーク面積比算出部27とを有する。
また、メモリ12は、様々な相対検量線が登録されたデータベースを記憶するデータベース記憶領域31と、イオン強度信号記憶領域32とを有する。
【0020】
ここで、様々な相対検量線のうちの一つの「相対検量線」は、測定物質(Simazine)から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z=201)のイオンと内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z=188)のイオンとのピーク面積比と、測定物質(Simazine)と内部標準物質(Anthracene-d10)との重量濃度比との関係を示すものである。この「相対検量線」は、図2に示すように、Y=0.00167X−0.02784で表され、Y=Ps/Paであり、X=Cs/Caである。Psは、測定物質(Simazine)から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのマスクロマトグラムのピーク面積であり、Paは、内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生した設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのマスクロマトグラムのピーク面積である。また、Csは、測定物質(Simazine)の重量濃度であり、Caは、内部標準物質(Anthracene-d10)の重量濃度である。
【0021】
試料測定部21は、検出器10で取得したイオン強度信号をイオン強度信号記憶領域32に蓄積させるとともに、イオン強度信号に基づいて、様々な演算処理を実行し、その結果をモニタ画面14aに表示する制御を行う。
例えば、或る保持時間で質量走査を行った際のイオンの強度を縦軸にとるとともに、質量電荷比(m/z)を横軸にとることにより、マススペクトルを作成する。このとき、一定間隔あけて間欠的に連続して繰り返し質量走査を行うことにより、カラム3から順次流出する各測定物質(SimazineやAnthracene-d10や夾雑成分)に対応する多数のマススペクトルを取得する。つまり、測定物質(Simazine)のマススペクトル(図3参照)と内部標準物質(Anthracene-d10)のマススペクトルとを得る。
よって、このような多数のマススペクトルを取得した後、或るm/z(m/z=201やm’/z=186)に着目して時間軸方向にイオンの強度を展開して描出することにより、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのマスクロマトグラムや、選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのマスクロマトグラム(図4参照)等を得ることができるようになっている。
【0022】
内部標準物質算出部22は、多数のマススペクトルに基づいて、内部標準物質から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのピーク面積Paを算出する制御を行う。
例えば、内部標準物質の設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、マスクロマトグラムの曲線の傾斜量を順次調べてゆき、その傾斜量が所定値以上になったときにピークの開始点であると判断し、傾斜量が零から負に転じたときにピークトップであると判断し、傾斜量が所定値以上になったときにピークの終点であると判断することになる。そして、マスクロマトグラムで内部標準物質(Anthracene-d10)のピークを保持時間等から特定し、そのピーク面積(Pa=36658)が算出される。
【0023】
測定物質算出部23は、多数のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質(Simazine)から発生した設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psを算出したり、選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質(Simazine)から発生した選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのピーク面積Ps’を算出したりする制御を行う。
例えば、内部標準物質算出部22と同様に、まず、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、マスクロマトグラムの曲線の傾斜量を順次調べてゆき、その傾斜量が所定値以上になったときにピークの開始点であると判断し、傾斜量が零から負に転じたときにピークトップであると判断し、傾斜量が所定値以上になったときにピークの終点であると判断することになる。そして、マスクロマトグラムで測定物質(Simazine)のピークを保持時間等から特定し、そのピーク面積Psが算出される。
しかしながら、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合に、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psを正確に算出することができないことがある。このようなときには、測定物質算出部23では、設定質量電荷比(m/z=201)と異なる選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、上述したような方法で測定物質(Simazine)から発生した選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのピーク面積(Ps’=5940)が算出される(図4参照)。
【0024】
イオン比補正係数算出部24は、測定物質(Simazine)のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンの強度と、選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンの強度との強度比を、下記式(1)によりイオン比補正係数として算出する制御を行う。
例えば、図2に示すような測定物質(Simazine)のマススペクトルにおいて、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンの強度が74.5であり、選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンの強度が41.4であるので、式(1)によりイオン比補正係数(0.556)を算出する。
イオン比補正係数=選択質量電荷比のイオンの強度/設定質量電荷比のイオンの強度・・・・・(1)
【0025】
イオン比補正比算出部25は、内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのピーク面積Paと、測定物質(Simazine)から開裂により発生する選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのピーク面積Ps’とのピーク面積比Y’に、イオン比補正係数を除す(乗じる)ことにより、イオン比補正ピーク面積比を算出する制御を行う。
例えば、まず、式(2)によりピーク面積比(Y’=0.162)を算出する。次に、ピーク面積比(0.162)にイオン比補正係数(0.556)を除すことにより、イオン比補正ピーク面積比(0.291)を算出する。
ピーク面積比Y’=Ps’/Pa・・・(2)
【0026】
ピーク面積比算出部27は、内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのピーク面積Paと、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psとのピーク面積比Yを算出する制御を行う。なお、この制御は、測定物質算出部23で、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psを正確に算出することができた場合に実行されることになる。
例えば、式(3)によりピーク面積比を算出する。
ピーク面積比Y=Ps/Pa・・・(3)
【0027】
測定物質濃度算出部26は、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psを算出することができたときには、ピーク面積比算出部27で算出したピーク面積比Yを、相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質(Simazine)の重量濃度を算出し、一方、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psを算出することができなかったときには、イオン比補正比算出部25で算出したイオン比補正ピーク面積比を、ピーク面積比(Y)として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質(Simazine)の重量濃度を算出する制御を行う。
例えば、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンにおけるピーク面積Psを算出することができなかったときには、イオン比補正ピーク面積比が0.291であるので、ピーク面積比(Y)を0.291として、相対検量線(Y=0.00167X−0.02784)に代入すると、X=191が求まる。実試料に添加した内部標準物質(Anthracene-d10)の重量濃度Caが1μg/Lであるので、X=191を重量濃度比(X=Cs/Ca)に代入すると、測定物質(Simazine)の重量濃度Cs=191μg/Lが求まる。一方、設定質量電荷比(M/Z=201)のイオンのピーク面積Psを算出することができたときには、ピーク面積比算出部27で算出したピーク面積比Yを、相対検量線(Y=0.00167X−0.02784)に当てはめることにより、測定試料中の測定物質(Simazine)の重量濃度を算出することになる。
【0028】
次に、測定物質(Simazine)の重量濃度を算出する測定物質定量方法について説明する。図5は、測定物質定量方法の手順を示すフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンと内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンとのピーク面積比と、測定物質(Simazine)と内部標準物質(Anthracene-d10)との重量濃度比との関係を示す相対検量線が登録されたデータベースをデータベース記憶領域31に記憶させる(データベース記憶ステップ)
次に、ステップS102の処理において、測定物質(Simazine)を未知の重量濃度で含有する実試料に、内部標準物質(Anthracene-d10)を重量濃度Ca=1μg/Lで添加することにより、測定試料を調整する。
【0029】
次に、ステップS103の処理において、試料測定部21は、一定間隔あけて間欠的に連続して繰り返し質量走査を行うことにより、測定物質(Simazine)のマススペクトルや内部標準物質(Anthracene-d10)のマススペクトル等を得る(試料測定ステップ)。
次に、ステップS104の処理において、内部標準物質算出部22は、内部標準物質の設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのピーク面積Paを算出する(内部標準物質算出ステップ)。
次に、ステップS105の処理において、測定物質算出部23は、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psを算出する。
【0030】
次に、ステップS106の処理において、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psが正確に算出できたか否かを判断する。このとき、ピーク面積Psが正確に算出できたか否かを判断することになるが、例えば、使用者等が、モニタ画面14a等に表示された測定物質の設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのマスクロマトグラムを見ながら、判断する。
測定物質の設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psが正確に算出できなかったときには、ステップS107の処理において、測定物質算出部23は、選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質(Simazine)から開裂により発生する選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのピーク面積Ps’を算出する(測定物質算出ステップ)。このとき、測定物質(Simazine)のマススペクトルにおいては様々な質量電荷比(m/z)のイオンのピークが現れているが、設定質量電荷比(m/z)のイオンのピーク以外から選択される任意の一つのイオンのピークにおける質量電荷比(m’/z)を選択することになるが、例えば、使用者等が、モニタ画面14a等に表示された測定物質(Simazine)のマススペクトルを見ながら、キーボード13aやマウス13b等を用いて決定する。
【0031】
次に、ステップS108の処理において、イオン比補正係数算出部24は、測定物質(Simazine)のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンの強度と、選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンの強度との強度比を、式(1)によりイオン比補正係数として算出する(イオン比補正係数算出ステップ)。
次に、ステップS109の処理において、イオン比補正比算出部25は、内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのピーク面積と、測定物質(Simazine)から開裂により発生する選択質量電荷比(m’/z=186)のイオンのピーク面積とのピーク面積比Y’に、イオン比補正係数を除すことにより、イオン比補正ピーク面積比を算出する(イオン比補正比算出ステップ)。
次に、ステップS110の処理において、測定物質濃度算出部26は、イオン比補正比算出部25で算出したイオン比補正ピーク面積比を、ピーク面積比(Y)として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質(Simazine)の重量濃度を算出する(測定物質濃度算出ステップ)。
【0032】
一方、ステップS106の処理において、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psが正確に算出できたと判断したときには、ステップS111の処理において、ピーク面積比算出部27は、内部標準物質(アントラセン)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンのピーク面積Psと、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンのピーク面積Paとのピーク面積比Yを算出する。
次に、ステップS112の処理において、測定物質濃度算出部26は、ピーク面積比算出部27で算出したピーク面積比Yを、相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質(Simazine)の重量濃度を算出する。
最後に、ステップS110又はS112の処理が終了した場合には、本フローチャートを終了させることになる。
【0033】
以上のように、測定物質定量方法によれば、測定物質(Simazine)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンと内部標準物質(Anthracene-d10)から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンとのピーク面積比と、測定物質(Simazine)と内部標準物質(Anthracene-d10)との重量濃度比との関係を示す相対検量線のみを、使用するGC/MS100に記憶させても、測定物質(Simazine)のマススペクトルにおける設定質量電荷比(m/z=201)のイオンと選択質量電荷比(m’/z =186)のイオンとの関係を利用することにより、設定質量電荷比(m/z=201)のイオンが夾雑成分等の影響を受けた場合に、測定試料中の測定物質(Simazine)の重量濃度を正確に算出することができる。
【0034】
(他の実施形態)
(1)上述した測定物質定量方法は、GC/MS100のコンピュータ20で行うようにしたが、使用者等が計算を行ってもよい。
(2)上述したGC/MS100において、ピーク面積比を用いる構成としたが、ピーク高さ比を用いるような構成としてもよい。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
GC/MS100において、Simazineから開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=201)のイオンとAnthracene-d10から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンとのピーク面積比と、SimazineとAnthracene-d10との重量濃度比との関係を示す相対検量線(Y=0.00167X−0.02784)を、データベース記憶領域31に記憶させた(図2参照)。その後、200μg/LのSimazineと1μg/LのAnthracene-d10とを含有する測定試料について測定を行った(図3参照)。これにより、実施例として、m’/z=186のイオンを選択して求めたイオン比補正ピーク面積比を、ピーク面積比(Y)として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のSimazineの重量濃度を算出した。また、比較例として、m/z=201のイオンを選択して求めたピーク面積比を、相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のSimazineの重量濃度を算出した。その結果を表1に示す。
【0036】
(実施例2)
GC/MS100において、Diazinonから開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=304)のイオンとAnthracene-d10から開裂により発生する設定質量電荷比(M/Z=188)のイオンとのピーク面積比と、DiazinonとAnthracene-d10との重量濃度比との関係を示す相対検量線(Y=0.000623X+0.008381)を、データベース記憶領域31に記憶させた(図6(a)参照)。その後、200μg/LのDiazinonと1μg/LのAnthracene-d10とを含有する測定試料について測定を行った(図7(a)参照)。これにより、実施例として、m’/z=276のイオンを選択して求めたイオン比補正ピーク面積比を、ピーク面積比(Y)として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のDiazinonの重量濃度を算出した。また、比較例として、m/z=304のイオンを選択して求めたピーク面積比を、相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のDiazinonの重量濃度を算出した。その結果を表1に示す。
【0037】
(実施例3)
GC/MS100において、TPNから開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=266)のイオンとAnthracene-d10から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=188)のイオンとのピーク面積比と、TPNとAnthracene-d10との重量濃度比との関係を示す相対検量線(Y=0.002513X−0.085763)を、データベース記憶領域31に記憶させた(図6(b)参照)。その後、200μg/LのTPNと1μg/LのAnthracene-d10とを含有する測定試料について測定を行った(図7(b)参照)。これにより、実施例として、m’/z=264のイオンを選択して求めたイオン比補正ピーク面積比を、ピーク面積比(Y)として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のTPNの重量濃度を算出した。また、比較例として、m/z=266のイオンを選択して求めたピーク面積比を、相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のTPNの重量濃度を算出した。その結果を表1に示す。
【0038】
(実施例4)
GC/MS100において、Isoprothiolaneから開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=290)のイオンとChrysene-d12から開裂により発生する設定質量電荷比(m/z=240)のイオンとのピーク面積比と、IsoprothiolaneとChrysene-d12との重量濃度比との関係を示す相対検量線(Y=0.00614X+0.001205)を、データベース記憶領域31に記憶させた(図6(c)参照)。その後、200μg/LのIsoprothiolaneと1μg/LのChrysene-d12とを含有する測定試料について測定を行った(図7(c)参照)。これにより、実施例として、m’/z=162のイオンを選択して求めたイオン比補正ピーク面積比を、ピーク面積比(Y)として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のIsoprothiolaneの重量濃度を算出した。また、比較例として、m/z=290のイオンを選択して求めたピーク面積比を、相対検量線に当てはめることにより、測定試料中のIsoprothiolaneの重量濃度を算出した。その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、実施例で得られた結果と、比較例で得られた結果とは同等の測定精度であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、GC/MSで測定物質を定量する測定物質定量方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る測定物質定量方法が利用されるGC/MSの構成図の一例である。
【図2】測定物質から開裂により発生する設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から開裂により発生する設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比と、測定物質と内部標準物質との重量濃度比との関係を示す相対検量線の一例である。
【図3】測定物質のマススペクトルの一例である。
【図4】測定物質から開裂により発生する選択質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムである。
【図5】測定物質定量方法の手順を示すフローチャートである。
【図6】測定物質から開裂により発生する設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から開裂により発生する設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比と、測定物質と内部標準物質との重量濃度比との関係を示す相対検量線である。
【図7a】測定物質のマススペクトルである。
【図7b】測定物質のマススペクトルである。
【図7c】測定物質のマススペクトルである。
【符号の説明】
【0043】
12: メモリ
21: 試料測定部
22: 内部標準物質算出部
23: 測定物質算出部
24: イオン比補正係数算出部
25: イオン比補正比算出部
26: 測定物質濃度算出部
31: データベース記憶領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスクロマトグラフ質量分析装置で測定物質を定量する測定物質定量方法であって、
測定物質から発生する設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から発生する設定質量電荷比のイオンでのクロマトグラムピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線が登録されたデータベースを記憶部に記憶させるデータベース記憶ステップと、
測定物質を未知の濃度で含有する実試料に、内部標準物質が既知の濃度で添加された測定試料を測定することにより、測定物質のマススペクトル及び内部標準物質のマススペクトルを得る試料測定ステップと、
設定質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する内部標準物質算出ステップと、
設定質量電荷比と異なる選択質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する測定物質算出ステップと、
測定物質のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比のイオンの強度と、選択質量電荷比のイオンの強度との強度比をイオン比補正係数として算出するイオン比補正係数算出ステップと、
内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンでのクロマトグラムピーク面積又は高さと、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのクロマトグラムピーク面積又は高さとのピーク面積比又は高さ比に、イオン比補正係数を乗じることにより、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を算出するイオン比補正比算出ステップと、
イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を、ピーク面積比又は高さ比として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質の濃度を算出する測定物質濃度算出ステップとを含むことを特徴とする測定物質定量方法。
【請求項2】
測定物質を定量するガスクロマトグラフ質量分析装置であって、
測定物質から発生した設定質量電荷比のイオンと内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンとのピーク面積比又は高さ比と、測定物質と内部標準物質との濃度比との関係を示す相対検量線が登録されたデータベースを記憶するデータベース記憶部と、
測定物質を未知の濃度で含有する実試料に、内部標準物質が既知の濃度で添加された測定試料を測定することにより、測定物質のマススペクトル及び内部標準物質のマススペクトルを得る試料測定部と、
設定質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する内部標準物質算出部と、
設定質量電荷比と異なる選択質量電荷比のイオンのマスクロマトグラムを作成して、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さを算出する測定物質算出部と
測定物質のマススペクトルに基づいて、設定質量電荷比のイオンの強度と、選択質量電荷比のイオンの強度との強度比をイオン比補正係数として算出するイオン比補正係数算出部と、
内部標準物質から発生した設定質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さと、測定物質から発生した選択質量電荷比のイオンのピーク面積又は高さとのピーク面積比又は高さ比に、イオン比補正係数を乗じることにより、イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を算出するイオン比補正比算出部と、
イオン比補正ピーク面積比又は高さ比を、ピーク面積比又は高さ比として相対検量線に当てはめることにより、測定試料中の測定物質の濃度を算出する測定物質濃度算出部とを備えることを特徴とするガスクロマトグラフ質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【公開番号】特開2009−257961(P2009−257961A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107907(P2008−107907)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】