説明

測定装置

【課題】試料液を流通させる微小流路を備えたセンサチップを用いて光学的測定を行う測定装置において、全血から簡単に血球を除去してセンサ部に供給可能とする。
【解決手段】流路部材12内に試料液Sを流通させる微小流路11が設けられ、この微小流路11内の一部にセンサ部14が配設されてなるセンサチップ10を用いて、試料液S中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、流路部材12に、センサ部14よりも流路上流側において、流路壁が凹んだ状態とされた凹部11aを設けるとともに、この凹部11aに対向する位置に配されて、微小流路11を横切り該凹部11aに向かって進行する超音波を発生する手段40を設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中に含まれる可能性が有る被検出物質について測定を行う装置、特に詳細には、試料液を流通させる微小流路を備えたセンサチップを用いて光学的測定を行う測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定においては、抗原抗体反応などの生体分子反応を検出することにより、被検出物質である抗原(あるいは抗体)などの存在の有無、量を測定している。
【0003】
例えば、互いに特異的に結合する2つの物質の一方(抗原、抗体、各種酵素、受容体など)を基板上に固定化し、他方の物質(これは被検出物質そのものであってもよいし、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質であってもよい)を基板上に固定された固定層に結合させ、この結合反応を検出することにより、試料中における被検出物質の有無、量を測定することができる。具体的には、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上にその抗原と特異的に結合する抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより抗体に抗原を特異的に結合させ、次いで、抗原と特異的に結合する、標識が付与された標識抗体を添加し、抗原と結合させることにより、抗体―抗原―標識抗体の、所謂サンドイッチを形成し、標識からの信号を検出するサンドイッチ法や、標識された競合抗原を被検出物質である抗原と競合的に固定化抗体と結合させ、固定化抗体と結合した競合抗原に付与されている標識からの信号を検出する競合法などのイムノアッセイが知られている。
【0004】
なお上記サンドイッチ法においては、被検出物質である抗原が上記「他方の物質」に相当し、競合法においては競合抗原が上記「他方の物質」に相当する。後者の競合法においては、固定化抗体と結合した競合抗原の量が多いほど、被検出物質である抗原の量が少ないという関係があるので、この関係に基づいて、競合抗原の量に対応する標識からの信号レベルにより抗原の量を求めることができる。
【0005】
また、上述のようなバイオ測定に適用可能で、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識されて被検出物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち被検出物質の存在を確認することも広くなされている。
【0006】
以上述べたような光学的手法を用いるバイオ測定においては測定時間の短縮化が望まれており、そこで、センサ部における反応を効率良く生じさせて、測定時間の短縮を図る方法が種々提案されている。例えば特許文献1には、微小流路(マイクロ流路)型のセンサチップを用い、試料液を一定の高速で流下させることにより測定の高速化を図ることが提案されている。この種のセンサチップは、上述した蛍光検出による被検出物質の検出や定量分析を行うために適用することも可能である。また特許文献2および3にも、上記のように試料液が流される流路を備えるセンサチップや、その種のセンサチップを用いて被検出物質の検出や定量分析を行う測定装置の例が記載されている。
【0007】
さらに、このような蛍光検出法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献4などに提案されている。この方法は、透明な支持体上の所定領域に金属層を設けたセンサチップを用い、支持体と金属膜との界面に対して支持体の金属層形成面と反対の面側から、全反射角以上の入射角で励起光を入射させ、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって蛍光を増強させることにより、S/Nを向上させるものである。
【0008】
ところで、上記のようなバイオ測定に供される試料液の代表的なものとして、人血等の血液が挙げられるが、流路を備えたセンサチップを用いる特許文献1〜3に記載の測定装置は、血液中に含まれ得る被検出物質の検出や定量分析にも適用可能とされている。このように、血液を対象として光学的手法により各種測定を行う場合は、血液中に血球が存在すると、その血球が励起光や被検出光を散乱あるいは吸収するので、測定の感度や精度が損なわれる。また、免疫反応に関わる事象について測定を行う場合は、血球が免疫反応を阻害して、それにより測定の精度が損なわれることもある。そこで多くの場合は、全血から血球を除いた後の血漿を測定にかけるようにしている。したがって、上記のセンサチップを利用する際には、その流路中に設定されたセンサ部よりも流路上流側で、全血から血球を除いておくことが求められる。
【0009】
特許文献2には、流路を備えたセンサチップを用いる測定装置において、流路を流れる全血に対して流れを横切る方向に音響波を当て、その放射圧によって血球を押圧することにより、血液を、血球を含むものと含まないもの(血漿)とに分離し、そうして分離された各血液を互いに分岐した別々の流路に導入することが記載されている。この構成によれば、血漿だけをセンサ部に供給することも可能と考えられる。
【0010】
一方特許文献3には、流路を備えたセンサチップにおいて、流路に血球を分離するフィルタを設けておき、そのフィルタを通過した後の血漿を測定に供することが記載されている。
【0011】
さらに特許文献5には、いわゆるラテックス凝集法により血液に関する測定を行う際に、ノズルに吸引保持した全血に超音波振動を与えて血球を溶血させ、この溶血後の全血を測定にかけることが記載されている。こうして溶血させた全血を測定に供する手法は、上記のセンサチップを用いて光学的測定を行う場合にも適用可能と考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−101221号公報
【特許文献2】特開2008−173569号公報
【特許文献3】特表2002−508698号公報
【特許文献4】特開平10−307141号公報
【特許文献5】特許第3779885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、特許文献5に示された溶血する手法を、前述のセンサチップを用いて光学的測定を行う装置に適用する場合は、全血を吸引保持したノズルに超音波振動子を作用させて全血に超音波振動を与えた後、そのノズル内の全血をセンサチップに供給することになるので、ノズル操作に手間がかかる、測定装置の外でかなりの時間ノズルに超音波振動子を作用させている間に試料が汚染される可能性が有る、といった問題が起こり得る。
【0014】
他方、特許文献2に示されているように、音響波を用いて血球を含む血液と含まない血液(血漿)とに分離する装置は、血漿を測定に供する場合に適用すると、血液が採取される被検者の負担を大きくするという問題が認められる。すなわち、この特許文献2に記載されている装置では、分岐した2つの流路の一方には血球とともに血漿も流出するので、他方の流路に流れる血漿を精度良く測定可能な量確保するには、測定用に供給する全血の量が、血球とともに流出する血漿の量も見込んで多めに必要となる。そうであると、被検者から多めに血液を採取しなければならなくなる。
【0015】
また、特許文献3に示されているように、センサチップの流路に設けたフィルタによって全血中の血球を分離する場合は、血球分離に時間がかかる、目詰まりを防止するためには真空ポンプによって流路に大きな吸引負圧を作用させる必要がある、フィルタが目詰まりして測定に供される血漿量が足りなくなる、といった問題が認められる。特に最後の問題は、いわゆるレート測定法によって測定を行う場合に発生すると、深刻な事態を招くことになる。すなわち、レート測定法とは、単位時間に対する反応量の変化量を測定するものであるが、上記のフィルタに目詰まりが生じてそれが時々刻々進行すると、流路中の血液の流速が次第に低下するために被検出物質が供給不足となって、正確な測定値を求めることが困難になるのである。
【0016】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、試料液を流通させる微小流路を備えたセンサチップを用いて光学的測定を行う測定装置において、全血から簡単に血球を除去してセンサ部に供給可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による測定装置は、微小流路に血球を捕捉可能な凹部を設け、そして試料液として流される全血中の血球を超音波で押して上記凹部に閉じ込めるようにしたものであり、より具体的には、
流路部材内に試料液を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部にセンサ部が配設されてなるセンサチップを用いて、試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、
前記流路部材に、センサ部よりも流路上流側において、微小流路壁が凹んだ状態とされた凹部が設けられるとともに、
この凹部に対向する位置に配されて、前記微小流路を横切り該凹部に向かって進行する超音波を発生する手段が設置されていることを特徴とするものである。
【0018】
ここで、上述の「進行する超音波」とは、定在波状態になっていない超音波を示すものとする。
【0019】
なお本発明の測定装置においては、上記凹部を構成する流路壁の外側位置あるいは該流路壁を構成する位置に、微小流路を横切って来た超音波を吸収する超音波吸収体が配設されていることが望ましい。
【0020】
そして、そのような超音波吸収体が凹部の流路壁を構成する位置に配設される場合は、超音波吸収体の超音波を受ける側の表面に、試料液と超音波吸収体との間で音響インピーダンス整合を図る音響整合層が設けられることがより望ましい。
【0021】
また本発明の測定装置においては、上記超音波を発生する手段が、微小流路の流路壁の一部を構成するように配置されていることが望ましい。
【0022】
そして、そのような構成が採用される場合は、超音波を発生する手段の前記凹部と対向する表面に、該手段と試料液との間で音響インピーダンス整合を図る音響整合層が設けられることがより望ましい。
【0023】
また本発明の測定装置において、上記凹部の容積は、試料液としてセンサチップに供給される全血の量および、その全血のヘマトクリット値から求められる血球体積に対して、1.5倍以下の値、さらに望ましくはその血球体積とほぼ同じ値とされていることが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の測定装置においては、流路部材に、センサ部よりも流路上流側において、微小流路壁が凹んだ状態とされた凹部が設けられるとともに、この凹部に対向する位置に配されて、前記微小流路を横切り該凹部に向かって進行する超音波を発生する手段が設置されているので、全血が試料液として微小流路に流されると、上記手段から発せられた超音波の放射圧によって全血中の血球が凹部に押し込まれ、そこに捕捉されるようになる。こうして、凹部よりも下流側のセンサ部には、血球が除去された血漿だけが供給されるようになる。
【0025】
そして、本発明の測定装置において特に、上記凹部を構成する流路壁の外側位置あるいは該流路壁を構成する位置に、微小流路を横切って来た超音波を吸収する超音波吸収体が配設されている場合は、凹部に向かって進行して来た超音波がこの凹部の外側の例えば筐体部分で反射したり、あるいは凹部の流路壁部分で反射することが抑制される。こうして超音波の反射を抑制できれば、その反射した超音波が、せっかく凹部に捕捉された血球を流路中央側に押し戻してしまうことが防止される。
【0026】
また、そのような超音波吸収体が凹部の流路壁を構成する位置に配設された場合に、超音波吸収体の超音波を受ける側の表面に、試料液と超音波吸収体との間で音響インピーダンス整合を図る音響整合層が設けられていれば、超音波の反射がより確実に防止されるようになる。
【0027】
また本発明の測定装置において特に、超音波を発生する手段が、微小流路の流路壁の一部を構成するように配置された場合に、超音波を発生する手段の前記凹部と対向する表面に、該手段と試料液との間で音響インピーダンス整合を図る音響整合層が設けられていれば、超音波が試料液で反射することが抑えられて、血球を凹部に向けて確実に押し込めるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施形態による測定装置を示す概略側面図
【図2】上記測定装置に用いられるセンサチップの外形形状を示す斜視図
【図3】上記測定装置に用いられるセンサチップの要部を示す概略側面図
【図4】本発明の第2実施形態の測定装置におけるセンサチップの要部を示す概略側面図
【図5】本発明の第3実施形態の測定装置におけるセンサチップの要部を示す概略側面図
【図6】本発明の第4実施形態の測定装置におけるセンサチップの要部を示す概略側面図
【図7】本発明の第5実施形態の測定装置におけるセンサチップの要部を示す概略側面図
【図8】本発明の第6実施形態による測定装置を示す概略側面図
【図9】本発明の第7実施形態による測定装置を示す概略側面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の第1の実施形態による測定装置の概略構成を示すものである。本実施形態の測定装置は、先に述べた微小流路型センサチップ(以下、単にセンサチップという)10を用いて生体由来物質を検出する装置として構成されたものである。まず図2および図3も参照して、このセンサチップ10について説明する。
【0030】
センサチップ10は測定装置本体に対して着脱自在とされたものであり、図1および図2に示される通り、試料液が流される微小流路11を有する流路部材12と、微小流路11の一部を構成して、互いに特異的に結合する2つの物質のうちの一方の物質13を壁面に固定しているセンサ部14と、流路部材12の上に固着された上板部材17とを備えている。なおセンサ部14の上流側つまり図中の左側において流路部材12には、微小流路11から下方に凹んだ状態とされた凹部11aが形成されている。この凹部11aは後述するように、血球捕捉部として機能するものである。
【0031】
本実施形態では、抗原抗体反応においてサンドイッチ法によるアッセイを行う場合を例とし、そこで上記物質13が、被検出物質である抗原Aと特異的に結合する抗体であるとして説明する。なお、抗体13は直接微小流路11の壁面に固定されてもよいが、後述するように表面プラズモンによる電場増強により蛍光を増強する場合は、この壁面の上に金属薄膜が形成され、その上に抗体13が固定される。
【0032】
上記上板部材17は、図2に示されるように、上表面に開口した試料液流入口16aおよび試料液流出口16bと、試料液流入口16aと微小流路11の上流端とを連通させる開口15aと、試料液流出口16bと微小流路11の下流端とを連通させる開口15bとを有している。この上板部材17と流路部材12は、例えば超音波溶接により接合されている。
【0033】
流路部材12および上板部材17はポリスチレン等の透明な誘電体材料からなり、射出成型によりそれぞれ成型されている。微小流路11の深さは例えば50〜100μm程度とされ、それに対して上記凹部11aの深さは例えば1〜8μm程度とされる。凹部11aの好ましい容積については、後に詳しく説明する。
【0034】
また本例のセンサチップ10においては、図3にも示すように、抗体13が固定されている領域の上流側において微小流路11の内面に、標識抗体20が付着されている。標識抗体20は、被検出物質に対して、前述の抗体13とは異なるエピトープに特異的に結合する抗体23と蛍光標識22とから構成されたものである。ここでは蛍光標識22として、多数の蛍光色素分子fと該蛍光色素分子fを内包する光透過材料21とからなる蛍光微粒子が用いられている。
【0035】
上記蛍光微粒子の大きさには特に制限はないが、直径数十nm〜数百nm程度が好ましく、ここでは一例として直径100nm程度のものが用いられている。光透過材料21としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、蛍光色素分子fを内包でき、かつ該蛍光色素分子fからの蛍光を透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。本例における標識抗体20は、蛍光標識22を、それよりも小さい抗体23により表面修飾して構成されている。
【0036】
次に図1に戻って測定装置について説明する。この測定装置は、上記センサチップ10が例えば屈折率マッチングオイルを介して載置されるプリズム30と、微小流路11の底面(センサチップ10と試料液との界面)に対して、全反射条件となる入射角で励起光L0を入射させる半導体レーザ等からなる光源31と、センサチップ10の試料液流出口16bにノズル32を介して一端が連通される連通管33と、この連通管33の他端に吸込口が接続された試料吸引ポンプ34と、連通管33に介設された開放弁35と、センサチップ10のセンサ部14の近傍部分から後述するようにして発せられる蛍光Lfを検出する光検出器36とを備えている。
【0037】
さらにこの測定装置は、微小流路11の前記凹部11aに対向するようにして流路部材12の上方に配置された、超音波発生手段としての圧電素子(本例ではピエゾ素子)40と、この圧電素子40を励振させる駆動電圧を該圧電素子40に印加するピエゾドライバ41と、上記駆動電圧の波形を規定する波形信号を生成してピエゾドライバ41に入力する波形発生器42とを有している。なお超音波発生手段としては、ピエゾ素子に限らず、それ以外の圧電セラミック等を適用することも可能である。
【0038】
次に、この測定装置による被検出物質の検出について説明する。ここでは一例として、試料液としての血液(全血)Sに含まれる可能性のある抗原Aを検出する場合について説明する。まず、図1に示す試料液流入口16aに全血Sが注入され、それとともに試料吸引ポンプ34が駆動され、開放弁35は連通管33を開く状態に設定され、全血Sがセンサチップ10の微小流路11内に導入される。またこのとき、ピエゾドライバ41により圧電素子40が駆動され、そこから、微小流路11を横切り凹部11aに向かって進行する超音波が発せられる。
【0039】
微小流路11に導入された全血Sは、図3に模式的に示すように血球(赤血球、白血球および血小板)Hを含み、また抗原Aを含み得るものである。この全血Sが、微小流路11の上記凹部11aが設けられている部分に到達すると、血球Hは上記のように進行している超音波の放射圧を受けて、凹部11aの底面に向けて押され、この凹部11a内に捕捉される。こうして全血Sから血球Hが分離されるので、微小流路11の凹部11aよりも下流側の部分では、ほぼ血漿のみが流れるようになる。
【0040】
上記の血漿は、微小流路11に吸着固定されている標識抗体20と混ぜ合わされる。それにより、抗原Aが標識抗体20の抗体23と結合し、さらに抗体23と結合した抗原Aが、センサ部14の抗体13と結合し、抗原Aが抗体13と抗体23で挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0041】
このようにしてセンサ部14に吸着した抗原Aは、以下の通りにして検出される。光源31から発せられた励起光L0は、微小流路11の底面(センサチップ10と試料液との界面)に対して、全反射条件となる入射角で入射する。こうして励起光L0が全反射すると、抗体13を固定している微小流路11の内壁面から試料液S中にエバネッセント光が滲み出す。このとき、エバネッセント光の滲み出し領域内に蛍光標識22が存在すると、その蛍光標識22が励起されて蛍光Lfが発生する。こうして発生した蛍光Lfは、光検出器36によって検出される。以上のようにして蛍光標識22の存在を検出することは、すなわち、抗体13と結合した抗原Aの存在を検出することになる。そこで光検出器36の蛍光検出信号に基づいて、抗原Aの存在の有無や、その量を検出可能となる。
【0042】
また本実施形態においては、前述した通り血球Hが凹部11aに捕捉されるので、基本的にセンサ部14には血漿だけが到達する。そこで蛍光Lfは、血球による散乱や吸収の影響を受けることなく良好に検出されるようになり、精度良い測定が可能となる。また、血球によって免疫反応が阻害されるようなこともない。
【0043】
そして本実施形態の測定装置では、血漿は僅かの量が血球Hと共に凹部11a内に捕捉されるだけであって、センサ部14よりも流路上流側で血球と共にどこかに流出してしまうようなことはない。したがって、そのように流出してしまう血漿の量も見込んで多めに全血を採取する必要がないので、血液が採取される被検者の負担が少なく抑えられる。
【0044】
さらに本実施形態の測定装置では、血球Hを捕捉するために微小流路11にフィルタを配置するようなことはしていないので、フィルタが目詰まりして測定に供される血漿量が足りなくなる、そのために正確な測定値を求めることが困難になる、さらには、目詰まりを防止するために試料吸引ポンプ34によって微小流路11に大きな吸引負圧を作用させる必要がある、といった問題が発生することもない。
【0045】
なお微小流路11中には、固定されている抗体13と結合していない抗原Aや標識抗体20が浮遊しており、またセンサ部14には標識抗体20が非特異吸着している。これらを除去するため、蛍光Lfの検出前に、適宜洗浄液を流路に導入するようにしてもよい。
【0046】
また、例えば励起光L0として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、前述の金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属薄膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0047】
次に図4を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。なおこの図4において、図1〜3中の要素と同等の要素には同番号を付し、それらについての説明は特に必要のない限り省略する(以下、同様)。また、以下で説明する図4〜7の構成は、すべてセンサチップの凹部11aあるいはそれに対向配置される圧電素子40の部分に特徴が有るものなので、それらの部分のみの概略断面形状を図示してある。
【0048】
図4は、本発明の第2の実施形態による測定装置に適用されたセンサチップ120および、その近辺部分を示すものである。このセンサチップ120は図3に示されたセンサチップ10と比べると、流路部材12の凹部11aが形成された部分の外側に超音波吸収体50が設置されている点が異なるものである。このような超音波吸収体50を設けておくことにより、流路部材12を抜け出た超音波が測定装置の筐体等の部材で反射することが防止される。このようにして超音波の反射を防止できれば、凹部11aに捕捉された血球Hが、反射した超音波の放射圧を受けて凹部11aから浮き上がって下流側に流れてしまうことを防止可能となる。
【0049】
次に図5は、本発明の第3の実施形態による測定装置に適用されたセンサチップ130を示すものである。このセンサチップ130は図4に示されたセンサチップ120と比べると、基本的に、流路部材12の一部が圧電素子40によって構成されている点が異なるものである。すなわちこの場合、圧電素子40はセンサチップ10と共に使い捨てされることになる。そしてセンサチップ10が測定装置本体にセットされると、ピエゾドライバ41(図1参照)と圧電素子40との間で、公知の機構を用いて電気的接続が取られるようになっている。
【0050】
なお本実施形態においては、圧電素子40の微小流路11側の表面に、圧電素子40と微小流路11内の試料液との間で音響インピーダンス整合を図る、ポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)等からなる音響整合層51が設けられている。このような音響整合層51が設けられたことにより、圧電素子40から発せられた超音波が試料液で反射することが抑制され、良好に凹部11aまで到達できるようになる。
【0051】
上述のように圧電素子40をセンサチップ10と共に使い捨てとする場合、圧電素子40は、例えばMeasurement Specialties社製の厚さ数十μmのピエゾフィルム等から構成することが好ましい。
【0052】
次に図6は、本発明の第4の実施形態による測定装置に適用されたセンサチップ140を示すものである。このセンサチップ140は図3に示されたセンサチップ10と比べると、流路部材12の一部が圧電素子40によって構成され、そして凹部11aの底部となる流路壁が超音波吸収体50によって構成されている点が異なるものである。このように、凹部11aの底部となる流路壁が超音波吸収体50によって構成されていれば、凹部11aに向かって進行して来た超音波が凹部の流路壁で反射して、凹部11aに捕捉されている血球を流路中央側に押し戻してしまうことが防止される。
【0053】
次に図7は、本発明の第5の実施形態による測定装置に適用されたセンサチップ150を示すものである。このセンサチップ150は図6に示されたセンサチップ10と比べると、基本的に、凹部11aの底面が音響整合層52およびその外側に配された超音波吸収体50から構成されている点が異なるものである。この構成においては、超音波吸収体50により図4の装置におけるのと同じ効果が得られ、さらに音響整合層52が設けられていることにより、微小流路11を横切って来た超音波が超音波吸収体50で反射することがより確実に防止される。
【0054】
以下、上記センサチップ150の詳細仕様について説明する。このセンサチップ150において、微小流路11の高さは100μm、凹部11aの高さは500μmである。また音響整合層52はポリジメチルシロキサン(PDMS:Polydimethylsiloxane)から形成されてその厚さは2.5mm、超音波吸収体50はシリコーンゴムから形成されてその厚さは2mmである。また、センサチップ150と一体化された圧電素子40としては、株式会社富士セラミックス社製のPZTソフト材(C-82:共振周波数7MHz)が適用されている。
【0055】
センサチップ150以外の構成は基本的に図1に示されたものが適用されており、波形発生器42としては株式会社エヌエフ回路設計ブロック社製のマルチファンクションジェネレータWF1974が、ピエゾドライバ41としては同社製のバイポーラ電源HSA4101が適用されている。そして、上記波形発生器42で発生させた電圧波形を、ピエゾドライバ41で増幅して圧電素子40に印加し、厚み振動によって超音波を発振させている。このときの印加電圧(p−p値)は10.0Vである。
【0056】
以上の構成により、ヒト血液(全血)を試料液としてセンサチップ150に供給し、試料吸引ポンプ34により該試料液を吸引した際に、血球すなわち赤血球、白血球および血小板が良好に凹部11aに分離捕捉されることが確認された。
【0057】
ここで、進行超音波を用いて血球だけを除去し、それ以外の血漿成分は凹部11aの下流側の微小流路11に流せる理由について説明する。物体が超音波から受ける放射圧は、物体の体積Vに比例する。より詳しくは、物体の体積をV、超音波強度をI、物体における超音波の吸収係数をα、音速をcとすると、液体中の物体が進行超音波から受ける放射圧による力Fは、 F=2αV I /c と表せる。
【0058】
次に、血液中の各成分の体積を比較する。血球とは赤血球、白血球および血小板を指し、血液中の細胞成分の総称である。例えばヒトの血液における血球の大きさ(直径)は、赤血球が約8μm、白血球が約6〜22μm、最も小さい血小板でも約1〜4μmである。それに対して、血漿成分に多く含まれるアルブミン、グロブリンや被検出物質である抗原などの典型的な大きさは10nm程度である。以上のことから、それぞれの体積が下記のように概算できる。
【0059】
捕捉すべき成分(血球) 5×10-19〜5×10-15 3
捕捉したくない成分(アルブミン、グロブリン、被検出物質)5×10-25 3
進行超音波の放射圧から受ける力Fは上式から、捕捉したくない成分と比べて血球の方が約106倍以上強いことがわかる。つまり、放射圧による力を大きく受ける血球成分は血球捕捉部としての凹部11aに強く押し付けられるのに対し、アルブミン、グロブリン等の血漿成分や抗原等の被検出物質は放射圧による力Fが小さいので、凹部11aに捕捉されずに流下可能である。こうして血球は、進行超音波の作用によって血漿から分離することができる。
【0060】
次に、前記凹部11aからなる血球捕捉部の好ましい容積について説明する。この容積は、血液のヘマトクリット値(血液中に占める血球体積の割合を示す数値)に基づいて決定されるのが好ましい。例えば、ヒト血液のヘマトクリットの正常値は成人男性で40〜50%、成人女性で35〜45%であるので、全血検体量を200μL(マイクロ・リットル)とすると、血球捕捉部は200μL×0.5=100μLの容積を備えれば、計算上、血球全量を捕捉できることになる。
【0061】
なお、ヘマトクリットが異常値を持つ血液も対象とする検査であれば、血球捕捉部の容積を変更すべきである。他方、検査に影響する血球量は検査項目によって異なるので(つまり、多少血球が入っていても診断に影響しないほどの検査値の変化であれば許容できるので)、血球捕捉部の容積をヘマトクリット値から算出した値より小さくすることも可能である。すなわち、上記の例では100μLより小さくすることができる。また、ヒトとは異なる動物種などに関して検査を行う場合は、対象種で想定されるヘマトクリット値に合わせることができる。
【0062】
上に挙げた、全血検体量が200μLのとき血球捕捉部の容積を100μLとする例は、血球捕捉部の容積を、全血量とヘマトクリット値から求められる血球の体積と同等とするものである。それに対して、ヘマトクリットが異常値を持つ血液も対象とする検査に対応可能とするには、血球捕捉部の容積を、全血量とヘマトクリット値から求められる血球体積に対して、最大で1.5倍程度に設定しておくのが望ましい。
【0063】
次に図8を参照して、本発明の第6の実施形態による測定装置について説明する。本実施形態の測定装置は、図1に示した測定装置と比べると基本的に、センサ部14において流路部材12の流路壁に金属薄膜60が形成され、抗体13はその金属薄膜60の上に形成されている点が異なるものである。
【0064】
上記の構成において、光源31から発せられた励起光L0を、微小流路11の底面(センサチップ10と金属薄膜60との界面)に対して全反射条件となる入射角で、かつp偏光として入射させると、金属薄膜60上の試料液S中にエバネッセント光が滲み出し、このエバネッセント光によって金属薄膜60中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。
【0065】
このとき、エバネッセント光の滲み出し領域内に蛍光標識22が存在すると、その蛍光標識22が励起されて蛍光Lfが発生する。ここで、エバネッセント光の染み出し領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強効果により、蛍光Lfは増強されたものとなる。光検出器36は、この増強された蛍光Lfを検出する。この光検出器36が出力する蛍光検出信号に基づいて、抗原Aの存在の有無や、その量を検出可能であることは、既述の実施形態におけるのと同様である。
【0066】
次に図9を参照して、本発明の第7の実施形態による測定装置について説明する。本実施形態の測定装置は、図1に示した測定装置と比べると基本的に、エバネッセント光を発生させる全反射光学系に代えて落射光学系が採用されている点が異なるものである。
【0067】
すなわち本実施形態においては、光源31が光検出器36と同様にセンサチップ10の上方側に配置され、そこからセンサチップ10のセンサ部14に向けて励起光L0が照射される。したがってこの場合は、伝搬光である励起光L0によって直接的に前記蛍光標識22が励起されて蛍光Lfが発生する。この蛍光Lfを検出した信号に基づいて、抗原Aの存在の有無や、その量を検出可能であることは、既述の実施形態におけるのと同様である。
【0068】
なお、以上説明した図8や図9の構成を採用する場合においても、図4〜7に示したセンサチップの構成を適宜採用可能であることは勿論である。
【0069】
ここで、本発明の測定装置が対象とする被検出物質(アナライト)は抗原や抗体の他、遺伝子、細胞などの固層化して観察できる生体由来物質であれば、特に制限がない。遺伝子、細胞を検出する場合は、それらに特異的に吸着する物質を微小流路の内壁に固定しておけばよい。反対に、遺伝子、細胞に特異的に吸着する物質を本発明の測定装置によって検出することも可能であり、その場合は遺伝子、細胞を微小流路の内壁に固定しておけばよい。
【0070】
また、被検出物質、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質と特異的に結合する物質は、センサ表面に直接固定されている必要はなく、自己組織化単分子膜(SAM)、SiO等の誘電体膜、カルボキシメチルデキストラン等の高分子膜などを介して固定されていてもよい。
【0071】
また、被検出物質、あるいはこの被検出物質と試料液中で競合する競合物質と、それと特異的に結合する物質との組合せも、上述した抗原と抗体に限られるものではなく、その他、アビジン・ビオチン反応、酵素・基質反応など、バイオアッセイに使われる反応により結合する物質の組合せが用いられる場合にも、本発明は同様に適用可能である。
【0072】
さらに、免疫アッセイを適用する場合は、先に説明したサンドイッチアッセイだけではなく、競合法を適用することも可能である。
【0073】
また標識物質は蛍光分子に限らず、蛍光ビーズ、金属微粒子など光応答性があるその他の物質からなるものも適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10、120、130、140、150 微小流路型センサチップ
11 微小流路
11a 凹部(血球捕捉部)
12 流路部材
13 抗体
14 センサ部
20 標識抗体
22 標識
23 抗体
30 プリズム
31 光源
33 連通管
34 試料吸引ポンプ
40 圧電素子
41 ピエゾドライバ
42 波形発生器
50 超音波吸収体
51、53 音響整合層
60 金属薄膜
A 抗原
0 励起光
Lf 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路部材内に試料液を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部にセンサ部が配設されてなるセンサチップを用いて、試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、
前記流路部材に、センサ部よりも流路上流側において、微小流路壁が凹んだ状態とされた凹部が設けられるとともに、
この凹部に対向する位置に配されて、前記微小流路を横切り該凹部に向かって進行する超音波を発生する手段が設置されていることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記凹部を構成する流路壁の外側位置あるいは該流路壁を構成する位置に、前記微小流路を横切って来た超音波を吸収する超音波吸収体が配設されていることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記超音波吸収体が前記凹部の流路壁を構成する位置に配設され、その超音波吸収体の超音波を受ける側の表面に、試料液と超音波吸収体との間で音響インピーダンス整合を図る音響整合層が設けられていることを特徴とする請求項2記載の測定装置。
【請求項4】
前記超音波を発生する手段が、前記微小流路の流路壁の一部を構成するように配置されていることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載の測定装置。
【請求項5】
前記超音波を発生する手段の前記凹部と対向する表面に、該手段と試料液との間で音響インピーダンス整合を図る音響整合層が設けられていることを特徴とする請求項4記載の測定装置。
【請求項6】
前記凹部の容積が、試料液としてセンサチップに供給される全血の量および、その全血のヘマトクリット値から求められる血球体積に対して、1.5倍以下の値とされていることを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の測定装置。
【請求項7】
前記凹部の容積が、試料液としてセンサチップに供給される全血の量および、その全血のヘマトクリット値から求められる血球体積とほぼ同じ値とされていることを特徴とする請求項6記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−145515(P2012−145515A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−5424(P2011−5424)
【出願日】平成23年1月14日(2011.1.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】